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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61F 審判 全部申し立て 2項進歩性 A61F |
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管理番号 | 1321219 |
異議申立番号 | 異議2015-700251 |
総通号数 | 204 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-12-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2015-12-02 |
確定日 | 2016-08-16 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5727999号発明「吸水シート構成体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5727999号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-4]について訂正することを認める。 特許第5727999号の請求項1?4に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第5727999号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成23年3月10日(優先権主張日平成22年3月25日)に特許出願され、平成27年4月10日にその特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1?4に係る特許について、特許異議申立人伊藤範子により特許異議の申立てがなされ、平成28年2月15日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年4月11日に意見書の提出及び訂正の請求がなされ、平成28年5月25日に特許異議申立人から意見書の提出がなされたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 (ア)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「エンボスが施され」とあるのを、「エンボス部を有し」に訂正する。 (イ)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に「特徴とする吸水シート構成体。」とあるのを 「特徴とし、ここで、前記エンボス部には吸水性樹脂と接着剤とが介在し、生理食塩水吸収により前記エンボス部は膨張する、吸水シート構成体。」に訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (ア)訂正事項1 訂正事項1は、請求項1の「エンボスが施され」を、「エンボス部を有し」とするもので、明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (イ)訂正事項2 訂正事項2の「ここで、前記エンボス部には吸水性樹脂と接着剤とが介在し、生理食塩水吸収により前記エンボス部は膨張する、」は、本件明細書の段落【0027】の(a)?(c)の記載及び【0075】?【0081】の[実施例1]に関する記載に基づくものである。これらの記載によれば、接着剤を溶融塗布した直後、吸水性樹脂を均一に散布するなどして吸水シート構成体を得ており、このようにして得られた吸水シート構成体にエンボスが施されているから、当業者は、エンボスが施されている箇所、すなわちエンボス部には吸水性樹脂と接着剤とが介在していることが読み取れる。そして、エンボス部には吸水性樹脂と接着剤とが介在している場合、生理食塩水吸収によりエンボス部は膨張することは、当業者にとって自明であるし、「生理食塩水吸収によりエンボス部は膨張すること」と【0036】の「前記膨張エンボス深さは、吸水シート構成体が液体を吸収した際、エンボスの形状保持性の度合いを示す指標である。・・・」の膨張エンボス深さの技術的意義とは矛盾しない。 よって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項1?4についての訂正を認める。 3.特許異議の申立てについて (1)本件発明 本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?4に係る発明(以下「本件発明1?4」という。)は、以下のとおりのものである。 【請求項1】 吸水性樹脂と、接着剤とを含有してなる吸収層が、親水性不織布により該吸収層の上方及び下方から挟持され該接着剤により該親水性不織布に接着された構造を有する吸水シート構成体であって、該吸水シート構成体の上面及び下面の少なくとも1面にエンボス部を有し、以下の特性: 生理食塩水を、該吸水シート構成体1m^(2)あたり4L(4L/m^(2))吸収させた際に、次の関係(A)及び(B)の両方を満たすこと。ただし、T1は生理食塩水吸収前の吸水シート構成体厚み(mm)、T2は生理食塩水吸収後の吸水シート構成体厚み(mm)、t2は生理食塩水吸収後の吸水シート構成体におけるエンボス厚み(mm)である。 (A)膨張厚み比(T2/T1)が、2以上 (B)膨張エンボス深さ[(T2-t2)/T2]が、0.7以上 を有することを特徴とし、 ここで、前記エンボス部には吸水性樹脂と接着剤とが介在し、生理食塩水吸収により前記エンボス部は膨張する、吸水シート構成体。 【請求項2】 前記吸水シート構成体に施されたエンボスの面積率が、該吸水シート構成体のエンボスが施された面の面積の3?25%である請求項1に記載の吸水シート構成体。 【請求項3】 前記吸水シート構成体の乾燥状態の厚みが、4mm以下である請求項1又は2に記載の吸水シート構成体。 【請求項4】 請求項1?3のいずれか1項に記載の吸水シート構成体を、液体透過性シート及び液体不透過性シートで狭持してなる、吸収性物品。 (2)取消理由の概要 訂正前の請求項1?4に係る特許に対して平成28年2月15日付けで特許権者に通知した取消理由は、要旨次のとおりである。 (ア)本件特許の請求項1?4に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (イ)本件特許の請求項1?4に係るに係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (ウ)請求項1?4は、「吸水シート構成体」あるいは「吸収性物品」という物の発明であるが、当該請求項にはその物の製造方法が記載されており、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 引用刊行物一覧 甲第1号証:特開2010-51654号公報 甲第2号証:特開2009-22670号公報 甲第3号証:特開2004-275225号公報 甲第4号証:特開2005-6954号公報 (3)甲号証の記載 甲第1号証には、「吸水性樹脂粉末47と接着剤を含有してなる吸収層が第1シート材45と第2シート材46により該吸収層の上方及び下方から挟持され、該接着剤により該シート材に接着された構造を有する下層吸収部44であって、第1シート材45と第2シート材46とが吸水性樹脂粉末47を介在させずに接着剤やヒートシール等の接合手段によって互いに接合されてなる接合部48を複数有し、湿潤状態になっても接合部48は膨張しない、下層吸収部44。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されている(特に、段落【0001】、【0009】、【0020】?【0024】、【0026】?【0027】、【0042】、【0047】、【0057】?【0058】、【0060】、図1?9参照。)。 甲第2号証には、「吸水性樹脂粉末43と接着剤を含有してなる吸収層が第1シート41と第2シート42により該吸収層の上方及び下方から挟持され、該接着剤により該シート材に接着された構造を有するポリマーシート4であって、第1シート41と第2シート42とが接合される、吸水性樹脂粉末42が存在しない非存在域45を複数有し、吸水性樹脂粉末43の吸液・膨潤によっても非存在域45は膨張しない、ポリマーシート4。」(以下、「甲2発明」という。)が記載されている(特に、段落【0001】、【0009】、【0016】、【0020】?【0024】、【0026】?【0027】、【0038】、【0040】、【0042】、図1?4参照。)。 甲第3号証には、「吸水性樹脂粉末3と第1接着剤層S1と第2接着剤層S2とを含有してなる吸収層が第1不織布シート2と第2不織布シート4により該吸収層の上方及び下方から挟持され、該第1接着剤層S1と第2接着剤層S2により該第1不織布シート2と第2不織布シート3に接着された構造を有するシート状吸水層1であって、第1不織布シート2と第2不織布シート4とを接合する、吸水性樹脂が存在しないか、あるいは存在しても極わずかな量である封止部5を複数有している、シート状吸水層1。」(以下、「甲3発明」という。)が記載されている(特に、段落【0001】、【0014】、【0026】?【0029】、【0046】、【0075】?【0082】、図1?10参照。)。 甲第4号証には、「吸水性樹脂粉末33と第1接着剤層S1と第2接着剤層S2とを含有してなる吸収層が第1不織布シート31と第2不織布シート32により該吸収層の上方及び下方から挟持され、該第1接着剤層S1と第2接着剤層S2により該第1不織布シート31と第2不織布シート32に接着された構造を有するシート状吸水層3であって、第1不織布シート31と第2不織布シート32とを接合する、吸水性樹脂が存在しないか、あるいは存在しても封止に影響のない量である封止部35を複数有している、シート状吸水層3。」(以下、「甲4発明」という。)が記載されている(特に、段落【0001】、【0008】、【0033】?【0037】、【0044】?【0045】、【0052】?【0055】、【0058】?【0060】、図1?9参照。)。 (4)判断 (ア)特許法第29条第1項第3号について 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「接合部48」は、吸水性樹脂粉末47を介在させておらず、湿潤状態になっても膨張しないのに対し、本件発明1の「エンボス部」は、吸水性樹脂と接着剤とが介在し、生理食塩水吸収により膨張する点で相違する。 よって、本件発明1、及び本件発明1を引用する本件発明2?4は、甲1発明ではない。 本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「非存在域45」は、吸水性樹脂粉末42が存在せず、吸水性樹脂粉末43の吸液・膨潤によっても膨張しないのに対し、本件発明1の「エンボス部」は、吸水性樹脂と接着剤とが介在し、生理食塩水吸収により膨張する点で相違する。 