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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1321189
審判番号 不服2015-19256  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-26 
確定日 2016-11-22 
事件の表示 特願2011- 85277「撮像装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月12日出願公開、特開2012-217571、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年4月7日の出願であって、平成26年12月22日付けで拒絶理由が通知され、平成27年2月25日付けで手続補正がされ、平成27年7月15日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成27年10月26日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、当審において平成28年8月2日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成28年10月4日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1-8に係る発明は、平成28年10月4日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「[請求項1]
被写体から到来する光を受光する複数の受光素子を第1基板に形成した受光部と、
前記受光部と前記被写体との間に設置された光透過性の第2基板と、
前記第2基板のうち前記受光部側の面上に形成され、透過率がピークとなる波長が太陽光のフラウンホーファー線の波長と一致するバンドパスフィルターと、
前記バンドパスフィルターの面上に形成され、前記被写体からの入射光を前記各受光素子に集光する複数のレンズと
を具備する撮像装置。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用例に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用例1.特開2010-49479号公報
引用例2.特開2010-94499号公報(周知技術を示す文献)
引用例3.特開2009-172263号公報(周知技術を示す文献)

引用例1の段落51、図6には「上記した透過波長領域の他にも、図6中の符号P11,P13で示したように、750nmや1110nm付近にも、大気中の水蒸気やオゾンによる吸収波長領域があるため、これらの吸収波長領域を透過波長領域として含む赤外透過フィルタを用いるようにしてもよい。」と記載されており、このような記載から、引用例1には、700nmから900nmまでの波長域内における太陽光のフラウンホーファー線の波長を含むバンドパスフィルターが記載されていると認められる。
そして、画像取得装置において、受光素子が形成された基板の上方に、レンズアレイ基板、開口部を有する遮光層を設けることは、周知技術である(引用例2の段落142、図3、引用例3の図5を参照。)。
また、各種光学部品の表面に、特定波長の光を透過するバンドパスフィルターを形成することは、慣用的に行われていることである。
そうすると、引用例1において、上記周知技術を採用し、本願発明を想到することは、当業者であれば容易になし得ることである。

2 原査定の理由の判断
(1)引用例の記載事項
ア 引用例1に記載の事項(以下、下線は当審で付した。)
(引1a)「[0001]
・・・を備えた表示撮像装置・・・」

(引1b)「[0034]
図3は、図2におけるA-A部分の矢視断面図であり、表示部1の断面構成の一例を表したものである。この表示部1は、光源100と、各発光素子(赤色発光素子CLr、緑色発光素子CLgおよび青色発光素子CLb)ならびに受光素子(受光センサ111)を構成する積層構造とから構成されている。この積層構造は、具体的には光源100側から、偏光板101Aと、ガラス基板102Aと、回路部103と、絶縁層104と、透明画素電極105Aと、液晶層106と、透明電極105Bと、カラーフィルタ107および透過フィルタ108と、ブラックマトリクス109と、ガラス基板102Bと、偏光板101Bとから構成されている。すなわち、これら各発光素子は液晶素子から構成され、互いに対向するガラス基板102A,102Bの間に液晶層106を設けた構成となっている。
[0035]
光源100は、可視光および非可視光(近赤外光)を上記した液晶素子へ向けて発するバックライトである。この光源100は、例えば、そのような可視光および非可視光(近赤外光;例えば、発光波長が940nmの近赤外光)を発するLED(Light Emitting Diode;発光ダイオード)を含んで構成されている。」

(引1c)「[0039]
赤外線透過フィルタ108は、カラーフィルタ107と同一の層内に配置されている。この赤外透過フィルタ108は、詳細は後述するが、近赤外領域内における、大気中の水蒸気(H_(2)O)またはオゾン(O_(3))による太陽光の吸収波長領域の少なくとも1つを、透過波長領域として含むものである。これにより、表示面10から出射して検出対象物体(後述する検出対象物体12)で反射された反射光および環境光のうち、この赤外透過フィルタ108を透過した透過波長領域内の近赤外光が、検出光として受光センサ111(回路部103)で検出されるようになっている。」

