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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02H
管理番号 1320953
審判番号 不服2015-15335  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-08-18 
確定日 2016-10-27 
事件の表示 特願2013-273504「過電圧保護回路、及びそれを備えた電力変換装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月 9日出願公開、特開2015-128357〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成25年12月27日の出願であって、平成27年1月13日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成27年1月20日)、これに対し、平成27年3月23日付で意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年6月30日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成27年7月7日)、これに対し、平成27年8月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


2.特許請求の範囲
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年3月23日付の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
電源と前記電源から電力を供給される機器との間に接続される過電圧保護回路であって、
前記電源と前記機器とを結ぶ一対の電源ライン間に前記機器と並列に接続され、過電圧時に電流を流す所定素子(10,60)と、
前記電源ラインのうちの前記電源と前記所定素子(10,60)との間に接続されるインピーダンス回路(20,70)と、
前記電源ラインを開閉するスイッチ(11,61)と、
前記所定素子(10,60)に印加される電圧が過電圧状態であることを検出する過電圧状態検出手段(33,34,83,84)と、
を備え、
前記スイッチ(11,61)は、通常時は前記電源ラインを導通状態にし、前記過電圧状態検出手段(33,34,83,84)によって過電圧状態が検出されたとき、前記電源ラインを遮断する、
過電圧保護回路(50,100)。」


3.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用された、特開2004-215323号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

a-1「交流電源と電気機器との間に挿入され、あるいは、前記交流電源に接続される前記電気機器の前段に組み込まれ、前記電気機器に入力される過電圧およびこの電気機器に生じる過電流の少なくとも一つを抑止する保護回路において、前記電気機器に流れる電流を制限するために経路制御を行う導通素子を備えた過電流抑止回路と、前記過電圧の前記電気機器への入力を抑止するための短絡用素子を備えた過電圧抑止回路と、を備え、前記過電流抑止回路は、前記過電圧が前記電気機器に入力されたときに前記過電圧抑止回路の前記短絡用素子を短絡させることによる前記導通素子に流れる電流の増加を検知し、前記電気機器に流れる電流の経路を切り換えることを特徴とする保護回路。」(【請求項1】)

b-1「しかしながら、これらのアレスタ、バリスタ、トライアックなどを用いたとしても、最終的な手段としては強制的にヒューズを飛ばしたりすることで対処している。また、これらの素子そのものが短絡状態になってしまうこともある。このように、従来の技術では、回路の復旧に時間がかかるなどの問題点があった。」(【0003】)

c-1「図1は、この発明にかかる保護回路の具体的な構成例を示す回路図である。同図に示すように、この保護回路は、前段の過電圧抑止回路11と、過電流抑止回路12と、後段の過電圧抑止回路13とを備えている。また、これらの各回路は、電界効果トランジスタ、バイポーラトランジスタ、ダイオード、抵抗、コンデンサ、チョークトランス、アレスタ、バリスタ、トライアックなどの素子の複数の組み合わせで構成されている。
ここで、図1に示す保護回路の構成について説明する。まず、同図に示す前段の過電圧抑止回路11では、一対のチョークトランスがFuseを介してAC入力ラインの一端および他端にそれぞれ介挿される形で接続されている。」(【0018】-【0019】)

d-1「つぎに、図1に示す後段の過電圧抑止回路13において、負荷側の一端および他端にコンデンサC3が並列に接続されている。バリスタは、コンデンサC3と並列で、かつ、コンデンサC3を基準にして負荷の反対側に接続されている。また、抵抗R7とトライアックTr4との直列回路は、バリスタと並列で、かつ、バリスタを基準にして負荷の反対側に接続されている。さらに、抵抗R5と抵抗R6との直列回路によって構成された分圧回路は、抵抗R7とトライアックTr4との直列回路と並列で、かつ、この直列回路を基準にして負荷の反対側に接続されている。また、この分圧回路を構成する抵抗R5の他端と抵抗R6の一端とが接続されている接続端子とトライアックTr4のゲートとが接続されている。
さらに、図1に示す過電流抑止回路12において、接続点Aは、この過電流抑止回路12と前段の過電圧抑止回路11とを結ぶ点であり、接続点Bは、この過電流抑止回路12と後段の過電圧抑止回路13とを結ぶ点である。これらの接続点Aと接続点Bとを繋ぐ経路には、同図に示す過電流抑止回路12から明らかなように、3つの経路が存在している。
図1に示す過電流抑止回路12の上段の部分において、抵抗R2は、接続点Aと接続点Bとの間に接続されている。」(【0020】-【0022】)

