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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
管理番号 1321061
審判番号 不服2015-18597  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-14 
確定日 2016-11-04 
事件の表示 特願2015- 17384「撮影装置および撮影方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月16日出願公開,特開2015-130672〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年6月14日に出願した特願2013-125799号の一部を同年12月24日に新たな特許出願(特願2013-266095号)とし,該新たな特許出願の一部をさらに平成27年1月30日に新たな特許出願としたものであって,同年3月12日付けで拒絶の理由が通知され,同年5月13日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ,同年7月13日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,同年10月14日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成27年10月14日になされた手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成27年10月14日になされた手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
平成27年10月14日になされた手続補正(以下,「本件補正」という。)により,特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおり補正された(下線部は,補正箇所である。)。
「撮影空間において利用者を被写体として複数回の撮影を行い,複数の撮影画像を取得する撮影制御部と,
前記利用者により選択された撮影コースに応じて,前記撮影制御部が,前記複数回の撮影のうちの少なくとも1回の撮影に対して,前記撮影画像にクロマキー処理を施すためのクロマキー撮影を行うか否かを設定する設定部と
を備え,
前記設定部は,
前記利用者により第1の撮影コースが選択された場合,前記撮影制御部が少なくとも1回の撮影に対して前記クロマキー撮影を行うことを設定し,
前記利用者により第2の撮影コースが選択された場合,前記撮影制御部が全ての撮影に対して前記クロマキー処理を施すことを前提としない撮影を行うことを設定し,
前記撮影制御部は,前記クロマキー撮影を行う場合,クロマキー用カーテンを背景として撮影を行い,前記クロマキー処理を施すことを前提としない撮影を行う場合,前記カーテンを用いず,前記撮影空間における前記利用者の背面を構成する背面パネルを背景として撮影を行う
撮影装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の,平成27年5月13日になされた手続補正によって補正された請求項1の記載は次のとおりである。
「撮影空間において利用者を被写体として複数回の撮影を行い,複数の撮影画像を取得する撮影制御部と,
前記利用者により選択された撮影コースに応じて,前記撮影制御部が,前記複数回の撮影のうちの少なくとも1回の撮影に対して,前記撮影画像にクロマキー処理を施すためのクロマキー撮影を行うか否かを設定する設定部と
を備え,
前記設定部は,
前記利用者により第1の撮影コースが選択された場合,前記撮影制御部が少なくとも1回の撮影に対して前記クロマキー撮影を行うことを設定し,
前記利用者により第2の撮影コースが選択された場合,前記撮影制御部が全ての撮影に対して前記クロマキー撮影を行わないことを設定する
撮影装置。」

(3)本件補正後の請求項1に係る上記1(1)の補正は,(A)本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「設定部」が,「前記利用者により第2の撮影コースが選択された場合,前記撮影制御部が全ての撮影に対して前記クロマキー撮影を行わないことを設定する」と特定されていたのを「前記利用者により第2の撮影コースが選択された場合,前記撮影制御部が全ての撮影に対して前記クロマキー処理を施すことを前提としない撮影を行うことを設定する」とする補正,及び(B)本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「撮影制御部」が,「前記クロマキー撮影を行う場合,クロマキー用カーテンを背景として撮影を行い,前記クロマキー処理を施すことを前提としない撮影を行う場合,前記カーテンを用いず,前記撮影空間における前記利用者の背面を構成する背面パネルを背景として撮影を行う」とする補正からなるものである。

2 本件補正の適否
(1)
ア 上記1(3)の(A)の補正は,本件補正前の請求項1において記載されていた「設定部」を,願書に最初に添付した明細書の段落【0015】,【0144】等の記載に基づいて,「クロマキー撮影を行わないことを設定する」を「クロマキー処理を施すことを前提としない撮影を行うことを設定する」と補正するものであるところ,「設定部」が「全ての撮影に対して」設定するのが,本件補正前では「クロマキー撮影を行わないこと」であるのに対して,本件補正後では「クロマキー処理を施すことを前提としない撮影を行うこと」となっている。そうすると,全ての撮影に対して,「クロマキー撮影を行わないこと」と,「クロマキー処理を施すことを前提としない撮影を行うこと」とは,実質的に相違せず,本件補正の前後で広狭の差が生じない。してみると,(A)の補正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。

イ 上記1(3)の(B)の補正は,本件補正前の請求項1において記載されていた「撮影制御部」を,願書に最初に添付した明細書の段落【0055】,【0144】等の記載に基づいて,「前記クロマキー撮影を行う場合,クロマキー用カーテンを背景として撮影を行い,前記クロマキー処理を施すことを前提としない撮影を行う場合,前記カーテンを用いず,前記撮影空間における前記利用者の背面を構成する背面パネルを背景として撮影を行う」ものに限定するものである。

(2)上記(1)からみて,本件補正後の請求項1は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。また,本件補正は,本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,産業上の利用分野及び解決しようとする課題が補正の前後において同一であるから,全体として,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下検討する。

