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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1321142
審判番号 不服2015-18199  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-06 
確定日 2016-11-22 
事件の表示 特願2014-139700「磁気共鳴イメージング装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月 6日出願公開、特開2014-208285、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年4月13日(優先権主張:平成21年9月18日)を出願日とする特許出願の一部を平成26年7月7日に新たな特許出願としたものであって、平成27年3月3日付けで拒絶理由が通知され、同年5月11日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされたが、同年7月3日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という)がされ、同査定の謄本は、同月7日に請求人に送達された。
これに対し、同年10月6日に拒絶査定不服審判が請求され、それと同時に手続補正書の提出がされ、その後、当審において平成28年6月30日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という)が通知され、同年9月5日に意見書及び手続補正書の提出がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成28年9月5日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
心臓の大動脈から分岐する複数の冠動脈のうち所定の冠動脈の少なくとも一部を含む領域であって、右冠動脈、左冠動脈主幹部、左旋回枝、または、左前下行枝である特定の血管を選択的に標識化するように方向及び幅が調整された領域と、心室内の領域とに対して、心筋を含むイメージング領域に流入する血液を識別表示させるための領域選択励起パルスであって、前記イメージング領域に流入する血液の縦磁化を反転させる領域選択励起パルスを印加し、イメージングデータを前記イメージング領域から非造影で収集するイメージングデータ収集部と、
前記イメージングデータに基づいて、心筋の血流像データを生成する血流情報生成部と
を備えていることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。」

第3 当審拒絶理由について

1 当審拒絶理由の概要
「 [理由1]この出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1
・引用文献等 1
・備考
(1)引用文献1には、次の事項が記載されている。(下線は、当審において付加したものである。)

ア「Flow Targeted Coronary MR Angiography: Comparison of Three Different Spin Labeling Techniques」(1行目)
(仮訳:流動標的冠動脈MRA:三つの異なるスピン標識技術の比較)

イ「To overcome this drawback, spin labeling projection coronary MRA (ProjSSFP) has been implemented, which provides both anatomical and blood flow information^( 1). This technique, however, requires the acquisition of two data sets and may lead to subtraction artifacts. Subsequently, a coronary MRA approach using a local re-inversion pre-pulse (LoReInSSFP) has been introduced ^(2). Hereby a 2D selective inversion pulse immediately follows a nonselective inversion pulse and re-inverts the magnetization of the blood in the ascending aorta. Similar to ProjSSFP, labeled aortic blood enters into the coronary arteries during an inversion delay, TI, allowing for selective visualization of the coronary arteries. This approach does not require the acquisition of a second data set and thus allows for a two-fold scan time reduction. 」(Introductionの欄の1?7行目)
(仮訳:この欠点を克服するために、スピン標識投影冠動脈MRA(ProjSSFP)が実施され、それは、解剖学的および血流情報^(1)の両方を提供する。しかしながら、この技術は、二つのデータセットの取得を必要とし、減算アーチファクトをもたらすかもしれない。その後、領域再反転プリパルス(LoReInSSFP)を使用した冠動脈MRAアプローチが導入された^(2)。これによって、すぐに2D選択反転パルスが非選択的反転パルスに続き、上行大動脈内の血液の磁化を再反転させる。 ProjSSFPと同様に、標識された大動脈血液が、反転遅延、TIの間、冠状動脈に入り、そして、冠状動脈の選択的可視化を可能にする。このアプローチは、二つのデータセットの取得を必要しないので、二重スキャン時間の短縮を可能する。)

ウ「Projection SSFP (ProjSSFP)
Two data sets, one with and one without the use of a 2D selective inversion (labeling) pre-pulse were acquired. Magnetization of the blood in the ascending aorta was inverted if the 2D selective pre-pulse was present. During the inversion delay (aortic valve closure - mid-diastole), labeled aortic blood enters into the coronary arteries.Subtraction of the two data sets then provides selective visualization of the coronary arteries.」(Materials and Methodsの欄の5?8行目)
(仮訳:投影SSFP(ProjSSFP)
二つのデータセットとして、1つのデータと、2D選択反転(標識)プレパルスを使用しない1つのデータを取得した。 2D選択プレパルスが印加されると、上行大動脈内の血液の磁化が反転される。反転遅延(大動脈弁閉鎖 - ミッド拡張期)の間に、標識された大動脈の血液が冠状動脈に入る。二つのデータセットの減算は、その後、冠状動脈の選択的可視化を提供する。)

