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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01N
管理番号 1320788
審判番号 不服2014-14522  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-25 
確定日 2016-10-18 
事件の表示 特願2012-108439「チアメトキサムによる木材破壊性害虫の防除」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月16日出願公開、特開2012-153718〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2001年8月27日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年8月28日(CH)スイス〕を国際出願日として出願した特願2002-522705号の一部を、平成24年5月10日に新たな特許出願として出願したものであって、
平成25年10月25日付けの拒絶理由通知に対して、平成26年3月5日付けで意見書の提出がなされるとともに同日付けで手続補正がなされ、
平成26年3月19日付けの拒絶査定に対して、平成26年7月25日付けで審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正(以下「第2回目の手続補正」という。)がなされ、
平成27年8月31日付けの補正の却下の決定により上記「第2回目の手続補正」が却下されるとともに、同日付けで拒絶理由通知(以下「先の拒絶理由通知」という。)が通知され、これに対して、平成28年3月1日付けで意見書の提出がなされるとともに同日付けで手続補正(以下「第3回目の手続補正」という。)がなされたものである。

第2 本願発明
本願の発明は、第3回目の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「遊離形態又は農薬として許容される塩の形態におけるチアメトキサム、及び少なくとも1のアジュバントから成る農薬組成物を、保護されるべき木材又は木材破壊性害虫の生息地に適用することを含む、上記木材破壊性害虫の攻撃から上記木材を保護する方法であって、前記チアメトキサムが0.01?10000ppmの割合で適用される、方法。」

また、本願明細書の発明の詳細な説明には、次のとおりの記載がある。
摘示a:段落0001?0003
「【0001】本発明は、活性成分として、遊離形態又は農薬として許容される塩の形態における、少なくとも、以下の式:
【化1】

により表される化合物、及び少なくとも1のアジュバントを含む、農薬として活性な量の農薬製剤を、木材害虫又はその生息地に適用することを含む上記木材害虫の防除方法に;上記化合物の対応の使用に;活性成分としてチアメトキサムを含む農薬製剤に;上記製剤の製造方法に;上記製剤の使用に;そしてまた、害虫の攻撃に対してそのように保護された植物増殖材料に、関する。
【背景技術】
【0002】本発明に従って使用される化合物、チアメトキサム(3-(2-クロロ-1,3-チアゾール-5-イルメチル)-5-メチル-1,3,5-オキサジアジナン-4-イリデン(ニトロ)アミン)は、例えば、The Pesticide Manual, The British Crop Protection Council, Twelfth Edition, page 896から、当業者に知られている。
【0003】チアメトキサム(thiamethoxam)の農薬として許容される塩は、例えば、酸付加塩である。これら酸付加塩は、例えば、強無機酸、例えば、鉱酸、例えば、過塩酸、硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸又はハロゲン化水素酸と、強有機カルボン酸、例えば、非置換又は置換の、例えば、ハロ置換の、C_(1)-C_(4)アルカンカルボン酸、例えば、ギ酸、酢酸又はトリフルオロ酢酸、飽和又は不飽和ジカルボン酸、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、及びフタル酸、ヒドロキシカルボン酸、例えば、アスコルビン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、及びクエン酸、又は安息香酸と、又は有機スルホン酸、例えば、非置換又は置換の、例えば、ハロ置換の、C_(1)-C_(4)アルカン-又はアリール-スルホン酸、例えば、メタン-又はp-トルエン-スルホン酸も形成される。遊離形態及びその農薬として許容される塩の形態における本発明に従って使用される化合物は、本明細書の全体を通して、適宜、それぞれ、その対応の塩と遊離化合物を含むと理解すべきである。遊離形態のチアメトキサムが好ましい。」

