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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
管理番号 1321251
異議申立番号 異議2016-700775  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-12-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-24 
確定日 2016-11-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第5885884号発明「フェライト系ステンレス熱延鋼板とその製造方法及び鋼帯」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5885884号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5885884号の請求項1?6に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2014年3月27日(優先権主張2013年3月27日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年2月19日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人尾田久敏により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第5885884号の請求項1?6の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?6」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものである。

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として甲第1号証?甲第3号証を提出し、本件発明1?6は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、請求項1?6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2012-140688号公報
甲第2号証:特開2011-246813号公報
甲第3号証:特開平7-41854号公報

第4 甲号証の記載事項
1 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第1号証には、「Nb含有フェライト系ステンレス鋼熱延コイルおよび製造法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当合議体が付加したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(1a) 「【請求項3】
質量%で、C:0.030%以下、Si:2.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.050%以下、S:0.040%以下、Cr:10.00?25.00%、N:0.030%以下、Nb:0.01?0.80%、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、硬さが175HV以下、25℃におけるシャルピー衝撃値が25J/cm^(2)以上に調整されている板厚5.0?10.0mmのNb含有フェライト系ステンレス鋼熱延焼鈍コイル。
【請求項4】
さらに、Ni:2.00%以下、Mo:2.50%以下、Cu:1.80%以下、Co:0.50%以下、Al:0.50%以下、W:1.80%以下、V:0.30%以下、Ti:0.50%以下、Zr:0.20%以下、B:0.0050%以下、REM(希土類元素):0.100%以下、Ca:0.0050%以下の1種以上を含有する組成を有する請求項3に記載のNb含有フェライト系ステンレス鋼熱延焼鈍コイル。」

