• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B62D
管理番号 1320878
審判番号 不服2015-14077  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-27 
確定日 2016-10-26 
事件の表示 特願2013-545071号「自動車の製造方法及び自動車」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月28日国際公開、WO2012/084086、平成26年 1月 9日国内公表、特表2014-500188号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)10月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年12月23日、独国)を国際出願日とする出願であって、その手続きの経緯は以下のとおりである。
平成25年8月20日 :翻訳文提出
平成25年9月5日 :手続補正書の提出
平成26年7月24日付け :拒絶理由の通知
平成26年10月28日 :意見書、手続補正書の提出
平成27年3月23日付け :拒絶査定
平成27年7月27日 :審判請求書の提出

2 本願発明の認定
本願の請求項1-5に係る発明は、平成26年10月28日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項4に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「防食塗装が施され、乗用車の外殻を形成する複数の可動外殻要素(90)および非可動外殻要素(80)が取付けられるシェル(42)を有する乗用車であって、
前記乗用車の前記シェル(42)に防食塗装だけが施され、
前記シェル(42)が可動外殻要素(90)および非可動外殻要素(80)によって完全に覆われることを特徴とする乗用車。」

3 刊行物の記載事項及び刊行物発明
原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開昭62-88678号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1)第3頁左上欄7行目から同頁同欄15行目
「第1図は本発明に係る車体の製造方法により製造された骨格構造体としての車体フレーム10と、この車体フレーム10に取り付けられる各外装部材とを示す。車体フレーム10はエンジンルームを画成するフロント部12と車輌の乗用空間を画成するセンタ部14とトランクルームを画成するリア部16とから基本的に構成され、アルミニウム合金またはマグネシウム合金等を鋳造成形することにより一体的に形成される。」
(2)第4頁右下欄19行目から第5頁左上欄7行目
「このようにして焼なまし処理あるいは溶体化処理された車体フレーム10はショットブラストによりその表面に付着した鋳物砂を吹き飛ばした後、アルカリ洗浄により脱脂し、エポキシ系樹脂を吹き付けて防錆のための塗装処理が施される。次いで、車体フレーム10と共に成形されたブラケット、ステー等に機械加工によって各外装部材を取り付けるための取付穴が形成される。」
(3)第5頁左上欄16行目から同頁右上欄20行目
「次に、以上の工程により製造された車体フレーム10には第1図に示す各外装部材が取り付けられる。すなわち、フロント部12におけるバルクヘッドフレーム18a乃至18eの部分にはバンパー58が取着され、フロントフェンダフレーム20a、20bには前輪を囲繞するフロノドホイールアーチ60およびフロントフェンダ62が取着され、フロントロアフレーム22a、22b間にはフロアパネル64が取着される。また、フロントフェンダフレーム20a、20b、バルクヘッドフレーム18aおよびフロントセンタフレーム38により囲繞される部分にはボンネット66が取着される。同様に、センタ部14におけるサイドフレーム26a乃至26f、28a乃至28fにはフロントドア68、リアドア70が取着され、ルーフフレーム32a乃至32cにはルーフパネル72が取着される。また、リア部16におけるリアフェンダフレーム44a、44bにはリアフェンダ74が取着され、リアフェンダフレーム44a、44b間にはトランクリッド76が取着される。さらに、リアロアフレーム48a、48bにはリアフロアパネル78が取着される。その他、車体フレーム10には、図示しないが、必要に応じてインストルメントパネル、サスペンション等が取着され、車体が構成される。」

以上の記載事項から次の事項が認定できる。
(4)上記記載事項(3)には、バンパー58、フロントホイールアーチ60、フロントフェンダ62、フロアパネル64、ボンネット66、フロントドア68、リアドア70、ルーフパネル72、トランクリッド76、リアフロアパネル78を、それぞれ、車体フレーム10に取着することが記載され、合わせて図1を参照すると、バンパー58、フロントホイールアーチ60、フロントフェンダ62、フロアパネル64、ボンネット66、フロントドア68、リアドア70、ルーフパネル72、トランクリッド76、リアフロアパネル78は、車体の外殻を形成し、かつ、車体フレーム10を覆うものといえる。