摘示b:段落0015、0027及び0030
「【0015】使用される配合アジュバントは、例えば、固体担体、溶媒、安定剤、“徐放性”アジュバント、着色料、及び場合により界面活性剤物質(界面活性剤)である。好適な担体、及びアジュバントは、植物保護組成物中に慣用されるいずれかの物質を含む。本発明に従って使用される組成物中の好適なアジュバント、例えば、溶媒、固体担体、表面活性化合物、非イオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、及び他のアジュバントは、例えば、本明細書中に援用するEP-A-736252,page7,line51?page8,line39中に記載されるものと同じ物質を含む。…
【0027】他の態様は、木材破壊性害虫の攻撃から木材を保護する方法である。本発明の特に好ましい態様においては、チアメトキサムを含む組成物が、地面下のシロアリ及び/又は他の木材破壊性害虫を防除するために使用され、それにより、木材構造物、農作物、及び保管された物品の間接的な保護が達成される。…
【0030】それゆえ、上記活性成分は、餌の形態で、例えば、US-P-5096710中に記載されるような、活性成分を含む錠剤の形態で、提供されることもできる。食物として、及びシロアリの巣のための建築材料としてシロアリにより使用される材料に、上記組成物を適用することが、特に好ましい。このような材料の例は、段ボール、紙、木、木くず、セルロース粉末又は綿である。上記材料上の好適な濃度は、0.01?10,000ppmである。このような餌は、フェロモンも使用され、そして真菌が既にはびこった木材が使用されるとき、特に有効である。このような適用モードは、例えば、US-P-5151443号中に討議されている。」

摘示c:段落0036?0038
「【0036】適用実施例
実施例A1:シロアリに対する活性
木材餌を、異なる量のチアメトキサムで処理し、そしてシロアリの孵化率及び生存に対する影響をテストする。アセトン中の0ppm、0.1ppm、100ppm、及び1000ppmの濃度をもつ溶液を使用する。水を、対照試験において使用する。上記餌は、自然環境において4か月間維持されていた松の木から成る。
【0037】上記シロアリを、はびこらせた木材片から上記環境内で採取する。上記木材餌試験のために、上記木材を、48時間80℃でオーブン内で保持する。次に、乾燥した木材の重量を計り、そして上記片を、18時間、所望の濃度のチアメトキサムの溶液中に入れた。次に上記木材片を上記溶液から取り出し、風乾し、そして再び重量を計る。シロアリに対する上記餌の活性を測定するために、そのように処理した上記木材片を、ペトリ皿内の未処理土壌の薄い層の上に置く。
【0038】各ペトリ皿の中に、シロアリ(50の働きアリ、及び2の兵隊アリ)を入れる。上記皿を、8週間、1週間当り3回観察する。上記昆虫の成長、異状、及び死亡率を記録する。8週間後、上記木材ブロックを水で濯ぎ、そして再び48時間80℃でオーブン内で乾燥させる。次に各木材片の重量を測定する。上記重量の差異は、シロアリにより摂取された木材の量を与える。本発明に係る組成物は、本テストにおいて良好な活性を示す。」

第3 拒絶理由の概要
先の拒絶理由通知には、その「理由1」として「この出願の請求項1?4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記1及び2の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」との理由が示されている。

第4 当審の判断
1.理由1について
(1)引用した刊行物及びその記載事項
ア.刊行物1及びその記載事項
先の拒絶理由通知において「刊行物1」として引用した「特開2000-80005号公報」には、次の記載がある。

摘記1a:段落0012、0014及び0017
「【0012】本発明組成物は、フェノブカルブとネオニコチノイド系化合物のみからなるものであってもよいが、実用的には通常、固体担体、液体担体、製剤補助剤等を適宜含有する製剤化された形態のものである。…
【0014】…液体担体としては、例えば、…アセトン…等のケトン類、…水などが挙げられる。…
【0017】本発明組成物は、通常、木材害虫の生息場所、土壌等に施用することにより用いられる。本発明組成物を当該害虫に直接施用してもよいが、通常は該組成物を害虫の生息場所である木材、土壌等に施用する。また、本発明組成物を接着剤に混合して合板や木質ボード類の製造に用いたり、電線の被覆剤や合成樹脂シート等に混入させることにより防虫処理された各種製品の製造に供することができる。その施用量は、対象となる木材害虫の種類、製剤形態、施用場所、施用方法等により異なるが、一般に有効成分(フェノブカルブ及びネオニコチノイド系化合物の合計)量で0.1?100000mg/m^(2)程度である。」

