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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1320796
審判番号 不服2015-5017  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-16 
確定日 2016-10-17 
事件の表示 特願2012-519017「USBアタッチメントの検出」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月13日国際公開、WO2011/004020、平成24年12月20日国内公表、特表2012-533106〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2010年(平成22年)7月9日(パリ条約による優先権主張2009年(平成21年)7月10日、フランス共和国)を国際出願日とする出願であって、平成25年6月21日付けで手続補正がなされ、平成26年1月16日付けで拒絶理由通知がなされ、同年6月18日付けで手続補正がなされ、同年11月5日付けで拒絶査定がなされ、平成27年3月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、当審において、平成28年1月18日付けで拒絶理由を通知し、平成28年4月18日付けで意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」と呼ぶ。)は、平成26年6月18日付けの手続補正書の【請求項1】の欄の記載、および発明の詳細な説明の記載からみて、次のとおりのものと認められる。
「 【請求項1】
インターフェイスを介して接続される、第1のデバイスと第2のデバイスとの間のアタッチメント状態の変化を管理するための方法であって、
前記第1のデバイスは、制御ユニット及び高周波クロックを備え、前記インターフェイスを介して前記第2のデバイスと通信するように適応され、
前記第1のデバイスは、前記高周波クロックが非アクティブ化されているスリープ状態にあり、前記方法は、前記第1のデバイスにおいて、
(1) 前記インターフェイスにおける前記第1のデバイスに対する前記第2のデバイスのアタッチメント状態の変化であって、前記インターフェイス(15)でのキャパシタンス変化に対応する、前記第2のデバイスのアタッチメント状態の変化の検出を、低周波クロックに基づいて、周期的にトリガするステップと、
(2) 前記アタッチメント状態の変化が検出されると、電気的な方法で、前記変化を前記制御ユニットに通知し、前記高周波クロックをアクティブ化することにより、前記スリープ状態から前記第1のデバイスを復帰させるステップと、
を含むことを特徴とする方法。」

なお、平成26年6月18日付けの手続補正書の【請求項1】における「前記インタフェース」は、「前記インターフェイス」の誤記と認め、上のとおり認定した。

3.引用発明
平成28年1月18日付けの拒絶理由通知で引用した"On-The-Go and Embedded Host Supplement to the USB Revision 2.0 Specification", Revision 2.0,2009年 5月 8日,p.22-24,URL,http://www.usb.org/developers/onthego/USB_OTG_and_EH_2-0.pdf(以下、引用文献1という。)には次の記載がある(下線は、着目箇所を示すために当審で付した。)。

「5.4 Attach Detection Protocol

5.4.1 Introduction

Attach Detection Protocol (ADP) is a protocol that allows a local device to detect when a remote device has been attached or detached. The device doing ADP probing can be either an OTG A-device, OTG B-device, EH or SRP-capable peripheral-only B-device. The remote device can be any USB device.

ADP operates by detecting the change in VBUS capacitance that occurs when two devices are attached or detached. The capacitance is detected by first discharging the VBUS line, and then measuring the time it takes VBUS to charge to a known voltage with a known current source. A change in capacitance is detected by looking for a change in the charge time.

If an A-device is attached to a B-device, and both support ADP, then the A-device is required to perform ADP probing, while the B-device is allowed to do ADP sensing. During ADP sensing, the B-device looks for ADP activity on the VBUS line. If ADP activity is detected, then the B-device knows that the A-device is still attached.

5.4.2 ADP Probing

Figure 5-4 shows a local device attached to a remote device.
In order for the local device to reliably detect a remote device using ADP probing, the following conditions must be met:
・local device resistance of ROTG_VBUS
・local device capacitance of CADP_VBUS
・local device noise of VADP_NOISE
・local device leakage of IVBUS_LKG_SRC

The remote device is assumed to have a complex capacitance Z, and may also be doing ADP probing or sensing.

Figure 5-5 shows the architecture of the ADP block in the local device.

The ADP block has a current source (or charging resistor) IADP_SRC, a current sink IADP_SINK, two comparators, and some timing and control logic. A timing diagram for ADP is shown in Figure 5-6.

