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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A24D
審判 全部申し立て 2項進歩性  A24D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A24D
管理番号 1321230
異議申立番号 異議2015-700090  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-12-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-10-14 
確定日 2016-09-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5731045号発明「崩壊可能なカプセル、崩壊可能なカプセルを封入したフィルター、及び崩壊可能なカプセルを組み込んだ喫煙器具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5731045号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔5?16〕について訂正することを認める。 特許第5731045号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5731045号の請求項1ないし16に係る特許についての出願は、2006年6月21日(優先権主張外国庁受理 2005年6月21日 欧州特許庁、2005年8月5日 欧州特許庁)を国際出願日とする特願2008-517631号の一部を平成26年5月28日に新たな特許出願とし、平成27年4月17日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人新田 弘代により2件の特許異議申立がなされ、当審において平成28年2月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年5月20日に意見書の提出及び訂正の請求があったものである。


2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
平成28年5月20日の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第5731045号の特許請求の範囲を、本請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項5?16について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。

(訂正事項)
特許請求の範囲の請求項5に「シェルの全乾燥質量に対して80質量%未満のゼラチンを含む」とあるのを、「シェルの全乾燥質量に対して25.82質量%以下のゼラチンを含む」と訂正する。

(2)訂正の適否
ア 訂正の目的
上記訂正事項は、ゼラチンの含有量について「80質量%未満」を「25.82質量%以下」へとその範囲を狭めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項は、上記アのとおり、ゼラチンの含有量の範囲を狭めるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項で限定した事項は、本件明細書の段落【0058】【表1】の「ゼラチン 260A」「25.82%」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔5?16〕からなる一群の請求項についての訂正を認める。

3.特許異議申立について
(1)本件発明
本件訂正により訂正された訂正請求項1ないし16に係る発明(以下訂正請求項1?16に係る発明を「本件発明1?16」、また、これらをあわせて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
喫煙器具のフィルター中に封入される崩壊可能なカプセルであって、
前記崩壊可能なカプセルは、コアとシェルとを有し、前記コアは芳香剤を含み、
前記崩壊可能なカプセルは、ほぼ球形のシームレスカプセルであり、
前記崩壊可能なカプセルは、外径が2?8mmであり、
前記シェルの厚さは、10?500μmであり、
前記崩壊可能なカプセルは、0.5?2.5kpの初期崩壊強度Ciを有し、喫煙試験Aに供した後に0.5?2.5kpの崩壊強度Cfを維持し、
前記崩壊可能なカプセルは、喫煙試験Aに供した後、破裂前に直径の2/3未満の変形を示し、
前記シェルは、シェルの全乾燥質量に対して4?95質量%のジェランガム、アルギン酸塩、またはカラギーナンから選択される1種類、若しくはこれらの混合物からなる少なくとも1種類の親水性コロイドを含み、該親水性コロイドにより、喫煙試験Aに供した後の前記崩壊可能なカプセルに対して前記崩壊強度及び前記変形の特性が与えられ、
前記喫煙試験Aは、HEINR BORGWALDT社製RM 4/cs喫煙機を用いて行われ、崩壊可能なカプセルを含む紙巻きタバコを、喫煙機の通常の開始位置に配置し、調整可能なパラメータを、下記のとおり設定し、
パフ容量:35ml(喫煙機に関する国際標準法において定義される)
パフ持続時間:2秒
パフ頻度:60秒
パフ掃引時間:1.8秒
排気掃引時間:1秒
紙巻きタバコが完全に喫煙されるか、又は7回若しくは8回パフされた後、試験は完了する、崩壊可能なカプセル。
【請求項2】
前記シェルの厚さが30?150μmである請求項1に記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項3】
外径が3?5mmである請求項1又は2に記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項4】
比率(外径/前記シェルの厚さ)が10?100である請求項1から3のいずれかに記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項5】
前記シェルが、シェルの全乾燥質量に対して25.82質量%以下のゼラチンを含む請求項1から4のいずれかに記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項6】
前記シェルが少なくとも1層の防湿層で被覆されている請求項1から5のいずれかに記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項7】
前記防湿層が、ろう、シェラック、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ラテックス組成物、ポリビニルアルコール、及びこれらの混合物からなる群より選択される防湿剤を含む請求項6に記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項8】
前記ろうが、カルバナろう、カンデリラろう、蜜ろう、及びカーボワックスから選択される請求項7に記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項9】
前記防湿層がフィルム形成性のゲル化剤を含む請求項6に記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項10】
前記コアが溶媒を含む請求項1から9のいずれかに記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項11】
前記芳香剤が知覚芳香剤である請求項1から10のいずれかに記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項12】
前記芳香剤が、メントール、ミント香料、及びコハク酸メンチルからなる群より選択される請求項1から10のいずれかに記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項13】
前記シェルが、シェルの全乾燥質量に対して4?75質量%のジェランガム、アルギン酸塩、またはカラギーナンから選択される1種類、若しくはこれらの混合物からなる少なくとも1種類の前記親水性コロイドを含む請求項1から12のいずれかに記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項14】
前記コアの質量が、前記崩壊可能なカプセルの質量に対して50?92質量%である請求項1から13のいずれかに記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項15】
喫煙器具に備えられるフィルターであって、
請求項1から14のいずれかに記載の崩壊可能なカプセルがフィルターエレメント中に封入されたフィルター。
【請求項16】
燃焼物を含み、或いは受容することができる受容体と、該受容体に接続された請求項15に記載のフィルターとを備える喫煙器具。

