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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1320685
審判番号 不服2014-17904  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-08 
確定日 2016-10-19 
事件の表示 特願2011- 50366「III族窒化物半導体本体のインシチュドーパント注入及び成長」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月29日出願公開,特開2011-192993〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成23年3月8日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2010年3月16日,米国)を出願日とする特許出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成23年 3月 9日 審査請求
平成25年 3月26日 拒絶理由通知
平成25年10月 2日 意見書・手続補正書
平成26年 4月23日 拒絶査定
平成26年 9月 8日 審判請求・手続補正書
平成27年 2月16日 上申書
平成27年10月22日 拒絶理由通知
平成28年 3月25日 意見書・手続補正書

第2 当審による拒絶理由通知の概要
審判合議体が平成27年10月22日付けで通知した拒絶理由通知(以下「当審拒絶理由通知」という。)における,特許法第29条第2項の判断(本願に係る発明の容易想到性の判断)の概要は次のとおりである。
平成26年9月8日付け手続補正書により補正された,本願の特許請求の範囲の請求項8ないし20の各請求項に係る発明は,米国特許出願公開第2008/0315129号明細書(以下「引用文献1」という。)記載の発明において,特開2009-266981号公報(以下「引用文献2」という。)及び特開2009-130106号公報(以下「引用文献3」という。)にみられるような周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであるから,上記手続補正書により補正された,本願の特許請求の範囲の請求項8ないし20の各請求項に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第3 本願発明の容易想到性について
1 本願発明
本願の請求項9に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成28年3月25日付け手続補正書により補正された,特許請求の範囲の請求項9に記載された次のとおりのものと認める。(当審注.平成28年3月25日付け手続補正書による補正で,補正前の請求項1ないし7が削除され,残された請求項8ないし20それぞれの番号が繰り上げられたため,補正後の請求項9は,補正前の請求項16が補正されたものである。)
「【請求項9】
III族窒化物半導体本体の成長中にインシチュドーパント注入を行うための複合III族窒化物処理チャンバであって,この複合III族窒化物処理チャンバが,
前記III族窒化物半導体本体を成長させるための成長室と,
この成長室と結合されたドーパント注入装置と
を具えており,
この複合III族窒化物処理チャンバは,
前記III族窒化物半導体本体の成長中に,前記III族窒化物半導体本体のドーパント注入が前記ドーパント注入装置により前記成長室においてインシチュ状態で実行されるように構成され,
前記III族窒化物半導体本体中に,少なくとも1つの空間的に規定されドーピングされた島を,200オングストロームよりも深い深さまで注入するために,1MeVよりも大きくすることが可能な注入エネルギーで前記インシチュドーパント注入が実行されるように構成されている複合III族窒化物処理チャンバ。」

2 引用文献及び周知例の記載と引用発明及び周知技術
(1)引用文献1の記載と引用発明
ア 引用文献1
当審拒絶理由通知で引用された,本願の優先権主張の日(以下「本願優先日」という。)前に米国内において頒布された刊行物である引用文献1には,図面とともに,次の記載がある。(当審注.下線は当審において付加した。以下同じ。なお,訳は当審で作成した。)
(ア)「[0002] The present invention relates to semiconductor device fabrication and more particularly to III-nitride device fabrication.
・・・
[0012] In a method according to the present invention, low energies are preferred for implanting. Thus, energies less than tens of KeV (e.g. between 100 eV to tens of KeV) may be used with energies in the range of five to ten KeV being most preferred. Also, the implant beam can be as wide as 1/10 micron and not a few nm.」
(訳:[0002] 本発明は半導体装置の製造に関し,より詳細には,III族窒化物半導体装置の製造に関するものである。
・・・
[0012] 本発明の方法では,注入には,低いエネルギーが好ましい。数十keV未満(例えば100eVから数十keVの間)のエネルギーが使用され,5ないし10keVの範囲が最も好ましい。また,イオン注入ビームの幅は,数nmだけでなく,1/10μmとすることができる。)
(イ)「[0014] Referring to FIG. 1, an apparatus for the practice of a method according to the present invention includes a reactor chamber 10 for receiving a substrate 12 (e.g. silicon substrate, SiC substrate, III-nitride (e.g. GaN) substrate, sapphire substrate or the like), and an implanter chamber 14. Note that reactor chamber 10 may house also a rotating platform 16 on which substrate 12 is placed, and includes an intake port 18 to allow for the entry of a reactant gas and an output port 20 for the exit of reactant gas.