To measure the capacitance on the VBUS line, the local device first discharges the VBUS line below VADP_DSCHG by turning on the current sink (IADP_SINK) for a fixed amount of time. This time (TADP_DSCHG) must be long enough to ensure that VBUS goes below VADP_DSCHG for all valid combinations of remote resistance, capacitance and leakage current. After the VBUS voltage is below VADP_DSCHG, the current sink is turned off, and the current source (IADP_SRC) is turned on. When the VBUS voltage reaches VADP_PRB, the current source is turned off. The time required for VBUS to rise to VADP_PRB (TADP_RISE) is measured.

If the time taken for VBUS to rise exceeds what would be expected for a remote device with a capacitance of CRPB max, then the local device is allowed to terminate the ramp, and simply store the maximum value as the ramp time.

After a time of either TA_ADP_PRB for an A-device or TB_ADP_PRB for a B-device, this probe cycle is repeated, and the rise time is again measured. If both devices happen to be probing on attachment the different values of probe time for A-devices and B-devices prevent repeated collisions between successive probes. If a remote device is attached or detached, then the rise time changes. The probe cycle timing for successive probe measurements on a given device must be within TADP_PRB_JTR. This allows a B-device to turn on its probe sensing in a small window around the expected probing time in order to save energy.

When doing ADP probing, a device is required to ignore any changes in capacitance that are less than CADP_THR min. If the capacitance changes by more than CADP_THR, the device shall detect that as either an attach or detach event.

When an OTG A-device is ready to act in host or peripheral role or an EH is ready to act as host, and VBUS is not present, VBUS is required to reach VOTG_SESS_VLD within TA_VBUS_ATT of an attachment event being detected by ADP unless an over-current condition is reached (see also Section 4.2.4). 」

(当審による訳)
5.4 アタッチ検出プロトコル

5.4.1 導入

アタッチ検出プロトコル(ADP)は、ローカルデバイスが、リモートデバイスがいつアタッチあるいはデタッチされたかを検出すること、を可能にするプロトコルである。ADPプロ-ビングを実行するデバイスは、OTG A-deviceとOTG B-deviceのいずれか、EHあるいはSRP-capable peripheral-only B-deviceであり得る。

ADPは、2つのデバイスがアタッチあるいはデタッチしたときに生じるVBUSのキャパシタンスの変化を検出することにより働く。キャパシタンスは、最初にVBUSラインを放電し、次いでVBUSに既知の電流で所定の電圧まで充電するのにかかる時間を計ることにより検出される。キャパシタンスの変化は、充電時間の変化を探すことにより検出される。

もし、A-deviceがB-deviceに接続され、両者がADPをサポートしていると、A-deviceは、ADPプロ-ビングを実施することが要求され、一方で、B-deviceは、ADPセンシングをすることが許される。ADPセンシングの間、B-deviceは、VBUSライン上のADP活動を捜す。もし、ADP活動が検出されると、B-deviceは、A-deviceがまだアタッチされていることを知る。

5.4.2 ADPプロ-ビング

図5-4は、リモートデバイスにアタッチされたローカルデバイスを示している。
ADPプロ-ビングを用いて、ローカルデバイスがリモートデバイスを信頼性をもって検出できるように、次の条件が揃えられなければならない。
・ROTG_VBUSのローカルデバイス抵抗
・CADP_VBUSのローカルデバイスキャパシタンス
・VADP_NOISEのローカルデバイスノイズ
・IVBUS_LKG_SRCのローカルデバイスリーケージ

リモートデバイスは、複素キャパシタンスZを有すると仮定され、ADPプロ-ビングまたはセンシングが実行されてもよい。

図5-5は、ローカルデバイス中のADPブロックの構造を示す。

ADPブロックは、電流源(あるいは充電抵抗)IADP_SRC、電流シンクIADP_SINK、2つの比較器、及び、幾つかのタイミング及びコントロールロジックを有する。ADPのタイミング図が、図5-6に示される。

