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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01F |
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管理番号 | 1320659 |
審判番号 | 不服2015-16232 |
総通号数 | 204 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-12-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-09-02 |
確定日 | 2016-10-20 |
事件の表示 | 特願2012-236840「圧粉磁心及びその製造方法、磁心用粉末及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月12日出願公開、特開2014- 86672〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成24年10月26日の出願であって、平成26年9月10日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年11月17日付けで手続補正がなされたが、平成27年5月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月2日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされた。 その後、当審の平成28年6月2日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年8月8日付けで手続補正がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成28年8月8日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 メジアン径が1?300μmの軟磁性金属粒子に対して、その0.01?1.0質量%のシリコーン樹脂と、前記シリコーン樹脂に対して8.33?16.7質量%の金属材料を含まない脂肪酸を、前記シリコーン樹脂を含む樹脂液と前記脂肪酸とを接触させることにより混合して乾燥して磁心用粉末を製造し、 この磁心用粉末に潤滑剤を添加して混合した当該粉末を金型内に充填して加圧成形した後、焼鈍温度である500?800℃となるまでに前記潤滑剤が分解する温度領域で一度保持して500?800℃で焼鈍することを特徴とする圧粉磁心の製造方法。」 3.引用例 これに対して、当審の拒絶の理由に引用された特開2010-219159号公報(以下、「引用例」という。)には、「圧粉磁心及びその製造方法」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した)。 ア.「【請求項7】 軟磁性合金粉末に対して、潤滑剤を混合する第1混合工程と、 第1混合工程を経た混合物を結着性絶縁樹脂で被覆する被覆工程と、 結着性絶縁樹脂で被覆した混合物に対して、潤滑剤を混合する第2混合工程と、 第2混合工程を経た混合物を、加圧成形処理して成形体を作製する成形工程と、 成形工程を経た成形体を焼鈍処理する焼鈍工程とを有する圧粉磁心の製造方法において、 前記第1の混合工程で混合する潤滑剤の添加量が軟磁性合金粉末に対して0.1?0.6wt%であり、且つ前記第2の混合工程で混合する潤滑剤の添加量が軟磁性合金粉末に対して0.2wt%以上であることを特徴とする圧粉磁心の製造方法。 【請求項8】 前記被覆工程は、熱処理を経た軟磁性合金粉末をメチルフェニル系シリコーン樹脂で被覆することを特徴とする請求項6または請求項7に記載の圧粉磁心の製造方法。」 イ.「【請求項10】 前記潤滑剤は、ステアリン酸、ステアリン酸塩、ステアリン酸石鹸、エチレンビスステアラマイドなどのワックスの中から選択された材料であることを特徴とする請求項6?9のいずれか1項に記載の圧粉磁心の製造方法。」 ウ.「【0015】 [1.製造工程] 本発明の圧粉磁心の製造方法は、図1に示すような次のような各工程を有する。 (1)軟磁性合金粉末に対して、潤滑剤を混合する第1混合工程(ステップ1)。 (2)第1混合工程を経た混合物を結着性絶縁樹脂で被覆する被覆工程(ステップ2)。 (3)結着性絶縁樹脂で被覆した混合物に対して、潤滑剤を混合する第2混合工程(ステップ3)。 (4)第2混合工程を経た混合物を、加圧成形処理して成形体を作製する成形工程(ステップ4)。 (5)成形工程を経た成形体を焼鈍処理する焼鈍工程(ステップ5)。 以下、各工程を具体的に説明する。 【0016】 (1)第1混合工程 第1混合工程では、鉄、珪素及びアルミニウムを主成分とする軟磁性合金粉末と、この軟磁性合金粉末に対して0.1?0.6wt%の潤滑剤とを混合する。ここで潤滑剤として、ステアリン酸、ステアリン酸塩、ステアリン酸石鹸、エチレンビスステアラマイドなどのワックスを使用することができる。潤滑剤を添加することにより、粒粉の中の粉末同士の滑りがよくなり、密度が向上する。これにより、ヒステリシス損失を低下させることができる。混合する潤滑剤の量は、この軟磁性合金粉末に対して0.1?0.6wt%とする。これより少なければ、十分な効果を得ることができず、これより多いと、密度低下による最大磁束密度の低下、ヒステリシス損失の増加による磁気特性の低下する問題が発生する。 【0017】 (2)被覆工程 前記混合工程を経た混合物を結着性絶縁樹脂で被覆する被覆工程は、混合工程を経た混合物と、前記軟磁性合金粉末に対して0.2?3.0wt%の結着性樹脂を混合し、加熱乾燥を行う。すなわち、前記混合工程を経た混合物に対して、結着性樹脂により、軟磁性合金粉末の表面に耐熱性絶縁皮膜を形成するためである。ここで、結着性樹脂としては、メチルフェニル系シリコーン粘着剤を使用することができる。メチルフェニル系シリコーン樹脂の添加量は、前記軟磁性合金粉末に対して0.2?2.0wt%が適量である。適量よりも少なければ、成形体の強度が不足して、割れが発生する。また、適量より多いと、密度低下による最大磁束密度の低下、ヒステリシス損失の増加による磁気特性が低下する問題が発生する。 【0018】 さらに、軟磁性金属粉末に対して、前記軟磁性合金粉末の1.0wt%の有機金属カップリング剤(シランカップリング剤など)により処理をしてもよい。この有機金属カップリング剤は、結着性樹脂の分量を少なくするために使用する。ここで添加された結着性樹脂は、成形時のバインダーとして作用する。 【0019】 (3)第2混合工程 前記被覆工程を経た混合物に潤滑剤を混合する第2混合工程では、結着性絶縁樹脂を被覆した混合物と、前記軟磁性合金粉末に対して0.2?0.7wt%の潤滑剤とを混合する。ここで潤滑剤としては、第1混合工程で使用したステアリン酸、ステアリン酸塩、ステアリン酸石鹸、エチレンビスステアラマイドなどのワックスが使用できるが、必ずしも第1混合工程と第2混合工程で同一の潤滑剤を使用する必要はない。これらを添加することにより、造粒粉同士の滑りを良くすることができるので、混合時の密度を向上することができ成形密度を高くすることができる。さらに、粉末が金型への焼き付きくことも防止することが可能である。混合する潤滑樹脂の量は、第1及び第2混合工程あわせて、前記軟磁性合金粉末に対して0.1?0.8wt%とする。これよりも少なければ、十分な効果を得ることができず、これより多いと、密度低下による最大磁束密度の低下、ヒステリシス損失の増加による磁気特性が低下する問題が発生する。 【0020】 (4)成形工程 成形工程では、前記のようにして結着剤により被覆した軟磁性合金を加圧成形することにより、成形体を形成する。この時、加圧乾燥された結着性絶縁樹脂は、成形時のバインダーとして作用する。成形時の圧力は従来の発明と同様で良く、本発明においては1600MPa程度が好ましい。 【0021】 (5)焼鈍工程 焼鈍工程では、前記成形体に対して、大気中などの酸素雰囲気中にて、軟磁性合金粉末に被覆した絶縁膜が破壊される温度以下(700℃前後が好ましい)で、焼鈍処理を行うことで圧粉磁心が作製される。絶縁膜が破壊される温度以下で焼鈍処理を行うのは、成形工程での歪みを開放すると共に、焼鈍処理時の熱により軟磁性合金粉末の周囲に被覆した絶縁膜が破れることを防止するためである。一方、焼鈍温度を上げ過ぎると、この軟磁性合金粉末に被覆した絶縁膜が破れることにより、絶縁性能の劣化から渦電流損失が大きく増加してしまう。それにより、磁気特性が低下するという問題が発生する。」 エ.「【0027】 本特性比較で使用する試料は、下記のように作製した。 実施例1?12では、砕法により得られた、平均粒子経(D50)37μmのFe:Si:Al=84.6:9.7:5.7の合金粉末を用意した。次にこの粉末を1000℃で6時間、水素雰囲気中で熱処理を行った。次に、潤滑剤の前混合として、この合金粉末に潤滑剤1としてエチレンビスステアラマイドを混合機(V型混合機)で2時間混合した。その後、シランカップリング剤を1.0wt%、メチルフェニル系シリコーンワニスを2.0wt%で混合し、150度で2時間の加熱乾燥を行った。更に、潤滑剤の後混合として、潤滑剤2としてエチレンビスステアラマイドを混合した(V型混合機)。 