(3)本願補正発明
本願補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。

(4)引用例の記載事項
ア 原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開2005-142788号公報(以下,「引用例」という。)には,次の事項が図とともに記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は,利用者をカメラで撮影し,その撮影画像に基づき生成される合成画像を写真として出力する自動写真作成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より,利用者をカメラで撮影し,その撮影画像を写真(写真シールや写真カードなど)として出力する遊戯用写真作成装置が知られている。このような遊戯用写真作成装置は,遊戯性または娯楽性が高いことから,撮影画像と合成すべき画像を,利用者の嗜好に応じて,予め用意された多種多様な背景画像および前景画像から選択したり,タッチペンやライトペン等のペン型入力手段を用いて利用者が自由に描いたりできるように構成されているものが多い。また,利用者とともに実際に撮影される利用者の背景を構成するように,利用者の背後に所定の色や柄を有する背景用カーテンなどが設けられていることが多い。さらに,利用者の各種感情を触発するような画像や音などを提示しつつ一連の写真撮影を自動的に行う遊戯用写真作成装置がある(特許文献1を参照)。この遊戯用写真作成装置では,利用者が種々の感情を抱いたときに現れる自然な表情や姿態の撮影が可能となるため,魅力的な写真を得ることができる。
【特許文献1】特開2003-075905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし,上記従来の遊戯用写真作成装置では,利用者を撮影する時点に向けた雰囲気作りや撮影タイミングを示すために画像や音を提示する。そのため,これらの画像や音は,利用者に現れる表情等に影響を与えるが,最終的に写真として出力される撮影画像(または合成画像)の構成に影響を与えるわけではない。すなわち,利用者に提示される画像等は,撮影画像の背景等とは関連性がないので,最終的に写真として出力される撮影画像(または合成画像)に当該画像自体が反映されるわけではなく,結果として得られる写真の構成に娯楽性または遊戯性が得られるわけではない。
【0004】
また,撮影までの雰囲気作りのための画像や音を受け取る利用者は,種々の感情を伴った自由な想像を働かせるに過ぎない。そのため,上記従来の遊戯用写真作成装置では,利用者に仮想的な体験といえるような強い感動を与えることはできない。
【0005】
そこで本発明の目的は,最終的に出力される写真に反映される画像を利用者に提示するとともに,当該画像により利用者に仮想的な体験といえるような強い感動を与えることができる自動写真作成装置および自動写真作成方法を提供することである。」

(イ)「【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は,所定の撮影領域における被写体である利用者を含む像を取得する撮像手段と,前記撮像手段による撮影の際に閃光を放つことにより前記被写体を照明する照明手段と,前記撮像手段により得られる撮影画像を含む合成画像を写真として出力する出力手段とを備える自動写真作成装置であって,
前記撮像手段により取得された像と所定の動画とを合成することにより所定の合成動画を生成する画像処理手段と,
前記合成動画を前記利用者に表示する表示手段と
を備え,
前記画像処理手段は,前記撮像手段による撮影の際に表示される合成動画に相当する静止画である合成画像を生成することを特徴とする。
【0007】
第2の発明は,第1の発明において,
前記撮影手段に対向して前記利用者の背後に配置されており,撮影対象となるべき被撮影面を有する背景提示手段をさらに備え,
前記画像処理手段は,前記撮像手段により取得された像に含まれる前記被撮影面の像が占める領域に前記動画を合成することにより,前記合成動画を生成することを特徴とする。
【0008】
第3の発明は,第2の発明において,
前記背景提示手段は,
可撓性を有しており,前記被撮影面を有するスクリーンと,
前記スクリーンを展開または格納する駆動手段とを含み,
前記駆動手段は,前記撮像手段により前記利用者の像が取得されるときに前記スクリーンを展開することを特徴とする。
【0009】
第4の発明は,第2または第3の発明において,
前記画像処理手段は,前記撮影画像に含まれる前記被撮影面の像が占める領域に,前記撮像手段による撮影の際に表示される合成動画を構成する前記動画に相当する静止画を合成することにより,前記合成画像を生成することを特徴とする。
【0010】
第5の発明は,第2から第4までのいずれかの発明において,
前記背景提示手段は,前記被撮影面に所定の色が付されており,
前記画像処理手段は,前記被撮影面の像が占める前記所定色の領域にクロマキー合成処理を行うことにより,前記合成画像を生成することを特徴とする。」