VBUSラインのキャパシタンスを測定するために、ローカルデバイスは、電流シンク(IADP_SINK)を所定時間だけオンすることにより、最初にVBUSラインを、VADP_DSCH以下まで放電する。この時間(TADP_DSCHG)は、リモートの抵抗、キャパシタンス、漏れ電流の全ての有効な組合せに対して、VBUSがVADP_DSCHG以下まで低下することを確実にするために、十分に長くなくてはならない。VBUS電圧がVADP_DSCHG以下まで低下した後、電流シンクはオフされ、電流源(IADP_SRC)がオンされる。VBUS電圧がVADP_PRBに到達したとき、電流源はオフされる。VBUSがVADP_PRBまで上昇するのに要する時間(TADP_RISE)が測定される。

もし、VBUSが上昇するに要する時間が、CRPB maxのキャパシタンスを有するリモートデバイスについて予想される値を超えたら、ローカルデバイスは、充電をやめることが許され、単に最大値を充電時間として格納する。

A-deviceのためのTA_ADP_PRB、あるいはB-deviceのためのTB_ADP_PRBのいずれかの時間の後、このプローブサイクルは繰り返され、立ち上がり時間が再度測定される。もし、両方のデバイスが偶然にアタッチメントについてのプロ-ビングをしていたら、A-devicesとB-devicesの間の異なるプローブタイムの値が、引き続くプローブの間の繰り返される衝突を避ける。もし、リモートデバイスがアタッチあるいはデタッチされると、立ち上がり時間は変化する。与えられたデバイスについての連続するプローブ測定のためのプローブサイクルタイミングは、TADP_PRB_JTR以内でなければならない。これは、B-deviceが、エネルギーを節約するために、そのプローブセンシングを、期待されるプロ-ビング期間の周辺の小さい窓においてオンすることを可能にする。

ADPプロ-ビングを実行するとき、デバイスは、CADP_THR minよりも少ないどんなキャパシタンス変化も無視することが要求される。もし、キャパシタンスがCADP_THRよりも大きく変化したら、デバイスはそれをアタッチあるいはデタッチイベントとして検出する。

OTG A-deviceが、ホストあるいは周辺機器の中で行動する準備ができたとき、あるいは、EHが、ホストとして行動する準備が出来たときであって、VBUSが存在しないとき、VBUSは、過電流条件に到達しない限り、ADPによって検出されるアタッチイベントのTA_VBUS_ATT以内に、VOTG_SESS_VLDに到達する必要がある(セクション4.2.4も参照)。

そして、上記記載事項を、引用文献1の関連図面と技術常識に照らせば、次のことがいえる。
(1)引用文献1の5.4で説明される「アタッチ検出プロトコル(ADP)」は、「USBインターフェイスを介して接続される、ローカルデバイスとリモートデバイスとの間のアタッチメント状態の変化」を検出するためのプロトコルであり、そのプロトコルにより実行される方法は、「USBインターフェイスを介して接続される、ローカルデバイスとリモートデバイスとの間のアタッチメント状態の変化を管理するための方法」ともいい得る。
(2)引用文献1は、USB規格のOTG補助仕様に関する文献であるから、そこに記載される上記「ローカルデバイス」は、当然に「USBインターフェイスを介してリモートデバイスと通信するように適応されたもの」ということができ、また、その通信のために当然に「制御ユニット」といい得る部分と「高周波クロック」といい得る部分を備えている。
(3)引用文献1の上記下線を付した部分の記載に着目すると、上記(1)でいう方法は、「ローカルデバイスにおいて、USBインターフェイスにおける前記ローカルデバイスに対するリモートデバイスのアタッチメント状態の変化であって、前記USBインターフェイスでのキャパシタンス変化に対応する、前記リモートデバイスのアタッチメント状態の変化の検出を、周期的にトリガするステップ、」といい得るステップを有している。