これらの記載事項(1)?(3)、認定事項(4)及び図面内容を総合し、本願発明の記載ぶりに倣って整理すると、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「刊行物1発明」という。)。
「防錆のための塗装処理が施され、車体の外殻を形成するバンパー58、フロントホイールアーチ60、フロントフェンダ62、フロアパネル64、ボンネット66、フロントドア68、リアドア70、ルーフパネル72、トランクリッド76、リアフロアパネル78が取着される車体フレーム10を有する車体であって、
前記車体の前記車体フレーム10に防錆のための塗装処理が施され、
前記車体フレーム10が前記車体の外殻を形成するバンパー58、フロントホイールアーチ60、フロントフェンダ62、フロアパネル64、ボンネット66、フロントドア68、リアドア70、ルーフパネル72、トランクリッド76、リアフロアパネル78によって覆われる
車体。」

4 発明の対比
(1)本願発明と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「防錆のための塗装処理」、「車体フレーム10」は、本願発明の「防食塗装」、「シェル」にそれぞれ相当する。
本願発明において、「防食塗装が施され」がいずれの部分に係るのか不明確であるが、本願発明に従属する請求項5には、「可動外殻要素(90)がプラスチック要素として形成される」と記載されており、また、平成25年8月20日に提出された本願明細書の翻訳文の段落【0033】には、可動外殻要素(90)を防食塗装工程である陰極浸漬塗装工程に送る必要がないため、可動外殻要素(90)をプラスチックで形成できる旨記載されている。
そうすると、上記「防食塗装が施され」は「シェル(42)」に係ると考えるのが合理的であり、「シェル(42)」に「防食塗装が施され」ているものと解される。
そして、刊行物1発明においても、「車体フレーム10」に「防錆のための塗装処理が施され」るものである。
(2)刊行物1発明の「ボンネット66」、「フロントドア68」、「リアドア70」、「トランクリッド76」は、技術常識を考慮すれば、いずれも可動部材であるといえるから、本願発明の「可動外殻要素」に相当し、刊行物1発明の「バンパー58」、「フロントホイールアーチ60」、「フロントフェンダ62」、「フロアパネル64」、「ルーフパネル72」、「リアフロアパネル78」は、技術常識を考慮すれば、いずれも非可動部材であるといえるから、本願発明の「非可動外殻要素」に相当する。
そして、刊行物1発明の「取着される」は、本願発明の「取付けられる」に相当する。
(3)刊行物1発明の「車体」は、図1を参照するに、乗用車の車体であると認められる。一方、本願明細書の【発明を実施するための形態】及び図面を参酌すると、本願発明の乗用車とは、本願明細書の【発明を実施するための形態】及び図面に記載された製造方法によって製造された、車体を有する乗用車を意味しているものと解される。
したがって、刊行物1発明の乗用車の「車体」は、実質上、本願発明の「乗用車」に相当するといえる。

したがって、本願発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「防食塗装が施され、乗用車の外殻を形成する複数の可動外殻要素および非可動外殻要素が取付けられるシェルを有する乗用車。」

そして、本願発明と刊行物1発明とは、以下の点で相違している。
<相違点1>
本願発明では、乗用車のシェルに防食塗装だけが施されるのに対し、
刊行物1発明では、車体フレーム10(本願発明の「シェル」に相当する)に防錆のための塗装処理(本願発明の「防食塗装」に相当する)だけが施されるか明らかではない点。
<相違点2>
本願発明では、シェルが可動外殻要素および非可動外殻要素によって完全に覆われるのに対し、
刊行物1発明では、車体フレーム10(本願発明の「シェル」に相当する)が車体の外殻を形成するバンパー58、フロントホイールアーチ60、フロントフェンダ62、フロアパネル64、ボンネット66、フロントドア68、リアドア70、ルーフパネル72、トランクリッド76、リアフロアパネル78によって完全に覆われるか明らかではない点。

