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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05B
管理番号 1320821
審判番号 不服2015-21796  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-08 
確定日 2016-11-08 
事件の表示 特願2011-255956号「LED駆動装置及びそれを用いた照明装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月 6日出願公開、特開2013-110061号、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年11月24日の出願であって、平成27年5月1日付けで拒絶の理由が通知され、同年7月13日付けで意見書が提出されたが、同年8月31日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年12月8日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされたものである。

第2 平成27年12月8日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1 補正の内容
(1) 請求項1について
本件補正は、特許請求の範囲について補正をするものであって、請求項1について、
<補正前の請求項1>
「直流電源に接続されて前記直流電源の電源電圧を昇圧して中間電圧を出力する昇圧回路と、複数の発光ダイオードから成る光源部に接続されて前記昇圧回路の前記中間電圧を降圧して負荷電圧を前記光源部に出力する降圧回路と、前記昇圧回路及び前記降圧回路を制御する主制御回路と、外部から設定される前記光源部の調光率に基づいて前記主制御回路に前記光源部を調光させる調光制御回路とを備え、前記降圧回路は、少なくともスイッチング素子を有し、前記主制御回路は、前記降圧回路の前記スイッチング素子を所定の周波数でPWM制御し、且つ前記電源電圧が前記負荷電圧よりも小さい場合と、前記電源電圧が前記負荷電圧よりも大きい場合とで前記昇圧回路又は前記降圧回路の動作を切り替えることで前記光源部を調光することを特徴とするLED駆動装置。」
を、
<補正後の請求項1>
「直流電源に接続されて前記直流電源の電源電圧を昇圧して中間電圧を出力する昇圧回路と、複数の発光ダイオードから成る光源部に接続されて前記昇圧回路の前記中間電圧を降圧して負荷電圧を前記光源部に出力する降圧回路と、前記昇圧回路及び前記降圧回路を制御する主制御回路と、外部から設定される前記光源部の調光率に基づいて前記主制御回路に前記光源部を調光させる調光制御回路とを備え、前記降圧回路は、少なくともスイッチング素子を有し、前記主制御回路は、前記降圧回路の前記スイッチング素子を所定の周波数でPWM制御し、且つ前記電源電圧が前記負荷電圧よりも小さい場合と、前記電源電圧が前記負荷電圧よりも大きい場合とで前記昇圧回路又は前記降圧回路の動作を切り替えることで前記光源部を調光し、
さらに、前記主制御回路は、前記電源電圧が前記負荷電圧よりも小さい場合には、前記昇圧回路を動作させ、前記電源電圧が前記負荷電圧よりも大きい場合には、前記昇圧回路の動作を停止させて前記電源電圧を前記降圧回路に入力させることを特徴とするLED駆動装置。」
とする補正(以下、「補正事項1」という。)である(下線は、請求人が付した補正箇所である。)。

(2) 請求項2?6について
請求項2?6は、それぞれ請求項1を引用するものであるから、本件補正は請求項2?6についても、それぞれ補正事項1と同様の補正をするものである(以下、「補正事項2?6」という。)。

