• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1320961
審判番号 不服2015-22299  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-18 
確定日 2016-10-27 
事件の表示 特願2013-248256「位相差フィルム及び位相差フィルムの製造方法、並びに光学フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月 8日出願公開、特開2015-106060〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成25年11月29日の出願であって、平成27年1月26日付けで拒絶の理由が通知され、同年3月26日に意見書が提出され、同年5月25日付けで拒絶の理由が通知され、同年7月31日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年9月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月18日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

2 平成27年12月18日になされた手続補正(以下「本件補正」という。)について
(1)本件補正は、特許請求の範囲についてするものであり、平成27年7月31日になされた手続補正によって補正された(以下「補正前」という。)特許請求の範囲に、
ア 「【請求項1】
フィラーを含有する基材と、配向層と、位相差層とがこの順で積層されてなり、
前記基材表面からの前記フィラーの突出高さが0.8?1.5μmであり、
前記配向層の厚みが、前記基材平面からの前記フィラーの突出高さ以上の厚みであることを特徴とする位相差フィルム。」及び
「【請求項3】
前記配向層の厚みが、1.5μm以上である請求項1又は2に記載の位相差フィルム。」
とあったものを、
イ 「【請求項1】
フィラーを含有する基材と、配向層と、位相差層とがこの順で積層されてなり、
前記基材表面からの前記フィラーの突出高さが0.8?1.5μmであり、
前記配向層の厚みが、前記基材平面からの前記フィラーの突出高さ以上であって1.5μm以上の厚みであることを特徴とする位相差フィルム。」
と補正するものである(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(2)特許請求の範囲についての本件補正は、補正前の請求項1を削除するとともに、請求項3を請求項1とした補正であり、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除を目的としたものである。
また、本件補正は、願書に最初に添付された特許請求の範囲の「【請求項2】 前記配向層の厚みが、1.5μm以上である」の記載に基づく補正であって、特許法第17条の2第3項の要件を満たすものである。

3 本願発明
本願発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記2(1)イで示したとおりのものである。

4 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

・請求項 1?8
・引用文献
1.特開2012-177894号公報
2.特開2011-186158号公報
3.特開2002-62426号公報
4.特開2012-163691号公報

その拒絶の理由の詳細は、概ね、以下のとおりである。
周知技術を考慮すると、引用文献1記載の発明において、フィラーの突出高さに起因するフィルム表面の0.1?3.0μmの凸部に対して、当該凸部以上の乾燥膜厚で、ゆっくりと乾燥させることにより、配向膜の表面を平滑化することは、当業者であれば容易になし得るものである。

5 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2012-177894号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、透明支持体の一方の面上に配向膜、光学異方性層、及びハードコート層をこの順で有する光学フィルム、該光学フィルムを有する偏光板、及び画像表示装置に関する。特に、液晶表示装置用表面フィルムとして好適に用いられる光学フィルム、該光学フィルムを保護フィルムとして含む偏光板、また、前記ハードコート層が視認側になるように前記光学フィルムを表面に配置した液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)は、薄型、軽量で、かつ消費電力が小さいことから広く使用されている。液晶表示装置は、液晶セル及び偏光板を含む。偏光板は、通常、保護膜と偏光膜とからなり、ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光膜をヨウ素にて染色し、延伸を行い、その両面を保護膜にて積層して得られる。透過型液晶表示装置では、一般的に、この偏光板を液晶セルの両側に取り付け、更には一枚以上の光学補償フィルム(位相差フィルム)が2つの偏光板の内側(液晶セル側)に配置されている。また、光学補償フィルムを前記保護膜として用いることもある。光学補償フィルムとしては例えば、基材フィルム(透明支持体)上にディスコティック液晶性化合物が配向状態を保った状態で固定化された光学異方性層を有するものが広く用いられている。
近年、液晶表示装置の高機能化のために、透過型液晶表示装置を用いた立体画像表示装置の開発が進められている。例えば特許文献1には、立体画像表示方法として、2つの偏光板の内側に液晶セルを配置した透過型液晶表示装置を基本に、λ/4の面内レターデーションを有する位相差フィルム(λ/4板)を視認側偏光板の外側にλ/4板の遅相軸と視認側偏光板の吸収軸が45°となるように配置し、出射光を円偏光化する時分割2眼立体視の透過型液晶表示装置が記載されている。
【0003】
λ/4の面内レターデーションを有する位相差フィルムとしては、延伸フィルムを用いるものと、透明支持体上に硬化型液晶性化合物によって形成される光学異方性層を有するものとが挙げられる。
このうち、延伸フィルムは一般に長さ方向又は幅方向に延伸して作成されるため、遅相軸は長さ方向に対し平行又は直交である。
偏光板の作成において、位相差フィルムと偏光子を貼り合わせる場合、位相差フィルムと偏光子がロール・トゥ・ロールで貼合されることが生産効率上好ましい。
一方、液晶表示装置では一般にポリビニルアルコールの延伸フィルムが偏光膜として用いられており、偏光の吸収軸は長さ方向と平行である。
従って、偏光軸に対して45°方向に遅相軸を有する位相差フィルムと偏光子をロール・トゥ・ロールで貼合するためには45°方向に遅相軸を有する位相差フィルムのロールフィルムが必要なため、延伸フィルムはロール・トゥ・ロールでの貼り合わせには適さない。
これに対し、硬化型液晶性化合物によって形成される光学異方性層を有する位相差フィルムは、ラビングなどの方法で液晶性化合物の配向方向を制御することで遅相軸の方向を自由に変えることができるため、ロール・トゥ・ロールでの貼り合わせに適している。
【0004】
特許文献2にはトリアセチルセルロースフィルムを透明支持体として重合性棒状液晶性化合物が配向した長手方向に対して45°方向に遅相軸を有するロールフィルム状のλ/4板を作成し、それをロール・トゥ・ロールで偏光子と貼合して楕円偏光板を作成できることが示されている。このようにして作成される楕円偏光板は、光学異方性層/配向膜/透明支持体/偏光子/保護フィルムという構成を有し、液晶セルは光学異方性側に、保護フィルムは表示装置の視認側に配置される。
特許文献2に記載はないが、表示装置の表面側に配置される保護フィルムは耐擦傷性の機能付与を目的に通常ハードコートフィルムが保護フィルムとして用いられることが考えられる。
一方、上記特許文献1の時分割2眼立体視の透過型液晶表示装置におけるλ/4板として上記特許文献2に記載の構成の楕円偏光板を用いた場合、光学異方性層が表示装置の視認側に配置されるために、耐擦傷性付与のためにハードコートフィルムが最表面に用いられることが好ましいと考えられる。光学異方性層の表面にハードコートフィルム(通常、透明支持体上にハードコート層を設けてなる)を設けようとすると、ハードコート層/透明支持体/粘着剤層/光学異方性層/配向膜/透明支持体/偏光子/保護フィルムという構成になり、表面の部材(偏光板)が厚くなってしまうという問題が生じる。」

