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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B |
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管理番号 | 1321046 |
審判番号 | 不服2015-7260 |
総通号数 | 204 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-12-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-04-17 |
確定日 | 2016-11-04 |
事件の表示 | 特願2011-515964「偏光素子及びそれを用いた表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月 2日国際公開,WO2010/137450〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本願」という。)は,2010年5月10日(優先権主張2009年5月27日,日本国)を国際出願日とする出願であって,平成26年1月15日付けで拒絶理由が通知され,同年3月10日に意見書及び手続補正書が提出され,同年6月26日に拒絶理由が通知され,同年8月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成27年1月15日に平成26年8月26日提出の手続補正書による補正が却下され,同日付けで拒絶査定がなされたものである。 本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成27年4月17日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出され,当審において,平成28年4月1日付けで拒絶理由が通知され,同年6月3日に意見書が提出された。 2 本願の請求項1に係る発明 本願の請求項1ないし10に係る発明は,平成27年4月17日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10によって特定されるとおりのものと認められるところ,請求項1の記載は,次のとおりである。 「ポリカーボネート系樹脂で構成された連続相に,ポリアルキレンナフタレート系樹脂で構成された分散相が粒子状に分散している延伸シートで構成された偏光素子であって, 連続相と分散相との割合が,連続相/分散相=98/2?70/30(重量比)であり, 延伸方向とこの延伸方向に対して垂直な方向との屈折率差の絶対値である面内複屈折が,前記連続相において0?0.03であり,かつ前記分散相において0.05?0.5であり, 延伸方向における直線偏光に対する連続相と分散相との屈折率差の絶対値が0.1?0.3であり,かつ延伸方向に対して垂直な方向における直線偏光に対する連続相と分散相との屈折率差の絶対値が0.1以下である偏光素子。」(以下,当該発明を「本願発明」という。) 3 当審において通知した拒絶理由について 当審において平成28年4月1日付けで通知した本願発明に対する拒絶理由の一つ(以下,「当審拒絶理由」という。)は,概略,本願発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 当審拒絶理由で引用した引用文献1は次のとおりである。 引用文献1:特表2008-537794号公報 4 引用例 (1)引用文献1の記載 当審拒絶理由で引用された引用文献1は,本願の出願より前に頒布された刊行物であって,当該引用文献1には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。) ア 「【技術分野】 【0001】 ・・・(中略)・・・ 【0002】 (発明の分野) 本発明は,反射光又は透過光の特定偏光のような光学特性を制御するのに好適な構造を含有する光学フィルム,及びそのような光学フィルムを製造する方法に関する。 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0003】 より具体的には,本発明は,反射型偏光フィルム構造に使用するためのポリマーブレンド及びそのような構造を処理する方法,特に実質的一軸配向プロセスに関する。 【課題を解決するための手段】 【0004】 一態様において,本発明は,第1ポリマーから成る第1相と,第1相内に配置された第2ポリマーから成る第2相とを含む偏光フィルムであって,前記第1相と前記第2相との間の屈折率差が第1軸に沿って約0.05より大きく,前記第1軸に直交する少なくとも1軸に沿って約0.05より小さい,偏光フィルムを対象とする。電磁放射線の少なくとも1偏光状態について,少なくとも1軸に沿ってまとめられる前記第1相及び第2軸相の拡散反射率は,少なくとも約30%である。前記第2相は,約1.53?約1.59の屈折率を有してもよい。」 イ 「【発明を実施するための最良の形態】 【0008】 望ましい光学特性を有する高分子フィルムは,別のポリマーの連続マトリックス内に分散されたポリマーから成る含有物から作製することが可能である。含有物を形成するポリマーは,ある範囲の反射及び透過特性をフィルムに与えるよう選択されてもよい。これらの特性として,フィルム内の幅に対する含有物のサイズ,含有物の形状および配列,並びにフィルムの3つの直交する軸に沿った分散相と連続マトリックス間の屈折率の一致及びまたは不一致度などが挙げられる。 【0009】 あるいは,粘度がほぼ等しい,ハイポリマーから成る二成分ブレンドについて体積分率が比較可能な場合,例えば,各々が約40%より大きく50%に近い場合,分散相と連続相の区別は,各相が空間的に連続的になるので,困難になる。選択する材料によっては,第1相が第2相内で分散されるように及び逆もまた同様である領域があってもよい。