イ 引用例1に記載された発明
上記(引1a)から(引1f)を総合すると、引用例1には、

「光源100側から、偏光板101Aと、ガラス基板102Aと、回路部103と、透過フィルタ108と、ガラス基板102Bとを有し、
近赤外領域内における、大気中の水蒸気(H_(2)O)またはオゾン(O_(3))による太陽光の吸収波長領域の少なくとも1つを、透過波長領域とする前記透過フィルタ108を透過した透過波長領域内の近赤外光が、検出光として受光センサ111(回路部103)で検出されるようになっている表示撮像装置」

の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

(2)対比
本願発明と引用発明1とを対比する。

ア 引用発明1の「ガラス基板102A」、「透過フィルタ108」、「ガラス基板102B」及び「受光センサ111」は、それぞれ本願発明の「第1基板」、「バンドパスフィルター」、「第2基板」及び「受光素子」に相当する。

イ 引用発明1の「受光センサ111」は、「ガラス基板102A」上に形成され、「検出対象物体(後述する検出対象物体12)で反射された反射光および環境光のうち、この赤外透過フィルタ108を透過した透過波長領域内の近赤外光が、検出光として受光センサ111(回路部103)で検出」している(上記(引1c)参照)。そして、引用例1の図1から、「受光センサ111」を設けた「受光セル」が複数あることが見て取れるから、引用発明1の「受光センサ111」は複数あり、複数の「受光センサ111」は、全体として「受光部」であるといえる。そうすると、引用発明1の「受光センサ111」は、本願発明の「被写体から到来する光を受光する複数の受光素子を第1基板に形成した受光部」に相当するといえる。

以上のことから、本願発明と引用発明1とは、
「被写体から到来する光を受光する複数の受光素子を第1基板に形成した受光部と、
前記受光部と前記被写体との間に設置された光透過性の第2基板と、
前記第2基板のうち前記受光部側の面上に形成されたバンドパスフィルターと
を具備する撮像装置。」の点で一致している。
他方、本願発明と引用発明1は、次の点で相違する。

<相違点1>
バンドパスフィルターについて、本願発明では、透過率がピークとなる波長が太陽光のフラウンホーファー線の波長と一致しているのに対し、引用発明1では、近赤外領域内における、大気中の水蒸気(H_(2)O)またはオゾン(O_(3))による太陽光の吸収波長領域の少なくとも1つである点。

<相違点2>
本願発明は、バンドパスフィルターの面上に被写体からの入射光を各受光素子に集光する複数のレンズを形成しているのに対し、引用発明1にはそのような構成がない点。

(3)判断
ア 相違点1について
引用発明1の透過フィルタにおいて、近赤外線領域内における大気中の水蒸気またはオゾンによる太陽光の吸収波長領域の少なくとも一つである透過波長領域を、領域の透過率のピークが太陽光のフラウンフォーファー線の波長と一致させるようにさせることを示す記載はなく、引用発明1において、そのようにする動機付けもない。

イ 相違点2について
上記相違点2について検討する。
引用例2及び引用例3には、複数のレンズを設ける構成はあるものの、複数のレンズをバンドパスフィルターの面上に形成する点は何ら記載されておらず、示唆されてもいない。
そうすると、上記相違点2は、引用発明1並びに引用例2及び3に記載された周知技術に鑑みても、当業者が容易に想到できたものであるとはいえないから、本願発明は、引用発明1並びに引用例2及び3に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)小括
したがって、本願発明は、当業者が引用発明1に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項2-8に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、当業者が引用発明1に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
(理由1)本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用例に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(理由2)本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(理由3)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



引用例A 特開2005-017863号公報
引用例B 特開2010-094499号公報
引用例C 国際公開第2006/088155号
引用例D 特開2009-055107号公報

(1)理由1及び2について
理由1及び2は、平成28年10月4日付け手続補正書の補正前の各請求項に係る発明について、引用例Aに記載された発明であるか、引用例Aに記載された発明又は引用例Bに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないことを通知したものである。
一方、本願発明は、上記補正前の請求項7に係る発明としたものであり、その補正前の請求項7については、以下のとおり、引用例Bに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと指摘した。

