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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B61D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B61D
管理番号 1320781
審判番号 不服2015-19713  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-02 
確定日 2016-10-21 
事件の表示 特願2013-531212号「車両用ドア装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 3月 7日国際公開、WO2013/031553〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)8月17日(優先権主張 平成23年8月30日)を国際出願日とする出願であって、平成26年11月17日付けで拒絶理由が通知され、平成27年1月22日に意見書及び手続補正書が提出され、平成27年7月30日付けで拒絶査定がされ、平成27年11月2日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成28年6月7日に上申書が提出されたものである。

第2 平成27年11月2日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年11月2日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成27年11月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についての補正を含むものであって、補正前の請求項1と、補正後の請求項1の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。
(補正前の請求項1)
「車両に設置される車両用ドア装置であって、
一対で設けられ、前記車両の側壁に沿って当該車両の前後方向に移動して前記車両の乗降口を開閉可能な両引きの引き分け式のドアと、
前記ドアの上方及び下方のうちの一方に設置されて、前記ドアを開閉駆動するドア開閉駆動機構と、
前記ドア開閉駆動機構の作動に伴って、前記ドアを前記車両の幅方向である車幅方向に移動させるように案内する車幅方向案内機構と、
それぞれが、各前記ドアに対応し且つ前記ドアの上下方向における同じ高さに設けられ、前記ドアが全閉位置の状態において、各前記ドアの開方向における端部側である戸尻側で各前記ドアを前記車幅方向における外側及び当該ドアの閉方向に向かって押圧する少なくとも一対の第1の押圧機構と、
を備えていることを特徴とする、車両用ドア装置。」

(補正後の請求項1)
「車両に設置される車両用ドア装置であって、
一対で設けられ、前記車両の側壁に沿って当該車両の前後方向に移動して前記車両の乗降口を開閉可能な両引きの引き分け式のドアと、
前記ドアの上方及び下方のうちの一方に設置されて、前記ドアを開閉駆動するドア開閉駆動機構と、
前記一方に設置されて、前記ドア開閉駆動機構の作動に伴って、前記ドアを前記車両の幅方向である車幅方向に移動させるように案内する車幅方向案内機構と、
それぞれが、各前記ドアに対応し且つ前記ドアの上下方向における同じ高さに設けられ、前記ドアが全閉位置の状態において、各前記ドアの開方向における端部側である戸尻側で各前記ドアを前記車幅方向における外側及び当該ドアの閉方向に向かって押圧する少なくとも一対の第1の押圧機構と、
を備え、
前記一対の第1の押圧機構は、上下方向に複数設けられて、これら複数の一対の第1の押圧機構は、全体として、前記ドアの上方及び下方のうちの他方に偏るように設置されていることを特徴とする、車両用ドア装置。」

2 補正の適否
(1)新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否について
上記補正において、「車幅方向案内機構」が「前記一方に設置されて、」という事項は、出願当初の明細書の段落【0028】、【0040】の記載に基いて、その設置位置を特定するものであり、発明特定事項を限定するものであって新規事項を追加するものではない。
また、「前記一対の第1の押圧機構は、上下方向に複数設けられて、これら複数の一対の第1の押圧機構は、全体として、前記ドアの上方及び下方のうちの他方に偏るように設置され」という事項は、出願当初の明細書の段落【0014】、【0015】、【0046】、【0051】、【0052】及び【図4】の記載に基づき、「一対の第1の押圧機構」が「上下方向に複数」設けられていること、及び、その設置位置を特定するものであり、発明特定事項を限定するものであって新規事項を追加するものではない。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものであり、また、その補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲を減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下検討する。