(ウ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下,本発明の一実施形態につき添付図面を参照して説明する。
<1. 全体構成>
図1は,本発明の一実施形態に係る自動写真作成装置である遊戯用写真作成装置を側面から見た図であり,図2は,この遊戯用写真作成装置の本体部4を正面から(被写体としての利用者Uから)見た図である。以下,図1および図2を参照して,本実施形態に係る遊戯用写真作成装置の全体構成について説明する。
【0034】
この遊戯用写真作成装置は,利用者Uが入る撮影室2と,利用者Uの撮影画像を含む合成画像を生成して写真シール(または写真カード)として出力する本体部4とを備えており,撮影室2内には利用者Uの背景を提供する手段となる背景提示装置101が備えられている。
【0035】
この背景提示装置101は,上下方向(鉛直方向)に上げ下ろしが可能であるスクリーンと,正面から(利用者Uから)見て左右方向(水平方向)に展開または折り畳みが可能であるカーテンと,上記スクリーンおよびカーテンを駆動するための電動モータによる駆動機構とを含む。
【0036】
このスクリーンは,典型的にはロールカーテンであり,後述するクロマキー合成処理に好適であるため広く用いられる緑色(または緑色系統の色)の一色が利用者Uに向かう面に付されている。カーテンは,美しい背景を構成するための装飾用部材であり,適宜の色や模様が付されている。駆動機構は,背景提示装置101の上部に設けられており,後述する制御装置からの制御信号に基づき,内蔵される電動モータを適宜回転させることにより,スクリーンを上方へ巻き取りまたは下方へ下ろすとともに,カーテンを左右に展開または折り畳む。この駆動機構により下方に下ろされたスクリーンまたは展開されたカーテンの利用者Uに向かう面は,撮影対象となる被撮影面を形成する。なお,装置の初期状態では,美的外観を有しないスクリーンは上方へ巻き取られており,美しい装飾効果を有するカーテンのみが展開されているものとする。」