(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上をまとめると、位相差と表面耐擦傷性を付与することができ、かつ薄型化の要求を満たす偏光板を提供することができる光学フィルムの開発が必要である。
本発明者らはハードコート層と光学異方性層の基材の共通化による表面部材の薄型化を検討し、ハードコート層を光学異方性層に直接積層することで透明支持体と粘着剤層を省略できることに思い至った。すなわち、ハードコート層/光学異方性層/配向膜/透明支持体/偏光子/保護フィルムという構成を取ることで薄型化が可能になることを見出した。
また、上記構成を有する、光学異方性層を用いた時分割2眼立体視の透過型液晶表示装置に適した表面フィルムの開発に着手したところ、従来知られていなかった、新たな2つの問題を発見した。
第1の問題は特許文献2に記載されているトリアセチルセルロースフィルムを透明支持体として、重合性棒状液晶性化合物から作成されるλ/4層を搭載した時分割2眼立体視の透過型液晶表示装置は、正面の表示性能には優れているものの、斜め方向から見た時にクロストークが観察され画像品位が低下するという問題である。この問題は、光学フィルムのRe及びRthを制御し、Nzファクター(Rth/Re+0.5)を0.5に近くすることができれば、解決し得ることを本発明者らは見出した。本発明の光学フィルムの構成(ハードコート層/光学異方性層/配向膜/透明支持体)は、Nzファクターを0.5に近くすることができるが、後述する比較例試料140のように、単にλ/4板上にハードコートフィルムを形成した(ハードコート層/透明支持体/粘着剤層/光学異方性層/配向膜/透明支持体という)構成ではNzファクターは1より大きく、斜め方向から見た時にクロストークが解消されないことがわかった。
第2の問題は、密着性の問題である。光学異方性層を形成し、該光学異方性層上にハードコート層を積層したところ、ハードコート層と光学異方性層の間に充分な密着性が得られず、簡単にハードコート層が剥離してしまうことがわかった。
前述のように、特許文献2に記載の技術などでは、光学異方性層は偏光子と液晶セルの間に存在していたため、密着性(耐剥離性)に関しては過酷な条件で検討されることはなかった。これに対し、前記光学フィルムを画像表示装置における表面フィルムとして用いる場合は、光学異方性層はハードコート層の直下に位置し、画像表示装置の表面近傍に位置することになり、密着性等の物理強度に対する要求は格段に大きくなる。従って、ハードコート層と光学異方性層の密着性の問題は極めて深刻な問題である。
【0007】
本発明は、上記問題をも解決することができるものであり、表面保護フィルムと位相差フィルムの機能を有する複合フィルムに関するもので、生産性が高く、表面硬度が高く、各層間の密着性などの物理強度に優れ、搭載した画像表示装置の画像品位にも優れ、偏光板の薄型化に好適な光学フィルムを提供することである。また、このような光学フィルムを搭載した偏光板や画像表示装置にも関する。」

(3)「【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生産性が高く、表面硬度が高く、密着性などの物理強度に優れ、搭載した画像表示装置の画像品位(光学補償に優れ、クロストークなどがない)にも優れ、偏光板やそれを搭載した画像表示装置の薄型化に寄与できる、画像表示装置用の表面フィルムとして好適な光学フィルムを提供することができる。
また、本発明の光学フィルムは、透過型液晶表示装置をベースとした立体型画像表示装置に適している。」

(4)「【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書において、数値が物性値、特性値等を表す場合に、「(数値1)?(数値2)」という記載は「(数値1)以上(数値2)以下」の意味を表す。
【0013】
本発明の光学フィルムは、透明支持体の一方の面上に配向膜、光学異方性層、及びハードコート層をこの順で有し、前記配向膜と前記光学異方性層、及び、前記光学異方性層と前記ハードコート層が直接接している光学フィルムであって、
前記光学異方性層が不飽和二重結合を有する液晶性化合物を含有する組成物から形成されたものであり、
前記光学異方性層と前記ハードコート層が共有結合しており、
光学フィルムの波長550nmにおける面内レターデーションが80?200nmであり、波長550nmにおける厚さ方向のレターデーションが-70?70nmである、画像表示装置用表面フィルムとして用いられる光学フィルムである。
【0014】
以下、本発明の光学フィルム、偏光板、画像表示装置に使用される材料、及びそれらの製造方法について詳細に説明する。
【0015】
[透明支持体]
[透明支持体の材質]
本発明の透明支持体を形成する材料としては、光学性能、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性、等方性などに優れるポリマーが好ましい。本発明でいう透明とは、可視光の透過率が60%以上であることを示し、好ましくは80%以上であり、特に好ましくは90%以上である。例えば、ポリカーボネート系ポリマー、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等のスチレン系ポリマーなどがあげられる。
・・・略・・・
【0017】
また、本発明の透明支持体を形成する材料としては、従来偏光板の透明保護フィルムとして用いられてきた、トリアセチルセルロースに代表される、セルロース系ポリマー(特に好ましくは、セルロースアシレート)を好ましく用いることができる。以下に、本発明の透明支持体の例として、主にセルロースアシレートについて詳細を説明するが、その技術的事項は、他の高分子フィルムについても同様に適用できることは明らかである。
・・・略・・・
【0022】
[透明支持体の添加剤]
本発明における透明支持体には、種々の添加剤(例えば、光学的異方性調整剤、波長分散調整剤、微粒子、可塑剤、紫外線防止剤、劣化防止剤、剥離剤、など)を加えることができ、これらについて以下に説明する。また、透明支持体がセルロースアシレートフィルムである場合、その添加する時期はドープ作製工程(セルロースアシレート溶液の作製工程)における何れでも良いが、ドープ作製工程の最後に添加剤を添加し調製する工程を行ってもよい。
・・・略・・・
【0024】
[マット剤微粒子]
本発明における透明支持体には、マット剤として微粒子を加えることが好ましい。微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子はケイ素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が30g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5?16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は70?200g/リットルが好ましく、90?200g/リットルがより好ましく、100?200g/リットルが更に好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0025】
これらの微粒子は、通常平均粒子径が0.1?3.0μmの2次粒子を形成し、これらの微粒子はフィルム中では、1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1?3.0μmの凸部を形成させる。2次平均粒子径は0.2μm以上1.5μm以下が好ましく、0.4μm以上1.2μm以下が更に好ましく、0.6μm以上1.1μm以下が最も好ましい。1次、2次粒子径はフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒径とした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子径とする。また、フィルム表面の凹凸の状態はAFMなどの手法により測定することができる。
・・・略・・・
【0031】
[光学異方性層]
本発明の光学フィルムが有する光学異方性層について説明する。光学異方性層とは、配向膜上に該層を形成することで位相差を生じさせる層をいう。本発明において、光学異方性層は透明支持体の一方の面上に設けられた配向膜に接するように設けられる。すなわち、光学異方性層は、透明支持体の一方の面上に設けられた配向膜に、他の層を介さずに直接積層される。
・・・略・・・
【0084】
[配向膜]
本発明の光学フィルムは、前記透明支持体と前記光学異方性層の間に配向膜を有する。本発明では、配向膜の表面に前記光学異方性層形成用組成物を塗布して、液晶性化合物の分子を配向させることが好ましい。配向膜は液晶性化合物の配向方向を規定する機能を有するため、本発明の好ましい態様を実現する上で利用するのが好ましい。
配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例、ω-トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で設けることができる。更に、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
配向膜は、ポリマーのラビング処理により形成することが好ましい。
・・・略・・・
【0094】
配向膜形成時に利用する塗布方法は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法又はロールコーティング法が好ましい。特にロッドコーティング法が好ましい。また、乾燥後の膜厚は0.1?10μmが好ましく、0.2?5.0μmがより好ましく、0.3?3.0μmが更に好ましく、0.4?2.0μmが特に好ましい。加熱乾燥は、20℃?110℃で行なうことができる。充分な架橋を形成するためには60℃?100℃が好ましく、特に80℃?100℃が好ましい。乾燥時間は1分?36時間で行なうことができるが、好ましくは1分?30分である。pHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒドを使用した場合は、pH4.5?5.5が好ましい。
【0095】
配向膜は、透明支持体上に設けられることが好ましい。配向膜は、上記のようにポリマー層を架橋したのち、表面をラビング処理することにより得ることができる。」

