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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C01B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C01B
管理番号 1320992
審判番号 不服2014-11728  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-19 
確定日 2016-10-26 
事件の表示 特願2011-521274「不均一系水素触媒反応器」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 2月 4日国際公開、WO2010/014684、平成24年 3月 8日国内公表、特表2012-505810〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、平成21年 7月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理:平成20年 7月30日ほか35件、いずれも米国)を国際出願日とする出願であって、原審にて平成26年 2月10日付けの拒絶査定がされ、同年 6月19日にこの査定を不服とする本件審判の請求と同時に手続補正がされ、これに対し、当審にて平成27年 6月18日付けの拒絶理由を通知したところ、同年12月24日に意見書と共に手続補正がされたものである。

第2.本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年12月24日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に次のとおり記載されている。

「原子状水素の触媒作用のための反応セルと、ここで、前記原子状水素は、水素イオン、水素原子、及び水素分子から選択される水素種を、形成し、
反応槽と、
真空ポンプと、
反応槽と連通する源からの原子状水素の源と、
反応槽と連通する水素触媒の源と、
原子状水素の源及び水素触媒の源の少なくとも1つの源と、ここで、前記水素触媒は、少なくとも1つの反応物の固体燃料反応混合物を含み、前記少なくとも1つの反応物は、(前記原子状酸素、前記水素触媒、及び少なくとも1つの他の元素)の少なくとも1つを形成する元素を含み、前記原子状水素及び水素触媒の少なくとも1つが前記源から形成され、
触媒を活性化すること及び増殖することの少なくとも1つの機能を実行することにより触媒作用を引き起こすような少なくとも1つの他の反応物と、
反応槽の中で水素触媒及び原子状水素の少なくとも1つの形成を開始させ、水素原子の触媒作用の間、水素のモル当たり300kJよりも大きな量において、原子状水素がエネルギーを放出するように、触媒作用を引き起こす反応を開始させる、反応槽のためのヒーターと、
を備え、
前記触媒作用を引き起こす反応が、
(i)触媒作用反応のために活性化エネルギーを供給する発熱反応;
(ii)触媒作用反応を支持する触媒又は原子状水素の源の少なくとも1つに対して供給する共役反応;
(iii)触媒作用反応の間、触媒から電子のアクセプターとして機能するフリーラジカル反応;
(iv)触媒作用反応の間、触媒から電子のアクセプターとして機能する酸化還元反応;
(v)前記水素種を形成するために原子状水素からエネルギーを受け入れて、イオン化された触媒の活動を容易にする交換反応;及び
(vi)ゲッター、支持体、マトリックス-支援触媒反応、
から選ばれる反応を含み、
前記触媒作用を引き起こす酸化還元反応を含む反応混合物が、