(エ)「【0053】
<3. 動作>
上述のように本実施形態における主制御部80の動作は,その内部のCPUが上記所定プログラムを実行により実現される。図4は,このようにして実現される主制御部80の動作を示すフローチャートである。本実施形態では,コイン投入口26に所定のコインが投入されると,主制御部80(主制御装置)は,以下のように動作する。
【0054】
まず,主制御部80は,装置の初期化処理や利用者Uによる撮影メニューの選択操作の受付などを含む初期処理を行う(ステップS10)。ここで,装置の初期化処理とは,各ハードウェアの初期化や,設定値として主制御部80に記憶されるデータの初期化処理などをいう。また主制御部80は,上記初期処理として予め用意された複数の撮影メニューのうちの1つを選択可能なようにメイン表示・操作部85に表示し,利用者Uによる上記撮影メニューの選択操作を受け付ける。撮影メニューには,カーテンを背景とする通常撮影モードと,クロマキー合成された各種背景を使用する複数の合成撮影モードとが用意されるが,ここでは合成撮影モードの1つが選択されるものとする。合成撮影モードが選択されると,主制御部80は背景駆動部64に所定の制御信号を出力し,この背景駆動部64により,背景提示装置101のカーテンが格納されるとともに,スクリーンが下方に下ろされることにより展開される。このように,撮影に必要なときにのみ美的外観を有しないスクリーンが展開され,通常時には美しい装飾効果を有するカーテンのみが展開されるため,利用者Uに美しく好ましい印象を与えることができる。さらに主制御部80は,上記初期処理として,予め決められた撮影のための時間(以下「撮影時間」という)が経過するとタイムアウトとなるようにタイマーを設定し,そのタイマーをスタートさせる。
【0055】
次に,主制御部80は,補助記憶装置内に予め記憶されている複数の動画のうち上記選択操作により選択された合成撮影モードに対応する動画(以下「背景動画」という)を確認表示部54に再生表示することを開始する(ステップS20)。この背景動画は次の撮影処理中(一定の速度で)再生され続けることにより利用者Uの背景を構成するものであって,ここでは所定のストーリーに沿った内容で構成されている。なお,この背景動画を含む動画ファイルには声や音楽などの音声も含まれており,主制御部80のサウンド機能および音声出力部68(スピーカ)により映像とともに再生されるものとする。この音声により,利用者Uは映像の意味を与えられ,または娯楽性や感動を与えられる。
【0056】
続いて,主制御部80は,利用者Uを撮影するための撮影処理を行う(ステップS30)。この撮影処理の詳しい処理(サブルーチン)について説明する。図5は,このサブルーチンの手順を示すフローチャートである。
【0057】
まず主制御部80は,再生される背景動画に上記モニタ用撮影画像等を合成する動画合成処理を行う(ステップS31)。ここで,この動画合成処理の詳しい処理(サブルーチン)についてさらに説明する。図6は,このサブルーチンの手順を示すフローチャートである。
【0058】
主制御部80は,補助記憶装置内に一時的に記憶されたモニタ用撮影画像から合成マスク(アルファチャネル)を作成する(ステップS311)。ここで合成マスク(アルファチャネル)とは,対象となる画像(ここではモニタ用撮影画像)のうちの所定の領域を透明とし,それ以外の領域を非透明とするためのデータであって,一般的には対象となる画像の画素毎に0(完全透明)から255(完全非透明)までの透過度を示す値αが設定される。なおここでのαは,0および255のみが使用されるものとする。また,上記対象となる画像および当該画像と合成される他の画像は同じ大きさとなるよう調整されているものとする。この合成処理は,対象となる画像の非透明領域(α=255)に相当する他の画像の領域は隠され(マスクされ),その透明領域(α=0)に相当する他の画像の領域は見えるように合成する。そのため,あたかも対象となる画像の非透明領域の部分が切り取られ,切り取られた当該部分が上記他の画像に対して貼り付けられたような合成動画が得られる。したがって,合成マスクの非透明領域をモニタ用撮影画像に映る利用者U(の画像)の領域に合わせて設定すれば,利用者Uを示す画像が再生中の背景動画内に貼り付けられたような合成動画が得られる。
【0059】
このような合成マスクを作成する手法は,様々な公知の手法のうちのいずれが用いられてもよいが,ここではモニタ用撮影画像に映る背景提示装置101のスクリーンの色が緑色であることを利用し,この緑色をクロマキーとする合成マスク,すなわちモニタ用撮影画像の緑色部分を透明領域とし,その他の色の部分を非透明領域とした合成マスクを作成し,公知のキーイング(合成)処理であるクロマキー合成処理により合成画像が作成されるものとする。
【0060】
次に,主制御部80は,補助記憶装置内に記憶されたモニタ用撮影画像に対し合成マスクを設定し,上記背景動画と合成する(ステップS312)。具体的には,上記モニタ用撮影画像の(各画素の)透明度を規定するアルファチャネルとして上述のような合成マスクを設定し,この合成マスクが設定されたモニタ用撮影画像と再生される背景動画とを画像合成する。この画像合成は,上述したクロマキー合成処理であり,この合成処理により利用者Uを示す画像が背景動画内に貼り付けられたような合成動画が得られる。
【0061】
さらに,主制御部80は,再生される背景動画に関連づけられて記憶される前景動画およびその合成マスクである前景マスク動画を補助記憶装置から読み出し,上記ステップS312において得られた合成動画に上記前景マスク動画を合成マスクとして設定し,この合成マスクが設定された合成画像と前景動画とを合成する(ステップS313)。ここで,この合成マスクは,前景動画の主要な要素となる画像領域(例えば絵が描かれている部分)が非透明領域とされ,それ以外の部分を透明領域とされているものとする。この合成処理により上記前景動画が上記合成画像に対して貼り付けられたような合成画像が得られる。以上のサブルーチン処理が終了すると,図5に示す処理に復帰する。
【0062】
なお,上記動画合成処理では,モニタ用撮影画像を背景動画に合成した後(S312),さらに前景画像を合成するが(S313),これらの処理の順序が逆であってもよいし,同時であってもよい。また,制御装置に備えられる専用のハードウェア(ビデオ編集装置など)により上記処理が行われてもよい。
【0063】
以上の動画合成処理および当該処理により得られる合成動画について,図7を参照して説明する。図7は,所定の時点での前景動画,モニタ用撮影画像,背景動画,およびこれらの合成動画の例を示す模式図である。図7(a)では前景動画例として犬が歩き回る動画の所定時点での静止画が示されており,図7(b)ではモニタ用撮影画像例として利用者Uが中央付近で起立している動画の所定時点での静止画が示されており,図7(c)では背景動画例として星のマークが移動しながら回転する動画の所定時点での静止画が示されており,図7(d)はこれらの合成動画例の所定時点での静止画が示されている。なお,ここでは上記所定時点は撮影時点であるものとする。図7(d)に示されるように,背景動画は利用者Uの後ろにあるように合成され,前景動画は利用者Uの前にあるように合成されるため,当該合成動画を見る利用者Uは,あたかも仮想的な空間内に立つような仮想的な体験を得ることができる。したがって,利用者Uに遊戯性が高い強い感動をあたえることができる。
【0064】
次に,主制御部80は,上記動画合成処理により得られた合成動画,すなわちモニタ用撮影画像と背景動画と前景動画とが合成された合成動画(例えば図7(d)に示す画像)を,確認表示部54にリアルタイムで表示する(ステップS32)。
【0065】
続いて,主制御部80は,撮影時間を示す上記タイマーを参照することにより,予め定められた撮影タイミングが到来したか否かを判定する(ステップS33)。撮影タイミングが到来した場合,処理は次のステップS34に進む。到来していない場合には,ステップS31の処理に戻り,撮影タイミングが到来するまで上記処理が繰り返される(S31→S32→S33→S31)。ここで,上記撮影タイミングは,背景動画(および前景動画)に関連づけられて予め記憶されている。例えば,図7(c)に示される星のマークが撮影に好適な位置にくる時点は,背景動画が一定速度で再生されるため上記タイマーにより測定される時間により容易に特定することができる。また,背景動画や前景動画のストーリーに合わせた最適な撮影タイミングを設定することもできる。例えば,1匹で散歩する犬を飼い主が呼び寄せるようなストーリーである場合,図7(d)に示されるように,前景動画である犬の絵が利用者Uの足元にきたときを撮影タイミングとして設定することが考えられる。なお,撮影タイミングは,1組の動画(同時に再生される背景動画および前景動画)に対して通常複数が設定される。
【0066】
撮影タイミングが到来すると,主制御部80は,撮影開始を利用者Uにメイン表示・操作部62の画面や音声出力部68からの音声による案内などで知らせた後,撮像部(カメラ)52に撮影信号(シャッター信号)を送る。これにより,撮像部52のシャッター動作と同期して照明部(フラッシュ)70が閃光を放ち,主制御部80がキャプチャ処理を開始する。すなわち,主制御部80は,照明部(フラッシュ)70からの閃光で照らされた利用者Uの撮影画像を表す信号として撮像部52から出力される画像信号を受け取り,メモリまたは補助記憶装置内に撮影画像の画像ファイルとして格納する(ステップS34)。なお,所定の撮影時間の間,撮影タイミングが到来する毎に上記キャプチャ処理が実行されるため,複数枚の撮影画像が画像ファイルとして一時的に保存される。
【0067】
また,主制御部80は,撮像部(カメラ)52に撮影信号(シャッター信号)を送るときに確認表示部54に表示されている背景動画,前景動画,および前景マスク動画からそれぞれ静止画を抜き出し(生成し),抜き出された静止画をそれぞれ背景画像,前景画像,および前景マスク画像として,メモリまたは補助記憶装置に記憶する(ステップS35)。
【0068】
続いて,主制御部80は,背景画像に上記撮影画像等を合成する静止画合成処理を行う(ステップS36)。ここで,この静止画合成処理の詳しい処理(サブルーチン)について説明する。図8は,このサブルーチンの手順を示すフローチャートである。この静止画合成処理は,図6に示す動画合成処理とほぼ同様の処理である。
【0069】
すなわち,主制御部80は,メモリまたは補助記憶装置内に画像ファイルとして記憶された撮影画像から合成マスクを作成し(ステップS361),作成された合成マスクを撮影画像に設定して上記背景動画と合成し(ステップS362),得られた合成動画に対して前景マスク画像を合成マスクとして設定して前景動画を合成し,得られた合成画像を補助記憶装置に保存する(ステップS363)。以上のサブルーチン処理が終了すると,図5に示す処理に復帰し,この図5に示す処理が終了するため,さらに図4に示す処理に復帰する。
【0070】
次に,主制御部80は,所定の撮影終了条件が満たされることにより撮影が終了したか否かを判定する(ステップS40)。この撮影終了条件としては,例えば,撮影時間を示すタイマがタイムアウトとなること,背景動画および前景動画の再生が終了したこと,または撮影時間の経過前であってもメイン表示・操作部62に対して撮影処理の終了を指示する操作が行われることなどが考えられる。撮影が終了した場合,処理は次のステップS50に進む。撮影が終了しない場合には,ステップS30の処理に戻り,撮影が終了するまで上記処理が繰り返される(S30→S40→S30)。