(1b) 「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0008】
本発明はこのような問題に鑑み、熱延コイルや熱延焼鈍コイルを展開して通板するラインにおいて材料割れの問題が安定して防止できるに足る靱性・延性を有する、厚ゲージのNb含有フェライト系ステンレス鋼熱延コイルまたは熱延焼鈍コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
厚ゲージのNb含有フェライト系ステンレス鋼熱延コイルや熱延焼鈍コイルを展開する通板ラインでの割れを安定して防止するためには、熱延コイル製造過程でLaves相の生成を抑止すること、および475℃脆化を回避することが重要である。Laves相の生成を抑止するためには800℃付近の温度域の通過時間を短くすることが有効であり、475℃脆化を防止するためには475℃付近の温度域の通過時間を短くすることが有効である。そのため、上記各文献に開示されるように、従来から熱間圧延後の冷却過程で水冷による強制冷却を行う手法が採用されている。
【0010】
しかし、発明者らの調査によれば、厚ゲージの熱延コイルの場合、単に水冷による強制冷却を施すだけでは鋼帯の靱性・延性を安定して改善することが難しいことがわかった。その原因として、コイルに巻取った後の「復熱」が挙げられる。すなわち、水冷後に巻取っても、その後にコイル内部に蓄積された熱によって再びコイル全体の広い範囲で温度が上昇に転じる「復熱」の現象が起こる。一般に巻取温度は鋼帯表面の温度で管理されるが、厚ゲージの鋼帯では、板厚中央部付近の温度が巻取温度(表面温度)よりもかなり高い状態となりやすい。これが復熱を引き起こす大きな要因となる。
【0011】
詳細な検討の結果、
(i)仕上圧延温度を890℃以上の高温とすること、
(ii)巻取温度を400℃以下の低温とすること、
(iii)低温巻取後のコイルをさらに水中に浸漬して復熱を防止すること、
によって硬さが190HV以下、25℃におけるシャルピー衝撃値が20J/cm^(2)以上に調整された熱延コイルを得ることができる。また、その熱延コイルを連続焼鈍酸洗ラインで焼鈍酸洗することにより、硬さが175HV以下、25℃におけるシャルピー衝撃値が25J/cm^(2)以上に調整された熱延焼鈍コイルを得ることができる。このような熱延コイルや熱延焼鈍コイルは、厚ゲージであるにもかかわらず、そのままの状態で次工程の通板ラインにて割れを生じることなく展開することができる。
本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0012】
すなわち上記目的は、質量%で、C:0.030%以下、Si:2.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.050%以下、S:0.040%以下、Cr:10.00?25.00%、N:0.030%以下、Nb:0.01?0.80%であり、必要に応じてNi:2.00%以下、Mo:2.50%以下、Cu:1.80%以下、Co:0.50%以下、Al:0.50%以下、W:1.80%以下、V:0.30%以下、Ti:0.50%以下、Zr:0.20%以下、B:0.0050%以下、REM(希土類元素):0.100%以下、Ca:0.0050%以下の1種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、硬さが190HV以下、25℃におけるシャルピー衝撃値が20J/cm^(2)以上に調整されている板厚5.0?10.0mmのNb含有フェライト系ステンレス鋼熱延コイルによって達成される。また、上記組成を有し、硬さが175HV以下、25℃におけるシャルピー衝撃値が25J/cm^(2)以上に調整された板厚5.0?10.0mmのNb含有フェライト系ステンレス鋼熱延焼鈍コイルよって達成される。
【0013】
ここで、前記の硬さおよびシャルピー衝撃値が上記の範囲に「調整されている」とは、コイル状に巻かれた鋼帯の全長にわたって上記数値範囲内の特性を満たしていることを意味する。「鋼帯の全長」とは鋼帯の幅が一定となっている部分であり、ライン通板時に切断除去される鋼帯の長手方向両端部を除いた部分である。「硬さ」は鋼帯の表面硬さである。「シャルピー衝撃値」は2mmVノッチ衝撃試験片を用いてJIS Z2242に従って測定された値が採用される。衝撃試験片は、その長手方向が鋼帯の圧延方向に一致し、かつハンマーの運動方向が鋼帯の幅方向となるように採取する。
【0014】
また、そのような熱延コイルの製造法として、上記の組成を有するステンレス鋼スラブを仕上圧延温度890℃以上で熱間圧延して板厚5.0?10.0mmとしたのち、巻取前に水冷して巻取温度400℃以下で巻取ってコイルとし、巻取終了時から30分以内にコイルを水中に浸漬し、当該水中で15分以上保持するNb含有フェライト系ステンレス鋼熱延コイルの製造法が提供される。さらに、上記の製造法で得られたNb含有フェライト系ステンレス鋼熱延コイルに対して、連続焼鈍酸洗ラインにて焼鈍酸洗を施すNb含有フェライト系ステンレス鋼熱延焼鈍コイルの製造法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、Nb含有フェライト系ステンレス鋼の厚ゲージの熱延コイルまたは熱延焼鈍コイルにおいて、靱性・延性に優れたものが提供可能となった。従来Nb含有フェライト系ステンレス鋼の厚ゲージの熱延コイルや熱延焼鈍コイルはライン通板に供することが困難であったところ、本発明に従えばそれが可能となる。したがって本発明は、自動車排ガス経路中の装置に用いられるフランジをはじめとする厚板部材の用途において、フェライト系ステンレス鋼材の普及に寄与しうる。」

2 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第2号証には、「フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(2a) 「【0054】
熱延板厚は、4mm以上とする。一般に、熱延板の靭性は、板厚が厚くなるほど組織が粗大化し低下する。しかし、本発明に従うフェライト系ステンレス鋼の熱延板は、4mm以上の熱延板や熱延焼鈍板においても、0℃で50J/cm^(2)以上の良好な靭性(シャルピー衝撃特性)を有するため、構造材として利用ができる。・・・」