e-1「後段の過電圧抑止回路13では、AC入力電圧が抵抗R5と抵抗R6の分圧回路によって、トライアックTr4のゲートには電圧が印加される。正常なAC入段の過電圧抑止回路11で阻止されずに高電圧(例えば、200?300V程度)が通過してきた場合、この分圧回路に流れる電流が増加してトライアックTr4のゲート電圧が上昇し、トライアックTr4がオンになる。この結果、負荷に流れる電流のほとんどが抵抗R7を通じてトライアックTr4に流れ込むので、負荷を過電圧から保護することができる。このとき、過電流抑止回路12の電界効果トランジスタTr1や、電界効果トランジスタTr3には過電流が流れることになるが、この動作については、負荷側に短絡電流が流れた場合の動作説明のところで後述する。
一方、後段の過電圧抑止回路13に備えられたバリスタも、トライアックTr4と同様に、過電圧から負荷を防護するためのものである。これらのトライアックTr4およびバリスタの両者で、前段の過電圧抑止回路11および過電流抑止回路12を通過してきた過電圧を抑止している。なお、コンデンサC3は、ノイズや急峻な電圧変化に対する負荷側の影響を防止するためのものである。」(【0028】-【0029】)

f-1「図3に戻って、何らかの原因で負荷側に短絡電流が流れると、▲1▼の経路上にある電界効果トランジスタTr1を流れるドレイン電流I_(D)が増加し、上述したようにV_(DS)が増加する。このとき、このV_(DS)によって▲2▼の経路上にあるダイオードD1を通じて、抵抗R3および抵抗R4の分圧回路に電流が流れ、バイポーラトランジスタTr2のベース-エミッタ間にバイアス電圧が生ずる。このバイアス電圧によりバイポーラトランジスタTr2がオンになり、電界効果トランジスタTr1のゲート-ソース間電圧を0Vにするので、電界効果トランジスタTr1がオフになり、▲1▼の経路上には電流が流れない。したがって、負荷に向かう電流は、▲3▼の経路上にある抵抗R2を通じて負荷電流が流れる。なお、▲2▼の経路上は、ダイオードD2によって負荷電流は遮断される。」(【0032】)

g-1「上述した説明は、負荷側に短絡電流が流れた場合の動作の説明であったが、AC入力が過電圧になり、トライアックTr4が作動する場合でも同様な回路動作となる。すなわち、過電圧がB点に印加されると、抵抗R5と抵抗R6の分圧回路に流れる電流が増加し、その結果、トライアックTr4のゲート電圧が上昇してトライアックTr4がオンになる。このとき、抵抗R7を通じて大きな電流が流れ、電界効果トランジスタTr1には飽和電流が流れる。その後の動作は、上述したとおりである。」(【0034】)

上記記載及び図面を参照すると、交流電源と負荷である電気機器とを結ぶ一対の電源ラインがある。
上記記載及び図面を参照すると、過電圧抑止回路13のトライアック、バリスタは、過電圧時に短絡する短絡用素子である。

上記記載事項からみて、引用例1には、
「交流電源と電気機器との間に挿入される保護回路であって、
前記交流電源と前記電気機器とを結ぶ一対の電源ラインに前記電気機器と並列に接続され、過電圧時に短絡する短絡用素子と、
接続点Aと接続点Bの間に接続される抵抗と、
を備える、
保護回路。」
との発明(以下、「引用発明」という。)が開示されているものと認められる。

同じく、原査定の拒絶の理由で引用された、特開2009-207329号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

a-2「多相電源(12)から負荷(16)へ継電するリレー(14)と、
前記多相電源の相電圧が予め定められた電圧閾値を超えたことをもって前記多相電源の過電圧を検知する過電圧検知回路(22)と、
前記過電圧が検知されたことを契機として前記リレーに遮断動作を行わせるリレー駆動部(24)と、
前記リレーよりも前記多相電源に近い側で前記相電圧に基づいて前記過電圧検知回路及び前記リレー駆動部に供給する電力を生成する制御電源部(26)と
を備える、過電圧保護回路(10)。」