(2)取消理由の概要
請求項1ないし16に係る特許に対して平成28年2月19日付けで特許権者に通知した取消理由は、要旨次のとおりである。

ア 特許法第36条第6項第1号
請求項1?16に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでないから、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

イ 特許法第36条第6項第2号
特許請求の範囲の記載は、以下の点で明確でないから、請求項1?16に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
(イ-1)請求項1の「前記シェルは、シェルの全乾燥質量に対して4?95質量%のジェランガム、アルギン酸塩、またはカラギーナンから選択される1種類、若しくはこれらの混合物からなる少なくとも1種類の親水性コロイドを含み、」は、シェルに含まれる親水性コロイドが、「ジェランガム、アルギン酸塩、またはカラギーナンから選択される1種類、若しくはこれらの混合物からなる少なくとも1種類」のみであるのか、「4?95質量%のジェランガム、アルギン酸塩、またはカラギーナンから選択される1種類、若しくはこれらの混合物からなる少なくとも1種類」の親水性コロイドを含んでいれば、それ以外の親水性コロイドも含み得るのか等、特定されるシェルの成分が明確でない。
(イ-2)請求項1の「喫煙試験Aに供した後に0.5?2.5kpの崩壊強度Cfを維持し」及び「喫煙試験Aに供した後、破裂前に直径の2/3未満の変形を示し」に係る、喫煙試験A中の「紙巻きタバコが完全に喫煙されるか、又は7回若しくは8回パフされた後、試験は完了する」との記載は、紙巻きタバコが完全に喫煙される場合、7回パフする場合又は8回パフする場合とでそれぞれ崩壊強度Cf及び変形の量が異なることが技術常識であるから、「紙巻きタバコが完全に喫煙されるか、又は7回若しくは8回パフされた後、試験は完了する」との記載は、崩壊強度Cf及び変形の量が一義的に決まらず、発明が明確でない。

ウ 特許法第36条第4項第1号
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、請求項1?16に係る発明の特許は、特許法第36条第4項第1号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

エ 特許法第29条第2項
請求項1?16に係る発明は、下記の甲第9号証及び甲第1、3?8、10、11号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1?16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

甲第1号証:特表2001-507925号公報
甲第3号証:特開平7-196478号公報
甲第4号証:特開平5-245366号公報
甲第5号証:粉体工学会 平成元年度秋期研究発表会講演要旨集,1989,p120-127
甲第6号証:再公表特許WO2003/043609号公報
甲第7号証:日本専売公社中央研究所 研究報告,1964,No.106,p151-156
甲第8号証:製剤機械技術研究会誌,1995,Vol.4,No.2,p29-34
甲第9号証:米国特許出願公開第2004/0261807号明細書及び抄訳
甲第10号証:特許3112468号公報
甲第11号証:特開2001-278740号公報


