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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G01J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G01J
管理番号 1320670
審判番号 不服2016-2334  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-16 
確定日 2016-10-20 
事件の表示 特願2011-191356「対象識別装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 3月21日出願公開、特開2013- 53892〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年9月2日に出願された特許出願であって、平成27年5月22日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、同年7月15日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月4日付けで拒絶査定がなされ、同拒絶査定の謄本は同月8日に請求人に送達された。
これに対して、平成28年2月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正書の提出がなされたものである。

第2 平成28年2月16日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年2月16日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1の記載を、下記(1)から(2)に補正をするものである。
(1)本件補正前の請求項1(平成27年7月15日提出の手続補正書に記載のもの)
「【請求項1】
同一の半導体基板にそれぞれ形成され、対象から放射される複数の波長の光をそれぞれ検出する複数の検出部を有する検出器と、
前記複数の波長における各エネルギー強度を記憶する記憶部と、
前記複数の検出部によりそれぞれ検出された光のエネルギー強度と、前記記憶部に記憶されたエネルギー強度とを比較することにより、前記対象を識別する処理部と、
を備え、
前記検出部は、熱電変換素子が設けられた半導体基板を有し、
前記半導体基板には前記熱電変換素子の周りにスリットが設けられていることを特徴とする対象識別装置。」

(2)本件補正後の請求項1(平成28年2月16日提出の手続補正書に記載のもの)
(下線は補正箇所を示す。)
「【請求項1】
同一の半導体基板にそれぞれ形成され、対象から放射される複数の波長の光をそれぞれ検出する複数の検出部を有する検出器と、
前記複数の波長における各エネルギー強度を記憶する記憶部と、
前記複数の検出部によりそれぞれ検出された光のエネルギー強度と、前記記憶部に記憶されたエネルギー強度とを比較することにより、前記対象を識別する処理部と、
を備え、
前記検出部は、熱電変換素子が設けられた半導体基板を有し、
前記半導体基板には前記熱電変換素子の周りに複数のコ字形状のスリットが設けられ、
前記スリットの端部は前記熱電変換素子の端部から離れる方向に延びていることを特徴とする対象識別装置。」

(3)本件補正(請求項1の補正)の内容について
本件補正は、本件補正前の請求項1の発明特定事項である「熱電変換素子の周り」に「設けられている」「スリット」の形状を、「複数のコ字形状」に限定するとともに、当該「スリット」の「端部」が「熱電変換素子の端部から離れる方向に延びる」ものであることを限定するものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものといえる。

2 本件補正発明についての独立特許要件についての検討
本件補正後の請求項1に係る発明(上記(2)に説示したもの。以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすものであるか否かについて検討する。

(1)特許法第36条第6項第2号に規定する要件について
本件補正後の請求項1の記載は、上記1(2)のとおりであるところ、本件補正により新たに特定されるものとなった事項である「スリットの端部は前記熱電変換素子の端部から離れる方向に延びている」の意味する内容について検討する。
ア 請求項1における解釈
(ア)「スリットの端部」について
「端」は「物の末の部分。先端。」、「中心から遠い、外に近い所。へり。ふち。」を意味する語句(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)であることからすれば、「スリットの端部」は、「スリットの中心から遠い外に近い部分」、「へり、ふち」を意味するものと解することができるものの、本件補正発明のスリットの形状については、「コ字形状」であることが特定されているから、「スリットの端部」がこの「コ字形状」の中心から遠い外に近い部分、へり、ふちを意味するものと解したとしても、コ字形状のどの部分を特定するものであるのかを直ちに理解することができない。
(イ)「熱電変換素子の端部」について
熱電変換素子については、本件補正発明においてその形状について何らの特定もされていないから、単に熱電変換素子の「端部」と規定するのみでは、熱電変換素子のどの部分を特定するものであるのかを直ちに理解することはできない。
(ウ)「スリットの端部が熱電変換素子の端部から離れる方向に延びる」との態様による特定について
スリットの「中心から遠い外に近い部分」が、熱電変換素子の「中心から外に近い部分」から離れる方向に延びるという態様についても、上記と同様に、その態様が具体的にどのようなものを規定するのかについて直ちに理解することができない。
(エ)上記のとおり、特許請求の範囲の請求項1の記載のみからは、「スリットの端部は前記熱電変換素子の端部から離れる方向に延びている」の意味する内容を理解することができない。

