• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1320950
審判番号 不服2015-12226  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-29 
確定日 2016-10-27 
事件の表示 特願2013-232848「データ記録媒体の表面層への印刷」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月13日出願公開、特開2014- 28529〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年9月27日に出願した特願2000-293195号(以下、「親出願」という。)の一部を、平成16年11月1日に特願2004-317486号(以下、「子出願」という。)として分割し、さらに、子出願の一部を平成22年9月13日に特願2010-203855号(以下、「孫出願」という。)として分割し、さらに、孫出願の一部を平成24年2月29日に特願2012-43314号(以下、「ひ孫出願」という。)として分割し、さらに、ひ孫出願の一部を平成25年11月11日に新たな特許出願としたものであって、平成25年12月9日に手続補正書が提出され、平成26年10月30日に拒絶理由が通知され、平成27年1月13日に意見書が提出され、同年3月31日に拒絶査定がされ、同査定の謄本は平成27年4月14日に請求人に送達された。これに対して、平成27年6月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成28年4月19日に拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成28年6月16日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願発明は、平成28年6月16日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
CD-Rに対して印刷を実行する印刷モードと、フォトプリント紙に対して印刷を実行する印刷モードを有し、
前記CD-Rに対して印刷を実行する印刷モードにおける最大インク量は、前記フォトプリント紙に対して印刷を実行する印刷モードにおける最大インク量よりも少ない、7.2mg/inch^(2)であることを特徴とする、印刷装置。」

第3 当審拒絶理由の概要
平成28年4月19日付けで通知した当審拒絶理由の概要は以下のとおりである。

1 当審拒絶理由1(特許法第36条第6項第1号)
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


請求項1の「前記CD-Rに対して印刷を実行する印刷モードにおける最大インク量は、前記フォトプリント紙に対して印刷を実行する印刷モードにおける最大インク量よりも少ないこと」について、発明の詳細な説明【0083】等の記載からすれば、「インク滴が印刷媒体に吸収されたり蒸発して小さくなる前に、隣接するインク滴が凝集して大きなインク滴となると、画質が劣化し、特に合成樹脂のようなインクを吸収しない印刷媒体では、凝集が起こりやすい。」という課題が記載されている。当該課題を解決する手段としては、「印刷媒体に応じてインク滴を小さくすること」が【0085】等の記載から理解できるが、これはすなわち、フォトプリント紙よりもCD-Rの最大インク量を少なくするという印刷媒体間の相対的な関係によって、課題が解決できるものではない。つまり、CD-Rの最大インク量をフォトプリント紙の最大インク量よりも小さく設定したとしても、CD-Rで凝集が生じる大きさのインク滴となっている場合には、発明の詳細な説明に記載された課題は解決されない。したがって、請求項1の記載は、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えたものである。請求項4、5の記載、および請求項2の普通紙の最大インク量に関する記載についても同様である。
よって、請求項1ないし5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

2 当審拒絶理由2(特許法第29条第2項)
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1ないし5
・特開平10-244692号公報(以下「引用文献1」という。)
・特開平10-250051号公報(以下「引用文献2」という。)
・備考
引用文献1に記載の発明及び引用文献2に記載の発明に基づいて、請求項1ないし5に係る発明とすることは、当業者であれば容易に想到する。

第3 当審拒絶理由1(特許法第36条第6項第1号)について
1 発明の詳細な説明の記載
本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。(下線は当審にて付した。)

(1)「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、合成樹脂製のデータ記録媒体の表面層はインクの吸収が少ないため、印刷すると印刷媒体の表面でインクが凝集し易く、印刷画質が悪化する傾向が強いという問題があった。」
「【0036】
図3は、プリンタドライバ96に登録されている複数の印刷モードテーブル104の内容を示す説明図である。この印刷モードテーブルには、モード1aからモード4dまでの計16個の印刷モードが含まれている。印刷解像度としては、360×360dpi,360×720dpi,720×720dpi,1440×720dpiの4つを利用可能である。ここで、各印刷解像度は、(主走査方向の解像度)×(副走査方向の解像度)で表されている。図3の表に示されている「最大インク重量」とは、各解像度において使用可能な複数種類のインクドットの中で最大のインクドットの重量を意味している。一般に、印刷解像度が高いほどインク重量は小さくなる。従って、印刷解像度が高いほど個々のインクドットが乾燥し易い傾向にある。」