(5)「【実施例】
【0154】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、特別の断りの無い限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0155】
<透明支持体(セルロースアセテートフィルムT1)の作製>
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、固形分濃度22質量%のセルロースアセテート溶液(ドープA)を調製した。
【0156】
[セルロースアセテート溶液(ドープA)の組成]
アセチル置換度2.86のセルロースアセテート 100質量部
トリフェニルホスフェート(可塑剤) 7.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤) 3.9質量部
紫外線吸収剤(チヌビン328 チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)
0.9質量部
紫外線吸収剤(チヌビン326 チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)
0.2質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 336質量部
メタノール(第2溶媒) 29質量部
1-ブタノール(第3溶媒) 11質量部
【0157】
上記ドープAに平均粒径16nmのシリカ粒子(AEROSIL R972、日本アエロジル(株)製)をセルロースアセテート100質量部に対して0.02質量部添加したマット剤入りドープBを調製した。ドープBはドープAと同じ溶剤組成で固形分濃度が19質量%になるように調節した。
【0158】
ドープAを主流とし、マット剤入りドープBを最下層及び最上層になるようにして、バンド延伸機を用いて流延した。バンド上での膜面温度が40℃となってから、70℃の温風で1分乾燥し、バンドからフィルムをはがし140℃の乾燥風で10分乾燥し、残留溶剤量が0.3質量%のセルロースアセテートフィルムT1を作製した。マット剤入りの最下層及び最上層はそれぞれ厚みが3μmに、主流は厚みが74μmになるように流量を調節した。
【0159】
得られた長尺状のセルロースアセテートフィルムT1の幅は2300mmであり、厚さは80μmであった。また、波長550nmにおける面内レターデーション(Re)は3nm、厚さ方向のレターデーション(Rth)は45nmであった。また、380nmの透過率は3.8%で、450?650nmの平均透過率は92%だった。
レターデーションの測定は本明細書に記載の方法で行った。
透過率は、分光光度計で測定した。
・・・略・・・
【0172】
<光学基材F1の作成>
《液晶性化合物を含む光学異方性層の形成》
(アルカリ鹸化処理)
セルロースアセテートフィルムT1を、温度60℃の誘電式加熱ロールを通過させ、フィルム表面温度を40℃に昇温した後に、フィルムのバンド面に下記に示す組成のアルカリ溶液を、バーコーターを用いて塗布量14ml/m^(2)で塗布し、110℃に加熱した(株)ノリタケカンパニーリミテド製のスチーム式遠赤外ヒーターの下に、10秒間搬送した。続いて、同じくバーコーターを用いて、純水を3ml/m^(2)塗布した。次いで、ファウンテンコーターによる水洗とエアナイフによる水切りを3回繰り返した後に、70℃の乾燥ゾーンに10秒間搬送して乾燥し、アルカリ鹸化処理したセルロースアセテートフィルムを作製した。
【0173】
[アルカリ溶液組成]
水酸化カリウム 4.7質量部
水 15.8質量部
イソプロパノール 63.7質量部
界面活性剤 SF-1:C_(14)H_(29)O(CH_(2)CH_(2O))_(20)H
1.0質量部
プロピレングリコール 14.8質量部
【0174】
(配向膜の形成)
上記のように鹸化処理した長尺状のセルロースアセテートフィルムに、下記の組成の配向膜塗布液をワイヤーバーで連続的に塗布した。60℃の温風で60秒、更に100℃の温風で120秒乾燥した。配向膜の厚みは0.7μmだった。
【0175】
[配向膜塗布液の組成]
下記の変性ポリビニルアルコール 100質量部
水 3710質量部
メタノール 1190質量部
グルタルアルデヒド 5質量部
光重合開始剤(イルガキュアー2959、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)
3質量部
・・・略・・・
【0177】
(ディスコティック液晶性化合物を含む光学異方性層の形成)
上記作製した配向膜に連続的にラビング処理を施した。このとき、長尺状のフィルムの長手方向と搬送方向は平行であり、フィルム長手方向に対して、ラビングローラーの回転軸は反時計回りに45°の方向とした。
【0178】
下記の組成のディスコティック液晶性化合物を含む塗布液を上記作製した配向膜上に#3.6のワイヤーバーで連続的に塗布した。フィルムの搬送速度(V)は36m/minとした。塗布液の溶媒の乾燥及びディスコティック液晶性化合物の配向熟成のために、120℃の温風で90秒間加熱した。続いて、80℃にて160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度400mW/cm^(2)、照射量100mJ/cm^(2)の紫外線を照射して液晶性化合物の配向を固定化し、厚さ1.6μmの光学異方性層を形成し巻き取り、光学基材F1を得た。
作製した光学基材F1は、550nmにおける面内レターデーション(Re)が125nmあった。支持体の長さ方向に対して、遅相軸は時計回りに45°の方向であった。ディスコティック液晶性化合物の円盤面のフィルム面に対する平均傾斜角は90°であり、ディスコティック液晶がフィルム面に対して垂直に配向していることを確認した。光学異方性層側表面の算術平均粗さRa(JIS B 0601:1998)は0.01?0.04μmの範囲にあり、平滑性の高いものであった。
【0179】
[光学異方性層塗布液の組成]
下記のディスコティック液晶性化合物 100質量部
下記アクリレートモノマー 5質量部
光重合開始剤(イルガキュアー907、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)
3質量部
増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製) 1質量部
下記のピリジニウム塩 0.5質量部
下記のフッ素系ポリマー(FP1) 0.2質量部
下記のフッ素系ポリマー(FP3) 0.1質量部
メチルエチルケトン 189質量部
・・・略・・・
【0185】
<光学基材F2?F10の作成>
光学基材F1に対し、光学異方性層に紫外線を照射する際の照射量を表1に記載した条件に変更した以外は光学基材F1の製造方法と同様にして光学基材F2?F10を作製した。作製した光学基材F2?F10はいずれも、550nmにおけるReが125nmであった。光学異方性層側表面の算術平均粗さRa(JIS B 0601:1998)は0.01?0.04μmの範囲にあり、平滑性の高いものであった。
・・・略・・・
【0207】
[光学フィルム試料の作製]
(光学フィルム試料101の作製)
上記で作製した光学基材F1をロール形態から巻き出して光学異方性層の表面に、ハードコート層用塗布液HC-1を使用し、特開2006-122889号公報実施例1記載のスロットダイを用いたダイコート法で、搬送速度30m/分の条件で塗布し、60℃で150秒乾燥の後、更に窒素パージ下酸素濃度約0.1%で160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度400mW/cm^(2)、照射量100mJ/cm^(2)の紫外線を照射して塗布層を硬化させ巻き取った。ハードコート層の膜厚は10μmになるよう塗布量を調整した。
【0208】
更に上記で作成したハードコートフィルムをロール形態から巻き出してハードコート層が塗設されている側に低屈折率層用塗布液Ln-1を塗布し、光学フィルム試料101を作成した。低屈折率層の乾燥条件は60℃、60秒とし、紫外線硬化条件は酸素濃度が0.1体積%以下の雰囲気になるように窒素パージしながら240W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度600mW/cm^(2)、照射量300mJ/cm^(2)の照射量とした。低屈折率層の屈折率は1.36、膜厚は95nmであった。
【0209】
(光学フィルム試料102?123、127?139の作製)
上記で作製した光学フィルム試料101に対し表1に示すように、光学基材F1を光学基材F2?F36に変更した以外は光学フィルム試料101と同様にして光学フィルム試料102?123、127?139を作成した。
【0210】
(光学フィルム試料124の作製)
上記で作製した光学フィルム試料101に対しハードコート層用塗布液HC-1を塗布した後の照射量を100mJ/cm^(2)から300mJ/cm^(2)に変更し、低屈折率層を積層しない点を変更した以外は光学フィルム試料101と同様にして光学フィルム試料12
4を作成した。
【0211】
(光学フィルム試料125の作製)
上記で作製した光学フィルム試料101に対しハードコート層も低屈折率層も積層しないもの、すなわち、光学基材F1を光学フィルム試料125とした。
【0212】
(光学フィルム試料126の作製)
上記で作製した光学フィルム試料101に対し光学基材F1をセルロースアセテートフィルムT1に変更した以外は光学フィルム試料101と同様にして光学フィルム試料126を作成した。この構成では光学異方性層が積層されていなかった。
【0213】
(光学フィルム試料140の作製)
上記で作製した光学基材F35と光学フィルム試料126を粘着剤で貼合し、光学フィルム試料140を作成した。貼合面は光学基材F35の光学異方性層と光学フィルム試料126のハードコート層を積層していない面である。」

