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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01T 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01T |
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管理番号 | 1320669 |
審判番号 | 不服2016-2035 |
総通号数 | 204 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-12-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-02-10 |
確定日 | 2016-10-20 |
事件の表示 | 特願2012-130337「スパークプラグ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月19日出願公開、特開2013-254670〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年6月8日の出願であって、平成27年4月27日付けの拒絶理由通知に対して、同年6月30日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月17日付け(発送日:11月24日)で拒絶査定がなされ、これに対して、平成28年2月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。 第2 平成28年2月10日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成28年2月10日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正後の本願発明 平成28年2月10日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。 「軸線方向に貫通する軸孔を有する筒状の絶縁体と、 前記軸孔の先端側に挿設され、自身の先端部が前記絶縁体の先端よりも前記軸線方向先端側に位置する中心電極と、 前記絶縁体の外周に設けられた筒状の主体金具と、 前記主体金具の先端部に配置され、自身の先端部が前記中心電極の先端部との間で間隙を形成する接地電極とを備えるスパークプラグであって、 前記間隙には、前記中心電極の先端部と前記接地電極の先端部とに接触する一方で、前記絶縁体から離間して設けられ、少なくとも外表面が絶縁性材料及び半導体材料の少なくとも一方により形成されたブリッジ部材が設けられ、 前記中心電極のうち前記間隙に臨む面の面積が、0.23mm^(2)以上であり、 前記中心電極の先端面は、対向する前記接地電極の面に対して傾斜しており、 前記ブリッジ部材の外表面に沿った前記中心電極の先端部と前記接地電極の先端部との間の最短距離をA(mm)とし、前記中心電極の先端部と前記接地電極の先端部との間の最短距離をB(mm)としたとき、A-B≦1を満たすことを特徴とするスパークプラグ。」 なお、下線は補正箇所であり、請求人が付したとおりである。 本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「中心電極」について、該中心電極が、「前記中心電極の先端面は、対向する前記接地電極の面に対して傾斜しており、前記ブリッジ部材の外表面に沿った前記中心電極の先端部と前記接地電極の先端部との間の最短距離をA(mm)とし、前記中心電極の先端部と前記接地電極の先端部との間の最短距離をB(mm)としたとき、A-B≦1を満たす」ことを限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。 2.引用刊行物とその記載事項 (1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に国際公開された国際公開第99/31775号(以下「刊行物1」という。)には、「SPARK PLUG」に関し、次の事項が、図面(特に図1、2参照)と共に記載されている。 ア.明細書1頁4?5行 「The present invention relates to spark plugs for internal combustion engines.」 (「本発明は、内燃機関用のスパークプラグに関する。」当審仮訳、下線は当審で付与。以下同様。) イ.同3頁9?16行 「According to the present invention, there is provided a spark plug for an internal combustion engine, the spark plug including two electrodes, the electrodes comprising a central electrode and a ground electrode, there being a gap between the two electrodes and wherein the gap between the central and ground electrodes is bridged by a member made of a monolithic, electrically insulating material .」 (「本発明によれば、中心電極と接地電極から構成される2つの電極を含み、2つの電極間にギャップを有し、中心・接地電極間のギャップは、単一の電気絶縁材料からなる部材で架橋(ブリッジ)される、内燃機関用のスパークプラグが提供される。」) ウ.同4頁12?15行 「In one embodiment of a spark plug according to the present invention, the bridging member in the form of a rod of silicon nitride or aluminium nitride is fixed between the two electrodes across the gap therebetween. 」 (「本発明のスパークプラグの一実施形態では、窒化ケイ素または窒化アルミニウムからなる、棒状部材に形成されたブリッジ部材が、2つの電極間に固定される。」) エ.同5頁22?26行 「Thus, spark plugs of the present invention are easily able to provide spark gaps of 2mm at breakover voltages much less than are currently employed with conventional spark plugs which is a very considerable advantage of the present invention.」 (「このように、本発明のスパークプラグは現在通常使用されるスパークプラグよりもはるかに少ないブレークオーバー電圧で2ミリのスパークプラグギャップを提供することが容易にでき、このことは本発明の非常に大きな利点である。」) オ.同7頁5?24行 「Figure 1 shows a part-sectioned portion of a spark plug 10 according to the present invention. The spark plug comprises a metal body 12 having a screw threaded portion 14 for fixing the spark plug into the cylinder head (not shown) for example of an associated internal combustion engine (not shown) ; a ceramic insulator 16; a centre electrode 18 within the insulator 16; a ground electrode 20 fixed to the body 12; and, a gap bridging member 22 in the form of a cylindrical rod (also shown alone in Figure 2). The centre electrode 18 extends through the spark plug 10 surrounded by the insulator 16 and has at one end a recess 24 to accept one end 26 of the bridging member 22 and a terminal (not shown) at its remote end for connecting to a high voltage source. The ground electrode 20 is made of metal, welded at one end 30 to the threaded portion 14 and has a recess 32 for the other end 34 of the bridging member 22. The bridging member 22 is made of silicon nitride (e.g. Nitrasil- trade name). The gap 40 between the centre 18 and ground 20 electrodes is bridged by the member 22. 」 (「図1は、本発明によるスパークプラグ10の一部断面を示す図である。スパークプラグは、内燃機関(図示せず)の、例えばシリンダーヘッド(図示せず)に、スパークプラグを取り付けるためのねじ螺合部14を有する金属製本体12と、セラミック絶縁体16と、絶縁体16内の中心電極18と、本体12に固定された接地電極20と、筒状ロッド(図2に単独で示される)の形をしたギャップブリッジ部材22と、からなる。中心電極18は、絶縁体16で包囲され、スパークプラグ内に延在し、一端に、ブリッジ部材22の端部26を受け入れる凹部24を有し、高電圧源に接続する離れた終端である他端(図示せず)を有している。接地電極20は、金属製であり、一方の端部30がねじ螺合部14に溶接され、ブリッジ部材22の他端34のための凹部32を有している。ブリッジ部材22は、窒化ケイ素(例えば、ニトラジル-:商品名)製である。中心電極18と接地電極20とのギャップ40は、部材22で架橋される。」) 上記記載事項イ、ウ、オからみて、「ブリッジ部材22」は、絶縁性材料から形成されるものであることが理解できる。 また、上記記載事項オ及び図1から、絶縁体16は、その長手方向に中心電極を収納する孔を有しており、中心電極は、その先端が絶縁体16より突出するように絶縁体16により包囲されており、更に、ねじ螺合部14は、筒状であって、その内部に絶縁体16を収納していることが理解できる。 