よって、本件発明1、及び本件発明1を引用する本件発明2?4は、甲2発明ではない。 (イ)特許法第29条第2項について 本件発明1は、「前記エンボス部には吸水性樹脂と接着剤とが介在し、生理食塩水吸収により前記エンボス部は膨張する」ことを発明特定事項とし、形態保持性と吸収能力の両立を図るものであるが(本件明細書段落【0011】参照)、甲1発明の「接合部48」及び甲2発明の「非存在域45」は液体の吸収により膨張しないものである。また、甲3発明の「封止部5」及び甲4発明の「封止部35」は、吸水性樹脂が存在しないか、あるいは存在しても極わずかな量又は封止に影響のない量であるので、液体の吸収により膨張しないか、少なくとも明確に膨張するとはいえないものである。 そうすると、甲1発明?甲4発明のいずれも、本件発明1の発明特定事項である「前記エンボス部には吸水性樹脂と接着剤とが介在し、生理食塩水吸収により前記エンボス部は膨張する」との構成を欠くので、本件発明1の課題を解決するものではなく、本件発明1の作用効果と同様な作用効果を奏するものではない。 よって、本件発明1、及び本件発明1を引用する本件発明2?4は、甲1発明、甲2発明、甲3発明、甲4発明のいずれからも当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ)特許法第36条第6項第2号について 訂正前の請求項1の「エンボスが施され」は、「エンボス部を有し」と訂正され、物の構造を特定しようとする記載となった。 また、請求項1の「吸水性樹脂と、接着剤とを含有してなる吸収層が、親水性不織布により該吸収層の上方及び下方から挟持され該接着剤により該親水性不織布に接着された構造を有する」の記載は、物の構造を特定しようとする記載と認められる。 よって、本件発明1、及び本件発明1を引用する本件発明2?4は、取消理由によっては不明確とまではいえない。 (エ)特許異議申立人の意見について 特許異議申立人は、訂正事項2により追加された「前記エンボス部には吸水性樹脂と接着剤とが介在し、生理食塩水吸収により前記エンボス部は膨張する」事項を、本件明細書段落【0027】の(c)の方法及び【0075】?【0081】の[実施例1]の製造方法は満たさないので、請求項1?4は、特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていないと主張する。 しかし、上記2.(2)(イ)で述べたように、本件明細書段落【0027】の(c)の方法及び【0075】?【0081】の[実施例1]の製造方法で得られた吸水シート構成体が、「前記エンボス部には吸水性樹脂と接着剤とが介在し、生理食塩水吸収により前記エンボス部は膨張する」ことは、それらの記載から当業者が読み取れる事項であるので、本件発明1?4は、本件明細書に記載されたものであるから、特許異議申立人の主張は採用できない。 (5)むすび 以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件発明1?4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 吸水性樹脂と、接着剤とを含有してなる吸収層が、親水性不織布により該吸収層の上方及び下方から挟持され該接着剤により該親水性不織布に接着された構造を有する吸水シート構成体であって、該吸水シート構成体の上面及び下面の少なくとも1面にエンボス部を有し、以下の特性: 生理食塩水を、該吸水シート構成体1m^(2)あたり4L(4L/m^(2))吸収させた際に、次の関係(A)及び(B)の両方を満たすこと。ただし、T1は生理食塩水吸収前の吸水シート構成体厚み(mm)、T2は生理食塩水吸収後の吸水シート構成体厚み(mm)、t2は生理食塩水吸収後の吸水シート構成体におけるエンボス厚み(mm)である。 (A)膨張厚み比(T2/T1)が、2以上 (B)膨張エンボス深さ[(T2-t2)/T2]が、0.7以上 を有することを特徴とし、 ここで、前記エンボス部には吸水性樹脂と接着剤とが介在し、生理食塩水吸収により前記エンボス部は膨張する、吸水シート構成体。 【請求項2】 前記吸水シート構成体に施されたエンボスの面積率が、該吸水シート構成体のエンボスが施された面の面積の3?25%である請求項1に記載の吸水シート構成体。 【請求項3】 前記吸水シート構成体の乾燥状態の厚みが、4mm以下である請求項1又は2に記載の吸水シート構成体。 【請求項4】 請求項1?3のいずれか1項に記載の吸水シート構成体を、液体透過性シート及び液体不透過性シートで狭持してなる、吸収性物品。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2016-08-04 |
出願番号 | 特願2012-506933(P2012-506933) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(A61F)
P 1 651・ 537- YAA (A61F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 二ッ谷 裕子 |
特許庁審判長 |
渡邊 豊英 |
特許庁審判官 |
蓮井 雅之 見目 省二 |
登録日 | 2015-04-10 |
登録番号 | 特許第5727999号(P5727999) |
権利者 | 住友精化株式会社 |
発明の名称 | 吸水シート構成体 |
代理人 | 細田 芳徳 |
代理人 | 細田 芳徳 |