(3)本件明細書の記載
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、崩壊可能なカプセルを組み込んだ喫煙器具に関し、より具体的には、かかるカプセルをフィルターエレメントに組み込んだ、フィルター付喫煙器具に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明において、「カプセル」という用語は、物質の送達システムを意味し、該物質は、以下において「コア」と呼ばれ、シェルに封入されている。「崩壊可能なカプセル」という用語は、シェルが圧力により崩壊して、コアを放出することができ、より具体的には、喫煙者がカプセル中のコアを放出させたい場合に、喫煙者が指で圧力を加えることにより、シェルを破ることができる、上記のカプセルをいう。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ゼラチンのカプセルは優れた保存用カプセルであるが、水分に敏感であり、喫煙中に軟化するおそれがある。軟化してしまうと、ゼラチンのカプセルは、崩壊能、つまり、喫煙者がカプセル中のコアを放出させたい場合に、喫煙者が指で圧力を加えることにより、シェルを破裂させることができる能力を失う。通常、従来のゼラチンカプセルは、喫煙時の水分条件下で重大な変形を引き起こし、喫煙者が指で圧力を加えることにより、シェルを崩壊させることができなくなる。
【0006】
破裂能は、カプセルに圧力を加えて破裂させるための崩壊強度、及び加圧した場合の変形によって測定される。
【0007】
本発明のためには、24.5N(2.5kp)を上回る崩壊強度は、期待どおりの結果を得るためには高すぎると思われるため、乾燥状態の崩壊強度は、24.5N(2.5kp)を超えない。
【0008】
したがって、崩壊強度が24.5N(2.5kp)以下で、喫煙中にフィルターにもたらされる水分にさらされても崩壊能を維持することができる新規なカプセルが望まれている。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願人らは、カプセルの外側のシェルに選択された親水性コロイドを含ませ、且つ/又は外側のシェルを防湿層で被覆することにより、カプセルが、該喫煙器具中において、喫煙者によってもたらされる水分にさらされても崩壊能を維持することができることを見出した。
【0010】
したがって、本発明は、燃焼物、好ましくはタバコを含み、又は受容することができる受容体と、少なくとも1種類の崩壊可能なカプセルを含み、前記受容体に接続されたフィルターエレメントとを備え、該カプセルが、4.9?24.5N(0.5?2.5kp)の崩壊強度Ciを有し、4.9?24.5N(0.5?2.5kp)の崩壊強度Cfを維持し、喫煙試験Aに供した後、破裂前に直径の2/3未満の変形を示す、喫煙器具に関する(1kp=9.8Nであることは、当業者に公知である)。」

エ 「【0021】
シェルは、ジェランガム、寒天、アルギン酸塩、カラギーナン、ペクチン、アラビアゴム、ガティガム、プルランガム、マンナンガム又は改質デンプンから選択される少なくとも1種類の親水性コロイドを、単独で、又はこれらの混合物若しくはゼラチンとの混合物として含んでいる。シェル中に存在する該親水性コロイドの量は、シェルの全乾燥質量に対して1.5?95質量%、好ましくは4?75質量%、さらにより好ましくは20?50質量%である。好ましい実施形態において、選択される親水性コロイドはジェランである。」

オ 「【0024】
本発明の他の実施形態において、カプセルは、防湿層の被覆物を含んでいる。この実施形態において、カプセルのシェルは、有機溶媒、又は水溶液若しくは水懸濁液中に分散した少なくとも1種類の防湿剤を含む少なくとも1層の防湿層で被覆されている。この実施形態において、シェルは、この場合においてシェルの唯一のゲル化剤を構成することができるゼラチンを含む任意の親水性コロイドより製造することができる。しかし、好ましくは、疎水性の被覆物が存在する場合にも、シェルは、水分に対するある程度の抵抗性を付与するために十分な量のジェランガム、又は寒天、又はカラギーナン、又はアルギン酸塩、又はペクチン、又はプルランガム、又はマンナンガムも含んでおり、この場合において、シェルは、シェルの全乾燥質量に対して1.5?95質量%、好ましくは4?75%質量、さらにより好ましくは20?50%質量の、ジェラン、寒天、カラギーナン、及びプルランガムからなる群より選択される少なくとも1種類の親水性コロイドを含んでいてよい。本発明の他の実施形態によると、被覆されたカプセルのシェルは、ジェラン、又はアラビアゴム、又はペクチン、又は寒天、又はアルギン酸塩、又はカラギーナン、又はガティガム、又はプルランガム、又はマンナンガム、又はこれらの混合物を含んでいるが、ゼラチンを含んでいない。」