[0015] Disposed within implanter chamber 14 is an ion implanter 22 in communication with reactor chamber 10 through an ion path 24, which is the path along which ions travel from the implanter 22 into reactor chamber 10.」
(訳:[0014] 図1を参照すると,本発明による方法を実施するための装置は,基板12(例えば,シリコン基板,SiC基板,III族窒化物(例えば,GaN)基板,サファイア基板など)を受容するための反応チャンバ10と,注入チャンバ14を含んでいる。反応チェンバ10はさらに,基板12を載置する回転プラットフォーム16を収容してもよいし,反応ガスの出口のための反応ガスと出力ポート20のエントリを可能にするために吸気ポート18が含まれている。
[0015] イオン通路24を通じて反応チャンバ10と連通する注入チャンバ14内には,イオン注入装置22が配置されており,イオン通路24は,イオンがイオン注入装置22から反応室10内へイオンが進行する経路となる。)
(ウ)「[0020] According to an embodiment of the present invention, a suitable substrate 12 (e.g. a silicon substrate) is placed on platform 16 inside reactor chamber 10. Reactant gas is then fed through intake port 18, and thermal conditions are set for the growth of a III-nitride body such as GaN, AlN, or the like. In addition, through differential pumping, subchambers 14’, 14”, 14''' are evacuated until a suitable, near vacuum condition is obtained inside implanter chamber 14. ・・・
[0021] Once proper pressure is established in implanter chamber 14, any desired species may be implanted into the III-nitride body as it is being grown layer by layer. Thus, N-type dopants such as Si and P-type dopants such as Mg may be implanted.
[0022] According to one aspect of the present invention, to implant dopants, energies less than tens of keV (e.g. between 100 eV to tens of keV) are used for implantation.・・・
[0023] Moreover, the implant beam can be as wide as 1/10 microns wide not just a few nm. ・・・The low energies are used in order to implant the dopants near the surface during the growth process (e.g. 50-200 Å depth) into the grown “III-nitride body. ・・・」
(訳:[0020] 本願実施例によれば,反応チャンバ10内の台座16には,適切な基板12(例えばシリコン基板)が載置される。そして,吸気ポート18を介して供給される反応ガスや,熱的条件は,GaN,AlN等のIII族窒化物本体の成長のために設定されている。しかも差動排気によって,適切な,真空に近い状態が注入チャンバ14内で得られるまで,サブチャンバ14’,14’’,14’’’は,排気される。・・・
[0021] 注入チャンバ14内に適切な圧力が設定されると,III族窒化物本体を一層ずつ成長させながら,任意の所望の化学種をIII族窒化物本体に注入することができる。Siのようなn型ドーパント,Mg等のp型ドーパントをイオン注入してもよい。
[0022] 本発明の一態様によれば,ドーパントを注入するために,数十keV未満(例えば100eVから数十keVの間)のエネルギーが注入に用いられる。・・・
[0023] さらに,イオン注入ビームの幅は,数nmだけでなく,1/10μmとすることができる。・・・低いエネルギーは,成長プロセス中にドーパントを表面付近(例えば50ないし200Åの深さ)に注入し,成長したIII族窒化物本体内にドーパントを注入するために使用される。・・・)
(エ)「[0029] Although the present invention has been described in relation to particular embodiments thereof, many other variations and modifications and other uses will become apparent to those skilled in the art. It is preferred, therefore, that the present invention be limited not by the specific disclosure herein, but only by the appended claims.