摘記1b:段落0020?0022
「【0020】次に試験例を示す。
試験例1
内径1.7cm、長さ15cmのガラスチューブ内中央部に土壌を3cm詰め、土壌の片側表面に、各濃度に調整した供試薬剤の水溶液0.7mlを処理した(供試薬剤及び処理濃度は表2参照)。次いで、土壌の両側を4%寒天で挟み、薬液処理していない側のガラスチューブ内空間にイエシロアリの職蟻50頭と兵蟻5頭を放し、1週間後にシロアリの土壌貫通状況を観察した。試験は3反復行った。結果を表2に示す。表中の結果欄中で、Aはシロアリが土壌の薬液処理面を貫通して反対側の寒天層をも貫通したことを表し、Bはシロアリが土壌の薬液処理面を貫通しさらに寒天層の途中まで穿孔したことを表し、Cはシロアリが土壌の薬液処理面を完全に貫通することができず寒天への穿孔が見られなかったことを表す。
【0021】【表1】

…*3:“薬剤C”:3-[(2-クロロ-5-チアゾリル)メチル]-5-メチル-4-ニトロイミノテトラヒドロ-1,3,5-オキサジアジン…
【0022】【発明の効果】本発明の木材害虫駆除組成物は顕著な相乗性を発揮し、よって、より低薬量の施用によって、種々の木材害虫に対し、優れた防除効果を示す。」

イ.刊行物2及びその記載事項
先の拒絶理由通知において「刊行物2」として引用した「特開2000-169303号公報」には、次の記載がある。

摘記2a:段落0004及び0023
「【0004】…即ち本発明は、(a)一般式…(3)…で示される化合物…、(b)粉末担体、(c)噴射剤並びに(d)常温で液体のカルボン酸エステル及び常温で液体のアルコールから選ばれる少なくとも1種を主とする溶剤を含有することを特徴とするシロアリ防除エアゾール剤(以下、本エアゾール剤と記す。)に関するものである。…
【0023】本エアゾール剤を、シロアリ防除用の土壌処理剤として土壌表面に噴霧することにより薬剤層を形成させる形態で施用することも可能ではあるが、より効率的に本エアゾール剤を活用するために、シロアリの蟻道内、シロアリ被害木部あるいはシロアリの生息域に処理するのがよい。シロアリの蟻道内に処理するためには、シロアリの蟻道の一部を壊し、本エアゾール剤を蟻道内部へ散布すればよく、また被害木部や生息域に処理するためには、被害木部や生息域の空隙内に必要に応じて穿孔して、注入散布すればよい。散布量は、通常1ヶ所あたり有効成分量が0.00001mg?10000mg程度となる量である。」

摘記2b:段落0024、0026及び0028?0029
「【0024】…製剤例1 アセタミプリド0.005重量部と無水ケイ酸4.995重量部を混合した粉末5g、ミリスチン酸イソプロピル1g及びイソプロパノール1gをエアゾール容器内に添加後、該エアゾール容器にバルブを取り付け、該バルブを通じて液化石油ガス43gをエアゾール容器に充填し、エアゾール剤を得る。…
【0026】製剤例3 アセタミプリドに代えて3-[(2-クロロ-5-チアゾリル)メチル]-5-メチル-4-ニトロイミノテトラヒドロ-1.3.5-オキサジアジンを用いる以外は製剤例1と同様の手順にて、エアゾールを得る。…
【0028】…試験例1 製剤例1で得られたエアゾール剤0.1gをシナベニヤ板(15cm×15cm)に10cmの距離から噴霧する。該シナベニヤ板上にガラスリング(φ4cm、高さ2cm)を設置し、その内部にイエシロアリ(Coptotermes formosanus)10頭を放虫する。30秒後に該シロアリ10頭を回収して水で湿した清浄な濾紙を敷いたプラスチックシャーレ(φ9cm)に移す。経時的に死亡虫、苦悶虫、反応虫を観察する。同様の試験を製剤例2および3で得られたエアゾール剤を用いて行う。結果を表1に示す。
【0029】【表1】



ウ.刊行物3及びその記載事項
先の拒絶理由通知において「刊行物3」として引用した「特開2000-212169号公報」には、次の記載がある。

摘記3a:段落0020
「【0020】…チアメトキサム[3-{(2-クロロ-5-チアゾリル)メチル}-5-メチル-4-ニトロイミノテトラヒドロ-1,3,5-オキサジアジン]等のニトロイミノテトラヒドロ-1,3,5-オキサジアジン誘導体」