これらの材料は共連続相と呼ばれてもよく,以下にさらに詳細に論じる。 【0010】 図1?2を参照すると,例えば,米国特許第5,825,543号,第6,057,961号,第6,590,705号,及び第6,057,961号に記載されている拡散反射型偏光光学フィルムのある実施形態は,第1熱可塑性ポリマーから成る複屈折性マトリックス又は連続相6と,第2熱可塑性ポリマーから成る不連続又は分散相8とを備えた材料を包含し,参照により本明細書に組み込まれる。図1?2に示されていない代替の実施形態において,第2熱可塑性ポリマーが連続相を作製し,複屈折材料が分散相を形成してもよい。 【0011】 第1及び第2ポリマーは,光学フィルムの表面に平行な平面内の第1軸に沿って連続相と分散相との間の屈折率差が大きく,また光学フィルムの表面に平行な少なくとも1つの他の軸に沿って屈折率の差が小さくなるように選択される。より好ましくは,第1及び第2ポリマーは,光学フィルムの表面に平行な平面内の第1軸に沿っては連続相と分散相の屈折率の差が大きく,また他の2つの直交する軸に沿っては屈折率差が小さくなるよう選択される。 【0012】 好ましくは,第1及び第2ポリマーの屈折率は,複屈折材料の平面内の第1軸に沿って実質的に不一致であり(差が約0.05より大きい),材料の平面内の少なくとも1つの他の軸に沿って実質的に一致する(差が約0.05より小さい)。より好ましくは,屈折率は,材料の平面内の第1軸に沿って実質的に不一致であり(差が約0.05より大きい),他の2つの直交する軸に沿って実質的に一致する(差が約0.05より小さい)。特定軸に沿った屈折率の不一致は,該軸に沿って偏光された入射光を実質的に散乱させ,著しい量の反射を生じさせることになる。対照的に,屈折率が一致する軸に沿って偏光された場合,入射光は,非常に低い散乱率で分光的に透過又は反射される。 【0013】 フィルム内の連続相及び/又は分散相の少なくとも一方のために選択されるポリマーは,好ましくは,フィルムが配向されると屈折率に変化が生じる。フィルムは1つ以上の方向に配向されるので,屈折率の一致又は不一致は,1つ以上の軸に沿って生じる。配向パラメータ及び他の処理条件を注意深く操作することによって,マトリックス又は分散相の正あるいは負の複屈折性を用いると,所与の軸に沿って1つ又は両方の偏光を拡散反射若しくは透過を誘起することが可能である。好ましくは,電磁放射線の少なくとも1つの偏光状態について少なくとも1つの軸に沿ってまとめられた第1相及び第2相の拡散反射率は,少なくとも約30%である。 ・・・(中略)・・・ 【0019】 フィルム構造中の複屈折性成分の場合,一実施形態においては正の複屈折性を有する材料が好ましく,複屈折性ポリエステル類が特に好ましい。複屈折率性材料の特に好適な例は,ナフタレンジカルボキシレート官能性,特に2,6ポリエチレンナフタレート(PEN)を含有する複屈折性ポリエステルである。例えば,フィルム構造用第1複屈折性ポリマーとしてPENが選択される場合,注型の非配向フィルムは,その互いに直交する軸の各々において同じ屈折率を有する(nx=ny=nz=1.64)。従来のテンターで配向された後,ポリマーは,横断方向に沿って延伸されてTDDR(x’/x)が大きくなる。このTDDRの増加は,x方向に沿って屈折率(nx)の約1.64?約1.86までの増加を伴う。フィルムは,テンタークリップによって圧押されて,機械方向(MD)に沿って弛緩する可能性はないので,MDDRは,非配向の注型フィルムとほぼ同じ状態のままであり,Y方向に沿った屈折率(ny)は,元の1.64から約1・61に僅かに小さくなる。したがって配向されたフィルムは,面内屈折率差nx-ny=約0.22を有する。フィルムの質量は保存されなければならないので,NDDR(T’/T)は小さくなり,フィルムの平面に垂直なz方向に沿った屈折率は,約1.51まで小さくなる(nz=1.51)。 【0020】 連続相及び分散相の屈折率が互いに直交する3軸のうちの2軸に沿って実質的に一致する(すなわち,差が約0.05より小さい)ように,また他の互いに直交する軸に沿って実質的に不一致である(差が約0.05より大きい)ように,第1及び第2ポリマーが選択されてもよい。そのため,一実施形態において,フィルム構造の第2(すなわち,非複屈折性)ポリマーは,垂線入射時に最小ブロック状態透過率及び最大パス状態透過率を提供するよう選択された屈折率を有する。第2ポリマーを選択するのに考慮すべき他の事項として,熱溶解安定性,溶解粘度,UV安定性,費用等が挙げられる。 ・・・(中略)・・・ 【0024】 同一人によって所有されている米国特許第6,936,209号,第6,949,212号,第6,939,499号,及び第6,916,440号は,本発明の代表的な実施形態を作製するのに適切なプロセス及び装置を記載しており,参照により本明細書に組み込まれる。例えば,本発明の代表的な実施形態を作製するのに使用されてもよいプロセスとして,多層光学フィルムのような光学フィルムを延伸するための,真一軸延伸と呼ばれる連続プロセスが挙げられ,フィルムは,フィルムの第1面内軸(x方向)に沿って延伸されると同時にフィルムの第2面内軸(y又は機械方向(MD))及び厚さ(z又は垂直方向(ND))においてフィルムの収縮を可能する。該延伸処理は,フィルムの縁部分を把持して,フィルムの第2面内軸(y)及び厚さ方向(z)に実質的に同じ又は少なくとも類似した比例した寸法変化を生じるように広がる所定の経路に沿って該フィルムの縁部分を移動させることによって達成される。ある代表的な実施形態において,フィルムの縁部分は,ほぼ放物線状である末広がりの所定の経路に沿って移動させられる。 【0025】 実質的に真の一軸配向プロセスにおける配向後のnxは,従来のテンターにおけるものと実質的に同じで,nyはより小さくなるので,その結果得られるフィルムもまた従来のテンターによって延伸されたフィルムに比べると高い光学パワーを有することになる。