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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F01N
管理番号 1321261
異議申立番号 異議2016-700692  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-12-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-05 
確定日 2016-11-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第5863415号発明「作業機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5863415号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5863415号の請求項1ないし3に係る特許(以下、「請求項1ないし3に係る特許」という。また、請求項毎に「請求項1に係る特許」などという。)についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成23年11月25日に特許出願され、平成28年1月8日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成28年8月5日に特許異議申立人 藤井 秀朗(以下、単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
請求項1ないし3に係る特許に係る発明(以下、順に「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、それぞれ、本件出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「本件特許明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
ディーゼルエンジンから排出された排出ガスに含まれる粒子状物質を捕集するフィルタを備えた排出ガス浄化装置と、
前記排出ガス浄化装置のフィルタに堆積した粒子状物質の堆積量が所定値以上であるときに排出ガス浄化装置内の排気温度を第1目標温度に向けて昇温させる第1昇温手段と、
前記第1昇温手段による昇温開始後に前記排気温度が第1目標温度に達しているか否かを判断する第1燃焼条件判断手段と、
前記第1燃焼条件判断手段によって前記排気温度が第1目標温度に達していると判断された後、さらに、当該排気温度を第1目標温度より高い温度に上昇させる昇温を行うか否かを確認する昇温確認手段と、
前記昇温確認手段によって昇温を行うことが確認されたときに前記排気温度を第1目標温度よりも高く且つ粒子状物質の燃焼が促進される第2目標温度に向けて昇温する第2昇温手段と、
前記第2昇温手段による昇温開始後に前記排気温度が第1目標温度未満となっているか否かを判断する第2燃焼条件判断手段と、
排気温度が第1目標温度未満でなければ第2昇温手段による昇温を継続し且つ排気温度が第1目標温度未満であれば第2昇温手段による昇温を中止する昇温継続中止手段と、
を備え、
前記第1昇温手段は、前記第1燃焼条件判断手段によって前記排気温度が第1目標温度に達していないと判断された場合、第1目標温度に達していると判断されるまで昇温を継続することを特徴とする作業機。
【請求項2】
前記第2昇温手段による昇温開始後に前記排気温度が第1目標温度未満となっていることを報知する条件外れ報知手段と、
前記第2昇温手段による昇温開始後に前記第1目標温度未満となっているときに前記ディーゼルエンジンのエンジン回転数の上昇を行って排気温度を昇温させることを促す昇温案内手段と、
を備えていることを特徴とする請求項1に記載の作業機。
【請求項3】
前記昇温確認手段は、前記運転席の周囲に設置された再生確認スイッチを操作したときに確認されたと判断することを特徴とする請求項1又は2に記載の作業機。」

第3 特許異議申立ての理由
特許異議申立人は、証拠方法として、次に示す甲第1ないし3号証を提出し、概ね以下の理由を主張している。

1 証拠方法
甲第1号証:特開2011-236768号公報(以下、「甲1」ともいう。)
甲第2号証:特開2005-299475号公報(以下、「甲2」ともいう。)
甲第3号証:特開2007-205240号公報(以下、「甲3」ともいう。)

2 理由の概要
2-1 特許法第29条第2項の規定に基づく理由について
(1)理由1
本件発明1は、甲第1号証に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)及び甲第2号証に記載された技術(以下、「甲2技術」という。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項に違反してされたものであるから、請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである(以下、「理由1」という。)。

(2)理由2
本件発明2は、甲1発明、甲2技術及び甲第3号証に記載された技術(以下、「甲3技術」という。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項に違反してされたものであるから、請求項2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである(以下、「理由2」という。)。

(3)理由3
本件発明3は、甲1発明及び甲2技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項に違反してされたものであるから、請求項3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである(以下、「理由3」という。)。


第4 当審の判断
1 証拠について
1-1 甲第1号証
(1)甲第1号証の記載
本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(以下、「甲1」ともいう。)には、「排気ガス浄化システム」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。なお、理解の一助のために下線を付した。