(2) 「【0038】
ところで、印刷速度は、一般に、スキャン繰り返し数(後述する)が少なく、印刷解像度が低いほど早い、また、単方向印刷よりも双方向印刷の方が早い。従って、図3の16種類の印刷モードの中では、スキャン繰り返し数の少ない360×360dpiの双方向印刷のモード1a,1bが最も印刷速度が速く、スキャン繰り返し数の多い1440×720dpiの単方向印刷のモード4c,4dが最も印刷速度が遅い。一般には、印刷速度が遅いほど個々のインクドットが乾燥し易いので、インク同士の凝集が起こりにくい傾向にある。
【0039】
図3の右側半分には、印刷媒体の種類と、選択可能な印刷モードとの関係を示している。◎が付されているモードは、推奨設定(図2)において印刷媒体に応じて選択されるモードであり、○が付されているモードは詳細設定においてユーザが選択可能なモードである。例えば、印刷媒体として普通紙を選択した場合には、推奨設定は、モード1b(360×360dpi,双方向印刷,4色印刷)である。また、普通紙の場合には、ユーザは360×720dpiの4つのモード2a?2dを選択できない。一方、印刷媒体としてCD-Rを選択した場合には、推奨設定は、モード4d(1440×720dpi,単方向印刷,4色印刷)である。また、CD-Rの場合には、ユーザは、最も印刷速度の遅い2つのモード4c,4d以外のモードは選択できない。このように、印刷モードの推奨設定(初期設定)では、印刷媒体の種類(より具体的には印刷媒体の材質)に応じて1つの印刷モードが予め選択されている。
【0040】
なお、各印刷媒体の欄における「最大インク量」とは、単位面積当たりの全インク量の合計量の制限値を意味している。図3では、各種の印刷モードを、印刷解像度と、印刷方向と、使用インク数との3つのパラメータのみによって分類している。従って、同じ印刷モードでも、最大インク量などの他のパラメータは、印刷媒体によって異なる場合がある。具体的には、印刷モード4dの最大インク量は、普通紙では11.9mg/inch^(2) であり、フォトプリント紙では16.7mg/inch^(2) 、CD-Rでは7.2mg/inch^(2) である。すなわち、CD-Rの印刷時には、他の印刷媒体の印刷の際よりも最大インク量の制限値が低く設定されている。すなわち、CD-Rの印刷では、単位面積当たりの全インク量が他の印刷媒体の印刷よりも少ないので、インクがより乾燥し易く、インク同士の凝集が起こりにくい。」

(3) 「【0042】
このように、本実施例では、CD-Rの印刷時に、プリンタ20で利用可能な印刷モード1a?4dの中で最も印刷速度の遅いモード4dが推奨設定として選択されるので、インクが乾燥し易くなり、インク同士の凝集を緩和することができる。この印刷モード4dは、最も印刷解像度の高いモードなので、インク滴の重量が小さく、インクが乾き易いという利点もある。さらに、この印刷モード4dは、単位面積当たりの全インク量の制限値が最も低いので、この点においても、インクが乾き易く、インク同士の凝集が起こりにくくなっている。
【0043】
また、印刷モード4dは、シアンやマゼンタとしては比較的濃度の高いインクのみを用いており、淡インクを使用しないので、淡インクを用いる場合に比べてインク量を低減することができる。これによって、インクの乾燥が容易になり、インク同士の凝集が起こりにくくなるという効果が高められている。
【0044】
なお、本実施例では、CD-R印刷時の推奨設定の印刷モードとして、印刷解像度が最も高く、単方向印刷であり、淡インクを用いず、最大インク量が最も小さい、という特徴を有するモード4dが選択されている。しかし、これらの特徴のうちの少なくとも一部を有さないような印刷モードを、CD-Rに対する推奨設定として選択することも可能である。」