(i)LiH、KH、NaH、RbH、及び、CsHから選ばれる少なくとも1つの触媒;
(ii)H_(2)ガス、H_(2)ガスの源、又は、水素化物;
(iii)以下から選ばれる少なくとも1つの酸化剤;
ハロゲン化物、リン化物、ホウ化物、酸化物、水酸化物、シリサイド、窒素化合物、ヒ化物、セレン化物、テルル化物、アンチモニド、炭化物、硫化物、水素化物、炭酸塩、炭酸水素、硫酸塩、硫酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素、二水素リン酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、亜塩素酸塩、過亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩、臭素酸塩、過臭素酸塩、亜臭素酸塩、ペルブロミド(perbromites)、ヨウ素酸塩、過ヨウ素酸塩、ヨード酸塩(iodites)、過ヨウ素酸塩(periodites)、クロム酸塩、二クロム酸塩、テルル酸塩、セレン酸塩、ヒ酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、コバルト酸化物、酸化テルル、及び、ハロゲン元素のオキシアニオン、P、B、Si、N、As、S、Te、Sb、C、S、P、Mn、Cr、Co、及び、Teからなる金属化合物;
遷移金属、Sn、Ga、In、鉛、ゲルマニウム、アルカリ金属及びアルカリ土類金属化合物;
GeF_(2),GeCl_(2),GeBr_(2),GeI_(2),GeO,GeP,GeS,GeI_(4),及び、GeCl_(4),フルオロカーボン,CF_(4),ClCF_(3),クロロカーボン,CCl_(4),O_(2),MHO_(3),MClO_(4),MO_(2),NF_(3),N_(2)O,NO,NO_(2),ホウ素-窒素化合物、例えば、B_(3)N_(3)H_(6),硫黄化合物、例えば、SF_(6),S,SO_(2),SO_(3),S_(2)O_(5)Cl_(2),F_(5)SOF,M_(2)S_(2)O_(8),S_(x)X_(y)、例えば、S_(2)Cl_(2),SCl_(2),S_(2)Br_(2),又は、S_(2)F_(2),CS_(2),SO_(x)X_(y),SOCl_(2),SOF_(2),SO_(2)F_(2),SOBr_(2),X_(x)X’_(y),ClF_(5),X_(x)X’_(y)O_(z),ClO_(2)F,ClO_(2)F_(2),ClOF_(3),ClO_(3)F,ClO_(2)F_(3),ホウ素-窒素化合物,B_(3)N_(3)H_(6),Se,Te,Bi,As,Sb,Bi,TeX_(x),TeF4,TeF_(6),TeO_(x),TeO_(2),TeO_(3),SeX_(x),SeF_(6),SeO_(x),SeO_(2)、又は、SeO_(3),酸化テルル,ハロゲン化物,テルル化合物,TeO_(2),TeO_(3),Te(OH)_(6),TeBr_(2),TeCl_(2),TeBr_(4),TeCl_(4),TeF_(4),TeI_(4),TeF_(6),CoTe,又は、NiTe,セレン化合物、酸化セレン,ハロゲン化セレン,硫化セレン,SeO_(2),SeO_(3),Se_(2)Br_(2),Se_(2)Cl_(2),SeBr_(4),SeCl_(4),SeF_(4),SeF_(6),SeOBr_(2),SeOCl_(2),SeOF_(2),SeO_(2)F_(2),SeS_(2),Se_(2)S_(6),Se_(4)S_(4),又は、Se_(6)S_(2),P,P_(2)O_(5),P_(2)S_(5),P_(x)X_(y),PF_(3),PCl_(3),PBr_(3),PI_(3),PF_(5),PCl_(5),PBr_(4)F,PCl_(4)F,PO_(x)X_(y),POBr_(3),POI_(3),POCl_(3)、又は、POF_(3),PS_(x)X_(y),(Mはアルカリ金属。