ア 「【0001】
本願発明は、例えば建設機械、農作業機及びエンジン発電機といった作業機に搭載されるエンジンに対する排気ガス浄化システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、ディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)に関する高次の排ガス規制が適用されるのに伴い、エンジンが搭載される建設機械、農作業機及びエンジン発電機等に、排気ガス中の大気汚染物質を浄化処理する排気ガス浄化装置を搭載することが要望されつつある。排気ガス浄化装置としては、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、DPFという)が知られている(特許文献1及び2参照)。DPFは、排気ガス中の粒子状物質(以下、PMという)等を捕集するためのものである。この場合、DPFにて捕集されたPMが規定量を超えると、DPF内の流通抵抗が増大してエンジン出力の低下をもたらすため、排気ガスの昇温によってDPFに堆積したPMを除去し、DPFのPM捕集能力を回復させる(DPFを再生させる)こともよく行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-145430号公報
【特許文献2】特開2003-27922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンは例えば建設機械、農作業機並びにエンジン発電機といった多種多様な作業機に搭載される。このため、DPF付きエンジンにおいて、排気ガス温度を高めてDPF再生動作を実行したとしても、DPFの浄化能力が十分に回復しない場合(再生不十分な場合)があり得る。この点、DPF付きエンジンがコモンレール式のもの(燃料噴射装置がコモンレールタイプのもの)であれば、ポスト噴射にてDPF内に燃料を供給し燃焼させるという積極的な加熱によって、DPF再生を促進させることが可能である。
【0005】
しかし、ポスト噴射にてDPF内に燃料を供給しPMを積極的に燃焼させるという態様では、ポスト噴射の頻度が高いと(回数が嵩むと)、大幅に燃費が悪化するばかりか、エンジンの各気筒内に未燃焼の燃料が残留してエンジンオイルを希釈させ、エンジンの耐久性悪化を招来するという問題があった。
【0006】
そこで、本願発明は、このような現状を検討して改善を施した排気ガス浄化システムを提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明に係る排気ガス浄化システムは、コモンレール式エンジンの排気経路に配置された排気ガス浄化装置と、前記エンジンの吸排気系に配置された吸気絞り装置及び排気絞り装置のうち少なくとも一方とを備えており、前記排気ガス浄化装置の詰り状態が規定水準以上になると、前記吸気絞り装置及び前記排気絞り装置のうち少なくとも一方を作動させることによって前記エンジンからの排気ガス温度を上昇させる補助再生モードを実行する一方、前記補助再生モードを実行しても前記排気ガス浄化装置の詰り状態が改善しない場合は、ポスト噴射にて燃料を前記排気ガス浄化装置内に供給する強制再生モードを実行するように構成されているというものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載した排気ガス浄化システムにおいて、前記エンジンの累積駆動時間が予め設定された設定時間以上であれば、前記排気ガス浄化装置の詰り状態に拘らず、前記強制再生モードに移行するように構成されているというものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2に記載した排気ガス浄化システムにおいて、前記強制再生モードの実行後は、前記エンジンの累積駆動時間をリセットしてから新たに計測開始するように構成されているというものである。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1?3のうちいずれかに記載した排気ガス浄化システムにおいて、前記強制再生モードを実行しても前記排気ガス浄化装置の詰り状態が改善しない場合は、ポスト噴射にて燃料を前記排気ガス浄化装置内に供給し且つ前記エンジンの回転速度を所定値に維持する緊急再生モードを実行するように構成されているというものである。」(段落【0001】ないし【0010】)

