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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C07C
管理番号 1321223
異議申立番号 異議2016-700007  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-12-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-01-08 
確定日 2016-08-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5745745号発明「中和法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5745745号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1、2、4ないし11]について訂正することを認める。 特許第5745745号の請求項1、2、4ないし11に係る特許を維持する。 特許第5745745号の請求項3に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 1 手続の経緯
本件特許第5745745号の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、2006年8月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2005年9月7日 (DE)ドイツ)を国際出願日として特許出願され、平成27年5月15日に特許権の設定登録がされ、平成27年7月8日に特許公報が発行された。その後、その特許について、平成28年1月8日に特許異議申立人株式会社日本触媒(以下、「特許異議申立人」という)により特許異議の申立てがなされ、平成28年3月16日付けで取消理由が通知され、その指定期間である平成28年6月3日に意見書の提出及び訂正の請求があったものである。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「少なくとも1種のエチレン性不飽和カルボン酸を少なくとも部分的に塩基で予備中和する中和法において、
予備中和を連続的に実施して予備中和された溶液を部分的に予備中和に返送し、かつ残りの予備中和された溶液を少なくとも2つの部分溶液に分け、その際、少なくとも1つの部分溶液を連続的に後処理することで異なる中和度及び/又は固体含有率を有する部分溶液が得られ、かつ、その際、予備中和された溶液の中和度は塩基の添加によって高めるか、あるいはエチレン性不飽和カルボン酸の添加によって低下させ、および/または、予備中和された溶液の固体含有率は、水の添加によって低下させることを特徴とする方法。」

「少なくとも1種のエチレン性不飽和カルボン酸を少なくとも部分的に塩基としてアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩又はそれらの混合物で予備中和する中和法において、
予備中和を連続的に実施して予備中和された溶液を部分的に予備中和に返送し、かつ残りの予備中和された溶液を少なくとも2つの部分溶液に分け、その際、少なくとも1つの部分溶液を連続的に後処理することで異なる中和度及び/又は固体含有率を有する部分溶液が得られ、かつ、その際、予備中和された溶液の中和度は塩基の添加によって高めるか、あるいはエチレン性不飽和カルボン酸の添加によって低下させ、および/または、予備中和された溶液の固体含有率は、水の添加によって低下させることを特徴とする方法。」
と訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4の
「【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項記載の方法において、返送された予備中和された溶液を予備中和において連続して塩基及びエチレン性不飽和カルボン酸と混合することを特徴とする方法。」

「【請求項4】
請求項1または2記載の方法において、返送された予備中和された溶液を予備中和において連続して塩基及びエチレン性不飽和カルボン酸と混合することを特徴とする方法。」
と訂正する。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5の
「【請求項5】
請求項1から3までのいずれか1項記載の方法において、返送された予備中和された溶液を予備中和において連続して水、塩基及びエチレン性不飽和カルボン酸と混合することを特徴とする方法。」

「【請求項5】
請求項1または2記載の方法において、返送された予備中和された溶液を予備中和において連続して水、塩基及びエチレン性不飽和カルボン酸と混合することを特徴とする方法。」
と訂正する。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6の
「【請求項6】
請求項2から5までのいずれか1項に記載の方法において、エチレン性不飽和カルボン酸が、15?25℃の温度を有し、かつ/又は水性アルカリが25質量%未満のアルカリ含有率及び15?30℃の温度を有するか、又は水性アルカリが少なくとも25質量%のアルカリ含有率及び30?50℃の温度を有し、かつ/又は使用される場合には、水が15?30℃の温度を有することを特徴とする方法。」

「【請求項6】
請求項2、4および5のいずれか1項に記載の方法において、エチレン性不飽和カルボン酸が、15?25℃の温度を有し、かつ/又は水性アルカリが25質量%未満のアルカリ含有率及び15?30℃の温度を有するか、又は水性アルカリが少なくとも25質量%のアルカリ含有率及び30?50℃の温度を有し、かつ/又は使用される場合には、水が15?30℃の温度を有することを特徴とする方法。」
と訂正する。

カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7の
「【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法において、塩基と、エチレン性不飽和カルボン酸と、選択的に水のための少なくとも1つの配量位置が、ベンチュリ管として構成されていることを特徴とする方法。」

「【請求項7】
請求項1、2、4、5および6のいずれか1項に記載の方法において、塩基と、エチレン性不飽和カルボン酸と、選択的に水のための少なくとも1つの配量位置が、ベンチュリ管として構成されていることを特徴とする方法。」
と訂正する。

キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8の
「【請求項8】
請求項2から7までのいずれか1項に記載の方法において、水性アルカリが、苛性ソーダ液であり、かつ/又はエチレン性不飽和カルボン酸が、アクリル酸であることを特徴とする方法。」

「【請求項8】
請求項2、4、5、6および7のいずれか1項に記載の方法において、水性アルカリが、苛性ソーダ液であり、かつ/又はエチレン性不飽和カルボン酸が、アクリル酸であることを特徴とする方法。」
と訂正する。

ク 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9の
「【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の中和法を含む、吸水性ポリマーの製造方法。」

「【請求項9】
請求項1、2、4、5、6、7および8のいずれか1項に記載の中和法を含む、吸水性ポリマーの製造方法。」
と訂正する。

ケ 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10の
「【請求項10】
以下の
i)環状導管Rと、
ii)環状導管R中への少なくとも1つの第一の供給路Z_(1)と、
iii)環状導管R中への少なくとも1つの第二の供給路Z_(2)と、
iv)環状導管R中の少なくとも1つの熱交換器W(該熱交換器Wは、流動方向において前記供給路Z_(1)及びZ_(2)の後方に存在する)と、
v)環状導管Rからの少なくとも2つの導出路A_(n)(該導出路A_(n)は、流動方向において熱交換器Wの後方に存在する)と、
vi)少なくとも1つの導出路A_(n)中への少なくとも1つの供給路ZX_(n1)及び/又はZX_(n3)と、
vii)ポンプPと、
viii)選択的に、熱交換器Wと導出路A_(n)との間の容器Bと
を有する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の中和法を連続的に実施するための装置。」

「【請求項10】
以下の
i)環状導管Rと、
ii)環状導管R中への少なくとも1つの第一の供給路Z_(1)と、
iii)環状導管R中への少なくとも1つの第二の供給路Z_(2)と、
iv)環状導管R中の少なくとも1つの熱交換器W(該熱交換器Wは、流動方向において前記供給路Z_(1)及びZ_(2)の後方に存在する)と、
v)環状導管Rからの少なくとも2つの導出路A_(n)(該導出路A_(n)は、流動方向において熱交換器Wの後方に存在する)と、
vi)少なくとも1つの導出路A_(n)中への少なくとも1つの供給路ZX_(n1)及び/又はZX_(n3)と、
vii)ポンプPと、
viii)選択的に、熱交換器Wと導出路A_(n)との間の容器Bと
を有する、請求項1、2、4、5、6、7および8のいずれか1項に記載の中和法を連続的に実施するための装置。」
と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、特許請求の範囲の実質的拡張変更の存否

ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1の予備中和するための塩基を、訂正によって、【0032】の記載に基づき、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩又はそれらの混合物に特定するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

イ 訂正事項2は、請求項3を削除するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。

ウ 訂正事項3?9は、いずれも、請求項3を引用請求項から除外するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3?9は、いずれも新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

エ そして、訂正後の請求項1、2、4?11は、訂正事項1を含む請求項1を請求項2、4?11がそれぞれ引用しており、これらの訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。

(3)むすび
したがって、訂正事項1ないし9に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第4項の規定に適合し、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項について訂正を認める。

3 特許異議の申立てについて
(1)本件発明
特許第5745745号の請求項1、2、4ないし11に係る特許は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1、2、4ないし11に記載された事項により特定されるとおりの以下のものである(以下、それぞれ「本件発明1」「本件発明2」「本件発明4」ないし「本件発明11」、まとめて「本件発明」という。)。

