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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B62D |
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管理番号 | 1321066 |
審判番号 | 不服2015-21007 |
総通号数 | 204 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-12-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-11-26 |
確定日 | 2016-11-04 |
事件の表示 | 特願2012- 58784号「自動車車体用構造部材およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月26日出願公開、特開2013-189173号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年 3月15日の出願であって、平成27年 1月13日付けで拒絶理由が通知され、同年3月16日に意見書及び手続補正書が提出され、同年 8月26日付けで拒絶査定がされ、同年11月26日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。 第2 平成27年11月26日付けの手続補正について 1 補正の内容 平成27年11月26日付けの手続補正における特許請求の範囲の補正は、請求項1についての補正を含むものであるところ、かかる補正は、補正前の請求項10に「前記第1の成形体はBピラーアウターパネルである請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載された自動車車体用構造部材。」とあるうち、請求項1を引用するものについて独立形式に改め新たな請求項1として書き下すとともに(以下、「補正1」という。)、「スポット溶接による接合部」との記載を「スポット溶接部」と改めるもの(以下、「補正2」という。)である。 2 補正の適否(補正の目的の適否、シフト補正の有無、及び、新規事項の追加の有無) (1) 補正1は、特許法第17条の2第5項第1号に規定された請求項の削除を目的とするものに該当し、また、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものであり、新規事項を追加するものではない。さらに、同条第4項に規定する要件も満たすものである。 (2) 補正2は、拒絶査定における「なお、請求項1の『…スポット溶接により接合され』…との事項は、その物の製造方法が記載されていることに留意されたい。」(引用文中のかぎかっこは二重かぎかっこで表記した。以下同様。)との記載、及び、請求人の「製法的記載を…改めた」(審判請求書の「3-1」)と主張を参酌すれば、補正2は、いわゆる「物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合」に発明が不明確となることを回避しようとするものであって、特許法第17条の2第5項第4号に規定された明りようでない記載の釈明を目的としたものといえる。そして、補正2は、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものであり、新規事項を追加するものではない。 したがって、特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除及び同条同項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、同条第3項及び第4項の規定に適合するから、適法な補正といえる。 第3 本願発明 本願の請求項1?13に係る発明は、平成27年11月26日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「金属板の成形体であるとともにBピラーアウターパネルである第1の成形体と、金属板の成形体であって前記第1の成形体との接合部を有する第2の成形体とを備える自動車車体用構造部材であって、 前記第1の成形体は、少なくとも、第1の縦壁部と、該第1の縦壁部に連続する第1の稜線部と、該第1の稜線部に連続する底部と、該底部に連続する第2の稜線部と、該第2の稜線部に連続する第2の縦壁部とを有することによりハット型の断面形状を有すること、 