What is claimed is:
・・・
11. An apparatus for fabrication of a III-nitride semiconductor body, comprising: a reactor chamber to receive a substrate and reactant gas to grow a III-nitride body on said substrate; an implanter disposed in an implanter chamber that is in communication with said reactor chamber to implant ions into said III-nitride body during the growth of said III-nitride body; and at least one pump coupled to said implanter chamber configured to create a near vacuum condition in said implanter chamber. 」
(訳:[0029] 本発明をその特定の実施形態に関して説明してきたが,多くの他の変形および修正,及び他の使用は当業者には明らかになるであろう。したがって,本発明は,ここでの特定の開示によってでなく,添付の特許請求の範囲によって限定されることが好ましい。
特許請求の範囲
・・・
11. III族窒化物半導体本体の形成のための装置であって,基板と上記基板上にIII族窒化物本体を成長させるための反応ガスとを受容する反応チャンバと,上記III族窒化物本体の成長中,上記III族窒化物本体にイオンを注入するために上記反応チャンバと連通する注入チャンバ内に配置された,イオン注入装置と,前記注入チャンバ内に真空に近い状態を設定するように構成された上記注入チャンバに結合された少なくとも1つのポンプとからなる装置。)
イ 引用発明
上記アより,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「III族窒化物半導体装置を製造するための装置であって,
基板と上記基板上にIII族窒化物本体を成長させるための反応ガスとを受容する反応チャンバと,
上記反応チャンバと連通し,ドーパントを注入するイオン注入装置が配置された注入チャンバとを含み,
上記反応チャンバで上記III族窒化物本体を一層ずつ成長させながら,上記ドーパントを上記III族窒化物本体に注入することができる,装置。」

(2)引用文献2及び3,並びに周知例の記載と引用発明,周知技術及び常套手段
ア 引用文献2及び3,並びに周知例の記載
(ア)引用文献2
当審拒絶理由通知で引用された,本願優先日前に日本国内において頒布された刊行物である引用文献2には,図面とともに,次の記載がある。
「【0019】
実施例1では,図1にセルの要部断面図を示すAlGaN製トレンチゲート型MOSFETについて説明する。ソース電極は第1金属電極であるソースコンタクト電極23a,第2金属電極であるボディーコンタクト電極23b,上層のチタン,窒化チタン,アルミニウムなどの積層膜からなるトップ電極23cとに分けられている。これらの積層金属膜全体で,通常のソース電極と同様の機能を発揮するものである。
ボディーコンタクト領域7はp型に対してオーム性接触を得やすくするため,たとえばマグネシウムと酸素を同時ドープすることにより,高ドープの表面密度を有する領域とすること,および/または,たとえばアルミニウム組成を成長方向に変化させることにより,量子井戸構造とすることができる。n型のソースコンタクト領域6aとn型のソース拡張領域6bは,たとえばシリコンをイオン注入して形成する。
n型のソースコンタクト領域6aは,たとえば深さが0.3μmで,原子密度がたとえば2×10^(20)cm^(-3)のボックスプロファイルであり,n型のソース拡張領域6bは,トレンチ10aの底面からの深さがたとえば0.9μmで,原子密度がたとえば5×10^(18)cm^(-3)のボックスプロファイルとなるようにする。本実施例1においては,ゲート電極12と層間絶縁膜21をエッチバックするための製造余裕が足りないので,一般的ではないMeV級イオン注入装置を用いて,シリコンを0.9μm程度の深さまでイオン注入する。
【0020】
基板1は,AlGaN(AlNとGaNとの混晶)等の自立基板であってもよいし,たとえばSiのようにAlGaN等をヘテロエピタキシャル成長できるものであってもよい。・・・
・・・