「【請求項1】
少なくとも1種のエチレン性不飽和カルボン酸を少なくとも部分的に塩基としてアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩又はそれらの混合物で予備中和する中和法において、
予備中和を連続的に実施して予備中和された溶液を部分的に予備中和に返送し、かつ残りの予備中和された溶液を少なくとも2つの部分溶液に分け、その際、少なくとも1つの部分溶液を連続的に後処理することで異なる中和度及び/又は固体含有率を有する部分溶液が得られ、かつ、その際、予備中和された溶液の中和度は塩基の添加によって高めるか、あるいはエチレン性不飽和カルボン酸の添加によって低下させ、および/または、予備中和された溶液の固体含有率は、水の添加によって低下させることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、塩基が水性アルカリであることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1または2記載の方法において、返送された予備中和された溶液を予備中和において連続して塩基及びエチレン性不飽和カルボン酸と混合することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1または2記載の方法において、返送された予備中和された溶液を予備中和において連続して水、塩基及びエチレン性不飽和カルボン酸と混合することを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項2、4および5のいずれか1項に記載の方法において、エチレン性不飽和カルボン酸が、15?25℃の温度を有し、かつ/又は水性アルカリが25質量%未満のアルカリ含有率及び15?30℃の温度を有するか、又は水性アルカリが少なくとも25質量%のアルカリ含有率及び30?50℃の温度を有し、かつ/又は使用される場合には、水が15?30℃の温度を有することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1、2、4、5および6のいずれか1項に記載の方法において、塩基と、エチレン性不飽和カルボン酸と、選択的に水のための少なくとも1つの配量位置が、ベンチュリ管として構成されていることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項2、4、5、6および7のいずれか1項に記載の方法において、水性アルカリが、苛性ソーダ液であり、かつ/又はエチレン性不飽和カルボン酸が、アクリル酸であることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1、2、4、5、6、7および8のいずれか1項に記載の中和法を含む、吸水性ポリマーの製造方法。
【請求項10】
以下の
i)環状導管Rと、
ii)環状導管R中への少なくとも1つの第一の供給路Z_(1)と、
iii)環状導管R中への少なくとも1つの第二の供給路Z_(2)と、
iv)環状導管R中の少なくとも1つの熱交換器W(該熱交換器Wは、流動方向において前記供給路Z_(1)及びZ_(2)の後方に存在する)と、
v)環状導管Rからの少なくとも2つの導出路A_(n)(該導出路A_(n)は、流動方向において熱交換器Wの後方に存在する)と、
vi)少なくとも1つの導出路A_(n)中への少なくとも1つの供給路ZX_(n1)及び/又はZX_(n3)と、
vii)ポンプPと、
viii)選択的に、熱交換器Wと導出路Anとの間の容器Bと
を有する、請求項1、2、4、5、6、7および8のいずれか1項に記載の中和法を連続的に実施するための装置。
【請求項11】
請求項10に記載の装置であって、環状導管R及び/又は導出路A_(n)の少なくとも1つが、少なくとも1つの供給路Z_(1)、Z_(2)、ZX_(n1)もしくはZX_(n3)の合流点でベンチュリ管として構成されていることを特徴とする装置。」

(2)取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし11に係る特許に対して平成28年3月16日付けで特許権者に通知した取消理由は、概略次のとおりである。

理由1:請求項1?11に係る特許は、以下の点で、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

請求項1の「中和度」という用語は定義が【0036】に存在するが、「中和前の使用されるエチレン性不飽和カルボン酸の全量」との表現が用いられているため、返送された予備中和溶液に関する中和度の計算の場合と、後処理に回った部分溶液の中和度の計算の場合をそれぞれ、どのように定義しているのか不明確となっている。
請求項3の「予備中和された溶液の25?95%を返送する」との記載について、循環ルートを形成している系において、【0047】で説明されている返送割合を実際にどのように計算するのか、分母である「予備中和された溶液」の量と分子である「返送される予備中和された溶液」の量が明らかにされていないので、不明確である。
請求項2、4?11の記載についても、請求項1又は3を直接又は間接的に引用していることから同様に不明確である。

理由2:請求項1?11に係る特許は、以下の点で、その発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

理由1で述べたように、返送された予備中和溶液に関する中和度の計算の場合と、後処理に回った部分溶液の中和度の計算の場合をどのように定義しているのか不明確となっているため、実際にどのように「異なる中和度」を設定するのか不明確であり、請求項1記載の発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
理由1で述べたように、循環ルートを形成している系において、【0047】で説明されている返送割合を実際にどのように計算するのか不明確であるため、請求項3記載の発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