前記第2の成形体は、第1の縦壁部と、該第1の縦壁部に連続する第1の稜線部と、該第1の稜線部に連続する底部と、該底部に連続する第2の稜線部と、該第2の稜線部に連続する第2の縦壁部とを有することにより溝型の断面形状を有すること、 前記第2の成形体における第1の縦壁部は前記第1の成形体における第1の縦壁部に密着し、スポット溶接部を備え、前記第2の成形体における第1の稜線部は前記第1の成形体における第1の稜線部に密着し、前記第2の成形体における底部は前記第1の成形体における底部の少なくとも一部に密着し、前記第2の成形体における第2の稜線部は前記第1の成形体における第2の稜線部に密着し、かつ、前記第2の成形体における第2の縦壁部は前記第1の成形体における第2の縦壁部に密着すること、および 前記第2の成形体における第1の縦壁部の断面周長、および/または、該第2の成形体における第2の縦壁部の断面周長は、前記第1の成形体における第1の縦壁部の断面周長、および/または、該第1の成形体における第2の縦壁部の断面周長の30?80%であること を特徴とする自動車車体用構造部材。」 第4 原査定の理由 原査定の理由は、平成27年 1月13日付けの拒絶理由通知における拒絶の理由であり、その概要は、この出願の請求項1?16に係る発明は、その出願前に頒布された引用文献1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 そして、拒絶理由通知において、引用文献1として特開2008-230453号公報(以下「引用文献1」という。)が示され、さらに、拒絶査定時に、周知技術として特開平6-270839号公報(以下「引用文献2」という。)が示されている。 第5 当審の判断 当審は、原査定の拒絶の理由のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術として示された引用文献2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。 その理由は、以下のとおりである。 1 引用文献等の記載事項 ア 引用文献1 引用文献1には、以下の記載がある(下線は当審で付与したもの。以下同様。)。以下、各引用文献の(1a)等の記載事項を「摘示(1a)」などという場合がある。 (1a) 「【0001】 本発明は、自動車に用いるセンターピラー構造に関する。 【背景技術】 【0002】 自動車のセンターピラーは、自動車側面の前ドアと後ドアとの間においてルーフパネルのサイドレールとフロアパネルのサイドシルとの間に上下に架設される構造部材である。従来、自動車に用いるセンターピラー構造として…。このように補強部材12を取り付けることで、側面衝突荷重に対して有効な補強部材の断面係数が大きくなるため、センターピラーの側面衝突荷重に対する変形耐力を大きくすることが可能となる。 … 【0005】 本発明は、上記実情に鑑みることにより、容易に製造可能であると共に、過度に重量を増加させることなく側面衝突荷重に対する変形耐力を増加させることが可能なセンターピラー構造を提供することを目的とする。」 (1b) 「【0007】 上記目的を達成するための本発明に係るセンターピラー構造における第1の特徴は、外側骨格部材と、当該外側骨格部材と車両前後方向における両端部で結合された内側骨格部材と、前記外側骨格部材と前記内側骨格部材との間に形成される内部空間に、当該内部空間の長手方向に亙って少なくとも上端側の一部に配置される補強用骨格部材と、を備える自動車のセンターピラー構造であって、前記補強用骨格部材は、長手方向垂直断面において、車両前後方向中間部において前記内側骨格部材の側に向かって突出するように屈曲して形成された突出部と、車両前後方向両端部において前記外側骨格部材に沿って前記内側骨格部材に向かって延びる端補強壁部と、を有しており、前記補強用骨格部材は、当該外側骨格部材に対して固定されていることである。 【0008】 この構成によると、補強用骨格部材は、車両幅方向に突出する突出部及び内側骨格部材に向かって延びる端補強壁部を備えているため、補強用骨格部材の厚さを厚くすることなく、側面衝突荷重に対する断面係数を大きくすることが可能となる。また、補強用骨格部材の車両前後方向両端部が外側骨格部材に沿って内側骨格部材に向かって延びる端補強壁部により形成されており、例えば、端部にフランジ形状等形成した構成に比べて、重量増加に対する断面係数の増加の割合が高い。したがって、センターピラーの重量をより抑えつつ側面衝突荷重に対する変形耐力を増加させることができる。また、補強用骨格部材は、外側骨格部材に対して固定される構成であるため、内側骨格部材への固定が不要となり、容易にセンターピラーを製造することが可能となる。」 (1c) 「【0024】 図1は、本発明の実施形態に係るセンターピラー構造を一部に含むセンターピラーの車両の略側方から見た斜視概略図である。