イ 「【0021】
図3に示すように、コモンレールシステム117は、上死点(TDC)を挟む付近でメイン噴射Aを実行するように構成されている。また、コモンレールシステム117は、メイン噴射A以外に、上死点より約60°以前のクランク角度θ1の時期に、NOx及び騒音の低減を目的として少量のパイロット噴射Bを実行したり、上死点直前のクランク角度θ2の時期に、騒音低減を目的としてプレ噴射Cを実行したり、上死点後のクランク角度θ3及びθ4の時期に、粒子状物質(以下、PMという)の低減や排気ガスの浄化促進を目的としてアフタ噴射D及びポスト噴射Eを実行したりするように構成されている。
(中略)
【0023】
排気マニホールド71の排気下流側に接続された排気管77には、エンジン70の排気圧を調節するための排気絞り装置82と、排気ガス浄化装置の一例であるディーゼルパティキュレートフィルタ50(以下、DPFという)とが接続される。各気筒から排気マニホールド71に排出された排気ガスは、排気管77、排気絞り装置82及びDPF50を経由して浄化処理をされてから外部に放出される。
【0024】
DPF50は、排気ガス中のPM等を捕集するためのものである。実施形態のDPF50は、耐熱金属材料製のケーシング51内にある略筒型のフィルタケース52に、例えば白金等のディーゼル酸化触媒53とスートフィルタ54とを直列に並べて収容してなるものである。実施形態では、フィルタケース52内のうち排気上流側にディーゼル酸化触媒53が配置され、排気下流側にスートフィルタ54が配置されている。スートフィルタ54は、多孔質な(ろ過可能な)隔壁にて区画された多数のセルを有するハニカム構造になっている。
【0025】
ケーシング51の一側部には、排気管76のうち排気絞り装置82より排気下流側に連通する排気導入口55が設けられている。ケーシング51の一端部は第1底板56にて塞がれ、フィルタケース52のうち第1底板56に臨む一端部は第2底板57にて塞がれている。ケーシング51とフィルタケース52との間の環状隙間、並びに両底板56,57間の隙間には、ガラスウールのような断熱材58がディーゼル酸化触媒53及びスートフィルタ54の周囲を囲うように充填されている。ケーシング51の他側部は2枚の蓋板59,60にて塞がれていて、これら両蓋板59,60を略筒型の排気排出口61が貫通している。また、両蓋板59,60の間は、フィルタケース52内に複数の連通管62を介して連通する共鳴室63になっている。
【0026】
ケーシング51の一側部に形成された排気導入口55には排気ガス導入管65が挿入されている。排気ガス導入管65の先端は、ケーシング51を横断して排気導入口55と反対側の側面に突出している。排気ガス導入管65の外周面には、フィルタケース52に向けて開口する複数の連通穴66が形成されている。排気ガス導入管65のうち排気導入口55と反対側の側面に突出する部分は、これに着脱可能に螺着された蓋体67にて塞がれている。
【0027】
DPF50には、検出手段の一例として、DPF50内の排気ガス温度を検出するDPF温度センサ26が設けられている。実施形態のDPF温度センサ26は、ケーシング51及びフィルタケース52を貫通して装着されており、その先端はディーゼル酸化触媒53とスートフィルタ54との間に位置させている。
【0028】
また、DPF50には、検出手段の一例として、スートフィルタ54の詰まり状態を検出する差圧センサ68が設けられている。実施形態の差圧センサ68は、DPF50内におけるスートフィルタ54を挟んだ上下流間の圧力差(差圧)を検出するものである。この場合、排気ガス導入管65の蓋体67に、差圧センサ68を構成する上流側排気圧センサ68aが装着され、スートフィルタ54と共鳴室63との間に、下流側排気圧センサ68bが装着されている。DPF50上下流間の圧力差とDPF50内のPM堆積量との間に一定の法則性があることはよく知られている。実施形態では、差圧センサ68にて検出される圧力差からDPF50内のPM堆積量を推定し、当該推定結果に基づいて吸気絞り装置81並びにコモンレール120を作動させることにより、スートフィルタ54の再生制御(DPF再生制御)が実行される。
【0029】
なお、スートフィルタ54の詰まり状態を検出するのは、差圧センサ68に限らず、DPF50内におけるスートフィルタ54上流側の圧力を検出する排気圧センサであってもよい。排気圧センサを採用した場合は、スートフィルタ54にPMが堆積していない新品時のスートフィルタ54上流側の圧力(基準圧力)と、排気圧センサにて検出された現在の圧力とを比較することによって、スートフィルタ54の詰まり状態を判断することになる。
【0030】
上記の構成において、エンジン5からの排気ガスは、排気導入口55を介して排気ガス導入管65に入って、排気ガス導入管65に形成された各連通穴66からフィルタケース52内に噴出し、フィルタケース52内の広い領域に分散したのち、ディーゼル酸化触媒53からスートフィルタ54の順に通過して浄化処理される。排気ガス中のPMは、この段階でスートフィルタ54における各セル間の多孔質な仕切り壁を通り抜けできずに捕集される。その後、ディーゼル酸化触媒53及びスートフィルタ54を通過した排気ガスが排気排出口61から放出される。
【0031】
排気ガスがディーゼル酸化触媒53及びスートフィルタ54を通過するに際して、排気ガス温度が再生境界温度(例えば約300℃程度)を超えていれば、ディーゼル酸化触媒53の作用にて、排気ガス中のNO(一酸化窒素)が不安定なNO_(2)(二酸化窒素)に酸化する。そして、NO_(2)がNOに戻る際に放出するO(酸素)にて、スートフィルタ54に堆積したPMを酸化除去することにより、スートフィルタ54のPM捕集能力が回復(DPF50が再生)することになる。」(段落【0021】ないし【0031】)