このAlGaN製トレンチゲート型MOSFETの製造方法を,図2?図8と前記図1を参照して,順を追って説明する。まず,図2に示すように,Si基板1の上に,耐圧層3,ボディー層5-1,ボディーコンタクト層7-1を順にAlGaNのヘテロエピタキシャル成長によりそれぞれ成膜する。AlGaNの組成(AlNとGaNの比率)は,すべての層で同じであってもよいし,異なるものであってもよいが,以下では簡単のため,量子井戸構造を含むボディーコンタクト層7-1を除き,すべての層がGaN層であるとして説明を続ける。
・・・
【0023】
続いて,図5に示すように,第1マスク106aと側壁保護膜107cをマスクとして,たとえばシリコンをボディー層5-1の表面にイオン注入する。次に,ウエハの全面に,熱処理を行う際に,表面荒れあるいは半導体表面の組成変化が問題となるのであれば,熱処理に先立って,シリコン酸化膜などの第2絶縁膜とGaN層とに対して選別してエッチング除去できる窒化珪素などのキャップ材料を成膜した後,たとえば窒素雰囲気にて1300℃で熱処理を行って,イオン注入したシリコンを活性化させることにより,ソースコンタクト領域6aとソース拡張領域6bを形成する。」
(イ)引用文献3
当審拒絶理由通知で引用された,本願優先日前に日本国内において頒布された刊行物である引用文献3には,図面とともに,次の記載がある。
・「【0028】
ここで,1つのn型エピタキシャル層13Xの水平方向の1箇所に対するn型不純物の複数回のイオン注入は,注入エネルギを異ならせて行う。例えばイオン注入装置の加速電圧を,深い位置(n型エピタキシャル層13Aでいえば拡散領域15A1)に注入する場合には高く,浅い位置に注入する場合は低くすることにより行うことができる。例えば,4.0?10.0μm程度の厚さのn型エピタキシャル層13Xの場合,各拡散領域15Xの種となる不純物を注入するイオン注入装置の加速電圧を,下記のように変化させる(括弧内の数字はn型エピタキシャル層13X表面からの注入深さを示す)。
【0029】
拡散領域15X1:5MeV(3.2μm)
拡散領域15X2:2.1MeV(1.7μm)
拡散領域15X3:120keV(0.2μm)・・・」
・「【0038】
また,実施の形態において半導体材料としてシリコンを用いたMOSFETを説明したが,半導体材料としては,例えばシリコンカーバイト(SiC)や窒化ガリウム(GaN)等の化合物半導体やダイヤモンドなどのワイドバンドギャップ半導体を用いることができる。・・・」
(ウ)周知例1
本願優先日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2005-183668号公報(以下「周知例1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
「【0022】
<実施例1>
本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
【0023】
図1にMOCVD法やVPE法で成長させた窒化物系化合物半導体の試料の構造を模式的に示す。この試料は,サファイア基板12上に,窒化物系化合物半導体としてGaN層11を形成したものである。
【0024】
窒化物系化合物半導体のキャリア密度や導電率を制御するためドーピングするが,ここではn型導電性にするために,シリコンや酸素イオンを主に用いた。すなわち,上記試料を被注入試料25として,その化合物半導体のGaN層11を,図2に示すイオン打ち込み装置を使ってドーピングした。イオン打ち込み時は真空中で行った。イオン源21から出たシリコンや酸素イオンは,まず質量分析器22でシリコンや酸素イオンのみを取り出して,加速器23で1MeVにまで加速した。その後,ドーピングしたい被注入試料25に打ち込んだ。その際,イオンビームの走査系24でドーピングしたい領域のみを走査することでドーピング領域と非ドーピング領域とを区別した。
・・・
【0028】
この後,同様にp型の導電性にする場合は,マグネシウムや水素などのイオンをp型の導電性を持たせるために使用した。このマグネシウムや水素イオンを打ち込む場合は,加速するエネルギーを低くして加速し,被注入試料に打ち込んだ。これによりn型よりは表面に近い場所をp型にすることができた。この後,n型の導電性を得た場合と同様な熱処理を行うことで,p型の導電性が得られた。
【0029】
<実施例2>
上記実施例1において,イオン打ち込み時の加速電圧,イオンのドーズ量,打ち込み時の基板温度を変化させた。これにより,キャリア密度,膜厚方向の不純物分布を変化させる事ができた。」
(エ)周知例2