例えば,nx=ny=nz=1.64であるPENのような複屈折性の第1ポリマーから成る注型フィルムから始まる,米国特許第6,936,209号,第6,949,212号,第6,939,499号,及び第6,916,440号に記載されているプロセスを用いた延伸によって得られた延伸フィルムはnx=1.88及びny=nz=1.57を有する。そのため,実質的に一軸延伸されたフィルムの面内光強度(nx-ny)は,従来のテンターで延伸された同一フィルムの0.22に比べ,0.31である。 ・・・(中略)・・・ 【0027】 再び図1?2を参照すると,一実施形態において,代表的な実施形態は,複屈折性マトリックス又は連続相6及び不連続相又は分散相8を含む拡散反射型偏光フィルム4又は他の光学体である。一実施形態において,複屈折性連続相6と分散相8間の屈折率の差は,フィルム4の表面9に平行な平面内の第1軸に沿って大きく(すなわち,不一致である),他の2つの直交軸に沿って小さい(すなわち,一致する)。他の代表的な実施形態において,分散相8は,複屈折性であってもよい。好ましくは,連続相6及び分散相8の屈折率は,フィルム4の表面9に平行な平面内の第1軸に沿って,少なくとも約0.07,又はより好ましくは少なくとも約0.1,及び最も好ましくは少なくとも約0.2だけ異なる。好ましくは,連続相6及び分散相8の屈折率は,一致する方向の各々において少なくとも約0.03,より好ましくは約0.02未満,及び最も好ましくは約0.01未満だけ異なる。 【0028】 連続相6又は分散相8の複屈折性は,典型的に少なくとも約0.05,好ましくは少なくとも約0.1,さらに好ましくは約0.15,及び最も好ましくは少なくとも約0.2である。 【0029】 特定軸に沿った屈折率の不一致には,該軸に沿って偏光された入射光が実質的に散乱する効果があり,その結果著しい反射量を生じる。対照的に,屈折率が一致する軸に沿って偏光された入射光は,より小さい散乱率を有して分光的に透過又は反射される。この効果は,種々の光学装置,特に低損失及び高消光比を有する高利得反射型偏光子を作製するのに使用することが可能である。広範囲の材料は,分散相及び連続相に利用可能であり,一貫した予測可能な高性能の光学体の提供において高度な調整を考慮している。」 ウ 「【0030】 連続/分散相用材料 ・・・(中略)・・・ 【0032】 複屈折相として使用するのに適切な高分子材料として,正の複屈折性を有する材料,詳細には複屈折性ポリエステル,及びさらに詳細にはナフタレンカルボキシレート官能性を有する複屈折性ポリマーが挙げられるが,これらに限定されない。連続相6に適切な材料(ある構造おいて分散相8内に使用されてもよい)は,イソフタル酸,アゼライン酸,アジピン酸,セバシン酸,ジ安息香酸,テレフタル酸,2,7-ナフタレンジカルボン酸,2,6-ナフタレンジカルボン酸,シクロヘキサンジカルボン酸,及び(4,4’ ビベンゾイック酸を包含する)ビベンゾイック酸のようなカルボン酸系モノマー類から成る非晶質,半晶質,又は結晶質の高分子材料,若しくは上述の酸(すなわち,ジメチルテレフタレート)に相当するするエステル類から成る材料であってもよい。 【0033】 これらのうち,2,6-ポリエチレンナフタレート(PEN),PENのコポリマー類及びポリエチレンテレフタレート(PEN),PET,ポリプロピレンテレフタレート,ポリプロピレンナフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリブチレンナフタレート,ポリヘキサメチレンテレフタレート,ポリヘキサメチレンナフタレート,及び他の結晶質のナフタレンジカルボキシルポリエステル類が特に適している。PEN及びPETは,それらの歪誘起による複屈折のため,また延伸後,永久的に複屈折性を維持するそれらの能力のため,特に適している。PENは,約1.64から高くても約1.9までの延伸の軸に対して偏光平面が平行である場合,該延伸軸に垂直に偏光された光線の屈折率は低下するが,延伸後増加する550nmの波長の偏光入射光の屈折率を有する。PENは,可視スペクトルにおいて複屈折性が0.25?0.40を示す(この場合,延伸方向に沿った屈折率と延伸方向に垂直な屈折率の差である)。該複屈折性は,分子配向を向上することによって高めることが可能である。PENは,フィルム製造中に用いられる処理条件に応じて,約155℃?約230℃まで実質的に熱安定であってもよい。 【0034】 先に言及したように,連続相及び分散相が3つの互いに直交する軸のうちの2つに沿って実質的に一致し(すなわち,差が約0.05より小さく),他の互いに直交する軸に沿って実質的に不一致になる(つまり差が約0.05より大きい)よう,第1及び第2ポリマーが選択される。したがって,一実施形態において,フィルム構造内の第2(つまり,非複屈折性)ポリマーは,垂線入射時に最小ブロック状態透過率及び最大パス状態透過率を提供するよう選択される屈折率を有する。第2ポリマーを選択するために考慮すべき他の事項として,熱溶解安定性,溶解粘度,UV安定性,費用等が挙げられる。一実施例において,PENが本発明の一軸延伸された光学材料内において一相として使用される場合,他方の相は,約1.53?約1.59,好ましくは約1.56?約1.58,及びより好ましくは約1.57の屈折率を有する実質的に非複屈折性の熱可塑性高分子材料より選択される。 【0035】 フィルム構造内の第2ポリマーに適切な材料として,第1高分子材料に適切な水準の複屈折を発生させるのに用いられる条件下で配向されると実質的に正ではない複屈折性となる材料が挙げられる。