ウ 「【0033】
ECU11の入力側には、少なくともコモンレール120内の燃料圧力を検出するレール圧センサ12、燃料ポンプ116を回転又は停止させる電磁クラッチ13、エンジン70の回転速度(クランク軸74のカムシャフト位置)を検出するエンジン速度センサ14、インジェクタ115の燃料噴射回数(1行程の燃料噴射期間中の回数)を検出及び設定する噴射設定器15、アクセル操作具(図示省略)の操作位置を検出するスロットル位置センサ16、吸気経路中の吸気温度を検出する吸気温度センサ17、排気経路中の排気ガス温度を検出する排気温度センサ18、エンジン70の冷却水温度を検出する冷却水温度センサ19、コモンレール120内の燃料温度を検出する燃料温度センサ20、後述する緊急再生モードの実行の可否を選択操作する再生許可入力手段としての緊急スイッチ21、差圧センサ68(上流側排気圧センサ68a及び下流側排気圧センサ68b)、DPF50内の排気ガス温度を検出するDPF温度センサ26、DPF50再生動作を禁止する再生禁止入力手段としての再生禁止ボタン27、並びに、作業機を制動状態に維持操作する駐車ブレーキ操作手段29の入り切り状態(制動状態か否か)を検出する駐車ブレーキ検出手段30等が接続されている。
【0034】
ECU11の出力側には、少なくとも4気筒分の各燃料噴射バルブ119の電磁ソレノイドがそれぞれ接続されている。すなわち、コモンレール120に蓄えた高圧燃料が燃料噴射圧力、噴射時期及び噴射期間等を制御しながら、1行程中に複数回に分けて燃料噴射バルブ119から噴射されることによって、窒素酸化物(NOx)の発生を抑えると共に、すすや二酸化炭素等の発生も低減した完全燃焼を実行し、燃費を向上させるように構成されている。
【0035】
また、ECU11の出力側には、エンジン70の吸気圧(吸気量)を調節するための吸気絞り装置81、エンジン70の排気圧を調節するための排気絞り装置82、ECU11の故障を警告報知するECU故障ランプ22、DPF50内における排気ガス温度の異常高温を報知する異常高温報知手段としての排気温度警告ランプ23、DPF50再生動作に伴い点灯する再生ランプ24、及び、再生禁止ボタン27の押し操作(禁止操作)中に作動する再生禁止報知手段としての再生禁止ランプ28が接続されている。各ランプ22?24,28の明滅に関するデータは予めECU11のEEPROM33に記憶されている。詳細は後述するが、再生ランプ24は、DPF50の詰り状態が規定水準以上になると作動する再生予告手段としての役割と、DPF50再生動作中である旨を報知する再生報知手段としての役割とを兼ねる単一の表示具を構成している。なお、図4に示すように、緊急スイッチ21、再生禁止ボタン27及び各ランプ22?24,28は、エンジン70搭載対象の作業機にある計器パネル40に設けられている。」(段落【0033】ないし【0035】)

エ 「【0039】
(3).DPF再生制御の態様
次に、図6?図8のフローチャート等を参照しながら、ECU11によるDPF50再生制御の一例について説明する。さて、エンジン70の制御モード(DPF50再生に関する制御形式)としては少なくとも、路上走行や各種作業をする通常運転モードと、DPF50の詰り状態が規定水準以上になると排気ガス温度を自動的に上昇させる自動補助再生モードと、ポスト噴射EにてDPF50内に燃料を供給するリセット再生モード(強制再生モードと言ってもよい)と、ポスト噴射EにてDPF50内に燃料を供給すると共に、エンジン70の回転速度Nをハイアイドル回転速度に維持する緊急再生モードと、エンジン70を必要最低限の駆動状態にする(作業機に必要最低限の走行機能を確保させる)リンプホームモードとがある。
【0040】
自動補助再生モードでは、差圧センサ68の検出情報に基づき、吸気絞り装置81及び排気絞り装置82の少なくとも一方を所定開度まで閉弁することによって、吸気量や排気量を制限する。そうすると、エンジン70負荷が増大するので、これに連動してエンジン70出力を増大させ、エンジン70からの排気ガス温度を上昇させる。その結果、DPF50(スートフィルタ54)内のPMを燃焼除去できることになる。
【0041】
リセット再生モード(強制再生モード)は、自動補助再生モードを実行してもDPF50の詰り状態が改善しない(PMが残留する)場合や、エンジン70の累積駆動時間Teが設定時間T0(例えば約100時間程度)を超過した場合に実行されるものである。当該リセット再生モードでは、ポスト噴射EにてDPF50内に燃料を供給し、当該燃料をディーゼル酸化触媒53にて燃焼させることによって、DPF50内の排気ガス温度を上昇させる(約560℃程度)。その結果、DPF50(スートフィルタ54)内のPMを強制的に燃焼除去できることになる。」(段落【0039】ないし【0041】)