本願優先日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2001-352065号公報(以下「周知例2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
・「【0026】(実施形態1)実施形態1では,本発明の電界効果トランジスタの一例について説明する。実施形態1の電界効果トランジスタ10(以下,FET10という場合がある)の断面図を図1(a)に示す。
【0027】図1(a)を参照して,FET10は,n形の基板11と,基板11上に形成されたn形半導体層12と,n形半導体層12上に形成されたp形半導体層13(ハッチングは省略する)とを備える。さらに,FET10は,n形半導体層12中に埋め込まれたp形領域14と,n形半導体層12およびp形半導体層13に埋め込まれたn形領域15と,p形半導体層13の表面側に配置されたn形ソース領域16と,p形半導体層13上に配置された絶縁層(ゲート絶縁層)17と,絶縁層17上に配置されたゲート電極18と,ソース電極19およびドレイン電極20とを備える。そして,n形半導体層12,p形半導体層13およびp形領域14は,バンドギャップEgが2eV以上(好ましくは,2.5≦Eg)のワイドギャップ半導体からなる。ワイドギャップ半導体には,たとえば炭化珪素(SiC)を用いることができる。また,Ga,InおよびAlから選ばれる少なくとも1つの元素と,窒素とを含む3族窒化物系化合物半導体(たとえば,GaN)を用いることもできる。」
・「【0054】(実施形態4)実施形態4では,本発明の電界効果トランジスタの製造方法について,一例を説明する。
【0055】実施形態4の製造方法について,製造工程を図5に示す。実施形態4の製造方法では,まず,図5(a)に示すように,n形の基板11上にn形半導体層12を形成する(第1の工程)。そして,n形半導体層12の一部にボロンなどの不純物をドーピングすることによって,n形半導体層12の表面から内部にかけてp形領域14を形成する(第2の工程)。基板11には,実施形態1で説明した基板を用いることができ,たとえば,(0001)Si面で劈開されたn^(+)形α-SiC基板を用いることができる。n形半導体層12は,CVD法,近接法,またはMBE法などによって,n形の半導体層を基板11上にエピタキシャル成長させることによって形成できる。n形半導体層12は薄いため,n形半導体層12およびp形領域14の形成のためにエピタキシャル成長とイオン打ち込みとを複数回繰り返すことは必要とされない。
【0056】その後,図5(b)に示すように,n形半導体層12上にp形半導体層13を形成する(第3の工程)。p形半導体層13は,n形半導体層12と同様の方法でエピタキシャル成長させることができる。
【0057】その後,図5(c)に示すように,p形半導体層13の一部にリンや窒素などの不純物をドーピングすることによって,p形半導体層13を貫通しn形半導体層12に達するn形領域15と,p形半導体層13の表面部分であってn形領域15の周囲に配置されたn形ソース領域16とを形成する(第4の工程)。
・・・
【0059】なお,上記工程において,不純物のドーピングは,たとえばイオン打ち込みによって行うことができる。イオン打ち込みで不純物のドーピングを行う場合には,以下のように行うことが好ましい。
【0060】すなわち,イオン打ち込みは,イオン打ち込みのエネルギーが1keV?10MeVの範囲内で行われることが好ましい(以下の実施形態においても同様である)。上記範囲であれば,通常のイオン打ち込み装置を用いることができ,10nm?数μm程度の深さの不純物領域を容易に形成できる。・・・」
イ 周知技術及び常套手段
上記アより,III族窒化物半導体本体へドーパントを注入する際に,1MeVよりも大きい注入エネルギーを用いてドーパント注入を実行することは,引用文献2及び3,並びに周知例1及び2にみられるように,本願優先日前,当該技術分野では周知の技術と認められる。
また,上記アより,III族窒化物半導体本体へドーパントを注入する際に,1MeVよりも大きくすることが可能な注入エネルギーでのドーパント注入が実行されるように構成されたイオン注入装置,すなわち,1MeVよりも大きい注入エネルギーを用いて実行する場合と,1MeV以下の大きさの注入エネルギーを用いて実行する場合の両方を含むドーパント注入が実行されるように構成されたイオン注入装置を用いることは,引用文献3,並びに周知例1及び2にみられるように,本願優先日前,当該技術分野では常套手段と認められる。

3 本願発明と引用発明との対比
(1)対比
ア 引用発明における「III族窒化物本体」は,本願発明の「III族窒化物半導体本体」に相当するということができ,引用発明における「基板と上記基板上にIII族窒化物本体を成長させるための反応ガスとを受容する反応チャンバ」は,本願発明の「前記III族窒化物半導体本体を成長させるための成長室」に相当するといえる。