受光部と被写体との間に、透過率がピークとなる波長が太陽光のフラウンホーファー線の波長と一致するバンドパスフィルターを設置する構成は、引用例Aに記載されていると認められる。
一般的に生体認証等で使用される撮像装置において、太陽光の影響を有効に抑制しなければいけないという課題は本願出願時において、従来周知の課題である。
引用例Bに記載された発明は、迷光によるクロストークを効果的に抑制することを目的としているところ、太陽光は迷光の発生原因の一つであることも周知の技術的事項である。
してみると、該周知の課題解決のために、引用例Bに記載された発明の、「イメージセンサ10」と「ヒトの指200」との間に、引用例Aに記載された、透過率がピークとなる波長が太陽光のフラウンホーファー線の波長と一致するバンドパスフィルターを適用する程度のことは、当業者が容易になし得たことといえる。
また、バンドパスフィルターは、第2基板のうち受光部側の面上に形成され、複数のレンズは、バンドパスフィルターの面上に形成されると、バンドパスフィルターの位置を特定した点については、通常、光学フィルターの配置をどの位置とするかは、適宜選択されるべき事項であって、レンズと第2基板の間にバンドパスフィルターを形成することによる格別の効果も認められないから、引用例Bに記載された発明に引用例Aに記載されたバンドパスフィルターを適用する際に、その配置として「レンズアレイ基板30」と「複数のレンズ32」との間の配置を選択する程度の事は、当業者が容易になし得たことといえる。

(2)理由3について
請求項2には、「前記バンドパスフィルターは、700nmから900nmまでの波長域内における太陽光のフラウンホーファー線の波長を通過帯域に含む」と記載されているが、「700nmから900nmまでの波長域内における太陽光のフラウンホーファー線の波長を通過帯域に含む」とは、請求項1に記載された、「太陽光のフラウンホーファー線の波長と一致する」バンドパスフィルターの「透過率がピークとなる波長」以外の波長を含むことなのか、「太陽光のフラウンホーファー線の波長と一致する」バンドパスフィルターの「透過率がピークとなる波長」が「700nmから900nmまでの波長域内」にあるということなのか、明りょうではない。

2 当審拒絶理由の判断
(1)理由1及び2について
上記1の当審の拒絶理由の概要で述べたとおり、本願発明については、引用例Bに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと通知したものであるから、以下、引用例Bに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるかどうか判断する。

ア 引用例に記載の事項
(ア)引用例Aに記載の事項
(引Aa)「[0012]
撮影した被写体の生体情報に基づいて、当該被写体の認識を行う生体情報認識方法において、自然光中のエネルギーが小さい帯域の光線を前記被写体に照射すること、照射された光線が前記被写体で反射した反射光線を取得し、取得した前記反射光線に基づいて、前記被写体の映像を取得することを特徴とする。
前記生体情報認識方法は、生体情報として前記被写体のアイリスを認識することを特徴とする。
前記生体情報認識方法は、生体情報として前記被写体の顔を認識することを特徴とする。
前記生体情報認識方法は、生体情報として前記被写体の網膜を認識することを特徴とする。
前記生体情報認識方法は、生体情報として前記被写体の指紋を認識することを特徴とする。」

(引Ab)「[0019]
あるフラウンホーファー線は、図3に示されているように、約656.28nmを波長中心とし、該波長を中心とする光の強度、つまり該波長周辺でのエネルギーが他の波長におけるエネルギーよりも低減しており、地球表面上に届き難くなることを示している。このような特性を有するフラウンホーファー線は、図4に示されているように、約760nmから約766nmまでの約6nm間において、複数存在することが確認されており、当該多数のフラウンホーファー線を含む約760nmから約766nmまでの約6nmの帯域は、近赤外線と称される帯域の一部であり、当該帯域の光線を照明に用いて、後述するアイリス認識のための撮影が行われる。
前記した帯域の光線は、自然光中のエネルギーが小さい波長を複数含んでおり、それらの自然光中のエネルギーが小さい波長において、特に自然光中のエネルギーの小さい波長がフラウンホーファー線と称されている。
[0020]
本発明は、前記した地表に届き難いフラウンホーファー線が含まれる自然光中のエネルギーの小さい波長を多数含む帯域の光線を人工的に生成し、生成した光線を照明に用いて撮
影を行うことにより、地表に届く太陽光線の光量よりも、人工的に生成した光線の光量を反映した撮影結果を得ることができる。」