イ 発明の詳細な説明の記載の参酌
(ア)発明の詳細な説明には、熱電変換素子の周囲に形成されるスリットに関しては、段落【0017】に「検出部2のキャビティ部20に対応する概略として矩形の領域には、半導体基板21の上面からキャビティ部20に貫通するスリット10が形成されている。スリット10は、温度変化が周囲の領域に伝達するのを防ぎ、検出部2の温度環境を安定させる。」と記載されているほかは、図1及び図2にその形状が示されているのみである。

図1


図2


(イ)上記段落【0017】には、スリットの端部と熱電変換素子の端部の関係については記載されておらず、当該記載からは、スリットの端部及び熱電変換素子の端部の位置や両者の関係について読みとれるものではない。
(ウ)図1及び図2からは、「熱電変換素子12」の形状が、細長いものであることが見て取れるから、その端部は、それぞれ、接点13付近であると一応理解することができる。
しかしながら、「スリット」の形状は、図1及び図2から見て取れるように、コ字形状であるから、その端部がどの部分であるのかを直ちに理解することができない。
仮に、「スリットの端部」を図1及び図2に示されている「熱電変換素子」を挟んで対向する部分であると解したとしても、そのように解した「スリットの端部」は、「熱電変換素子の端部」から「離れる方向に延びている」ものではない。
なお、図1及び図2からは、スリットのコ字形状を形成する2つの短い辺のそれぞれが「熱電変換素子の端部」から離れて延びる部分として認識できるものの、当該「2つの短い辺のそれぞれ」を「スリットの端部」ということは適切でないし、発明の詳細な説明や図面において、「スリットの端部」が、当該「2つの短い辺のそれぞれ」を意味するものであると解する根拠となる記載は存在しない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件補正後の請求項1の「スリットの端部は前記熱電変換素子の端部から離れる方向に延びている」の意味する内容を理解することができない。
したがって、本件補正発明は明確でないから、本件補正後の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
よって、本件補正発明は、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

(2)特許法第29条第2項に規定する要件について
ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記(1)のとおり、「スリットの端部は前記熱電変換素子の端部から離れる方向に延びている」の意味する内容が明確でないが、当該特定事項により特定されるものが、図1及び図2において開示されている検出部を備えるものであると解し、念のために本件補正発明の進歩性の要件について検討することとする。

イ 引用例
原査定の拒絶の理由において引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平8-86883号公報(以下、「引用例」という。)には、つぎの事項が記載されている。
(ア)「 【0011】
【実施例】以下、人体検出装置について図を用いて説明する。図1は本発明の一実施例を示す人体検出装置の概略ブロック図である。人体若しくは物体から放射された赤外線は光学系1により集光され、レンズアレイ・プリズムアレイ2により分光された後、熱型アレイセンサ3に入射される。通常、光学系1は色収差のない凹面反射鏡で構成されている。
【0012】図2はレンズアレイ・プリズムアレイ2の拡大詳細図を示し、図3は集光された赤外線の光路を示したものである。光学系1により集光された赤外線はレンズアレイ2aの前のA点で結像した後、平行光となり、プリズムアレイ2bの各プリズムがこれを3種類の波長帯域に分光する。熱型センサアレイ3は各プリズムに対して3素子が対応しているので、3種類の分光光は一度に熱型センサアレイ3に入射されることになり、各波長帯域のエネルギー強度に比例した電圧がプリズムの数に応じた総和として出力される。このように、プリズムを用いて分光するために、従来、波長帯域に合わせてフィルタをチョッパ等で切り換える必要がなく構成を簡単で取り付けも容易である。しかも、複数の熱型センサをアレイ状に形成しているために、大きな出力を得られ、増幅回路を減じたり省くことができて経済的である。ここで使用されるプリズムアレイ2bは人体を検出するのに必要な画素分だけ2次元配列したものである。