エ「Local Re-Inversion SSFP (LoReInSSFP)
One data set using a double-inversion pre-pulse (a non-selective inversion pulse immediately followed by a 2D selective inversion pulse; the latter re-inverts the magnetization of the blood in the ascending aorta) was acquired. During the inversion delay (aortic valve closure - mid-diastole), the re-inverted aortic blood enters into the coronary arteries allowing for selective visualization of the coronary arteries, while the remaining tissue is signal suppressed.」(Materials and Methodsの欄の9?12行目)
(仮訳:領域再反転SSFP(LoReInSSFP)
二重反転プレパルス(非選択反転パルスはすぐに2D選択反転パルスによって続く;後者は、上行大動脈内の血液の磁化を再反転する)を使用して、1つのデータセットを取得された。反転遅延(大動脈弁閉鎖 - ミッド拡張期)の間、残りの組織は、信号抑制され、再反転大動脈の血は、冠状動脈の選択的可視化を可能にするために、冠状動脈に入る。)

(2)上記ア?エの記載事項によれば、引用文献1には、「冠状動脈の選択的可視化を可能にするために、」上記ウの「投影SSFP(ProjSSFP)」では、「2D選択プレパルスが印加されると、上行大動脈内の血液の磁化が反転され」、上記エの「領域再反転SSFP(LoReInSSFP)」では、「2D選択反転パルスによって」「上行大動脈内の血液の磁化を再反転」させることが記載されている。
ここで、冠状動脈には、右冠動脈、左冠動脈主幹部、左旋回枝、または、左前下行枝があり、これら複数の「冠状動脈の」中から1乃至複数を「選択的可視化を可能にするために」は、可視化の対象となる冠状動脈を含む「上行大動脈」の所定領域内の血液の磁化を」「反転」又は「再反転」させていることは、技術的に明らかである。

(3)本願発明1に関して、引用文献1(その構成を括弧書きで示す。)には、
「心臓の大動脈(「上行大動脈」)から分岐する複数の冠動脈(右冠動脈、左冠動脈主幹部、左旋回枝、または、左前下行枝)のうち所定の冠動脈の少なくとも一部を含む領域(可視化の対象となる冠状動脈を含む「上行大動脈」の所定領域)であって、右冠動脈、左冠動脈主幹部、左旋回枝、または、左前下行枝である特定の血管を選択的に標識化するように方向及び幅が調整された領域(可視化の対象となる冠状動脈を含む「上行大動脈」の所定領域が、可視化する特定の冠状動脈の出口を含むように、方向及び幅が調整された領域であることは、心臓の大きさが異なる大人と子供では、「上行大動脈」から冠状動脈への出口の位置も異なることからしても、自明)に対して、心筋を含むイメージング領域に流入する血液(心臓の冠状動脈に入る血液)を識別表示(「選択的可視化」)させるための領域選択励起パルス(「2D選択プレパルス」又は「2D選択反転パルス」)であって、前記イメージング領域に流入する血液の縦磁化を反転させる領域選択励起パルス(「2D選択プレパルス」又は「2D選択反転パルス」が、血液の縦磁化を反転させることは自明)を印加し、イメージングデータを前記イメージング領域から非造影で収集するイメージングデータ収集部と、
前記イメージングデータに基づいて、心筋の血流像データ(「血流情報」)を生成する血流情報生成部とを備えている磁気共鳴イメージング装置(「流動標的冠動脈MRA」)。」が開示されていると認められる。
そうすると、両者に差異はなく、本願発明1は引用文献1に記載された発明であるといえる。

・・・省略・・・

[理由2]この出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1?3
・引用文献等 1及び2
・備考
引用文献1に記載された発明において、領域選択励起パルスを印加する領域が、方向及び幅が調整された領域であることは、上記[理由1](3)で自明な事項と判断したが、引用文献1には、この点につき明記されていないので、仮に相違点とした場合の判断を以下に示す。
血流像データを生成する磁気共鳴イメージング装置において、領域選択励起パルスを印加する領域の空間位置及び励起厚さを調整することは、例えば、引用文献2(段落【0116】?【0128】、図9、10を参照。)に記載されているように周知の技術である。
してみれば、引用文献1に記載された発明において、上記周知技術に鑑み、領域選択励起パルスを印加する領域を方向及び幅が調整された領域とし、上記相違点に係る本願発明1?3の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
そして、本願発明1?3によってもたらされる作用効果は、引用文献1に記載された発明及び上記周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。

<引用文献等一覧>
1.M.Katoh,Flow Targeted Coronary MR Angiography: Comparison of Three Different Spin Labeling Techniques,Proceedings of International Society for Magnetic Resonance in Medicine (ISMRM),2005年,Vol.13,p.709
2. 特開2001-252263号公報(周知例) 」

2 当審拒絶理由の[理由1]及び[理由2]についての判断

(1)引用発明について
当審拒絶理由の上記「1(1)ア及びエ」の記載によれば、当審拒絶理由において引用した引用文献1(M.Katoh,Flow Targeted Coronary MR Angiography: Comparison of Three Different Spin Labeling Techniques,Proceedings of International Society for Magnetic Resonance in Medicine (ISMRM),2005年,Vol.13,p.709 )には、

