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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01D
管理番号 1321159
審判番号 不服2015-2006  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-02 
確定日 2016-11-02 
事件の表示 特願2011-542218「付形した粒子含有不織布ウェブを利用するフィルタ要素」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月15日国際公開、WO2010/080251、平成24年 6月 7日国内公表、特表2012-512743〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成21年12月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年12月18日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年11月30日付けで手続補正書が提出され、平成25年10月30日付けで拒絶理由が通知され、平成26年1月30日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年9月30日付けで拒絶査定がされ、平成27年2月2日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同年12月22日付けで当審からの拒絶理由が通知され、平成28年4月22日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成28年4月22日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された下記の事項により特定されるものである(以下、「本願発明1」という。)。

「【請求項1】
多孔質の保形自立性の不織布ウェブを備える空気フィルタ要素であって、
前記不織布ウェブは、熱可塑性エラストマーポリマー繊維と、該繊維内に配置された活性粒子と、を備え、
前記不織布ウェブは、前記不織布ウェブの厚さ方向に沿って密度が均一であることを特徴とする3次元変形を有する、空気フィルタ要素。」

第3.当審における拒絶理由の概要
平成27年12月22日付けの当審からの拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の理由1)は、「1)本件出願の下記の発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」というものであり、理由2)は、「本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というもので、下記の刊行物として、特開平7-216710号公報が引用された。

第4.本願発明に対する判断
請求人の提出した意見書及び手続補正書の内容を検討したが、当審は、上記拒絶理由のとおり、次の理由により、本願発明は、特許法第29条第1項第3号あるいは特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、と判断する。

1.引用例1及び引用例1の記載事項
引用例1:特開平7-216710号公報
本件優先日前に日本国内において頒布された上記引用例1に記載された発明について検討する。
引用例1には、「熱成形性不織布及びその製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。