(6)上記(1)ないし(5)からみて、引用例には、【0001】に記載された光学フィルムについて、具体的な実施例として、次の発明(なお、ここでは引用箇所を示す段落番号を参考として併記している。)が記載されているものと認められる。
「【0001】【0031】透明支持体の一方の面上に配向膜、位相差を生じさせる光学異方性層、及びハードコート層をこの順で有する光学フィルムであって、
【0155】固形分濃度22質量%のセルロースアセテート溶液(ドープA)に、【0157】平均粒径16nmのシリカ粒子(AEROSIL R972、日本アエロジル(株)製)をセルロースアセテート100質量部に対して0.02質量部添加したマット剤入りドープBを調製し、【0158】ドープAを主流とし、マット剤入りドープBを最下層及び最上層になるようにして、透明支持体であるセルロースアセテートフィルムT1を作製し、【0172】セルロースアセテートフィルムT1をアルカリ鹸化処理したセルロースアセテートフィルムを作製し、
【0174】鹸化処理したセルロースアセテートフィルムに、配向膜塗布液をワイヤーバーで連続的に塗布し、60℃の温風で60秒、更に100℃の温風で120秒乾燥し、厚みが0.7μmの配向膜を形成し、
【0177】配向膜に連続的にラビング処理を施し、【0178】ディスコティック液晶性化合物を含む塗布液を上記作製した配向膜上に連続的に塗布し、液晶性化合物の配向を固定化し、厚さ1.6μmの光学異方性層を形成し巻き取り、光学基材F1を得て、
【0207】光学異方性層の表面に、ハードコート層用塗布液HC-1を使用して塗布し、紫外線を照射して塗布層を硬化させ、膜厚が10μmのハードコート層を形成し、
【0208】ハードコート層が塗設されている側に低屈折率層用塗布液Ln-1を塗布、硬化させて作成した、
光学フィルム。」(以下「引用発明」という。)

6 周知の事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-62426号公報(以下「周知例1」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、配向膜、光学補償シート、偏光板、およびそれを用いた液晶表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】液晶表示装置は、偏光板と液晶セルから構成されている。現在主流であるTNモードTFT液晶表示装置においては、特開平8-50206号公報に記載のように、光学補償シート(位相差板)を偏光板と液晶セルの間に挿入することにより、表示品位の高い液晶表示装置が実現されている。しかし、この方法によると、液晶表示装置自体が厚くなるなどの問題点があった。特開平1-68940号公報には、偏光膜の一方の面に光学補償シート、他方の面に保護フィルムを有する楕円偏光板を用いることで、液晶表示装置を厚くすることなく、正面コントラストを高くすることができるとの記載がある。ところが、この発明の光学補償シートは、熱等の歪みにより位相差が発生しやすく、耐久性に問題のあることがわかった。歪みによる位相差発生の問題に対し、特開平7-191217号公報および欧州特許0911656A2号明細書においては、透明支持体上にディスコティック化合物からなる光学異方性層を塗設した光学補償シートを、直接偏光板の保護フィルムとした楕円偏光板を用いることで、液晶表示装置を厚くすることなく、上述の耐久性の問題を解決した。
【0003】光学補償シートは、透明支持体上に配向膜を形成し、配向膜表面をラビング(布などで擦る)処理し、その上に、液晶化合物を塗布そして配向させ、さらにその配向状態が固定化された光学異方性層を設けることで得られる。ラビング処理において、配向膜表面が削り取られ、その粉が凝集することで液晶化合物層の配向欠陥となり、生産の歩留まりを悪化させるという問題があった。この問題に対し、特開平7-333613号公報に記載のように、超音波除塵機を利用してラビング屑を取り去る試みがなされ、ある程度の成果が得られた。」
イ 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】前記のように配向膜をラビング処理する際に発生するラビング屑は、液晶化合物を用いる光学補償シートもしくは液晶セルの歩留まりを悪化させていた。超音波除塵機の利用により、ある程度ラビング屑の除去ができ成果は得られたものの、歩留まりを低下させる原因であるラビング屑の発生そのものを抑えたわけではない。また、近年、ディスプレイが高精細化するに従い、欠陥サイズに対する要求も厳しくなり、超音波除塵機の利用のみでは十分な歩留まりが得られなくなっている。本発明の目的は、ラビング屑の発生が少ない配向膜を提供して、光学補償シートや液晶セルの生産歩留まりを向上させることにある。また、液晶表示装置の視野角を拡大させる、生産歩留まりに優れる光学補償シートを提供することにある。さらに、本発明の目的は、光学補償シートを用いて、液晶パネルの厚みを厚くすることなく、視野角が拡大し、そして視角変化による、コントラスト低下、階調または黒白反転、および色相変化等がほとんど発生することのなく、さらに耐久性が向上した液晶表示装置を提供することにある。」
ウ 「【0009】
【発明の効果】本発明者は、配向膜の表面粗さを制御することにより、ラビングの際に発生するラビング屑の発生を抑えることに成功した。また、本発明の配向膜を光学補償シートや液晶セルに利用することで、それらの生産歩留まりを向上することができる。更にこの技術を利用した光学補償シートは、液晶化合物層の配向欠陥が少なく、そして液晶セルを光学的に充分補償できる。また、この光学補償シートを偏光板や液晶表示装置に利用することで、従来の液晶表示装置の厚みを保ったまま、副作用なしに液晶セルが光学的に補償され、広視野角である液晶表示装置を歩留まり良く提供することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明の配向膜は、ラビング屑の発生を抑えるために、その表面粗さが0.1乃至2.0nmの範囲にあることを特徴とする。配向膜の表面粗さは、配向膜用塗布液の溶媒および粘度、そして乾燥膜厚などを調整することにより制御できる。表面粗さの制御についての詳細は後述する。
【0011】また、本発明の光学補償シートは、透明支持体に、配向膜および液晶化合物からなる光学異方性層がこの順で設けられてなり、配向膜の表面粗さが0.1乃至2.0nmの範囲にあることを特徴とする。液晶化合物はディスコティック化合物であることが好ましく、その例としては、モノマー等の低分子量ディスコティック化合物または重合性ディスコティック化合物の重合により得られるポリマーを挙げることができる。ディスコティック化合物は、一般に、ディスコティック液晶相(即ち、ディスコティックネマチック相)を有する化合物とディスコティック液晶相を持たない化合物に大別することができる。ディスコティック化合物は、一般に負の複屈折を有する。本発明の光学異方性層は、ディスコティック化合物のこの負の複屈折性を利用したものである。液晶化合物を有する光学補償シートは、液晶セルに対する優れた光学補償機能を有する。」
エ 「【0012】[配向膜]本発明の配向膜は、生産性に優れた塗布方式を用いることができる有機配向膜であることが好ましい。そして、その表面粗さが0.1乃至2.0nmの範囲にあることを特徴とする。配向膜は、ポリマー材料からなり、そして、ポリマー材料と溶媒からなる配向膜用塗布液を所望の方法で塗布、そして乾燥することにより形成する。配向膜の表面粗さは、配向膜用塗布液の溶媒および粘度、そして乾燥膜厚などを調整することにより制御できる。具体的には、基板表面の凹凸以上の乾燥膜厚で、ゆっくりと乾燥させることにより、配向膜の表面を平滑化できる。さらに、トリアセチルセルロースに代表される透明プラスッチック支持体に配向膜を塗設する場合、配向膜用塗布液の乾燥条件のみでなく乾燥後の厚みが0.7μm乃至1.5μm、さらには、0.85乃至1.25μmであると非常に平滑な表面の得られることがわかった。・・・略・・・」

