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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61L |
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管理番号 | 1320830 |
審判番号 | 不服2014-16566 |
総通号数 | 204 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-12-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-08-21 |
確定日 | 2016-10-25 |
事件の表示 | 特願2010-519521「被覆」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 2月12日国際公開、WO2009/019477、平成22年11月25日国内公表、特表2010-535563〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 出願の経緯 本願は、平成20年8月7日(パリ条約による優先権主張 2007年8月7日 英国)を国際出願日とする特許出願であって、平成25年6月13日付けで拒絶理由が通知され、同年12月18日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年4月11日付けで拒絶査定され、同年8月21日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年12月16日付けで前置審査の結果が報告され、当審において平成27年9月25日付けで拒絶理由が通知され、平成28年3月28日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明について 本願の請求項1?28に係る発明は、平成28年3月28日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?28にそれぞれ記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下、請求項1に係る発明を「本願発明1」、請求項1?28に係る発明を全体として「本願発明」という。 「【請求項1】 埋込み型医用デバイス用の生体吸収性被覆組成物であって、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、クロトン酸、4-ペンテン酸、2-ヘキセン酸、ウンデシレン酸、ペトロセレン酸、オレイン酸、エルカ酸、2,4-ヘキサジエン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、ヒドロ桂皮酸、4-イソプロピル安息香酸、イブプロフェン、リシノール酸、アジピン酸、スベリン酸、フタル酸、2-ブロモラウリン酸、2,4-ヒドロキシドデカン酸、酪酸、モノブチリン、2-ヘキシルデカン酸、2-ブチルオクタン酸、2-エチルヘキサン酸、2-メチル吉草酸、3-メチル吉草酸、4-メチル吉草酸、2-エチル酪酸、trans-β-ヒドロムコン酸、無水イソ吉草酸、無水ヘキサン酸、無水デカン酸、無水ラウリン酸、無水ミリスチン酸、無水4-ペンテン酸、無水オレイン酸、無水リノール酸、無水安息香酸、ポリ(無水アゼライン酸)、無水2-オクテン-1-イルコハク酸および無水フタル酸からなる群から選択される酸またはその誘導体である少なくとも1種の添加物と配合された均一ポリマーブレンドを含み、前記均一ポリマーブレンドは少なくとも1種の薬剤をさらに含み、前記添加物の量が組成物の2重量%以下である、組成物。 【請求項2】 前記ポリマーが、ポリエステル、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリジオキサノン、ポリアルケノエート、ポリヒドロキシブチレート、ポリオルトエステルおよびそれらの任意のコポリマーまたはブレンドからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。 【請求項3】 前記ポリエステルが、ポリ乳酸、ポリグリコリドまたはポリカプロラクトンからなる群から選択される、請求項2に記載の組成物。 【請求項4】 前記乳酸ポリマーまたはそのコポリマーが、ポリ(L-ラクチド)(PLLA)、ポリ(D,L-ラクチド)(PDLLA)、ポリ(L-ラクチド-co-グリコリド)(PLLA co GA)またはポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)(PDLLA co GA)である、請求項2または3に記載の組成物。 【請求項5】 前記乳酸ポリマーまたはコポリマーがカプロラクトンと重合されている、請求項4に記載の組成物。 