ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L |
---|---|
管理番号 | 1321238 |
異議申立番号 | 異議2016-700670 |
総通号数 | 204 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-12-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-08-03 |
確定日 | 2016-10-24 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5850796号発明「ポリビニルアルコール樹脂フィルム材料、及び偏光フィルムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5850796号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5850796号(以下、「本件特許」という。)に係る特許出願は、平成24年5月17日を出願日とする出願であって、平成27年12月11日に設定登録がされ、平成28年2月3日に特許掲載公報が発行され、平成28年8月3日に特許異議申立人野本玲司(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第5850796号の請求項1ないし8の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであって、次のとおりのものである。 「【請求項1】 偏光フィルムを形成するためのポリビニルアルコール樹脂フィルムを得るために用いられるポリビニルアルコール樹脂フィルム材料であって、 けん化度が92モル%以上であり、重合度が2000以上、3000以下であるポリビニルアルコールを含み、 前記ポリビニルアルコールは、ポリスチレン換算分子量が1万以下である低分子量成分を含有し、かつ前記ポリビニルアルコールに占める前記低分子量成分の割合が5%以下である、ポリビニルアルコール樹脂フィルム材料。【請求項2】 前記ポリビニルアルコールの前記けん化度が98.5モル%以下である、請求項1に記載のポリビニルアルコール樹脂フィルム材料。 【請求項3】 溶剤をさらに含む、請求項1又は2に記載のポリビニルアルコール樹脂フィルム材料。 【請求項4】 請求項1?3のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール樹脂フィルム材料をフィルム状にして、ポリビニルアルコール樹脂フィルムを得るフィルム化工程と、 前記ポリビニルアルコール樹脂フィルムを染色する染色工程と、 前記ポリビニルアルコール樹脂フィルムを延伸する延伸工程と、 ホウ素化合物を用いて、固定処理を行う固定化工程とを備える、偏光フィルムの製造方法。 【請求項5】 前記延伸工程後に、前記固定化工程を行う、請求項4に記載の偏光フィルムの製造方法。 【請求項6】 前記フィルム化工程において、支持部材上に、前記ポリビニルアルコール樹脂フィルム材料を流涎し、乾燥することで、前記ポリビニルアルコール樹脂フィルムを得る、請求項4又は5に記載の偏光フィルムの製造方法。 【請求項7】 前記染色工程において、前記支持部材上に前記ポリビニルアルコール樹脂フィルムを積層した状態で、前記ポリビニルアルコール樹脂フィルムを染色する、請求項6に記載の偏光フィルムの製造方法。 【請求項8】 前記染色工程前に、前記延伸工程を行う、請求項4?7のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造方法。」 (請求項1ないし8に係る発明を、それぞれ本件発明1ないし8という。) 第3 申立理由の概要 特許異議申立人は、証拠として甲第1号証ないし甲第3号証を提出し、請求項1ないし8に係る特許は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項3号に該当するから、特許法第113条第2号により取り消すべきものである、または、請求項1ないし8に係る発明は甲第1号証ないし甲3号証に記載の発明及び出願時の技術常識に基づいて当業者が容易になし得た発明であって、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第113条第2号により取り消すべきものである旨主張している。 甲第1号証 特開2012-68677号公報(以下、「甲1」という。) 甲第2号証 庄清彦・川口正剛著、「ポリビニルアルコール水溶液の会合挙動に関するSEC-MALS解析」高分子論文集、Vol.60、No.6、 p300-304(2003)、社団法人高分子学会発行(以下、「甲2」という。) 甲第3号証 長野浩一・山根三郎・豊島賢太郎著、「ポバール」p120-123、高分子刊行会発行(1989年10月1日増刷版)(以下、「甲3」という。) 第4 刊行物の記載 1 刊行物に記載された事項 (1)甲1には、偏光性積層フィルムに関して、次の事項が記載されている。 (1-ア)「保護フィルムと、前記保護フィルムの一方の面に形成されている偏光子層とを備え、 前記偏光子層は、厚さ10μm以下であり、二色性色素を吸着配向させたポリビニルアルコール系樹脂から形成され、 前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は99.0モル%以下であり、 視認度補正単体透過率(Ty)が40%以上でかつ視感度補正偏光度(Py)が99.9%以上である、偏光板。」 (【請求項4】) (1-イ)「<偏光板の製造方法> 図4は、図2に示す偏光板13の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。