(2)本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-14935号公報(以下「周知例2」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、液晶性化合物を配向させるために用いられる配向膜および液晶性化合物層を有する高分子フィルムからなる位相差フィルムに関する。
イ 「【0019】本発明の配向膜用組成物またはその溶液を基板に塗布する方法は特に限定されないが、得られる配向膜の表面性が後の液晶性化合物の配向に影響するため、該配向膜表面は極力平滑であることが好ましい。そのような配向膜を得るための塗布方法としては、例えば、スピンコート方式、ワイヤーバーコート方式、グラビアコート方式、カレンダーコート方式、スプレーコート方式、メニスカスコート方式等などによる方法が挙げられる。配向膜の厚さとしては、好ましくは0.001?20μm、より好ましくは0.05?10μm程度がよく、そのような膜厚は溶液の濃度や塗布方法、塗布条件を調節することにより達成される。」

(3)本願の出願前に頒布された刊行物である特開2005-62799号公報(以下「周知例3」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、面状を改良した光学補償シート、及び該光学補償シートの製造方法に関する。さらに該光学補償シートを用いた偏光板、及び該偏光板を配置した液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、通常、液晶セル、偏光板および光学補償シート(位相差板)からなり、主として透過型液晶表示装置及び反射型液晶表示装置に大別される。
透過型液晶表示装置では、二枚の偏光板を液晶セルの両側に取り付け、一枚または二枚の光学補償シートを液晶セルと偏光板との間に配置する。反射型液晶表示装置では、反射板、液晶セル、一枚の光学補償シート、そして一枚の偏光板の順に配置する。
液晶セルは、通常、棒状液晶性分子、それを封入するための二枚の基盤および棒状液晶性分子に電圧を加えるための電極層からなる。液晶セルは、棒状液晶性分子の配向状態の違いにより様々な表示モードが提案されており、透過型については、TN(Twisted Nematic)、IPS(In-Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)等、反射型については、HAN(Hybrid Aligned Nematic)等が提案されている。
偏光板は、一般的に、偏光膜と透明保護膜とからなっている。該偏光膜は、一般的に、ポリビニルアルコールにヨウ素または二色性染料の水溶液を含浸させ、さらにこのフィルムを一軸延伸することにより得られる。該偏光板はこの偏光膜の両側に二枚の透明保護膜を貼りつけた構成を有する。
【0003】
光学補償シートは、画像着色を解消したり、視野角を拡大するために、様々な液晶表示装置で用いられている。光学補償シートとしては、透明支持体上に液晶性分子、特にディスコティック液晶性分子から形成された光学異方性層を有する光学補償シートを使用することが提案されている。光学異方性層は、液晶性分子を配向させ、その配向状態を固定化することにより形成する。一般に、重合性基を有する液晶性分子を用いて、重合反応によって配向状態を固定化する。液晶性分子は、大きな複屈折を有する。そして、液晶性分子には、多様な配向形態がある。液晶性分子を用いることで、従来の延伸複屈折フィルムでは得ることができない光学的性質を実現することが可能になった。
【0004】
光学補償シートの光学的性質は、液晶セルの光学的性質、具体的には上記の表示モードの違いに応じて決定する。光学補償シートに液晶性分子、特にディスコティック液晶性分子を用いると液晶セルの様々な表示モードに対応する様々な光学的性質を有する光学補償シートを製造することができる。
ディスコティック液晶性分子を用いた光学補償シートでは、様々な表示モードに対応するものが既に提案されている。
【0005】
透明支持体上に液晶性分子の配向を固定化した光学異方性層を設けた光学補償シートを製造する場合、透明支持体と光学異方性層の間に配向膜を設ける。この場合、透明支持体と配向膜との間の密着性が必要になる。又、配向膜の配向はラビング、電界印加、磁場印加、光照射等の処理により行われるが、配向膜上の微小なチリ等の付着が配向の均一性を損なってしまう。特に、ラビング処理では膜表面を擦るために静電気発生への対策が必要となる。こうしたことから、通常、配向膜は水溶性樹脂硬化膜が適用され、特にポリビニルアルコール系等の水酸基含有の樹脂と硬化剤からなる硬化膜が用いられる。
【0006】
透明支持体としては通常、セルロースアセテートフィルムなどのセルロースエステルフィルムを使用する。一般に、配向膜に用いられるポリビニルアルコールとセルロースエステルフイルムの親和性は悪く、配向膜の剥離が生じ易い。配向膜の剥離により、配向膜の上に設けられた光学異方性層もフイルムから剥離する。光学補償シートは、液晶表示装置の寸法にあわせて切断(あるいは打ち抜き)されるが、この切断の際の衝撃によりフイルムの切断部に剥離を生じることが多い。剥離した配向膜(または光学異方性層)の屑は、光学補償シートを用いた液晶表示装置の表示画面上に生じる「輝点故障」の原因となる。輝点故障は液晶表示装置の表示画面上に生じる星状に輝いて見える点状の故障である。このような輝点故障の発生を防ぐ(すなわちセルロースエステルフイルムと配向膜の密着性を改良する)ために、接着層としてゼラチン等の下塗り層を設ける方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。然し、下塗り層を設ける場合には、特に支持体の膜厚を薄膜化すると下塗り層に含まれる塗布溶媒等の影響で均一な塗布が出来なくなる等の問題が顕著になる。
【0007】
又、透明支持体をアルカリ水溶液に浸漬して表面をアルカリ鹸化処理して、支持体表面に密着性を付与して配向膜を設ける(例えば、特許文献2参照)等の方法が開示されているが、フイルムの両面に鹸化処理がされると、フイルムをロール状に巻き取った場合に、フイルムが互いに接着してしまう問題点があった。この問題は特にセルロースアセテートフィルムに顕著に見られる。
更に、セルロースエステルフイルムの必要とする片面のみをアルコール溶媒を含むアルカリ溶液でアルカリ鹸化する方法が提案されている(特許文献3)。これによりムラ無く鹸化処理が行われ、且つ化処理後にロール状に巻き取った場合にも、接触する面同士が密着して貼り付いてしまうことが無く、長尺フィルムの連続した鹸化処理が行われる。しかしながら、鹸化に要する時間が長いという欠点が残されていた。
一方、偏光板用保護フィルムとして用いるセルロースエステルフイルムの偏光子と接する面をプラズマ処理する方法が提案され、アルカリ水溶液中に浸漬して鹸化後にプラズマ処理することの記載が開示されている(特許文献4、段落番号[0047])。しかし、アルカリ鹸化用液体にフィルム全体を浸漬するため、両面鹸化され、前記したような浸漬処理に伴う製造工程上の煩雑さがあり、或は光学補償シート製造に必要な親水化が適切に