さらに、ブリッジ部材22は、絶縁体16から離れて設けられていることが、図1から看取される。 上記記載事項及び認定事項、図示内容を総合して、本願補正発明に則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「長手方向に貫通する孔を有する筒状の絶縁体16と、 筒状の絶縁体16に包囲され、その先端部が絶縁体16から突出する中心電極18と、 絶縁体16を収納する、筒状のねじ螺合部14と、 一方の端部30はねじ螺合部14の先端に溶接され、他方の端部が、中心電極18の先端部との間にギャップ40を形成する接地電極20と、を備えるスパークプラグであって、 ギャップ40は、絶縁体16から離れて設けられ、絶縁性材料により形成されたブリッジ部材22により架橋される、スパークプラグ。」 (2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に国内で頒布された特開平6-36856号公報(以下「刊行物2」という。)には、「スパークプラグ」に関し、図面(特に、図2、4参照)と共に次の事項が記載されている。 カ.「【0001】 【産業上の利用分野】この発明は、中心電極の先端に貴金属チップを溶接したスパークプラグに関するものである。」 キ.「【0018】図2に示したようにこの発明のスパークプラグは、貴金属チップ6の直径をD、厚さをT、中心電極4の直棒径小部4Aの長さをL、溶融凝固合金部7の溶け込み深さをA、貴金属チップ6の半径をR、中心電極2の外周面での溶融凝固合金部7の幅をBとしたとき 0.5mm≦D≦1.5mm、0.3mm≦T≦0.6mm、0.2mm≦L≦0.5mm、R/3≦A≦R、0.3mm≦B≦0.8mm となるように設定されている。 【0019】貴金属チップ6の直径Dを0.5mm以上、1.5mm以下にする理由を図4に示す。図4は、2000cc、6気筒ガソリンエンジン、5000rpm全開で300時間の耐久試験を行ったときの火花放電ギャップ増加量の変化を示す。このグラフから分かるように、貴金属チップ6の直径Dが0.5mmよりも小さいと火花放電が集中して、ギャップ増加量が急激に高くなってしまう。つまり貴金属チップ6の直径Dは、小さい程飛火し易く放電電圧は低下するが、一方火花放電の集中が顕著となり、電極消耗が早く進んでしまうこととなる。また、直径Dが1.5mmを過ぎると、ギャップ増加量はほとんど変化がないが、火花放電面が大きくなることによって着火性が低下してしまう。さらに、高価な貴金属の使用量が増えコスト高となる。」 (3)本願の出願日前に国内で頒布された特開2003-17214号公報(以下「刊行物3」という。)には、「スパークプラグ及びその製造方法」に関し、図面(特に、図3、6参照)と共に次の事項が記載されている。 ク.「【0011】 【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。図1に示す本発明の一例たるスパークプラグ100は、筒状の主体金具1、先端部21が突出するようにその主体金具1の内側に嵌め込まれた絶縁体2、先端に形成された貴金属発火部(以下、単に発火部ともいう)31を突出させた状態で絶縁体2の内側に設けられた中心電極3、及び主体金具1に一端が溶接等により結合されるとともに他端側が側方に曲げ返されて、その側面が中心電極3の先端部と対向するように配置された接地電極4等を備えている。また、接地電極4には上記発火部31に対向する貴金属発火部(以下、単に発火部ともいう)32が形成されており、それら発火部31と、対向する発火部32との間の隙間が火花放電ギャップgとされている。」 ケ.「【0022】なお、本体部3Mの中心軸線O2と貴金属発火部31の中心軸線O1との偏心は、図3(a)に示すように、O1/O2が平行にずれる要素以外にも、図3(b)に示すように、O1/O2が傾斜形態にずれる要素を含む場合がある。このような傾斜を生じていると、例えば図6(b)に示すように、中心電極3側の発火部31の、傾斜方向における片側のエッジが接地電極4側の発火部32に向けてせり上がり、火花放電ギャップgが該位置で狭くなって偏消耗を招くことにつながる。 【0023】また、火花放電ギャップgを形成する際の、以下のような工程上の不具合を招来する場合もある。すなわち、図6(c)に示すように、火花放電ギャップgは、ギャップ形成用の治具KFを発火部31の端面に対し側方から挿入・位置決めし、該治具KFに向けて接地電極4に曲げ加工を施すことにより形成する方法が一般的である。しかし、貴金属発火部31の中心軸線O1が傾斜していると、その傾斜によりせり上がった発火部31の端面外周縁部に治具KFが引っかかったり、曲げ加工時につぶれが生じやすくなったりする不具合につながる。」 コ.「【0024】そこで、上記の傾斜を、図3(b)に示すように、中心電極3の本体部3Mの中心軸線O2と平行な任意の仮想平面のうち、該仮想平面への正射影投影における、本体部3Mの外周面3pの中心軸線O2と、貴金属発火部31の外周面31pの中心軸線O1とのなす角度θが最も大きく現われるものを投影平面OVPとして採用したときの、当該投影平面OVPにおける角度θが5゜以下となるように小さくすることで、図6(a)に示すように、上記のような不具合を効果的に解消することができる。」 3.