(4) 「【0083】
D.印刷モードの選択による凝集の防止:
図11は、凝集の発生とその抑制の状況を示す説明図である。図11(a)は、凝集の発生する過程を示す図であり、図11(b)凝集が発生しない場合を示す図である。図11(a)の(a-1)は、印刷媒体上のある位置にノズルから吐出されたインク滴が付着した状態である。(a-2)は、インク滴が印刷媒体に吸収されたり蒸発して小さくなる前に、他のインク滴が隣接する画素に付着した時の様子を示す。ここで、隣接する画素とは、少なくとも一つの点または線を共有する2以上の画素をいい、副走査方向に隣接する場合、主走査方向に隣接する場合、そして主走査方向と副走査方向との間の斜めの方向に隣接する場合とがある。この場合、(a-3)に示すように、二つのインク滴は、結合して大きなインク滴を形成する。このようなインク滴の結合が連続して生じた状態をインクの凝集と言い、画質の劣化の原因となっている。特に、合成樹脂のようにあまりインクを吸収しない印刷媒体では、凝集が起こりやすく画質劣化の大きな原因となっている。
【0084】
図11(b)の(b-1)の点線は、印刷媒体上のある位置にノズルから吐出されたインク滴が付着した状態を示す。(b-2)は、先に吐出されたインク滴が印刷媒体に吸収されたり蒸発して小さくなった後に、後に吐出されたインク滴が隣接する画素に付着した時の様子を示す。(b-2)に示すように、向かって左側のインク滴が小さくなっているため、向かって右側のインク滴と結合していないことが分かる。
【0085】
このように、ある画素にインク滴が付着して十分な時間が経過した後に、隣接する画素にインク滴を付着させれば、この二つのインク滴の結合を防止できるので、凝集が抑制できることになる。このためには、たとえば、双方向印刷でなく、単方向印刷の印刷モードを選択するのが好ましい。また、印刷解像度を高くすると、インク滴が小さくなるため乾燥がより促進されるが、このためには、より解像度の高い印刷モードを選択するのが好ましい。この結果、印刷速度の遅い特定の印刷モードを、印刷媒体に応じて自動的に選択するのが好ましいことが分かる。
【0086】
印刷媒体に応じて自動的に選択するには、前述のように、印刷条件設定ウィンドウ(図2)において、印刷媒体の種類の選択で合成樹脂の印刷媒体を選択すると、自動的に印刷モードの選択の幅が狭められるようにすれば良い。たとえば、この例では、印刷媒体として合成樹脂の印刷媒体を選択すると、印刷モードテーブル104(図3)の中で最も印刷速度の遅い特定の印刷モード4cまたは4dのみから選択できるようになっている。ただし、たとえば、次に遅い印刷モード4a、4bでも、合成樹脂の印刷媒体にきれいに印刷できるような場合には、特定の印刷モード4aないし4dから選択できるようにしても良い。この場合、モード設定で「推奨設定」を選択すると、印刷モードテーブル104の中で遅い特定の印刷モード4cまたは4dが自動的に選択されるようにするのが好ましい。」

(5) 「【0110】
上記の実施例では、CD-R用の印刷モードとして、解像度が1440×720で、かつ、印刷方向が単方向印刷であるものを例示している。しかし、たとえば、解像度がより低い720×720や双方向印刷であっても、主走査速度や副走査送り速度自体を低下させることにより、最も印刷速度の遅い印刷モードを構成し、CD-R用の印刷モードとして採用しても良い。」