オ 「【0051】
自動補助再生モードでは前述の通り、吸気絞り装置81及び排気絞り装置82の少なくとも一方を用いた吸気量や排気量の制限によって、エンジン70負荷を増大させ、これに伴いエンジン70出力を増大させて、排気ガス温度を上昇させる。その結果、DPF50内のPMが燃焼除去され、DPF50のPM捕集能力が回復する。実施形態の自動補助再生モードは、例えば約20分程度実行され、当該時間の経過後、吸気絞り装置81や排気絞り装置82の開度がこれを狭める前の元の状態に戻る。
【0052】
自動補助再生モードの実行後は再び、差圧センサ68からの検出結果に基づきDPF50内のPM堆積量を推定し、当該推定結果が許容量以下か否かを判別する(S09)。PM堆積量が許容量以下と判断した場合は(S09:YES)、再生ランプ24を消灯させて自動補助再生モードの終了を報知し(S10)、ステップS01に戻って通常運転モードを実行する。実施形態の許容量は例えば4g/lに設定される。PM堆積量が許容量を超過していると判断した場合は(S09:NO)、自動補助再生モードを実行したにも拘らず、DPF50内のPMが十分除去されていない(詰り状態が改善しない)状態にあるので、タイマ35の時間情報に基づく計測を開始して再生ランプ24を低速点滅させ(S11)、オペレータにDPF50再生動作(リセット再生モード)の実行を予告する。この場合、再生ランプ24の点滅周波数は、自動補助再生モードの場合と同様に、例えば1Hzに設定される。
【0053】
次いで、再生禁止ボタン27が押し操作中か否かを判別し(S12)、押し操作中であれば(S04:ON)、再生禁止ランプ28を点灯させ(S13)、その後ステップS11に戻る。従って、S11?S13のステップでは、DPF50の詰り状態が改善しないにも拘らず、エンジン70における現状の駆動状態が維持され、リセット再生モードへの移行が禁止される。またこの場合も、再生禁止ボタン27を押し操作している間は、再生禁止ランプ28の点灯にて、DPF50再生動作(リセット再生モード)禁止の事実をオペレータの視覚にも訴えており、オペレータの注意を確実に喚起させている。
【0054】
ステップS12において、再生禁止ボタン27が押し操作中でなければ(S12:OFF)、再生ランプ24低速点滅開始から所定時間(例えば10秒)経過したか否かを判別する(S14)。所定時間が経過していなければ(S14:NO)、そのままステップS11に戻る。所定時間が経過したら(S14:YES)、再生禁止ランプ28を消灯させる一方で、低速点滅していた再生ランプ24を点灯させてから(S15)、リセット再生モードを実行する(S16)。
【0055】
リセット再生モードでは前述の通り、コモンレールシステム117のポスト噴射EにてDPF50内に燃料を供給し、当該燃料をディーゼル酸化触媒53にて燃焼させることによって、DPF50内の排気ガス温度を上昇させる。その結果、DPF50内のPMが強制的に燃焼除去され、DPF50のPM捕集能力が回復する。実施形態のリセット再生モードは、例えば約30分程度実行され、当該時間の経過後、コモンレールシステム117がポスト噴射Eを行わなくなる。なお、リセット再生モードを実行したら、エンジン70の累積駆動時間Teは一旦リセットされ、タイマ35の時間情報を用いて新たに計測される。
【0056】
リセット再生モードの実行後は、DPF温度センサ26にて検出されたDPF50内の排気ガス温度TPが予め設定された下限温度TP0以下か否かを判別する(S17)。下限温度TP0は、再生境界温度(例えば300℃程度)を下回る温度になっている。すなわち、下限温度TP0としては、PMが酸化除去されずにスートフィルタ54に堆積する再生不能な温度が採用される。実施形態の下限温度TP0は、例えば約250℃程度に設定される。DPF50内の排気ガス温度TPが下限温度TP0を超えていれば(S17:NO)、ステップS10に移行して再生ランプ24を消灯させ、リセット再生モードの終了を報知する。そして、ステップS01に戻って通常運転モードを実行する。
【0057】
DPF50内の排気ガス温度TPが下限温度TP0以下ならば(S17:YES)、リセット再生モードを実行したにも拘らず、排気ガス温度が上がらずにDPF50内のPMを除去できていない(詰り状態が改善しない)状態にある。そこで、再生ランプ24を高速点滅させ(S18)、オペレータにDPF50再生動作(緊急再生モード)の実行を予告する。この場合、再生ランプ24の点滅周波数は、自動補助再生モード及びリセット再生モードの場合と異なる周波数に設定される。例えば緊急再生モード予告用の再生ランプ24の点滅周波数は2Hzに設定される。」(段落【0051】ないし【0057】)