対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「長手方向に貫通する孔を有する筒状の絶縁体16」は、その機能・構造等からみて、本願補正発明の「軸線方向に貫通する軸孔を有する筒状の絶縁体」に相当し、同様に、 「筒状の絶縁体16に包囲され、その先端部が絶縁体16から突出する中心電極18」は「前記軸孔の先端側に挿設され、自身の先端部が前記絶縁体の先端よりも前記軸線方向先端側に位置する中心電極」に、 「絶縁体16を収納する、筒状のねじ螺合部14」は「前記絶縁体の外周に設けられた筒状の主体金具」に、 「一方の端部30はねじ螺合部14の先端に溶接され、他方の端部が、中心電極18の先端部との間にギャップ40を形成する接地電極20」は「前記主体金具の先端部に配置され、自身の先端部が前記中心電極の先端部との間で間隙を形成する接地電極」に、それぞれ相当する。 そして、引用発明のブリッジ部材22は、中心電極と接地電極を架橋するものであるから、両者に接触しているといえ、また、絶縁性材料により形成されているから、少なくとも外表面は絶縁性材料により形成されているといえる。そうすると、引用発明の「ギャップ40は、絶縁体16から離れて設けられ、絶縁性材料により形成されたブリッジ部材22により架橋される」ことは本願補正発明の「前記間隙には、前記中心電極の先端部と前記接地電極の先端部とに接触する一方で、前記絶縁体から離間して設けられ、少なくとも外表面が絶縁性材料」「により形成されたブリッジ部材が設けられ」ることに相当する。 してみると、本願補正発明と引用発明とは、次の一致点、相違点を有するものである。 [一致点] 「軸線方向に貫通する軸孔を有する筒状の絶縁体と、 前記軸孔の先端側に挿設され、自身の先端部が前記絶縁体の先端よりも前記軸線方向先端側に位置する中心電極と、 前記絶縁体の外周に設けられた筒状の主体金具と、 前記主体金具の先端部に配置され、自身の先端部が前記中心電極の先端部との間で間隙を形成する接地電極とを備えるスパークプラグであって、 前記間隙には、前記中心電極の先端部と前記接地電極の先端部とに接触する一方で、前記絶縁体から離間して設けられ、少なくとも外表面が絶縁性材料により形成されたブリッジ部材が設けられる、スパークプラグ。」 [相違点1] 本願補正発明は「中心電極のうち前記間隙に臨む面の面積が、0.23mm^(2)以上」であるのに対して、引用発明は、当該面積について明らかでない点。 [相違点2] 本願補正発明は「前記中心電極の先端面は、対向する前記接地電極の面に対して傾斜しており、前記ブリッジ部材の外表面に沿った前記中心電極の先端部と前記接地電極の先端部との間の最短距離をA(mm)とし、前記中心電極の先端部と前記接地電極の先端部との間の最短距離をB(mm)としたとき、A-B≦1を満たす」ものであるのに対して、引用発明は、中心電極の先端面の形状が明らかでない点。 4.判断 (1)相違点1について 本願補正発明において、中心電極のうち間隙に臨む面の面積を、0.23mm^(2)以上とする目的は、間隙に臨む部位の面積を十分確保して、低い放電電圧を長期間に亘って維持することである(本願明細書の段落【0015】、【0041】等参照。)。 そして、面積を異ならせた複数のサンプル(面積:0.13mm^(2)、0.23mm^(2)、0.28mm^(2)、0.38mm^(2)・・・)を作製し、火花耐久試験を行い、ギャップ増加量を測定し、該増加量が0.1mm以下のものを、耐久性(耐消耗性)に優れるもの「◎」とし、0.23mm^(2)より面積の大きなサンプルが「◎」であった(同段落【0064】、【0065】、【表4】参照。)ことから、上記面積を0.23mm^(2)以上と特定している。 他方、刊行物2には、中心電極の先端に貴金属チップを溶接したスパークプラグの中心電極の直径Dを、0.5mm≦D≦1.5mmにすることが記載されており、該数値範囲は、直径Dが0.5mmよりも小さいとギャップ増加量が急激に高くなり、電極消耗が早く進んでしまうこと、1.5mmを過ぎるとギャップ増加量はほとんど変化せず着火性が低下することを根拠としている(記載事項キ参照。)。 すなわち、刊行物2には、ブリッジ部材を有するスパークプラグではないが、電極消耗を防ぎ、着火性の低下防止のために、貴金属チップ6の直径をDとしたとき、0.5mm≦D≦1.5mmとすること(以下「刊行物2記載の技術事項」という。)が記載されている。ここで、刊行物2記載の技術事項における直径の範囲に基づく面積は、0.196mm^(2)(直径Dが0.5mmの場合)?1.766mm^(2)(直径Dが1.5mmの場合)となる。そうしてみると、引用発明において、電極消耗を防ぐために、中心電極のうち間隙に臨む面の面積の下限値を設定することは、当業者が刊行物2記載の技術事項に基いて、容易に想到し得たことである。 また、本願補正発明の特定事項である間隙面積の臨界値である「0.23mm^(2)」は、上記のとおりサンプルとして設定した数値に基づくものにすぎず、明細書の記載から数値に格別な臨界的意義を認めることができないうえ、刊行物2に記載された数値の下限値と大きく異なるものでもない。 したがって、刊行物2記載の技術事項からみて、中心電極のうち間隙に臨む面の面積を十分に確保することは、当業者が容易になし得たことであり、数値範囲の最適化・好適化は当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないから、相違点1は刊行物2記載の技術事項に基いて当業者が容易に想到し得たことである。 (2)相違点2について 本願補正発明において、中心電極の先端面が、対向する接地電極の面に対して「傾斜」している点について検討する。 