(2)独立特許要件
ア 刊行物の記載事項並びに刊行物に記載された発明及び技術的事項
(ア)刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に「引用文献1」として示され、本願の優先日前に頒布された実願平3-35508号(実開平4-129370号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同様。)

a 「【請求項1】 車体出入口開口部の上下に配設されたレールに案内されて開閉する扉を備えた車両用引戸装置において、前記扉を戸閉位置で前記開口部の車体外方向に移動可能とし、開口部周縁に車体内側に向けてシール材を配設するとともに、前記戸閉位置で扉をシール材に押圧するカム機構を設けたことを特徴とする車両用引戸装置。」

b 「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、車両用引戸装置に関し、詳しくは鉄道車両の側出入口に設けられる引戸の気密性の向上と振動や騒音の低減を図れる車両用引戸装置に関する。」

c 「【0009】
引戸の扉1は、車体の長手方向に沿って開口部の上部に配設された直線状の上レール2と、該上レール2と平行に設けられて戸閉位置側が車体外側に屈曲した上部ガイド3と、開口下部に敷設された下レール4とに案内されるもので、図示しないドアエンジンにより開閉するように形成されている。」

d 「【0010】
扉1の上部は、その戸先部及び戸尻部のそれぞれが、上レールに沿って移動する戸吊車5,5と、上部ガイド3に沿って移動するガイドコロ6との間に設けられたガイド棒7に取付けられている。このガイド棒7は、ガイドコロ6側が固定され、戸吊車5側がベアリング部8を介して軸方向に移動可能に取り付けられている。すなわち、ガイドコロ6が上部ガイド3の屈曲部3aに進入したときに、該屈曲部3aの斜面(カム面)に案内されてガイドコロ6と共にガイド棒7が戸吊車側に移動し、これに伴い扉1も車体外側方向に移動するように形成されている。」

e 「【0013】
このように構成した引戸装置において、図1に示す開扉状態から扉1を閉じていくと、戸閉位置の直前で、上部ガイド3の屈曲部3aのカム作用により、前記ガイドコロ6を介して扉1の上部が外側に移動するとともに、扉1の戸先側下部が前記ガイドローラー9のカム作用により、また、扉1の戸尻側下部が前記カム面10とローラー11のカム作用により外側に移動する。」

(イ)刊行物1に記載された発明
a 上記(ア)の記載事項に加えて、【図3】の記載と車両の引戸装置の技術常識より、「扉1」は一対で設けられていること及び両開きの引き分け式のものであることが明らかである。

b 上記(ア)c、dと【図4】の記載より、上部ガイド3、上部ガイドコロ6及びガイド棒7は開口部の上部に設置されているといえる。

c 上記(ア)cより、上レール2は車体の長手方向に沿って配設されていることから、「扉1」は車体の長手方向に沿って移動して車両の側出入口を開閉可能とするものであることは明らかである。

d 以上のことから、刊行物1には、次の発明(以下、引用発明という。)が記載されているものと認める。
「車両に設置される車両用引戸装置であって、
一対で設けられ、車体の長手方向に沿って移動して前記車両の側出入口を開閉可能な両引きの引き分け式の扉1と、
前記扉1を開閉駆動するドアエンジンと、
開口部の上部に設置された、前記ドアエンジンの作動に伴って、前記扉1を開扉状態から閉じていくと、戸閉位置の直前で、上部ガイド3の屈曲部3aのカム作用により、前記ガイドコロ6を介して扉1の上部を外側に移動させる上部ガイド3、ガイドコロ6及びガイド棒7と、
を備えている、車両用引戸装置。」

(ウ)刊行物2の記載事項
原査定の拒絶の理由に「引用文献2」として示され、本願の優先日前に頒布された特開平11-139309号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。。
a 「【請求項1】
耐圧強化ドアが二枚扉として形成されており、ドア扉(3a、3b)の各々が、無固定の密閉縁部(4)の領域において、ドア扉(3a、3b)の高さの少なくとも80%にわたって延びる補強用形材(11)を備えていることを特徴とする鉄道車両用耐圧強化ドア。」