適切な例として,ポリカーボネート類(PC)及びコポリマーボネート類,ポリスチレン-ポリメチルメタクリレートコポリマー類(PS-PMMA),例えば,商品名「MS600」(アクリレート含有率50%)として京都市の三洋化成工業より入手可能な材料,「NAS21」(アクリレート含有率20%)及び「NAS30」(アクリレート含有率30%)としてペンシルバニア州ムーンタウンシップのノバケミカル(Nova Chemical)より入手可能な材料のようなPS-PMMA-アクリレートコポリマー類,例えば,商品名「DYLARK」としてノバケミカルより入手可能な材料のようなポリスチレン無水マレイン酸コポリマー類,アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)及びABS-PMMA,ポリウレタン類,ポリアミド類,詳細には,ナイロン6,ナイロン6,6及びナイロン6,10のような脂肪族ポリアミド類,ミシガン州ミッドランドのダウケミカルより入手可能な「TYRIL」のようなスチレン-アクリロニトリルポリマー類(SAN),及び例えば商品名「Makroblend」としてバイエルプラスチックス(Bayer Plastics)より入手可能なポリエステル/ポリカーボネート混合物,商品名「Xylex」としてGEプラスチックス(GE Plastics)より入手可能なポリエステル/ポリカーボネート混合物,商品名「SA100」及び「SA115」としてイーストマンケミカル(Eastman Chemical)より入手可能な材料のようなポリカーボネート/ポリエステル混合樹脂,並びに,例えばcoPET及びcoPENを包含する脂肪族コポリエステル類,ポリ塩化ビニル(PVC),及びポリクロロピレンの材料のようなポリエステル類が挙げられる。」 エ 「【0037】 分散相の体積分率 分散相の体積分率もまた本発明の光学体における光線の散乱に影響を与える。ある制限内で,分散相の体積分率を上げると,偏光の一致方向及び不一致方向の両方で光学体に入射後,光線が受ける拡散量が増すことになる。この要因は,所与の用途の反射及び透過特性を制御するのに重要である。 【0038】 分散相の所望の体積分率は,連続相及び分散相用材料の特定の選択を包含する多くの要因に依存する。但し,典型的には,分散相の体積分率は,体積を単位にして連続相に対し少なくとも約1%,より好ましくは約5?約50%の範囲内,及び最も好ましくは約25?約45%の範囲内である。尚,他の代表的な実施形態において,分散相の体積分率は,光学フィルムの特定材料及び所望の特性に応じて異なってもよい。 【0039】 共連続相(co-continous phase) ・・・(中略)・・・ 【0041】 例えば,PEN及びPCが70:30?55:45の範囲の比で押出混合される場合,共連続相が形成されて,示差走査熱量計(DSC)によって測定(下記例2参照)すると単一のガラス転移温度を示すのに十分にエステル転移化される。通常,ブレンドの非複屈折性成分のTgは,複屈折性成分のTgより低く,非複屈折性成分のTgは,フィルムを処理及びフィルムの最終用途に対する制限要因となる。しかしながら,PC/PENブレンドにおいて,ブレンド中の非複屈折性成分PCは,複屈折性成分PENのTgよりさらに高いTgを有する。このことは,クリープ及び歪みに対してより耐性のあるより高い弾性率をフィルムに与え,この高い寸法安定性によって,広範囲の最終使用用途に適したフィルムに作製する。PENをPETと合わせたコポリマーもまた,このブレンドに使用してよい。」 オ 「【0055】 分散相のサイズ 分散相のサイズもまた,拡散に対して著しい効果を有する。分散相粒子が小さすぎる(つまり,重要な媒質において光の波長の約1/30未満である)場合,また波長の3乗あたり多くの粒子がある場合,光学体は,任意の所与の軸に沿って2つの相間に幾分有効な屈折率を備えた媒質として作用する。このような場合,ほとんど光が拡散されない。粒子が大きすぎる場合,光は,他の方向にはほとんど拡散されない状態で,粒子表面から正反射される。粒子が少なくとも2つの直交する方向において大きすぎるときは,望ましくない虹彩効果が生じる可能性もある。また,光学体の厚さがより厚くなり,所望の機械特性が満足される状態で,粒子が大きくなるとき,実際的な限界に到達している可能性がある。 【0056】 整列後の分散相の粒子の寸法は,光学材料の所望の使用に応じて変化可能である。したがって,例えば,粒子の寸法は,可視光線,紫外線,赤外線,及びマイクロ波放射線を反射又は透過させるのに必要な寸法が異なる特定の用途において,対象となる電磁放射線の波長に応じて変化可能である。一実施形態において,粒子の長さは,媒質において対象とする電磁放射線の波長を30で除算した値をほぼ超えるようにするのがよい。 【0057】 好ましくは,光学体が低損失反射型偏光子として使用される用途では,粒子は,対象となる波長範囲に渡って電磁放射線波長の約2倍を超え,好ましくは該波長の4倍を超える長さを有する。粒子の平均直径は,好ましくは,対象となる波長範囲に渡って電磁放射線の波長より小さく,また好ましくは所望の波長の0.5(倍)未満である。分散相の寸法は,ほとんどの用途において二次的な考慮事項であるが,比較的ほとんど拡散反射がない薄膜用途においてより重要になる。 ・・・(中略)・・・ 【0063】 分散相の寸法 光学体が低損失反射型偏光子として使用される用途において,分散相8の構造は,好ましくは,高いアスペクト比を有する,つまり,該構造は,一寸法において任意のほかの寸法より実質的に大きい。アスペクト比は,好ましくは,少なくとも2,及びより好ましくは少なくとも5である。最大寸法(つまり長さ)は,好ましくは,対象となる波長範囲に渡って電磁放射線の波長の少なくとも2倍,及びさらに好ましくは望ましい波長の少なくとも4倍である。他方,好ましくは,分散相構造のより小さな(つまり断面)寸法は,対象となる波長以下,及びより好ましくは対象となる波長の0.5倍未満である。」 カ 「【0083】 屈折率の一致/不一致の効果 ある代表的な実施形態において,連続相及び分散相のうち少なくとも一方は,配向すると屈折率に変化が生じる種類である。したがって,フィルムが1つ以上の方向に延伸されるに従って,屈折率の一致又は不一致は1つ以上の軸に沿って生じる。配向パラメータ及び他の処理条件を注意深く操作することによって,所与の軸に沿って1つ又は両方の偏光の拡散反射又は透過を誘起するのにマトリックスの正又は負の複屈折が使用可能である。透過と拡散反射の相対比は,分散相の含有物の濃度,フィルムの厚さ,連続相と分散相間の屈折率差の二乗,分散相の含有物のサイズ及び形状,並びに入射光の波長又は帯域に依存する。 