(3) 明細書の補正について
段落【0015】に、補正事項1の下線部と同様の記載を追加するものである(以下、「明細書の補正事項」という。)。

2 補正の適否
(1) 補正事項1について
本件補正の補正事項1は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「主制御回路」について、本願の願書に最初に添付された明細書の【0028】の「昇圧回路1は、入力電圧V1が出力電圧V2よりも小さい場合には、中間電圧VC1を所定の電圧値で一定となるように制御する(図2の(1)参照)。他に、入力電圧V1が出力電圧V2よりも小さい場合には、昇圧回路1は、調光制御回路5からの調光信号を受けて中間電圧VC1を変化させることで、出力電流I1を変化させて光源部3を調光する(図2の(2)参照)。また、昇圧回路1は、入力電圧V1が出力電圧V2よりも大きい場合には、その動作を停止させることで入力電圧V1の昇圧を行わないようにする(図2の(3)参照)。」(下線は当審で付与。以下同様。)との記載を根拠として「前記主制御回路は、前記電源電圧が前記負荷電圧よりも小さい場合には、前記昇圧回路を動作させ、前記電源電圧が前記負荷電圧よりも大きい場合には、前記昇圧回路の動作を停止させて前記電源電圧を前記降圧回路に入力させる」との限定を付加するものであるから、発明特定事項を限定するものである。そして、【0032】の「本基本形態では、入力電圧(電源電圧)V1と出力電圧(負荷電圧)V2との大小に応じて主制御回路4が昇圧回路1又は降圧回路2の動作を切り替えるので、安定した調光制御を行うことができる。」との記載に鑑みれば、当該【0028】の「入力電圧」及び「出力電圧」はそれぞれ「電源電圧」及び「負荷電圧」を指すものであって、また、主制御回路が昇圧回路を動作及び停止させることも明らかであるから、補正事項1は新規事項を追加するものではない。
したがって、本件補正の補正事項1は、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものであり、また、その補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、当該補正事項は、特許法第17条の2第4項に違反するところもない。

そこで、本件補正後の請求項1(上記「1(1)」の「<補正後の請求項1>」参照)に記載された発明(以下、「補正発明1」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

ア 刊行物等の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開2011-171232号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。

(1a) 「【0001】
本発明は、LED点灯回路に関するものである。

【0003】
従来の点灯回路は、交流電源を入力電源とし、光源と、ダイオードブリッジと、昇圧チョッパ回路と、降圧チョッパ回路と、制御部とで構成されている。ダイオードブリッジは、交流電源から入力される交流電圧を整流し、整流電圧を昇圧チョッパ回路に出力する。昇圧チョッパ回路は、具備しているスイッチング素子が制御部によって発振制御されることで、ダイオードブリッジが出力する整流電圧を昇圧すると共に、入力電流を正弦波に近づけることで入力電流の力率を改善する。降圧チョッパ回路は、具備しているスイッチング素子が制御部によって発振制御されることで、昇圧チョッパ回路の出力電圧を降圧して、光源に直流電圧を印加する。

【0006】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、昇圧チョッパ回路とLED電源供給部を備え、始動時にLED光源部に過電流が流れることを防止するLED点灯回路を提供することにある。」

(1b) 「【0011】
(実施形態)
本発明の実施形態のLED点灯回路の概略回路構成図を図1に示す。本実施形態のLED点灯回路は、直流電源Eを入力電源とし、昇圧チョッパ回路1と、降圧チョッパ回路2(LED電源供給部)と、制御部3と、LED光源部4とで構成されている。
【0012】
直流電圧Eは、直流電圧V1(第1の直流電圧)を出力している。また、直流電圧Eの出力端間に昇圧チョッパ回路1が接続されている。
【0013】
昇圧チョッパ回路1は、スイッチング素子Q1(第1のスイッチング素子)と、インダクタL1と、ダイオードD1と、コンデンサC1とで構成されている。なお、スイッチング素子Q1はnチャンネルMOSFETで構成されており、コンデンサC1は電解コンデンサで構成されている。
【0014】
直流電源Eの出力端間に、インダクタL1とダイオードD1とコンデンサC1の直列回路が接続されている。インダクタL1は、一端が直流電源Eの正極に接続され、他端がダイオードD1のアノードに接続されている。また、コンデンサC1は、正極がダイオードD1のカソードに接続され、負極が直流電源Eの負極に接続されている。
【0015】
また、スイッチング素子Q1が、ダイオードD1およびコンデンサC1に並列接続されている。スイッチング素子Q1は、ドレインがダイオードD1のアノードに接続され、ソースがコンデンサC1の負極に接続され、ゲートが制御部3に接続されている。
【0016】
上記の構成で昇圧チョッパ回路1は、スイッチング素子Q1が発振制御されることによって、直流電源Eから入力される直流電圧V1を昇圧して、コンデンサC1の両端に直流電圧V2(第2の直流電圧)を生成する。また、昇圧チョッパ回路1は、力率改善回路(PFC(Power Factor Correction))の機能を有しており、スイッチング素子Q1が発振制御されることによって、入力電流を正弦波に近づけることで入力電流の力率を改善する。
【0017】
降圧チョッパ回路2は、昇圧チョッパ回路1の出力端に接続されている。降圧チョッパ回路2は、スイッチング素子Q2(第2のスイッチング素子)と、インダクタL2と、ダイオードD2と、コンデンサC2とで構成されている。なお、スイッチング素子Q2はnチャンネルMOSFETで構成されており、コンデンサC2は電解コンデンサで構成されている。
【0018】
コンデンサC1の両端に、スイッチング素子Q2とインダクタL2とコンデンサC2の直列回路が接続されている。スイッチング素子Q2は、ドレインがコンデンサC1の正極に接続され、ソースがインダクタL2の一端に接続され、ゲートが制御部3に接続されている。コンデンサC2は、正極がインダクタL2の他端に接続され、負極がコンデンサC1の負極に接続されている。