(オ)
「【図1】


【図2】


【図4】


【図5】


【図6】


【図7】


【図8】




(カ)上記(ア)ないし(オ)から,引用例には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお,括弧書きで記載した段落番号は,引用発明を認定する際に参酌した箇所を参考までに示したものである。

「利用者Uが入る撮影室2を備え,撮影室2内には,利用者Uの背景を提供する手段となる背景提示装置101を備え,(【0034】)
前記背景提示装置101は,上下方向(鉛直方向)に上げ下ろしが可能であるスクリーンと,正面から(利用者Uから)見て左右方向(水平方向)に展開または折り畳みが可能であるカーテンと,上記スクリーンおよびカーテンを駆動するための電動モータによる駆動機構とを含み,(【0035】)
前記スクリーンはロールカーテンであり,後述するクロマキー合成処理に好適である緑色の一色が利用者Uに向かう面に付されており,カーテンは,美しい背景を構成するための装飾用部材であり,適宜の色や模様が付されており,(【0036】)
遊戯用写真作成装置は,主制御部80を有し,
主制御部80は,利用者Uによる上記撮影メニューの選択操作を受け付け,前記撮影メニューには,カーテンを背景とする通常撮影モードと,クロマキー合成された各種背景を使用する複数の合成撮影モードとが用意され,合成撮影モードが選択されると,主制御部80は背景駆動部64に所定の制御信号を出力し,この背景駆動部64により,背景提示装置101のカーテンが格納されるとともに,スクリーンが下方に下ろされることにより展開され,(【0054】)
主制御部80は,撮像部(カメラ)52に撮影信号(シャッター信号)を送り,照明部(フラッシュ)70からの閃光で照らされた利用者Uの撮影画像を表す信号として撮像部52から出力される画像信号を受け取り,メモリまたは補助記憶装置内に撮影画像の画像ファイルとして格納し,(【0066】)
主制御部80は,撮像部(カメラ)52に撮影信号(シャッター信号)を送るときに確認表示部54に表示されている背景動画,前景動画,および前景マスク動画からそれぞれ静止画を抜き出し(生成し),抜き出された静止画をそれぞれ背景画像,前景画像,および前景マスク画像として,メモリまたは補助記憶装置に記憶し,(【0067】)
主制御部80は,メモリまたは補助記憶装置内に画像ファイルとして記憶された撮影画像から合成マスクを作成し,作成された合成マスクを撮影画像に設定して上記背景動画と合成し,得られた合成動画に対して前景マスク画像を合成マスクとして設定して前景動画を合成し,得られた合成画像を補助記憶装置に保存する,(【0069】)
自動写真作成装置。【0033】」