以上を踏まえると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
(引用発明)
「USBインターフェイスを介して接続される、ローカルデバイスとリモートデバイスとの間のアタッチメント状態の変化を管理するための方法であって、
前記ローカルデバイスは、制御ユニット及び高周波クロックを備え、前記USBインターフェイスを介して前記リモートデバイスと通信するように適応され、
前記方法は、前記ローカルデバイスにおいて、
前記USBインターフェイスにおける前記ローカルデバイスに対する前記リモートデバイスのアタッチメント状態の変化であって、前記USBインターフェイスでのキャパシタンス変化に対応する、前記リモートデバイスのアタッチメント状態の変化の検出を、周期的にトリガするステップ
を含む方法。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「USBインターフェイス」、「ローカルデバイス」、「リモートデバイス」は、それぞれ、本願発明の「インターフェイス」、「第1のデバイス」、「第2のデバイス」に相当するものといえるから、本願発明と引用発明の間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「インターフェイスを介して接続される、第1のデバイスと第2のデバイスとの間のアタッチメント状態の変化を管理するための方法であって、
前記第1のデバイスは、制御ユニット及び高周波クロックを備え、前記インターフェイスを介して前記第2のデバイスと通信するように適応され、
前記方法は、前記第1のデバイスにおいて、
前記インターフェイスにおける前記第1のデバイスに対する前記第2のデバイスのアタッチメント状態の変化であって、前記インターフェイスでのキャパシタンス変化に対応する、前記第2のデバイスのアタッチメント状態の変化の検出を、周期的にトリガするステップ
を含む方法。」である点。

(相違点)
本願発明1は、「第1のデバイス」が「高周波クロックが非アクティブ化されているスリープ状態」になり得るものであることを前提とした発明であり、その「高周波クロックが非アクティブ化されているスリープ状態」において、「(1)前記インターフェイスにおける前記第1のデバイスに対する前記第2のデバイスのアタッチメント状態の変化であって、前記インターフェイスでのキャパシタンス変化に対応する、前記第2のデバイスのアタッチメント状態の変化の検出を、低周波クロックに基づいて、周期的にトリガするステップ」というステップと、「(2)前記アタッチメント状態の変化が検出されると、電気的な方法で、前記変化を前記制御ユニットに通知し、前記高周波クロックをアクティブ化することにより、前記スリープ状態から前記第1のデバイスを復帰させるステップ」というステップを実行することを含むものであるのに対し、
引用発明は、「第1のデバイス」が「高周波クロックが非アクティブ化されているスリープ状態」になり得るものであることを前提としたものではなく、「高周波クロックが非アクティブ化されているスリープ状態」において本願発明の上記(1)、(2)に対応するステップを実行することを含むものではない点。

5.判断
(1)上記相違点について
以下の事情を総合すると、引用発明において上記相違点に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が容易に推考し得たことというべきである。

ア.平成28年1月18日付けの拒絶理由通知で引用した特開2000-183894号公報(以下、「引用文献2」という。には、次の記載がある。
「【要約】
【課題】低消費電力であるがクロック再開に時間を要するという特徴を有するクロック発生装置を用いたUSB伝送制御装置の低消費電力化を図る。
【解決手段】低消費電力であるがクロック再開に時間を要する拡張伝送クロッククロック発生装置16の他に、そのクロック発生装置16からの伝送クロックCLK#1よりもクロック周波数の低い低速クロックCLK#2を発生する低速クロック発生装置17が設けられている。USB伝送制御部12のサスペンド期間中は、伝送クロックCLK#1の発生は停止され、ポート上のイベント発生を監視するイベント監視装置13のみが、低速クロックCLK#2によって動作する。よって、イベント発生からの応答時間の制約を満足しつつ、アイドル時に伝送クロックを停止できるようになり、十分な低消費電力化を図ることが可能なUSB伝送制御装置を実現できる。」