(引Ac)「[0021]
ここで、本発明の撮影装置の動作を説明する。
照明ユニット20の光源部21は、LED(Light Emitting Diode)などの発光体を備えており、該LEDを用いて様々な波長を含む光源を生成する。光源部21で生成された光源が、狭帯域バンドパスフィルタとしての光線バンドパスフィルタ22を通過することにより、前記した自然光中のエネルギーの低い波長を多数含む光線4が生成される。生成された光線4は、前記した約760nmから約766nmまでの約6nmの帯域の電磁波であり、撮影のための照明として被写体1に照射される。
[0022]
このとき、屋外や窓際などで撮影が行われていると、太陽2からの太陽光線3も被写体1に照射される。
太陽光線3が被写体1で反射した太陽反射光線6と、光線4が被写体1で反射した反射光線5とが、撮影ユニット30のレンズ32で受光される。
レンズ32で受光された反射光線5および太陽反射光線6は、反射光線5を取得すべく、狭帯域バンドパスフィルタとしての反射光線バンドパスフィルタ33へ送られる。
[0023]
反射光線5および太陽反射光線6を受け入れた反射光線バンドパスフィルタ33は、約760nm?約766nmの帯域のみを通過させることから、該反射光線バンドパスフィルタ33は反射光線5を透過させる。透過した反射光線5はCCD34へ送られると、CCD制御部35からの制御を受けたCCD34により、電気的な信号に変換される。当該電気信号は、ゲート制御部37により制御されるゲート駆動部36で、信号増幅などの処理が適宜行われる。前記した処理を経た信号は、太陽反射光線6などの自然光線の影響が低減された被写体の映像を示す。」

(引Ad)「[0029]
アイリス認識システム100の撮影装置10の照明ユニット20および撮影ユニット30の各構成は、前記した具体例1と同じであることから、その説明を割愛する。
前記した具体例1の照明ユニット20では、760nm近傍のO2線と称されるフラウンホーファー線を含む光線を照明に用いたが、その他にHα線と称されるフラウンホーファー線を含む656.28nm近傍の光線を照明に用いてもよい。その他に、650nmから900nmの範囲であって、主として前記した自然光中のエネルギーが小さい帯域の光線を照明に用いてもよい。
また、近赤外線や赤外線以外に、可視光線領域のエネルギーの小さい帯域の光線を照明に用いてもよい。」

(引Ae)上記(引Aa)ないし(引Ad)の記載を踏まえると、引用例Aから以下の点が理解される。

a 「被写体1」で反射した「反射光線5」が、「撮影ユニット30」の「レンズ32」で受光され、「レンズ32」で受光された「反射光線5」は、「反射光線バンドパスフィルタ33」へ送られ、「反射光線バンドパスフィルタ33」は「反射光線5」を透過させ、透過した「反射光線5」は「CCD34」へ送られるから(上記(引Ac)参照)、「被写体1」で反射した「反射光線5」を「CCD34」が受光する点、及び、「反射光線バンドパスフィルタ33」が「CCD34」と「被写体1」との間に配置された点が理解される。

b 「反射光線バンドパスフィルタ33」は、約760nm?約766nmの帯域のみを通過させ(上記(引Ac)参照)、約760nmから約766nmまでの約6nmの帯域は、多数のフラウンホーファー線を含む帯域であるから(上記(引Aa)参照)、「反射光線バンドパスフィルタ33」は、多数のフラウンホーファー線を含む約760nmから約766nmまでの約6nmの帯域のみを透過させるフィルタである点が理解される。

c 約760nmから約766nmまでの約6nmの帯域の「光線4」を「被写体1」に照射する照明が理解される。(上記(引Ac)参照)

d 上記aからcより総合すると、引用例Aには、次の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。

「約760nmから約766nmまでの約6nmの帯域の光線4を被写体1に照射する照明と
被写体1で反射した反射光線5を受光するCCD34と
CCD34と被写体1との間に配置され、多数のフラウンホーファー線を含む約760nmから約766nmまでの約6nmの帯域のみを透過させる反射光線バンドパスフィルタ33と
を具備する撮像装置。」

(イ)引用例Bに記載の事項
(引Ba)「[0027]
画像取得装置150は、ヒトの指200内を透過した光を受光して、静脈201の像を撮像し、取得した静脈像をコントローラ120に出力する。」

(引Bb)「[0031]
図3に画像取得装置150の概略的な断面構成を示す。図3に示すように、画像取得装置150は、イメージセンサ(撮像素子)10、光機能層20、及びレンズアレイ基板30がこの順で積層されて形成される。なお、イメージセンサ10と光機能層20間には、接着層40が形成されている。また、光機能層20とレンズアレイ基板30間には、接着層50が形成されている。光機能層20とレンズアレイ基板30の積層体によって光学部品が形成される。」