(5)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「撮影室2」,「利用者U」及び「撮影画像」は,それぞれ,本願補正発明の「撮影空間」,「利用者」及び「撮影画像」に相当する。 また,引用発明の「スクリーン」は,「ロールカーテン」であって,「クロマキー処理に好適である緑色の一色が利用者Uに向かう面に付されて」いるのであるから,本願補正発明の「クロマキー用カーテン」に相当する。

イ 引用発明の「主制御部80」は,「主制御部80は,撮像部(カメラ)52に撮影信号(シャッター信号)を送り,照明部(フラッシュ)70からの閃光で照らされた利用者Uの撮影画像を表す信号として撮像部52から出力される画像信号を受け取り,メモリまたは補助記憶装置内に撮影画像の画像ファイルとして格納」するのであるから,「利用者を被写体として」「撮影を行い」「撮影画像を取得する」点で,本願補正発明の「撮影制御部」と一致する。

ウ 第1及び第2の撮影コースについて
(ア)引用発明における「合成撮影モード」は,「クロマキー合成された各種背景を使用する」ものであり,そのために「クロマキー合成処理に好適である緑色の一色が利用者Uに向かう面に付され」た「スクリーン」を利用するのであるから,本願補正発明の「第1の撮影コース」に相当する。また,引用発明における「通常撮影モード」は,「カーテンを背景とする」ものであり,「クロマキー合成処理に好適である緑色の一色が利用者Uに向かう面に付され」た「スクリーン」を用いるものでないから,本願補正発明の「第2の撮影コース」に相当する。
さらに,引用発明の「合成撮影モード」時における「撮影」は本件補正発明の「クロマキー処理を施すためのクロマキー撮影」に相当し,引用発明の「通常撮影モード」における「撮影」が本願補正発明の「クロマキー処理を施すことを前提としない撮影」に相当することも明らかである。
(イ)引用発明の「主制御部80」は,「利用者Uによる上記撮影メニューの選択操作を受け付け」,かつ「前記撮影メニューには,カーテンを背景とする通常撮影モードと,クロマキー合成された各種背景を使用する複数の合成撮影モードとが用意され」るのであるから,引用発明の「主制御部80」は,本願補正発明の「前記利用者により第1の撮影コースが選択された場合,前記撮影制御部が少なくとも1回の撮影に対して前記クロマキー撮影を行うことを設定し,前記利用者により第2の撮影コースが選択された場合,前記撮影制御部が」「前記クロマキー処理を施すことを前提としない撮影を行うことを設定」する点において,本願補正発明の「設定部」と一致している。
また,引用発明の「制御部80」は,「前記撮影制御部は,前記クロマキー撮影を行う場合,クロマキー用カーテンを背景として撮影を行い,前記クロマキー処理を施すことを前提としない撮影を行う場合,前記カーテンを用いず」「撮影を行う」点で,本願補正発明の「撮影制御部」と一致している。

エ 引用発明の「自動写真作成装置」は,利用者を被写体として撮影し,撮影画像を取得するものであるから,本願補正発明の「撮影装置」に相当する。

オ 上記アないしエからみて,本願補正発明と引用発明とは,

「撮影空間において利用者を被写体として撮影を行い,撮影画像を取得する撮影制御部と,
前記利用者により選択された撮影コースに応じて,前記撮影制御部が,少なくとも1回の撮影に対して,前記撮影画像にクロマキー処理を施すためのクロマキー撮影を行うか否かを設定する設定部と
を備え,
前記設定部は,
前記利用者により第1の撮影コースが選択された場合,前記撮影制御部が少なくとも1回の撮影に対して前記クロマキー撮影を行うことを設定し,
前記利用者により第2の撮影コースが選択された場合,前記撮影制御部が前記クロマキー処理を施すことを前提としない撮影を行うことを設定し,
前記撮影制御部は,前記クロマキー撮影を行う場合,クロマキー用カーテンを背景として撮影を行い,前記クロマキー処理を施すことを前提としない撮影を行う場合,前記カーテンを用いず撮影を行う
撮影装置。」
である点で一致し,次の点で相違する。

・相違点1:
撮影回数が,
本願補正発明は,「複数回の撮影」が行われ,「複数の撮影画像」を取得するものであり,かつ,設定部が「利用者により第2の撮影コースが選択された場合,前記撮影制御部が全ての撮影に対して前記クロマキー処理を施すことを前提としない撮影を行うことを設定し」ているのに対し,
引用発明は,撮影が行われること,撮影画像を取得すること及び「合成撮影モード」(本願補正発明の「第2の撮影コース」に相当)を有することは特定されているものの,「通常撮影モード」(本願補正発明の「第1の撮影コース」に相当)及び「合成撮影モード」が選択された際の撮影回数や撮影画像の取得数が明らかでなく,また仮に「合成撮影モード」が選択された場合の撮影回数が複数回であったとしても,「主制御部80」(本願補正発明の「設定部」に相当)が,全ての撮影に対して「カーテン」を背景として撮影を行うことを設定するのか(すなわち,「クロマキー処理を施すことを前提としない撮影を行うことを設定する」のか)が明らかでない点。