【請求項6】 前記コポリマーがポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド-co-カプロラクトン)である、請求項5に記載の組成物。 【請求項7】 前記ポリマー成分がPLLAであり、前記添加物がラウリン酸またはその誘導体である、請求項3から6のいずれかに記載の組成物。 【請求項8】 前記薬剤が、抗炎症剤、細胞傷害剤、血管形成剤、骨形成剤、免疫抑制剤、抗凝血剤、抗血小板剤、抗菌剤または抗生物質からなる群から選択される、請求項1から7のいずれかに記載の組成物。 【請求項9】 請求項1から8のいずれかに記載の組成物の第1の被覆を有する埋込み型医用デバイス。 【請求項10】 前記第1の被覆がデバイスの表面に直接適用されている、請求項9に記載の医用デバイス。 【請求項11】 前記第1の被覆がデバイスの表面に間接的に適用されている、請求項9に記載の医用デバイス。 【請求項12】 デバイスの表面の少なくとも一部が機能化され、それによって前記第1の被覆が機能性分子を通じてデバイスに共有結合的に連結されている、請求項11に記載の医用デバイス。 【請求項13】 前記機能性分子がデバイスの表面上の酸化物または水酸化物と反応して共有結合を形成するアルコキシシランであり、前記ポリマーブレンドがアルコキシシラン分子を通じて機能化表面に共有結合的に連結されている、請求項12に記載の医用デバイス。 【請求項14】 前記アルコキシシラン分子が、1種または複数のアミノ、ヒドロキシル、カルボン酸または酸無水物基をさらに含む、請求項13に記載の医用デバイス。 【請求項15】 デバイスの表面の少なくとも一部と前記第1の被覆との間に第2の被覆組成物が設けられている、請求項9から14のいずれかに記載の医用デバイス。 【請求項16】 前記第2の被覆組成物が、前記第1の被覆のポリマー成分よりも低い分子量を有するポリマー成分を含む、請求項15に記載の医用デバイス。 【請求項17】 前記第1の被覆のポリマー成分がPDLLAであり、前記第2の被覆のポリマー成分がPLA co GAである、請求項15または16に記載の医用デバイス。 【請求項18】 前記第2の被覆組成物が、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、クロトン酸、4-ペンテン酸、2-ヘキセン酸、ウンデシレン酸、ペトロセレン酸、オレイン酸、エルカ酸、2,4-ヘキサジエン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、ヒドロ桂皮酸、4-イソプロピル安息香酸、イブプロフェン、リシノール酸、アジピン酸、スベリン酸、フタル酸、2-ブロモラウリン酸、2,4-ヒドロキシドデカン酸、酪酸、モノブチリン、2-ヘキシルデカン酸、2-ブチルオクタン酸、2-エチルヘキサン酸、2-メチル吉草酸、3-メチル吉草酸、4-メチル吉草酸、2-エチル酪酸、trans-β-ヒドロムコン酸、無水イソ吉草酸、無水ヘキサン酸、無水デカン酸、無水ラウリン酸、無水ミリスチン酸、無水4-ペンテン酸、無水オレイン酸、無水リノール酸、無水安息香酸、ポリ(無水アゼライン酸)、無水2-オクテン-1-イルコハク酸および無水フタル酸からなる群から選択される酸またはその誘導体である少なくとも1種の添加物を含む、請求項15から17のいずれかに記載の医用デバイス。 【請求項19】 前記第2の被覆が少なくとも1種の薬剤をさらに含む、請求項15から18のいずれかに記載の医用デバイス。 【請求項20】 前記薬剤が、抗炎症剤、細胞傷害剤、血管形成剤、骨形成剤、免疫抑制剤、抗凝血剤、抗血小板剤、抗菌剤または抗生物質からなる群から選択される、請求項19に記載の医用デバイス。 【請求項21】 ステント、整形外科インプラントまたは歯科インプラントである、請求項9から20のいずれかに記載の医用デバイス。 【請求項22】 前記ステントが、冠動脈ステント、頚動脈ステント、大動脈ステント、腎ステント、静脈ステントまたは末梢ステントである、請求項21に記載の医用デバイス。 【請求項23】 a)請求項1から8のいずれかに記載の第1の被覆組成物をデバイスの少なくとも一部に適用するステップを含む、医用デバイスを被覆する方法。 【請求項24】 前記第1の被覆組成物の適用に先立ってデバイスの表面の少なくとも一部が機能化される、請求項9に記載の医用デバイスを被覆する方法。 【請求項25】 b)第2の被覆組成物をデバイスの少なくとも一部に適用するステップであって、前記第2の被覆組成物が前記第1の被覆組成物に先立って適用され、前記第2の被覆組成物が前記第1の被覆組成物のポリマー成分よりも低い分子量を有するポリマー成分を有するステップを追加的に含む、請求項23または24に記載の方法。 【請求項26】 前記第2の被覆組成物の適用に先立ってデバイスの表面の少なくとも一部が機能化される、請求項25に記載の方法。 【請求項27】 動物またはヒトの体内に埋め込むための、請求項9から22のいずれかに記載のデバイス。 【請求項28】 請求項1から8のいずれかに記載の組成物を含む、薬剤を搬送するためのビヒクル。」 