エ.刊行物4及びその記載事項
先の拒絶理由通知において「刊行物4」として引用した「特開平10-279408号公報」には、次の記載がある。

摘記4a:請求項2、6及び13
「【請求項2】活性成分としての請求項1記載の物質混合物と少なくとも一種のアジュバントとを含んで成る、昆虫又はダニ類(Acarnia)目の代表に対して植物を保護するための組成物。…
【請求項6】化合物(B)として5-(2-クロロチアゾリ-5-イルメチル)-3-メチル-4-ニトロイミノ-パ-ヒドロ-1,3,5-オキサジアジン(チアメトキサム)を含んで成る、請求項2記載の組成物。…
【請求項13】請求項2記載の組成物の調製における、遊離形態、塩形態及び/又は任意的に互変異性形態の化合物(B)の利用。」

摘記4b:段落0034及び0037
「【0034】列挙できる動物害虫には下記が含まれる:…
【0037】シロアリ類目(Isoptera)、例えばレチキリターメス(Reticulitermes)種;」

(2)刊行物に記載された発明
ア.刊1発明
摘記1aの「本発明組成物は、…液体担体、製剤補助剤等を適宜含有する製剤化された形態のものである。…液体担体としては、例えば、…アセトン…等のケトン類、…水などが挙げられる。…本発明組成物は、通常、木材害虫の生息場所、土壌等に施用することにより用いられる。」との記載、
摘記1bの「試験例1…土壌の片側表面に、各濃度に調整した供試薬剤の水溶液0.7mlを処理した…イエシロアリの職蟻50頭と兵蟻5頭を放し、1週間後にシロアリの土壌貫通状況を観察した。…*3:“薬剤C”:3-[(2-クロロ-5-チアゾリル)メチル]-5-メチル-4-ニトロイミノテトラヒドロ-1,3,5-オキサジアジン…木材害虫駆除組成物は…防除効果を示す。」との記載、及び当該「表1」の「薬剤C」を処理濃度100ppmで単独使用した場合の記載、並びに
摘記3aの「チアメトキサム[3-{(2-クロロ-5-チアゾリル)メチル}-5-メチル-4-ニトロイミノテトラヒドロ-1,3,5-オキサジアジン]」との記載からみて、刊行物1の表1の「薬剤C」の供試薬剤の慣用名が「チアメトキサム」であることが自明であるから、刊行物1には、その「薬剤C」を単独使用した場合の具体例として、
『100ppmの処理濃度に調製した供試薬剤(チアメトキサム)の水溶液0.7mlを、木材害虫(シロアリ)の生息場所に施用する木材害虫の防除方法。』についての発明(以下「刊1発明」という。)が記載されている。

イ.刊2発明
摘記2aの「本エアゾール剤を…シロアリ被害木部あるいはシロアリの生息域に処理する」との記載、及び
摘記2bの「製剤例1 アセタミプリド0.005重量部と無水ケイ酸4.995重量部を混合した粉末5g、ミリスチン酸イソプロピル1g及びイソプロパノール1gをエアゾール容器内に添加後、該エアゾール容器にバルブを取り付け、該バルブを通じて液化石油ガス43gをエアゾール容器に充填し、エアゾール剤を得る。…製剤例3 アセタミプリドに代えて3-[(2-クロロ-5-チアゾリル)メチル]-5-メチル-4-ニトロイミノテトラヒドロ-1.3.5-オキサジアジンを用いる以外は製剤例1と同様の手順にて、エアゾールを得る。…同様の試験を製剤例2および3で得られたエアゾール剤を用いて行う。…供試薬剤 1日後苦死虫率(%)…製剤例3 100」との記載からみて、刊行物2には、その「製剤例3」のエアゾール剤を用いて行った具体例として、
『3-[(2-クロロ-5-チアゾリル)メチル]-5-メチル-4-ニトロイミノテトラヒドロ-1.3.5-オキサジアジン0.005重量部と無水ケイ酸4.995重量部を混合した粉末5g、ミリスチン酸イソプロピル1g、イソプロパノール1g及び液化石油ガス43gからなるエアゾール剤を、シロアリの生息域に処理するシロアリの防除方法。』についての発明(以下「刊2発明」という。)が記載されている。