x,y、及び、zは整数。X及びX’はハロゲン)、PSBr_(3),PSF_(3),PSCl_(3),亜リン酸窒素化合物,P_(3)N_(5),(Cl_(2)PN)_(3),(Cl_(2)PN)_(4),(Br_(2)PN)_(x),ヒ素化合物,酸化ヒ素,ハロゲン化ヒ素,硫化ヒ素,セレン化ヒ素,ヒ素テルル化物,AlAs,As_(2)I_(4),As_(2)Se,As_(4)S_(4),AsBr_(3),AsCl_(3),AsF_(3),AsI_(3),As_(2)O_(3),As_(2)Se_(3),As_(2)S_(3),As_(2)Te_(3),AsCl_(5),AsF_(5),As_(2)O_(5),As_(2)Se_(5),As_(2)S_(5),アンチモン化合物,酸化アンチモン,ハロゲン化アンチモン,硫化アンチモン,硫酸アンチモン,アンチモン・セレン化物,アンチモン・ヒ化物,SbAs,SbBr_(3),SbCl_(3),SbF_(3),SbI_(3),Sb_(2)O_(3),SbOCl,Sb_(2)Se_(3),Sb_(2)(SO_(4))_(3),Sb_(2)S_(3),Sb_(2)Te_(3),Sb_(2)O_(4),SbCl_(5),SbF_(5),SbCl_(2)F_(3),Sb_(2)O_(5),Sb_(2)S_(5),ビスマス化合物,酸化ビスマス,ハロゲン化ビスマス,硫化ビスマス,ビスマス・セレン化物,BiAsO_(4),BiBr_(3),BiCl_(3),BiF_(3),BiF_(5),Bi(OH)_(3),BiI_(3),Bi_(2)O_(3),BiOBr,BiOCl,BiOI,Bi_(2)Se_(3),Bi_(2)S_(3),Bi_(2)Te_(3),Bi_(2)O_(4),SiCl_(4),SiBr_(4),遷移金属ハロゲン化物,CrCl_(3),ZnF_(2),ZnBr_(2),ZnI_(2),MnCl_(2),MnBr_(2),MnI_(2),CoBr_(2),CoI_(2),CoCl_(2),NiCl_(2),NiBr_(2),NiF_(2),FeF_(2),FeCl_(2),FeBr_(2),FeCl_(3),TiF_(3),CuBr,CuBr_(2),VF_(3),CuCl_(2),金属ハロゲン化物,SnF_(2),SnCl_(2),SnBr_(2),SnI_(2),SnF_(4),SnCl_(4),SnBr_(4),SnI_(4),InF,InCl,InBr,InI,AgCl,AgI,AlF_(3),AlBr_(3),AlI_(3),YF_(3),CdCl_(2),CdBr_(2),CdI_(2),InCl_(3),ZrCl_(4),NbF_(5),TaCl_(5),MoCl_(3),MoCl_(5),NbCl_(5),AsCl_(3),TiBr_(4),SeCl_(2),SeCl_(4),InF_(3),InCl_(3),PbF_(4),TeI_(4),WCl_(6),OsCl_(3),GaCl_(3),PtCl_(3),ReCl_(3),RhCl_(3),RuCl_(3),金属酸化物,金属水酸化物,Y_(2)O_(3),FeO,Fe_(2)O_(3),又は、NbO,NiO,Ni_(2)O_(3),SnO,SnO2,Ag_(2)O,AgO,Ga_(2)O,As_(2)O_(3),SeO_(2),TeO_(2),In(OH)_(3),Sn(OH)_(2),In(OH)_(3),Ga(OH)_(3),Bi(OH)_(3),CO_(2),As_(2)Se_(3),SF_(6),S,SbF3,CF_(4),NF_(3),金属過マンガン酸塩