本実施形態では、中型自動車における車両前後方向略中央部においてルーフサイドレール2とサイドシル3との間に設置されるセンターピラー1の構造を例に挙げて説明する。尚、センターピラーには、車両前後方向の中央部に設置されるピラーだけでなく、車両前方又は後方よりの位置に設置されるピラーも含まれ、一定のボディ強度確保に寄与するピラーを意味している。 【0025】 図1に示すように、センターピラー1は、車両前側に位置する前ドアと車両後側に位置する後ドアとの間に配置されており、ルーフパネル(図示せず)に接合されるルーフサイドレール2とフロアパネル(図示せず)に接合されるサイドシル3との間に上下に架設されている。… 【0026】 図2は、図1に示すセンターピラーを車両後方から見た概略図である。図2に示すように、センターピラー1は、車両幅方向外側に湾曲して張り出した形状となっており、車両幅方向外側に位置するアウターレインフォース4(外側骨格部材)と、当該アウターレインフォース4と接合されたインナーレインフォース5(内側骨格部材)と、を備えて構成されている。また、アウターレインフォース4とインナーレインフォース5との間には、補強用レインフォース6(図2において鎖線で示す)が配置されている。尚、当該補強用レインフォース6は、センターピラー1の上端側においてセンターピラー1の全長の約3/4を占めるように、アウターレインフォース4とインナーレインフォース5との間の内部空間に長手方向に亙って配置されている。」 (1d) 「【0027】 図3は、図2に示すセンターピラーのS1-S1断面矢視図である。図3において矢印で示すように、車両前側を図の左側、車両幅方向外側を図の上側として示している。アウターレインフォース4、インナーレインフォース5、及び、補強用レインフォース6は、共に板金プレス成形により形成された部材である。 【0028】 アウターレインフォース4は、車両前後方向に延びるフランジ部40a、40bを備えており、当該フランジ部40a、40bから車両幅方向外側に向かって膨出した膨出部40cが車両前後方向の中間部に形成されている。当該膨出部40cは、一対の側壁部41a・41bと、膨出方向における当該一対の側壁部41a・41bの端部を連結する平面状部分である平面部41cとからなる。 … 【0030】 インナーレインフォース5の膨出部50cの、フランジ部50a、50bからの膨出長さy1(車両幅方向に占める長さ)は、アウターレインフォース4の膨出部40cのフランジ部40a、40bからの膨出長さy2の約1/3の長さとなるように形成されている。具体的には、例えばインナーレインフォース5の膨出長さy1を15mm、アウターレインフォース4の膨出長さy2を45mmとして形成されている。 … 【0032】 補強用レインフォース6は、板状部材をプレス成形により屈曲して形成される構造部材である。当該補強用レインフォース6は、前記アウターレインフォースの平面部41cと略平行に配置される前方平面部60aと後方平面部60bとを有している。これらの前方平面部60aと後方平面部60bとは同一平面状に位置するように形成されている。 【0033】 前方平面部60aと後方平面部60bとの間には、当該前方平面部60aの車両後側の端部と後方平面部60bの車両前側の端部とに連続して、インナーレインフォース5の側に向かって突出する突出部60cが形成されている。… 【0034】 また、前方平面部60aの車両前側の端部に連続して、アウターレインフォース4の側壁部41aに沿ってインナーレインフォース5の側に向かって延びる端補強壁部62aが形成されている。同様に、後方平面部60bの車両後側の端部に連続して、アウターレインフォース4の側壁部41bに沿ってインナーレインフォース5の側に向かって延びる端補強壁部62bが形成されている。尚、当該端補強壁部62a、62bは、インナーレインフォース5の側に向かうにつれ、互いの間隔が広がるように車両幅方向に対して所定の傾きを有して延出するように形成される。 【0035】 上記のように形成された補強用レインフォース6は、端補強壁部62a、62bをアウターレインフォース4の側壁部41a、41bにスポット溶接され(図10において、溶接位置をW1で示す)、また、前方平面部60a及び後方平面部60bをアウターレインフォース4の平面部41cにスポット溶接されて固定される(図10において、溶接位置をW2で示す)。」 (1e) 「【0038】 …尚、アウターレインフォース4及びインナーレインフォース5の板厚は1.8mmに固定して解析を行った。ここで、断面重量とは、センターピラー1m当たりの重量であり、本解析においては、板厚の変化により当該断面重量が変動することになる。 … 【0042】 次に、端補強壁部62a・62bにおける直線部分の車両幅方向長さH1(以下、端壁長さH1と称する)と、中央補強壁部61a・61bにおける直線部分の車両幅方向長さH2(以下、中壁長さH2と称する)と、の変化が、センターピラー1が支持可能な最大荷重Fに与える影響について解析した結果について説明する。 【0043】 図10に示すセンターピラー構造(図3に示すものと同形状)において、端壁長さH1を、(i)10mm、(ii)25mm、(iii)41mm、また、中壁長さH2を(i)12.5mm、(ii)27.5mm、(iii)39mmとして組み合わせた9種類のセンターピラー構造、及び、端壁長さH1を(ii)25mm、中壁長さH2を(iv)55.5mmとしたセンターピラー構造について三点曲げ解析を行った。当該解析において算出された、断面重量と最大荷重Fとの関係を図11に示す。 … 【0048】 尚、補強用レインフォース6における端補強壁部62a、62bの長さを、10mm以上とすることで、溶接位置W1にスポット溶接を容易に行うことを可能となり、センターピラーの製造時の作業性を向上させることができる。 … 【0051】 例えば、支持可能な最大荷重Fが45kNとなるセンターピラーとするためには、H1及びH2の長さは、図13における曲線(i)上に存在する点で示すH1及びH2の長さの組み合わせとする必要がある。ここで、断面重量は、端補強壁部62a・62bが長くなるほど増加し、また、中央補強壁部61a・61bが長くなるほど増加する。即ち、断面重量は、H1+H2の値に比例して変化する。よって、曲線(i)上の点で、H1+H2の値が最も小さくなる点における当該H1と当該H2との組み合わせが、断面重量が最も小さくなるH1とH2との組み合わせとなる。これより、曲線(i)に接するようなH1+H2=constantの直線(図13において直線C1で示す)を求め、当該直線とF=45の曲線との接点(図13における点d1)におけるH1とH2との組み合わせ(H1=23mm、H2=27mm)を補強用レインフォースの形状として採用することで、最大荷重45kNを有する最も軽量化されたセンターピラーを設計することができる。」 (1f) 引用文献1の図1、図2、図3、及び、図10には、それぞれ以下の図が示されている。 ![]() イ 引用文献2 引用文献2には、以下の記載がある。 (2a) 「【0002】 【従来の技術】従来のトラックにおける車台フレームの典型的な構成を、同車台フレームの前半部分を示した図5の平面図、図6に示した車台フレームの側面図、及び図5のVII-VII線に沿う断面を示した図7を参照して説明する。 … 【0007】上記補強部分の一般的な構造は、図7の断面図に良く示されているように、サイドレール12の内部に、断面形状が溝型をなす補強部材16が密着して挿入され、リベット18又はボルトによって上記サイドレール12に固着されている。上記補強部材16は、サイドレール12の内部に挿入され、それぞれ上下の隅角部に密着して配設された断面形状が夫々L字状をなす二つの部材によって代替される場合も多い。」 (2b) 引用文献2の図7には、以下の図が示されている。 ![]() 2 引用文献1に記載された発明 (1) 引用文献1には、 ア (ア) 自動車側面の前ドアと後ドアとの間においてルーフパネルのサイドレールとフロアパネルのサイドシルとの間に上下に架設される構造部材である、自動車に用いるセンターピラー(摘示(1a))の具体例として、 (イ) センターピラー1は、車両幅方向外側に位置するアウターレインフォース4(外側骨格部材)と、補強用レインフォース6(図2において鎖線で示す)とを備えるものであること(摘示(1c)【0026】)、 (ウ) 補強用レインフォース6は、アウターレインフォース4にスポット溶接されたものであること(摘示(1d)【0035】)、 (エ) アウターレインフォース4及び補強用レインフォース6は、共に板金プレス成形により形成されたものであること(摘示(1d)【0027】)、 イ (ア) アウターレインフォース4は、側壁部41aと、側壁部41bと、平面部41cとを有するものであって、それらは連続したものであること(摘示(1d)【0028】、摘示(1f)図3)、 (イ) アウターレインフォース4は、側壁部41aと平面部41cとの間の部分(以下では便宜上、アウターレインフォース4の「第1の間の部分」という。)、及び、平面部41cと側壁部41bとの間の部分(以下では便宜上、アウターレインフォース4の「第2の間の部分」という。)