(2b) 「【実施例1】
【0058】
転炉-VOD精錬により、表1に示す成分組成になるフェライト系ステンレス鋼を溶製した後、連続鋳造法により200mm厚のスラブとした。なお、本実施例でZrの投入は、フェロジルコニウムをVOD実施中に鉄容器に密封した状態で投入した。
ついで、スラブの表面を専用のグラインダーを用いて削った後、1200℃の温度に加熱し、ついで、熱間圧延により板厚:5.0mmの熱延板コイルとした。熱延後の巻取り温度は、550℃とした。なお、No.4鋼以外については、さらに1050℃、1分の熱延焼鈍を施した。
【0059】
これらの鋼板を対象に、0℃でのシャルピー衝撃試験を実施した。結果を表1に併記する。なお、本試験の値(vE0)は、試験により得られた吸収エネルギーの値を、衝撃試験片のノッチ部の断面積にて除することにより、単位面積当たりの吸収エネルギー(vE0)に換算した値である。」

3 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第3号証には、「靱性に優れたフェライト単相ステンレス熱延鋼板の製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(3a) 「【0021】
【実施例】
実施例1
表1に示す化学成分を有するフェライト系ステンレス鋼を転炉で溶製し、250mm厚さの連続鋳造スラブとした。これを表2に示すように、スラブ加熱温度1236?1287℃で、粗圧延の1パス当たりの圧下率25.0?30.0%、合計圧下率91.6%を加え、粗圧延終了温度1033?1069℃で22?37秒放冷後仕上熱延を行い、5.0mm厚さの熱延板とした。
【0022】熱延板の低温切欠靱性を調べるため、0℃でVノッチシャルピー衝撃試験を行い、シャルピー衝撃値を算出した。この結果を表1に示すが、本発明例のフェライト単相ステンレス鋼はいずれも2kgf・m/cm^(2) 以上で、通板中にコイルが破断することはなかった。比較例のNo.8はフェライト単相鋼であるが、Ni、Cr、Moが特許請求の範囲を外れており、衝撃値は著しく低い。」

第5 判断
1 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の上記(1a)の記載によれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「質量%で、C:0.030%以下、Si:2.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.050%以下、S:0.040%以下、Cr:10.00?25.00%、N:0.030%以下、Nb:0.01?0.80%を含有し、
さらに、Ni:2.00%以下、Mo:2.50%以下、Cu:1.80%以下、Co:0.50%以下、Al:0.50%以下、W:1.80%以下、V:0.30%以下、Ti:0.50%以下、Zr:0.20%以下、B:0.0050%以下、REM(希土類元素):0.100%以下、Ca:0.0050%以下の1種以上を含有する組成を有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
硬さが175HV以下、25℃におけるシャルピー衝撃値が25J/cm^(2)以上に調整されている板厚5.0?10.0mmのNb含有フェライト系ステンレス鋼熱延焼鈍コイル。」(以下、「甲1発明」という。)

2 本件発明1について
(1) 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
本件発明1の「フェライト系ステンレス熱延鋼板」は、本件特許明細書【0045】によれば、「溶解、鋳造、熱延、焼鈍、酸洗」の工程を経て、コイル状に巻きとられるものであるから、甲1発明の「フェライト系ステンレス鋼熱延焼鈍コイル」は、本件発明1の「フェライト系ステンレス熱延鋼板」に相当する。
そして、甲1発明の「Nb含有フェライト系ステンレス鋼熱延焼鈍コイル」の成分組成と、本件発明1の「フェライト系ステンレス熱延鋼板」の成分組成は以下に示すとおりである(ただし、Feと不可避的不純物は除く。「%」は「質量%」である。)。
甲1発明 本件発明1
------------------------------
C:0.030%以下 0.015%以下
Si:2.00%以下 0.01?0.4%
Mn:2.00%以下 0.01?0.8%
P:0.050%以下 0.04%以下
S:0.040%以下 0.01%以下
Cr:10.00?25.00% 14.0?18.0%未満
Ni:2.00%以下 0.05?1%
Nb:0.01?0.80% 0.3?0.6%
Ti:0.50%以下 0.02%未満
N:0.030%以下 0.020%以下
Al:0.50%以下 0.10%以下
B:0.0050%以下 0.0002?0.0020%