(3)対比・判断
ア.刊行物1を主引用例とした場合の検討
本願発明と刊1発明とを対比する。
先ず、本願発明の「遊離形態又は農薬として許容される塩の形態におけるチアメトキサム」の「遊離形態」とは、当該「遊離形態」が「農薬として許容される塩の形態」と並列して記載されていることから、「塩となっていない形態」を意味するものと解され、この点について審判請求人は平成28年3月1日付けの意見書第1頁第38?40行で『当該「遊離形態」とは…チアメトキサムの「非塩形態」であることは明らかであるものと思料いたします。』と説明している。
以上のことから、刊1発明の「供試薬剤(チアメトキサム)」は塩の形態になっていないので「遊離形態」にあるものと解され、また、本願明細書の段落0037(摘示c)の「実施例A1」においても単に「チアメトキサム」と記載されている活性成分を使用するものが本願発明の具体例とされていることから、刊1発明の「供試薬剤(チアメトキサム)」は、本願発明の「遊離形態におけるチアメトキサム」に相当するものと解される。

そして、刊1発明の「水溶液」は摘記1aの「液体担体としては…アセトン…水などが挙げられる」との記載にある「水」を「液体担体」として使用しているものであって、当該「液体担体」としての「水」は本願明細書の段落0015(摘示b)の「配合アジュバントは、例えば、…溶媒」との記載にある「溶媒」に対応するものであるから、刊1発明の「水溶液」を構成している「水」は、本願発明の「少なくとも1のアジュバント」に相当する。
してみると、刊1発明の「100ppmの処理濃度に調製した供試薬剤(チアメトキサム)の水溶液0.7ml」は、供試薬剤としてチアメトキサムのみを用い、アジュバントとして水のみを用いるものであるから、本願発明の「遊離形態又は農薬として許容される塩の形態におけるチアメトキサム、及び少なくとも1のアジュバントから成る農薬組成物」に相当する。

次に、本願発明の「前記チアメトキサムが0.01?10000ppmの割合で適用される」とは、本願請求項1の「農薬組成物を…木材又は…生息地に適用する」との記載からみて、農薬組成物を基準にした割合(活性成分濃度)を意味するものと解され(第一の解釈)、この点について審判請求人は平成28年3月1日付けの意見書第2頁第21?25行で『実施例A1においては、多様な濃度(0.1ppm、100ppm及び1000ppm)の「チアメトキサム」の溶液が、シロアリから木材を保護することが実証されていることから、当業者は、新請求項1に特定される濃度範囲においても、チアメトキサムが、木材破壊性害虫の攻撃から木材する作用を有することを十分に認識できるものと思料いたします。』と説明している。
してみると、刊1発明の「100ppmの処理濃度に調製した供試薬剤(チアメトキサム)の水溶液0.7mlを、木材害虫(シロアリ)の生息場所に施用する」とは、本願明細書の段落0036(摘示c)の「実施例A1」における活性成分濃度と合致する「100ppm」の濃度で木材害虫の生息場所に施用されているという点において、本願発明の「前記チアメトキサムが0.01?10000ppmの割合で適用される」に相当するものと解される。

