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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G01N 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G01N 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 G01N |
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管理番号 | 1321244 |
異議申立番号 | 異議2016-700605 |
総通号数 | 204 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-12-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-07-11 |
確定日 | 2016-10-28 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5841644号発明「尿検査方法および尿検査装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5841644号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5841644号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成22年8月 3日を出願日とする特願2010-174191号の一部を平成26年7月30日に新たな特許出願としたものであって、平成27年11月20日に特許の設定登録がされ、その後、その本件特許の請求項1ないし7に係る特許に対し、特許異議申立人奥村一正により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし7の特許に係る発明(以下、それぞれの発明を「本件特許発明1」ないし「本件特許発明7」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、本件特許発明1、4は以下のとおりのものである。 なお、本件特許発明2及び3は本件特許発明1に、本件特許発明5ないし7は本件特許発明4に従属するものである。 「【請求項1】 尿検体についてアルブミン/クレアチニン比及び蛋白質を測定し、 前記尿検体について円柱及び赤血球を測定し、 アルブミン/クレアチニン比の測定値が所定値より高く、かつ、円柱の測定値が所定値より高い場合、早期糖尿病性腎症の疑いを示唆する第1情報を表示し、 蛋白質の測定値が所定値より高く、かつ、赤血球の測定値が所定値より高い場合、慢性腎炎の疑いを示唆する第2情報を表示する、尿検査方法。」 「【請求項4】 尿検体を搬送する搬送部と、 前記搬送部によって搬送された尿検体について少なくともアルブミン/クレアチニン比及び蛋白質を測定可能な尿定性測定部と、 前記搬送部によって搬送された尿検体について少なくとも円柱及び赤血球を測定可能な尿中有形成分測定部と、 前記尿定性測定部により得られたアルブミン/クレアチニン比の測定値が所定値より高く、かつ、前記尿中有形成分測定部により得られた円柱の測定値が所定値より高い場合、早期糖尿病性腎症の疑いを示唆する第1情報を表示し、前記尿定性測定部により得られた蛋白質の測定値が所定値より高く、かつ、前記尿中有形成分測定部により得られた赤血球の測定値が所定値より高い場合、慢性腎炎の疑いを示唆する第2情報を表示する表示部とを備える、尿検査装置。」 第3 申立理由の概要 特許異議申立人(以下、「申立人」という。)は、証拠として次の甲1号証ないし甲11号証(以下、甲1号証を「甲1」のように甲と番号を組み合わせていうこととする。)を提出した。 甲1:宿谷賢一, ”5.アトラス尿沈渣の実際 円柱類”,月刊Medical Technology 別冊 新・カラーアトラス尿検査,医歯薬出版株式会社,2004年9月20日,p.98-110 甲2:特開2005-37335号公報 甲3:特開2006-98233号公報 甲4:渡辺悦也, ”泌尿器科のお話 第4回 潜血反応って…。”,[online],平成17年,[平成28年6月3日検索],インターネット<URL:http://hoinet.com/sunday/doctor/kenko/urology/04.htm> 甲5:特開平9-218197号公報 甲6:平成27年10月6日付け特許メモ 甲7:特開平10-332690号公報 甲8:「臨床と検査 -病態へのアプローチ-(VOL.52)」 尿沈渣における円柱と腎疾患 発行年月日不明 甲9:特開平6-317588号公報 甲10:特公平6-35974号公報 甲11:特開2006-98219号公報 そして、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)の第49頁「(5) むすび」の項に記載された条文に鑑み、申立理由を整理すると、次の(申立理由1)ないし(申立理由6)を申立人は主張している。 (申立理由1) 本件特許発明1ないし7は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていない発明であり、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、特許法第113条第4号の規定に該当し、本件請求項1ないし7に係る特許は取り消されるべきものである。 (申立理由2) 本件特許明細書には不備があり、本件特許発明1ないし7を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明しておらず、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、特許法第113条第4号の規定に該当し、本件請求項1ないし7に係る特許は取り消されるべきものである。 (申立理由3) 本件特許発明1ないし3は、甲1に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)、及び、甲1ないし5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第113条第2号の規定に該当し、本件請求項1ないし3に係る特許は取り消されるべきものである。 (申立理由4) 本件特許発明4ないし7は、甲3に記載された発明(以下、「甲3発明」という。)、及び、甲1ないし5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第113条第2号の規定に該当し、本件請求項4ないし7に係る特許は取り消されるべきものである。 (申立理由5) 本件特許発明1は、甲7に記載された発明(以下、「甲7発明」という。)、及び、甲2、3、7ないし10に記載された事項に基づいて、また、本件特許発明2及び3は、甲7発明、及び、甲2、3、7ないし11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第113条第2号の規定に該当し、本件請求項1ないし3に係る特許は取り消されるべきものである。 (申立理由6) 本件特許発明4ないし7は、甲3発明、及び、甲3、7ないし11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第113条第2号の規定に該当し、本件請求項4ないし7に係る特許は取り消されるべきものである。 第4 各申立理由についての検討 1 申立理由3の検討 (1) 甲1ないし5に記載された事項 ア 甲1に記載された事項 甲1には、次の事項が記載されている(下線は当審において付与。)。 (甲1-ア) 第103頁 表3 「尿定性検査と各種円柱の関連性」 「 」 (甲1-イ) 第102頁右欄下7行-第104頁左欄第1行 「尿定性検査と各種円柱の関連性 尿沈渣を検鏡するときに,尿定性検査結果を参照することはいうまでもないが,他の臨床検査結果も加えて参照することにより,検鏡のレベルアップにつながる.卵円形脂肪体の出現有無と各円柱の出現パターンにより,腎疾患を大きく分けることが可能になり,スクリーニング検査としての意義は高い(表3).」 イ 甲1より認定できる事項 上記(甲1-ア)及び(甲1-イ)の記載より、以下の事項が認定できる。 (ア)上記(甲1-ア)に摘記した表3は、尿定性検査の結果と、HbA1C、赤血球形態等の臨床検査結果と、卵円形脂肪対の出現有無と各種円柱の出現パターンと、慢性腎症、糖尿病性腎症を含む各種疾患群との関係を示したものである。 (イ)尿蛋白定性検査において、蛋白が陽性側であり、尿潜血定性検査において、潜血が陰性側の判定となった場合、HbA1Cが高値であれば、糖尿病性腎症III期又は糖尿病性腎症IV期と関連する。 (ウ)尿蛋白定性検査において、蛋白が陽性側であり、尿潜血定性検査において、潜血が陽性側の判定となった場合、赤血球形態が変形していれば、慢性腎炎症候群等と関連する。 (エ)尿定性検査結果の参照に加えて卵円形脂肪体の出現有無と各種円柱の出現パターンにより、腎疾患を大きく分けることが可能である。 (オ)上記(甲1-イ)には、「スクリーニング検査としての意義は高い」との記載があることから、スクリーニング検査を実施することが示唆されており、該スクリーニング検査は、尿定性検査の結果に、他の臨床検査結果も加えて参照するもので、卵円形脂肪体の出現有無と各種円柱の出現パターンを参照するものであり、慢性腎症、糖尿病性腎症を含む各種疾患群との関係に基づいたものであるといえる。 ウ 甲1発明の認定 上記ア及びイを総合すると、甲1発明は、以下のとおり認定できる。 「(a)尿定性検査の結果に、他の臨床検査結果も加えて参照するスクリーニング検査であり、 (b)尿蛋白定性検査において、蛋白が陽性側であり、尿潜血定性検査において、尿潜血が陰性側の判定となった場合、HbA1Cが高値であれば、糖尿病性腎症III期又は糖尿病性腎症IV期と関連し、 (c)蛋白が陽性側であり、尿潜血定性検査において、尿潜血が陽性側の判定となった場合、赤血球形態が変形していれば、慢性腎炎症候群等と関連し、 (d)尿定性検査の結果に加えて卵円形脂肪体の出現有無と各円柱の出現パターンを含む他の臨床検査結果も参照し腎疾患を分ける (e)スクリーニング検査。」 エ 甲2ないし甲5に記載された事項 (ア)甲2に記載された事項 甲2には、血液、唾液、尿、汗などの生体液に含まれる血糖、中性脂肪、コレステロール、肝機能マーカーなど特定成分を、迅速かつ高精度に分析・定量することができるバイオセンサの発明が記載されており、甲2の段落[0041]の記載より、アルブミンが尿に含まれる蛋白質の主成分であることが見て取れる。 (イ)甲3に記載された事項 甲3には、測定結果補正方法、尿分析システム、尿分析装置、及びコンピュータプログラムの発明が記載されており、甲3の段落[0004]の記載より、クレアチニン濃度は、尿の濃縮度を反映していることが開示されている。 (ウ)甲4に記載された事項 甲4には、「尿潜血反応って…。」のタイトルの記事が記載されており、尿潜血反応とは尿中の血色素反応を見る検査で、尿に血液(赤血球)が10000個/ml以上存在すれば陽性になる旨が記載されている。 (エ)甲5に記載された事項 甲5には、データチェック装置の発明が記載されており、検査装置で得られるデータの信頼性を容易に確認することができる装置が記載されている。 (2) 本件特許発明1について ア 本件特許発明1の特定事項 本件特許発明1を、当審において(A)-(E)の見出しを付けて分説すると、次のとおりである。 「(A)尿検体についてアルブミン/クレアチニン比及び蛋白質を測定し、 (B)前記尿検体について円柱及び赤血球を測定し、 (C)アルブミン/クレアチニン比の測定値が所定値より高く、かつ、円柱の測定値が所定値より高い場合、早期糖尿病性腎症の疑いを示唆する第1情報を表示し、 (D)蛋白質の測定値が所定値より高く、かつ、赤血球の測定値が所定値より高い場合、慢性腎炎の疑いを示唆する第2情報を表示する、 (E)尿検査方法。」 (3) 本件特許発明1と甲1発明との対比 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 ア 本件特許発明1(A)の特定事項について 甲1発明(b)において、尿蛋白定性検査の結果を用いていることから、甲1発明も、尿検体の蛋白質を測定していることは明らかである。 よって、本件特許発明1と甲1発明は、「尿検体について」「蛋白質を測定」する点で一致する。 イ 本件特許発明1(B)の特定事項について (ア)甲1発明(b)において、尿潜血定性検査の結果を用いていることから、甲1発明は、尿検体中の血液に関する指標の測定を行っていることは明らかである。一方、本件特許発明1における「赤血球を測定」 することも、尿検体中の血液に関する指標の測定を行っているといえる。 よって、本件特許発明1と甲1発明は、「尿検体について」血液に関する指標の測定を行う点で共通する。 (イ)甲1発明(d)において、「各円柱の出現パターンを含むを他の臨床検査結果も参照」 していることから、甲1発明も円柱の測定を行っているといえる。 よって、本件特許発明1と甲1発明は、「尿検体について」「円柱」を「測定」する点で一致する。 (ウ)以上のことから、本件特許発明1と甲1発明は、「尿検体について円柱及び」血液に関する指標の「測定」を行う点で共通する。 ウ 本件特許発明1(C)の特定事項について 甲1発明(b)において、「蛋白が陽性側であ」る場合に、「糖尿病性腎症III期又は糖尿病性腎症IV期と関連」する点と、本件特許発明1の「アルブミン/クレアチニン比の測定値が所定値より高く、かつ、円柱の測定値が所定値より高い場合、早期糖尿病性腎症の疑いを示唆する第1情報を表示」する点は、アルブミンが蛋白質であり、また、スクリーニング検査は、疾患の「疑いを示唆」するものであることを考慮すると、両者は、蛋白質に関する測定値が所定値より高い場合、糖尿病性腎症の疑いを示唆するものである点で共通する。 エ 本件特許発明1(D)の特定事項について (ア)甲1発明(c)における、「蛋白が陽性側であり、尿潜血定性検査において、尿潜血が陽性側の判定となった場合」と、本件特許発明1の「蛋白質の測定値が所定値より高く、かつ、赤血球の測定値が所定値より高い場合」は、「蛋白質の測定値が所定値より高く、かつ、」血液に関する指標の「測定値が」「高い場合」である点で、両者は共通する。 (イ)甲1発明(c)の「慢性腎炎症候群等」は、本願特許発明1の「慢性腎炎」に相当する。 (ウ)よって、本願特許発明1と甲1発明は、「蛋白質の測定値が所定値より高く、かつ、血液に関する指標の「測定値が」「高い場合」、慢性腎炎の疑いを示唆する点で両者は共通する。 エ 本件特許発明1(E)の特定事項について 甲1発明(e)におけるスクリーニング検査は、尿を用いており、また、検査方法といえるから、甲1発明と本件特許発明1は、「尿検査方法」である点で一致する。 よって、両者は、以下の点で一致する。 <一致点> 「尿検体について蛋白質を測定し、 前記尿検体について円柱及び血液に関する指標を測定し、 蛋白質に関する測定値が所定値より高い場合、糖尿病性腎症の疑いを示唆し、 蛋白質の測定値が所定値より高く、かつ、血液に関する指標の測定値が高い場合、慢性腎炎の疑いを示唆する、 尿検査方法。」 そして、以下の点で相違する。 <相違点1> 尿検体の蛋白質の測定に関して、本件特許発明1は、蛋白質に加えて、アルブミン/クレアチニン比を測定しているのに対して、甲1発明は、その点が不明である点。 <相違点2> 尿検体の血液に関する指標の測定に関して、本件特許発明1は、赤血球を測定しているのに対して、甲1発明は、尿潜血を測定している点。 <相違点3> 糖尿病性腎症の疑いの示唆に関して、本件特許発明1は、アルブミン/クレアチニン比の測定値が所定値より高く、かつ、円柱の測定値が所定値より高い場合、早期糖尿病性腎症の疑いを示唆するのに対して、甲1発明は、アルブミン/クレアチニン比の測定値、円柱の測定値のいずれをも用いておらず、さらに、疑いが示唆される糖尿病性腎症が、糖尿病性腎症III期・IV期であって早期糖尿病性腎症ではない点。 <相違点4> 慢性腎炎の疑いの示唆に関して、本件特許発明1は、赤血球の測定値が所定値より高い場合、慢性腎炎の疑いを示唆するのに対して、甲1発明は尿潜血が陽性側の判定となった場合に慢性腎炎の疑いを示唆する点。 <相違点5> 疾患の疑いを示唆するにあたって、本件特許発明1は、「疑いを示唆する」「第1情報」又は「第2情報」を表示することによって行うのに対して、甲1発明は、その点が不明である点。 (4) 本件特許発明1についての当審の判断 上記した各相違点のうち、まず、相違点3について検討する。 本件特許発明1は、アルブミン/クレアチニン比の測定値に加えて、円柱の測定値を用い、円柱の測定値が所定値より高い場合、早期糖尿病性腎症の疑いを示唆するものである。 この点に関して、申立人が示した甲2ないし甲5に記載された事項を参照すると、甲2ないし甲5のいずれにも、円柱の測定値が所定値より高い場合、早期糖尿病性腎症の疑いを示唆する点については記載されていないとともに、上記相違点3に係る構成が、当業者にとって自明な事項であるとする根拠も見出せない。 そもそも、甲1ないし5には、早期糖尿病性腎症の疑いの示唆についての言及すらされていない。 そして、本件特許発明1は、上記相違点3に係る構成を備えることによって、早期糖尿病性腎症の疑いを示唆することを可能とするという格別な作用効果を奏するものである。 よって、本件特許発明1は、上記した他の相違点について検討するまでもなく、甲1発明及び甲1ないし5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえない。 (5) 本件特許発明2及び3について 本件特許発明2及び3は、本件特許発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明及び甲1ないし5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえない。 (6) 小括 以上のことから、本件特許発明1ないし3についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないから、特許法第113条第2号の規定に該当するものではない。 2 申立理由4の検討 (1) 甲3に記載された事項 甲3には、上記「1 申立理由3の検討」「(1) 甲1ないし5に記載された事項」「エ 甲2ないし甲5に記載された事項」「(イ)甲3に記載された事項」において指摘した事項に加えて、以下の事項が記載されている(下線は当審において付与。)。 (甲3-ア)「【0031】 図1は、本発明の実施の形態に係る尿分析システムの構成を示す模式図である。図1に示すように、本実施の形態に係る尿分析システム1は、尿定性分析装置2と、尿中有形成分分析装置3と、搬送装置4及び5と、コンピュータ6とによって主として構成されている。コンピュータ6は、尿定性分析装置2及び尿中有形成分分析装置3と電気的に接続されており、尿定性分析装置2及び尿中有形成分分析装置3と相互にデータ通信をすることが可能となっている。 【0032】 図2は、本実施の形態に係る尿分析システム1の部分構成を示す斜視図である。図2に示すように、尿定性分析装置2と尿中有形成分分析装置3とは、隣り合って配置されており、尿定性分析装置2の前方には搬送装置4が、尿中有形成分分析装置3の前方には搬送装置5が配置されている。搬送装置4と搬送装置5とは、互いにボルト等によって結合されており、後述するように検体を搬送装置4,5間で連続搬送することができるようになっている。搬送装置4は、検体を尿定性分析装置2に自動的に供給することができるように構成されており、搬送装置5は、搬送装置4から受け取った検体を尿中有形成分分析装置3に自動的に供給することができるように構成されている。 【0033】 図3は、尿定性分析装置2の構成を示すブロック図である。尿定性分析装置2は、図3に示すように、CPU,ROM,RAM等から構成された制御部21と、コンピュータ6との間でデータの送受信を行う通信部22と、供給された検体に各測定項目(潜血濃度、蛋白濃度、白血球濃度(白血球エステラーゼ反応)、亜硝酸塩濃度、及びブドウ糖濃度)に対応した試験紙を浸し、夫々の試験紙の変色の度合いから各測定項目について測定する第1測定部23と、前記検体の屈折率を検出し、当該屈折率から検体の比重を測定する第2測定部24とから主として構成されている。かかる尿定性分析装置2は、潜血濃度、蛋白濃度、白血球濃度、亜硝酸塩濃度、及びブドウ糖濃度については、試験紙の変色度合いを(-)、(±)、(+)、(2+)、(3+)、…、(7+)の9段階に自動的に分類し、夫々に対応する測定結果データを通信部22からコンピュータ6へ送信し、比重については、その測定値を示す測定結果データを通信部22からコンピュータ6へ送信するように構成されている。 【0034】 図4は、尿中有形成分分析装置3の構成を示すブロック図である。尿中有形成分分析装置3は、図4に示すように、CPU,ROM,RAM等から構成された制御部31と、コンピュータ6との間でデータの送受信を行う通信部32と、供給された検体に対してフローサイトメトリー方式で尿中有形成分(赤血球、白血球、円柱、細菌等)に関する各測定項目の測定値を得るための測定部33とから主として構成されている。 【0035】 図5は、尿中有形成分分析装置3の要部の構成を示す模式図である。測定部33は、反応部33aを有しており、搬送装置5によって搬送された尿検体(試料)を試料吸引ピペット(図示せず)によって吸引し、希釈液、染色液とともに前記試料を当該反応部33aへ導入するようになっている。