「流動標的冠動脈MRAであって、二重反転プレパルス(非選択反転パルスはすぐに2D選択反転パルスによって続く;後者は、上行大動脈内の血液の磁化を再反転する)を使用して、1つのデータセットを取得され、反転遅延(大動脈弁閉鎖 - ミッド拡張期)の間、残りの組織は、信号抑制され、再反転大動脈の血は、冠状動脈の選択的可視化を可能にするために、冠状動脈に入る、流動標的冠動脈MRA。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(2)対比
当審拒絶理由の上記「1(2)及び(3)」の記載によれば、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、次の一致点で一致し、相違点において相違する。

<一致点>
「心臓の大動脈から分岐する複数の冠動脈のうち所定の冠動脈の少なくとも一部を含む領域であって、右冠動脈、左冠動脈主幹部、左旋回枝、または、左前下行枝である特定の血管を選択的に標識化するように方向及び幅が調整された領域に対して、心筋を含むイメージング領域に流入する血液を識別表示させるための領域選択励起パルスであって、前記イメージング領域に流入する血液の縦磁化を反転させる領域選択励起パルスを印加し、イメージングデータを前記イメージング領域から非造影で収集するイメージングデータ収集部と、
前記イメージングデータに基づいて、心筋の血流像データを生成する血流情報生成部と
を備えている磁気共鳴イメージング装置。」

<相違点>
イメージング領域に流入する血液の縦磁化を反転させる領域選択励起パルスを印加する領域が、本願発明では、「心臓の大動脈から分岐する複数の冠動脈のうち所定の冠動脈の少なくとも一部を含む領域であって、右冠動脈、左冠動脈主幹部、左旋回枝、または、左前下行枝である特定の血管を選択的に標識化するように方向及び幅が調整された領域と、心室内の領域」であるのに対して、引用発明では、本願発明の「心臓の大動脈から分岐する複数の冠動脈のうち所定の冠動脈の少なくとも一部を含む領域であって、右冠動脈、左冠動脈主幹部、左旋回枝、または、左前下行枝である特定の血管を選択的に標識化するように方向及び幅が調整された領域」に相当する「上行大動脈」であって、「心室内の領域」については特定されない点。

(3)判断
ア 理由1(新規性)
上記相違点が両発明の間にある以上、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるとはいえない。

イ 理由2(進歩性)
上記相違点に係る構成については、特開2001-252263号公報(当審拒絶理由において引用した引用文献2、審査官が前置報告において引用した引用文献3)、特開平1-299544号公報(原査定の理由において引用した引用文献1)のいずれにも開示も示唆もされていない。
よって、引用発明において、上記相違点における本願発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得たことではない。

(4)小括
上記で検討したとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものとはいえない。
本願の請求項2及び3に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものとはいえない。
また、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
本願の請求項2及び3に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
よって、当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 原査定の理由について

1 原査定の理由の概要
「1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1-3
・引用文献等 1
・備考:

引用文献1には、冠動脈の一部を含む領域(第7図の励起空間704)に領域選択励起パルスを印加し、イメージング領域(描画空間705)に流入する血流を非造影で収集する(第5頁右上欄第11行-左下欄第16行)イメージングデータ収集部と、前記イメージングデータに基づいて冠動脈の血流像データを生成する血流情報生成部(冠動脈内の血流を描画する手段)とを備えた磁気共鳴イメージング装置、が開示されている。
引用文献1に記載された発明において、所定の1つの冠動脈のみを含む領域に領域選択励起パルスを印加することは、詳しく観察したい冠動脈の種類に応じて、当業者が適宜為し得たことである。

したがって、本願の請求項1-3に係る発明は、引用文献1に記載された発明より当業者が容易に想到し得たものである。

・・・省略・・・

引 用 文 献 等 一 覧

1.特開平01-299544号公報」

2 原査定の理由1.についての判断
(1)理由1.(進歩性)
原査定の理由において引用した引用文献1(特開平1-299544号公報)には、上記「第3 2(3)イ」で判断したとおり、本願発明の「イメージング領域に流入する血液の縦磁化を反転させる領域選択励起パルスを印加する領域」が、「心臓の大動脈から分岐する複数の冠動脈のうち所定の冠動脈の少なくとも一部を含む領域であって、右冠動脈、左冠動脈主幹部、左旋回枝、または、左前下行枝である特定の血管を選択的に標識化するように方向及び幅が調整された領域と、心室内の領域」である点(相違点)について開示も示唆もされていない。
よって、上記引用文献1に記載された発明において、上記相違点における本願発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得たことではない。

(2)小括
上記で検討したとおり、本願発明は、上記引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
本願の請求項2及び3に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、原査定及び当審拒絶理由通知の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-11-08 
出願番号 特願2014-139700(P2014-139700)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (A61B)
P 1 8・ 121- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 洋介  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
小川 亮
発明の名称 磁気共鳴イメージング装置  
代理人 特許業務法人東京国際特許事務所  

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