第3 当審における拒絶理由の概要 上記したように、当審において平成27年9月25日付けで拒絶理由を通知した。その概要は次のとおりである。 「理由1.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしてない。 <<下記省略>>」 第4 当審の判断 1 本願明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載 本願明細書には以下の事項が記載されている。 (1-a)「【0007】 薬剤溶出ステントに用いられる生体吸収性被覆の大部分はポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)またはこの2つのコポリマー(ポリ(ラクチド-co-グリコリド))を基本としている。薬剤溶出プロファイルは主としてポリマーの親水性/疎水性(典型的にはラクチド:グリコリド比によって決定される)の制御によって制御される。残念なことに、親水性/疎水性の同じバランスが分解速度をも制御する。このことは、現在のポリマー被覆において、薬剤溶出プロファイルが本質的に分解プロファイルと深い関係にあることを意味している。したがって、的確な溶出プロファイルを得るためには、新規な薬剤それぞれについて広範囲のポリマーの組成変更が必要であろう。このことは、長期にわたる開発および規制の時間スケールに繋がり得る。」 (1-b)「【0011】 ・・・。添加物の使用によって、特定のポリマー種の分解および溶出プロファイルの関係が少なくとも部分的に切り離され、分解および溶出プロファイルの制御が可能となる。」 (1-c)「【0012】 本発明者らは、ポリマーと完全に混和し、かつ溶出しないある種の添加物を均一にブレンドすることによって、ポリマー、特に乳酸ポリマーの分解速度を制御することが可能であることを見出した。・・・。」 (1-d)「【0017】 たとえば、PLLAは非常に疎水的なポリマーで、薬剤放出プロファイルが遅く、分解時間が長い。ポリマー被覆組成物に添加物を組み込むことによって、分解速度が加速され、薬剤溶出プロファイルが修正される。」 (1-e)「【0022】 選択される添加物の量は、所望の分解速度にも依存することとなる。・・・。」 (1-f)「【0025】 ポリマー成分としてポリ乳酸を含む組成物の多様な分解速度を以下の表に示す。ここで添加物はポリマー成分の2重量%使用している。」 (1-g)「【0028】 本発明のさらなる実施形態においては、分解速度を制御するのみでなく、添加物に誘起される分解プロセスの開始を遅延させることになる添加物の供給が提供される。この遅延は、適切には添加物の酸型に変換可能な添加物の使用によって達成することができる。・・・。」 (1-h)「【0060】 ・・・ ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)(PLGA1)50:50、Mw 5?15k:Sigma Aldrich ポリ(L-ラクチド)(PLLA)、Mw 125k:Smith and Nephew ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)(PLGA2)50:50、Mw 10k:Durect ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)(PLGA3)50:50、Mw 30k:Durect ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド-co-カプロラクトン)(PLGC1)47.5:40:12.5: Smith and Nephew ラウリン酸(LA):Sigma Aldrich ・・・」 (1-i)「【実施例1】 【0061】 ステージ1:清浄化 ・・・ 【0062】 ステージ2:機能化 ・・・ 【0065】 ステージ3:「タイコート」の適用 試料を約50℃のホットプレートに載せ、CHCl_(3)中1%w/wのPLLAまたはPLGA1溶液でプライマー処理した。・・・。次いで試料を100℃で16時間硬化させた。 【0066】 ステージ4:被覆 100℃で硬化させた後、試料を5分間冷却し、次いで約50℃のホットプレートに載せてCHCl_(3)中1%w/wのPLLA溶液で被覆した。・・・。次いで試料を50℃で16時間真空下に乾燥した。 【0067】 ステージ5:試験 接着試験は、「指擦り」せん断試験を用いて実施し、結果は下に示すようにカテゴリーに分けた。 ・・・ 【0071】 ・・・その結果、プライマーとしてPLGA1を使用することによって金属表面への被覆の接着性が大幅に増大することが示される。」 (1-j)「【実施例2】 【0072】 ステンレス鋼のプレートを実施例1と同じ方法で機能化し、プライマー処理した。CHCl_(3)中PLLAおよびラウリン酸(99:1、98:2、96:4)の1%w/w溶液を調製した。