(6)本願の【図3】より、「4a」ないし「4d」の「モード」の「仕様」について、以下の点が見て取れる。
(ア)モード「4a」
「解像度(dpi)」が「1440×720」、「スキャン繰り返し数(s)」が「4回」、「最大インク重量」が「12ng」、「印刷方向」が「双方向」、「使用インク数」が「6」、「普通紙」の「選択可否」が「○」、「普通紙」の「最大インク量」が「11.9mg/inch^(2)」、「フォトプリント紙」の「選択可否」が「◎」、「フォトプリント紙」の「最大インク量」が「16.7mg/inch^(2)」、「CD-R」の「選択可否」が「×」、「CD-R]の「最大インク量」が「7.2mg/inch^(2)」のモード。
(イ)モード「4b」
「解像度(dpi)」が「1440×720」、「スキャン繰り返し数(s)」が「4回」、「最大インク重量」が「12ng」、「印刷方向」が「双方向」、「使用インク数」が「4」、「普通紙」の「選択可否」が「○」、「普通紙」の「最大インク量」が「11.9mg/inch^(2)」、「フォトプリント紙」の「選択可否」が「○」、「フォトプリント紙」の「最大インク量」が「16.7mg/inch^(2)」、「CD-R」の「選択可否」が「×」、「CD-R」の「最大インク量」が「7.2mg/inch^(2)」のモード。
(ウ)モード「4c」
「解像度(dpi)」が「1440×720」、「スキャン繰り返し数(s)」が「4回」、「最大インク重量」が「12ng」、「印刷方向」が「単方向」、「使用インク数」が「6」、「普通紙」の「選択可否」が「○」、「普通紙」の「最大インク量」が「11.9mg/inch^(2)」、「フォトプリント紙」の「選択可否」が「○」、「フォトプリント紙」の「最大インク量」が「16.7mg/inch^(2)」、「CD-R」の「選択可否」が「○」、「CD-R」の「最大インク量」が「7.2mg/inch^(2)」のモード。
(エ)モード「4d」
「解像度(dpi)」が「1440×720」、「スキャン繰り返し数(s)」が「4回」、「最大インク重量」が「12ng」、「印刷方向」が「単方向」、「使用インク数」が「4」、「普通紙」の「選択可否」が「○」、「普通紙」の「最大インク量」が「11.9mg/inch^(2)」、「フォトプリント紙」の「選択可否」が「○」、「フォトプリント紙」の「最大インク量」が「16.7mg/inch^(2)」、「CD-R」の「選択可否」が「◎」、「CD-R」の「最大インク量」が「7.2mg/inch^(2)」のモード。

(7)上記(2)の【0039】の「CD-Rの場合には、ユーザは、最も印刷速度の遅い2つのモード4c,4d以外のモードは選択できない。」という記載は、ユーザが選択できない印刷モードである「4a」、「4b」では、上記(1)の【0003】、(4)の【0083】に記載された課題を解決できないことを示唆している。また、上記(4)の【0086】の「次に遅い印刷モード4a、4bでも、合成樹脂の印刷媒体にきれいに印刷できるような場合には、特定の印刷モード4aないし4dから選択できるようにしても良い。」という記載から、「印刷モード4a、4b」では「きれいに印刷」できない場合、すなわち上記(1)の【0003】、(4)の【0083】に記載された課題を解決できない場合があることは自明である。
以上から、発明の詳細な説明には、印刷モード「4a」及び「4b」では上記課題を解決できない場合があることが記載されていると認められる。

上記(1)ないし(7)から、発明の詳細な説明には、CD-Rの表面層はインクの吸収が少ないため、インク滴がCD-Rに吸収されたり蒸発して小さくなる前に、他のインク滴が隣接する画素に付着した時、二つのインク滴は、結合して大きなインク滴を形成し、このようなインク滴の結合が連続して生じた状態(インクの凝集)が生じ、画質が劣化するという本願発明の課題が示されており、当該課題を解決する手段として、先に吐出されたインク滴が印刷媒体に吸収されたり蒸発して小さくなった後に、後に吐出されたインク滴が隣接する画素に付着することにより、先に吐出されたインク滴と後に吐出されたインク滴とが結合しないようすることが記載されており、その具体的なものとして、以下の点が記載されている。

ア 印刷解像度を高めてインク重量を小さくし、インクドットを乾燥し易くする。
イ スキャン繰り返し数を増やし、印刷解像度を高め、双方向印刷として、印刷速度を遅くして、ある画素にインク滴が付着して十分な時間が経過した後に、隣接する画素にインク滴を付着させる。
ウ 単位面積当たりの全インク量(最大インク量)を少なくして、インクが乾燥し易くする。
エ 淡インクを使用しないことにより、淡インクを用いる場合に比べてインク量を低減し、インクの乾燥を容易にする。
オ 主走査速度や副走査送り速度自体を低下させる。

また、実施例として、「フォトプリント紙」の「最大インク量」よりも「CD-R」の「最大インク量」が少なく、「CD-R」の「最大インク量」が「7.2mg/inch^(2)」である印刷モード「4a」ないし「4d」において、「印刷方向」が「単方向」である「4c」及び「4d」では上記課題を解決することができ、「印刷方向」が「双方向」である「4a」及び「4b」では上記課題を解決できない場合があることが記載されている。