これによると、偏光板13の製造方法は、基材フィルムの一方の表面上にケン化度が99.0モル%以下であるポリビニルアルコール系樹脂からなる樹脂層を形成して積層フィルムとする樹脂層形成工程(S10)、上記積層フィルムに5倍超の延伸倍率で一軸延伸処理を施し延伸フィルムとする延伸工程(S20)、二色性色素で染色して偏光子層12として偏光性積層フィルムを得る染色工程(S30)をこの順番に実施した後、上記偏光性積層フィルムの偏光子層12の基材フィルム11側の面とは反対側の面に保護フィルム14を貼合して多層フィルムを得る貼合工程(S40)、上記多層フィルムから基材フィルム11を剥離する剥離工程(S50)をこの順に備える。」 (段落【0064】) (1-ウ)「樹脂層は、好ましくは、ポリビニルアルコール系樹脂の粉末を良溶媒に溶解させて得たポリビニルアルコール系樹脂溶液を基材フィルムの一方の表面上に塗工し、溶剤を蒸発させて乾燥することにより形成される。樹脂層をこのように形成することにより、薄く形成することが可能となる。ポリビニルアルコール系樹脂溶液を基材フィルムに塗工する方法としては、ワイヤーバーコーティング法、リバースコーティング、グラビアコーティング等のロールコーティング法、ダイコート法、カンマコート法、リップコート法、スピンコーティング法、スクリーンコーティング法、ファウンテンコーティング法、ディッピング法、スプレー法、などを公知の方法から適宜選択して採用できる。乾燥温度は、たとえば50?200℃であり、好ましくは60?150℃である。乾燥時間は、たとえば2?20分である。」 (段落【0070】) (1-エ)「染色工程において、染色に次いで架橋処理を行うことが出来る。架橋処理は、たとえば架橋剤を含む溶液(架橋溶液)中に延伸フィルムを浸漬することにより行うことができる。架橋剤としては、従来公知の物質を使用することができる。たとえば、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物や、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどが挙げられる。これらは一種類でも良いし、二種類以上を併用しても良い」(段落【0081】) (1-オ)「 [実施例1] 図4に示す製造方法にしたがって、図2に示す偏光板を作製した。 (基材フィルム) 基材フィルムとして、厚み110μmの未延伸のポリプロピレン(PP)フィルム(融点:163℃)を用いた。 (プライマー層形成工程) ・・・ (樹脂層形成工程) ポリビニルアルコール粉末(クラレ(株)製、平均重合度2400、ケン化度98.0?99.0モル%、商品名:PVA124)を95℃の熱水中に溶解させ濃度8重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。得られた水溶液を上記プライマー層の上にリップコーターを用いて塗工し80℃で20分間乾燥させ、基材フィルム、プライマー層、樹脂層からなる三層の積層フィルムを作成した。 (延伸工程) 上記積層フィルムをテンター装置を用いて160℃で5.8倍の自由端一軸延伸を実施し延伸フィルムを得た。延伸後の樹脂層の厚みは6.1μmであった。 (染色工程) その後、延伸フィルムを60℃の温浴に60秒浸漬し、30℃のヨウ素とヨウ化カリウムの混合水溶液である染色溶液に150秒ほど浸漬して染色した後、10℃の純水で余分なヨウ素液を洗い流した。次いで76℃のホウ酸とヨウ化カリウムの混合水溶液である架橋溶液に600秒浸漬させた。その後10℃の純水で4秒間洗浄し、最後に50℃で300秒間乾燥させた。以上の工程により樹脂層から偏光子層を形成し、偏光性積層フィルムを得た。各溶液の配合比率は以下である。 ・・・ (保護フィルムの貼合) ・・・得られた偏光板から基材フィルムを剥離した。基材フィルムは容易に剥離され、保護フィルム、接着剤層、偏光子層、プライマー層の四層からなる偏光板を得た。偏光子層の厚みは6.1μmであった。」(段落【0092】?【0098】) (1-カ)「 [実施例2] 樹脂層に用いるポリビニルアルコールとして、ポリビニルアルコール粉末(日本合成化学工業(株)製、平均重合度2200、ケン化度97.5?98.5モル%、商品名:AH-22)を用いた点以外は実施例1と同じ方法で延伸フィルムを得た。延伸フィルムにおけるの樹脂層の厚みは5.5μmであった。さらに、実施例1と同様の方法で染色工程、貼合工程、剥離工程などを実施して、保護フィルム、接着剤層、偏光子層、プライマー層の四層からなる実施例2の偏光板を得た。偏光子層の厚みは5.6μmであった。」 (段落【0099】) (1-キ)「 [実施例3] 樹脂層に用いるポリビニルアルコールとして、ポリビニルアルコール粉末(日本酢ビ・ポバール(株)製、平均重合度2600、ケン化度95.5?97.5モル%、商品名:JM-26)を用いた点以外は実施例1と同じ方法で延伸フィルムを得た。延伸フィルムにおけるの樹脂層の厚みは5.3μmであった。さらに、実施例1と同様の方法で染色工程、貼合工程、剥離工程などを実施して、保護フィルム、接着剤層、偏光子層、プライマー層の四層からなる実施例3の偏光板を得た。偏光子層の厚みは5.3μmであった。」 (段落【0100】) (2)甲2には、次の記載がある。 (2-ア)「 」(301頁左欄) (2-イ)「 」(301頁左欄) (2-ウ)「 」(301頁左欄) (2-エ)「 」(302頁右欄) (2-オ)「 」(302頁右欄) (3)甲3には、次の記載がある。 (3-ア)「 」(121頁) (3-イ)「 」(122頁) 第5 対比・判断 1 甲1に記載された発明 甲1には、(1-オ)ないし(1-キ)及び実施例1ないし3に係る記載からみて次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。 