次に被覆および試験は、実施例1に概略を示した方法によった。 ・・・ 【0075】 その結果、ステンレス鋼の表面を機能化することによって金属表面への被覆の接着性が改善されることが示される。実験結果はまた、ラウリン酸の添加によって金属表面への被覆の接着量が減少し、ラウリン酸の割合が多くなると接着の損失が大きくなることを示す。」 (1-k)「【実施例3】 【0076】 市販のステンレス鋼ステントを実施例1と同様にしてステージ2まで調製し、次いで下に述べるようにPLGAと結合させた。 【0077】 PLGA結合-「タイコート」 ステントをマンドレルに取り付け、・・・CHCl_(3)中0.5%w/wのPLGA1を含むプライマー溶液で被覆した。・・・。プライマー処理後、ステントを100℃で16時間放置した。 【0078】 被覆 5分間冷却後、ステントをマンドレルに取り付け、・・・CHCl_(3)中0.5%w/wのPLLA、ラパマイシンおよびラウリン酸(75:25:0および74:25:1)溶液で被覆した。・・・。被覆後、ステントを40℃で16時間真空下に乾燥した。」 (1-l)「【0079】 ステントを37℃でHBS-EP緩衝液(・・・)(・・・)に入れ、溶出を紫外/可視分光法でモニターした。それぞれの読みの後で新鮮な緩衝溶液を加え、279nmの累積吸光度を記録した。結果を図3に示すように、PLLA被覆からラパマイシンが放出され、薬剤溶出速度に対するラウリン酸の添加の影響は無視できることが示される。」 (1-m)「【実施例4】 「【0080】 市販のステンレス鋼ステントを実施例1と同様にしてステージ1まで調製し、次いで下に述べるようにPLGA1でプライマー処理した。 【0081】 PLGA結合-「タイコート」 ステントをマンドレルに取り付け、・・・、CHCl_(3)中0.5%w/wのPLGA1を含むプライマー溶液で被覆した。・・・。プライマー処理後、ステントを100℃で16時間放置した。 【0082】 被覆 5分間冷却後、ステントをマンドレルに取り付け、・・・、CHCl_(3)中0.5%w/wのPLGA2、PLGA3、ラパマイシンおよびラウリン酸(30:45:25:0、29.2:43.8:25:2および28.4:42.6:25:4)溶液で被覆した。・・・。被覆後、ステントを40℃で16時間真空下に乾燥した。」 (1-n)「【0083】 ステントを37℃で1%w/w PBS溶液に入れ、溶出を紫外/可視分光法でモニターした。それぞれの読みの後で新鮮な溶液を加え、279nmの累積吸光度を記録した。結果を図4に示すように、ブレンドPLGA被覆からラパマイシンが放出され、薬剤の最初のバーストにはラウリン酸の添加が影響を及ぼすが、薬剤溶出のその後の速度には影響が小さいことが示される。」 (1-o)「【実施例5】 【0084】 316Lステンレス鋼のプレート(50mm×50mm×0.25mm)2枚を実施例1と同様にしてステージ1まで調製した。 【0085】 次にCHCl_(3)中のPLGC1、ラパマイシンおよびラウリン酸(80:20:0および78:20:2)の1%溶液を用いて、いずれかのプレート上にポリマーフィルムをキャストした。プレート上に約100mgのフィルム重量を達成するために充分なポリマーをキャストした。フィルムを40℃で16時間真空下に乾燥した。 【0086】 乾燥後、それぞれのポリマー被覆ステンレス鋼プレートを切断し、インビトロ分解試験用の9個の片とした。 【0087】 インビトロ分解試験 被覆した片をpH7.4のリン酸緩衝生理食塩液(PBS)に浸漬し、温度37℃のインキュベーター中に保持した。所定の時点で試料を取り出し、被覆ポリマーの分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した。」 (1-p)「【0088】 結果を図5に示す。ここで結果は数平均分子量の自然対数、すなわちln(Mn)対時間としてプロットされている。 【0089】 この結果、プロットは最初直線で、「自己触媒的分解モデル」によく合っていることが確認されることが示される。・・・。速度定数kは、データに対する直線状フィットの勾配から得られる。 【0090】 勾配の変化によって示される直線プロットの非連続性は、顕著な質量損失および低分子量可溶性成分の損失の開始に関連していると考えられる。 【0091】 図におけるグラフの当初の勾配から、以下の分解速度が得られた。 0%ラウリン酸: k=0.0557 day^(-1) 2%ラウリン酸: k=0.0764 day^(-1) 【0092】 これらの結果より、この被覆に2%のラウリン酸を添加することによって分解速度が37%増大することが示される。 【0093】 これらの結果より、質量損失の開始に関連する不連続性は、0%ラウリン酸の約21日から、2%ラウリン酸の14日に変化し、添加物によって引き起こされる分解時間の短縮がさらに確認されることも示される。」 (1-q)「【図3】 」 (1-r)「【図4】 」 (1-s)「【図5】 」 2 特許法第36条第6項第1号に規定する要件について 本願発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるという規定に適合するか否かは、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者が本願発明の課題を解決できると認識できるか否か、あるいはその記載や示唆がなくても当業者が出願時の技術常識に照らしてその発明の課題を解決できると認識できるといえるか否かで判断される。 そこで、これらの点を考慮して以下に検討する。 (1) 本願発明が解決しようとする課題 本願発明が解決しようとする課題は、上記摘示(1-a)及び(1-b)から、「特定のポリマー種の分解プロファイルおよび溶出プロファイルを別に制御すること」にあるものと認められる。 なお、本願明細書は、上記摘示(1-a)?(1-s)にもあるように「分解プロファイル」「溶出プロファイル」との用語の他に「分解速度」「薬剤溶出速度」との用語も使用されているところ、「プロファイル」「速度」の厳密な定義づけはなされていないことに加え、上記摘示(1-b)には、「添加物の使用によって、・・・分解(および溶出)プロファイルの制御が可能・・・」と記載される一方、上記摘示(1-c)には、「・・・添加物を均一にブレンドすることによって、ポリマー・・・の分解速度を制御することが可能・・・」と記載され、「分解プロファイル」及び「分解速度」との用語を用いて、同義の内容を記載していることから、「プロファイル」と「速度」とは同義で使用されているものと認められる。以下、当審決においても、「プロファイル」と「速度」とは同義で用いることとする。 (2) 本願明細書の発明の詳細な説明の記載に関する検討 ア 実施例の記載 (ア)実施例1及び実施例2には、摘示(1-i)及び摘示(1-j)のとおり、薬剤が含有されていない被覆組成物に対する「指擦り」せん断試験の結果が記載されている。 上記のとおり、実施例1、2は、被覆組成物に薬剤が含有されていないため、本願発明1の被覆組成物とは直接関係するものではないことに加え、試験内容も本願発明の上記課題とは直接関係するものではない。 そうすると、実施例1、2は、本願発明1の実施例が記載されているものではない。 (イ)実施例3には、摘示(1-k)及び摘示(1-h)のとおり、ポリ(L-ラクチド)Mw125k、ラパマイシン及びラウリン酸を含む被覆組成物が記載されており、摘示(1-q)の図3のとおり、薬剤溶出速度のデータが記載され、摘示(1-l)のとおり、図3のデータを用いた考察が記載されている。 同様に、実施例4には、摘示(1-m)及び摘示(1-h)のとおり、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)Mw10k及びポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)Mw30kのブレンドポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)、並びにラパマイシンおよびラウリン酸を含む被覆組成物が記載されており、摘示(1-r)の図4のとおり、薬剤溶出速度のデータが記載され、摘示(1-n)のとおり、図4を用いた考察が記載されている。 以上のとおり、実施例3及び実施例4の被覆組成物は、本願発明1の被覆組成物に該当するものであるが、摘示(1-l)(1-n)(1-q)(1-r)の記載を詳細に検討しても、溶出速度についての記載があるのみで、分解速度は何ら記載されていない。 (ウ)実施例5には、摘示(1-o)及び摘示(1-h)のとおり、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド-co-カプロラクトン)、ラパマイシン及びラウリン酸を含む被覆組成物が記載されており、摘示(1-s)の図5のとおり、ポリマーの分解速度のデータが記載され、摘示(1-p)のとおり、図5を用いた考察が記載されている。 以上のとおり、実施例5の被覆組成物は、本願発明1の被覆組成物に該当するものであるが、上記摘示(1-p)(1-s)の記載を詳細に検討しても、分解速度についての記載があるのみで、溶出速度については何ら記載されていない。 (エ)ところで、実施例3?5は、各々で使用される被覆組成物に含まれるポリマーの種類及び分子量が、ポリ(L-ラクチド)125k、ブレンドポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)10kまたは30k、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド-co-カプロラクトン)分子量不明と、多岐にわたるものであるところ、ポリマーの種類が異なることに由来する親水性/疎水性のバランス及び分子量により、薬剤溶出速度やポリマーの分解速度が影響を受けるという本願出願時の技術常識(例えば下記文献A、文献B、上記摘示(1-a)参照)を考慮すれば、実施例3または4で用いた特定のポリマーの溶出速度が、親水性/疎水性のバランスや、分子量が異なる実施例5で用いたポリマーの溶出速度を示しているとはいえないこと、また実施例5で用いた特定のポリマーの分解速度が、親水性/疎水性のバランスや、分子量が異なる実施例3または4で用いたポリマーの分解速度を示しているとはいえないことは明らかである。