また,引用発明における「上記反応チャンバと連通し,ドーパントを注入するイオン注入装置が配置された注入チャンバ」は,III族窒化物半導体本体のドーパント注入に関する後述する相違点に係る構成を除き,本願発明の「この成長室と結合されたドーパント注入装置」に相当するといえる。
イ 「インシチュ(in situ)」との用語は,「その場」という意味で用いられ,半導体製造技術の分野においては,製造プロセスが起こっている場所を意味すると解されることは,技術常識である。
してみれば,本願発明の「前記III族窒化物半導体本体のドーパント注入が前記ドーパント注入装置により前記成長室においてインシチュ状態で実行される」とは,上記技術常識を参酌すれば,「III族窒化物半導体本体」を成長させるプロセスが起こっている場所で,すなわち「成長室」で,「III族窒化物半導体本体」のドーパント注入が「ドーパント注入装置」により実行されることを意味すると解され,このことは,本願明細書の記載によっても裏付けられる。
そして,引用発明における「上記反応チャンバで上記III族窒化物本体を一層ずつ成長させながら,上記ドーパントを上記III族窒化物本体に注入することができる」より,引用発明は,「III族窒化物本体」を成長させるプロセスが起こっている場所で,すなわち「反応チャンバ」で,ドーパントを「III族窒化物本体」に注入することができるといえるから,上記技術常識を参酌すれば,引用発明は,「反応チャンバ」においてインシチュ状態で,ドーパントを「III族窒化物本体」に注入することができるものと認められる。
そうすると,引用発明における「上記反応チャンバで上記III族窒化物本体を一層ずつ成長させながら,上記ドーパントを上記III族窒化物本体に注入することができる」ことは,III族窒化物半導体本体のドーパント注入に関する後述する相違点に係る構成を除き,本願発明の「前記III族窒化物半導体本体の成長中に,前記III族窒化物半導体本体のドーパント注入が前記ドーパント注入装置により前記成長室においてインシチュ状態で実行されるように構成され」ていることに相当するといえる。
ウ 引用発明における「上記反応チャンバで上記III族窒化物本体を一層ずつ成長させながら,上記ドーパントを上記III族窒化物本体に注入することができる」との構成より,引用発明における「III族窒化物半導体装置を製造するための装置」は,「III族窒化物本体」の成長中にドーパント注入を行うようにしたものと認められる。
また,上記イのとおり,引用発明は,「反応チャンバ」においてインシチュ状態で,ドーパントを「III族窒化物本体」に注入することができるものと認められるから,引用発明におけるドーパント注入は「インシチュドーパント注入」と称することができる。
そして,引用発明における「III族窒化物半導体装置を製造するための装置」は,「基板と上記基板上にIII族窒化物本体を成長させるための反応ガスとを受容する反応チャンバ」に,「ドーパントを注入するイオン注入装置が配置された注入チャンバ」が連通して構成されたものであるから,それぞれ「III族窒化物本体」を処理する「反応チャンバ」と「注入チャンバ」とが複合された構成を備えるということができる。
そうすると,引用発明における「III族窒化物半導体装置を製造するための装置」は,III族窒化物半導体本体のドーパント注入に関する後述する相違点に係る構成を除き,本願発明の「III族窒化物半導体本体の成長中にインシチュドーパント注入を行うための複合III族窒化物処理チャンバ」に相当するといえる。

(2)一致点及び相違点
上記(1)から,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,それぞれ以下のとおりであると認められる。
ア 一致点
「III族窒化物半導体本体の成長中にインシチュドーパント注入を行うための複合III族窒化物処理チャンバであって,この複合III族窒化物処理チャンバが,
前記III族窒化物半導体本体を成長させるための成長室と,
この成長室と結合されたドーパント注入装置と
を具えており,
この複合III族窒化物処理チャンバは,
前記III族窒化物半導体本体の成長中に,前記III族窒化物半導体本体のドーパント注入が前記ドーパント注入装置により前記成長室においてインシチュ状態で実行されるように構成されている複合III族窒化物処理チャンバ。」
イ 相違点