2 判断
発明の詳細な説明の記載からすれば、上記の課題を解決するためには、「最大インク量」だけではなく、上記ア、イ、エ、オに係る「印刷解像度」、「インク重量」、「スキャン繰り返し数」、「双方向印刷」か「単方向印刷」か、「淡インク」の使用の有無、「主走査速度や副走査送り速度」といったパラメータを特定する必要がある。「最大インク量」が「7.2mg/inch^(2)」であっても、「双方向印刷」である場合には、課題を解決できないという発明の詳細な説明の記載は、これを裏付けるものである。
しかし、請求項1には、「CD-Rに対して印刷を実行する印刷モードにおける最大インク量は、フォトプリント紙に対して印刷を実行する印刷モードにおける最大インク量よりも少ない、7.2mg/inch^(2)であること」と記載されているのみで、他のパラメータは何ら記載されていない。してみると、本願発明は、発明の詳細な説明の記載から、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えているものである。
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。

第4 当審拒絶理由2(特許法第29条第2項)について
1 刊行物
(1)引用文献1
当審拒絶理由に引用された、親出願の出願前に頒布された引用文献1には、次の記載がある。

ア 「【要約】
【課題】 使用する用紙の種類に応じて印字品質が変わることのないインクジェットプリンタを提供する。
【解決手段】 装置に用いる用紙の種類を選択するスイッチを設ける。スイッチの状態に応じて用いられる用紙が何であるか判定する(♯101)。判定結果に基づいてノズルから吐出するインクのドロップの直径を変化させる(♯102?♯104)。用紙の種類に応じてインクの広がりや吸収の度合が異なるため、インクドロップの直径を変えることにより印字後の画質を用紙にかかわらず一定にすることができる。」
イ 「【0005】(2) 第2の問題点
たとえばOHPフィルムに対しプリントを行なう場合には、通常の紙と比較してインクが乾燥するまでに多くの時間を必要とする。従来のプリンタにおいては、このような場合にインクの乾燥を速くするために、プリントするドットを間引く処理を行なっている。」
ウ 「【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、この発明のある局面に従うと、1つのドットをプリントするためにノズルから吐出されるインクの量を制御することができるインクジェット記録装置は、プリントの対象である記録媒体の種類を判別する判別手段と、判別された記録媒体の種類に応じて、1つのドットをプリントするためにノズルから吐出されるインクの量を制御する制御手段とを備える。」
エ 「【0019】紙種類選択スイッチ120によって、ユーザは印字に用いる用紙がどのような種類の用紙であるかを装置に入力する。具体的には、ユーザは使用する紙の種類として光沢フィルムと、マット紙(紙にシリカコートした吸収しやすい紙)と、普通紙とから任意のものを選択することができる。光沢フィルムを選択したときのモードを紙Aモード、マット紙を選択したときのモードを紙Bモード、普通紙を選択したときのモードを紙Cモードと呼ぶ。」
オ 「【0044】図を参照して、ステップ♯101で紙種類選択スイッチ120によって設定されている用紙が判定される。設定されている用紙が光沢フィルム(用紙A)であれば、ステップ♯102でノズル307から吐出するインクの直径を55μmとする。
【0045】ステップ♯101でマット紙(用紙B)が選択されていると判別されたときは、ステップ♯103で同様にインクの直径を55μmとする。
【0046】ステップ♯101で普通紙(用紙C)が選択されていると判別されたときは、ステップ♯104でノズル307から吐出されるインクの直径を47μmとする。」
カ 「【0052】このように、プリントされるドットの直径は紙の種類やコート層の材質により異なるものとなる。そして、階調8(インクドロップ径55μm)のインクによりプリントした紙Aでのドット径(98μm)と、階調6(インクドロップ径47μm)のインクによりプリントした紙Cでのドット径(98μm)とは直径が同一である。この特質を利用して、第1の実施の形態においては、紙Aにドットをプリントするときには、インクドロップ径55μmのインクを用い、紙Cにプリントを行なうときにはインクドロップ径47μmのインクを用いるのである。これにより、紙の種類によらずに、同一直径のドットをプリントすることができる。」
キ 「【0057】なお、第1の実施の形態においては、インクジェットヘッドから55μmと47μmとの2種類のインクドロップを吐出させる構成としたが、これに限らずたとえば3種類以上の直径を有するインクドロップを吐出させるようにし、さらに多くの種類の紙に対して用いるインクドロップの直径を異ならせるようにしてもよい。」
ク 「【0059】また、紙種類選択スイッチ120でOHP用紙を選択することができるようにして、OHP用紙が選択されたときには、図7の用紙Cと同様に47μmのインクドロップを用いるようにすることもできる。この場合、OHP用紙でのインクの乾燥を速くすることができる。なおこの場合、OHP用紙上のプリントの仕上がりは見た目には濃度の薄い画像となるが、実際にプロジェクタで投光してOHP用紙を使用すると人間の目には違和感なく映るという特徴を有している。」