b 「【0015】
図1は、本発明によるドアを車両内側から見た図である。入口フレーム1には、ドア扉3a、3bの副次的閉鎖縁部の領域に本締装置2(引込装置)が備えられている。ドア扉3a、3bの主閉鎖縁部は、閉鎖された状態では、無固定の密閉縁部4を形成する。図1の記載では隠れているが、入口フレームを取り囲むようにパッキンが取り付けられており、副次的閉鎖縁部と、入口上部梁部と、底部に沿って、ドア扉3a、3bに対する入口フレーム1の密閉シールを行う。」

c 「【0022】
図1の線V-Vに沿った断面を示す図5からは、ドア扉の副次的閉鎖縁部の領域内の本締装置2が明らかである。このような本締装置2は、耐圧強化ドアの分野では公知であり、ここでは詳細な説明を省略する。この本締装置2は、通常は、閉鎖運動の終わり(開放運動の初めとは対照的に)において、ドア扉の運動方向に対してほぼ平行に延びる力を及ぼす。図面に示された実施例では、ドア扉の各々に対して、この種の2個の本締装置が備えられているが、当然のことながら、この種の本締装置を複数個ずつ、各副次的閉鎖縁部の領域に配置することも可能である。」

d 「【0023】
更に図4および図5からも明らかなように、この本締装置2はドア板に対して、固定装置6の乗り上げ面10に対してほぼ平行の力Sを及ぼす。それゆえ、閉鎖力Sは、乗り上げ面10に沿って、斜めに車両内部の方向にドア扉を移動させる。無固定の密閉縁部4の領域において双方のドア扉3a、3bのパッキンが互いに衝突するときは、これらの力に対して、ドア板面に存在するが、周囲を取り囲むパッキン7(図4および5には記載されていない)の締め付け力と、乗り上げ面10の位置と共通に、ほぼ図4および5の矢印SRの方向に対応する反作用力をもたらす抵抗力が作用する。」

(エ)刊行物2に記載の技術的事項
a 上記(ウ)の記載事項に加えて、【図1】の記載と車両の引戸装置の技術常識より、「本締装置2」は、「ドア扉3a、3b」に対応し且つその上下方向における同じ高さに設けられていることが明らかである。

b 上記(ウ)c、d及び【図5】の記載より、「本締装置2」は、ドア扉3a、3bの開方向における端部側である戸尻側で、ドア扉3a、3bを斜めに車両内部方向に移動させるよう力Sを及ぼすといえる。

c 以上のことから、刊行物2には、次の技術的事項が記載されているものと認める。
「それぞれが、各ドア扉3a、3bに対応し且つ前記ドア扉3a、3bの上下方向における同じ高さに設けられ、前記ドア扉3a、3bの閉鎖運動の終わりにおいて、各前記ドア扉3a、3bの開方向における端部側である戸尻側で各前記ドア扉3a、3bを斜めに車両内部方向に移動させるよう力Sを及ぼす、前記ドア扉3a、3bの各々に対して2個あるいは複数個備えられた本締装置2を有する鉄道車両用耐圧強化ドア。」

イ 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「車両」は本願補正発明の「車両」に相当し、以下同様に、「車両用引戸装置」は「車両用ドア装置」に、「側出入口」は「乗降口」に、「扉1」は「ドア」に、「ドアエンジン」は「ドア開閉駆動機構」に相当する。

(イ)引用発明の「車体の長手方向に沿って移動」という事項については、車両の側壁に沿って前後方向に移動することになるので、本願補正発明の「前記車両の側壁に沿って当該車両の前後方向に移動」という事項に相当するといえる。

(ウ)引用発明の「前記ドアエンジンの作動に伴って、前記扉1を開扉状態から閉じていくと、戸閉位置の直前で、上部ガイド3の屈曲部3aのカム作用により、前記ガイドコロ6を介して扉1の上部を外側に移動させる」という事項については、「扉1の上部を外側に移動させる」ということは、車幅方向に移動させることになるので、本願補正発明の「ドア開閉駆動機構の作動に伴って、前記ドアを前記車両の幅方向である車幅方向に移動させるように案内する」に相当するといえ、前者の「上部ガイド3、ガイドコロ6及びガイド棒7」は後者の「車幅方向案内機構」に相当するといえる。