,KMnO_(4),NaMnO_(4),P_(2)O_(5),金属硝酸塩,LiNO_(3),NaNO_(3),KNO_(3),ハロゲン化ホウ素,BBr_(3),BI_(3),第13族元素ハロゲン化物,ハロゲン化インジウム,InBr_(2),InCl_(2),InI_(3),ハロゲン化銀,AgCl,AgI,ハロゲン化鉛,ハロゲン化カドミウム,ハロゲン化ジルコニウム,遷移金属酸化物,遷移金属硫化物,又は、遷移金属ハロゲン化物(Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,又は、Znと、F,Cl,Br、又は、Iと),第2又は第3遷移金属ハロゲン化物,YF_(3),第2又は第3遷移金属酸化物,第2又は第3遷移金属硫化物,Y_(2)S_(3),Y,Zr,Nb,Mo,Tc,Ag,Cd,Hf,Ta,W,Osのハロゲン化物,例えば、NbX_(3),NbX_(5),又は、TaX_(5),Li_(2)S,ZnS,FeS,NiS,MnS,Cu2S,CuS,SnS,アルカリ土類ハロゲン化物,BaBr_(2),BaCl_(2),BaI_(2),SrBr_(2),SrI_(2),CaBr_(2),CaI_(2),MgBr_(2),又は、MgI_(2),希土類元素ハロゲン化物,EuBr_(3),LaF_(3),LaBr_(3),CeBr_(3),GdF_(3),GdBr_(3),希土類元素ハロゲン化物で金属が2価のもの,CeI_(2),EuF_(2),EuCl_(2),EuBr_(2),EuI_(2),DyI_(2),NdI_(2),SmI_(2),YbI_(2),及び、TmI_(2),金属ホウ化物,ユーロピウム・ホウ化物,MB_(2)ホウ化物,CrB_(2),TiB_(2),MgB_(2),ZrB_(2),GdB_(2),ハロゲン化アルカリ,LiCl,RbCl,又は、CsI,金属リン化物,例えば、Ca_(3)P_(2),貴金属ハロゲン化物,貴金属酸化物,貴金属硫化物,PtCl_(2),PtBr_(2),PtI_(2),PtCl_(4),PdCl_(2),PbBr_(2),PbI_(2),希土類元素硫化物,CeS,Laハロゲン化物,Gdハロゲン化物,金属とアニオン,Na_(2)TeO_(4),Na_(2)TeO_(3),Co(CN)_(2),CoSb,CoAs,Co_(2)P,CoO,CoSe,CoTe,NiSb,NiAs,NiSe,Ni_(2)Si,MgSe,希土類元素テルル化物,EuTe,希土類元素セレン化物,EuSe,希土類元素窒素化合物,EuN,金属窒化物,AlN,GdN,Mg_(3)N_(2),酸素及び異なるハロゲン原子から選ばれる少なくとも2つを含む化合物,F_(2)O,Cl_(2)O,ClO_(2),Cl_(2)O_(6),Cl_(2)O_(7),ClF,ClF_(3),ClOF_(3),ClF_(5),ClO_(2)F,ClO_(2)F_(3),ClO_(3)F,BrF_(3),BrF_(5),I_(2)O_(5),IBr,ICl,ICl_(3),IF,IF_(3),IF_(5),IF_(7),第2又は第3遷移金属ハロゲン化物,OsF_(6),PtF_(6),又は、IrF_(6),還元により金属を形成する化合物,金属水素化物,希土類元素水素化物,アルカリ土類水素化物,又は、アルカリ水素化物;
(iv)金属,アルカリ,アルカリ土類,遷移金属,第2及び第3遷移金属,及び、希土類金属,Al,Mg,MgH_(2),Si,La,B,Zr,及び、Ti粉末,及び、H_(2),から選択される少なくとも1の還元剤、そして、
(v)AC,カーボン上の1%Pt又はPd(Pt/C,Pd/C),炭化物,TiC,及びWC、から選択される少なくとも1つの電気的に導電性の支持体、
を含むことを特徴とするパワー源。」