処理されることは記載されていない。
これらの技術を用いた場合、光学的な欠陥(例えば、白抜け現象等)が発生しやすく、特に長尺フィルムを製造すると実用に供しえる性能のものを得る得率が著しく低下するという課題があり、未だ充分とはいえない。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、液晶表示装置の大画面化が進み、且つ画像の鮮明さがより一層求められるようになり、光学補償シートの面状欠陥への要求及び低コスト化が望まれている。
特に、前記のような種々の液晶表示装置に対応できる光学補償シートとして、光学特性に優れ且つシート膜厚が薄膜のものが強く望まれている。
従って、本発明の目的は、従来通りの配向膜との密着性を維持したまま、かつ良好な面状を有する光学補償シートを提供することである。
又、本発明の他の目的は、従来通りの配向膜との密着性を維持したまま、かつ良好な面状を有する光学補償シートを効率よく安定して製造する製造方法を提供することである。
さらに、本発明の他の目的は、光学補償シートを偏光膜の片側に配置した偏光板を備えた、表示品位の高い液晶表示装置を提供することである。」
ウ 「【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、下記構成の光学補償シート、その製造方法、該光学補償シートを用いた偏光板及び該偏光板を配置した液晶表示装置が提供され、本発明の上記目的が達成される。
(1)透明支持体上に親水化表面処理を施したのち、配向膜形成用組成物を塗布して配向膜を形成し、その上に液晶性化合物を含む塗布液を塗布して光学異方性層を形成して成る光学補償シートにおいて、該透明支持体の表面に、該配向膜の塗設後の配向膜表面が平坦化される大きさの表面凹凸を予め付与し、該親水化表面処理として、アルカリ溶液によるアルカリ鹸化処理が行われて得たことを特徴とする光学補償シート。
(2)上記の表面凹凸の形状が、JISB0601-1994に基づく該透明支持体の表面凹凸の算術平均粗さ(Ra)0.002?0.1μm、十点平均粗さ(Rz)0.003?0.12μm、且つ最大高さ(Ry)が 0.2μm以下であることを特徴とする上記(1)記載の光学補償シート
(3)透明支持体上に親水化表面処理を施したのち、配向膜形成用組成物を塗布して配向膜を形成し、その上に液晶性化合物を含む塗布液を塗布して光学異方性層を形成して成る光学補償シートにおいて、該親水化表面処理が、物理的処理及びアルカリ溶液の塗布によるアルカリ鹸化処理とを組み合わせたものであることを特徴とする光学補償シート。
・・・略・・・
【0014】
本発明の光学補償シートは、密着性付与のために予め親水化表面処理した透明支持体、配向膜、及び光学異方性層がこの順に積層された層構成を有する。
本発明では透明支持体に以下の[1]または[2]による表面処理により、透明支持体の表面が親水性に改質される親水化表面処理を行うことを特徴とする。
[1] 透明支持体の表面凹凸形状付与後、アルカリ溶液への浸漬・塗布などによるアルカリ鹸化処理を行う。
[2] 透明支持体の物理的処理およびアルカリ溶液の塗布によるアルカリ鹸化処理を行う。
本発明における表面凹凸形状付与、アルカリ鹸化処理、物理的処理については後述する。
これにより支持体の全面が速やかに均一に親水化表面処理されて上層の配向膜との密着性が良好となる。光学的欠陥の無い光学補償シートが安定して生産性良く得られる。」
エ 「【発明の効果】
【0015】
本発明の光学補償シートは、透明支持体と配向膜との密着性が高いため、面状が良好でムラが少ない。本発明の光学補償シートを用いて、ムラが非常に少なく、光学的欠点が発生しにくい偏光板、液晶表示装置を得ることができる。
本発明の光学補償シートを長尺フィルムとして製造した場合においても、良好な面状が保たれた光学補償シートを得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の光学補償シート、その製造方法、該光学補償シートを用いた偏光板及び該偏光板を配置した液晶表示装置について詳しく説明する。
まず、光学補償シート及びその製造方法について説明する。本発明の光学補償シートは、親水化表面処理により親水性に表面改質された透明支持体、配向膜、及び光学異方性層がこの順に積層された層構成を有する。」

(4)周知例1ないし周知例3から把握される周知の事項
上記(1)ないし(3)から、透明支持体上に配向膜及び光学異方性層をこの順で形成する光学フィルムにおいて、ラビング屑の発生等による光学的な欠陥抑制のため、配向膜の表面を極力平滑化(平坦化)すること、すなわち、「光学的な欠陥抑制のため、配向膜の表面を極力平滑化(平坦化)すること。」が、本願の出願前に周知(以下「周知技術」という。)であったと認められる。

7 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「平均粒径16nmのシリカ粒子」は、「マット剤」であるから、本願発明の「フィラー」に相当することは技術常識からみて明らかである。
(2)引用発明の「透明支持体」は「セルロースアセテートフィルム」であり、該「セルロースアセテートフィルム」は、「固形分濃度22質量%のセルロースアセテート溶液(ドープA)に、平均粒径16nmのシリカ粒子をセルロースアセテート100質量部に対して0.02質量部添加したマット剤入りドープBを調製し、ドープAを主流とし、マット剤入りドープBを最下層及び最上層になるようにし、透明支持体であるセルロースアセテートフィルムT1を作製し、セルロースアセテートフィルムT1をアルカリ鹸化処理したセルロースアセテートフィルム」である。そうすると、引用発明の「『透明支持体』又は『セルロースアセテートフィルム』」は、本願発明の「基材」に相当するとともに、本願発明の「フィラーを含有する」の要件を満たすものである。
(3)引用発明の「配向膜」及び「位相差を生じさせる光学異方性層」は、それぞれ、本願発明の「配向層」及び「位相差層」に相当する。
(4)引用発明の「光学フィルム」は、「透明支持体」(本願発明の「基材」に相当。以下「」に続く()内の用語は対応する本願発明の用語を示す。)の一方の面上に「配向膜」(配向層)、「位相差を生じさせる光学異方性層」(位相差層)、及びハードコート層をこの順で有する、すなわち、この順に積層されてなるものであるから、本願発明の「位相差フィルム」に相当するとともに、「フィラーを含有する基材と、配向層と、位相差層とがこの順に積層されて」なるものといえる。
(5)上記(1)ないし(4)から、本願発明と引用発明とは、
「フィラーを含有する基材と、配向層と、位相差層とがこの順で積層されてなる、位相差フィルム。」である点で一致し、次の点で相違する。