(エ)以上のことから、本願補正発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「車両に設置される車両用ドア装置であって、
一対で設けられ、前記車両の側壁に沿って当該車両の前後方向に移動して前記車両の乗降口を開閉可能な両引きの引き分け式のドアと、
前記ドアを開閉駆動するドア開閉駆動機構と、
前記ドア開閉駆動機構の作動に伴って、前記ドアを前記車両の幅方向である車幅方向に移動させるように案内する車幅方向案内機構と、
を備えている、車両用ドア装置。」

[相違点1]
「ドア開閉駆動機構」及び「車幅方向案内機構」に関し、本願補正発明は、前者の設置位置が「前記ドアの上方及び下方のうちの一方」であり、後者の設置位置が「前記一方」であるのに対し、引用発明は、前者の設置位置が明らかでなく、後者の設置位置が開口部の上部である点。

[相違点2]
本願補正発明が「それぞれが、各前記ドアに対応し且つ前記ドアの上下方向における同じ高さに設けられ、前記ドアが全閉位置の状態において、各前記ドアの開方向における端部側である戸尻側で各前記ドアを前記車幅方向における外側及び当該ドアの閉方向に向かって押圧する少なくとも一対の第1の押圧機構と、
を備え、
前記一対の第1の押圧機構は、上下方向に複数設けられて、これら複数の一対の第1の押圧機構は、全体として、前記ドアの上方及び下方のうちの他方に偏るように設置されている」という事項を有しているのに対し、引用発明では、第1の押圧機構に相当する事項を有していない点。

相違点の判断
[相違点1]について
車両用ドア装置において、ドアの上方にドア開閉駆動機構を設置することは、本願の優先日前の周知の技術的事項(例えば、特開2008-121244号公報(特に【図1】、段落【0031】?【0032】参照。)、実願昭56-118640号(実開昭58-23971号)のマイクロフィルム(特に第1図、明細書第11ページ第7?8行参照。)等。)であり、引用発明においても、「ドアエンジン」(ドア開閉駆動機構)を「扉1」(ドア)の上方に設けるようにすることは、当業者であれば所望により適宜なし得たことである。そして、その場合、「上部ガイド3、ガイドコロ6及びガイド棒7」(車幅方向案内機構)も「開口部」の上方すなわち「扉1」(ドア)の上方にあることから、いずれの機構も「一方」にあることになる。
したがって、引用発明において、相違点1に係る本願補正発明の事項を有するものとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