「【特許請求の範囲】
【請求項1】 データ入出力のためのポートを介して外部デバイスとの間のデータ伝送を行う伝送制御装置において、
第1のクロック信号を発生する第1のクロック発生装置と、
前記第1のクロック信号が動作クロックとして供給され、前記ポートを介したデータ伝送動作を実行する伝送制御手段であって、前記データ伝送動作を実行する動作状態と、前記データ伝送動作が停止される停止状態とを有し、アイドル時に前記停止状態に移行し、所定のイベント発生が検出されたときに前記停止状態から抜け出す伝送制御手段と、
前記第1のクロック発生装置を制御し、前記伝送制御装置が停止状態の期間中前記第1のクロック信号の発生を停止させるクロック制御手段と、
前記第1のクロック発生装置から発生される第1のクロック信号よりも低周波数の第2のクロック信号を発生する第2のクロック発生装置と、
前記第2のクロック信号が動作クロックとして供給され、前記伝送制御手段が停止状態の期間中前記ポートの状態を監視し、所定のイベントの発生を検出したとき、そのイベント発生が検出されたポートに特定の応答信号を送信すると共に、前記クロック制御手段に前記第1のクロック信号の発生再開を要求するイベント監視手段とを具備することを特徴とする伝送制御装置。」

「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は伝送制御装置に関し、特に低消費電力化のための停止状態を有し、且つ所定のイベント発生時に即座にそれに応答することが必要とされる伝送制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、コンピュータや各種電子機器には、データ通信のための伝送制御装置が設けられている。このような伝送制御装置を含む機器においては、通常、データ伝送動作が行われていないアイドル期間中その消費電力を低減させるための省電力機能が設けられている。従来の省電力機能としては、
1)間欠受信状態でCPUクロックを停止し、データを受信した際、データをバッファに格納すると共に発振回路を起動してCPUを通常モードに復帰させる携帯端末(特開平10-145446号公報)
2)受信期間のみ復調装置の動作クロックを供給する受信装置(特開平10-32544号公報)
3)電話回線からの呼び出し信号を含む外部からの入力が適当な時間ない場合にクロックを停止し、入力があると再開する情報処理装置(特開平8?221148号公報)
などが知られている。
【0003】これら従来の省電力機能は、基本的に、アイドル時にクロックを停止し、データ受信などのイベント発生に応答してクロック供給を再開するというものである。
【0004】ところで、最近では、コンピュータの標準インターフェイスとして、USB(Universal Serial Bus)仕様の伝送制御装置が多く用いられ始めている。USB仕様(Universal Serial Bus Specification Revision 1.0)においては、USB伝送制御装置の低消費電力化のために、サスペンドと称する停止状態が定義されている。この停止状態においては、データ入出力のためのポートを介した伝送信号の送受信は一切行われず、内部状態も不変である。USB伝送制御装置を一旦サスペンドさせると、ポートでイベントが発生するか、上位コントローラがサスペンドを解除しない限り、一切の伝送動作は行われない。このため、サスペンド中は、USB伝送制御装置へのクロック供給は本来必要のないものである。
【0005】しかし、低周波数の水晶振動子とPLL回路とからなるクロック発生装置を利用するUSB伝送制御装置においては、その特性上、アイドル時にクロックを停止し、イベント発生に応答してクロック供給を再開するという従来の制御をそのまま適用することは困難である。これは、次の理由による。
【0006】すなわち、この種のクロック発生装置は消費電力が小さいが、発振開始までに数十msの時間を要するという特徴を持っている。また、USB仕様では、サスペンド中にポートにイベント(デバイスの接続、切断、リモートウェイクアップ要求、過電流)が発生した場合、それに即座に反応することが要求されている。特にリモートウェイクアップ要求発生時には、要求されたポートおよび他のイネーブルポートに対して100μs以内にレジューム信号送信を開始することが要求されている。
【0007】したがって、発振開始までに時間のかかる低消費電力型のクロック発生装置を用いたUSB伝送制御装置においては、もしサスペンド時にクロックを停止し、イベント発生に応答してクロック供給を再開するという従来のクロック制御をそのまま適用すると、クロック発生装置からのクロック信号の再開(正常なクロック信号の発振開始)までに時間がかかり、リモートウェイクアップ要求に対して100μs以内にレジューム信号を送信するという規格を満足できなくなってしまう。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】上述したように、従来では、発振開始までに多くの時間を要するクロック発生装置を利用し、且つイベント発生時にそのイベントに即座に応答することが必要とされるUSB伝送制御装置においては、たとえそれが停止状態であってもクロック供給を停止させることができず、常時クロックを供給しておくことが必要とされた。このため、従来では、十分な低消費電力化を図ることができなかった。
【0009】本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、発振開始までに多くの時間を要するクロック発生装置を使用する伝送制御装置においても、イベント発生からの応答時間の制約を満足しつつ、アイドル時にクロックを停止できるようにし、十分な低消費電力化を図ることが可能な伝送制御装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】上述の課題を解決するため、本発明は、データ入出力のためのポートを介して外部デバイスとの間のデータ伝送を行う伝送制御装置において、第1のクロック信号を発生する第1のクロック発生装置と、前記第1のクロック信号が動作クロックとして供給され、前記ポートを介したデータ伝送動作を実行する伝送制御手段であって、前記データ伝送動作を実行する動作状態と、前記データ伝送動作が停止される停止状態とを有し、アイドル時に前記停止状態に移行し、所定のイベント発生が検出されたときに前記停止状態から抜け出す伝送制御手段と、前記第1のクロック発生装置を制御し、前記伝送制御装置が停止状態の期間中前記第1のクロック信号の発生を停止させるクロック制御手段と、前記第1のクロック発生装置から発生される第1のクロック信号よりも低周波数の第2のクロック信号を発生する第2のクロック発生装置と、前記第2のクロック信号が動作クロックとして供給され、前記伝送制御手段が停止状態の期間中前記ポートの状態を監視し、所定のイベントの発生を検出したとき、そのイベント発生が検出されたポートに特定の応答信号を送信すると共に、前記クロック制御手段に前記第1のクロック信号の発生再開を要求するイベント監視手段とを具備することを特徴とする。
【0011】この伝送制御装置においては、伝送制御手段の動作クロックとして用いられる第1のクロック発生装置の他に、その第1のクロック発生装置からの第1のクロック信号よりもクロック周波数の低い第2のクロック信号を発生する第2のクロック発生装置が設けられている。停止状態の期間中は、第1のクロック信号の発生は停止され、ポート上のイベント発生を監視するイベント監視手段のみが、第2のクロック信号によって動作する。この場合、第2のクロック信号の周波数は、イベント検出から所定時間内に応答信号を送信することが可能な必要最小限の周波数であれば良く、第2のクロック信号による電力消費は、第1のクロック信号による電力消費よりも少ない。よって、第1のクロック発生装置として発振開始までに時間のかかるPLL構成の低消費電力型発振器を用いた場合でも、イベント発生からの応答時間の制約を満足しつつ、アイドル時に第1のクロック発生装置のクロックを停止できるようになり、十分な低消費電力化を図ることが可能となる。」