(引Bc)「[0034]
イメージセンサ10は、半導体基板11、及び配線層12を有する。半導体基板11は、通常のシリコン基板である。半導体基板11の主面(撮像面)には、複数の画素14が2次元状に形成されている(図6参照)。なお、画素14は、不純物を半導体基板に拡散させることによって形成される。画素14では、入射光強度に応じた値の電気信号が生成される。なお、半導体基板11の具体的な構成は任意である。」

(引Bd)「[0039]
光機能層20は、イメージセンサ10とレンズアレイ基板30間に配置される。光機能層20は、フィルタ層21、及び遮光層22を有する。
[0040]
フィルタ層21は、フィルタ特性を有する平板部材である。フィルタ層21の光透過率は、入射光の入射角度に応じて変動する。ここでは、特定の波長に注目したとき、入射光の入射角度が増加するとフィルタ層21の光透過率は減少する。換言すると、フィルタ層21は、入射角が0度に近い光に対しては透明であり、入射角が大きい光に対しては不透明である。これによって、隣接するレンズを介してある画素に入力するノイズ成分の迷光を低減させ、図4に示すように効果的に迷光の影響を抑制することができる。」

(引Be)「[0048]
複数のレンズ32は、透明基板31の主面上に2次元状に形成される。物体側からの入射光は、レンズ32のレンズ面でレンズ作用を受け、画素14に向かって収束しながら光軸AXに沿って進行する。
[0049]
なお、上述の接着層40、50は、通常の熱硬化樹脂又はエネルギー線硬化樹脂(例えば、紫外線硬化樹脂等)によって形成される。
[0050]
レンズ32を透過した光は、透明基板31、接着層50、遮光層22の開口OP1、フィルタ層21、接着層40、及び遮光層13の開口OP2をこの順で通過し、画素14に入力する。各画素14では、入力光が光電変換され、入力光の強度に応じた値の電気信号が生成される。各画素14で生成された電気信号は、イメージセンサ10の読出し動作によって、外部バスに接続される。
[0051]
なお、図6に示すように、画素14、開口OP1、開口OP2、及びレンズ32は、同軸上に配置される。開口OP1の開口幅(開口面積)は、開口OP2の開口幅(開口面積)よりも大きく設定されている。」

(引Bf)「[0097]
本実施形態では、フィルタ層21は、透明基板23の下面に形成されている。このような場合であっても第1及び第2実施形態と同様の効果を得ることができる。具体的には、フィルタ層21によるフィルタリング効果によって、入射角が小さい入射光がフィルタ層21を透過し、入射角が大きい入射光がフィルタ層21により遮断される。これにより、クロストークを低減し、より良質な静脈像を取得することができる。」

(引Bg)「[0102]
なお、フィルタ層21は、上述の実施形態と同様、屈折率が制御された複数の薄膜で構成すると良い。フィルタ層21を構成する薄膜の材料として、シリカ(SiO_(2))、ルチル(TiO_(2))、アルミナ(Al_(2)O_(3))などを用いると良い。高屈折率層の材料としては、TaO_(x)、TiO_(x)、ZnS、ZnSn、GaP、InP、Si、Ge、SiGe_(x)、SiN_(x)、SiC_(x)、ZrO_(x)、NbO_(x)、YO_(x)、およびこれらの混合材などが挙げられる。低屈折率層の材料としてはSiO_(x)、MgF_(2)、AlO_(x)、SiO_(x)C_(y)、SiO_(x)N_(y)、MgO_(x)、およびこれらの混合材などが挙げられる。」

(引Bh)「[0107]
まず、図16(a)に示すように、透明基板23上にフィルタ層21を形成する。屈折率の異なる複数の薄膜の積層体でフィルタ層21を構成する場合には、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)等の通常の薄膜形成技術を活用して膜厚を制御しながら多数の薄膜を積層形成する。なお、薄膜の屈折率、その膜厚は、入射光線の透過率の入射角度依存性に影響を与え、また、波長特性にも影響を与える。
[0108]
次に、図16(b)に示すように、透明基板23を反転させて、その上面に遮光層22を形成する。この場合、遮光層22は、黒色のレジスト層である。スピンコート等の通常のコート法を活用して、遮光層22を形成すると良い。」