【0020】
上記の構成で降圧チョッパ回路2は、スイッチング素子Q2が発振制御されることによって、昇圧チョッパ回路1が出力する直流電圧V2を降圧して、コンデンサC2の両端に直流電圧V3(第3の直流電圧)を生成する。
【0021】
LED光源部4は、複数の発光ダイオードで構成されており、降圧チョッパ回路2の出力端間に接続されている。LED光源部4は、アノード側がコンデンサC2の正極に接続され、カソード側がコンデンサC2の負極側に接続されている。上記の構成によって、降圧チョッパ回路2が出力する直流電圧V3によってLED光源部4にLED電流が流れて点灯する。
【0022】
また、制御部3は、昇圧チョッパ回路1のスイッチング素子Q1および、降圧チョッパ回路2のスイッチング素子Q2を発振制御している。
【0023】
本実施形態の制御部3は、LED点灯回路の始動時に、まずスイッチング素子Q2の発振制御を開始する。また、スイッチング素子Q2の発振周波数およびデューティ比が、予め設定された設定値に安定するまでの時間を発振安定時間Tとする。そして、スイッチング素子Q2の発振制御が開始されてから、発振安定時間Tの経過以後にスイッチング素子Q1の発振制御を開始して、昇圧チョッパ回路1を駆動させる。したがって、スイッチング素子Q2の発振制御が安定した後に、昇圧チョッパ回路1から直流電圧V2が出力されるので、LED光源部4に直流電圧V3を安定して出力することができる。そのため、スイッチング素子Q2の発振制御開始直後における発振制御が不安定な期間は、昇圧チョッパ回路1が駆動しておらず、降圧チョッパ回路2から電圧が出力されないので、LED光源部4に過電流が流れることを防止することができる。」

(1c) 図1には以下の図が記載されている。


イ 引用文献1に記載された発明
(ア) 引用文献1には、
a LED点灯回路は、直流電源Eを入力電源とし、昇圧チョッパ回路1と、降圧チョッパ回路2(LED電源供給部)と、制御部3と、LED光源部4とで構成されていること(摘示(1b)【0011】)、
b
(a) 直流電圧Eの出力端間に昇圧チョッパ回路1が接続されていること(摘示(1b)【0012】)、
(b) 直流電圧Eは、直流電圧V1を出力するものであること(摘示(1b)【0012】)、
(c) 昇圧チョッパ回路1は、直流電源Eから入力される直流電圧V1を昇圧して、直流電圧V2を生成すること(摘示(1b)【0016】)、
c
(a) LED光源部4は、複数の発光ダイオードで構成されていること(摘示(1b)【0021】)、
(b) LED光源部4は、降圧チョッパ回路2の出力端間に接続されていること(摘示(1b)【0021】)、
(c) 降圧チョッパ回路2は、昇圧チョッパ回路1が出力する直流電圧V2を降圧して、直流電圧V3を生成すること(摘示(1b)【0020】)、
(d) 降圧チョッパ回路2が出力する直流電圧V3によってLED光源部4にLED電流が流れて点灯すること(摘示(1b)【0021】)、
d 制御部3は、昇圧チョッパ回路1のスイッチング素子Q1および、降圧チョッパ回路2のスイッチング素子Q2を発振制御すること(摘示(1b)【0022】)、
e 降圧チョッパ回路2は、スイッチング素子Q2と、インダクタL2と、ダイオードD2と、コンデンサC2とを有するものであること(摘示(1b)【0017】)、
が記載されており、また、
f 摘示(1b)【0023】より、少なくとも発振安定時間Tの経過以後においては、制御部3が降圧チョッパ回路2のスイッチング素子Q2の発振制御を行う発振周波数は、予め設定された値であるといえること、
g 摘示(1c)、摘示(1b)の【0011】及び【0016】等の記載からみて、摘示(1b)の【0012】の「直流電圧E」は「直流電源E」の誤記であること、
が明らかである。