【0084】 特定の軸に沿った屈折率の一致又は不一致の程度は,該軸に沿って偏光される光線の散乱量に直接影響を与える。一般に,散乱出力は,屈折率の不一致の二乗として変化する。したがって,特定の軸に沿った屈折率の不一致の程度が大きければ大きいほど,該軸に沿って偏光される光線の散乱は強くなる。逆に,特定の軸に沿った不一致が小さい場合,該軸に沿って偏光される光線はより小さな程度で散乱されて,それにより光学体の嵩を通って正透過される。」 キ 「【0087】 本発明の配向フィルムを作製する ・・・(中略)・・・ 【0090】 分散相の幾何学形状は,光学材料の配向などの処理によって;特定の幾何学形状を有する粒子を使用することによって;又はそれら2つを組み合わせることによって,実現されてもよい。したがって,例えば,実質的に棒状の構造を有する分散相は,ほぼ球状の分散相粒子から成るフィルムを単一軸に沿って延伸することによって生成することが可能である。棒状の構造は,第1方向に垂直な第2方向にフィルムを延伸することによってほぼ楕円形の断面が与えられることが可能である。さらなる例として,棒が断面においてほぼ矩形である実質的に棒状の構造を有する分散相が,一連の本質的に矩形フレークから成る分散相を有するフィルムを単一方向に延伸することによって生成することが可能である。 ・・・(中略)・・・ 【0094】 本発明のプロセスは,機械方向(MD),横断方向(TD),及び垂直方向(ND)に対応する3つの互いに直交する軸を基準に説明することが可能な,光学体の延伸工程を含んでもよい。これらの軸は,図12に示されている光学体32の幅,長さ,及び厚さに該当する。延伸プロセスでは,初期構成34から最終構成36まで光学体32を延伸する。機械方向(MD)は,フィルム32が延伸装置,例えば,図13に示されている装置を経由して移動する一般的な方向である。横断方向(TD)は,フィルム32の平面内にある第2軸であり,機械方向(MD)に直交する。垂直方向(ND)は,MD及びTDの両方に直交しており,ポリマーフィルム32の厚さの寸法に概ね該当する。 【0095】 図13は,本発明の延伸装置50及び方法の一実施形態を示す図である。光学体32を,任意の望ましい方法によって延伸装置50に対して提供することが可能である。例えば,光学体32は,ロール又は他の形態で生成されて,次いで延伸装置50に提供されることが可能である。別の例として,延伸装置50は,(例えば,光学体32が押出成形によって生成されて,押出成形後に延伸する準備ができている場合)押出成形機から,又は(例えば,光学体32がコーティングによって生成されるか,又は1つ以上のコーティングされた層を受け取った後に延伸する準備ができている場合)塗工機から,又は(例えば,光学体32がコーティングによって生成されるか,又は1つ以上のコーティングされた層を受け取った後に延伸する準備ができている場合)成層機から光学体32を受け取るように構成することが可能である。 ・・・(中略)・・・ 【0112】 図12に戻って参照すると,対向するトラックによって規定された経路は,MD,TD,及びND方向のフィルムの延伸に影響を与える。延伸変形は,1組の延伸比:機械方向延伸比(MDDR),横断方向延伸比(TDDR),及び垂直方向延伸比(NDDR)として表わすことが可能である。フィルムに対して決定するなら,特定の延伸比は,一般に所望方向(例えば,TD,MD,又はND)におけるフィルムの現サイズ(例えば,長さ,幅,又は厚さ)と,同方向における最初のサイズ(例えば,長さ,幅,又は厚さ)の比として定義される。延伸プロセス内の任意の所与の点において,TDDRは,境界軌道の現在の分離距離Lと,延伸開始時における境界軌道の最初の分離距離L_(0)の比に相当する。換言すれば,TDDR=L/L_(0)=λ。TDDRのいくつかの有用な値は,約1.5から約7以上を含む。TDDRの代表的な有用な値は,約2,4,5及び6を含む。TDDRの他の代表的な有用な値は,約4?約20,約4?約12,約4?8及び約12?約20の範囲にある。」 ク 「【0147】 本発明の用途 本発明の光学体は,拡散反射型偏光子として特に有用である。反射偏光子は,液晶表示パネルにおいて特に有用である。」 ケ 「【実施例】 【0148】 ここで,以下の非限定的な実施例を基に本発明について説明する。 【0149】 (実施例1) 多様な複屈折材料及び非複屈折材料を,同一人によって所有されている米国特許第6,936,209号,第6,949,212号,第6,939,499号,及び第6,916,440号に記載され,図13に示されているプロセスによって単層フィルムとして注型し,実質的に一軸配向した。試料の屈折率を測定し,下の表1にまとめた。 【0150】 【表1】 」 (2)引用文献1に記載された発明 前記(1)アないしケの記載から,PENからなる第1相とPCからなる第2相とを含み,第1相が連続相を構成し,第2相が第1相内に配置された多数の粒子からなる分散相を構成する偏光フィルムと,PENからなる第1相とPCからなる第2相とを含み,第1相及び第2相が共連続相を構成する偏光フィルムとを把握することができるところ,前記(1)イの【0009】の記載や前記(1)エの【0041】の記載から,第2相の体積分率が30?45%の範囲にあるときには,第1相及び第2相が共連続相を構成し,第2相の体積分率が30%未満の範囲にあるときには,第1相が連続相を構成し,第2相が分散相を構成することを把握できる。 また,「分散」とは,「1つの相をつくる物質内にほかの物質が散在する現象.」(岩波 理化学辞典 第5版,1223ページの「分散」の欄を参照。)を指す技術用語であり,当該現象における「数μm以下,数nm以上の微細な粒子が気体,液体または固体中に浮遊懸濁(分散)している系」を「分散系」と,分散系中の粒子を「分散相」というところ(岩波 理化学辞典 第5版,1225ページの「分散系」の欄を参照。),引用文献1に記載された「分散相」が,多数の粒子からなることは自明である。