(引Bi)「[0117]
[第6の実施形態]
以下、図19を参照して、本発明の第6の実施形態について説明する。図19は、画像取得装置150の概略的な断面模式図である。
[0118]
本実施形態に係る画像取得装置150は、上述の実施形態とは異なる構成のレンズアレイ基板30を具備する。具体的には、レンズ32は、透明基板31の下面に形成されている。なお、レンズ32は、第5実施形態と同様、結像側に向かって凸状である。このよう
な場合であっても上述の実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、光機能層20に対してレンズアレイ基板30を接着固定しなくとも良い。」

(引Bj)図19


(引Bk)「[0007]
良質な生体画像を取得するためには、クロストークを抑制することが重要になる。クロストークを抑制するためには、各画素に対応する光チャネルを相互に効果的に分離する遮光構造を採用すると良い。このような遮光構造は、レンズの光軸上に開口を有する遮光層を採用することで実現できる。しかしながら、迷光の発生原因は多様であり、上述の単純な遮光層の採用によってクロストークを効果的に抑制することは難しい場合がある。
[0008]
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、クロストークを効果的に抑制することを目的とする。」

(引Bl)上記(引Ba)ないし(引Bk)の記載を踏まえると、引用例Bから以下の点が理解される。

a 「画像取得装置150」は、「ヒトの指200」内を透過した光を受光して、静脈201の像を撮像する点が理解される。(上記(引Ba)参照)

b 「画像取得装置150」は、「イメージセンサ(撮像素子)10」、「光機能層20」、及び「レンズアレイ基板30」がこの順で積層されて形成されている点が理解される。(上記(引Bb)参照)

c 「イメージセンサ10」は、「半導体基板11」を有し、「半導体基板11」の主面(撮像面)には、複数の「画素14」が形成されている点が理解される。(上記(引Bc)参照)

d 複数の「レンズ32」が、「透明基板31」の主面上に形成され、物体側からの入射光は、「レンズ32」のレンズ面でレンズ作用を受け、「画素14」に向かって収束しながら光軸AXに沿って進行する点が理解される。(上記(引Be)参照)

e 「レンズ32」は、「透明基板31」の下面に形成され、結像側に向かって凸状である点が理解される。(上記(引Bi)参照)

f 「光機能層20」は、「イメージセンサ10」と「レンズアレイ基板30」間に配置され、「光機能層20」は、「遮光層22」を有している点が理解される。(上記(引Bd)参照)

g 「画素14」、「遮光層22」の「開口OP1」、及び「レンズ32」は、同軸上に配置されているから、[遮光層22]には、「画素14」に対応する複数の「開口OP1」が形成されている点が理解できる。(上記(引Be)参照)

h 「透明基板23」の上面に「遮光層22」を形成した点が理解される。(上記(引Bh)参照)

i 上記aないしhより総合すると、引用例Bには、次の発明(以下、「引用発明B」という。)が記載されていると認められる。

「ヒトの指200内を透過した光を受光する複数の画素14を半導体基板11に形成したイメージセンサ10と、
物体側からの入射光を、画素14に向かって収束しながら光軸AXに沿って進行させる複数のレンズ32を結像側に向かって凸状であって透明基板31の下面に形成したレンズアレイ基板30と
イメージセンサ10とレンズアレイ基板30との間に配置され、透明基板23の上面に形成され、各画素14に対応する複数の開口OP1が形成された遮光層22を有する光機能層20
を具備する撮像装置。」

イ 対比
(ア)引用発明Bの「ヒトの指200内を透過した光」は、本願発明の「被写体から到来する光」に相当する。

(イ)引用発明Bの「画素14」、「半導体基板11」、「透明基板31」及び「イメージセンサ10」は、それぞれ本願発明2の、「受光素子」、「第1基板」、「第2基板」及び「受光部」に相当する。

(ウ)引用発明Bの「複数のレンズ32」は、物体側からの入射光を、「画素14」に向かって収束しながら光軸AXに沿って進行させるものであるから、「複数のレンズ32」を形成した「透明基板31」は、被写体である「ヒトの指200」と、「画素14」が形成された「イメージセンサ10」との間に設置され、光透過性であるといえる。そうすると、引用発明Bの「複数のレンズ32」を形成した「透明基板31」は、本願発明の受光部と前記被写体との間に設置され光透過性の「第2基板」に相当する。