・相違点2:クロマキー処理を施すことを前提としない撮影を行う場合,
本願補正発明は,「前記撮影空間における前記利用者の背面を構成する背面パネルを背景として」行われるのに対し,
引用発明は,「カーテン」を背景とする点。

(6)判断
ア 上記相違点1について検討する。
引用例の段落【0065】 には,合成撮影モードについて,「なお,撮影タイミングは,1組の動画(同時に再生される背景動画および前景動画)に対して通常複数が設定される。」と記載され,さらに段落【0066】には「なお,所定の撮影時間の間,撮影タイミングが到来する毎に上記キャプチャ処理が実行されるため,複数枚の撮影画像が画像ファイルとして一時的に保存される。」と記載されており,合成撮影モードの際には,複数回の撮影が行われることが記載されているといえる。引用例では,通常撮影モードの際の撮影回数について記載はないが,技術常識からみて,「通常撮影モード」においても複数回撮影がされているものとみるのが自然である。また仮にそうでないとしても,複数回の撮影を行うようにすることは,当業者が適宜なし得たことにすぎない。
さらに,引用発明の「通常撮影モード」の際に,クロマキー処理を施すことを前提とする撮影(クロマキー処理用のカーテンを用いた撮影)を行う理由は全くないばかりか,引用例の段落【0054】の「合成撮影モードが選択されると,主制御部80は背景駆動部64に所定の制御信号を出力し,この背景駆動部64により,背景提示装置101のカーテンが格納されるとともに,スクリーンが下方に下ろされることにより展開される。このように,撮影に必要なときにのみ美的外観を有しないスクリーンが展開され,通常時には美しい装飾効果を有するカーテンのみが展開されるため,利用者Uに美しく好ましい印象を与えることができる。」との記載からみて,通常撮影モードの際に,わざわざ「美的外観を有しないスクリーン」を展開することにはむしろ阻害要因さえあるといえる。
してみれば,引用発明において,「合成撮影モード」及び「通常撮影モード」の撮影回数を複数回とし,複数の撮影画像を取得しつつ,「通常撮影モード」である第2の撮影コースが利用者に選択された場合には,全ての撮影に対して「カーテン」を背景とする撮影(「クロマキー処理を施すことを前提としない撮影」)を行わせるように「主制御部80」を構成し,相違点1に係る構成とすることは,引用発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。

イ 上記相違点2について検討する。
検討に先立ち,本願補正発明における「背面パネル」との用語の意味について検討する。
本願明細書の段落【0015】には,「前記背面パネルの色は,白色系の色とされ」と記載されている(審決注:前記段落【0015】の記載は,本件補正により補正されたものであるが,出願当初明細書の段落【0015】にも,「前記撮影空間において,前記利用者の背面を構成する背面パネルの色は,白色系の色とされ」と記載されていたものである。)。さらに,背面パネルについては,実施の形態として,以下のように記載されている。
「【0061】 さらに,背面パネル51の撮影空間A1側(図中,手前側)の面には,背面カーテン123が張り付けられる。背面カーテン123の色は,ファッション雑誌等のモデルの撮影が行われるスタジオ等と同様に,白色系の色とされる。これにより,撮影によって得られる撮影画像において,被写体の背景に影がつきやすくなり,立体感が強調されるようになる。ここで,白色系の色には,白色はもちろん,白色に近い色(具体的には,白色に近いグレーや,白色に近い青みがかったグレーなどといった色)も含まれるものとする。
【0062】
本発明の写真シール作成装置1による写真シール作成ゲームにおいては,後述するように,クロマキー処理を施すための撮影と,クロマキー処理を施さない撮影とが行われるので,背面カーテン123の色とクロマキー用カーテンの色とを異なる色にすることで,それぞれの目的にあった撮影を行うことができる。」
「【0079】
なお,クロマキー用カーテンは,背景カーテンユニット25によって,背面カーテン123より撮影空間A1側(図8C中,背面カーテン123より左側)に下ろされる。
【0080】
また,本実施の形態においては,背面カーテン123を背面パネル51に取り付けるようにしたが,背景カーテンユニット25によって,クロマキー用カーテンとは別の,背面カーテン123と同色のカーテンが,背面パネル51より撮影空間A1側に下ろされるようにしてもよい。」
(なお,本願明細書の全記載をみても,「背景パネル」を「白色系」とする手段として,上記段落【0061】に記載される「背面カーテン」を用いたもの以外は,開示されていない。)
これら記載からみて,本願補正発明にいう「背面パネル」とは,単なる板材のようなもののみを指し示すのではなく,クロマキー用カーテンとは別に,背面パネルが存在する部分に配される「背面カーテン」をも含んだものを「背面パネル」と呼んでいるものと認められる。
そこで,引用発明をみると,引用発明もまた,「スクリーン」(本件補正発明の「クロマキー用カーテン」に相当)とは別に装飾用部材としての「カーテン」が用いられている。また,明記はされていないが,引用発明の「背景提示装置101」も,本願補正発明の「背面パネル」に相当するような,パネル状の部材を有していることは,技術常識からみて明らかである。してみれば,引用発明における「背景提示装置101」のパネル状の部材と「カーテン」は,合わせて本願補正発明の「背面パネル」に相当するから,この点は,実質的にみて相違点ではない。なお仮に,引用発明には上記のようなパネル状の部材が存在しないとしても,そのようなパネル状の部材を設けることは,設計的な事項にすぎず,パネル状部材と「カーテン」とを備えたものとして,相違点2に係る構成とすることは,引用発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。
また,この点が仮に相違点であるとしても,背面に存在するパネルをそのまま背景としても良いことは当業者に広く知られたことである。してみれば,引用発明において,「通常撮影モード」の際の背景を「カーテン」に代えて「背面パネル」として,相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことである(例えば,特開2003-110971号公報には,「【0221】・・・略・・・CPU81は,ユーザにより白の背景パネル51を背景にして撮影された場合,背景色が白であると認識する。また,CPU81は,ユーザにより,黄色のロールカーテン71を背景にして撮影された場合,背景色が黄色であると認識する。この画像印刷装置1において,黄色の背景色は,金色の特殊色に対応させること,あるいは灰色の背景色は,銀色の特殊色に対応させることが予め設定されている。一方,設定において,白色の背景色(背景パネル51)は,特殊色に対応されていない。したがって,その設定に基づいて,CPU81は,背景色は予め設定されている特殊色と対応しているかを判断する。【0222】ステップS406において,撮影された画像データの背景色が,予め設定されている特殊色と対応していると判断された場合,ステップS407において,CPU81は,キープ画像記憶部87に画像データを転送させ,画像処理部101を制御し,画像データの背景色を対応する特殊色に変換(クロマキー処理)させる。」と記載されており,クロマキー処理を行わない撮影では,背景パネルをそのまま背景とすることが記載されている。また,特開2004-112302号公報の段落【0037】には,「背景カーテン89-1乃至89-3すべてが収納されている場合,後パネル81の色(例えば,白色)が背景とされる。」と記載され,特開2005-17813号公報の段落【0007】には,「(ニ)撮影背面 これは,撮影時,被写体のバックに多様な映像を表示するディスプレイである。これに代えて,撮影時に使用する背景カーテンや,背景パネルなどが撮影背面となることもある。」と記載されている。)。