(なお,引用文献1の図1や図2から,分散相8が多数の棒状の粒子からなることを看て取ることもできる。) したがって,引用文献1に,PENからなる第1相とPCからなる第2相とを含み,第1相が連続相を構成し,第2相が第1相内に配置された多数の粒子からなる分散相を構成する偏光フィルムとして,次の発明が記載されていると認められる。(なお,引用文献1には,前記(1)アの【0004】等における「第1ポリマー」及び「第2ポリマー」という表現と,前記(1)イの【0010】等における「第1熱可塑性ポリマー」及び「第2熱可塑性ポリマー」という表現が混在するが,これらが同じことを指していることが明らかであるから,「第1ポリマー」及び「第2ポリマー」という表現に統一して,認定した。) 「第1ポリマーからなる連続相6と,当該連続相6内に配置される第2ポリマーからなる分散相8とを含み, 前記連続相6と前記分散相8との間の屈折率の差が,フィルムの表面に平行した平面内の第1軸に沿って約0.05より大きく,前記第1軸に直交する前記平面内の第2軸に沿って約0.05より小さく, 前記分散相8は,長さが対象となる波長範囲に渡って電磁放射線波長の約2倍を超え,平均直径が対象となる波長範囲に渡って電磁放射線の波長より小さく,少なくとも2以上のアスペクト比を有する,多数の粒子からなり, 前記分散相8の体積分率が,体積を単位にして前記連続相6に対し約1%以上30%未満の範囲内であり, 電磁放射線の少なくとも1偏光状態について,少なくとも1軸に沿ってまとめられる前記連続相及び前記分散相の拡散反射率が,少なくとも約30%である拡散反射型偏光フィルム4において, 前記第1ポリマーとして2,6ポリエチレンナフタレート(PEN)を用い,前記第2ポリマーとしてポリカーボネート(PC)を用い, 延伸することによって,前記2,6ポリエチレンナフタレート(PEN)に,0.25?0.40の範囲の,延伸方向に沿った屈折率と延伸方向に垂直な屈折率の差である複屈折性を発現させた, 拡散反射型偏光フィルム4。」(以下,当該発明を「引用発明」という。) 5 対比 (1) 引用発明の「連続相6」,「分散相8」及び「拡散反射型偏光フィルム4」は,本願発明の「連続相」,「分散相」及び「偏光素子」に,それぞれ相当する。 (2) 引用発明の「連続相6」(本願発明の「連続相」に相当する。以下,「5 対比」の欄において,引用発明の構成に付したカッコ内の文言は,当該構成に相当する本願発明の発明特定事項を表す。)の材料である「2,6ポリエチレンナフタレート(PEN)」は,本願発明の「分散相」の材料である「ポリアルキレンナフタレート系樹脂」に該当する樹脂であり,引用発明の「分散相8」(分散相)の材料である「ポリカーボネート(PC)」は,本願発明の「連続相」の材料である「ポリカーボネート系樹脂」に該当する樹脂である。 また,引用発明の「分散相8」は,「連続相6」(連続相)内に配置され,多数の粒子からなるのであるから,引用発明では,「連続相6」に「分散相8」が粒子状に分散しているといえる。 さらに,引用発明は,延伸した「拡散反射型偏光フィルム4」(偏光素子)であるから,延伸シートであるといえる。 したがって,引用発明と本願発明は,「ポリカーボネート系樹脂及びポリアルキレンナフタレート系樹脂の一方で構成された連続相に,ポリカーボネート系樹脂及びポリアルキレンナフタレート系樹脂の他方で構成された分散相が粒子状に分散している延伸シートで構成された偏光素子」である点で共通する。 (3) 引用文献1の【0041】の「非複屈折成分PC」という記載や,【0150】の【表1】に示された,一軸配向(一軸延伸)後の「ポリカーボネート」の各屈折率の値から理解できるように,延伸後のポリカーボネート(PC)の延伸方向の屈折率及び延伸方向と直交する方向の屈折率が事実上同一の値を示し,その差が事実上ゼロであることが明らかであるから,引用発明において,「ポリカーボネート(PC)」からなる「分散相8」の「延伸方向とこの延伸方向に対して垂直な方向との屈折率差の絶対値である面内複屈折」は,「0?0.03」という本願発明の「連続相」の面内複屈折の数値範囲を満足する。 また,引用発明は,延伸することによって,連続相6を構成する2,6ポリエチレンナフタレート(PEN)に,0.25?0.40の範囲の,延伸方向に沿った屈折率と延伸方向に垂直な屈折率の差である複屈折性を発現させたものであるところ,引用文献1の【0024】及び【0025】の記載や,【0150】の【表1】に示された,一軸配向(一軸延伸)後の「PEN」及び「ポリカーボネート」の各屈折率の値から理解できるように,引用発明の構成中の「平面内の第1軸」及び「第1軸に直交する平面内の第2軸」とは,それぞれ延伸方向及び延伸方向に垂直な方向のことであることが明らかであるから,引用発明において,「2,6ポリエチレンナフタレート(PEN)」からなる「連続相6」の「延伸方向とこの延伸方向に対して垂直な方向との屈折率差の絶対値である面内複屈折」は,「0.05?0.5」という本願発明の「分散相」の面内複屈折の数値範囲を満足する。 したがって,引用発明と本願発明は,「延伸方向とこの延伸方向に対して垂直な方向との屈折率差の絶対値である面内複屈折が,前記連続相及び前記分散相の一方において0?0.03であり,かつ他方において0.05?0.5であ」る点で共通する。 (4) 引用発明は,連続相6と分散相8との間の屈折率の差が,フィルムの表面に平行した平面内の第1軸に沿って約0.05より大きく,第1軸に直交する平面内の第2軸に沿って約0.05より小さく,かつ,延伸することによって,連続相6を構成する2,6ポリエチレンナフタレート(PEN)に,0.25?0.40の範囲の,延伸方向に沿った屈折率と延伸方向に垂直な屈折率の差である複屈折性を発現させたものであるところ,前記(3)で述べたように,引用発明の構成中の「平面内の第1軸」及び「第1軸に直交する平面内の第2軸」とは,それぞれ延伸方向及び延伸方向に垂直な方向のことであり,かつ,分散相8を構成するポリカーボネート(PC)の延伸方向の屈折率及び延伸方向と直交する方向の屈折率が事実上同一の値を示し,その差が事実上ゼロであるから,延伸方向における直線偏光に対する「連続相6」と「分散相8」との屈折率差の絶対値は,最小の場合で約0.20(≒0.25-0.05)であり,最大の場合で約0.45(≒0.40+0.05)となる。 