・相違点1:
本願発明では、「基材表面からの」「フィラーの突出高さが0.8?1.5μmであ」るのに対し、
引用発明では、平均粒径16nmのシリカ粒子が凝集していない1次粒子の状態であるか、該シリカ粒子が凝集した2次粒子の状態であるかが不明であり、いずれの状態であるとしても、基材表面からのフィラーの突出高さが0.8?1.5μmであるかどうかが明らかでない点。

・相違点2:
本願発明では、「配向層の厚みが、基材平面からのフィラーの突出高さ以上であって1.5μm以上の厚みである」のに対し、
引用発明では、配向層の厚みが、0.7μmである点。

8 判断
(1)上記相違点1についての検討
ア 本願発明における「基材表面からのフィラーの突出高さが0.8?1.5μm」であることの技術的意義
(ア)本願の明細書には、段落【0053】に、「図2(A)に示すように、フィラーを練り込んだPET基材の表面では、そのフィラーに基づく凸部(突出部)が生じており、凹凸のある表面になっていることが分かる。なお、図2(A)の観察像において、多数存在する斑点状で表出している箇所が凸部である。そして、図2(B)に示すように、そのフィラーの凸部の高さ(フィラー突出量)としては、高いもので、そのPET基材表面から0.8?1.5μm程度となっていることが分かる。」と、段落【0080】に、「(転写後における配向層の表面性状)さて、本実施の形態では、光学フィルムを構成する位相差フィルム1において、その基材11中にブロッキング等を防止するためのフィラー50が含まれている。そのため、基材11の表面は、フィラー50が突出した状態となっており、具体的には図2に示したように、高いもので0.8?1.5μm程度の突出高さとなっている。」と、それぞれ記載されている。
(イ)上記(ア)からみて、本願の明細書において、フィラーを練り込んだPET基材を作成し、表面の凸部高さを計測したところ、高いもので、PET基材表面から0.8?1.5μm程度となっていたものにすぎず、0.8?1.5μmの範囲の内外かで本願発明の課題を解決できていたのか否かかも検証されていないのであるから、本願発明における「基材表面からのフィラーの突出高さが0.8?1.5μm」であることに臨界的意義は認められない。
イ 引用例における微粒子の2次粒子の透明支持体表面からの凸部の高さに関する記載
(ア)引用例には、段落【0024】(上記5(4))に、「[マット剤微粒子]本発明における透明支持体には、マット剤として微粒子を加えることが好ましい。微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子はケイ素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が30g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5?16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は70?200g/リットルが好ましく、90?200g/リットルがより好ましく、100?200g/リットルが更に好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。」との記載がある。
(イ)引用例の段落【0025】(上記5(4))には、「これらの微粒子は、通常平均粒子径が0.1?3.0μmの2次粒子を形成し、これらの微粒子はフィルム中では、1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1?3.0μmの凸部を形成させる。」と記載されている。すなわち、引用発明においては、シリカ粒子の凝集体である2次粒子が、その平均粒子径と同じ高さの凸部をフィルム表面に形成させると解される。
また、引用例の段落【0025】(上記5(4))には、続いて、「2次平均粒子径は0.2μm以上1.5μm以下が好ましく、0.4μm以上1.2μm以下が更に好ましく、0.6μm以上1.1μm以下が最も好ましい。」と記載されていることから、引用発明において、最も好ましい2次平均粒子径となるように引用発明の「ドープB」を調製した場合においては、フィルム表面に0.4?1.2μmの凸部が形成されることとなる。
ここで、引用例の段落【0025】(上記5(4))には、「1次、2次粒子径はフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒径とした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子径とする。また、フィルム表面の凹凸の状態はAFMなどの手法により測定することができる。」と記載されているから、フィルム表面に形成された凸部の高さは、引用発明の1次、2次粒子のフィルム表面からの突出高さであると断定することはできないともいえる。しかしながら、前述のとおり、「通常平均粒子径が0.1?3.0μmの2次粒子」が「フィルム表面に0.1?3.0μmの凸部を形成させる」、すなわち、2次粒子がその径と同等の高さの凸部をフィルム表面に形成させるのであるから、この点を考慮すると、引用発明におけるフィルム表面の凸部の高さは、引用発明のフィルム表面からのシリカ粒子(の2次粒子)の突出高さと同程度と考えるのが自然である。
ウ 上記イから、引用例には、マット剤微粒子の2次粒子の透明支持体表面からの凸部の高さとして0.6μm以上1.1μm以下が最も好ましいことが記載されているといえる。
エ したがって、引用発明において、基材に粒子を含有させるにあたり、基材表面からの粒子の突出高さをどのように設定するかは、当業者が適宜なし得る設計的事項であるといえ、上記アのように、本願発明における「基材表面からのフィラーの突出高さが0.8?1.5μm」であることに臨界的意義は認められない。
オ また、上記イのように、引用例には、マット剤微粒子の2次粒子の透明支持体表面からの凸部の高さが0.6μm以上1.1μmであることが記載されており、上記エのように、基材表面からの粒子の突出高さをどのように設定するかは、当業者が適宜なし得る設計的事項であることを踏まえれば、引用発明において、例えば、シリカ粒子の2次平均粒子径が1.1μmとなるように引用発明の「ドープB」を調製することにより、フィルム表面からのシリカ粒子(の2次粒子)の突出高さを「0.8?1.5μm」の範囲内のものとすることは、当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項にすぎない。
カ したがって、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは当業者が適宜なし得たことである。