また、甲1発明において、Nbの含有量の最小値は0.01%であり、C及びNの含有量の最大値は、いずれも0.030%であるから、Nb/(C+N)(以下、「式1」という。)の値は、0.01(0.030+0.030)=0.17以上であるのに対して、本件発明1における式1の値は、16以上である。
以上から、甲1発明の「Nb含有フェライト系ステンレス鋼熱延焼鈍コイル」と、本件発明1の「フェライト系ステンレス熱延鋼板」とは、C、Si、Mn、P、S、Cr、Ni、Nb、Ti、N、Al、B(以下、まとめて「共通成分」という。)を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、板厚が5.0?9.0mmであるフェライト系ステンレス熱延鋼板である点で共通するものの、各共通成分の含有量の範囲及び式1の値の範囲は、いずれも、甲1発明の方が、本件発明1よりも広い範囲となっている。

以上から、本件発明1と甲1発明とは、「C、Si、Mn、P、S、Cr、Ni、Nb、Ti、N、Al、Bを含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、
板厚が5.0?9.0mmである
フェライト系ステンレス熱延鋼板。」である点で一致し、以下の2点で相違する。

相違点1:フェライト系ステンレス熱延鋼板の各共通成分の含有量の範囲及び式1の値の範囲について、いずれも、甲1発明の方が、本件発明1よりも広い範囲である点。

相違点2:シャルピー衝撃値について、本件発明1は、0℃において10J/cm^(2)以上であるのに対して、甲1発明は、25℃において25J/cm^(2)以上である点。

2 相違点についての判断
ア 本件特許明細書には以下の事項が記載されている。
(本a) 「【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、低温下での靭性向上を検討するに当たり、冬季のフランジ材料の製造環境を調査した。その結果、冬季には室温(25℃)を下回る環境で打ち抜きの作業をする場合は多いが、0℃を下回る環境で打ち抜きの作業することはほとんどないことが分かった。
【0012】
フェライト系ステンレス鋼の延性-脆性遷移温度は室温付近にあり、室温から0℃までの温度変化で靭性が大きく変わる場合がある。そのため、夏季には鋼板の割れが生じない作業であっても、冬季には鋼板の割れが生じると考えられる。発明者らは、室温(25℃)のみでの靭性の検討では不十分であり、0℃での靭性を確保すれば割れが起きないと考え、0℃での靭性を指標として、詳細な検討を行った。
【0013】
その結果、0℃での靭性値が10J/cm^(2)以上あると、打ち抜き時の割れが起きないことが判明した。これを実現するためには、フランジ材として、従来、主に製造面から検討されてきた成分範囲より、さらに成分限定することが必要であることが判明した。
【0014】
熱延鋼板は、溶解、鋳造、熱延、焼鈍、酸洗の工程を経て製造されるが、これまでの靱性の検討は、主に熱延まま材の靭性に関するものであった。ところが、熱延まま材と熱延焼鈍材の靭性を比較すると、熱延焼鈍材の靭性の方が低く、本発明の検討では、より厳しい熱延焼鈍材での靭性向上を検討する必要があった。
【0015】
本発明者が検討した結果、以下の成分限定により、0℃での靭性を確保できる目処を得た。
(1)Crをできるだけ低減する。
(2)Siを低減する。
(3)Tiを無添加、又は、できるだけ低減する。
(4)Niを微量添加する。
(5)Bを微量添加する。
【0016】
また、Moは靭性をあまり低下させず、耐食性、高温強度が必要な場合は、十分な量の添加が可能であることを見出した。
【0017】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、これらの成分限定をしても、製造条件によって、熱延焼鈍板の靭性が安定しないことが分かった。本発明者らは、さらに検討を進め、その結果、最終焼鈍の温度と冷却速度をある一定範囲に制限することにより、0℃での靭性を安定的に確保できることを見出した。
【0018】
本発明は、これらの知見に基づいて到ったものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0019】
(1)質量%で、C:0.015%以下、Si:0.01?0.4%、Mn:0.01?0.8%、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Cr:14.0?18.0%未満、Ni:0.05?1%、Nb:0.3?0.6%、Ti:0.02%未満、N:0.020%以下、Al:0.10%以下、及びB:0.0002?0.0020%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、Nb、C、及びNの含有量がNb/(C+N)≧16を満たし、0℃におけるシャルピー衝撃値が10J/cm^(2)以上であり、板厚が5.0?9.0mmであることを特徴とするフェライト系ステンレス熱延鋼板。
・・・
【0021】
(3)溶解・鋳造-熱延-焼鈍-酸洗の工程の中で、焼鈍工程での焼鈍温度を1000℃以上1100℃以下、その後の冷却過程で、800℃から400℃までの冷却速度が5℃/sec以上であることを特徴とする前記(1)又は(2)のフェライト系ステンレス熱延鋼板の製造方法。」