イ.平成28年1月18日付けの拒絶理由通知で引用した特開2004-110716号公報(以下、「引用文献3」という。)には、次の記載がある。
「【要約】
【課題】USB・OTG等のインタフェース回路の低消費電力化を図る。
【解決手段】CR発振回路50で生成された低周波のクロック信号CLKに従い、検出部10で信号VBUSの雑音除去と検出が行われて検出信号VBDが処理制御部70に与えられる。検出部10で検出された信号VBCは、更に動作許可信号ENBとして水晶発振回路60に与えられる。これにより、信号VBUSでデータ通信が指定されている時、水晶発振回路60が動作して高周波のクロック信号CKが通信機能部80に供給され、データ通信が行われる。非通信のときは動作許可信号ENBが与えられず、水晶発振回路60は停止する。CR発振回路60の消費電力は小さいので、非通信時の消費電力を低減できる。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタ側として設定された第1の装置とスレーブ側として設定された第2の装置のそれぞれに設けられ、マスタ側から出力される制御信号に基づいて該第1及び第2の装置間で相互に直列データ通信を行うインタフェース回路であって、
動作許可信号が与えられたときにデータ通信用の第1のクロック信号を生成する第1の発振回路と、
前記第1のクロック信号が与えられたときに相手側の装置との間で直列データ通信を行う通信機能部と、
前記第1のクロック信号よりも低い周波数の第2のクロック信号を発振する第2の発振回路と、
前記第2のクロック信号に基づいて前記制御信号を検出し、該制御信号によってデータ通信状態が指定された時に前記動作許可信号を出力する検出部とを、
備えたことを特徴とするインタフェース回路。」