カ 「【実施例】
【0057】
<実施例1>同一のサイズを示す2種類のカプセルを、欧州特許第513603号明細書に記載の共押出法によって調製する。参照番号1004/H11で表される本発明のカプセルの組成(ゼラチンが80%未満で、且つジェランガムを含む)を、以下の表1に示し、参照番号1004/C30で表されるゼラチンを80%含む従来のカプセルの組成を、以下の表2に示す。それぞれのカプセルの質量は20.56mgであり、うち、シェルの質量が3.68mg(17.89%)、コアの質量が16.88mg(82.11%)である。
【0058】
表1-カプセル1004/H11
【表1】



キ 「【0071】
結果は下記のとおりである。
【表5】

喫煙後は、従来のカプセルはもはや崩壊しない。」

ク 「【0073】
カプセル1004/H6
【表6】

それぞれのカプセルの質量:20.96mgのうち、シェルの質量:3.72mg(17.74%)、コアの質量:17.24mg(82.26%)である。
【0074】
1個のカプセルを、紙巻きタバコのフィルターの空孔に導入した。上述の実施例1の記載と同様の方法により、崩壊強度Ciを測定した。
Ci=7.84±1.96N(0.80±0.20kp)
【0075】
その後、紙巻きタバコを、パフ回数8回の、上述の実施例2記載の試験Aに供した。8回のパフ後、カプセルは、「パチン」という音を立てて崩壊する。」

(4)判断
ア 特許法第36条第6項第1号について
本件発明は、上記ア?オの記載を総合すると、喫煙器具に関し、喫煙者がカプセル中のコアを放出させたい場合に、喫煙者が指で圧力を加えることにより、シェルを破ることができるフィルターエレメントに組み込んだカプセルを提供することを目的とし、その目的を解決する手段として、0.5?2.5kpの初期崩壊強度Ciを有し、喫煙試験Aに供した後に0.5?2.5kpの崩壊強度Cfを維持し、破裂前に直径の2/3未満の変形を示すカプセルを特定するものである。そして、本件発明1のほぼ球形のシームレスカプセルであること、外径及びシェルの厚さは、崩壊強度や変形に影響を与えるパラメータについて、前提として特定したものであり、シェルが、シェルの全乾燥質量に対して4?95質量%のジェランガム、アルギン酸塩、またはカラギーナンから選択される1種類、若しくはこれらの混合物からなる少なくとも1種類の親水性コロイドを含むことは、様々なシェルに用いられる親水性コロイドの中から、本件発明の初期崩壊強度Ci、喫煙試験Aに供した後の崩壊強度Cf及び破裂前の変形量を満たすのに適した親水性コロイドとその含有量の範囲を特定したものと解される。ゆえに、本件発明の目的は、本件発明で特定される初期崩壊強度Ci、喫煙試験Aに供した後の崩壊強度Cf及び破裂前の変形量(以下「本件発明で求められる崩壊強度等」という。)を満たすことで達成されるものである。
そして、本件明細書には、具体的に、ジェランガム ケルコF:11.62% ゼラチン 260A:25.82%(実施例1)、ジェランガム:13.33% ゼラチン:24.24%(実施例3)を含有するカプセルが、本件発明で求められる崩壊強度等を有すること(【表5】、【0074】、【0075】)が記載されているのみであるが、ゼラチンのみでは本件発明で求められる崩壊強度等を有しないものであること(【0005】)を考慮すると、ジェランガムを4?95質量%の範囲で適量含有させることで、本件発明で求められる崩壊強度を満たすことが理解できる。
また、アルギン酸塩及びカラギーナンは、本件明細書でシェルの成分としてジェランガムに並んで用いることができると記載されており(【0021】、【0024】)、ジェランガムと同様に多糖類に属するゲル化剤であることから、アルギン酸塩及びカラギーナンをジェランガムと同様に用いることで本件発明で求められる崩壊強度等を満たすようにできることは、当業者であれば、本件明細書の記載から理解できるものである。
なお、カラギーナンとアルギン酸塩との組合せを含むシェルについては平成26年11月10日付け意見書(平成27年10月14日付け異議申立の甲第1号証、平成27年12月10日付け特許異議申立の甲第12号証)で、ジェランガムを4.22質量%含むシェル及び2種類のカラギーナンを95.2質量%含むシェルについては平成27年2月5日付け意見書(平成27年10月14日付け異議申立の甲第5号証)で、本件発明で求められる崩壊強度等を満たすことが示されていることからも追認できる。