(本b) 「【0047】
本発明の製造方法で重要なのは、焼鈍工程である。焼鈍温度は、Laves相などの析出物を溶解する必要があるので、1000℃以上とする。しかし、1100℃を超えると結晶粒が成長しすぎて、靭性が低下するので、1100℃を上限とする。
【0048】
焼鈍後の冷却速度は、Laves相等の析出物の析出や、475脆性による靭性低下を抑制するため、800℃から400℃までの冷却速度が5℃/sec以上とする。好ましくは、10℃/sec以上である。20℃/sec以上では効果が飽和する。これにより、製造による靭性のばらつきを低減できる。金属組織には、475脆性に関する変化は見出せないが、Laves相の析出がなくなるか、Laves相の析出量が質量比率で1%以下となっていることが確認される。
【0049】
本発明の成分組成であれば、上記の冷却速度で十分効果を発現する。上記よりも高速(例えば、50℃/sec以上)の冷却速度にあえてする必要はない。本発明においては、特にCr,Si,Tiによって、熱延焼鈍後の冷却速度を適正に制御することができる。すなわち、低Crの成分範囲に限定して475脆性を回避し、さらにSiとTiの含有量を低くしてLaves相の析出を抑制する。Cr,Si,Tiの低減は、それ自体で靭性を良好にする効果があるので、成分範囲の限定と析出回避の組織制御によって、靭性が良好な厚手熱延コイルを容易に製造できることが可能である。
【0050】
これらの成分限定と製造方法により、0℃におけるシャルピー試験による靭性値が、10J/cm^(2)以上となり、優れた靭性が発現する。」

イ 上記(本a)?(本b)の記載によれば、本件発明1においては、フェライト系ステンレス熱延鋼板の各共通成分の含有量及び式1の値、特に、Cr,Si,Ti,Ni,Bの含有量を、それぞれ、本件発明1で特定された範囲とするとともに、焼鈍工程での焼鈍温度を1000℃以上1100℃以下、その後の冷却過程で、800℃から400℃までの冷却速度を5℃/sec以上とすることにより、0℃におけるシャルピー試験による靭性値が、10J/cm^(2)以上となるものであるといえる。
そうすると、本件発明1における、フェライト系ステンレス熱延鋼板の各共通成分の含有量及び式1の値、特に、Cr,Si,Ti,Ni,Bの含有量と、0℃におけるシャルピー試験による靭性値の範囲は、密接に関連しているといえるから、相違点1と相違点2とを併せて検討する。

ウ 上記イで検討したように、本件発明1においては、フェライト系ステンレス熱延鋼板の各共通成分の含有量及び式1の値、特に、Cr,Si,Ti,Ni,Bの含有量を、それぞれ、本件発明1で特定された範囲とするとともに、焼鈍工程での焼鈍温度を1000℃以上1100℃以下、その後の冷却過程で、800℃から400℃までの冷却速度を5℃/sec以上(いずれも、本件発明3に特定されている。)とすることにより、0℃におけるシャルピー試験による靭性値が、10J/cm^(2)以上となるものである。
そうすると、本件発明1の技術思想は、フェライト系ステンレス熱延鋼板の各共通成分の含有量及び式1の値、特に、Cr,Si,Ti,Ni,Bの含有量を、それぞれ所定の範囲に調整するとともに、焼鈍工程での焼鈍温度、及び、焼鈍工程後の冷却過程における、温度範囲及び冷却速度を、それぞれ所定の範囲に調整することにより、0℃におけるシャルピー試験による靭性値を所望の値以上とするものであると認められる。