(ア)「【0007】
〔発明の詳細な説明〕本発明に従って、布様の感触と発泡体様の弾性を有する熱成形品が提供されるが、この製品は、熱成形性不織繊維ウェブまたは布から熱成形される。熱成形性繊維ウェブは構造上の成分および熱活性接着材成分を含む。」
(イ)「【0013】複合繊維の場合、熱活性接着剤成分は、外付け接着剤に代えて繊維成分ポリマーであってもよい。・・・」
(ウ)「【0016】繊維および/またはフィラメントを形成する公知の多種多様な熱可塑性ポリマーを用いて、本発明の単一成分繊維を作ることができる。同様にして、選ばれたポリマーが充分な融点差、好ましくは約10℃の温度差、および望ましくは異なる結晶性、固化性および/または弾性を有するならば、複合繊維は熱可塑性ポリマーの多種多様に組み合わせて作ることができる。
・・・
本発明に好適であるがこれらに限定されないポリマーには、ポリオレフィン類、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンなど;ポリアミド類、例えばナイロン6、ナイロン6/6、ナイロン10など;ポリエステル類、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど;ポリカーボネート;ポリスチレン;熱可塑性エラストマー類;ビニルポリマー類;ポリウレタン;並びにこれらのブレンド物およびコポリマーが挙げられる。
・・・
更に、好適な繊維形成ポリマーは、熱可塑性エラストマーをそのポリマーの中にブレンドさせてよい。
・・・
これらの好適なポリマーのうちで、好適な複合繊維の構造上の成分として特にふさわしいポリマーには、ポリプロピレン、およびプロピレンとエチレンとのコポリマーが挙げられ、一方更に複合繊維の接着剤成分として特にふさわしいポリマーには、ポリエチレン、より特に直鎖状の低密度ポリエチレンおよび高密度ポリエチレンが挙げられる。更に、繊維のけん縮性を高めおよび/または結合温度を下げるために、並びに生成するウェブの耐摩耗性、強度および柔軟性を増すために、接着剤成分は添加剤を含んでもよい。例えば、接着剤ポリマー成分は、スチレン、エチレン-ブチレンおよびスチレンのABA’ブロックポリマーのような熱可塑性エラストマーを約5ないし約20重量%を含んでよい。
・・・」
(エ)「【0018】図1は、好適な不織ウェブを作るのに特に適している方法を図示している。方法系統10は、本発明に好適な二成分スパンボンド複合繊維ウェブを作るように配置されている。・・・
【0019】・・・
牽引装置から出た連続繊維は無作為に成形表面26の上に堆積されると、均一な密度と厚みのある連続状のウェブが出来上がる。・・・」
(オ)「【0025】更に、方法のもう1つの例は、二重スクリーン法である。図3に二重スクリーン法60を図示している。本発明の不織ウェブ62は、2枚の硬質スクリーン64、66の間に供給される。上部スクリーン64は凸形金型を含み、一方下部スクリーン66は凸形を補完する凹形の金型を含んでいるが、ウェブの厚さに対応してかつ調節するように上部の凸形よりも大きい。2枚のスクリーンの縁には上部遮断ブロック(stopping block)68および下部遮断ブロック68aが付けられているので、両スクリーンを合わせる。即ち閉じた時、上下の遮断ブロックによってできる合わせ厚さが熱成形品の所望の厚さとなる。ウェブが2枚のスクリーン64、66の間に入れられた後、両スクリーンが閉められると、ウェブは適切な場所にすっぽりとはまり、スクリーンの形状に合わせて成形される。次に成形されたウェブはヒーター70に当てられると繊維ウェブの接着剤成分ポリマーが溶融して、繊維間結合を形成して変形した形状を保持する。・・・」
(カ)「【0030】本発明の熱成形性不織ウェブは、赤ん坊のおむつや生理用ナプキン用の体液の移送層、体液の封じ込め層および体液の分配層:生理用ナプキンケース;失禁大人介護用品:顔面マスク:アスピレータなどの人体保護介護用品を熱成形するために極めて有用である。」
(キ)「【0031】身体保護製品について本発明を説明しているけれども、本発明は、身体保護製品用の熱成形品に限定されるものではない。本発明は、本発明による不織ウェブが有する布様の外観、圧縮弾性および良好な熱成形性の利便さから得られる種々の用途に利用できる。他の有用な用途の実例となるものには、包装資材、緩衡剤、肩パッド、布地の内張り、自動車の内装製品、形状化されたろ過材などが挙げられる。加えて、本発明の熱成形性ウェブは、更に吸水性粒子、脱臭剤、柔軟化剤などのような他の添加剤および水溶性繊維、天然繊維、未けん縮繊維、パルキー出し繊維、フィラー繊維などのような他の繊維を含んでよい。」
(ク)「【0033】
【実施例】
実施例1
図1に図示されている製造方法を用いて5osyの2成分スパンボンド繊維ウェブを作った。
・・・
これで生成した結合ウェブは、厚さ0.215インチで密度0.0317g/cm^(3)であった。
【0034】このウェブを、均等に分布された直径0.25インチの円形状の孔を有する多孔状金型プレートの上に置いた。孔は金型プレートの全表面積の約40%を占めていた。この金型プレートは、次の寸法の長方形のコップ状の窪みの金型を含んでいた:長さ約4.5インチ、幅約3インチおよび深さ約1インチ。・・・
【0035】コップ形状の熱成形品は、その製品開口部が平らな表面に接触するようにその表面上に置いた。表1に示すように種々の重量の平らな品物を熱成形品の上に置いて弾性を試験した。熱成形品の深さを3つの異なる段階でインチ単位で測定した:即ち、荷重時、荷重除去直後、荷重除去1分後。この結果を表1に示している。
【0036】
【表1】

【0037】前記の結果は、熱成形品が基材ウェブの弾性構造を保持している、一方、所望の柔らかい、布様の感触だけでなく大きな弾性率を有するを示している。」
(ケ)「【図1】