上記アないしクより、引用文献1には以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「1つのドットをプリントするためにノズルから吐出されるインクの量を制御することができ、用紙の種類に応じてインクの広がりや吸収の度合が異なるため、インクドロップの直径を変えることにより印字後の画質を用紙にかかわらず一定にすることができるインクジェット記録装置であって、
ユーザが印字に用いる用紙として、光沢フィルム、マット紙(紙にシリカコートした吸収しやすい紙)、普通紙、OHP用紙から選択してインクジェット記録装置に入力し、
光沢フィルムを選択したときのモードを紙Aモード、マット紙を選択したときのモードを紙Bモード、普通紙を選択したときのモードを紙Cモードと呼び、
選択されている用紙が光沢フィルム(用紙A)又はマット紙(用紙B)であれば、ノズル吐出するインクの直径を55μmとし、
選択されている用紙が普通紙(用紙C)又は通常の紙と比較してインクが乾燥するまでに多くの時間を必要とするOHP用紙であれば、ノズルから吐出されるインクの直径を47μmとし、
OHP用紙でのインクの乾燥を速くすることができ、
さらに多くの種類の紙に対して用いるインクドロップの直径を異ならせるようにしてもよい
インクジェット記録装置」

(2)引用文献2
当審拒絶理由に引用された、親出願の出願前に頒布された引用文献2には、次の記載がある。

ア 「【要約】
【課題】 印刷費用を低減することができるとともに、より簡単な予備検査後、記録を実行することができること。
【解決手段】 回動機構部10により支持され用紙4が積載されるトレー部材8が待機状態とされるとき、記録ヘッド部35によって搬送部6により搬送されるコンパクトディスク2のレーベル部2PAに対し記録動作が行われ、また、トレー部材8が搬送部6に対して近接状態とされるとき、記録ヘッド部35によって搬送される用紙4の記録面に対して記録動作が行われるもの。」
イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、搬送される第1の記録媒体の被記録面もしくは第2の記録媒体の被記録面にそれぞれ選択的に記録画像を得ることができる画像記録装置に関する。」
ウ 「【0008】コンパクトディスク2は、図8の(A)に示されるように、例えば、120mmの円形状とされ図示が省略されるコンパクトディスクプレーヤに装着される約15mmの透孔2Hをその中央部に有している。コンパクトディスク2の透孔2Hの周囲には、記録された音声情報の曲目、もしくは、そのアドレスなどが記録されているリードイン領域2RI、音声情報が記録されるプログラム情報記録領域2RA、リードアウト領域2ROが形成されている。
【0009】リードイン領域2RIおよびプログラム情報記録領域2RAは、図8の(B)および(C)に示されるように、記録されるべき再生音声信号に基づいて変調される書込用の光ビームにより形成されるピット2piが一方の表面部に螺旋状に配列形成される基板部2Bと、基板部2Bの一方の表面部を覆う保護膜2Fとを含んで構成されている。
【0010】例えば、透明なポリカボネート樹脂で作られる基板部2Bにおける各ピット2piは、例えば、幅0.5μm、長さ0.9?3.3μm、深さ0.1μmを有している。各ピット2piの底面部には、アルミニウム合金で形成された反射膜2rfが設けられている。」
エ 「【0048】コンパクトディスク2のレーベル部2PAに記録を行うにあたっては、データ選択送出部112は、制御ユニット80からの選択すべきデータをあらわすデータ選択信号Ccに基づいて記録データMDRを選択し、それを多値/二値変換部118に供給する。多値/二値変換部118は、記録データMDRに基づいて濃度階調変換処理を行うとともに例えば、面積階調法に基づいて二値化処理を行い、二値化記録データDDN1を得る。多値/二値変換部118は、得られた二値化記録データDDN1を記録動作制御部90に所定のタイミングで送出する。これにより、キャリッジ部34が記録部12を伴って往復動せしめられるとき、記録部12から所定のタイミングでインクが吐出されることによりコンパクトディスク2のレーベル部2PAに記録データに応じた文字もしくは図形が形成されることとなる。
【0049】モード選択信号SmaおよびSmbに基づいて用紙4の記録面に対して記録を行うにあたっては、データ選択送出部112は、データ選択信号Ccに基づいて記録データMDRおよびMDOを画像合成部116に供給する。画像合成部116は、記録データMDRおよびMDOに基づいて合成処理を行い、得られた合成画像データDCを多値/二値変換部118に供給する。多値/二値変換部118は、上述と同様な二値化処理を行い、二値化記録データDDN2を得る。多値/二値変換部118は、二値化記録データDDN2を記録動作制御部90に所定のタイミングで送出する。
【0050】これにより、キャリッジ部34が記録部12を伴って往復動せしめられるとき、記録部12から所定のタイミングでインクが吐出され、図5の(A)に示されるように、コンパクトディスク2のレーベル部2PAの領域に対応する外径線OLと内径線ILとの間に、記録データに応じた文字Woが用紙4の被記録面に形成されることとなる。」