(イ)「【0013】ここで、3種類の波長帯域は連続した狭い波長帯域であって波長の短い方からλ_(1) ,λ_(2) ,λ_(3) とすると、λ_(1)は8?9μm、λ_(2)は9?10μm、λ_(3)は10?11μmに設定されている。尚、本実施例においては、3種類の波長域しか使用していないが、波長域の種類は、増えれば増えるほど、温度に対しての分解能が向上し、人体の判別精度が向上する。また、本実施例で使用される熱型センサの定義に関して言えば、赤外線を熱としてとらえ、その強度に応じて電圧を出力する赤外線センサの一種であって、複数のセンサがアレイ上に一体的に配置されたものが熱型アレイセンサであり、サーモパイル等で構成された2次元センサも含まれる。 」

(ウ)「【0014】次に、人体の判別について詳述する。熱型センサアレイ3からの出力電圧は走査回路4によって波長帯域毎に順次走査されて取り出され、演算回路5に出力される。この演算回路5には気温測定部6が接続されており、サーミスタ等で構成された気温測定部6で測定された周囲温度情報を入力して図示しない記憶回路に予め書き込まれている基準温度情報と比較して、比較判別の対象を変える。
【0015】すなわち、人の顔の表面温度は通常32°C付近であるが、周囲温度が低くなるとそれに応じてだんだん低くなり、20°C程度になる。よって、上記基準温度を20°Cに設定し周囲温度と比較することで、周囲温度の相違による人のピーク波長帯域を特定できるので、人体を精度よく判別することが可能となる。図4は各物体の放射強度曲線を示した図である。
【0016】図において、通常の人体の放射強度を示す32°Cの曲線のピーク波長帯域がλ_(2)であるのに対して、低温下の人体の放射強度を示す20°Cの曲線はピーク波長帯域が長い波長側へずれてλ_(3)となる。従って、λ_(1),λ_(2),λ_(3)における出力電圧Vλ_(1),Vλ_(2),Vλ_(3)の大小関係を比較することで周囲温度の違いがあっても人体からの赤外線かどうかが予測される。
【0017】また、従来、高温で低放射率の物体に関しては、8?13μmの波長帯域の放射総量は略同じであり判別が難しかったが、表面温度32°Cの人の顔の放射強度は9.5μm付近にピークがあり、高温で低放射率の物体は略λ_(1)に含まれる部分にピークがある。よって、上述同様に出力電圧Vλ_(1),Vλ_(2),Vλ_(3)の大小関係を比較することで、人体からの赤外線か、あるいは高温で低放射率の物体からのものであるかが判別される。
【0018】しかし、稀なケースであるが、本来、人とは異なる物体であっても周囲温度の変化によって物体のピーク波長が人のピーク波長帯域に含まれるようになる場合がある。例えば、高温の物体が周囲温度によって冷却されて表面温度32°Cになると、λ_(2)内にピーク波長が含まれるようになり、このような場合においては単純な大小関係の比較では誤認識する可能性がある。
【0019】このため、演算回路5において、図示しない記憶回路に予め書き込まれている出力電圧Vλ_(1),Vλ_(2),Vλ_(3)の基準パターン情報と熱型センサアレイ3の出力値の大小関係の比較により人体であると予測されたものに対して、さらに、判別回路7が出力電圧Vλ_(1),Vλ_(2),Vλ_(3)の総和を求めて、図示しない記憶回路に予め書き込まれている基準総和情報と比較する。放射強度曲線は物体によって分布状況(傾きや形状)が異なっているから、同じピーク波長帯域を有する物体にあっては特有の総和値を持つことになる。よって、基準総和を波長帯域λ_(1)?λ_(3)の人の顔の放射強度の総和とすれば、上記誤認識を排除して表面温度の変化した人体からの赤外線を判別するとともに、人体からの赤外線か、表面温度の変化した物体からのものであるかが判別される。 」

(エ)「【0020】なお、本実施例では判別手段としての機能を有した演算回路5と判別回路7が、それぞれの記憶回路から基準温度情報、基準パターン情報及び基準総和情報を読み出して、第1の判別と第2の判別を行なっているが、演算回路5と判別回路7を1つの判別回路として同一の記憶回路から上記各種基準情報を読み出すようにしても良い。」