エ 一方、甲第1号証の上記(1b)には、所定の組成を有するステンレス鋼スラブについて、(i)仕上圧延温度を890℃以上の高温とすること、(ii)巻取温度を400℃以下の低温とすること、(iii)低温巻取後のコイルをさらに水中に浸漬して復熱を防止すること、によって硬さが190HV以下、25℃におけるシャルピー衝撃値が20J/cm^(2)以上に調整された熱延コイルを得ることができ、さらに、その熱延コイルを連続焼鈍酸洗ラインで焼鈍酸洗することにより、硬さが175HV以下、25℃におけるシャルピー衝撃値が25J/cm^(2)以上に調整されたNb含有フェライト系ステンレス熱延焼鈍コイルを得ることができ、それによって、熱延焼鈍コイルを展開して通板するラインにおいて材料割れの問題が安定して防止できるに足る靱性・延性を有する、厚ゲージのNb含有フェライト系ステンレス鋼熱延焼鈍コイルを提供するという目的が達成されることが記載されている。

オ また、甲第2号証の上記(2a)及び甲第3号証の上記(3a)の記載によれば、フェライト系ステンレス熱延鋼板において、シャルピー衝撃値が高い方が、靱性が高いこと、及び、0℃でのシャルピー衝撃値を靱性の指標とすることは、本件特許に係る出願の優先日前において周知技術であるといえる。また、甲第2号証の上記(2a)及び甲第3号証の上記(3a)には、板厚5mm以上のフェライト系ステンレス熱延鋼板は、0℃でのシャルピー衝撃値が所定値(50J/cm^(2)又は2kgf・m/cm^(2) )以上であれば靱性に優れることが記載されている。

カ しかし、甲第1号証?甲3号証のいずれにも、フェライト系ステンレス熱延鋼板の各共通成分の含有量及び式1の値、特に、Cr,Si,Ti,Ni,Bの含有量を、それぞれ所定の範囲に調整するとともに、焼鈍工程での焼鈍温度、及び、焼鈍工程後の冷却過程における、温度範囲及び冷却速度を、それぞれ所定の範囲に調整することにより、0℃におけるシャルピー試験による靭性値を所望の値以上とするという本件発明1の技術思想は、記載も示唆もされていない。
そして、本件特許明細書【0067】の記載によれば、本件発明1は、「耐食性に優れる上に、靭性に優れ、0℃で作業しても割れにくいため、材料歩留まりが良く、部品製造性に優れ」るという顕著な効果を奏するものである。

キ したがって、甲1発明において、フェライト系ステンレス鋼熱延焼鈍コイルの各共通成分の含有量及び式1の値について、いずれも、本件発明1に特定されている範囲にするとともに、焼鈍工程での焼鈍温度、及び、焼鈍工程後の冷却過程における、温度範囲及び冷却速度を、いずれも、本件発明3に特定されている範囲に調整することにより、0℃におけるシャルピー衝撃値を、本件発明1に特定されている範囲とすることは、当業者にとって容易に想到し得るものであるとはいえない。
よって、本件発明1は、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得るものともいえない。

3 本件発明2?6について
本件発明2?6は、本件発明1の全ての発明特定事項を有しているから、上記2の判断と同様の理由により、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得るものとはいえない。

4 まとめ
以上から、本件発明1?6は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-10-28 
出願番号 特願2015-508731(P2015-508731)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田口 裕健  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 河本 充雄
富永 泰規
登録日 2016-02-19 
登録番号 特許第5885884号(P5885884)
権利者 新日鐵住金ステンレス株式会社
発明の名称 フェライト系ステンレス熱延鋼板とその製造方法及び鋼帯  
代理人 石田 敬  
代理人 中村 朝幸  
代理人 亀松 宏  
代理人 齋藤 学  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 福地 律生  

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