「保護フィルム、接着剤層、偏光子層、プライマー層の四層からなる偏光板であって、樹脂層から前記偏光子層が形成され、前記樹脂層が、クラレ(株)製、平均重合度2400、ケン化度98.0?99.0モル%、商品名:PVA124、日本合成化学工業(株)製、平均重合度2200、ケン化度97.5?98.5モル%、商品名:AH-22、または、日本酢ビ・ポバール(株)製、平均重合度2600、ケン化度95.5?97.5モル%、商品名:JM-26であるポリビニルアルコール粉末を含むポリビニルアルコール水溶液から形成された、偏光板。」 2 本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「偏光子層」は、本件発明1の「偏光フィルム」に相当し、同様に「樹脂層」は「ポリビニルアルコール樹脂フィルム」に、「ポリビニルアルコール水溶液」は「ポリビニルアルコール樹脂フィルム材料」に、「ポリビニルアルコール粉末」は「ポリビニルアルコール」に、それぞれ相当する。 そして、ポリビニルアルコールのけん化度について、甲1発明と本件発明1とは重複一致している。 また、本件発明1の重合度について、「なお、上記重合度は、JIS K6726に準拠して測定される。」(段落【0038】)と定義されるから、甲1発明の「平均重合度」は本件発明1の「重合度」に相当し、該重合度において甲1発明と本件発明1とは重複一致している。 以上の点からみて、本件発明1と甲1発明とは、 [一致点] 「偏光フィルムを形成するためのポリビニルアルコール樹脂フィルムを得るために用いられるポリビニルアルコール樹脂フィルム材料であって、 けん化度が92モル%以上であり、重合度が2000以上、3000以下であるポリビニルアルコールを含む、 ポリビニルアルコール樹脂フィルム材料。」 である点で一致し、 次の点で相違する。 [相違点] ポリビニルアルコールの低分子量成分に関し、本件発明1では、ポリスチレン換算分子量が1万以下である低分子量成分を含有し、かつポリビニルアルコールに占める前記低分子量成分の割合が5%以下であると特定するのに対して、甲1発明ではそのような特定がない点。 イ 判断 相違点について 甲1には、ポリビニルアルコール粉末の低分子量成分についての明示的な記載はなく、また、低分子量成分の有無、含有量についての示唆もない。 この点に関し、甲2には、一般的な製造方法により得られた、けん化度99.9%以上、重合度が1700のあるPVAについて、低分子量成分が5%以下であることが推測できる記載があるものの、甲2に記載されるPVA以外の重合度が1700のPVAについて必ずしも低分子量成分の割合が所定の範囲にあるとまではいえず、重合度が1700よりも大きくした場合に、低分子量成分が含有され、その含有量が5%以下になるとまではいえない。 また、甲3には、重合度の調節手法およびメタノール濃度10%の場合の、重合度20?80%における重合度のグラフが記載されているものの、それらの記載から低分子量成分の有無、含有量を推定できるとはいえない。 そして、甲1発明の各ポリビニルアルコール粉末は市販品であることから、それらの製造条件は明らかでなく、本件実施例の製造条件との対比により、甲1発明の各ポリビニルアルコール粉末における低分子量成分の有無、含有量を推定することはできない。 そうすると、甲1発明において、各ポリビニルアルコール粉末について、甲2、甲3に記載される事項に基づいて、低分子量成分が特定の割合で含有されているとはいえない。 そして、甲1発明において、各ポリビニルアルコール粉末について、特定の低分子量成分に着目し、それを所定の含有量とする動機付けはなんら見い出せない。 よって、本件発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1ないし甲3に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 本件発明2ないし8について 本件発明2ないし8は、いずれも請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明ではなく、また、甲1ないし甲3に記載の発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。 4 まとめ 以上のとおり、請求項1ないし8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明ではない。また、請求項1ないし8に係る発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載の発明及び出願時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第6 むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-10-13 |
出願番号 | 特願2012-113663(P2012-113663) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 松浦 裕介、繁田 えい子 |
特許庁審判長 |
小野寺 務 |
特許庁審判官 |
橋本 栄和 上坊寺 宏枝 |
登録日 | 2015-12-11 |
登録番号 | 特許第5850796号(P5850796) |
権利者 | 積水化学工業株式会社 |
発明の名称 | ポリビニルアルコール樹脂フィルム材料、及び偏光フィルムの製造方法 |
代理人 | 特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所 |