(コ)「【図3】



2.引用発明1
記載事項(ア)(エ)によれば、引用例1には、布様の感触と発泡体様の弾性を有し、均一な密度と厚みのある連続状の熱成形性不織繊維ウェブが記載されている。
記載事項(ウ)によれば、引用例1には、単一成分繊維又は複合繊維を作る繊維形成ポリマーとして、熱可塑性ポリマーを用いることが記載されている。
記載事項(カ)(キ)によれば、引用例1には、熱成形性不織繊維ウェブを熱成形して、顔面マスクを製造することが記載されている。
記載事項(オ)(コ)には、凸形及び凹形の金型を含む2枚のスクリーンの間に供給されることにより、不織ウェブをスクリーンの形状に合わせて成形し、成形された不織ウェブの接着剤成分ポリマーを溶融させて繊維間結合を形成することにより、変形した形状が保持されることが記載されている。

したがって、引用例1には、
「接着剤成分ポリマーによって形成された繊維間結合により変形した形状が保持される、弾性を有する熱成形性不織繊維ウェブを備える顔面マスクであって、
前記熱成形性不織繊維ウェブは、熱可塑性ポリマーを繊維形成ポリマーとする単一成分繊維又は複合繊維を備え、
前記熱成形性不織繊維ウェブは、密度が均一で、凸形及び凹形の金型を含む2枚のスクリーンの形状に成形された、顔面マスク。」(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

3.対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「熱成形性不織繊維ウェブ」、「顔面マスク」は、本願発明1の「不織布ウェブ」、「空気フィルタ要素」に相当する。
引用発明1の「熱可塑性ポリマーを繊維形成ポリマーとする単一成分繊維又は複合繊維」と、本願発明1の「熱可塑性エラストマーポリマー繊維」とは、「熱可塑性ポリマー繊維」という点で共通する。
引用発明1の「熱成形性不織繊維ウェブ」は、「変形した形状」が、「付加的な支持層又は構造」ではなく、「熱成形性不織繊維ウェブ」に含まれた「接着剤成分」のポリマーによって形成された「繊維間結合」によって「保持され」ているから、本願発明1の「自立性」を備えているといえる。
引用発明1の「顔面マスク」は、「凸形及び凹形の金型を含む2枚のスクリーンの形状に成形され」ているから、「3次元変形」を有しているといえる。
引用発明1の「顔面マスク」に用いられる「熱成形性不織繊維ウェブ」が、空気が通過するための「孔」を「多数」備えた「多孔質」なものであることは明らかである。
よって、本願発明1と、引用発明1とは、
「自立性の不織布ウェブを備える空気フィルタ要素であって、
前記不織布ウェブは、熱可塑性ポリマー繊維を備え、
前記不織布ウェブは、密度が均一であることを特徴とする3次元変形を有する、空気フィルタ要素。」
である点で一致し、下記(相違点1)-(相違点4)の点で一応相違する。

(相違点1)
本願発明1の不織布ウェブは、「自立保形性」のものであって、「自立性」と「保形性」とを備えたものであるのに対し、引用発明1の熱成形性不織繊維ウェブが、「自立性」とともに備えている性質は、「変形した形状が保持される」であって、「保形性」を備えているかは不明である点。

(相違点2)
本願発明1の「不織布ウェブ」の備える「熱可塑性ポリマー繊維」は、「熱可塑性エラストマーポリマー繊維」であるのに対し、引用発明1の「熱成形性不織繊維ウェブ」が備える「熱可塑性ポリマー繊維」は、「熱可塑性エラストマーポリマー繊維」に限られない点。

(相違点3)
本願発明1の「不織布ウェブ」の繊維内には、「活性粒子」が配置されるのに対し、引用発明1の「熱成形性不織繊維ウェブ」には、「活性粒子」が配置されるか不明である点。

(相違点4)
本願発明1の不織布ウェブが、「厚さ方向に沿って密度が均一」であるのに対し、引用発明1の熱成形性不織繊維ウェブの密度の均一性が、「厚さ方向に沿っ」たものであるか不明である点。