(2)上記(1)及び図面の記載から分かること

サ 上記(1)アないしオ及び図1ないし8から、甲1には、コモンレール式エンジン70(以下、単に「エンジン70」ともいう。)から排出された排気ガスに含まれる粒子状物質(以下、「PM」という。)を捕集するスートフィルタ54を備えたDPF50を備える作業機が記載されている。

シ 上記(1)アないしオ(特に段落【0031】、【0037】及び【0039】ないし【0041】を参照。)及び図1ないし8から、甲1に記載された作業機は、DPFのスートフィルタ54に堆積したPMの堆積量が所定値以上(詰り状態が規定水準以上)になるとDPF50内の排気ガス温度を再生境界温度(約300℃)以上に上昇させる自動補助再生モードと、自動補助再生モードを実行してもDPF50の詰り状態が改善しない(PMが残留する)場合や、エンジン70の累積駆動時間Teが設定時間T0(例えば100時間程度)を超過した場合に実行され、ポスト噴射EにてDPF50内に燃料を供給し、当該燃料をディーゼル酸化触媒53にて燃焼させることによって、DPF50内の排気ガス温度を上昇させ(約560℃程度)、その結果、DPF50(スートフィルタ54)内のPMを強制的に除去するリセット再生モードとを備えることが分かる。

ス 上記(1)エ(特に段落【0039】)、オ(特に段落【0053】及び【0054】を参照。)及び図1ないし8から、甲1に記載された作業機において、ECU11は、再生禁止ボタン27が押し操作中か否かを判別し(S12)、再生禁止ボタン27が押し操作中でなければ(S12:OFF)、再生ランプ24低速点滅開始から所定時間(例えば10秒)経過したか否かを判別し(S14)、所定時間が経過したら(S14:YES)、再生禁止ランプ28を消灯させる一方で、低速点滅していた再生ランプ24を点灯させてから(S15)、リセット再生モードを実行する(S16)ことが分かる。

(3)甲1発明
上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合して、本件発明1の表現に倣って整理すると、甲第1号証には、次の事項からなる発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「コモンレール式エンジン70から排出された排気ガスに含まれるPMを捕集するスートフィルタ54を備えたDPF50と、
前記DPF50のスートフィルタ54に堆積したPM堆積量の推定値が規定量以上であるときにDPF50内の排気ガス温度TPを再生境界温度以上に向けて昇温させる自動補助再生モードと、
自動補助再生モード実行後、DPF50の詰り状態が改善しない場合、リセット再生モード実行前に、再生禁止ボタン27が押し操作中か否かを判別し押し操作中であれば再生禁止ランプ28を点灯させ、再生禁止ボタン27が押し操作中でなければ所定時間経過後にリセット再生モードを実行することを判断するECU11と、
前記ECU11によってリセット再生モードを実行することが判断されたときに前記排気ガス温度TPを再生境界温度よりも高く且つPMの燃焼が促進される約560℃程度に向けて昇温するリセット再生モードと、
を備える作業機。」

1-2 甲第2号証
(1)甲第2号証の記載
本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(以下、「甲2」ともいう。)には、「排気ガス浄化システムの制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。なお、理解の一助のために下線を付した。