したがって、本件明細書には、シェルが、シェルの全乾燥質量に対して4?95質量%のジェランガム、アルギン酸塩、またはカラギーナンから選択される1種類、若しくはこれらの混合物からなる少なくとも1種類の親水性コロイドを含むことで、本件発明で求められる崩壊強度等を満たすことが記載されているといえるから、本件発明は本件明細書に記載されたものであって、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

イ 特許法第36条第6項第2号について
(イ-1)
請求項1中の「前記シェルは、シェルの全乾燥質量に対して4?95質量%のジェランガム、アルギン酸塩、またはカラギーナンから選択される1種類、若しくはこれらの混合物からなる少なくとも1種類の親水性コロイドを含み、」は、文言上、シェルが、ジェランガム、アルギン酸塩、またはカラギーナンから選択される1種類、若しくはこれらの混合物からなる少なくとも1種類の親水性コロイドをシェルの全乾燥質量に対して4?95質量%含有していることを特定していることは明らかであるが、その余のシェル成分がこれ以外に親水性コロイドを含み得るのかが明確であるかについて検討する。
本件明細書には、本件発明の実施例としてジェランガム ケルコF:11.62% ゼラチン 260A:25.82%(実施例1)、ジェランガム:13.33% ゼラチン:24.24%(実施例3)を含有するカプセルが記載されており、ゼラチンが親水性コロイドであることは明らかである。また、段落【0021】、【0024】には、シェルにジェランガム、アルギン酸塩、またはカラギーナン以外の親水性コロイドを用いることが記載されている。
そうすると、本件明細書の記載を参酌すると、シェルが、ジェランガム、アルギン酸塩、またはカラギーナン以外の親水性コロイドを含み得ることは明らかであって、シェルが、「シェルの全乾燥質量に対して4?95質量%のジェランガム、アルギン酸塩、またはカラギーナンから選択される1種類、若しくはこれらの混合物からなる少なくとも1種類の親水性コロイド」以外の成分として、本件発明の趣旨を損なわない範囲でその余の構成成分として、親水性コロイドを含む任意の成分を含み得ると解すことができる。
したがって、請求項1中の「前記シェルは、シェルの全乾燥質量に対して4?95質量%のジェランガム、アルギン酸塩、またはカラギーナンから選択される1種類、若しくはこれらの混合物からなる少なくとも1種類の親水性コロイドを含み、」と特定されるシェルの成分は明確である。

(イ-2)
請求項1には、「喫煙試験Aに供した後に0.5?2.5kpの崩壊強度Cfを維持し」及び「喫煙試験Aに供した後、破裂前に直径の2/3未満の変形を示し」に係る、喫煙試験Aについて、「紙巻きタバコが完全に喫煙されるか、又は7回若しくは8回パフされた後、試験は完了する」と記載されている。
「紙巻きタバコが完全に喫煙されるか、又は7回若しくは8回パフされた後、試験は完了する」とは、その文言上、試験の完了する時期について、紙巻きタバコが完全に喫煙される場合、7回パフされた場合、8回パフされた場合の3つの時期のうちの1つを選択して適用するものである。
そして、「喫煙試験Aに供した後」とは、上記3つの時期のうちの選択した1つの時期により完了した喫煙試験Aの後を意味していることは明確である。
したがって、請求項1中の喫煙試験Aに供した後の崩壊強度Cf及び変形量は、明確であるといえる。

ウ 特許法第36条第4項第1号について
特許異議申立人は、本件発明のシェルの成分について、本件明細書には、ジェランガム ケルコF:11.62% ゼラチン 260A:25.82%を含むシームレスカプセル(1004/H11)(実施例1)の崩壊強度Ci及びCfは記載されているが、その他の成分についての崩壊強度Ci及びCfは記載されておらず、本件明細書には当業者がその実施ができる程度に明確かつ十分に記載されていない旨主張する。
しかし、本件発明は、ゼラチンのみでは本件発明で求められる崩壊強度等を有しない旨の本件明細書の記載(【0005】)を考慮すると、シェルの成分として、ジェランガムを含有させることで、本件発明で求められる崩壊強度等を満たすと理解できる。また、アルギン酸塩及びカラギーナンは、本件明細書でシェルの成分としてジェランガムに並んで用いることができると記載されており(【0021】、【0024】)、ジェランガムと同様に多糖類に属するゲル化剤であることから、アルギン酸塩及びカラギーナンをジェランガムと同様に用いることで本件発明で求められる崩壊強度等を満たすようにできることは、当業者であれば、本件明細書の記載から理解できるものである。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものあるといえる。