ウ なお,請求人は,審判請求書【本願発明が特許されるべき理由】において,「引用文献1にはもちろん,引用文献2,3にも,“複数回の撮影のうちの全ての撮影に対してクロマキー処理を施すことを前提としない撮影を行う”ことについては,一切記載されていない。」(審判請求書8頁26行?29行)と主張している。
しかし,この点が当業者にとって想到容易であることは,上記アで検討したとおりである。
さらに,請求人は,審判請求書【本願発明が特許されるべき理由】において,「なお,引用文献1には,クロマキー処理を行わない「通常撮影モード」において,美しい装飾効果を有するカーテンを背景とした撮影を行うことは記載されているものの,カーテンやスクリーンを用いずに撮影を行うことは記載されていない。また,引用文献2には,撮影コースに応じて,使用する背景カーテンが異なるように設定されることは記載されているものの,カーテンを用いない撮影コースについては言及されていない。」と主張している(審判請求書9頁19行?24行)。
しかし,この点は実質的にみて相違点ではなく,また仮に相違点であるとしても当業者が適宜なし得たものであることは,上記イで検討したとおりである。

エ そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本願補正発明の奏する作用効果は,引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

オ したがって,本願補正発明は,当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(7) 小括
以上のとおり,本願補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。
したがって,本件補正は,同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし7に係る発明は,平成27年5月13日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項によって特定されるものであるところ,そのうち請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,上記「第2〔理由〕1(2)」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 引用例
引用例の記載事項は,上記「第2〔理由〕2(4)」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は,上記「第2〔理由〕2(1)イ」に記載したとおり,実質的にみて,本願補正発明の「撮影制御部」について,「前記クロマキー撮影を行う場合,クロマキー用カーテンを背景として撮影を行い,前記クロマキー処理を施すことを前提としない撮影を行う場合,前記カーテンを用いず,前記撮影空間における前記利用者の背面を構成する背面パネルを背景として撮影を行う」との限定事項を削除したものである(なお,本件補正のうち「設定部」に関する補正(上記「第2〔理由〕1(3)」の(A))は,実質的にみて,本件補正の前後で広狭の差を生じさせない点について,上記「第2〔理由〕2(1)ア」を参照。)。
そうすると,本願発明と引用発明とは,実質的にみて,上記「第2〔理由〕2(5)オ」に記載した上記相違点1で相違するが,引用発明において,相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは,上記「第2〔理由〕2(6)ア」に記載したとおり,当業者が適宜なし得たことであるから,本願発明は,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
本願発明は,以上のとおり,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-31 
結審通知日 2016-09-01 
審決日 2016-09-20 
出願番号 特願2015-17384(P2015-17384)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 辻本 寛司  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 道祖土 新吾
河原 正
発明の名称 撮影装置および撮影方法  
代理人 稲本 義雄  
代理人 西川 孝  

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