(イ) これらのことから、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「直流電源Eの出力端間に接続され、直流電源Eから入力される直流電圧V1を昇圧して直流電圧V2を生成する昇圧チョッパ回路1と、
複数の発光ダイオードで構成されるLED光源部4が出力端間に接続され、直流電圧V2を降圧してLED光源部4を点灯する直流電圧V3を生成する降圧チョッパ回路2と、
昇圧チョッパ回路1のスイッチング素子Q1および、降圧チョッパ回路2のスイッチング素子Q2を発振制御する制御部3と、
降圧チョッパ回路2は、スイッチング素子Q2と、インダクタL2と、ダイオードD2と、コンデンサC2とを有し、
制御部3は降圧チョッパ回路2のスイッチング素子Q2を予め設定された発振周波数で発振制御を行う
LED点灯回路。」

ウ 対比
(ア) 補正発明1と引用発明を対比する。
a 引用発明の「直流電源E」は、その機能からみて補正発明1の「直流電源」に相当し、以下同様に、「昇圧チョッパ回路1」は「昇圧回路」に、「複数の発光ダイオードで構成されるLED光源部4」は「複数の発光ダイオードから成る光源部」に、「降圧チョッパ回路2」は「降圧回路」に、「制御部3」は「主制御回路」に、「スイッチング素子Q2」は「スイッチング素子」に、「LED点灯回路」は「LED駆動装置」に、「直流電圧V1」は「電源電圧」に、「直流電圧V2」は「中間電圧」に、「直流電圧V3」は「負荷電圧」に相当する。
b 上記「a」の相当関係より、
(a) 引用発明の「直流電源Eの出力端間に接続され、直流電源Eから入力される直流電圧V1を昇圧して直流電圧V2を生成する昇圧チョッパ回路1」は補正発明1の「直流電源に接続されて前記直流電源の電源電圧を昇圧して中間電圧を出力する昇圧回路」に相当する。
(b) 引用発明の「複数の発光ダイオードで構成されるLED光源部4が出力端間に接続され、直流電圧V2を降圧してLED光源部4を点灯する直流電圧V3を生成する降圧チョッパ回路2」は補正発明1の「複数の発光ダイオードから成る光源部に接続されて前記昇圧回路の前記中間電圧を降圧して負荷電圧を前記光源部に出力する降圧回路」に相当する。
(c) 引用発明において「降圧チョッパ回路2は、スイッチング素子Q2と、インダクタL2と、ダイオードD2と、コンデンサC2とを有」することは補正発明1の「降圧回路は、少なくともスイッチング素子を有」することに相当する。
c 補正発明1の「昇圧回路及び降圧回路を制御する主制御回路」は、本願明細書【0026】の「主制御回路4は、昇圧回路1及び降圧回路2の各スイッチング素子Q1,Q2のオン/オフを制御することで、中間電圧VC1及び出力電圧V2を制御する」との記載によると、主制御回路は昇圧回路及び降圧回路のスイッチング素子を制御するものであるから、引用発明の「昇圧チョッパ回路1のスイッチング素子Q1および、降圧チョッパ回路2のスイッチング素子Q2を発振制御する制御部3」は、補正発明1の「昇圧回路及び降圧回路を制御する主制御回路」に相当するといえる。
d 引用発明の「制御部3は降圧チョッパ回路2のスイッチング素子Q2を予め設定された発振周波数で発振制御を行う」ことは補正発明1の「主制御回路は、前記降圧回路の前記スイッチング素子を所定の周波数でPWM制御」することと、「主制御回路は、前記降圧回路の前記スイッチング素子を所定の周波数で制御」する限度で一致するといえる。