上記アないしエより、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「回動機構部により支持され用紙が積載されるトレー部材が待機状態とされるとき、記録ヘッド部によって搬送部により搬送されるコンパクトディスクのレーベル部に対し記録動作が行われ、また、トレー部材が搬送部に対して近接状態とされるとき、記録ヘッド部によって搬送される用紙の記録面に対して記録動作が行われる画像記録装置であって、
コンパクトディスクは透明なポリカボネート樹脂で作られる基板部を備え、
コンパクトディスクのレーベル部、又用紙の記録面に記録を行うにあたっては、キャリッジ部が記録部を伴って往復動せしめられるとき、記録部から所定のタイミングでインクが吐出されることにより、コンパクトディスクのレーベル部又は用紙の被記録面に、記録データに応じた文字もしくは図形が形成される画像形成装置」

2 対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「光沢フィルム、マット紙(紙にシリカコートした吸収しやすい紙)」は、本願発明の「フォトプリント紙」に相当する。
引用発明1の「光沢フィルムを選択したときのモードを紙Aモード、マット紙を選択したときのモードを紙Bモード」は、本願発明の「フォトプリント紙に対して印刷を実行する印刷モード」に相当する。
引用発明1の「OHP用紙」と、本願発明の「CD-R」とは、双方とも合成樹脂からなる印刷対象である点で共通しており、合成樹脂の一般的な性質から「通常の紙と比較してインクが乾燥するまでに多くの時間を必要とする」点でも共通している。
引用発明1では、「選択されている用紙が光沢フィルム(用紙A)又はマット紙(用紙B)であれば、ノズル吐出するインクの直径を55μmとし、選択されている用紙が普通紙(用紙C)又は通常の紙と比較してインクが乾燥するまでに多くの時間を必要とするOHP用紙であれば、ノズルから吐出されるインクの直径を47μm」としている。一般に「最大インク量」は、「1つのドットをプリントするためにノズルから吐出されるインク量」に比例するから、引用発明1において、「光沢フィルム(用紙A)又はマット紙(用紙B)」のときよりも、「OHP用紙」のときの方が、最大インク量は少ないといえる。したがって、引用発明1の「選択されている用紙が光沢フィルム(用紙A)又はマット紙(用紙B)であれば、ノズル吐出するインクの直径を55μmとし、選択されている用紙が普通紙(用紙C)又は通常の紙と比較してインクが乾燥するまでに多くの時間を必要とするOHP用紙であれば、ノズルから吐出されるインクの直径を47μm」としていることと、本願発明の「前記CD-Rに対して印刷を実行する印刷モードにおける最大インク量は、前記フォトプリント紙に対して印刷を実行する印刷モードにおける最大インク量よりも少ない、7.2mg/inch^(2)であること」とは、通常の紙と比較してインクが乾燥するまでに多くの時間を必要とする合成樹脂からなる印刷対象に対して印刷を実行する印刷モードにおける最大インク量は、前記フォトプリント紙に対して印刷を実行する印刷モードにおける最大インク量よりも少ない点で共通している。
引用発明1の「インクジェット記録装置」は、本願発明の「印刷装置」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明1とは、
「通常の紙と比較してインクが乾燥するまでに多くの時間を必要とする合成樹脂からなる印刷対象に対して印刷を実行する印刷モードと、フォトプリント紙に対して印刷を実行する印刷モードを有し、
前記印刷対象に対して印刷を実行する印刷モードにおける最大インク量は、前記フォトプリント紙に対して印刷を実行する印刷モードにおける最大インク量よりも少ない印刷装置」
である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
本願発明では、「通常の紙と比較してインクが乾燥するまでに多くの時間を必要とする合成樹脂からなる印刷対象」が「CD-R」であり、「最大インク量」が「7.2mg/inch^(2)」であるのに対し、引用発明1では、上記「印刷対象」が「OHP用紙」であり、「最大インク量」は特定されていない点。