本願発明は,「前記III族窒化物半導体本体中に,少なくとも1つの空間的に規定されドーピングされた島を,200オングストロームよりも深い深さまで注入するために,1MeVよりも大きくすることが可能な注入エネルギーで前記インシチュドーパント注入が実行されるように構成され」ているのに対し,引用発明では,「注入チャンバ」について,上記のような特定は明示されていない点。

4 相違点についての検討
上記2(1)ア(ア)及び(ウ)によれば,引用発明におけるドーパントをIII族窒化物本体に注入することについて,引用文献1には,「[0012] In a method according to the present invention, low energies are preferred for implanting. Thus, energies less than tens of KeV (e.g. between 100 eV to tens of KeV) may be used with energies in the range of five to ten KeV being most preferred. Also, the implant beam can be as wide as 1/10 micron and not a few nm.」(訳:[0012] 本発明の方法では,注入には,低いエネルギーが好ましい。数十keV未満(例えば100eVから数十keVの間)のエネルギーが使用され,5ないし10keVの範囲が最も好ましい。」との記載,及び「[0022] According to one aspect of the present invention, to implant dopants, energies less than tens of keV (e.g. between 100 eV to tens of keV) are used for implantation.・・・ [0023]・・・The low energies are used in order to implant the dopants near the surface during the growth process (e.g. 50-200 Å depth) into the grown “III-nitride body. ・・・」([0022] 本発明の一態様によれば,ドーパントを注入するために,注入に用いられる数十keV未満(例えば100eVから数十keVの間)のエネルギーである。・・・[0023]・・・低いエネルギーは,成長プロセス中にドーパントを表面付近(例えば50ないし200Åの深さ)に注入し,成長したIII族窒化物本体内にドーパントを注入するために使用される。・・・)との記載がある。
しかし,引用文献1の上記の記載からは,ドーパントをIII族窒化物本体に注入する際に,数十keV未満(例えば100eVから数十keVの間,最も好ましくは5ないし10keVの範囲)の低い注入エネルギーを使用することにより,ドーパントをIII族窒化物本体の表面付近に注入することができ,その際に,注入深さが例えば50ないし200オングストロームとなることが記載されていると認められるにとどまり,ドーパントの注入深さを200オングストローム以下とするために,上記の範囲の注入エネルギーを使用するようにしたことが記載されているとまでは認められない。
そうすると,引用文献1の記載より,引用発明は,ドーパントをIII族窒化物本体に注入する際に,ドーパントの注入深さを200オングストローム以下とするために,使用する注入エネルギーを数十keV未満としたものに限定されるとは認められず,また,引用発明において,製造するIII族窒化物半導体装置の構成によっては,ドーパントを200オングストロームよりも深い深さまで注入することが必要となることは明らかであるから,引用発明において,ドーパントをIII族窒化物本体に注入する際に,200オングストロームよりも深い深さまで注入するために,使用する注入エネルギーを選択することは,製造するIII族窒化物半導体装置の構成に応じて,当業者が当然に行い得るものと認められる。
そして,上記2(2)イのとおり,III族窒化物半導体本体へドーパントを注入する際に,1MeVよりも大きい注入エネルギーを用いてドーパント注入を実行することは,本願優先日前,当該技術分野では周知の技術であり,また,III族窒化物半導体本体へドーパントを注入する際に,1MeVよりも大きくすることが可能な注入エネルギーでのドーパント注入が実行されるように構成されたイオン注入装置,すなわち,1MeVよりも大きい注入エネルギーを用いて実行する場合と,1MeV以下の大きさの注入エネルギーを用いて実行する場合の両方を含むドーパント注入が実行されるように構成されたイオン注入装置を用いることは,本願優先日前,当該技術分野では常套手段であるから,引用発明において,注入チャンバに配置された,ドーパントを注入するイオン注入装置として,III族窒化物本体へのドーパントの注入を,1MeVよりも大きくすることが可能な注入エネルギーでのドーパント注入が実行されるように構成されたイオン注入装置を用いることは,上記周知技術及び上記常套手段に接した当業者が,普通に行い得るものといえる。