[相違点2]について
上記ア(エ)で述べた刊行物2に記載の技術的事項における「ドア扉3a、3b」は、本願補正発明の「ドア」に相当し、以下同様に、「本締装置2」は「第1の押圧機構」に、「前記ドア扉3a、3bの閉鎖運動の終わりにおいて」という事項は、「前記ドアが全閉位置の状態において」という事項に、「前記ドア扉3a、3bの各々に対して2個あるいは複数個備えられた」という事項は、「一対」及び「上下方向に複数設けられて」という事項に相当する。
また、刊行物2に記載の技術的事項における「本締装置2」(第1の押圧機構)に関し、「各前記ドア扉3a、3bの開方向における端部側である戸尻側で各前記ドア扉3a、3bを斜めに車両内部方向に移動させるよう力Sを及ぼす」という事項を、本願補正発明に倣って言い換えれば、「各前記ドア扉3a、3bの開方向における端部側である戸尻側で各前記ドア扉3a、3bを前記車幅方向における内側及び当該ドア扉3a、3bの閉方向に向かって押圧する」ということができる。
ここで、引用発明においては、「扉1」(ドア)の上部に「上部ガイド3、ガイドコロ6及びガイド棒7」(車幅方向案内機構)を有するものであるから、それにより「扉1」(ドア)の上方はその周囲を効率よくシール材12に対して押圧することができることは明らかであるが、「上部ガイド3、ガイドコロ6及びガイド棒7」(車幅方向案内機構)による押圧の作用効果は、他の箇所については必ずしも十分でない場合があり得ることは、その構成上明らかであり(技術常識を示す一例として、実願昭56-118640号(実開昭58-23971号)のマイクロフィルムの第2ページ第7?14行参照。)、ドア全体の押圧性を向上させるべく、引用発明に上記刊行物2に記載の押圧の技術的事項を適用することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
そして、引用発明は、「扉1」(ドア)を車幅方向の外側に移動させるものであるから、刊行物2に記載の押圧の技術的事項を適用する際に、車幅方向の外側及びドア扉の閉方向に押圧させるように「本締装置2」(第1の押圧機構)の押圧方向を変更することは、当然考慮すべきことである。
また、引用発明においては、「扉1」(ドア)の上方については「上部ガイド3、ガイドコロ6及びガイド棒7」(車幅方向案内機構)によりシール材12に押し付けられるものであるが、他の箇所については、「上部ガイド3、ガイドコロ6及びガイド棒7」(車幅方向案内機構)による押圧の作用効果がさほど期待できないことは上述したとおりであるから、上記適用の際に、刊行物2に記載の技術的事項の「本締装置2」(第1の押圧機構)を全体として下方に偏らせることは、当業者であれば必要に応じて適宜なし得たことにすぎない。また、ドアの上部に設けられた車幅方向案内機構に対し、複数の押圧機構をドアの下方に偏らせることは、本願の優先日前の周知の技術的事項(例えば、特公平7-17195号公報(特に【図5】、「軌道51」に係る事項が「車幅方向案内機構」に相当し、「アーム18a、18b」、「溝21a、21b」に係る事項が「複数の押圧機構」に相当する。)であることからも、「本締装置2」(第1の押圧機構)を全体として下方に偏らせることは格別のこととはいえない。
したがって、引用発明において、相違点2に係る本願補正発明の事項を有するものとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

そして、本願補正発明の作用効果について検討しても、引用発明、刊行物2に記載の技術的事項及び周知の技術的事項から当業者が予測できる範囲のものといえる。

エ まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物2に記載の技術的事項及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

オ 付記:上申書における補正案の検討
(ア)請求人は、上申書において、請求項1に対し次の補正案を提示しているので、一応検討する。
「車両に設置される車両用ドア装置であって、
一対で設けられ、前記車両の側壁に沿って当該車両の前後方向に移動して前記車両の乗降口を開閉可能な両引きの引き分け式のドアと、
前記ドアの上方及び下方のうちの一方に設置されて、前記ドアを開閉駆動するドア開閉駆動機構と、
前記一方に設置されて、前記ドア開閉駆動機構の作動に伴って、前記ドアを前記車両の幅方向である車幅方向に移動させるように案内する車幅方向案内機構と、
それぞれが、各前記ドアに対応し且つ前記ドアの上下方向における同じ高さに設けられ、前記ドアが全閉位置の状態において、各前記ドアの開方向における端部側である戸尻側で各前記ドアを前記車幅方向における外側及び当該ドアの閉方向に向かって押圧する少なくとも一対の第1の押圧機構と、
前記ドアの上方及び下方のうちの他方に設置され、前記ドアが全閉位置の状態において、前記ドアの閉方向における端部側である戸先側で、前記ドア開閉駆動機構の駆動力によって前記ドアを前記車幅方向における外側に押圧することで当該ドアを前記車両の車体に向かって押し付ける第2の押圧機構と、
を備え、
前記一対の第1の押圧機構は、上下方向に2組設けられて、これら2組の一対の第1の押圧機構の一方が中央位置よりも前記一方側で且つ他方が中央位置よりも前記他方側に設置されることにより、前記2組の一対の第1の押圧機構は、全体として、前記ドアの上方及び下方のうちの前記他方に偏るように設置され、
前記一方では、前記車幅方向案内機構によって、前記ドア開閉駆動機構の作動に伴い前記ドアを車幅方向に移動させ、全閉位置の状態の前記ドアを前記車体に押し付けることを特徴とする、車両用ドア装置。」