(オ)図1


(カ)図2


(キ)図3


ウ 引用例に記載された発明について
上記イ(ア)ないし(エ)の記載並びに(オ)ないし(キ)の図面から、引用例には、つぎの発明が記載されているものと認められる。
「人体若しくは物体から放射された赤外線が光学系1により集光され、レンズアレイ2aの前のA点で結像した後、平行光となり、プリズムアレイ2bの各プリズムがこれを3種類の波長帯域に分光し、各プリズムに対して3素子が対応している熱型センサアレイ3に3種類の分光光が一度に入射され、各波長帯域のエネルギー強度に比例した電圧がプリズムの数に応じた総和として出力され、
熱型センサアレイ3からの出力電圧は走査回路4によって波長帯域毎に順次走査されて取り出され、判別回路に出力され、判別回路は、接続されている気温測定部6で測定された周囲温度情報を入力して記憶回路に予め書き込まれている基準温度情報と比較して、比較判別の対象を変え、比較判別の対象に応じた記憶回路に予め書き込まれている出力電圧Vλ_(1),Vλ_(2),Vλ_(3)の基準パターン情報と熱型センサアレイ3の出力値の大小関係の比較により人体であると予測されたものに対して、さらに、出力電圧Vλ_(1),Vλ_(2),Vλ_(3)の基準総和情報と熱型センサアレイ3の出力電圧の総和の比較により、人体からの赤外線か、表面温度の変化した物体からのものであるかを判別する人体検出装置」の発明(以下、「引用発明」という。)

エ 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「熱型センサアレイ3」は、「人体若しくは物体から放射された赤外線が光学系1により集光され、レンズアレイ2aの前のA点で結像した後、平行光となり、プリズムアレイ2bの各プリズムがこれを3種類の波長帯域に分光し、各プリズムに対して3素子が対応している」ものであって、当該「熱型センサアレイ3」には、「3種類の分光光が一度に入射され、各波長帯域のエネルギー強度に比例した電圧がプリズムの数に応じた総和として出力される」ものであって、図面の記載から、これらの熱型センサアレイは、一体に形成されていることは明らかであるから、本件補正発明の「同一の半導体基板にそれぞれ形成され、対象から放射される複数の波長の光をそれぞれ検出する複数の検出部を有する検出器」とは、「一体に形成され、対象から放射される複数の波長の光をそれぞれ検出する複数の検出部を有する検出器」である点で共通するものといえる。
(イ)引用発明の「記憶回路」は、「出力電圧Vλ_(1),Vλ_(2),Vλ_(3)の基準パターン情報」が予め書き込まれているものであるから、本件補正発明の「複数の波長における各エネルギー強度を記憶する記憶部」に相当する。
(ウ)引用発明の「判別回路」は、「測定された周囲温度情報」を「基準温度情報」と比較して、比較判別の対象を変え、当該変えられた「比較判別対象」に応じた「出力電圧Vλ_(1),Vλ_(2),Vλ_(3)の基準パターン情報」と「熱型センサアレイ3の出力値の大小関係」及び当該比較により「人体であると予測されたもの」に対して「出力電圧Vλ_(1),Vλ_(2),Vλ_(3)の基準総和情報と熱型センサアレイ3の出力電圧の総和の比較により、人体からの赤外線か、表面温度の変化した物体からのものであるかを判別する」のであるから、本件補正発明の「前記複数の検出部によりそれぞれ検出された光のエネルギー強度と、前記記憶部に記憶されたエネルギー強度を比較することにより、前記対象を識別する処理部」に相当するものといえる。
(エ)また、引用発明の「人体検出装置」は、人体からの赤外線か、高温で低放射率の物体からの赤外線かを判別し、人体を精度よく判別するものである(上記イ(ウ)の記載参照)から、対象を識別する装置と言い得るものであるから、本件補正発明の「対象識別装置」に相当するものといえる。
(オ)してみると、本件補正発明と引用発明とは、つぎの一致点で一致し、各相違点において相違する。

<一致点>
「一体に形成され、対象から放射される複数の波長の光をそれぞれ検出する複数の検出部を有する検出器と、
前記複数の波長における各エネルギー強度を記憶する記憶部と、
前記複数の検出部によりそれぞれ検出された光のエネルギー強度と、前記記憶部に記憶されたエネルギー強度とを比較することにより、前記対象を識別する処理部と、
を備えていることを特徴とする対象識別装置」である点