(なお、実施例3と4とを対比すると、ポリマーの種類が異なると、ラウリン酸の添加効果も異なることが見て取れる。そうすると、さらにポリマーの種類の異なる実施例5において、ラウリン酸の添加が、薬剤の溶出速度がどのような影響を与えるのか予測ができないものと解される。) それ故に、実施例3?5の実施例は、上記摘示(1-l)(1-n)(1-p)の記載、上記(1-q)?(1-s)の図面のとおり、各々の特定のポリマーについて、溶解速度及び分解速度のいずれか一方を評価したにとどまるものである。 ○文献A:特開2007-63287号公報 「PL(ポリ乳酸)はPLGA(ポリ(乳酸/グリコール酸)共重合体)よりも疎水性が高く、分解までに要する時間が長い。一方PLGAは、モノマー比率に依存して分解速度が変化する。分子量が大きい方が分解までに要する時間は長い。」(【0040】) ○文献B:特開2007-46050号公報 「生分解性ポリマーの体内での生分解速度は分子量や結晶化度にも影響され、高分子量よりも低分子量のものの方が、結晶性よりも非結晶性の方が分解速度が高くなる。」(【0049】) (オ)以上のことから、本願明細書の実施例1?5の記載からは、本願発明1で特定された被覆組成物を使用することによって、「特定のポリマー種の分解プロファイルおよび溶出プロファイルを別に制御すること」という本願発明の課題が解決できることを、当業者が認識できるとは解し得ないものである。 (カ)なお、実施例3?5は、本願発明1の被覆組成物に該当するものであることに鑑み、念のため、さらに進んで、実施例3?5の図面のデータ及びデータに基づいた考察についての発明の詳細な説明の記載も考慮して検討する。 (キ)実施例3については、薬物溶出速度のデータが図3に示されており、図3からは、ラウリン酸0%含有時と、ラウリン酸1%含有時のデータの重なり具合からみて、ポリ(L-ラクチド)においては、薬剤溶出速度に対するラウリン酸の添加の影響はほとんどないことが見て取れるものであり、それは摘示(1-l)の「結果を図3に示すように、PLLA被覆からラパマイシンが放出され、薬剤溶出速度に対するラウリン酸の添加の影響は無視できることが示される。」とした考察とも一致する。 また、実施例4については、薬剤溶出速度のデータが図4に示されており、図4からは、ラウリン酸0%含有時、ラウリン酸2%含有時、ラウリン酸4%含有時の初期バースト以後の各々のグラフの勾配が同程度であることからみて、ブレンドポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)においては、薬剤溶出速度に対するラウリン酸の添加の影響は、初期バースト時に見られるものの、初期バースト以後はほとんどないことが見て取れるものであり、それは摘示(1-m)の「結果を図4に示すように、ブレンドPLGA被覆からラパマイシンが放出され、薬剤の最初のバーストにはラウリン酸の添加が影響を及ぼすが、薬剤溶出のその後の速度には影響が小さいことが示される。」とした考察とも一致する。 したがって、図3及び図4のデータからは、摘示(1-l)、摘示(1-m)のとおり、ラウリン酸の添加は、ポリ(L-ラクチド)及びブレンドポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)の少なくともある期間の溶出速度には影響を及ぼさないことが読み取れる。 (ク)しかしながら、実施例5については、分解速度のデータが図5に示されているが、図5は、一見して近似直線を作成するためのデータが少ない上、14日目のデータ以外はラウリン酸の有無で大きな差がなく、14日目のデータのみにひきずられた近似直線に基づく解釈がなされているため、図5のみでは、作成した近似直線の精度に疑問が生じるところであり、摘示(1-p)の説明をそのまま受け入れることはできない。 したがって、本願明細書の実施例3?5の実験結果である図3?図5からは、本願発明1で特定された被覆組成物を使用することによって、「特定のポリマー種の分解プロファイルおよび溶出プロファイルを別に制御すること」という本願発明の課題が解決できることを、当業者が認識できるとは解し得ないものである。 (ケ)仮に、図5における近似直線を受け入れたとしても、図5からは、ラウリン酸の添加はポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド-co-カプロラクトン)の分解速度を増大することが読み取れるところ、それは摘示(1-p)の「この被覆に2%のラウリン酸を添加することによって分解速度が37%増大することが示される。」とした考察とも一致する。 