4.判断
(相違点1)について
記載事項(ア)によれば、引用発明1の熱成形性不織繊維ウェブは、「弾性」を有するものであり、一般的な辞書(大辞林 第3版(2006年10月27日発行))によれば、「弾性」という用語は、「物体に外から力を加えれば変形し、その力を取り除けば元の形に戻ろうとする性質」であって、本願明細書の段落【0024】に記載された「保形性」の定義のうち、「(ii)変形力に屈するが、その後、変形力が除去されると実質的に元の形状に戻るように、十分な弾性と構造的完全性を有する」の定義と一致する。
また、記載事項(ク)によれば、厚さ0.215インチの結合ウェブを、深さ約1インチの金型を用いてコップ形状の熱成形品とし、4.5ポンド又は10.5ポンドの荷重をかけると、該熱成形品の深さは0.12インチ又は0.10インチまで減少していることから、「変形力に屈」しており、該荷重を除去すると、除去直後で0.91インチまで、除去1分後で1インチ又は0.94インチまで回復していることから、「変形力が除去されると実質的に元の形状に戻」っているといえる。
よって、引用発明1の熱成形性不織繊維ウェブが、「自立性」とともに備えている、「変形した形状が保持される」という性質は、本願明細書の段落【0024】に記載された「保形性」の定義の(ii)に合致しているから、この点は本願発明1と引用発明1との相違点として実質的なものでない。

(相違点2)について
記載事項(ウ)によれば、引用例1には、単一成分繊維又は複合繊維を作る熱可塑性ポリマーとして、熱可塑性エラストマー類又は熱可塑性エラストマーを中にブレンドさせたポリマーが、好適なものとして使用できることが記載されている。
また、記載事項(ウ)には、複合繊維の接着剤成分の添加剤として、熱可塑性エラストマーが用いられることが記載されており、記載事項(イ)によれば、複合繊維の接着剤成分は、繊維成分ポリマーとすることができるものであるから、引用例1には、熱可塑性エラストマーからなる繊維成分ポリマーを、接着剤成分の好適な添加剤として含む複合繊維も記載されているといえる。
さらに、「エラストマー」とは、「elastic(弾力のある)」と「polymer(ポリマー)」を組み合わせた用語であるが、記載事項(ウ)には、「同様にして、選ばれたポリマーが充分な融点差、好ましくは約10℃の温度差、および望ましくは異なる結晶性、固化性および/または弾性を有するならば・・・」、「選ばれたポリマー間に融点の差があると、熱活性結合工程が促進され、結晶性および固化性に差があると、繊維のけん縮化、特に潜在的けん縮の熱活性化によってけん縮が増進され、そして弾性に差があると、機械的なけん縮形成工程が促進される。」という、「繊維自体」に「弾性」を有する材料を用いる旨の記載もある。
よって、引用例1には、「熱可塑性」であって、「弾性」のある「ポリマー」を用いた繊維、すなわち「熱可塑性エラストマーポリマー繊維」が、「熱成形性不織繊維ウェブ」への使用に望ましい特性を有する好適な材料であることが開示されたものであるといえるから、この点は本願発明1と引用発明1との相違点として実質的なものでない。

(相違点3)について
引用例1の記載事項(カ)(キ)によれば、引用発明1の熱成形性ウェブを熱成形して、顔面マスクを製造すること、熱成形性不織繊維ウェブには、添加剤として吸水性粒子、脱臭剤、柔軟化剤などが含まれていてよいことが記載されている。
ここで、例えば周知例2(実願昭60-201466号(実開昭62-111044号)のマイクロフィルム)の第6頁第3行乃至第11行、第7頁第1行乃至第6行、第7頁第18行乃至第8頁第1行及び第5図や、周知例3(特開昭64-64676号公報)の第1頁右下欄第4行乃至8行、第4頁右上欄第1行乃至13行及び第1図(イ)等に記載されているように、顔面に用いる「マスク」においても、「吸水」機能が求められる場合があること、その際に、「吸水性粒子」を用いてマスクに「吸水」機能を付加することは周知である。
本願明細書に「活性粒子」の定義は記載されていないが、一般的な辞書(大辞林 第3版)によれば、「活性」とは、「機能が出現したり、効率が向上したりすること」を意味する用語であるから、引用例1には、「顔面マスク」の「熱成形性不織繊維ウェブ」に、「吸水」機能を出現させるため、本願発明1の「活性粒子」に該当する「吸水性粒子」を含ませることも記載されているといえる。
また、「脱臭剤」として、「粒子」の形態である「活性炭」が用いられることは、例えば周知例4(特開2001-37894号公報)の段落【0012】、周知例5(実願平3-20075号(実開平4-117653号)のCD-ROM)の段落【0002】、【0003】、【0007】、【0010】、【0011】等に記載されているように一般的であるから、引用例1には、「顔面マスク」の「熱成形性不織繊維ウェブ」に、「脱臭」機能を出現させるため、本願発明1の「活性粒子」に該当する「脱臭剤」を含ませることも記載されているといえる。
よって、(相違点3)は本願発明1と引用発明1との相違点として実質的なものでない。