を有することが明らかであって、それらは連続したものであること(摘示(1f)図3)、 (ウ) アウターレインフォース4の第1の間の部分及び第2の間の部分は、摘示(1f)の図3及び技術常識より、小さな曲率半径を有するものであることが明らかであること、 (エ) フランジ部40a、側壁部41a、第1の間の部分、平面部41c、第2の間の部分、側壁部41b、及び、フランジ部40bからなるアウターレインフォース4の断面形状は、鍔のある帽子のような形状をなしていることから、ハット型であるといえること(摘示(1f)図3)、 ウ (ア) a 補強用レインフォース6は、端補強壁部62aと、端補強壁部62bと、前方平面部60aと、突出部60cと、後方平面部60bとを有するものであって、それらは連続したものであること(摘示(1d)【0034】、摘示(1f)図3)、 b 前方平面部60aと後方平面部60bとは、突出部60cを介して連続したものであること、 (イ) 上記「(ア)」より、補強用レインフォース6の端補強壁部62aと、端補強壁部62bと、前方平面部60aと、後方平面部60bは連続したものであるといえること(摘示(1d)【0034】、摘示(1f)図3)、 (ウ) 補強用レインフォース6は、端補強壁部62aと前方平面部60aとの間の部分(以下では便宜上、補強用レインフォース6の「第1の間の部分」という。)、及び、端補強壁部62bと後方平面部60bとの間の部分(以下では便宜上、補強用レインフォース6の「第2の間の部分」という。)を有することが明らかであって、それらは連続したものであること(摘示(1f)図3)、 (エ) 補強用レインフォース6の第1の間の部分及び第2の間の部分は、摘示(1f)の図3及び技術常識より、小さな曲率半径を有するものであることが明らかであること、 (オ) 端補強壁部62a、第1の間の部分、前方平面部60a及び後方平面部60b、第2の間の部分、及び、端補強壁部62bからなる補強用レインフォース6の断面形状は、溝のような形状をなしていることから、溝型であるといえること(摘示(1f)図3)、 エ 補強用レインフォース6の端補強壁部62a、端補強壁部62b、前方平面部60a、及び、後方平面部60bはこの順にそれぞれ、アウターレインフォース4の側壁部41a、側壁部41b、平面部41c、及び、平面部41cにスポット溶接されていること(摘示(1d)【0035】、摘示(1f)図10)、 オ (ア) アウターレインフォース4の膨出長さy2は45mmであること(摘示(1d)【0030】)、 (イ) 補強用レインフォース6の端補強壁部62a・62bにおける直線部分の車両幅方向長さである端壁長さH1を、23mmとすること(摘示(1e)【0042】、摘示(1e)【0051】)、 (ウ) 上記「(ア)」、「(イ)」より、補強用レインフォース6の端壁長さH1は、アウターレインフォース4の膨出長さy2の約51%(=23(mm)/45(mm)×100(%)、小数点以下第1位を四捨五入)であること、 が記載されている。 (2) これらのことから、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「板金プレス成形により形成されたアウターレインフォース4と、板金プレス成形により形成され、アウターレインフォース4にスポット溶接された補強用レインフォース6とを備えるセンターピラーであって、 アウターレインフォース4は、側壁部41aと、側壁部41aに連続する第1の間の部分と、第1の間の部分に連続する平面部41cと、平面部41cに連続する第2の間の部分と、第2の間の部分に連続する側壁部41bを有し、アウターレインフォース4はハット型の断面形状を有し、 補強用レインフォース6は、端補強壁部62aと、端補強壁部62aに連続する第1の間の部分と、第1の間の部分に連続する前方平面部60aと、前方平面部60aに連続する後方平面部60bと、後方平面部60bに連続する第2の間の部分と、第2の間の部分に連続する端補強壁部62bを有し、補強用レインフォース6は溝型の断面形状を有し、 補強用レインフォース6の端補強壁部62aはアウターレインフォース4の側壁部41aにスポット溶接され、補強用レインフォース6の前方平面部60a及び後方平面部60bはアウターレインフォース4の平面部41cにスポット溶接され、補強用レインフォース6の端補強壁部62bはアウターレインフォース4の側壁部41bにスポット溶接されており、 補強用レインフォース6の端壁長さH1は、アウターレインフォース4の膨出長さy2の約51%である センターピラー」 3 引用発明との対比 (1) 本願発明と引用発明とを対比する。 ア (ア) 引用発明の「センターピラー」は、技術常識より「Bピラー」と同義であって(なお、摘示(1c)【0025】の記載、及び、摘示(1f)図1と本願の図1との比較からも明らかである。)