4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「交流電源」、「電気機器」、「保護回路」、「短絡する」、「短絡用素子」、「抵抗」は、それぞれ本願発明の「電源」、「前記電源から電力を供給される機器」、「過電圧保護回路」、「電流を流す」、「所定素子」、「インピーダンス回路」に相当する。
引用発明の「前記交流電源と前記電気機器とを結ぶ一対の電源ラインに前記電気機器と並列に接続され」は、本願発明の「前記電源と前記機器とを結ぶ一対の電源ライン間に前記機器と並列に接続され」に相当し、引用発明の「接続点Aと接続点Bの間に接続される抵抗」は、本願発明の「前記電源ラインのうちの前記電源と前記所定素子(10,60)との間に接続されるインピーダンス回路(20,70)」に相当する。

したがって、両者は、
「電源と前記電源から電力を供給される機器との間に接続される過電圧保護回路であって、
前記電源と前記機器とを結ぶ一対の電源ライン間に前記機器と並列に接続され、過電圧時に電流を流す所定素子と、
前記電源ラインのうちの前記電源と前記所定素子との間に接続されるインピーダンス回路と、
を備える、
過電圧保護回路。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点〕
本願発明は、電源ラインを開閉するスイッチと、所定素子に印加される電圧が過電圧状態であることを検出する過電圧状態検出手段と、を備え、前記スイッチは、通常時は前記電源ラインを導通状態にし、前記過電圧状態検出手段によって過電圧状態が検出されたとき、前記電源ラインを遮断するのに対し、引用発明は、この様な特定がなされていな点。


5.判断
引用例2にみられるように、電源ラインを開閉するスイッチ(「リレー(14)」が相当)と、電源電圧が過電圧状態であることを検出する過電圧状態検出手段(「過電圧検知回路(22)が相当」)と、を備え、前記スイッチは、通常時は前記電源ラインを導通状態(「継電」が相当)にし、前記過電圧状態検出手段によって過電圧状態が検出されたとき、前記電源ラインを遮断(「遮断動作」が相当)することは、電源回路の保護回路において周知の回路(必要があれば、他にも特開2005-102415号公報【図1】、【図2】、特開2005-253148号公報【図1】-【図4】、特開2009-148097号公報【図1】-【図3】、【0054】等参照。)である。
電源回路の保護回路において、異常時の安全性を高めるために、保護回路を何重にも設けることは慣用手段である。
なお、本願発明において、過電圧状態検出手段は、商用電源の電圧が所定素子が導通するであろう閾値を超えたと判定したとき動作する(【0077】)か、所定素子の導通状態を検出して商用電源の電圧が過大電圧であると判定したとき動作する(【0059】)している。
そうすると、電源回路に所定素子が設けられていても、電源回路の異常時の安全性を高めるために、引用発明に引用例2記載のもののようなスイッチと過電圧状態検出手段を設けることは、当業者が容易に考えられることと認められる。その際、過電圧状態検出手段が検出する過電圧状態の電圧を、所定素子に印加される電圧が過電圧状態であることを示す電圧とすることは当業者が適宜選択し得ることと認められる(なお、特開2005-102415号公報、特開2009-148097号公報記載のものは、所定素子が過電圧状態である電圧に基づいてスイッチをオフしている。)。
なお、引用例1記載のものは、過電圧状態に基づく過電流でフューズを切断することを想定しており、フューズの切断が発生すれば、電源回路の復帰に時間がかかるので、フューズに代えて自動復帰が可能なスイッチにすることは、当業者が適宜選択し得ることと認められる。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


6.むすび
したがって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、本願を拒絶すべきであるとした原査定は維持すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-09 
結審通知日 2016-08-16 
審決日 2016-09-14 
出願番号 特願2013-273504(P2013-273504)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 寛人  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 堀川 一郎
藤井 昇
発明の名称 過電圧保護回路、及びそれを備えた電力変換装置  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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