エ 特許法第29条第2項について
(ア)甲9号証の記載
甲第9号証(【0011】、【0012】、【0059】、【0068】)には、
「フィルター中に封入された喫煙前、喫煙中、さらには喫煙後に破壊することができるカプセルであって、
カプセルは、ゼラチン等を含む外殻及び当該外殻によってシールされた内部領域を有し、内部領域には、主流煙の性質または特徴にフィルターを介して変化をもたらすことを意図した化合物(例えば芳香剤)を含み、
外表面または壁が連続してシールされた一部材であり、
約3.5mmの直径を有するカプセル。」の発明が記載されている。

(イ)対比・判断
本件発明1と甲第9号証の発明とを対比すると、少なくとも、崩壊可能なカプセルが、本件発明1では、「シェルの全乾燥質量に対して4?95質量%のジェランガム、アルギン酸塩、またはカラギーナンから選択される1種類、若しくはこれらの混合物からなる少なくとも1種類の親水性コロイドを含み、該親水性コロイドにより、喫煙試験Aに供した後の前記崩壊可能なカプセルに対して前記崩壊強度及び前記変形の特性が与えられ」るのに対して、甲第9号証の発明では、ゼラチン等を含む点で相違する。
この点について、異議申立人は、ゼラチンは吸湿性が高く水分量が高いと軟化すること、ジェランガムが耐水性を増強することは周知である(甲第8号証)。そして、ジェランガムはゼラチンと同様に煙草に使用できるシームレスカプセルの材料として周知である(甲第1、3、4号証)。よって、ゼラチンの軟化を防ぐためにジェランガム等を用いることに何ら困難性はない旨主張する(異議申立書59頁3?22行)。
しかし、甲第9号証の[0096]には、「たばこ内の水分レベル、およびタバコが保存され使用される下での通常の周囲条件は、これらのタバコ内のカプセルの破壊を引き起こすために、十分な水分が供給されていないか又は水にさらされていません。すなわち、水分量がカプセルのゼラチンの溶解に十分でなく、ひいてはカプセルの変形や破壊を引き起こすのに十分ではない。このように、カプセルは、カプセルが意図的に喫煙者によって破壊されるまで、通常の保存、取り扱い及び使用下で、タバコの中にその保全を保ための能力を維持しています。」(翻訳は当審による。)と記載されており、甲第9号証のカプセルは、ゼラチン等を含む外殻が喫煙時の水分によって変形及び破壊が生じるとはされておらず、喫煙後においても喫煙者が指で圧力を加えることで崩壊可能なものである(【0011】)。
そうすると、甲第9号証のカプセルは、喫煙前及び喫煙後において喫煙者が指で圧力を加えることで崩壊可能な十分な強度を有しているものであって、カプセルの吸湿性に伴う軟化を防ぐ必要は生じなく、甲第9号証の発明において、ゼラチンの軟化を防ぐためにジェランガムを用いる動機付けはあるとはいえないから、異議申立人の主張は、根拠がない。
したがって、上記相違点を容易になしえたとはいえず、本件特許発明は、甲第9号証の発明及び他の甲各号証に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得たとはいえない。
なお、甲第1号証は、「これらのビーズは、・・・燃焼による多糖マトリクスの破壊によって(煙草)周囲の製品マトリックス(surrounding product matrix)中に持続放出される」(10頁10?13行)と記載されているように、喫煙前及び喫煙後において喫煙者が指で圧力を加えることで崩壊可能なビーズでないから、甲第1号証のビーズに係る技術的事項を甲第9号証の発明に適用し得たとはいえない。また、甲第10号証の煙草用香料粒子は、「天然多糖類又はその誘導体からなる固体粒子中に、香料、及び希釈剤といてカゼインが混合されて封入されていることを特徴とする煙草用香料粒子。」(請求項1)と記載されており、その実施例である実施例1(第4欄33行?第6欄3行)の記載からみて、甲第9号証のコアとシェルからなるカプセルと異なるものであるから、甲第10号証の香料粒子に係る技術的事項を甲第9号証の発明に適用し得たとはいえない。

(ウ)本件発明2?16について
本件発明2?16は、請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、主たる証拠として挙げられた上記甲第9号証に記載された発明から当業者が容易になし得たものではない。