第3.当審拒絶理由の概要

当審にて通知した拒絶理由は、
「本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」(以下、「実施可能要件違反」という。)
「本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」(以下、「サポート要件違反」という。)
「本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」(以下、「明確性要件違反」という。)
というものである。
各拒絶理由で指摘した記載不備の内容については、「第4」?「第6」にて後述する。

第4.実施可能要件違反について

(1)本願発明について、本願明細書には次のとおり記載されている。

【0002】-【0003】
「(開示された実施例の要約)
本開示はn=1の状態の原子Hに低エネルギー状態の原子水素源を形成させることが可能な水素触媒、及びその反応を開始・伝播して低エネルギー水素を形成することが可能な他の種、から成る触媒系を目的とする。ある実施態様では、本開示は、水素の触媒作用をサポートしてハイドリノを形成するため、原子水素の少なくとも1つの源物質及び触媒または触媒源から成る反応混合物を目的とする。・・・(後略)・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
ハイドリノを形成する反応は1つ以上の化学反応により活性化し、開始され、伝播される。これらの反応は、(i)ハイドリノ反応に活性化エネルギーを提供する発熱反応、(ii)ハイドリノ反応をサポートするための少なくとも1種の触媒源または原子水素を提供する共役反応、(iii)特定の実施態様でハイドリノ反応中、触媒からの電子受容体として作用するフリーラジカル反応、(iv)特定の実施態様においてハイドリノ反応中、触媒からの電子受容体として作用する酸化還元反応、(v)ある実施態様で、触媒が原子水素からエネルギーを受け取り、ハイドリノを形成するとき、イオン化するため触媒の作用を促進する、ハロゲン化物、硫化物、水素化物、ヒ化物、酸化物、リン化物及び窒素化物交換を含む陰イオン交換などの交換反応、ならびに(vi)ハイドリノ反応のために少なくとも1つの化学環境を提供し、H触媒機能を促進するため電子を移動させるように作用し、可逆的相もしくは他の物理的変化または電子状態変化を起こし、ハイドリノ反応の程度または率のうち少なくとも1つを増加させるために低エネルギー水素生成物に結合する、ゲッター、支持体またはマトリックス支援ハイドリノ反応、から選択することが可能である。・・・(後略)・・・」

【0008】
「本開示は原子水素からエネルギーを放出し、電子殻が核と近位置にある低エネルギー状態を形成する触媒系を目的とする。放出された動力(パワー)は発電に利用し、そして新たな水素種及び化合物は所望の生成物である。これらのエネルギー状態は従来の物理的法則により予測され、対応するエネルギー放出遷移をするために水素からエネルギーを受け取る触媒を必要とする。」

(2)【0002】【0003】には、請求項1に記載された「水素触媒」が、ハイドリノと呼ばれる低エネルギー状態の水素を形成する反応を開始させるものであり、同じく請求項1に記載された(i)?(vi)の化学反応が、ハイドリノを形成する反応を活性化するものであることが記載されている。そして、【0008】には、ハイドリノを形成することで、原子水素からエネルギーを放出し、これをパワーとして利用することが記載されている。
してみると、本願発明のパワー源について、発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるというためには、この「ハイドリノ」なる水素が、当業者にとって理解できるものでなければならない。

(3)ハイドリノについて、本願明細書には次のとおり記載されている。

【0009】-【0013】
「古典物理学は、水素原子、水素イオン、水素分子イオン、及び、水素分子の閉形式解を与え、分数の主量子数を持つ対応する種を予測する。・・・反応は、分数の主量子数に対応する未反応の原子水素よりもエネルギーにおいて低い水素原子、及び、特に熱く、励起状態のHを形成するために、Hへのq・13.6eVの移動又はq・13.6eVの連続発光に続く非放射的なエネルギー移動を含む。即ち、水素原子の主エネルギー準位に対する式において、
【数1】

n=1,2,3,... (2)
であり、ここで、a_(H)は、水素原子(52.947pm)のボーア半径であり、eは電子の電荷の大きさ、ε_(0)は真空の誘電率であり、分数の量子数は、次のようになる。
【数2】

ここで、pは、p≦137となる整数であるが、励起状態の水素に対するリュードベリ式におけるn=整数のよく知られるパラメータと置き換わり、「ハイドリノ」と呼ばれるより低いエネルギー状態(低エネルギー状態)の水素原子を表す。水素のn=1の状態、及び、水素のn=1/整数の状態は、非放射性であるが、例えばn=1からn=1/2というような2つの非放射性の状態の間での遷移は、非放射性のエネルギー移動により可能である。水素は、水素又はハイドリノ原子の対応する半径が、次の式で与えられ、式(1)及び(3)によって与えられる安定状態の特別なケースである。
r=а_(H)/p (4)
ここで、p=1,2,3,・・・・である。・・・(後略)・・・」