また、本願明細書の段落0030には「食物として…使用される材料に、上記組成物を適用する…材料上の好適な濃度は、0.01?10,000ppmである」との記載があるので、本願発明の「前記チアメトキサムが0.01?10000ppmの割合で適用される」とは、本願発明の『木材又は生息地』の材料を基準にした割合(活性成分濃度)を意味するものとも解される(第二の解釈)。
そこで、刊1発明における材料上の活性成分濃度を計算すると、摘記1bの『内径1.7cmのガラスチューブ内中央部に土壌を3cm詰め、土壌の片側表面に、各濃度(100ppm)に調整した供試薬剤の水溶液0.7mlを処理した』という旨の記載を参酌するに、合計6.8cm^(3)の容積の土壌(0.85cm×0.85cm×3.14×3cmの容積)に対して0.07mgのチアメトキサム(水溶液0.7ml=0.7g中に含まれる100ppmの活性成分)が使用されているので、土壌に対する濃度としては1.03×10^(-5)g/cm^(3)(土壌の比重を1とした場合の重量比として約10ppm)の割合と換算される。
してみると、本願発明の「前記チアメトキサムが0.01?10000ppmの割合で適用される」という事項を、材料を基準にした割合(活性成分濃度)を意味するものと解しても、刊1発明の「100ppmの処理濃度に調製した供試薬剤(チアメトキサム)の水溶液0.7mlを、木材害虫(シロアリ)の生息場所に施用する」場合の材料上の活性成分濃度が、本願発明における「前記チアメトキサムが0.01?10000ppmの割合で適用される」という数値範囲の割合から逸脱した範囲にあるとは解せない。

そして、刊1発明の「木材害虫(シロアリ)」は、本願発明の「木材破壊性害虫」に相当することが明らかであって、刊1発明の「木材害虫の防除方法」は、本願明細書の「実施例A1」の「0.1ppm」よりも高い濃度の水溶液を用いて、本願発明の「0.01ppm」という割合よりも高い材料上の濃度で木材害虫の生息場所にチアメトキサムを適用するものであるところ、刊1発明における濃度での防除方法によって木材害虫が駆除された場合に、当該害虫の攻撃から木材が保護されることは自明であるから、刊1発明の「方法」は、本願発明の「保護されるべき木材又は木材破壊性害虫の生息地に適用することを含む、上記木材破壊性害虫の攻撃から上記木材を保護する方法」に相当するものと認められる。

以上総括するに、本願発明と刊1発明の両者は『遊離形態又は農薬として許容される塩の形態におけるチアメトキサム、及び少なくとも1のアジュバントから成る農薬組成物を、保護されるべき木材又は木材破壊性害虫の生息地に適用することを含む、上記木材破壊性害虫の攻撃から上記木材を保護する方法であって、前記チアメトキサムが0.01?10000ppmの割合で適用される、方法。』に関するものである点において一致し、両者に相違する点は認められない。
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する。

イ.刊行物2を主引用例とした場合の検討
本願発明と刊2発明とを対比する。
先ず、刊2発明の「3-[(2-クロロ-5-チアゾリル)メチル]-5-メチル-4-ニトロイミノテトラヒドロ-1.3.5-オキサジアジン」という化合物は、その化合物名それ自体(及び化合物の命名法についての技術常識)、並びに摘記4aの「化合物(B)として5-(2-クロロチアゾリ-5-イルメチル)-3-メチル-4-ニトロイミノ-パ-ヒドロ-1,3,5-オキサジアジン(チアメトキサム)…遊離形態、塩形態及び/又は任意的に互変異性形態の化合物(B)の利用」との記載、及び摘記3aの「チアメトキサム[3-{(2-クロロ-5-チアゾリル)メチル}-5-メチル-4-ニトロイミノテトラヒドロ-1,3,5-オキサジアジン]」との記載からみて、本願明細書の段落0001(摘示a)の共鳴限界式に示されるとおりの化合物(慣用名:チアメトキサム)であることが明らかであって、刊2発明の化合物が塩の形態になっていない形態(非塩形態)にあることも明らかであるから、本願発明の「遊離形態におけるチアメトキサム」に相当するものと解される。
そして、刊2発明の「3-[(2-クロロ-5-チアゾリル)メチル]-5-メチル-4-ニトロイミノテトラヒドロ-1.3.5-オキサジアジン0.005重量部と無水ケイ酸4.995重量部を混合した粉末5g、ミリスチン酸イソプロピル1g、イソプロパノール1g及び液化石油ガス43gからなるエアゾール剤」に含まれている無水ケイ酸(粉末担体)、ミリスチン酸イソプロピル(溶剤)、イソプロパノール(溶剤)、液化石油ガス(噴射剤)の4つの成分の各々が、本願明細書の段落0015(摘示b)に例示される固体担体、溶媒、及び他のアジュバントなどを含む「植物保護組成物中に慣用されるいずれかの物質」に該当することが明らかであり、本願発明の「少なくとも1のアジュバント」に相当する。
してみると、刊2発明の「3-[(2-クロロ-5-チアゾリル)メチル]-5-メチル-4-ニトロイミノテトラヒドロ-1.3.5-オキサジアジン0.005重量部と無水ケイ酸4.995重量部を混合した粉末5g、ミリスチン酸イソプロピル1g、イソプロパノール1g及び液化石油ガス43gからなるエアゾール剤」は、本願発明の「遊離形態又は農薬として許容される塩の形態におけるチアメトキサム、及び少なくとも1のアジュバントから成る農薬組成物」に相当する。