反応部33aでは、試料を希釈液及び染色液と混合され、 これによって尿は4倍に希釈される。反応部33aは、撹拌機構と、サーミスタ等のヒータを有する温度制御部とを有しており、導入された試料を撹拌し、それと共に温度制御を行って、35℃の一定温度下で10秒間染色するようになっている。」 (甲3-イ)図1 」 (甲3-ウ)「図2 」 (2) 甲3発明の認定 上記(甲3-ア)ないし(甲3-ウ)を総合すると、甲3発明は以下のとおりのものである。。 「尿定性分析装置2と、尿中有形成分分析装置3と、搬送装置4及び5と、コンピュータ6とによって主として構成され、 尿定性分析装置2は、供給された検体に各測定項目(潜血濃度、蛋白濃度)について測定する第1測定部23と、検体の比重を測定する第2測定部24とから主として構成され、 尿中有形成分分析装置3は、尿中有形成分(赤血球、円柱等)に関する各測定項目の測定値を得るための測定部33とから主として構成された、 尿分析システム1。」 (3) 本件特許発明4と甲3発明との対比 本件特許発明4と甲3発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。 <相違点> 本件特許発明4は、尿定性測定部により得られたアルブミン/クレアチニン比の測定値が所定値より高く、かつ、尿中有形成分測定部により得られた円柱の測定値が所定値より高い場合、早期糖尿病性腎症の疑いを示唆する第1情報を表示し、前記尿定性測定部により得られた蛋白質の測定値が所定値より高く、かつ、前記尿中有形成分測定部により得られた赤血球の測定値が所定値より高い場合、慢性腎炎の疑いを示唆する第2情報を表示する表示部とを備えるのに対して、甲3発明は、そもそも、「尿定性測定部により得られたアルブミン/クレアチニン比の測定値が所定値より高く、かつ、尿中有形成分測定部により得られた円柱の測定値が所定値より高い場合、早期糖尿病性腎症の疑いを示唆する第1情報」を生成しておらず、加えて、第2情報、及び、表示部に関する構成も不明である点。 (4) 本件特許発明4についての当審の判断 本件特許発明4は、アルブミン/クレアチニン比の測定値に加えて、円柱の測定値を用い、円柱の測定値が所定値より高い場合、早期糖尿病性腎症の疑いを示唆する第1情報を表示するものである。 この点に関して、申立人が示した甲1ないし5のいずれにも、円柱の測定値が所定値より高い場合、早期糖尿病性腎症の疑いを示唆する点については記載されていないとともに、上記相違点に係る構成が、当業者にとって自明な事項であるとする根拠も見出せない。 そもそも、甲1ないし甲5には、早期糖尿病性腎症の疑いの示唆についての言及すらされていない。 そして、本件特許発明4は、上記相違点に係る構成を備えることによって、早期糖尿病性腎症の疑いを示唆するという格別な作用効果を奏するものである。 よって、本件特許発明4は、他の相違点について検討するまでもなく、甲3発明及び甲1ないし5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとすることができない。 (5) 本件特許発明5ないし7についての当審の判断 本件特許発明5ないし7は、本件特許発明4を更に減縮したものであるから、上記本件特許発明4についての判断と同様の理由により、本件特許発明5ないし7についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえない。 (6) 小括 以上のことから、本件特許発明4ないし7についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないから、特許法第113条第2号の規定に該当するものではない。 3 申立理由5の検討 (1) 甲2、3、7ないし11に記載された事項 ア 甲7に記載された事項 甲7には、以下の事項が記載されている(下線は当審において付与。)。 (甲7-ア)「【請求項1】尿検体におけるヘパラン硫酸の量的変化及び/又は質的変化を特定して、糖尿病患者の糖尿病性腎症への移行段階を検出する、糖尿病患者の状態の特定方法。」 (甲7-イ)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、糖尿病性腎症の病態の把握に係わる方法,及びこの方法を用いる診断用キットに関する技術分野の発明である。より詳細には、糖尿病性腎症へ移行する過程における、尿検体中のヘパラン硫酸の量的及び/又は質的な変化を検出することによって、糖尿病患者の状態を把握する方法,及びこの方法を用いるキットに関する発明である。」 (甲7-ウ)「【0007】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来糖尿病性腎症の診断の指標として用いられている尿検体中のアルブミン量は健常人においても変動し、このアルブミン量のみをもって、糖尿病(DM1)から糖尿病性早期腎症(DM2)、さらに糖尿病性腎症(DM3)に移行しつつある糖尿病患者の病態を正確に把握することは困難である。 【0008】また、この尿検体中のアルブンミン量の変化から糖尿病性早期腎症又は糖尿病性腎症と確定的診断が下された時点で適切な治療を開始したとしても、糖尿病性腎症がDM3の段階まで進行してしてしまっている場合が大部分であり、治療効果が現れず、重篤な腎症、更に腎不全へと進行する症例が多い。 