(イ) 以上によれば、補正発明1と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「直流電源に接続されて前記直流電源の電源電圧を昇圧して中間電圧を出力する昇圧回路と、複数の発光ダイオードから成る光源部に接続されて前記昇圧回路の前記中間電圧を降圧して負荷電圧を前記光源部に出力する降圧回路と、前記昇圧回路及び前記降圧回路を制御する主制御回路と、を備え、前記降圧回路は、少なくともスイッチング素子を有し、前記主制御回路は、前記降圧回路の前記スイッチング素子を所定の周波数で制御するLED駆動装置。」

<相違点1>
補正発明1では、「外部から設定される前記光源部の調光率に基づいて前記主制御回路に前記光源部を調光させる調光制御回路を備え」る構成であるのに対し、引用発明ではそのような構成を有しない点。
<相違点2>
補正発明1では、主制御回路による降圧回路のスイッチング素子の所定の周波数による制御は「PWM制御」であるのに対し、引用発明では「発振制御」である点。
<相違点3>
補正発明1では、主制御回路の制御は「前記電源電圧が前記負荷電圧よりも小さい場合と、前記電源電圧が前記負荷電圧よりも大きい場合とで前記昇圧回路又は前記降圧回路の動作を切り替えることで前記光源部を調光」する構成であり、さらに、「前記電源電圧が前記負荷電圧よりも小さい場合には、前記昇圧回路を動作させ、前記電源電圧が前記負荷電圧よりも大きい場合には、前記昇圧回路の動作を停止させて前記電源電圧を前記降圧回路に入力させる」構成であるのに対し、引用発明ではそのような構成を有しない点。

エ 判断
(ア) 上記相違点について検討する。
a 相違点1について
LED点灯回路において、外部から設定される光源部の調光率に基づいて主制御回路に光源部を調光させる調光制御回路を備えることは従来周知の技術である(例えば原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用された特開2010-118244号公報の図1等に記載の「調光信号出力手段DSG」を参照。)から、引用発明に当該周知技術を適用して当該相違点1に係る補正発明1の構成に想到することは当業者にとって容易である。

b 相違点2について
降圧チョッパ回路のスイッチング素子の制御として、PWM制御は慣用技術であって、引用文献1の摘示(1c)の【0023】に「スイッチング素子Q2の発振周波数およびデューティ比」と記載されていることを鑑みれば、引用発明の発振制御として、発振周波数を固定してデューティ比を変化させる制御であるPWM制御を採用することに格別の困難性はない。