3 判断
上記相違点について検討する。
引用発明2の「コンパクトディスク」は、本願発明の「CD-R」に相当するから、引用発明2は、「CD-Rに所定のタイミングでインクが吐出されることにより、記録データに応じた文字もしくは図形が形成される画像形成装置」を開示している。
一方、引用発明1は、「さらに多くの種類の紙に対して用いるインクドロップの直径を異ならせるようにしてもよい」との技術的事項を備えており、「光沢フィルム、マット紙(紙にシリカコートした吸収しやすい紙)、普通紙、OHP用紙」より多くの種類の印刷媒体を採用し、インクドロップの直径、すなわち最大インク量を最適化することが示唆されている。
そして、「CD-R」は「OHP用紙」と同様に合成樹脂からなることは技術常識であり、「CD-R」についても「通常の紙と比較してインクが乾燥するまでに多くの時間を必要とする」ものであることは自明であるから、引用発明1と引用発明2とは、通常の紙と比較してインクが乾燥するまでに多くの時間を必要とする合成樹脂からなる印刷対象に対し、インクを吐出してドットを形成してプリントする装置である点で共通している。
してみると、引用発明1に引用発明2を適用することは、当業者であれば容易に想到し得るものである。
そして、引用発明1に引用発明2を適用すれば、「CD-R」での最大インク量は、当然、「OHP用紙」と同様に、インクの乾燥を速くするため、「光沢紙」、「マット紙(紙にシリカコートした吸収しやすい紙)」の最大インク量よりも小さくなるものであり、その際、引用発明1において、「CD-Rに対して印刷を実行する印刷モードにおける最大インク量」を具体的にどの程度とするかは、当業者が引用発明1を実施するに際して適宜定めるべき設計的事項であるところ、本願明細書を見ても、上記相違点に係る本願発明の特定事項である「CD-Rに対して印刷を実行する印刷モードにおける最大インク量」を「7.2mg/inch^(2)」とした点に格別の臨界的意義や技術的意義を有するものではないから、この点についても当業者が容易に想到し得るものである。
よって、上記相違点に係る本願発明の特定事項は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。
また、本願発明の発明特定事項の全体によって奏される効果も、引用発明1及び引用発明2から、当業者が予測し得る範囲のものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項1号に適合せず、特許を受けることができない。
また、本願発明は、引用発明1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-23 
結審通知日 2016-08-30 
審決日 2016-09-12 
出願番号 特願2013-232848(P2013-232848)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
P 1 8・ 537- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藏田 敦之  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 吉村 尚
植田 高盛
発明の名称 データ記録媒体の表面層への印刷  
代理人 特許業務法人明成国際特許事務所  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