【0028】 これを室温にて1600MPaの圧力で加圧成形し、外径16.5mm、内径11mm、高さ11mmのリング状の成形体を作製した。次に、この積層体を酸素雰囲気(大気)中にて、700度で6時間の熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。これらについて、100KHzでの透磁率、100KHzでの磁気特性(Pcv,Phv,Pev)を測定した。 【0029】 表1は、実施例1?3と比較例1について、軟磁性合金粉末に添加した潤滑剤1,2の量と圧粉磁心の密度、透磁率及び磁気特性(Pcv,Phv,Pev)を示した表である。実施例1?3と比較例1では、潤滑剤の量を、潤滑剤の前混合及び後混合時合わせて、前記軟磁性合金粉末の0.5wt%とした。 【表1】 」 ・上記引用例に記載の「圧粉磁心及びその製造方法」のうち、圧粉磁心の製造方法は、上記「ア.」の【請求項7】、「ウ.」の段落【0015】の記載事項、及び図1によれば、軟磁性合金粉末に対して、潤滑剤を混合する第1混合工程と、第1混合工程を経た混合物を結着性絶縁樹脂で被覆する被覆工程と、結着性絶縁樹脂で被覆した混合物に対して、潤滑剤を混合する第2混合工程と、第2混合工程を経た混合物を、加圧成形処理して成形体を作製する成形工程と、成形工程を経た成形体を焼鈍処理する焼鈍工程とを有するものである。 ・上記「ア.」の【請求項7】、「イ.」、「ウ.」の段落【0016】、「エ.」の段落【0027】の記載事項、及び段落【0029】の表1によれば、第1混合工程では、軟磁性合金粉末に対して0.1?0.6wt%の潤滑剤を前混合するものである。 そして、実施例では、軟磁性合金粉末は、平均粒子経(D50)37μmであり、潤滑剤は、エチレンビスステアラマイドであり、その混合量(添加量)は0.1wt%(実施例1)、0.2wt%(実施例2)、0.3wt%(実施例3)である。 ・上記「ウ.」の段落【0017】、「エ.」の段落【0027】の記載事項によれば、被覆工程では、第1混合工程を経た混合物と、軟磁性合金粉末に対して0.2?3.0wt%の結着性樹脂(メチルフェニル系シリコーン樹脂の場合、軟磁性合金粉末に対して0.2?2.0wt%が適量)を混合し、加熱乾燥を行って、軟磁性合金粉末の表面を結着性樹脂で被覆した混合物を作製する。 そして、実施例では、結着性樹脂は、メチルフェニル系シリコーンワニスであり、その混合量(添加量)は2.0wt%である。 ・上記「ウ.」の段落【0019】、「エ.」の段落【0027】の記載事項によれば、第2混合工程は、結着性樹脂で被覆した混合物に潤滑剤を後混合するものである。なお、実施例では、潤滑剤は、第1混合工程で使用したものと同じである。 ・上記「ウ.」の段落【0020】、「エ.」の段落【0028】の記載事項によれば、成形工程では、第2混合工程を経た混合物を、加圧成形して成形体を作製する。なお、実施例では、リング状の成形体を作製している。 ・上記「ウ.」の段落【0021】、「エ.」の段落【0028】の記載事項によれば、成形工程では、成形工程を経た成形体を、軟磁性合金粉末を被覆した結着性樹脂が破壊される温度以下(実施例では700℃)で焼鈍処理を行い、圧粉磁心を作製してなるものである。 したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「平均粒子経(D50)37μmの軟磁性合金粉末に対して、潤滑剤としてエチレンビスステアラマイドを0.1?0.6wt%〔実施例では0.1wt%(実施例1)、0.2wt%(実施例2)、0.3wt%(実施例3)〕前混合し、当該混合物と、前記軟磁性合金粉末に対して0.2?2.0wt%(実施例では2.0wt%)の結着性樹脂としてのメチルフェニル系シリコーンワニスを混合し、加熱乾燥を行って、前記軟磁性合金粉末の表面を前記接着性樹脂で被覆した混合物を作製し、 前記接着性樹脂で被覆した混合物に潤滑剤としてエチレンビスステアラマイドを後混合し、加圧成形することによりリング状の成形体を作製し、 前記成形体を前記結着性樹脂が破壊される温度以下である700℃で焼鈍するようにした、圧粉磁心の製造方法。」 4.対比 そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、 ア.