ア 「【0051】
この排気昇温手段331Cは、連続再生型DPF装置13の種類に応じて多少制御が異なるが、エンジン10の筒内(シリンダ内)噴射においてマルチ噴射(多段遅延噴射)を行って、酸化触媒入口排気温度センサ22で検出される排気温度Tdmを酸化触媒13aの活性温度まで上昇させ、その後ポスト噴射(後噴射)を行って、酸化触媒13aに未燃燃料を供給して酸化させて、フィルタ入口排気温度センサ23で検知されるフィルタ入口排気温度Tfmを上げ、触媒付きフィルタ13bを昇温する。なお、吸気絞りやEGR等の吸気系制御を併用することもある。
【0052】
そして、本発明においては、この排気昇温手段331Cは、再生制御手段33Cによる再生制御中に、酸化触媒入口排気温度センサ22で検出される排気温度Tdmが、所定のポスト噴射中止判定用温度(所定の判定用温度)Td0以下になった時には、所定の遅延時間(タイムラグ)Tlag を経過した後に排気温度を上昇させる制御を中止する制御を行うことを特徴として構成される。
【0053】
この所定のポスト噴射中止判定用温度Td0は酸化触媒13aの触媒活性温度に関係する温度で、例えば、250℃に設定され、所定の遅延時間tlag は、数秒のオーダーであり、予め行った実験結果等に従って、例えば、5s?10sに設定される。」(段落【0051】ないし【0053】)

イ 「【0057】
そして、ステップS11の排気温度Tdmのチェックで、排気温度Tdmがマルチ噴射やポスト噴射を必要とする範囲(Td1<Tdm<Td2)にある場合には、ステップS12に行く。このステップS12では、酸化触媒入口排気温度センサ22で検出される排気温度Tdmをチェックし、排気温度Tdmが酸化触媒13aの活性温度Td3以下の場合には、ステップS13でマルチ噴射を排気温度Tdmのチェックのインターバルに関係する所定の制御時間の間行い、ステップS14でポスト噴射フラグFpをOFF(Fp=0)にしてリターンする。
【0058】
また、ステップS12で、排気温度Tdmが酸化触媒13aの活性温度Td3より大きい場合には、ステップS15でフィルタ入口排気温度センサ23で検知されるフィルタ入口排気温度Tfmが所定のポスト噴射開始判定用温度Tf0以下か否かを判定し、以下の場合には、ステップS13に行きマルチ噴射を行う。また、大きい場合には、ステップS16で、マルチ噴射に加えてポスト噴射を排気温度Tfmのチェックのインターバルに関係する所定の制御時間の間行い、ステップS17でポスト噴射フラグFpをON(Fp=1)にしてリターンする。
【0059】
ステップS18では、酸化触媒入口排気温度センサ22で検出される排気温度Tdmをチェックする。この排気温度Tdmが所定のポスト噴射中止判定用温度(所定の判定用温度)Td0より大きい場合には、ステップS16に行き、ポスト噴射を継続する。そして、この排気温度Tdmが所定のポスト噴射中止判定用温度(所定の判定用温度)Td0以下になった場合には、ステップS19で、ポスト噴射を所定の遅延時間tlag の間継続し、所定の遅延時間tlag を経過した後に、ポスト噴射を中止し、ステップS20でポスト噴射フラグFpをOFF(Fp=0)にしてリターンする。
【0060】
リターンした後、この図3の制御フローは、再生制御手段35Cで触媒付きフィルタ13bの再生が完了するまで、繰り返し呼び出される。そして、再生が完了すると、再生制御手段35Cの実施が終了すると共に、この図3の制御フローの呼出しが無くなり終了する。
【0061】
なお、この再生制御の後は、通常運転制御手段31Cによる通常運転制御が行われ、また、再生時期判定手段32Cにより再生開始時期であると判断されると、再生制御手段33Cによる再生が行われ、図3の制御フローが繰り返し呼ばれるようになる。これがエンジンの運転終了まで繰り返される。
【0062】
この図3の制御フローにより、図4に示すように、再生中に排気温度が低下する場合において、触媒温度Tcが酸化触媒13aの活性温度Tc0(通常は、Td3=Tc0に設定される)より高い間は、ポスト噴射を継続して効率よくDPFを再生すると共に、所定の遅延時間tlag 以上の時間tLAG を経過した後、即ち、触媒温度Tcが活性温度Tc0以下になる時又はその直前にポスト噴射を中止するので、白煙の発生を防止することができる。
【0063】
従って、上記の排気ガス浄化システム1の制御方法及び排気ガス浄化システム1によれば、連続再生型DPF装置13の再生に関して、再生中に排気温度が低下する場合において、ポスト噴射を適切な時期に中止することができて、白煙の発生を防止しながら、効率よく触媒付きフィルタ(DPF)13bを再生できる。」(段落【0057】ないし【0063】)