(相違点4)について
本願の発明の詳細な説明の段落【0032】の記載によれば、本願発明1における「厚さ方向に沿って密度が均一」とは、「2層以上の層が1つ以上の空隙によって分離される層状の構造」ではなく、「断面において、1層、2層、又はそれ以上の連続層を有する一体的構成を呈する」場合を指すものである。
一方、引用例1の記載事項(エ)(ケ)によれば、引用発明1の熱成形性不織繊維ウェブは、連続繊維が成形表面の上に堆積された「1層」からなる「一体的構成」のものであるといえるから、引用発明1の熱成形性不織繊維ウェブは、「厚さ方向に沿って密度が均一」なものであるといえる。
よって、この点は本願発明1と引用発明1との相違点として実質的なものでない。

5.まとめ
したがって、本願発明1は、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
仮に、上記(相違点3)の点で本願発明1が引用例1に記載された発明でないとしても、この点については、引用発明1及び周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第5.請求人の主張について
請求人は平成28年4月22日付けで提出された、当審拒絶理由に対する意見書にて、下記(1)-(5)の主張をしている。

(1)引用例1の段落【0016】には、(i)ウェブにおいて繊維として用いられ得る様々な材料の一つとして、「熱可塑性エラストマーポリマー」が開示されているのみであり、段落【0031】に開示された「吸水性粒子」及び「脱臭剤」も、ウェブに含み得る添加剤の一部に過ぎないものであるから、引用例1には、「熱可塑性エラストマーポリマー繊維と、該繊維内に配置された活性粒子と、を備え」る「不織布ウェブ」は開示されていないし、(ii)「吸水性粒子」又は「脱臭剤」が「熱可塑性エラストマーポリマー」の繊維中に配置されるよう、組み合わせる動機付けとなる事項も、全く開示されていない。

(2)本願発明1は「空気フィルタ要素」であり、空気から汚染物質を濾過するものであって、水は汚染物質とは一般的には考えられないから、引用発明1の「吸水性粒子」は、本願発明1の「活性粒子」に該当しない。

(3)引用例1の段落【0031】には、添加剤として「脱臭剤」が記載されているが、当該「脱臭剤」が「粒子」であること記載も示唆もされていないから、引用発明1の「脱臭剤」は、本願発明1の「活性粒子」に該当しない。

(4)本願発明1の「不織布ウェブ」は、「保形性」と「自立性」とを備えた「保形自立性」の不織布ウェブであり、このうち「保形性」とは、本願明細書の段落【0024】で定義されているように、「その物品が、(i)力が加えられたときに変形に抵抗し、又は(ii)変形力に屈するが、その後、変形力が除去されると実質的に元の形状に戻るように、十分な弾性と構造的完全性を有すること」を意味する用語である。
一方、引用例1の段落【0030】に記載された「熱成形性不織繊維ウェブ」の用途は、主に「赤ん坊のおむつ、生理用ナプキン用の各層、生理用ナプキンケース、及び失禁大人介護用品」といった、一般的に柔らかく、力が加えられたときに変形に抵抗したり、変形力が除去されると実質的に元の形状に戻ったりしないものであるから、段落【0025】の「次に成形されたウェブはヒーター70に当てられると繊維ウェブの接着剤成分ポリマーが溶融して、繊維間結合を形成して変形した形状を保持する」という記載は、ウェブがヒーター70に当てられる前の当初の形状に戻らないことを単に意味しているに過ぎず、本願明細書で定義された「保形自立性」を有していることを意味するものでない。