(エ)引用発明Bの「複数のレンズ32」は、結像側に向かって凸状であって「透明基板31」の下面に形成したものであり、上記(引BJ)から、「透明基板31」の下面は、「イメージセンサ10」側であることが見て取れるから、引用発明Bの「複数のレンズ32」は、本願発明の第2基板のうち受光部側に形成されている「複数のレンズ」に相当する。

(オ)引用発明Bの「物体側からの入射光を、画素14に向かって収束しながら光軸AXに沿って進行させる複数のレンズ32」は、本願発明の「前記被写体からの入射光を前記各受光素子に集光する複数のレンズ」に相当する。

以上のことから、両発明は、

「被写体から到来する光を受光する複数の受光素子を第1基板に形成した受光部と、
前記受光部と前記被写体との間に設置された光透過性の第2基板と、
前記第2基板のうち前記受光部側に形成され、前記被写体からの入射光を前記各受光素子に集光する複数のレンズと
を具備する撮像装置。」

で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本願発明は、受光部と前記被写体との間に、透過率がピークとなる波長が太陽光のフラウンホーファー線の波長と一致するバンドパスフィルターを、第2基板のうち受光部側の面上に設置し、このバンドパスフィルターの面上に複数のレンズを形成しているのに対し、引用発明Bには、そのようなフィルターを配置していない点。

ウ 判断
上記相違点について検討する。
受光部と被写体との間に、透過率がピークとなる波長が太陽光のフラウンホーファー線の波長と一致するバンドパスフィルターを設置する構成は、2(1)ア(ア)で検討したとおり、引用例Aに記載されていると認められる。
一般的に生体認証等で使用される撮像装置において、太陽光の影響を有効に抑制しなければいけないという課題は本願出願時において、従来周知の課題である。
引用発明Bは、迷光によるクロストークを効果的に抑制することを目的としているところ、太陽光は迷光の発生原因の一つであることも周知の技術的事項である。
してみると、該周知の課題解決のために、引用発明Bの、「イメージセンサ10」と「ヒトの指200」との間に、引用発明Aの、透過率がピークとなる波長が太陽光のフラウンホーファー線の波長と一致するバンドパスフィルターを適用すること自体は、当業者が容易になし得たことといえる。
しかしながら、バンドパスフィルターの配置として、第2基板のうち受光部側の面上に設置し、このバンドパスフィルターの面上に複数のレンズを形成すること、即ち、バンドパスフィルターを第2基板と複数のレンズとの間に形成することに関し、引用例Aには記載も示唆もされていないし、引用例Bにおいても、「複数のレンズ32」と「透明基板31」との間に、フィルターを配置することに関する記載も示唆も認められないから、引用発明Bに引用発明Aのバンドパスフィルターを適用する際に、その配置を第2基板と複数のレンズとの間に限定することの動機付けがあるとはいえない。
さらに、引用例Cおよび引用例Dにおいても、フィルターを基板と複数のレンズとの間に配置する構成が記載の示唆もされていない。
そして、本願発明は、バンドパスフィルターを、第2基板と複数のレンズとの間に配置することにより、撮像装置が薄型化されるという格別の効果が認められる。
そうすると、本願発明は、引用発明A、引用発明B、引用例C及びDに記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。

エ 小括
したがって、本願発明は、当業者が引用発明A、引用発明B、引用例C及びDに記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえなくなった。
本願の請求項2-8に係る発明についても、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、当業者が引用発明A、引用発明B、引用例C及びDに記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえなくなった。
そうすると、もはや、当審で通知した拒絶理由(理由1,2)によって本願を拒絶することはできない。

(2)理由3について
ア 平成28年10月4日付けの手続補正書によって、本願の請求項2は、「前記バンドパスフィルターにおいて、前記フラウンホーファー線の波長と一致する、前記透過率がピークとなる波長は、700nmから900nmまでの波長域内にある」と補正された。このことにより、請求項2に係る発明は明確となった。
よって、理由3は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-11-07 
出願番号 特願2011-85277(P2011-85277)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61B)
P 1 8・ 537- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 冨永 昌彦  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 福島 浩司
小川 亮
発明の名称 撮像装置  
代理人 高橋 太朗  
代理人 高田 聖一  
代理人 大林 章  

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