【0009】そこで本発明が解決すべき課題は、尿検体中のアルブミン量による分類では糖尿病性早期腎症ではないが、糖尿病性早期腎症に移行しつつある糖尿病患者、又は糖尿病早期腎症であって、糖尿病性腎症に移行しつつある糖尿病患者を可能な限り早期に特定する手段を提供することにある。」 (甲7-エ)「【0067】すなわち、糖尿病患者を尿中アルブミン濃度(クレアチニン補正値:ACR;mg/g・CR)によりDM1、DM2、DM3の3群に分類した。DM1はACR<12であり、ACRに関しては健常人と同レベルの糖尿病患者群である。DM2は12≦ACR<200であり、糖尿病性早期腎症患者群である。DM3は200≦ACRであり、糖尿病性腎症患者群である。 【0068】図3は、尿検体中のヘパラン硫酸のレベルを各群間で比較したものであるが、尿検体中においては糖尿病患者(DM1)と健常人との間においても明らかにヘパラン硫酸レベルの差が認められた(糖尿病患者の尿検体中ヘパラン硫酸レベルは健常人に比べて明らか低い)。 【0069】またさらに、健常人(83例)、DM1(40例)、DM2(41例)及びDM3(43例)の尿を検体として採取し、この検体中のアルブミン濃度(クレアチニン補正値:ACR;mg/gCR)及びヘパラン硫酸濃度(クレアチニン補正値:mg/gCR)をプロットした際の分布領域を解析した(図4)。健常人とDM1患者の尿検体中アルブミン濃度は同レベルである。また、DM1患者の尿検体中ヘパラン硫酸濃度は健常人と同じレベルからその10分の1程度の低レベルまでと、分布が広い。糖尿病性腎症の病態の進行に従い、尿検体中ヘパラン硫酸濃度が低下する傾向は、DM1の段階ですでに認められると考えられる。そして、尿検体中ヘパラン硫酸濃度が低いDM1患者は、糖尿病性早期腎症(DM2)へ病態が進行する危険度が高いと考えられる。」 イ 甲7発明の認定 上記(甲7-ア)ないし(甲7-エ)より、甲7発明は、以下のとおりのものである。 「尿中アルブミン濃度(クレアチニン補正値)により、健常人と同レベルの糖尿病患者群、糖尿病性早期腎症患者群、糖尿病性腎症患者群の3群に分類する方法。」 ウ 甲2、3、8ないし11に記載された事項 (ア)甲2、3に記載された事項 甲2及び甲3に記載された事項は、上記「1 申立理由3の検討」「(1) 甲1ないし5に記載された事項」「エ 甲2ないし甲5に記載された事項」「(ア)甲2に記載された事項」、「(イ)甲3に記載された事項」及び、「2 申立理由4の検討」「(1) 甲3に記載された事項」に記載したとおりである。 (イ)甲8に記載された事項 甲8には、「尿沈渣における円柱と腎疾患」のタイトルの記事が記載されており、尿沈渣の結果を見る場合は、まず円柱の存在・赤血球の存在を確認する旨が記載されている。 (ウ) 甲9に記載された事項 甲9には、「腎疾患の検査方法,検査試薬およびキット」の発明が記載されており、慢性腎炎は、蛋白尿、血尿を発症させる病態の総称である旨が記載されている。 (エ) 甲10に記載された事項 甲10には、「蛋白質測定用試験片」の発明が記載されており、尿蛋白が高値になったことは患者が慢性腎炎であることの重要な指標となる旨が記載されている。 (オ) 甲11に記載された事項 甲11には、「測定結果チェック方法、測定結果チェックシステム、測定結果チェック装置、及びコンピュータプログラム」の発明が記載されている。 (2) 本件特許発明1と甲7発明との対比 本件特許発明1と甲7発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。 <相違点> 糖尿病性腎症の疑いの示唆に関して、本件特許発明1は、円柱の測定値が所定値より高い場合、早期糖尿病性腎症の疑いを示唆するのに対して、甲7発明は、円柱との関係が不明である点。 (3) 本件特許発明1についての当審の判断 甲7を参照すると、(甲7-ウ)に、「発明が解決しようとする課題」として、「従来糖尿病性腎症の診断の指標として用いられている尿検体中のアルブミン量は健常人においても変動し、このアルブミン量のみをもって、糖尿病(DM1)から糖尿病性早期腎症(DM2)、さらに糖尿病性腎症(DM3)に移行しつつある糖尿病患者の病態を正確に把握することは困難である。」と記載されているように、アルブミン/クレアチニン比の測定値のみでは、早期糖尿病性腎症の疑いを正確に示唆できなかったことは、この記載から明らかである。 一方、本件特許発明1は、円柱の測定値を用い、円柱の測定値が所定値より高い場合、早期糖尿病性腎症の疑いを示唆する第1情報を表示するものであり、早期糖尿病性腎症の疑いの示唆において、円柱の測定値を用いる点は、申立人が示した甲2、3、7ないし11のいずれにも記載されておらず、また、その点が当業者にとって自明な事項であるとする根拠も見いだせない。 そして、本件特許発明1は、上記相違点に係る構成を備えることによって、より確実に早期糖尿病性腎症の疑いを示唆するという格別な作用効果を奏するものである。 よって、本件特許発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、甲7発明及び甲2、3、7ないし11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえない。 (4) 本件特許発明2及び3について 本件特許発明2及び3は、本件特許発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲7発明及び甲2、3、7ないし11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえない。 (5) 小括 以上のことから、本件特許発明1ないし3についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないから、特許法第113条第2号の規定に該当するものではない。 4 申立理由6の検討 (1) 甲3、5、7ないし11に記載された事項 ア 甲3に記載された事項 甲3に記載された事項は、上記「1 申立理由3の検討」「(1) 甲1ないし5に記載された事項」「エ 甲2ないし甲5に記載された事項」「(イ)甲3に記載された事項」及び、「2 申立理由4の検討」「(1) 甲3に記載された事項」に記載したとおりである。 イ 甲5に記載された事項 甲5に記載された事項は、上記「1 申立理由3の検討」「(1) 甲1ないし5に記載された事項」「エ 甲2ないし甲5に記載された事項」「(エ)甲5に記載された事項」に記載したとおりである。 ウ 甲7ないし11に記載された事項 甲7ないし11に記載された事項は、上記「3 申立理由5の検討」「(1) 甲2、3、7ないし11に記載された事項」に記載したとおりである。 (2) 本件特許発明4と甲3発明との対比 甲3発明は、上記「2 申立理由4の検討」「(2)甲3発明の認定」に記載したとおりであり、両者は、上記「2 申立理由4の検討」「(3)本件特許発明4と甲3発明との対比」に記載したとおり、少なくとも、以下の点で相違する。 <相違点> 本件特許発明4は、尿定性測定部により得られたアルブミン/クレアチニン比の測定値が所定値より高く、かつ、尿中有形成分測定部により得られた円柱の測定値が所定値より高い場合、早期糖尿病性腎症の疑いを示唆する第1情報を表示し、前記尿定性測定部により得られた蛋白質の測定値が所定値より高く、かつ、前記尿中有形成分測定部により得られた赤血球の測定値が所定値より高い場合、慢性腎炎の疑いを示唆する第2情報を表示する表示部とを備えるのに対して、甲3発明は、そもそも、「尿定性測定部により得られたアルブミン/クレアチニン比の測定値が所定値より高く、かつ、尿中有形成分測定部により得られた円柱の測定値が所定値より高い場合、早期糖尿病性腎症の疑いを示唆する第1情報」を生成しておらず、加えて、第2情報、及び、表示部に関する構成も不明である点。 (3) 本件特許発明4についての当審の判断 本件特許発明4は、アルブミン/クレアチニン比の測定値に加えて、円柱の測定値を用い、円柱の測定値が所定値より高い場合、早期糖尿病性腎症の疑いを示唆する第1情報を表示するものである。 この点に関して、申立人が示した甲5、7ないし11のいずれにも、円柱の測定値が所定値より高い場合、早期糖尿病性腎症の疑いを示唆する点については記載されていないとともに、上記相違点に係る構成が、当業者にとって自明な事項であるとする根拠も見出せない。 そして、本件特許発明4は、上記相違点に係る構成を備えることによって、より確実に早期糖尿病性腎症の疑いを示唆するという格別な作用効果を奏するものである。 よって、本件特許発明4は、他の相違点について検討するまでもなく、甲3発明及び甲5、7ないし11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえない。 5 申立理由1の検討 (1)申立人の主張 申立人は、本件特許発明1ないし7は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていない発明であり、具体的には、測定結果画面に表示されるものは文字列「A/C×CAST?」であるが、本件特許明細書の段落[0079]に記載された「早期糖尿病性腎症の患者から採取された検体は、円柱(CAST)において高値を示し、アルブミン/クレアチニン比(A/C)においても高値を示す傾向」の存在を知らない者にとっては、文字列「A/C×CAST?」は、早期糖尿病性腎症以外のものを示す文字列であり、上記測定結果画面の表示の提供を受ける者として、上記傾向の存在を知らない者を除外する事情もないことから、「早期糖尿病性腎症の疑いを示唆する第1情報」とはなり得ない。また、文字列「PRO×RBC?」に関しても、同様の理由により、「慢性腎炎の疑いを示唆する第2情報」とはなり得ない。したがって、「早期糖尿病性腎症の疑いを示唆する第1情報」および「慢性腎炎の疑いを示唆する第2情報」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されておらず、本件特許発明1ないし7は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていない発明であると主張している。 (2)当審の判断 表示部に表示される文字列と、疾患の種類との間に、何らかの対応付けが行われることは当業者にとって明らかである。 そして、申立人の主張による「早期糖尿病性腎症の患者から採取された検体は、円柱(CAST)において高値を示し、アルブミン/クレアチニン比(A/C)においても高値を示す傾向」の存在を知らない者であっても、前記対応付けを知れば、「A/C×CAST?」が、早期糖尿病性腎症の疑いを示唆すること、及び、文字列「PRO×RBC?」が慢性腎炎の疑いを示唆することを理解できるものと認められる。 また、本件特許明細書においては、文字列「A/C×CAST?」が、早期糖尿病性腎症の疑いを示唆する旨、及び、文字列「PRO×RBC?」が慢性腎炎の疑いを示唆する旨は、本件特許明細書に一貫して記載されている。 