5 相違点の検討
(1)相違点1について
平成25年8月20日に提出された本願明細書の翻訳文の段落【0037】の「その際、自動車のシェルには陰極浸漬塗装などの防食塗装が施されるだけである。言い換えると、本実施例の自動車の実施形態では、シェル42の仕上げ塗装が省かれる。」、「このように、シェル42は外側から見えないので、これらには仕上げ塗装が不要である。しかも、シェル42には陰極浸漬塗装などの防食塗装を施すだけで十分である。そのため、上記の条件で、シェルにはもはや見える部分がないので、仕上げ塗装がない車体が可能である。」との記載を参酌すると、本願発明の「前記乗用車の前記シェルに防食塗装だけが施され」とは、乗用車のシェルに対して、防食塗装以外の、他の塗装(仕上げ塗装等)を施さないことを意味していると解される。
そして、刊行物1には、車体フレーム10に防錆のための塗装処理を施した後、車体フレーム10に、車体の外殻を形成するバンパー58、フロントホイールアーチ60、フロントフェンダ62等の各外装部材を取着することが記載され、当該防錆のための塗装処理と取着工程との間に、仕上げ塗装等その他の塗装工程を介在させることに関して何ら記載されていないばかりか、仕上げ塗装等の工程を実施する技術的合理性も見出せない。
したがって、刊行物1発明では、車体フレーム10に防錆のための塗装処理だけが施されると解するのが相当である。
なお、仮に、刊行物1発明において、車体フレーム10に防錆のための塗装処理だけが施されると解することが相当でないとしても、例えば、原査定の拒絶の理由で引用された特開平5-115840号公報(段落【0003】、【0005】、【0007】及び図1、2、3等参照)に記載されるように、コスト削減のために、シェル(特開平5-115840号公報のシャーシ部1)に対しては防食塗装(特開平5-115840号公報の電着塗装)だけを施すという技術は、従来周知の技術であり、刊行物1発明においても、コスト削減のために、車体フレーム10に対しては防錆のための塗装処理だけを施すようにすることは、当業者にとって格別の困難性を要するものではない。

(2)相違点2について
上記4(2)で述べたとおり、刊行物1発明の「ボンネット66」、「フロントドア68」、「リアドア70」、「トランクリッド76」はいずれも本願発明の「可動外殻要素」に相当し、刊行物1発明の「バンパー58」、「フロントホイールアーチ60」、「フロントフェンダ62」、「フロアパネル64」、「ルーフパネル72」、「リアフロアパネル78」はいずれも本願発明の「非可動外殻要素」に相当する。
ここで、乗用車の車体外観の見映えを良好に確保するために、車体フレームを覆い隠すようにするという技術は、従来周知の技術である(必要あれば、特開平9-86449号公報の段落【0023】及び図2、3等参照)。
また、車体外観の見映えを良好に確保するという観点上、できるだけ車体フレーム10を外部に露出させないのが望ましいことは、当業者であれば容易に認識し得る事項である。
してみれば、刊行物1発明において、車体外観の見映えを良好に確保するために、車体フレーム10が外部に露出しないよう、車体フレーム10を可動外殻要素および非可動外殻要素によって完全に覆うようにすることは、当業者にとって格別の困難性を要するものではない。

(3)そして、これら相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、刊行物1発明及び従来周知の技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものに過ぎず、格別顕著なものということはできない。

なお、上記4(1)において、本願発明の「防食塗装が施され」は「シェル(42)」に係ると考えるのが合理的であり、「シェル(42)」に「防食塗装が施され」ているものと解したが、仮に、本願発明の「防食塗装が施され」が、「シェル(42)」以外に、「可動外殻要素(90)」及び「非可動外殻要素(80)」にも係る、すなわち、シェル(42)以外に、可動外殻要素(90)及び非可動外殻要素(80)にも防食塗装が施されると解釈しても、例えば、原査定の拒絶の理由で引用された特開平5-115840号公報(段落【0003】、【0006】、【0007】及び図1、2、3等参照)に記載されているように、シェル(特開平5-115840号公報のシャーシ部1)以外に、可動外殻要素(特開平5-115840号公報のドア2、ボンネット3、トランクリッド4)及び非可動外殻要素(特開平5-115840号公報のフロント及びリヤのフェンダ5、ルーフ6)にも防食塗装(特開平5-115840号公報の電着塗装)を施すという技術は、従来周知の技術であり、刊行物1発明においても、可動外殻要素である、ボンネット66、フロントドア68、リアドア70、トランクリッド76、及び、非可動外殻要素である、バンパー58、フロントホイールアーチ60、フロントフェンダ62、フロアパネル64、ルーフパネル72、リアフロアパネル78に、防錆のための塗装処理(「防食塗装」に相当する)を施すようにすることは、当業者にとって格別の困難性を要するものではない。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、本願優先日前に頒布された刊行物1発明及び従来周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり結審する。
 
審理終結日 2016-05-10 
結審通知日 2016-05-17 
審決日 2016-06-10 
出願番号 特願2013-545071(P2013-545071)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B62D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 敏史  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 森林 宏和
島田 信一
発明の名称 自動車の製造方法及び自動車  
代理人 赤澤 日出夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