したがって,引用発明と本願発明は,「延伸方向における直線偏光に対する連続相と分散相との屈折率差の絶対値が0.1以上であ」る点で共通する。 (5) 引用発明は,連続相6と分散相8との間の屈折率の差が,第1軸に直交する前記平面内の第2軸に沿って約0.05より小さいところ,前記(3)で述べたように,引用発明の構成中の「第1軸に直交する平面内の第2軸」とは,延伸方向に垂直な方向のことであるから,延伸方向に対して垂直な方向における直線偏光に対する「連続相6」と「分散相8」との屈折率差の絶対値は,約0.05未満であり,本願発明の「延伸方向における直線偏光に対する連続相と分散相との屈折率差の絶対値」についての「0.1以下」という数値範囲を満足する。 したがって,引用発明は,本願発明の「延伸方向に対して垂直な方向における直線偏光に対する連続相と分散相との屈折率差の絶対値が0.1以下である」という発明特定事項に相当する構成を具備している。 (6) 前記(1)ないし(5)によれば,本願発明と引用発明は, 「ポリカーボネート系樹脂及びポリアルキレンナフタレート系樹脂の一方で構成された連続相に,ポリカーボネート系樹脂及びポリアルキレンナフタレート系樹脂の他方で構成された分散相が粒子状に分散している延伸シートで構成された偏光素子であって, 延伸方向とこの延伸方向に対して垂直な方向との屈折率差の絶対値である面内複屈折が,前記連続相及び前記分散相の一方において0?0.03であり,かつ他方において0.05?0.5であり, 延伸方向における直線偏光に対する連続相と分散相との屈折率差の絶対値が0.1以上であり,かつ延伸方向に対して垂直な方向における直線偏光に対する連続相と分散相との屈折率差の絶対値が0.1以下である偏光素子。」 である点で一致し,次の点で一応相違する。 相違点1: 本願発明では,「連続相」が「ポリカーボネート系樹脂」で構成され,「分散相」が「ポリアルキレンナフタレート系樹脂」で構成され,延伸方向とこの延伸方向に対して垂直な方向との屈折率差の絶対値である面内複屈折が,「連続相」において「0?0.03」であり,かつ「分散相」において「0.05?0.5」であるのに対して, 引用発明では,「連続相6」が「2,6ポリエチレンナフタレート(PEN)」で構成され,「分散相8」が「ポリカーボネート(PC)」で構成され,延伸方向とこの延伸方向に対して垂直な方向との屈折率差の絶対値である面内複屈折が「0?0.03」の範囲にあるのは「分散相8」であり,「0.05?0.5」の範囲にあるのは「連続相6」である点。 相違点2: 本願発明では,連続相と分散相との割合が,連続相/分散相=98/2?70/30(重量比)であるのに対して, 引用発明では,分散相8の体積分率が,体積を単位にして連続相6に対し約1%以上30%未満の範囲内である点。 相違点3: 本願発明では,延伸方向における直線偏光に対する連続相と分散相との屈折率差の絶対値が0.3以下であるのに対して, 引用発明では,延伸方向における直線偏光に対する連続相6と分散相8との屈折率差の絶対値が0.3以下であることは特定されていない点。 6 判断 (1)相違点1について 引用文献1の【0010】には,「拡散反射型偏光光学フィルムのある実施形態は,第1熱可塑性ポリマーから成る複屈折性マトリックス又は連続相6と,第2熱可塑性ポリマーから成る不連続又は分散相8とを備えた材料を包含し」と記載されていて,引用発明に対応する実施形態が開示されているとともに,当該記載とともに「代替の実施形態において,第2熱可塑性ポリマーが連続相を作製し,複屈折材料が分散相を形成してもよい。」とも記載されていて,引用発明に対応する実施形態における連続相6を構成する樹脂(第1熱可塑性ポリマー,複屈折材料)を用いて分散相8を形成し,引用発明に対応する実施形態における分散相8を構成する樹脂(第2熱可塑性ポリマー)を用いて連続相6を形成する実施形態が開示されている。 そうすると,引用発明において,「連続相6」を構成する第1ポリマーとして「ポリカーボネート(PC)」を用い,「分散相8」を構成する第2ポリマーとして「2,6ポリエチレンナフタレート(PEN)」を用いることは,引用文献1の記載に基づいて,当業者が容易になし得たことというほかない。 そして,当該構成の変更(材料の変更)を行った引用発明においては,延伸方向とこの延伸方向に対して垂直な方向との屈折率差の絶対値である面内複屈折が「0?0.03」の範囲にあるのは「連続相6」となり,「0.05?0.5」の範囲にあるのは「分散相8」となる。 したがって,引用発明を,相違点1に係る本願発明の発明特定事項を具備したものとすることは,引用文献1の記載に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。 (2)相違点2について ア 前記(1)で述べた構成の変更を行った引用発明において,「2,6ポリエチレンナフタレート(PEN)」からなる分散相8の体積分率は,体積を単位にして「ポリカーボネート(PC)」からなる連続相6に対し約1%以上30%未満の範囲内である。 ここで,IUPAC「Gold Book」には,「体積分率」(volume fraction)について,「Volume of a constituent of a mixture divided by the sum of volumes of all constituents prior to mixing.」と,すなわち,日本語に訳すと,「混合物中の混合前の全ての成分の体積の合計に対するある成分の体積の割合」と定義されているところ,「2,6ポリエチレンナフタレート(PEN)」の比重は約1.36であり,「ポリカーボネート(PC)」の比重は約1.20であるから,前記(1)で述べた構成の変更を行った引用発明における「約1%以上30%未満」という分散相8の体積分率の数値範囲は,連続相6/分散相8の重量比に換算すると,約98.9/1.1?67.3/32.7となる。 