したがって、申立人の主張を検討しても、本件特許発明1ないし7は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていない発明であるとはいえず、請求項1ないし7に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえないことから、申立理由1によっては、請求項1ないし7に係る発明の特許を取り消すことはできない。 6 申立理由2の検討 (1)申立人の主張 本件特許明細書には不備があり、本件特許発明1ないし7を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明していない旨を主張しており、具体的には、本件特許明細書の段落[0079]には、「このクロスチェック対象項目名“A/C×CAST?”が表示された場合、ユーザは当該検体について早期糖尿病性腎症が疑われることを知ることができる。」との記載はあるが、文字列「A/C×CAST?」の表示によってなぜ当該検体について早期糖尿病性腎症が疑われるかを示す理由を表示することは記載されておらず、同[0079]に記載された「早期糖尿病性腎症の患者から採取された検体は、円柱(CAST)において高値を示し、アルブミン/クレアチニン比(A/C)においても高値を示す傾向」がある旨の記載は、上記傾向があることを本件特許明細書の読者に提供しているに過ぎず、本件特許明細書に記載された発明における「ユーザ」に情報を提示しているのではない。したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、「早期糖尿病性腎症の疑いを示唆する第1情報」を表示することを、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明していない。また、文字列「PRO×RBC?」の表示と「慢性腎炎の疑いを示唆する第2情報」の表示に関しても同様である。 したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、「早期糖尿病性腎症の疑いを示唆する第1情報」を表示すること、および「慢性腎炎の疑いを示唆する第2情報」を表示することを当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明していないと主張している。 (2)当審の判断 上記「5 申立理由1の検討」「(2)当審の判断」においても指摘したように、表示部に表示される文字列と、疾患の種類との間に、何らかの対応付けが行われることは当業者にとって明らかである。 そして、本件特許明細書においては、文字列「A/C×CAST?」が、早期糖尿病性腎症の疑いを示唆する旨、及び、文字列「PRO×RBC?」が慢性腎炎の疑いを示唆する旨は、本件特許明細書に一貫して記載されている。 したがって、本件特許明細書の記載に接した当業者であれば、本件特許明細書の記載に基いて「早期糖尿病性腎症の患者から採取された検体は、円柱(CAST)において高値を示し、アルブミン/クレアチニン比(A/C)においても高値を示す傾向」の存在を理解することができ、文字列「A/C×CAST?」の表示によって早期糖尿病性腎症が示唆される旨を理解できると考えるのが相当である。 また、申立人は、「「早期糖尿病性腎症の患者から採取された検体は、円柱(CAST)において高値を示し、アルブミン/クレアチニン比(A/C)においても高値を示す傾向」がある旨の記載は、上記傾向があることを本件特許明細書の読者に提供しているに過ぎず、本件特許明細書に記載された発明における「ユーザ」に情報を提示しているのではない。」と主張しているが、「本件特許明細書の読者」たる当業者であれば、本件特許明細書の記載より、その傾向は理解でき、上記「第1の情報」及び上記「第2の情報」を表示することは実施できると認められる。 したがって、申立人の主張は採用できず、請求項1ないし7に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明していないとはいえない。 よって、請求項1ないし7に係る発明の特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえず、申立理由2によっては、請求項1ないし7に係る発明の特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上検討したとおり、申立人が主張する(申立理由1)ないし(申立理由6)及び証拠によっては、請求項1ないし7に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-10-17 |
出願番号 | 特願2014-155505(P2014-155505) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(G01N)
P 1 651・ 536- Y (G01N) P 1 651・ 537- Y (G01N) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 赤坂 祐樹 |
特許庁審判長 |
郡山 順 |
特許庁審判官 |
福島 浩司 ▲高▼橋 祐介 |
登録日 | 2015-11-20 |
登録番号 | 特許第5841644号(P5841644) |
権利者 | シスメックス株式会社 |
発明の名称 | 尿検査方法および尿検査装置 |