、本願発明の「自動車車体用構造部材」に相当するものである。 (イ) 引用発明の「板金プレス成形により形成されたアウターレインフォース4」及び「板金プレス成形により形成され、アウターレインフォース4にスポット溶接された補強用レインフォース6」はそれぞれ本願発明の「金属板の成形体であるとともにBピラーアウターパネルである第1の成形体」及び「金属板の成形体であって前記第1の成形体との接合部を有する第2の成形体」に相当する。 イ 本願の明細書【0036】の「本発明において、『底部11c』とは自動車車体に装着された際に車体の最も外側に位置する面部を意味し、『第1の稜線部11b』、『第2の稜線部11d』とは底部11cに連続する小さな曲率半径の部分を意味し、『第1の縦壁部11a』とは第1の稜線部11bに連続するとともに底部11cと交差する方向に設けられる部分を意味し、『第2の縦壁部11e』とは第2の稜線部11dに連続するとともに底部11cと交差する方向に設けられる部分を意味する。」との記載を参酌すると、引用発明のアウターレインフォース4における「側壁部41a」、「第1の間の部分」、「平面部41c」、「第2の間の部分」及び「側壁部41b」はそれぞれ、本願発明の第1の成形体における「第1の縦壁部」、「第1の稜線部」、「底部」、「第2の稜線部」及び「第2の縦壁部」に相当する。 ウ 上記「イ」と同様に本願の明細書【0036】の記載を参酌すると、引用発明の補強用レインフォース6における「端補強壁部62a」、「第1の間の部分」、「第2の間の部分」及び「端補強壁部62b」はそれぞれ、本願発明の第2の成形体における「第1の縦壁部」、「第1の稜線部」、「第2の稜線部」及び「第2の縦壁部」に相当し、また、引用発明の「前方平面部60a」及び「後方平面部60b」は本願発明の第2の成形体における「底部」に相当する。 エ 技術常識より、スポット溶接された部分の部材同士は「密着」しているといえるから、上記「ア」?「ウ」の相当関係より、引用発明の「補強用レインフォース6の端補強壁部62aはアウターレインフォース4の側壁部41aにスポット溶接され、補強用レインフォース6の前方平面部60a及び後方平面部60bはアウターレインフォース4の平面部41cにスポット溶接され、補強用レインフォース6の端補強壁部62bはアウターレインフォース4の側壁部41bにスポット溶接され」ることは、本願発明の「前記第2の成形体における第1の縦壁部は前記第1の成形体における第1の縦壁部に密着し、スポット溶接部を備え、前記第2の成形体における第1の稜線部は前記第1の成形体における第1の稜線部に密着し、前記第2の成形体における底部は前記第1の成形体における底部の少なくとも一部に密着し、前記第2の成形体における第2の稜線部は前記第1の成形体における第2の稜線部に密着し、かつ、前記第2の成形体における第2の縦壁部は前記第1の成形体における第2の縦壁部に密着すること」と、「前記第2の成形体における第1の縦壁部は前記第1の成形体における第1の縦壁部に密着し、スポット溶接部を備え、前記第2の成形体における底部は前記第1の成形体における底部の少なくとも一部に密着し、かつ、前記第2の成形体における第2の縦壁部は前記第1の成形体における第2の縦壁部に密着する」限度で一致する。 オ 本願の明細書【0071】の、「ここで、『縦壁部の断面周長』とは、縦壁部11a、11e、21a、21eに連続する2つの稜線部(11b、11f)、(11d、11h)、21b、21dのR止まり位置の間の距離を意味する。」との記載を参酌すれば、引用発明の補強用レインフォース6の「端壁長さH1」は直線部分の車両幅方向長さであるから、本願発明の第2の成形体における「第1の縦壁部の断面周長」及び「第2の縦壁部の断面周長」に相当する。 (2) 以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 [一致点] 「金属板の成形体であるとともにBピラーアウターパネルである第1の成形体と、金属板の成形体であって前記第1の成形体との接合部を有する第2の成形体とを備える自動車車体用構造部材であって、 前記第1の成形体は、少なくとも、第1の縦壁部と、該第1の縦壁部に連続する第1の稜線部と、該第1の稜線部に連続する底部と、該底部に連続する第2の稜線部と、該第2の稜線部に連続する第2の縦壁部とを有することによりハット型の断面形状を有すること、 前記第2の成形体は、第1の縦壁部と、該第1の縦壁部に連続する第1の稜線部と、該第1の稜線部に連続する底部と、該底部に連続する第2の稜線部と、該第2の稜線部に連続する第2の縦壁部とを有することにより溝型の断面形状を有すること、 前記第2の成形体における第1の縦壁部は前記第1の成形体における第1の縦壁部に密着し、スポット溶接部を備え、前記第2の成形体における底部は前記第1の成形体における底部の少なくとも一部に密着し、かつ、前記第2の成形体における第2の縦壁部は前記第1の成形体における第2の縦壁部に密着する、 自動車車体用構造部材。」 [相違点1] 本願発明においては、「第2の成形体における第1の稜線部は第1の成形体における第1の稜線部に密着し」、かつ、「第2の成形体における第2の稜線部は第1の成形体における第2の稜線部に密着」する構成であるのに対し、引用発明においてはこの構成について特定されていない点。 [相違点2] 本願発明においては、「第2の成形体における第1の縦壁部の断面周長、および/または、該第2の成形体における第2の縦壁部の断面周長は、前記第1の成形体における第1の縦壁部の断面周長、および/または、該第1の成形体における第2の縦壁部の断面周長の30?80%である」構成であるのに対し、引用発明においては、「補強用レインフォース6の端壁長さH1は、アウターレインフォース4の膨出長さy2の約51%である」構成である点。 4 判断 (1) 相違点1について検討する。 ア 引用発明において、補強用レインフォース6は、アウターレインフォース4を補強するために設けられたものであるところ、一般に自動車の構造部材の補強にあたり、補強部材を被補強部材に密着させることは通常行われていることであって、周知技術といえる(例えば引用文献2の摘示(2a)、摘示(2b))から、引用発明において、補強用レインフォース6の第1の間の部分とアウターレインフォース4の第1の間の部分、及び、補強用レインフォース6の第2の間の部分とアウターレインフォース4の第2の間の部分も密着させるようにして相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者が適宜なし得る設計変更である。 なお、センターピラーには、側面衝突荷重のみならず、通常時のボディの強度を確保する役割もあるのだから(摘示(1c)【0024】の「一定のボディ強度確保に寄与するピラー」との記載参照)、引用発明に当該周知技術を適用する動機付けも十分にあるといえる。 イ 請求人は審判請求書の「3-2.(2)」において、引用文献1のものは、プレス成形における弾性回復現象によってスポット溶接に支障をきたすことを回避するために補強用レインフォース6の稜線部の曲率半径がアウターレインフォース4の稜線部の曲率半径よりも大きく設定されたものであるから、稜線部の重なり部分に隙間が必ず存在する旨主張している。 確かに、摘示(1f)の図3及び図10において、稜線部に隙間が存在するように看取されるけれども、引用発明においては隙間を積極的に生じさせることは記載も示唆もされていないのであるから、引用発明のものが、隙間が必ず生じるものというように解釈すべき理由はないし、仮に請求人のいう「隙間が必ず存在する」との主張が正しいとしても、そこで発生する隙間は、スポット溶接を確実に行うために生じるものであるから、本願明細書【0044】の「第1の成形体11および第2の成形体21の間に製造上不可避な微小な隙間が存在する場合も本発明に含まれる。」との記載でいうところの「製造上不可避な微小な隙間」に該当するものであって、その場合、引用発明は相違点1に係る構成を備えたものということになるから、当該主張は採用できない。 ウ よって、相違点1に係る構成は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得ることである。 (2) 相違点2について検討する。 ア 引用発明の目的は「過度に重量を増加させることなく側面衝突荷重に対する変形耐力を増加させることが可能なセンターピラー構造を提供する」(摘示(1a)【0005】)ものであって、「端補強壁部62a、62bの長さを、10mm以上とすることで…製造時の作業性を向上させることができる」(摘示(1e)【0048】)との記載、「断面重量は、端補強壁部62a・62bが長くなるほど増加」(摘示(1e)【0051】)するとの記載、及び、端壁長さH1を23mmとしたときに「最大荷重45kNを有する最も軽量化されたセンターピラーを設計することができる」(摘示(1e)【0051】)との記載を参酌すれば、その解決手段は、補強用レインフォース6の端壁長さH1を適切な長さとすることを含むものであり、引用発明と本願発明とは技術分野のみならず、解決すべき課題やその技術思想も多分に共通するものである。 イ (ア) 引用発明においては、上記「3(1)オ」のとおり、引用発明の補強用レインフォース6の「端壁長さH1」は本願発明の第2の成形体における「第1の縦壁部の断面周長」及び「第2の縦壁部の断面周長」に相当するが、アウターレインフォース4の膨出長さy2は、その長さにアウターレインフォース4の2箇所のR部(側壁部41a(41b)と平面部41cの間、及び、側壁部41a(41b)とフランジ部40a(40b)の間)を含んだものである点で本願発明の第1の成形体における「第1の縦壁部の断面周長」及び「第2の縦壁部の断面周長」で相違している。 (イ) しかしながら、通常R部は直線部分に対して小さな割合のものであるから、「補強用レインフォース6の端壁長さH1は、アウターレインフォース4の膨出長さy2の51%である」引用発明において、補強用レインフォース6の端壁長さH1を、アウターレインフォース4の膨出長さy2から上記R部を除いた長さに対して30?80%程度の長さとすることは、上記「ア」の引用発明の課題解決手段に鑑みて当業者が適宜なし得る設計変更といえる。 ウ 念のため、R部を除いたアウターレインフォース4の膨出長さy2に関しても具体的に検討しておく。 (ア) 引用文献1には、当該R部の寸法については記載されていないから、引用発明に接した当業者は、当該R部の寸法を通常用いられている程度の値と認識するものと認められるところ、例えば特開2003-103306号公報には、自動車の車体構成部品のプレス成形部材であるハットチャンネル型部材において、曲げ成形部の半径rpを5mmとすること、及び、当該値が「一般的」であると記載されている(【0002】、【0003】、【0017】、図3。また、特開2004-337980号公報の【0043】、特開2010-227995号公報の【0014】等にも、同様に5mmとするものが記載されている。)。 (イ) そうすると、引用発明において当該「曲げ成形部の半径rp」として「一般的」な5mm程度の値を採用することは、当業者の通常の創作能力の発揮であるといえる。ここで、当該「曲げ成形部の半径rp」は、板の内側の表面までの半径であるから、R止まり位置までの長さはこれに板厚を加えたものとなるところ、摘示(1e)【0038】に記載の板厚「1.8mm」を加えると、引用発明のアウターレインフォース4のR部は、6.8mm程度の値であるということができる。 (ウ) そしてこのとき、引用発明のアウターレインフォース4のR止まり位置の間の長さ(本願発明の「第1の成形体における第1の縦壁部の断面周長」に相当する長さ)は、 45(mm) - 6.8(mm)×2(箇所) = 31.4(mm) 程度の値となるから、この長さに対する補強用レインフォース6の端壁長さH1の比は、 23(mm) / 31.4(mm) = 73% (小数点以下第1位を四捨五入) であって、これは本願発明の範囲内の値である。 エ よって、相違点2に係る本願発明の構成は、引用発明に基づいて、又は、引用文献及び技術常識に基づいて当業者が容易になし得ることである。 (3)発明の効果について 請求人は審判請求書の「3-2.(4)」において本願発明は原査定の拒絶の理由に示された引用文献を組み合わせたとしても奏されない有利な効果が奏されるから、進歩性の判断においては、当該効果を参酌すべきであると主張している。 しかしながら、引用発明は上記「(2)ア」のとおり、本願発明とは技術分野のみならず解決すべき課題やその技術思想も多分に共通するものであって、両者の相違点も、上記「(1)」及び「(2)」で検討したとおり、引用発明、引用文献1に記載された事項、周知技術及び技術常識に接した当業者であれば容易に想到し得るものである。 また、本願発明が奏する効果として主張する「3点曲げ衝撃荷重に対する単位質量当たりのピーク荷重が高く、単位重量当たりの耐衝撃荷重性能に優れるBピラーを提供できる」(審判請求書の「3-2.(4)」)という効果も、引用発明、引用文献1に記載された事項、周知技術及び技術常識から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえないから、請求人の主張は採用できない。 (4) まとめ したがって、本願発明は、引用発明、引用文献1に記載された事項、周知技術及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-09-05 |
結審通知日 | 2016-09-06 |
審決日 | 2016-09-20 |
出願番号 | 特願2012-58784(P2012-58784) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B62D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 敏史 |
特許庁審判長 |
氏原 康宏 |
特許庁審判官 |
島田 信一 小原 一郎 |
発明の名称 | 自動車車体用構造部材およびその製造方法 |
代理人 | 特許業務法人ブライタス |