(4)【0009】-【0013】には、ハイドリノが、古典物理学が示す水素原子の主エネルギー準位を表す式(1)において、主量子数nが1より小さな分数である状態のものであり、ボーア半径よりも小さい半径を有する水素原子であることが記載されている。
しかしながら、古典物理学では、水素原子から発射される電磁波が線スペクトルであることから、主量子数nが整数に限られることが、ボーアの量子化条件として知られており、さらにこの条件は、後に、シュレディンガーの波動方程式を水素原子の束縛電子に適用することによって、量子力学によっても確かめられている。
してみると、ハイドリノなる水素は、本願優先権主張の基礎とされた先の出願時(以下、「本願出願時」という。)の技術常識によっては理解できないものと認められる。

(5)ここで、ハイドリノについて、本願明細書にはさらに次の記載もある。

【0027】
「高磁場側にシフトしたNMRピークは、通常の水素化物イオンに比べて減少した半径に関するより低いエネルギー状態の水素の存在の直接の証拠であり、そして、陽子の反磁性のシールドにおける増加を持つより低いエネルギー状態の水素の存在の直接の証拠である。シフトは、より低いエネルギー状態による要素及び通常の水素化物イオンH^(-)の合計により次式で与えられる。
【数9】



【0046】
「研究技術の広域スペクトルからのデータは、強く一貫して、以前に可能と考えられていたよりも、水素がより低いエネルギー状態の中に存在することができることを、示している。これらのより低いエネルギー状態にある、「小さな水素」としてハイドリノと呼ばれるもの、及び、対応する水素化物イオン及び分子ハイドリノの存在をこのデータは支持する。伝統的な「基底」(n=1)状態より低いエネルギーである分数量子状態にある水素を生産する、原子状水素の新規な反応の可能性を支持する関連するこれらの従前の研究の幾つかは、極紫外線(EUV)分光、触媒と水素化物イオン生成物からの特徴的発光、より低いエネルギーの水素の発光、化学的に形成されたプラズマ、バルマーα線の拡幅化、H線の反転分布、高い電子温度、異常なプラズマ残光時間、パワー発生、及び、新規化合物の分析を含む。」

(6)【0027】の記載は、ハイドリノの存在がNMRにより確認できること、【0046】の記載は、ハイドリノの存在を裏付けるデータがあることを示唆するものであるが、本願明細書には、具体的なデータ等は開示されていないから、これらの記載では、当業者がハイドリノの存在及びその内容について理解することはできない。さらに、本願明細書に記載された実験例も、「第5」にて後述するように、エネルギーの収支を測定しているにすぎず、ハイドリノの存在を確認できるようなものではない。

(7)上記(4)(6)に示したとおり、本願出願時の技術常識に基づいても、本願明細書の記載に基づいても、当業者は、ハイドリノなる水素を理解することができない。
したがって、本願発明のパワー源について、発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできない。

(8)なお、請求人は当審意見書で、古典物理学は、主量子数nが整数に限られることを証明していないし、量子力学が必ずしも真であるとは限らないと主張し、ハイドリノ理論は、古典物理学に基づくものであるが、量子力学に基づくものではないと主張している。
しかしながら、ハイドリノの存在を許容するハイドリノ理論なるものが存在するとしても、本願出願時において、量子力学に代わる技術常識であったとまではいえないから、これらの主張によって上記判断を変更することはできない。

第5.サポート要件違反について

(1)請求項1には、「反応槽の中で水素触媒及び原子状水素の少なくとも1つの形成を開始させ、水素原子の触媒作用の間、水素のモル当たり300kJよりも大きな量において、原子状水素がエネルギーを放出するように、触媒作用を引き起こす反応を開始させる」ことが、本願発明の発明特定事項として記載されている。そこで、発明の詳細な説明に、当該発明特定事項を有する発明が記載されているか否かについて検討する。