<相違点1>
本件補正発明の「複数の検出部」が「同一の半導体基板」に形成されるものであるのに対して、引用発明の「熱型センサアレイ」が「同一の半導体基板」に形成されるものであるのか否かが不明である点

<相違点2>
本件補正発明の「検出部は、熱電変換素子が設けられた半導体基板を有し、前記半導体基板には前記熱電変換素子の周りに複数のコ字形状のスリットが設けられ、前記スリットの端部は前記熱電変換素子の端部から離れる方向に延びている」ものであるのに対して、引用発明の「熱型センサ」がそのように特定されない点

オ 判断
(ア)相違点1について検討する。
引用例の記載(上記イ(イ))において「複数のセンサがアレイ上に一体的に配置されたものが熱型アレイセンサ」であることが示されていることに加え、本願出願時において、複数の熱型センサをアレイ状に同一の半導体基板上に形成した熱型アレイセンサは、周知のものにすぎない。
必要であれば、例えば、拒絶査定時に周知技術を示すものとして引用された特開2004-239708号公報(以下、「周知例1」という。)の段落【0014】ないし【0020】並びに図1及び図2やその他にも特開2011-123024号公報(以下、「周知例2」という。)の段落【0013】ないし【0015】並びに図2及び図3の記載を参照されたい。
してみると、引用発明の「熱型センサアレイ」を構成する「センサ」を同一の半導体基板に形成するようにすることに格別の困難性はない。

(イ)相違点2について検討する。
a 上記周知例1(段落【0020】)及び周知例2(段落【0016】)並びに特開平4-158584号公報(3頁左上欄4行?4頁左上欄10行目、以下、「周知例3」という。)に記載されているように、「熱型センサアレイ」を構成する「センサ」を同一の半導体基板に形成するにあたって、赤外線検知部の熱拡散を防止するために、それぞれのセンサの熱電変換素子が形成される赤外線検知部分の周囲と半導体基板上に空間を形成することは周知の技術にすぎない。
b さらに、そのような赤外線検知部分の熱拡散を防止するために、赤外線検知部分の周囲に空間を形成するにあたり、当該空間を電極引き出し部分を除いて赤外線検知部分の周囲に形成することは、例えば、上記周知例3(5頁左下欄11行?右下欄8行)、特開平6-147970号公報(段落【0016】ないし【0018】及び図1、以下「周知例4」という。)や国際公開第2007/129547号(段落[0056]及び[0057]並びに図12ないし図14、以下「周知例5」という。)に記載されているように周知の技術に過ぎないし、また、スリットの形状に関しては、周知例3において、赤外線検出部の外周の部分的な支持部は、出来るだけ狭く形成個所も少ないほうが、赤外線検出部と基板との熱分離が良好に行えるが、赤外線検出部の支持強度や赤外線検出部への配線設置スペース等も考慮して設定される」ものであることが示されていること、また、周知例4及び5には、コ字形状のスリットが示されているように、センサの赤外線検知部分の周囲に、その熱拡散を防止するためのスリットをコ字形状に形成することは、当業者が、赤外線検出部の支持強度や配線設置スペース等を考慮して適宜なし得る程度のものにすぎない。
c そして、上記周知例1ないし5のいずれにおいても、支持部を介して赤外線検出部から基板へと熱電変換素子からの配線を引き出すようにしていること、特に周知例2において、サーモパイルを用いたものにおいては、その温接点と冷接点とが支持部を通じて赤外線検知部と基板に位置するよう配置されていることに鑑みれば、そのような場合には、必然的に熱電変換素子の端部を挟んでコ字形状のスリットが形成されることとなることは明らかである。
d 以上のとおりであるから、引用発明において、「熱型センサ」を上記相違点2に係る本件補正発明の構成のようにすることは、当業者が適宜なし得る程度のことにすぎない