4.むすび
したがって、特許異議の申立の理由及び証拠によっては、請求項1ないし16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1乃至16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
喫煙器具のフィルター中に封入される崩壊可能なカプセルであって、
前記崩壊可能なカプセルは、コアとシェルとを有し、前記コアは芳香剤を含み、
前記崩壊可能なカプセルは、ほぼ球形のシームレスカプセルであり、
前記崩壊可能なカプセルは、外径が2?8mmであり、
前記シェルの厚さは、10?500μmであり、
前記崩壊可能なカプセルは、0.5?2.5kpの初期崩壊強度Ciを有し、喫煙試験Aに供した後に0.5?2.5kpの崩壊強度Cfを維持し、
前記崩壊可能なカプセルは、喫煙試験Aに供した後、破裂前に直径の2/3未満の変形を示し、
前記シェルは、シェルの全乾燥質量に対して4?95質量%のジェランガム、アルギン酸塩、またはカラギーナンから選択される1種類、若しくはこれらの混合物からなる少なくとも1種類の親水性コロイドを含み、該親水性コロイドにより、喫煙試験Aに供した後の前記崩壊可能なカプセルに対して前記崩壊強度及び前記変形の特性が与えられ、
前記喫煙試験Aは、HEINR BORGWALDT社製RM 4/cs喫煙機を用いて行われ、崩壊可能なカプセルを含む紙巻きタバコを、喫煙機の通常の開始位置に配置し、調整可能なパラメータを、下記のとおり設定し、
パフ容量:35ml(喫煙機に関する国際標準法において定義される)
パフ持続時間:2秒
パフ頻度:60秒
パフ掃引時間:1.8秒
排気掃引時間:1秒
紙巻きタバコが完全に喫煙されるか、又は7回若しくは8回パフされた後、試験は完了する、崩壊可能なカプセル。
【請求項2】
前記シェルの厚さが30?150μmである請求項1に記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項3】
外径が3?5mmである請求項1又は2に記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項4】
比率(外径/前記シェルの厚さ)が10?100である請求項1から3のいずれかに記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項5】
前記シェルが、シェルの全乾燥質量に対して25.82質量%以下のゼラチンを含む請求項1から4のいずれかに記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項6】
前記シェルが少なくとも1層の防湿層で被覆されている請求項1から5のいずれかに記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項7】
前記防湿層が、ろう、シェラック、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ラテックス組成物、ポリビニルアルコール、及びこれらの混合物からなる群より選択される防湿剤を含む請求項6に記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項8】
前記ろうが、カルバナろう、カンデリラろう、蜜ろう、及びカーボワックスから選択される請求項7に記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項9】
前記防湿層がフィルム形成性のゲル化剤を含む請求項6に記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項10】
前記コアが溶媒を含む請求項1から9のいずれかに記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項11】
前記芳香剤が知覚芳香剤である請求項1から10のいずれかに記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項12】
前記芳香剤が、メントール、ミント香料、及びコハク酸メンチルからなる群より選択される請求項1から10のいずれかに記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項13】
前記シェルが、シェルの全乾燥質量に対して4?75質量%のジェランガム、アルギン酸塩、またはカラギーナンから選択される1種類、若しくはこれらの混合物からなる少なくとも1種類の前記親水性コロイドを含む請求項1から12のいずれかに記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項14】
前記コアの質量が、前記崩壊可能なカプセルの質量に対して50?92質量%である請求項1から13のいずれかに記載の崩壊可能なカプセル。
【請求項15】
喫煙器具に備えられるフィルターであって、
請求項1から14のいずれかに記載の崩壊可能なカプセルがフィルターエレメント中に封入されたフィルター。
【請求項16】
燃焼物を含み、或いは受容することができる受容体と、該受容体に接続された請求項15に記載のフィルターとを備える喫煙器具。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-08-25 
出願番号 特願2014-110193(P2014-110193)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A24D)
P 1 651・ 536- YAA (A24D)
P 1 651・ 121- YAA (A24D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 貴雄  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 鳥居 稔
佐々木 正章
登録日 2015-04-17 
登録番号 特許第5731045号(P5731045)
権利者 ヴェ. マヌ フィル
発明の名称 崩壊可能なカプセル、崩壊可能なカプセルを封入したフィルター、及び崩壊可能なカプセルを組み込んだ喫煙器具  
代理人 新井 規之  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  
代理人 林 一好  
代理人 正林 真之  
代理人 新井 規之  
代理人 正林 真之  
代理人 林 一好  

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