(2)本願明細書には、触媒による水素からのエネルギー放出について、次の記載がある。

【0014】-【0019】
「触媒反応はエネルギー放出の2つのステップ:触媒への非放射的なエネルギーの移動と、それに続いて、対応する安定な最終状態に半径が減少する際の追加のエネルギー放出とを含む。一般的な反応は、次式で表され、
【数3】

【数4】

Cat^((q+r)+)+re^(-)→Cat^(q+)+m・27.2eV(8)
さらに、ここで、全反応は、次式の通りである。
【数5】

ここで、q、r、m、及びpは、整数である。・・・(中略)・・・
好ましい触媒は、従って、m・27.2eVの反応の正味正のエンタルピーを供給することができる。即ち、触媒は水素原子からの非放射的エネルギー移動を共鳴的に受け、分数の量子エネルギー水準への電子的な遷移に影響を与えるように周囲にエネルギーを放出する。非放射的なエネルギーの移動の結果として、式(1)及び(3)により与えられる主エネルギー水準を持つより低いエネルギーの非放射的な状態を達成するまで、水素原子は不安定で更なるエネルギーを放出する。このようにして、式(3)により与えられるnについて、r_(n)=na_(H)の水素原子のサイズにおいて相当する減少を伴って水素原子からエネルギーを触媒作用により放出する。例えば、H(n=1)からH(n=1/4)への触媒作用により204eVが放出され、水素半径は、a_(H)から(1/4)*a_(H)に減少する。・・・(後略)・・・」

(3)【0014】-【0019】には、水素触媒の作用により、いわゆる基底状態の水素原子H(n=1)が、H(n=1/4)になる時に、1原子当たり204eVのエネルギーを放出することが記載されており、このエネルギーを1モル当たりに換算すると約19650kJとなる。
しかしながら、「H(n=1/4)」なる水素は、「第4」にて検討した当業者が理解できない「ハイドリノ」であるから、上記記載によって、「水素のモル当たり300kJよりも大きな量において、原子状水素がエネルギーを放出する」ことが理論的に裏付けられ、発明として記載されているということはできない。

(4)次に、発明の具体例について検討するに、本願明細書には次の記載がある。

【0425】-【0430】
「XI.実験
A.水?流れ、バッチ熱量計
各入力infraの右手側に挙げられる触媒反応混合物のエネルギー及び電力の釣り合い(balance)は、約130.3cm3の容積(内径(ID)が3.81cm、長さが11.43cm、壁の厚みが0.508cm)又は1988cm3の容積(内径(ID)が9.525cm、長さが27.94cm、壁の厚みが1.905cm)の円筒形のステンレス製の反応器と、誤差が±1%未満を得るようにセルの中に放出されたエネルギーの99%強を回収した外部水冷却媒体コイル及び各セルを収納する真空チャンバーを含む水流熱量計を用いることにより得られた。エネルギー回収は、時間に対して全出力パワーP_(T)を積分することにより決定された。パワーは、次の式で与えられた。
【数82】

ここで、
【数83】

は、質量流速であり、C_(p)は水の比熱であり、ΔTは入口及び出口の間の温度の違いの絶対値であった。反応は、外部ヒーターへ正確なパワーを適用することにより開始された。特に、100-200Wのパワー(130.3cm^(3)セル)又は800-1000Wのパワー(1988cm^(3)セル)が、ヒータに供給された。この加熱期間の間、試薬は、ハイドリノ反応の閾値温度に到達し、反応のオンセットはセル温度における急激な上昇によって典型的に確認された。・・・(中略)・・・
各試験において、エネルギー入力及びエネルギー出力は、対応するパワーの積分により計算された。各時間のインクリメント(間隔)において、冷却媒体フローにおける熱エネルギーは、19℃での水の密度(0.998kg/リッター)、水の比熱(4.181kJ/kg℃)、補正温度差、及び時間の間隔をかけることにより、式(221)を用いて計算された。値は、全実験に渡って合計され、全エネルギー出力を得た。セルからの全エネルギーE_(T)は、エネルギー入力E_(in)及び正味のエネルギーE_(net)の和と等しくなければならない。従って、正味のエネルギーは次の式で得られた。
E_(net)=E_(T)-E_(in) (222)
エネルギーの釣り合い条件から、E_(ex)は最大理論エネルギーE_(mt)に対して次のように決定された。
E_(ex)=E_(net)-E_(mt) (223)
キャリブレーション試験結果は、出力クーラントへの抵抗入力の98%よりよいヒートカップリングを示していた。過剰熱が無い制御は、キャリブレーション有の補正により、熱量計は1%未満の誤差であるような正確さであった。Tmaxがセル温度の最高値であり、Einが入力エネルギーであり、そして、dEが入力したエネルギーから過剰となる測定した出力エネルギーである。全てのエネルギーは発熱である。与えられた正の値は、エネルギーの大きさを示す。」