しかしながら、上記考察を、上記(キ)で述べた、ラウリン酸はポリ(L-ラクチド)及びブレンドポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)の溶出プロファイルには影響を及ぼさないとの考察と合わせると、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド-co-カプロラクトン)、ポリ(L-ラクチド)、ブレンドポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)の3種類の分解特性、薬物溶出特性についての異同を問わないのであれば、「ラウリン酸の添加は、あるポリマー種の溶出プロファイルには影響を与えず、分解速度を増大させる。」と一応考察することができる。 しかしながら、上記一応の考察は、簡単にいうと「ラウリン酸を添加すると、ポリマーの分解は早くなるが、薬物の溶出速度は変わらない。」ということ、さらにいえば「ラウリン酸を添加すると、ポリマーが分解しても、薬物は溶出することなくステント上にとどまる。」ということを意味するのであるが、これは、被覆していたポリマーが分解すれば、ポリマーに含有されていた薬物の溶出が進むという当然の現象と相反するものであり、合理的な説明がつかない。 したがって、本願明細書の実施例3?5の図面のデータ及びデータに基づいた考察についての発明の詳細な説明の記載からは、本願発明1で特定された被覆組成物を使用することによって、「特定のポリマー種の分解プロファイルおよび溶出プロファイルを別に制御する」という本願発明の課題が解決できることを、当業者が認識できるとは解し得ないものである。 イ 実施例以外の記載 次に実施例以外の、溶出プロファイルと分解プロファイルとを別に制御することに関する記載について検討する。 (ア)本願明細書において、溶出プロファイルと分解プロファイルに関する記載があるのは、上記摘示(1-a)?(1-g)であるが、(1-c)、(1-e)?(1-g)については分解プロファイルのみの記載であり、溶出プロファイルと分解プロファイルとが共に記載されているのは、(1-a)(1-b)(1-d)である。 (イ)そして、上記摘示(1-a)と(1-b)については、本願発明が解決すべき課題として記載されているものであり、上記摘示(1-d)については「PLLAは・・・薬物溶出プロファイルが遅く、分解時間が長い。ポリマー被覆組成物に添加物を組み込むことによって、分解速度が加速され、薬剤溶出プロファイルが修正される。」と記載されおり、「修正」が意味することは厳密には不明であるが、何らかの「変化」であると解すると、添加物を組み込むことによって、分解速度が加速され、溶出速度も変化するものであることを窺わせる記載となるものの、分解速度と溶出速度とを別に制御するということについては、摘示(1-d)や、そのほかの発明の詳細な説明においても、何ら触れられているものではないし、ましてや実施例3の溶出速度を示した図3には、ラウリン酸(添加物)を添加しても、溶出速度が変わらない結果が示されており、摘示(1-d)の記載とは矛盾すらするものである。 (ウ)このように、発明の詳細な説明をみても、実施例に代わる技術的な裏付けや根拠はなく、また、考慮すべき本願出願時の技術常識も見当たらないことから、本願発明1の被覆組成物を用いることによって、「特定のポリマー種の分解プロファイルおよび溶出プロファイルを別に制御する」という本願発明の課題が解決できることを、当業者が認識できるといえるものではない。 (3)小括 したがって、本願明細書の記載をみても、本願発明1で特定された被覆組成物を用いることによって、「特定のポリマー種の分解プロファイルおよび溶出プロファイルを別に制御する」という本願発明の課題が解決できることを、当業者が認識できるといえるものではない。 よって、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明とすることができない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本願特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 したがって、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-05-20 |
結審通知日 | 2016-05-23 |
審決日 | 2016-06-09 |
出願番号 | 特願2010-519521(P2010-519521) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(A61L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 関 景輔、天野 貴子 |
特許庁審判長 |
大熊 幸治 |
特許庁審判官 |
松浦 新司 齊藤 光子 |
発明の名称 | 被覆 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 村山 靖彦 |