c 相違点3について
(a) 原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された特開2011-130557号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「光源としてLEDを用いた車両用灯具の昇降圧DC-DCコンバータにおいて、入力電圧の変動に対して出力電流を一定に保持することを目的として、直流電源に昇降圧DC-DCコンバータ1の降圧部2が接続され、LED40、40に昇圧部3が接続されたものにおいて、入力電圧Vinが低下してスイッチSW1のオンデューティが90%となったときにスイッチSW1をオンとして定電流クランプスイッチを動作させて導通モードとし、当該導通モードにおいて入力電圧Vinが必要な出力電圧Voutよりも小さくなると昇圧スイッチSW2をスイッチング制御し、LED40、40にかかる余分な電圧Vcが閾値電圧Vth以上になったときに昇圧スイッチSW2をオフとする技術」(以下、「引用文献2の技術」という。)が記載されている(請求項5、【0008】、【0021】?【0022】、【0030】、【0041】?【0054】、【0067】?【0072】、図1、2等)。
(b) 引用文献2の技術において、「光源としてLEDを用いた車両用灯具の昇降圧DC-DCコンバータ」は補正発明1の「LED駆動装置」に、以下同様に、「直流電源」は「直流電源」に、「降圧部2」は「降圧回路」に、「LED40、40」は「複数の発光ダイオードから成る光源部」に、「昇圧部3」は「昇圧回路」に、「スイッチSW1」は「スイッチング素子」に、「入力電圧Vin」は「電源電圧」に、「出力電圧Vout」は「負荷電圧」に相当する。
そうすると、引用文献2の技術は、「電源電圧が負荷電圧よりも小さい場合と、電源電圧が負荷電圧よりも大きい場合とで昇圧回路の動作を切り替え」、さらに、「電源電圧が負荷電圧よりも小さい場合には、昇圧回路を動作させる」点で相違点3に係る補正発明1の構成と一致するものといえる。
(c) しかしながら、引用文献2の技術は、「LED40、40にかかる余分な電圧Vcが閾値電圧Vth以上になったときに昇圧スイッチSW2をオフとする」点で相違点3に係る補正発明1の「電源電圧が前記負荷電圧よりも大きい場合には、前記昇圧回路の動作を停止させて前記電源電圧を前記降圧回路に入力させる」構成と昇圧回路の動作を停止する態様が異なるものであるから、仮に引用発明に引用文献2の技術を適用しても、相違点3に係る補正発明1の構成に至らないことは明らかである。
さらに、引用発明と引用文献2の技術では直流電源及び光源部に接続される昇圧回路及び降圧回路が異なるところ、引用発明においては、昇圧回路を直流電源に接続することで、入力電流の力率を改善する(摘示(1a)【0003】)ものであるから、これと異なる接続の回路である引用文献2の技術を引用発明に適用する動機付けも存在しないといえる。
(d) よって、当該相違点3に係る補正発明1の構成は、引用発明及び引用文献2の技術に基いて当業者が容易になし得るものとはいえない。
(e) なお、平成28年2月9日付けの前置報告書には、「昇圧回路と降圧回路を備えた回路装置において、電源電圧が負荷電圧よりも小さい場合には、前記昇圧回路を動作させ、前記電源電圧が前記負荷電圧よりも大きい場合には、前記昇圧回路の動作を停止させて前記電源電圧を前記降圧回路に入力させることは、…周知技術である」と記載され、当該周知技術を示す文献として特開2003-47238号公報、特開2007-249812号公報、特開平8-149805号公報が提示されている。
しかしながら、これらの文献に記載されているのはいずれも通信機器等の回路であるから、引用発明に当該周知技術を適用する動機付けは見当たらないし、補正発明1は、当該相違点3に係る補正発明1の構成により「回路を複雑化することなくLEDの色の変化を抑えて調光する」(本願明細書の【0014】)という効果を奏するものであって、当該効果は引用発明及び当該周知技術のいずれによっても当業者が予測できる範囲のものともいえない。
よって、当該相違点3に係る補正発明1の構成は、引用発明及び当該周知技術に基いて当業者が容易になし得るものとはいえない。

(イ) 上記「(ア)」のとおり、相違点3に係る補正発明1の構成については、引用発明、引用文献2の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得るものではない。したがって、補正発明1は、引用発明、引用文献2の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、本件補正の補正事項は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(2) 補正事項2?6について
本件補正の補正事項2?6については、それぞれ請求項2?6に記載された発明について、補正事項1と同様の補正をするものであるから、補正事項1と同様に、特許法第17条の2第3項ないし第6項に違反するところはない。

(3) 明細書の補正事項について
明細書の補正事項は、請求項1の記載に整合するよう、上記「第2 1(1)」における補正事項1の下線部と同様の記載を追加するものであるから、上記「(1)」で述べたとおり新規事項を追加するものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

3 むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1?6に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、補正発明1は、上記「第2 2(1)エ」のとおり、当業者が引用発明、引用文献2の技術及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
また、補正発明1を引用する本件補正後の請求項2?6に記載された発明は、補正発明1をさらに限定した発明であるから、当業者が引用発明、引用文献2の技術及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-10-26 
出願番号 特願2011-255956(P2011-255956)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 杉浦 貴之  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 一ノ瀬 覚
小原 一郎
発明の名称 LED駆動装置及びそれを用いた照明装置  
代理人 西川 惠清  
代理人 北出 英敏  
代理人 仲石 晴樹  
代理人 坂口 武  

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