次に、刊2発明の「エアゾール剤」に含まれている活性成分(チアメトキサム)の濃度を計算すると「100ppm」になる(5+1+1+43=50g中に0.005gのチアメトキサムが含まれる)ところ、本願発明の割合を農薬組成物を基準にした割合として解するに(第一の解釈)、刊2発明の活性成分(チアメトキサム)の濃度は、本願発明の「前記チアメトキサムが0.01?10000ppmの割合で適用される」という数値範囲を満たす範囲にあるものと解される。
また、本願発明の割合を『木材又は生息地』の材料を基準にした割合として解するに(第二の解釈)、摘記2aの「被害木部や生息域の空隙内に必要に応じて穿孔して、注入散布すればよい。散布量は、通常1ヶ所あたり有効成分量が0.00001mg?10000mg程度となる量である」との記載からみて、刊2発明の材料上の活性成分濃度が、本願発明の「前記チアメトキサムが0.01?10000ppmの割合で適用される」という数値範囲の割合から逸脱した範囲にあるとは解せない。
してみると、本願発明において適用されるチアメトキサムの割合(活性成分濃度)を「農薬組成物」又は「木材若しくは生息地の材料」のいずれを基準にした割合であるとして解しても、刊2発明の「3-[(2-クロロ-5-チアゾリル)メチル]-5-メチル-4-ニトロイミノテトラヒドロ-1.3.5-オキサジアジン0.005重量部と無水ケイ酸4.995重量部を混合した粉末5g、ミリスチン酸イソプロピル1g、イソプロパノール1g及び液化石油ガス43gからなるエアゾール剤を、シロアリの生息域に処理する」は、本願発明の「前記チアメトキサムが0.01?10000ppmの割合で適用される」に相当するものと認められる。

そして、刊2発明の「シロアリ」は、本願発明の「木材破壊性害虫」に相当することが明らかであって、刊2発明の「シロアリの生息域に処理するシロアリの防除方法」によってシロアリが駆除された場合に、木材が保護されることは自明であるから、刊2発明の「方法」は、本願発明の「保護されるべき木材又は木材破壊性害虫の生息地に適用することを含む、上記木材破壊性害虫の攻撃から上記木材を保護する方法」に相当するものと認められる。

以上総括するに、本願発明と刊2発明の両者は『遊離形態又は農薬として許容される塩の形態におけるチアメトキサム、及び少なくとも1のアジュバントから成る農薬組成物を、保護されるべき木材又は木材破壊性害虫の生息地に適用することを含む、上記木材破壊性害虫の攻撃から上記木材を保護する方法であって、前記チアメトキサムが0.01?10000ppmの割合で適用される、方法。』に関するものである点において一致し、両者に相違する点は認められない。
したがって、本願発明は、刊行物2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する。

(4)まとめ
以上総括するに、本願発明は、刊行物1及び2の各々に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許を受けることができない。

2.むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条の規定により特許をすることができないから特許法第49条第2号に該当する。
したがって、その余の事項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-16 
結審通知日 2016-05-23 
審決日 2016-06-06 
出願番号 特願2012-108439(P2012-108439)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 千香子  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 木村 敏康
齊藤 真由美
発明の名称 チアメトキサムによる木材破壊性害虫の防除  
代理人 西島 孝喜  
代理人 浅井 賢治  
代理人 服部 博信  
代理人 弟子丸 健  
代理人 山崎 一夫  
代理人 中村 和広  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 福本 積  
代理人 市川 さつき  
代理人 武居 良太郎  
代理人 箱田 篤  
代理人 青木 篤  
代理人 石田 敬  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 古賀 哲次  

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