【0431】
「[金属ハロゲン化物、酸化物、及び、硫化物]
20gのAC3-5+5gのMg+8.3gのKH+11.2gのMg_(3)As_(2)。298.6kJ、出力エネルギー(dE)は21.8kJ。温度の急激な上昇(TSC)は無し。最高温度(Tmax):315℃。理論的には吸熱。ゲインは無限大。」

(5)【0431】以降には、実験と称する具体例が複数記載されている。これらの実験について、【0425】-【0430】には、触媒反応混合物をステンレス製の反応器に入れ、外部ヒーターによりハイドリノ反応の閾値温度まで加熱したものとされており、いずれの実験でも発熱が観察され、入力したエネルギーから過剰となる出力エネルギー(dE)が測定されたとされている。
そこで、この具体例における出力エネルギーについて検討するに、【0431】には、KH8.3gを含む触媒反応混合物を加熱したことで、21.8kJの過剰エネルギーが測定されたことが記載されている。ここで、KHの式量は40であるから、この過剰エネルギーを、H原子1モル、すなわちKH1モル当たりのエネルギーに換算すると約105kJとなる。
すなわち、この具体例の記載では、過剰エネルギーが触媒混合物中の水素原子から放出されたことが確認できないだけでなく、その量も300kJに満たないものと認められる。そして、このことは、他の具体例についても同様であるから、これらの具体例の記載によって、「水素のモル当たり300kJよりも大きな量において、原子状水素がエネルギーを放出する」ことが実験的に裏付けられ、発明として記載されているということはできない。

(6)上記(3)(5)に示したように、請求項1に記載された「反応槽の中で水素触媒及び原子状水素の少なくとも1つの形成を開始させ、水素原子の触媒作用の間、水素のモル当たり300kJよりも大きな量において、原子状水素がエネルギーを放出するように、触媒作用を引き起こす反応を開始させる」との発明特定事項を有する発明は、発明の詳細な説明に記載されていないから、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
すなわち、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではない。

第6.明確性要件違反について

請求項1には、「前記水素触媒は、少なくとも1つの反応物の固体燃料反応混合物を含み、前記少なくとも1つの反応物は、(前記原子状酸素※、前記水素触媒、及び少なくとも1つの他の元素)の少なくとも1つを形成する元素を含み」との記載がある。(※注:「原子状水素」の誤記と思われる。)
この記載は、水素触媒に含まれる「少なくとも1つの反応物」が、水素触媒には含まれない「少なくとも1つの他の元素」を形成する元素を含むことを特定している点で、意味不明である。
したがって、本願発明は明確でない。

第7.むすび

以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は、当審拒絶理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-24 
結審通知日 2016-05-31 
審決日 2016-06-13 
出願番号 特願2011-521274(P2011-521274)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C01B)
P 1 8・ 537- WZ (C01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横山 敏志村岡 一磨  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 真々田 忠博
大橋 賢一
発明の名称 不均一系水素触媒反応器  
代理人 相川 俊彦  

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