(ウ)本件補正発明の効果について
本件補正発明の効果についても、引用例及び周知技術から予測し得る程度のものであって格別のものとはいえない。

カ 請求人の主張について
(ア)請求人は、引用発明に関して「引用文献1(当審注:引用例のこと、以下同じ)は熱型アレイセンサに熱電変換素子を用いることが開示されておりません。このため、引用文献1は本願発明とは異なる構造であり、また、本願発明の様に熱電変換素子の端部をスリットで挟み検出感度を向上させることを動機づけも生じえません。」と主張する。
しかしながら、引用例の段落【0013】には、「本実施例で使用される熱型センサの定義に関して言えば、赤外線を熱としてとらえ、その強度に応じて電圧を出力する赤外線センサの一種であって、複数のセンサがアレイ上に一体的に配置されたものが熱型アレイセンサであり、サーモパイル等で構成された2次元センサも含まれる。」と記載されており、熱電変換素子を用いるものであることは明らかであること、そして、上記で検討したように、熱型センサの赤外線検出部の周囲にスリットを形成し、赤外線検出部の熱拡散を防止することにより感度を向上させることができることが周知技術であったことに鑑みれば、引用発明において、そのようなスリットを採用することには、十分動機付けがあるものといえる。
(イ)請求人は、本件補正発明の効果に関して、審判請求書でつぎのように主張している。
「本願発明の特徴であるコ字形状のスリットを設けスリットの端部で熱電変換素子の端部を挟み、熱電変換素子12から温度変化を周囲に伝達することを防ぎ、かつ、小型化し、さらに温接点と冷接点との間の温度差を大きくすることにより感度を向上させることは示唆も開示もないものであります。」
しかしながら、上記で検討したように、スリットにより、熱電変換素子12から温度変化を周囲に伝達することを防ぐことができることが周知技術に過ぎないし、当該熱分離を行うことにより隣接するセンサ同士の熱干渉を防ぐことができる結果小型化できることも予測し得る程度の効果にすぎない。
そして、本件補正発明において、熱電変換素子が温接点と冷接点を備えるものであることは特定されていないから、請求人の主張する「温接点と冷接点との間の温度差を大きくすることにより感度を向上させる」とする効果は、特許請求の範囲の記載に基づくものではない。

キ 小括
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(3)独立特許要件の検討についてのまとめ
上記(1)で検討したように、本件補正発明は明確でないから、本件補正後の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしておらず、また、そうでないとしても上記(2)で検討したように、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。

3 補正の却下の決定のまとめ
以上のとおり、本件補正発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるということはできないから、本件補正は、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであって、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記第2の補正の却下の決定により、本件補正(平成28年2月16日にされたもの)は却下された。
したがって、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成27年7月15日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2の1(1)に説示したとおりのものである。

2 引用例及び引用例に記載された発明について
引用例に記載の事項は上記第2の2(2)イに摘示したとおりであり、引用発明は、同ウで認定したとおりのものである。

3 対比・判断
(1)本願発明と引用発明の対比
本願発明は、前記第2の2で検討した本件補正発明の「半導体基板」の「熱電変換素子の周り」に設けられる「スリット」が「複数のコ字形状」であって、「スリットの端部は前記熱電変換素子の端部から離れる方向に延びている」と特定されていたものを、単に「スリット」が「半導体基板」の「熱電変換素子の周りに」設けられているものと特定されるものである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、上記第2の2(2)エ(オ)の<一致点>で一致し、同<相違点1>及び次の相違点3において相違する。

<相違点3>
本願発明の「検出部は、熱電変換素子が設けられた半導体基板を有し、前記半導体基板には前記熱電変換素子の周りにスリットが設けられている」ものであるのに対して、引用発明の「熱型センサ」がそのように特定されない点

(2)判断
相違点1は上記第2の2(2)オ(ア)で検討したとおりである。
相違点3について検討するに、上記第2の2(2)オ(イ)a及びbで検討したことに鑑みれば、引用発明の「熱型センサ」を、相違点3に係る本願発明の構成のようにすることは、周知技術に基づいて当業者が容易になし得る程度のことであるといえる。
そして、本願発明の効果は、引用例及び周知技術に基づいて当業者が予測し得る程度のものであって格別のものとは認められない。

4 小括
以上検討したように、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-19 
結審通知日 2016-08-23 
審決日 2016-09-05 
出願番号 特願2011-191356(P2011-191356)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (G01J)
P 1 8・ 121- Z (G01J)
P 1 8・ 575- Z (G01J)
P 1 8・ 537- Z (G01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 龍松谷 洋平  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 渡戸 正義
尾崎 淳史
発明の名称 対象識別装置  
代理人 伊藤 正和  

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