本願明細書の段落【0058】によれば、相違点2に係る特定事項における「A-B」は、その数値を種々変更したスパークプラグのサンプルXを作製し、各サンプルXについて、放電電圧低減効果確認試験を行ったものである(本願明細書の段落【0058】?【0060】及び【表3】参照。)。 当該「A-B」は傾斜の度合いを示す数値に他ならず、その数値を種々変更して試験を行い、◎、○、△等の評価を行うことは、傾斜の度合いがどの程度まで許容できるかを試験するものと解され、また、そのように解しても、本願明細書の他の記載と矛盾しない。 すなわち、本願補正発明にいう「傾斜」とは、スパークプラグの中心電極の先端面に「積極的に」傾斜を設けるというのではなく、例えば、スパークプラグを製造・加工するに際し、前記先端面が接地電極に対して平行な面として加工できなくても、ある数値以下(A-B≦1)の傾斜であるならば、許容できるという傾斜のことと認められる。 他方、引用発明は放電電圧を低減させるものである(記載事項エ参照。)。 また、刊行物3には、記載事項ケのとおり、中心電極の火花放電ギャップgに臨む面が傾斜した場合の不具合が記載され、且つ、記載事項コのとおり、その不具合を効果的に解消するには、傾斜角度θを5°以下とすればよいこと(以下「刊行物3記載の技術事項」という。)が記載されている。 してみると、本願補正発明の相違点2に係る技術事項と刊行物3記載の技術事項とは、傾斜の許容範囲を定めるという点で軌を一にするものである。そして、A-Bという長さの差で規定するか、傾斜角度によって規定するかは当業者が適宜設定し得ることにすぎず、傾斜角度により規定することに代えて、傾斜する2点の位置を規定する数値の差で規定することに、格別困難性があるとはいえない。 また、A-B≦1の臨界値「1」という数値も試験のためのサンプルから得られた数値(【表3】参照。)であって、上記相違点1の数値と同様、明細書の記載から数値に格別な臨界的意義を確認できず、当業者が実験等により適宜設定し得たものといえる。 したがって、相違点2は引用発明に刊行物3記載の技術事項を適用して当業者が容易に想到し得たことである。 (3)作用効果について 本願補正発明による作用効果も、引用発明、刊行物2記載の技術事項及び刊行物3記載の技術事項から当業者が予測し得た程度のものである。 (4)まとめ したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物2記載の技術事項及び刊行物3記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 5.むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成27年6月30日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「軸線方向に貫通する軸孔を有する筒状の絶縁体と、 前記軸孔の先端側に挿設され、自身の先端部が前記絶縁体の先端よりも前記軸線方向先端側に位置する中心電極と、 前記絶縁体の外周に設けられた筒状の主体金具と、 前記主体金具の先端部に配置され、自身の先端部が前記中心電極の先端部との間で間隙を形成する接地電極とを備えるスパークプラグであって、 前記間隙には、前記中心電極の先端部と前記接地電極の先端部とに接触する一方で、前記絶縁体から離間して設けられ、少なくとも外表面が絶縁性材料及び半導体材料の少なくとも一方により形成されたブリッジ部材が設けられ、 前記中心電極のうち前記間隙に臨む面の面積が、0.23mm^(2)以上であることを特徴とするスパークプラグ。」 2.引用刊行物とその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1、2の記載事項は、上記第2、2.(1)、(2)に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は、上記第2において、相違点2として検討した、本願補正発明の「中心電極」についての特定事項を省いたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含む本願補正発明が、上記第2の3.及び4.に記載したとおり、引用発明、刊行物2記載の技術事項及び刊行物3記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、相違点2に係る特定事項を省いた本願発明は、引用発明及び刊行物2記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 そして、本願発明による作用効果も、引用発明及び刊行物2記載の技術事項から当業者が予測し得た程度のものである。 4.まとめ したがって、本願発明は、引用発明及び刊行物2記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-08-19 |
結審通知日 | 2016-08-23 |
審決日 | 2016-09-05 |
出願番号 | 特願2012-130337(P2012-130337) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H01T)
P 1 8・ 121- Z (H01T) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 出野 智之 |
特許庁審判長 |
冨岡 和人 |
特許庁審判官 |
内田 博之 森川 元嗣 |
発明の名称 | スパークプラグ |
代理人 | 川口 光男 |