(3)判断
ア 特許法第36条第6項第2号について
請求項1の「中和度」に関して、【0036】には、「中和度は、中和後の中和されたエチレン性不飽和カルボン酸と、中和前の使用されるエチレン性不飽和カルボン酸の全量とのモル比である。」と記載されていること、本件特許の明細書の図1において、本件特許発明の中和法実施のための装置として、環状導管R、容器B、ポンプP、循環路を形成し、出発物質供給路、導出路が図示されていること及びクローズドループシステムにおいては、一定の液体を含み、システムへの供給量と排出量が同じであるという技術常識、容器Bからでる予備中和された溶液、ポンプPにリサイクルされた溶液および排出される予備中和された溶液は同じ組成であること、流速ポンプによって、環状導管内の流速を調整し、リサイクル率を調整することも技術常識であることを考慮すると、中和度の定義は、「中和後の中和されたエチレン性不飽和カルボン酸」として、系に供給された塩基の単位時間当たりの供給量を分子として、「中和前の使用されるエチレン性不飽和カルボン酸の全量」として、系に供給されたエチレン性不飽和カルボン酸の単位時間当たりの供給量を分母として、各中和度の算出位置での割り算によって計算するものと理解できる。
また、請求項3の「予備中和された溶液の25?95%を返送する」との記載については、請求項3が訂正によってすでに削除されていることからこの点での取消理由は存在しないが、請求項1の「予備中和された溶液を部分的に予備中和に返送し」との記載も、【0047】の「その返送によって、中和熱と溶解熱はより良好に分配され、かつ混合物中の温度ピーク(ピーク温度)は低く保持することができる。返送される予備中和された溶液の割合は、それぞれ、予備中和された溶液に対して、通常は、25?99%、有利には33?98%、特に有利には50?95%、殊に有利には80?90%である。」との記載及びリサイクル率の増加は、環状導管での単位時間当たりの物質移動量の増加を意味するとの技術常識を考慮すれば、当業者であれば本件明細書の記載から理解できる技術的事項であり、技術的意味が不明確な点はない。

イ 特許法第36条第4項第1号について
アで検討したとおり、中和度の定義は、「中和後の中和されたエチレン性不飽和カルボン酸」として、系に供給された塩基の単位時間当たりの供給量を分子として、「中和前の使用されるエチレン性不飽和カルボン酸の全量」として、系に供給されたエチレン性不飽和カルボン酸の単位時間当たりの供給量を分母として、各中和度の算出位置での割り算によって計算するものと理解でき、返送される予備中和された溶液の割合は、【0047】の「その返送によって、中和熱と溶解熱はより良好に分配され、かつ混合物中の温度ピーク(ピーク温度)は低く保持することができる。返送される予備中和された溶液の割合は、それぞれ、予備中和された溶液に対して、通常は、25?99%、有利には33?98%、特に有利には50?95%、殊に有利には80?90%である。」との記載及びリサイクル率の増加は、環状導管での単位時間当たりの物質移動量の増加を意味するとの技術常識を考慮すれば、当業者であれば理解できる技術的事項であり、当業者であれば理解できるため、実施できる程度に記載されたものといえる。

ウ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、平成28年7月21日付け意見書2頁10行,24?26行,6頁19?21行において、特許権者による説明は、本件発明とは異なる形態に基づきなされ、本件明細書の記載に基づいていないと主張し、環状導管Rへの供給量と排出量が同じであることを前提としない形態も本件発明にふくまれており、取消理由1及び取消理由2は解消していないと主張している。
しかしながら、特許権者の説明が当業者の技術常識に属するものであり、特許異議申立人も理解するように、当業者が環状導管Rへの供給量と排出量が同じであることを前提として、上記中和度の計算手法を技術常識として理解できるのであれば、本件明細書の記載は、技術常識を考慮して理解できるものといえ、特許権者による説明が、本件発明とは異なる形態に基づきなされ、本件明細書の記載に基づいていないとはいえず、記載不備はない。
また、平成28年7月21日付け意見書3頁17行?4頁10行において、特許異議申立人は中和度の計算として、ZX_(13)でさらに中和された部分溶液の中和度が62.5mol%となり、特許権者の説明とは相容れない旨主張しているが、特許権者は、上記技術常識に基づく計算手法に基づき、ZX_(13)でさらに中和された中和度75mol%のものと中和度を下げる処理をした中和度40mol%のものに関して説明しているところ、特許異議申立人の説明は、各中和度の算出位置での割り算ではなく、A_(1)とA_(2)で等量で分岐することを前提とした上で、A_(1)とA_(2)の合計のエチレン性不飽和カルボン酸の単位時間当たりの供給量を分母として、中和度の計算例を示しているだけであり、本件明細書において、中和度の計算として、そのような場合の説明がなされているわけでもないのであるから、両者の説明が一致していないことは、特許請求の範囲の記載が不明確であることや、発明の詳細な説明の記載が当業者が容易に実施できる程度に記載されていないことの理由とはならない。