(イ)上記補正案のうち「第2の押圧機構」に関する事項については、刊行物1の段落【0011】の「下レール4の戸先側先端部には、扉1の戸先側下部を車体外側に変位させるガイドローラー9が設けられ」との記載、上記ア(ア)eの「扉1の戸先側下部が前記ガイドローラー9のカム作用により、・・・外側に移動する。」との記載及び刊行物1の段落【0014】の「扉1は、上記各部のカム作用により、開口部周縁に内側に向けて設けられたシール材12に押圧され、戸閉状態ではシール材12に圧着する。」との記載からみて、刊行物1に記載のものの「ガイドローラー9」及びそれとカム作用をなす「扉1の戸先側下部」が「第2の押圧機構」に相当するものといえる。
したがって、上記事項は、刊行物1に記載のものとの相違点とはならないものである。

(ウ)次に、「一対の第1の押圧機構」が「2組」であるということについては、上記ア(ウ)cに2組の記載があり、その配置位置を特定したことについても、仮に押圧機構を全てドアの下方側に設けたのであれば、上下方向でみた場合の中間からやや上方にかけての箇所の押圧性が不十分になるおそれがあることは構成上自明のことであり、全体のバランスを考慮して、上記補正案のような位置に設置するようにすることは、当業者であれば適宜設定し得たことである。
したがって、刊行物1に記載のものにおいて、上記事項を有するものとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(エ)また、「車幅方向案内機構によって・・・全閉位置の状態の前記ドアを前記車体に押し付ける」という事項については、まず、「ドア」を「車体に押し付ける」ことについて検討するに、本願明細書に具体的に記載されているのは「ドア」を直接「車体」自体に押し付けるのではなく、その段落【0047】?【0048】に記載されているように、乗降口102の周縁部に設置した「乗降口パッキン23」を介して押し付けているものであり、上記(イ)で述べた刊行物1の段落【0014】の記載からみて、刊行物1に記載の「扉1」を車体の開口部周縁に設けられた「シール材12」に押圧させるものと何ら変わりはない。そして、上記ア(ア)c?eの記載からみて、刊行物1に記載のものの「上部ガイド3、ガイドコロ6及びガイド棒7」(車幅方向案内機構)も上記事項と同様の事項を有することは明らかである。
したがって、上記事項は、刊行物1に記載のものとの相違点とはならないものである。

(オ)以上検討したとおり、補正案に係る発明も進歩性を有するものとはいえず、補正の機会を与えることとはしない。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成27年1月22日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 1(補正前の請求項1)」に記載されたとおりである。

第4 刊行物並びにその記載事項、記載された発明及び記載された技術的事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物とその記載事項は、上記「第2 2(2)ア(ア)、(ウ)」に記載したとおりであり、その刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された技術的事項は、上記「第2 2(2)ア(イ)、(エ)」に記載したとおりである。

第5 当審の判断
本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明から「車幅方向案内機構」が「前記一方に配置され」たものであること、「一対の第1の押圧機構」が「上下方向に複数設けられて、これら複数の一対の第1の押圧機構は、全体として、前記ドアの上方及び下方のうちの他方に偏るように設置され」たものであることという限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を含み、さらに他の限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 2(2)イ?エ」で述べたとおり、引用発明、刊行物2に記載の技術的事項及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明、刊行物2に記載の技術的事項及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものといえる。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、刊行物2に記載の技術的事項及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-17 
結審通知日 2016-08-23 
審決日 2016-09-07 
出願番号 特願2013-531212(P2013-531212)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B61D)
P 1 8・ 575- Z (B61D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 敏史  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 出口 昌哉
一ノ瀬 覚
発明の名称 車両用ドア装置  
代理人 小谷 昌崇  
代理人 小谷 悦司  
代理人 玉串 幸久  

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