「【0005】
OTG機能を有するUSBでは、VBUS信号を利用して周辺機器の低消費電力化を可能としている。即ち、マスタとして設定された周辺機器は、D+,D-信号によって周辺機器同士でデータ通信を行う期間、VBUS信号を“H”レベルに駆動し、通信が不要になったときに、VBUS信号を“L”レベルにする。従って、VBUS信号が“L”のときは通信を実行する必要がないので、通信機能に関連する大部分のロジック回路を停止して、低消費電力モードに移行することができる。
【0006】
但し、低消費電力モードにおいても、ID信号とVBUS信号の変化を検出する検出回路を起動させておき、これらの信号の変化を検出した時に、通信機能やマスタ/スレーブ切替機能等のロジック回路を再起動させる必要がある。
【0007】
従来のOTG機能を有するUSBインタフェース回路では、マスタ発振器で生成されたクロック信号を分周回路で分周して低周波クロックを生成し、この低周波クロックに基づいてID信号とVBUS信号の変化の有無を周期的に検出するように構成している。そして、信号の変化が検出されたときに、マスタ発振器のクロック信号をロジック回路に供給し、低消費電力モードから抜けるようにしている。なお、USBインタフェース回路ではないが、例えば、特許文献1、2には、低消費電力モードと通常動作モードの切り替えに、同様の構成を用いたものが記載されている。
【0008】
【特許文献1】
特開2001-211276号公報
【特許文献2】
特開2002-152439号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のOTG機能を有するUSBインタフェース回路では、次のような課題があった。
【0010】
即ち、信号の変化を検出するために、マスタ発振器と分周回路を常に動作させておく必要がある。マスタ発振器のクロック信号は、USB規格によって周波数48MHz、精度500ppmと規定されており、マスタ発振器自体の消費電力が大きいと共に、このクロック信号を分周する分周器の消費電力も大きくなり、低消費電力化に限界があった。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために、本発明の請求項1?3に係る発明は、マスタ側として設定された第1の装置とスレーブ側として設定された第2の装置のそれぞれに設けられて、マスタ側から出力される制御信号に基づいてこの第1と第2の装置間で相互に直列データ通信を行うインタフェース回路を、動作許可信号が与えられたときにデータ通信用の第1のクロック信号を生成する第1の発振回路と、第1のクロック信号が与えられたときに相手側の装置との間で直列データ通信を行う通信機能部と、第1のクロック信号よりも低い周波数の第2のクロック信号を発振する第2の発振回路と、第2のクロック信号に基づいて前記制御信号を検出し、該制御信号によってデータ通信状態が指定された時に前記動作許可信号を出力する検出部とで構成している。
【0012】
これにより、次のような作用が行われる。
【0013】
例えば、CR発振器で構成された第2の発振回路によって低周波の第2のクロック信号が常時生成され、検出部に与えられる。検出部では、第2のクロック信号に従って制御信号の検出が行われ、データ通信状態が指定された時に、検出部から第1の発振回路に動作許可信号が出力される。第1の発振回路では、例えば水晶発振器によって、通信用の高周波の第1のクロック信号が生成され、通信機能部に与えられる。これにより、相手側の装置との間で、相互にデータ通信が行われる。」

ウ.これらの記載によれば、引用発明と同じUSBの技術分野において、インターフェイス回路の低消費電力化を図るべく次のような構成を採用することが、本願優先日前に周知であったと認められる。
「インターフェイスを介して第2のデバイスと接続される第1のデバイスを高周波クロックが非アクティブ化されているスリープ状態になり得るものとし、その高周波クロックが非アクティブ化されているスリープ状態において、インターフェイスにおけるイベントを低周波クロックに基づいて周期的に検知し、イベントが検知されると、電気的な方法で、そのイベントを制御ユニットに通知し、前記高周波クロックをアクティブ化することにより、前記スリープ状態から前記第1のデバイスを復帰させる構成」