また,連続相6/分散相8の重量比が「98/2?70/30」という相違点2に係る本願発明の数値範囲を満足するのは,分散相8の体積分率が約1.8%?約27%となる場合である。 そして,引用発明において,分散相8の体積分率を,「約1%以上30%未満」という数値範囲のうち如何なる値に設定するのかは,当業者が適宜決定すれば足りる設計上の事項にすぎないところ,「約1%以上30%未満」という数値範囲のうち「約1.8%?約27%」という範囲内の数値を選択した引用発明は,前記(1)で述べた構成の変更を行うことに伴って,必然的に,相違点2に係る本願発明の発明特定事項を具備することとなる。 そうすると,引用発明を,相違点2に係る本願発明の発明特定事項を具備したものとすることは,単なる設計上の事項にすぎない。 イ なお,引用文献1には,「体積分率」の定義が明記されておらず,【0038】の「分散相の体積分率は,体積を単位にして連続相に対し」という記載からは,引用発明における分散相8の「体積分率」が,前記アで述べたIUPAC「Gold Book」の定義にしたがった「混合前の連続相6の体積と分散相8の体積の合計に対する分散相8の体積の割合」を指しているのではなく,混合前の連続相6の体積を1としたときの分散相8の体積の割合(すなわち,「分散相8の体積」/「連続相6の体積」×100)を指していると解することが不可能とはいえないが,そのように解した場合であっても,連続相6/分散相8の重量比が「98/2?70/30」という相違点2に係る本願発明の数値範囲を満足するのは,分散相8の体積分率が約1.8%?約38%となる場合であって,「約1%以上30%未満」という数値範囲のうち「約1.8%?約30%」という範囲内の数値を選択した引用発明は,前記(1)で述べた構成の変更を行うことに伴って,必然的に,相違点2に係る本願発明の発明特定事項を具備することとなるから,引用発明を,相違点2に係る本願発明の発明特定事項を具備したものとすることが,単なる設計上の事項にすぎないという結論に変わりはない。 ウ 前記ア及びイのとおりであるから,引用発明を,相違点2に係る本願発明の発明特定事項を具備したものとすることは,単なる設計上の事項にすぎない。 (3)相違点3について ア 引用発明は,延伸することによって,連続相6を構成する2,6ポリエチレンナフタレート(PEN)に,0.25?0.40の範囲の,延伸方向に沿った屈折率と延伸方向に垂直な屈折率の差である複屈折性を発現させたものであり,連続相6と分散相8との間の屈折率の差が,第1軸に直交する平面内の第2軸に沿って約0.05より小さいところ,前記5(3)でも述べたように,引用文献1の【0150】の【表1】に示された,一軸延伸後の「PC」の「TD」方向,「MD」方向及び「ZD」方向の屈折率から,分散相8を構成する「ポリカーボネート(PC)」の延伸方向における直線偏光に対する屈折率と延伸方向に垂直な方向における直線偏光に対する屈折率は事実上同一の値であることが明らかであるから,延伸方向における直線偏光に対する連続相6と分散相8との屈折率差の絶対値は,最小で約0.20(≒0.25-0.05)であり,最大で約0.45(≒0.40+0.05)である。 そうすると,引用発明の延伸方向における直線偏光に対する連続相6と分散相8との屈折率差の絶対値の数値範囲「約0.20?約0.45」と,本願発明の延伸方向における直線偏光に対する連続相6と分散相8との屈折率差の絶対値の数値範囲「0.0?0.30」は,「約0.20?0.30」という範囲で重複している。 イ また,引用文献1の【0150】の【表1】には,一軸延伸後の「PEN」の「TD」方向の屈折率が1.85であり,「MD」方向の屈折率が1.58であり,「ZD」方向の屈折率が1.577であること,及び一軸延伸後の「PC」の「TD」方向,「MD」方向及び「ZD」方向の屈折率がいずれも1.58であることが示されているところ,当該【表1】に示された一軸延伸後の「PEN」及び「PC」の,延伸方向(TD方向)における直線偏光に対する屈折率差の絶対値は0.27であって,相違点3に係る本願発明の「0.3以下」という数値範囲を満足する。 ウ 前記ア及びイに照らせば,引用発明において,延伸方向における直線偏光に対する連続相6と分散相8との屈折率差の絶対値を0.3以下とすること,すなわち,引用発明を,相違点3に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,引用文献1に記載されたも同然の事項である。 したがって,相違点3は実質的な相違点ではないか,少なくとも,引用発明を,相違点3に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,引用文献1の記載に基づいて,当業者が適宜なし得たことである。 (4)効果について 本願発明が有する効果は,引用文献1の記載に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。 (5)まとめ 以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 7 むすび 本願発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-09-01 |
結審通知日 | 2016-09-06 |
審決日 | 2016-09-20 |
出願番号 | 特願2011-515964(P2011-515964) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G02B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 加藤 昌伸、竹村 真一郎 |
特許庁審判長 |
藤原 敬士 |
特許庁審判官 |
鉄 豊郎 清水 康司 |
発明の名称 | 偏光素子及びそれを用いた表示装置 |
代理人 | 阪中 浩 |
代理人 | 鍬田 充生 |