引用発明における「平均粒子経(D50)37μmの軟磁性合金粉末に対して、潤滑剤としてエチレンビスステアラマイドを0.1?0.6wt%〔実施例では0.1wt%(実施例1)、0.2wt%(実施例2)、0.3wt%(実施例3)〕前混合し、当該混合物と、前記軟磁性合金粉末に対して0.2?2.0wt%(実施例では2.0wt%)の結着性樹脂としてのメチルフェニル系シリコーンワニスを混合し、加熱乾燥を行って、前記軟磁性合金粉末の表面を前記接着性樹脂で被覆した混合物を作製し」によれば、 (a)引用発明における「軟磁性合金粉末」、結着性樹脂としての「メチルフェニル系シリコーンワニス」、前混合される潤滑剤である「エチレンビスステアラマイド」は、それぞれ本願発明の「軟磁性金属粒子」、「シリコーン樹脂」、「金属材料を含まない脂肪酸」に相当し、 さらに、引用発明における、結着性樹脂としての「メチルフェニル系シリコーンワニス」については、「ワニス」というのは樹脂を溶剤に溶かした塗料のことであることから、本願発明でいう「樹脂液」といえるものである。 (b)ここで、本願発明でいう「前記シリコーン樹脂を含む樹脂液と前記脂肪酸とを接触させる」ことについて、本願明細書の段落【0044】の「・・この接触工程の具体的な方法は問わない。シリコーン樹脂を含む樹脂液に脂肪酸を添加して混合させた後に、軟磁性粒子と接触させてもよい。また、軟磁性粒子に予め脂肪酸を混ぜた状態にしておき、そこへ樹脂液を添加して接触させてもよい。」なる記載を踏まえると、引用発明は、下線を付した後者の接触方法に相当するものであるといえ、引用発明においてもシリコーン樹脂を含む樹脂液と脂肪酸とを接触させるようにしてなるものであるということができる。 (c)また、軟磁性合金粉末について、引用発明における「平均粒子経(D50)37μm」は、本願発明の「メジアン径が1?300μm」との範囲を満たす。 (d)引用発明における「加熱乾燥」は、加熱を伴うものの「乾燥」に変わりはないから、本願発明でいう「乾燥」に相当する。 (e)そして、引用発明も「圧粉磁心」を製造するものであるから、引用発明における「接着性樹脂で被覆した混合物」は、本願発明でいう「磁性用粉末」に相当するものである。 したがって、本願発明と引用発明とは、「メジアン径が1?300μmの軟磁性金属粒子に対して、その所定質量%のシリコーン樹脂と、前記シリコーン樹脂に対して所定質量%の金属材料を含まない脂肪酸を、前記シリコーン樹脂を含む樹脂液と前記脂肪酸とを接触させることにより混合して乾燥して磁心用粉末を製造し」の点で共通するということができる。 ただし、軟磁性金属粉末に対するシリコーン樹脂の混合量について、本願発明では、「0.01?1.0質量%」であるのに対して、引用発明では、0.2?2.0wt%(実施例では2.0wt%)である点、及び、金属材料を含まない脂肪酸の混合量について、本願発明では、「前記シリコーン樹脂に対して8.33?16.7質量%」と特定するのに対して、引用発明では、軟磁性合金粉末に対して0.1?0.6wt%〔実施例では0.1wt%(実施例1)、0.2wt%(実施例2)、0.3wt%(実施例3)である点で一応相違している。 イ.引用発明における「前記接着性樹脂で被覆した混合物に潤滑剤としてエチレンビスステアラマイドを後混合し、加圧成形することによりリング状の成形体を作製し」によれば、 (a)引用発明における、後混合される「潤滑剤」は、本願発明における「潤滑剤」に相当し、 (b)引用発明においても、加圧成形によってリング状の成形体を作製していることから、当然、当該加圧成形に際して金型を用いる、つまり、混合物を金型内に充填して加圧成形するものであることは技術常識といえることである。 したがって、本願発明と引用発明とは、「この磁心用粉末に潤滑剤を添加して混合した当該粉末を金型内に充填して加圧成形」するものである点で一致する。 ウ.引用発明における「前記成形体を前記結着性樹脂が破壊される温度以下である700℃で焼鈍する・・」によれば、 焼鈍温度について、引用発明における「700℃」は、本願発明の「500?800℃」の条件を満たしている。 したがって、本願発明と引用発明とは、加圧成形した後、「500?800℃で焼鈍する」ものである点で共通するといえる。 ただし、本願発明では、「焼鈍温度である500?800℃となるまでに前記潤滑剤が分解する温度領域で一度保持」する旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定がない点で相違している。 よって、本願発明と引用発明とは、 「メジアン径が1?300μmの軟磁性金属粒子に対して、その所定質量%のシリコーン樹脂と、前記シリコーン樹脂に対して所定質量%の金属材料を含まない脂肪酸を、前記シリコーン樹脂を含む樹脂液と前記脂肪酸とを接触させることにより混合して乾燥して磁心用粉末を製造し、 この磁心用粉末に潤滑剤を添加して混合した当該粉末を金型内に充填して加圧成形した後、500?800℃で焼鈍することを特徴とする圧粉磁心の製造方法。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] 軟磁性金属粒子に対するシリコーン樹脂の所定の混合量(質量%)について、本願発明では、「0.01?1.0質量%」であるのに対し、引用発明では、引用発明では、「0.2?2.0wt%(実施例では2.0wt%)」である点。 [相違点2] 金属材料を含まない脂肪酸の所定の混合量(質量%)について、本願発明では、「前記シリコーン樹脂に対して8.33?16.7質量%」であるのに対し、引用発明では、軟磁性合金粉末に対して0.1?0.6wt%〔実施例では0.1wt%(実施例1)、0.2wt%(実施例2)、0.3wt%(実施例3)である点。 [相違点3] 加圧成形した後、本願発明では、「焼鈍温度である500?800℃となるまでに前記潤滑剤が分解する温度領域で一度保持」する旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。 5.判断 上記相違点について検討する。 [相違点1]について 引用発明では「0.2?2.0wt%」の範囲が適量とされており、本願発明において特定する「0.01?1.0質量%」の範囲を満たし得ることから、この点において相違点ではない。 なお、引用発明の実施例では2.0wt%であるが、引用発明では上述のように0.2?2.0wt%の範囲が適量とされているのであるから、この範囲内で実施例の2.0wt%よりも少ない値、例えば0.2?1.0wt%の値を選択し、本願発明において特定する「0.01?1.0質量%」の範囲を満たすものとすることも当業者であれば適宜なし得ることである。 [相違点2]について まず、引用発明における、前混合される潤滑剤である「エチレンビスステアラマイド」の混合量について、軟磁性金属粉末に対して0.1?0.6wt%は、結着性樹脂(メチルフェニル系シリコーンワニス)に対しての混合量に換算すると、メチルフェニル系シリコーンワニスが下限の0.2wt%のときに50?300wt%、メチルフェニル系シリコーンワニスが上限の2.0wt%のときに5?30wt%であるから、5?300wt%ということになり、そして、実施例では、それぞれ5wt%(実施例1)、10wt%(実施例2)、15wt%(実施例3)である。 したがって、引用発明では、結着性樹脂(メチルフェニル系シリコーンワニス)に対して「5?300wt%」であるから、本願発明において特定する「8.33?16.7質量%」の範囲を包含しており満たし得る(実施例2の10wt%や実施例3の15wt%は本願発明で特定する範囲を満たしている)。 そして、上記「[相違点1]について」で検討したことに関連して、軟磁性金属粉末に対するシリコーン樹脂の混合量を実施例の2.0wt%よりも少ない例えば1.0wt%とした場合にあっても、シリコーン樹脂に対する金属材料を含まない脂肪酸の混合量は実施例1では10wt%となり、本願発明の「8.33?16.7質量%」の範囲を満たしている。 以上のことからして、この点についても相違点1と同様、相違点とはならないか、たとえそうとまでは言えないとしても、引用発明において、金属材料を含まない脂肪酸の混合量として、シリコーン樹脂に対する混合量に換算した値が本願発明で特定する「8.33?16.7質量%」の範囲を満たすような値を選択することは当業者が適宜なし得ることである。 [相違点3]について 例えば特開平7-240329号公報(特に段落【0010】を参照)、特開2007-56315号公報(特に 段落【0009】、【0020】?【0024】を参照)、特開2010-16091号公報(特に段落【0030】、【0040】を参照)に記載のように、潤滑剤が含まれる加圧成形体を高温にて加熱処理(焼成や焼鈍)する前に、それよりも低い所定温度を所定時間保持して潤滑剤を除去(そのためには、当然、所定時間保持する所定温度は、潤滑剤が分解する温度である)するようにすることは周知といえる技術事項であり、引用発明においても、かかる周知の技術事項を採用し、相違点3に係る構成とすることは当業者であれば適宜なし得ることである。 よって、本願発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 6.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-08-17 |
結審通知日 | 2016-08-23 |
審決日 | 2016-09-05 |
出願番号 | 特願2012-236840(P2012-236840) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 塩▲崎▼ 義晃、田中 純一、小林 大介 |
特許庁審判長 |
酒井 朋広 |
特許庁審判官 |
井上 信一 森川 幸俊 |
発明の名称 | 圧粉磁心及びその製造方法、磁心用粉末及びその製造方法 |
代理人 | 木内 光春 |