(5)引用例1には、「熱可塑性エラストマーポリマー繊維と、該繊維内に配置された活性粒子と、を備え」る「不織布ウェブ」がそもそも全く開示されていないから、本願発明の「前記不織布ウェブは、前記不織布ウェブの厚さ方向に沿って密度が均一であることを特徴とする3次元変形を有する」との事項は、引用例1に開示されたものではない。

上記(1)-(5)の主張に対して検討する。
(1)について
(i)「第4.4.判断」の「(相違点2)について」にて述べたように、引用例1において、「熱成形性不織繊維ウェブ」に使用される、「熱可塑性」であって、「弾性」のある「ポリマー」を用いた繊維、すなわち「熱可塑性エラストマーポリマー繊維」は、単に「ウェブにおいて繊維として用いられ得る様々な材料」のリストのうちの一部に過ぎないものではなく、引用発明1において望ましい特性を有する好適な材料として開示されたものであるといえる。
また、「第4.4.判断」の「(相違点3)について」にて述べたように、「吸水性粒子」及び「粒子」形状の「脱臭剤」をウェブに含ませて、「吸水性」及び「脱臭」機能を「顔面マスク」にもたせることは一般的に行われていることである。
よって、引用例1には、「吸水性粒子」又は「脱臭剤」を含む「顔面マスク」及び該「顔面マスク」に「熱可塑性エラストマーポリマー繊維」を用いることが開示されているといえるから、当該主張は採用できない。

(ii)仮に引用例1に「熱可塑性エラストマーポリマー繊維と、該繊維内に配置された活性粒子と、を備え」る「不織布ウェブ」が開示されていないとしても、引用発明1の「顔面マスク」において、「熱成形性不織繊維ウェブ」を形成するのに望ましい特性を有する「熱可塑性エラストマーポリマー」を「繊維形性ポリマー」の材料として選択するとともに、「吸水性」及び「脱臭」機能という「顔面マスク」に望まれる周知の機能を付加するため、「吸水性粒子」又は「脱臭剤」が繊維中に配置されるようにすることは、当業者が容易になし得ることである。
そして、その組み合わせによって、引用発明1とは別異の顕著な作用効果が奏されることを認識できるものでもない。

(2)、(3)について
「第4.4.判断」の「(相違点3)について」にて述べたように、「空気フィルタ要素」である「顔面マスク」に添加された「吸水性粒子」は、「活性粒子」として機能するものであるし、「脱臭剤」としては、「粒子」の形態である「活性炭」が用いられることは一般的であるから、当該主張は採用できない。

(4)について
「第4.4.判断」の「(相違点1)について」にて述べたように、引用発明1の熱成形性不織繊維ウェブが有する、「変形した形状を保持する」性質は、本願明細書で定義された「保形自立性」を意味するものであるから、当該主張は採用できない。

(5)について
「第4.4.判断」の「(相違点4)について」にて述べたように、引用発明1の熱成形性不織繊維ウェブは、連続繊維が成形表面の上に堆積された「1層」からなる「一体的構成」であるから、引用発明1の熱成形性不織繊維ウェブは、本願発明1と同様に、「厚さ方向に沿って密度が均一」なものであるといえる。
よって、当該主張は採用できない。

したがって、上記意見書で述べられた出願人の主張を参酌しても、本願発明1は、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、仮に本願発明1が引用例1に記載された発明でないとしても、引用発明1及び周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
仮に本願発明1が引用例1に記載された発明でないとしても、引用発明1及び周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、その余の拒絶理由について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-05-31 
結審通知日 2016-06-07 
審決日 2016-06-20 
出願番号 特願2011-542218(P2011-542218)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B01D)
P 1 8・ 113- WZ (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 泰三  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 真々田 忠博
萩原 周治
発明の名称 付形した粒子含有不織布ウェブを利用するフィルタ要素  
代理人 池田 正人  
代理人 城戸 博兒  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 清水 義憲  
代理人 池田 成人  

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