エ.一方、引用発明においても低消費電力化が求められることは当然のことであるし、引用発明でいう「リモートデバイスのアタッチメント状態の変化」は、「インターフェイスにおけるイベント」の一種である(引用文献2【0006】「USB仕様では、サスペンド中にポートにイベント(デバイスの接続、切断、リモートウェイクアップ要求、過電流)が発生した場合」の記載参照。)から、そこに上記周知の構成が有用であることは、当業者に明らかである。
そして、引用発明における「第2のデバイスのアタッチメント状態の変化の検出を、周期的にトリガするステップ」を上記周知の構成における低周波クロックに基づいて実行させるようにできない理由はない。

オ.してみれば、引用発明において上記周知の構成を採用し、その「第2のデバイスのアタッチメント状態の変化の検出を、周期的にトリガするステップ」を上記周知の構成における低周波クロックに基づいて実行させるようにすることは、当業者が容易になし得たことである。

カ.以上のことは、引用発明において上記相違点に係る本願発明の構成を採用することが、当業者にとって容易であったことを意味する。

(2)本願発明の効果について
本願発明の効果は、引用発明に上記周知技術を適用することで容易に想到される構成のものが奏するであろうと当業者が予測し得る範囲を超えるものではない。
したがって、本願発明の効果の存在をもって本願発明の進歩性を肯定することはできない。

(3)請求人の主張について
請求人は、平成28年4月18日付け意見書において、大略次ような主張をしている。
ア.引用文献1に記載された発明は、電気回路の電力供給モード(スリープ状態、スリープ状態からの復帰)に基づいて、クロック速度を変える技術に対して適用されるものではないから、当業者は、引用文献1に記載された発明と、アイドル時に伝送クロックを停止する引用文献2、3に記載された発明とを組み合わせることは行わない。
イ.引用文献1には、高周波クロックを用いることにより消費電力が増加するという課題に対する認識が全くなく、当業者において、上記課題に対する認識がなされていない引用文献1記載の発明と、引用文献2、3に記載の発明とを組み合わせる動機はない。
ウ.引用文献1と引用文献2、3のUSB仕様のヴァージョンは異なるから、当業者は、引用文献2、3記載の発明を引用文献1記載の発明と組み合わせることはしない。

しかしながら、請求人の上記主張は、次の理由で、いずれも採用できない。
(ア)上記ア.イの趣旨の主張について
引用文献1自体に、「電気回路の電力供給モード(スリープ状態、スリープ状態からの復帰)に基づいて、クロック速度を変える技術に対して適用されること示す記載」や、「高周波クロックを用いることにより消費電力が増加するという課題に対する認識についての記載」がないことは、請求人主張のとおりであるが、それらのことは、引用発明に引用文献2、3に示される周知技術を適用することが当業者にとって困難であったことを何ら意味しない。
なぜならば、省電力という課題は、引用発明にも当然に妥当する普遍的課題であるし、引用文献2、3に示される周知技術は、引用発明と同じく高周波クロックを使用するUSB規格に関する技術でもあるから、引用発明が属するUSB規格に関する技術分野の当業者は、引用文献1自体に記載がなくても、引用文献2、3に示される上記周知技術が引用発明においても有用であることに、容易に想到し得たと考えられるからである。

(イ)上記ウ.の趣旨の主張について
引用文献1と引用文献2、3のUSB仕様のヴァージョンが異なることも、請求人主張の通りであるが、そのことも、引用発明に引用文献2、3に示される周知技術を適用することが当業者にとって困難であったことを何ら意味しない。
なぜならば、引用文献1と引用文献2、3のUSB仕様のヴァージョンが異なるからといって、引用発明に引用文献2、3に示される周知技術を適用することが困難であったと考えるべき理由は何もないからである。

6.まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明と、引用文献2、3に示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた発明である。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明と、引用文献2、3に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-25 
結審通知日 2016-05-27 
審決日 2016-06-07 
出願番号 特願2012-519017(P2012-519017)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 稲葉 崇  
特許庁審判長 和田 志郎
特許庁審判官 小曳 満昭
高瀬 勤
発明の名称 USBアタッチメントの検出  
代理人 吉元 弘  
代理人 勝沼 宏仁  

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