エ 特許異議の申立書に記載された特許異議申立人の進歩性に関する理由に関して
異議申立人は、甲第1?21号証を提出し、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨主張しているので、取消理由は通知していないが、念のため以下に述べる。
提出された、甲第1?21号証には、本件発明1の発明特定事項である「残りの予備中和された溶液を少なくとも2つの部分溶液に分け、その際、少なくとも1つの部分溶液を連続的に後処理することで異なる中和度及び/又は固体含有率を有する部分溶液が得られ、かつ、その際、予備中和された溶液の中和度は塩基の添加によって高めるか、あるいはエチレン性不飽和カルボン酸の添加によって低下させ、および/または、予備中和された溶液の固体含有率は、水の添加によって低下させること」に関して、記載がなく、実際に記載された事項に基づいた主張がなされていない。
そして、上記特定事項が、本件特許優先日当時、技術常識であるとはいえず、本件発明は、その特定事項に基づき、本件明細書【0017】に記載された、容易に異なる中和度及び/又は固体含有率を有する中和された溶液を製造できる方法が提供できるという顕著な効果を奏しているので、特許異議申立人の甲第1?21号証に基づく進歩性に関する理由については理由がない。

オ むすび
以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件請求項1、2、4?11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2、4ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項3に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項3に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のエチレン性不飽和カルボン酸を少なくとも部分的に塩基としてアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩又はそれらの混合物で予備中和する中和法において、
予備中和を連続的に実施して予備中和された溶液を部分的に予備中和に返送し、かつ残りの予備中和された溶液を少なくとも2つの部分溶液に分け、その際、少なくとも1つの部分溶液を連続的に後処理することで異なる中和度及び/又は固体含有率を有する部分溶液が得られ、かつ、その際、予備中和された溶液の中和度は塩基の添加によって高めるか、あるいはエチレン性不飽和カルボン酸の添加によって低下させ、および/または、予備中和された溶液の固体含有率は、水の添加によって低下させることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、塩基が水性アルカリであることを特徴とする方法。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
請求項1または2に記載の方法において、返送された予備中和された溶液を予備中和において連続して塩基及びエチレン性不飽和カルボン酸と混合することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の方法において、返送された予備中和された溶液を予備中和において連続して水、塩基及びエチレン性不飽和カルボン酸と混合することを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項2、4および5のいずれか1項に記載の方法において、エチレン性不飽和カルボン酸が、15?25℃の温度を有し、かつ/又は水性アルカリが25質量%未満のアルカリ含有率及び15?30℃の温度を有するか、又は水性アルカリが少なくとも25質量%のアルカリ含有率及び30?50℃の温度を有し、かつ/又は使用される場合には、水が15?30℃の温度を有することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1、2、4、5および6のいずれか1項に記載の方法において、塩基と、エチレン性不飽和カルボン酸と、選択的に水のための少なくとも1つの配量位置が、ベンチュリ管として構成されていることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項2、4、5、6および7のいずれか1項に記載の方法において、水性アルカリが、苛性ソーダ液であり、かつ/又はエチレン性不飽和カルボン酸が、アクリル酸であることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1、2、4、5、6、7および8のいずれか1項に記載の中和法を含む、吸水性ポリマーの製造方法。
【請求項10】
以下の
i)環状導管Rと、
ii)環状導管R中への少なくとも1つの第一の供給路Z_(1)と、
iii)環状導管R中への少なくとも1つの第二の供給路Z_(2)と、
iv)環状導管R中の少なくとも1つの熱交換器W(該熱交換器Wは、流動方向において前記供給路Z_(1)及びZ_(2)の後方に存在する)と、
v)環状導管Rからの少なくとも2つの導出路A_(n)(該導出路A_(n)は、流動方向において熱交換器Wの後方に存在する)と、
vi)少なくとも1つの導出路A_(n)中への少なくとも1つの供給路ZX_(n1)及び/又はZX_(n3)と、
vii)ポンプPと、
viii)選択的に、熱交換器Wと導出路A_(n)との間の容器Bと
を有する、請求項1、2、4、5、6、7および8のいずれか1項に記載の中和法を連続的に実施するための装置。
【請求項11】
請求項10に記載の装置であって、環状導管R及び/又は導出路A_(n)の少なくとも1つが、少なくとも1つの供給路Z_(1)、Z_(2)、ZX_(n1)もしくはZX_(n3)の合流点でベンチュリ管として構成されていることを特徴とする装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-08-18 
出願番号 特願2008-529600(P2008-529600)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C07C)
P 1 651・ 537- YAA (C07C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 安田 周史  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 瀬良 聡機
加藤 幹
登録日 2015-05-15 
登録番号 特許第5745745号(P5745745)
権利者 ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
発明の名称 中和法  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 篠 良一  
代理人 八田国際特許業務法人  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 篠 良一  

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