(2)上記相違点2についての検討
ア 本願発明における「配向層の厚み」が、「1.5μm以上」であることの技術的意義
(ア)本願の明細書には、段落【0061】に、「表1及び図5に示すように、配向層の厚みを徐々に厚くしていくことによって、その配向層の表面粗さ(Ra)が小さくなっていくことが分かる。そして、配向層の厚みを1.5μm以上とすることによって、表面粗さを極めて小さくすることができることが分かる。このことは、図2に示した基材に練り込まれたフィラーの突出量(突出高さ)、すなわち高いもので0.8μm?1.5μmという突出量に整合していることから、フィラーの突出高さ以上の大きさの厚みで配向層を設けることによって、配向層の表面粗さを極めて小さくすることができることが分かる。これは、図1に示した位相差フィルム1の断面模式図にあるように、フィラー50の突出高さ以上の厚みの配向層12とすることで、そのフィラー50を配向層12により包埋化することができるためであると考えられる。」との記載がある。
(イ)上記(ア)の記載から、配向層の厚みを1.5μm以上としているのは、基材に練り込まれたフィラーの突出量が、高いもので0.8μm?1.5μmであり、フィラーの突出高さ以上の大きさの厚みで配向層を設けることによって、配向層の表面粗さを極めて小さくすることができることからである。
(ウ)よって、配向層の厚みを1.5μm以上とすることに臨界的意義は認められず、あくまで配向層の厚みをフィラーの突出高さ以上の大きさとして、配向層の表面粗さを極めて小さくすることに、技術的意義があるものと認められる。
イ 引用例における配向膜の厚みに関する記載
(ア)引用例には、段落【0094】(上記5(4))に、「配向膜形成時に利用する塗布方法は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法又はロールコーティング法が好ましい。特にロッドコーティング法が好ましい。また、乾燥後の膜厚は0.1?10μmが好ましく、0.2?5.0μmがより好ましく、0.3?3.0μmが更に好ましく、0.4?2.0μmが特に好ましい。・・・略・・・」との記載がある。
(イ)上記(ア)より、引用例には、配向膜の厚みを0.4?2.0μmとすることが特に好ましいことが記載されている。
ウ (ア)引用例には、配向膜の厚みを、マット剤微粒子の2次粒子の透明支持体表面からの凸部の高さよりも大きくすることは記載されていないが、引用発明に上記周知技術(上記6(4))を適用することで、光学的な欠陥抑制のため、配向膜の表面を極力平滑化(平坦化)することは、当業者が適宜なし得たことである。
(イ)上記(ア)における配向膜の平滑化(平坦化)するにあたり、配向膜の厚みが透明支持体の凸部より小さい場合、配向膜の平滑化(平坦化)を実現できないことから、周知例1及び周知例3に記載されたように、引用発明における配向膜の厚みの範囲において、マット剤微粒子の2次粒子の透明支持体表面からの凸部の高さ(0.6μm以上1.1μm以下)よりも配向膜の厚みを厚くすることは、当業者であれば当然になし得ることにすぎない。
(ウ)したがって、引用発明において、マット剤微粒子の2次粒子の透明支持体表面からの凸部の高さ(0.6μm以上1.1μm以下)よりも配向膜の厚みを厚くするにあたり、配向膜の厚みを0.4?2.0μmの範囲でどのように設定するかは、当業者が適宜選択し得ることにすぎないといえ、上記ア(ウ)のように、配向層の厚みを1.5μm以上とすることに臨界的意義は認められない。
エ したがって、引用発明において、上記相違点3に係る本願発明の構成となすことは当業者が周知技術に基づいて適宜なし得たことである。

(3)効果について
本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び周知技術の奏する効果から、当業者が予測できた程度のものである。

9 審判請求人の主張について
(1)審判請求人は、審判請求書の「3-3.特許法第29条第2項の拒絶理由に対して」において、概略、以下のとおり主張している。
ア 主張i
「(3)・・・略・・・
より具体的に説明すると、引用文献1の位相差フィルムにおいては、例えば、フィラーの突出高さ3.0μm、配向膜の膜厚2.0μmとして例示されるように、配向膜の膜厚よりもフィラーの突出高さの方が大きい態様の位相差フィルムも概念として含まれております。このようなフィラーの突出高さが3.0μmである態様の位相差フィルムにおいて、仮に、凸部以上の乾燥膜厚でゆっくりと乾燥させることにより配向膜を形成させた場合、その配向膜の乾燥後膜厚は3.0μm以上の厚みとなり、引用文献1に記載されている配向膜の膜厚の範囲、0.4?2.0μm、を明らかに超えるものとなってしまいます。
また、引用文献1の技術は、各層間の密着性等の物理的強度に優れ、画像品位にも優れた光学フィルムを提供することを目的としたものであり、ハジキの発生を抑制することについての考え方は示されておりません。
これらのことからすると、引用文献1の技術に、引用文献2や3に記載の技術を組み合わせることはできません。また、上述したフィラーの突出高さと配向膜の膜厚とのサイズ関係が記載されている引用文献1からすると、そもそも引用文献1の技術には、フィラーの突出高さ以上の厚みの配向膜を設けるという動機づけは存在しないと言えます。」(以下、便宜的に「主張i」とする。)。
イ 主張ii
「(4)・・・略・・・
このことからすると、つまり、引用文献3の技術で使用する基材としては、配向膜の表面粗さが極めて大きくなるようなフィラーは含有されておらず、引用文献3の技術は、突出高さが0.8?1.5μmであるようなフィラーを含有した基材を用いることは想定していない技術であると言えます。
これを踏まえると、確かに引用文献3には、配向膜の表面粗さRaを所定範囲にして平滑化させるにあたり、基板(基材)表面の凹凸以上の乾燥膜厚となるように配向膜を形成することが開示されています。しかしながら、ここでいう基材表面の凹凸とは、何らかの表面処理を行って生じた僅かな凹凸であって、基材にフィラーを含有させたときのように0.8?1.5μmの突出高さが生じるような凹凸ではないことは明らかです。
そうすると、この引用文献3の記載では、表面からのフィラーの突出高さが0.8?1.5μmである基材表面上に配向膜を形成するに際して、配向層の厚みをその基材平面からのフィラーの突出高さ以上の厚みとするという技術事項は開示も示唆もされておらず、当業者であっても決して想起し得えない技術事項であると言えます。なお、引用文献3の記載からは、配向層の厚みを基材平面からのフィラーの突出高さ以上とすることの技術事項だけでなく、フィラーの突出高さ以上であって1.5μm以上の厚みとすることの技術事項についても決して想起し得ません。」(以下、便宜的に「主張ii」とする。)。

(2)審判請求人の主張について検討する。
ア 主張iについて
引用例には、上記8(1)イのように、最も好ましい2次平均粒子径である「0.6μm以上1.1μm以下」を採用した場合、フィルム表面に0.6μm以上1.1μm以下の凸部が形成されるものと認められる。一方で、上記8(2)イのように、引用例には、配向膜の厚みを0.4?2.0μmとすることが特に好ましいことが記載されていることから、フィルム表面の凸部の大きさで最も大きな1.1μmを採用した場合であっても、配向膜の厚みを当該凸部の大きさよりも厚くすることが可能であると認められる。
そして、光学的な欠陥抑制のため、配向膜の表面を極力平滑化(平坦化)することが周知技術であることを踏まえれば、引用発明においても、配向膜の表面を極力平滑化するという潜在的な課題を有するものであり、フィラーの突出高さ以上の厚みの配向膜を設けるという動機づけが存在するものである。
イ 主張iiについて
出願人が主張するように、周知例1には、透明支持体の凹凸が0.8?1.5μmの突出高さが生じるような凹凸であることは記載されていない。
しかしながら、周知例1には、段落【0012】に、基板表面の凹凸以上の乾燥膜厚で乾燥させることにより配向膜の表面を平滑化できることが記載されていることから、周知例2及び周知例3の記載と合わせて、光学的な欠陥抑制のため、配向膜の表面を極力平滑化(平坦化)することを周知技術として認めることができる。
また、上記8(2)ウ(イ)のように、基板表面の凹凸の大きさに程度差があったとしても、配向膜の平滑化(平坦化)は周知技術から周知な課題であると認められることから、配向膜の平滑化(平坦化)を実現するために、配向膜の厚みを基板表面の凹凸の高さ以上に設定することは、当業者が当然になし得ることにすぎない。

10 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-25 
結審通知日 2016-08-30 
審決日 2016-09-14 
出願番号 特願2013-248256(P2013-248256)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡▲辺▼ 純也  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 鉄 豊郎
樋口 信宏
発明の名称 位相差フィルム及び位相差フィルムの製造方法、並びに光学フィルム  
代理人 正林 真之  
代理人 鎌田 久男  
代理人 芝 哲央  
代理人 林 一好  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