さらに,上記2(1)ア(ア)及び(ウ)によれば,引用発明において,ドーパントをIII族窒化物本体に注入する際に使用するイオン注入ビームについて,引用文献1には,「[0012]・・・Also, the implant beam can be as wide as 1/10 micron and not a few nm.」(訳:[0012]・・・また,イオン注入ビームの幅は,数nmだけでなく,1/10μmとすることができる。)との記載,及び「[0023] Moreover, the implant beam can be as wide as 1/10 microns wide not just a few nm. ・・・」(訳:[0023] さらに,イオン注入ビームの幅は,数nmだけでなく,1/10μmとすることができる。)との記載があり,これらの記載より,引用発明において,注入チャンバに配置されたイオン注入装置でドーパントをIII族窒化物本体に注入することにより,III族窒化物本体には,少なくとも1つの空間的に規定されドーピングされた島が形成されると認められる。
以上から,引用発明において,本願発明のように,「前記III族窒化物半導体本体中に,少なくとも1つの空間的に規定されドーピングされた島を,200オングストロームよりも深い深さまで注入するために,1MeVよりも大きくすることが可能な注入エネルギーで前記インシチュドーパント注入が実行されるように構成」すること(相違点に係る構成とすること)は,上記周知技術及び上記常套手段に接した当業者が,普通に行い得るものである。

5 本願発明の作用効果について
本願明細書の記載より,本願発明は,「ドーパント注入をIII族窒化物半導体本体の成長環境に対しインシチュ状態で実行した場合に,ドーパントの注入によりIII族窒化物半導体材料の構造又は化学量論を損なうことなしに,III族窒化物半導体本体内に空間的に規定した領域を選択的にドーピングすることができることを実現した。」(【0010】)との作用効果を奏するものと認められる。
他方,上記2(1)のとおり,引用発明は,「上記反応チャンバで上記III族窒化物本体を一層ずつ成長させながら,上記ドーパントを上記III族窒化物本体に注入する」との構成を備え,上記3(1)のとおり,当該構成は,本願発明の「前記III族窒化物半導体本体の成長中に,前記III族窒化物半導体本体のドーパント注入が前記ドーパント注入装置により前記成長室においてインシチュ状態で実行されるように構成され」ていることに相当するといえる。
そうすると,引用発明も,「ドーパント注入をIII族窒化物半導体本体の成長環境に対しインシチュ状態で実行した」ものであり,それによって,「ドーパントの注入によりIII族窒化物半導体材料の構造又は化学量論を損なうことなしに,III族窒化物半導体本体内に空間的に規定した領域を選択的にドーピングすることができる」との作用効果を奏すると認められる。
以上から,本願発明と引用発明との間に,作用効果上,格別の相違があるとは認められない。

6 小括
したがって,本願の請求項9に係る発明(本願発明)は,引用文献1記載の発明(引用発明),引用文献2及び3と周知例1及び2にみられるような周知技術,並びに引用文献3と周知例1及び2にみられるような常套手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。

第4 結言

以上検討したとおり,本願の請求項9に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-23 
結審通知日 2016-05-24 
審決日 2016-06-09 
出願番号 特願2011-50366(P2011-50366)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 正山 旭  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 加藤 浩一
河口 雅英
発明の名称 III族窒化物半導体本体のインシチュドーパント注入及び成長  
代理人 杉村 憲司  

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