(2)上記(1)及び図面の記載から分かること

カ 上記(1)及び図3の記載から、排気ガス浄化システムにおける排気昇温手段は、酸化触媒入口の排気温度を酸化触媒の活性温度まで上昇させるためにマルチ噴射(多段遅延噴射)を行う第1昇温手段と、前記第1昇温手段の後(すなわち、酸化触媒入口の排気温度を酸化触媒の活性温度まで上昇させた後)に、触媒付きフィルタ入口の排気温度をさらに上昇させるためにポスト噴射(後噴射)を行う第2昇温手段とを含むこと、さらに、前記排気昇温手段は、前記の噴射制御に加えて、吸気絞りやEGR等の吸気系制御を含みうることが分かる。

(3)甲2技術
上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合して、本件発明1の表現に倣って整理すると、甲第2号証には、次の技術(以下「甲2技術」という。)が記載されていると認める。

「第2昇温手段(ポスト噴射)による再生制御中に、排気温度が酸化触媒の触媒活性温度に関係して設定される所定温度(例えば250℃)以下になっているか否かを判断し、排気温度が所定温度より大きい場合には第2昇温手段(ポスト噴射)を継続し、排気温度が所定温度以下になった時には、所定の遅延時間(タイムラグ)を経過した後に排気温度を上昇させる制御を中止する制御を行う技術。」

1-3 甲第3号証
(1)甲第3号証の記載
本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(以下、「甲3」ともいう。)には、「排気ガス浄化システム」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。なお、理解の一助のために下線を付した。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に、上流側から順に酸化触媒を担持した酸化触媒装置とディーゼルパティキュレートフィルタ装置を備えた排気ガス浄化装置、又は、酸化触媒を担持したディーゼルパティキュレートフィルタ装置を備えた排気ガス浄化装置と、前記酸化触媒の温度を指標する触媒温度指標温度を検出する指標温度検出手段を備えると共に、前記ディーゼルパティキュレートフィルタ装置の浄化能力を回復するために、前記指標温度検出手段の検出結果に基づいて、再生制御を行う制御装置を備えた排気ガス浄化システムの制御方法において、
前記内燃機関を搭載した車両の停止中における再生制御の際に、
前記触媒温度指標温度が所定の第1判定温度より低い場合は、アイドル回転数を通常運転時のアイドル回転数よりも高い所定の第1目標回転数にする第1排気ガス昇温制御を行い、前記触媒温度指標温度が前記所定の第1判定温度以上の場合は、アイドル回転数を前記所定の第1目標回転数よりも低く、かつ、通常運転時のアイドル回転数よりも高い所定の第2目標回転数にする第2排気ガス昇温制御を行うことを特徴とする排気ガス浄化システムの制御方法。
【請求項2】
前記第1排気ガス昇温制御において、シリンダ内燃料噴射制御でマルチ噴射を行うと共に、前記第2排気ガス昇温制御において、シリンダ内燃料噴射制御でポスト噴射を行うことを特徴とする請求項1記載の排気ガスシステムの制御方法。
【請求項3】
前記内燃機関を搭載した車両の停止中における再生制御の際に、前記ディーゼルパティキュレートフィルタ装置の温度を指標するフィルタ温度指標温度が、前記所定の第1判定温度より高い所定の第2判定温度より高い場合は、シリンダ内燃料噴射制御でポスト噴射を行わない再生温度維持制御を行うことを特徴とする請求項2記載の排気ガス浄化システムの制御方法。
【請求項4】
前記内燃機関を搭載した車両の停止中における再生制御に手動再生制御が含まれることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の排気ガス浄化システムの制御方法。
【請求項5】
内燃機関の排気通路に、上流側から順に酸化触媒を担持した酸化触媒装置とディーゼルパティキュレートフィルタ装置を備えた排気ガス浄化装置、又は、酸化触媒を担持したディーゼルパティキュレートフィルタ装置を備えた排気ガス浄化装置と、前記酸化触媒の温度を指標する触媒温度指標温度を検出する指標温度検出手段を備えると共に、前記ディーゼルパティキュレートフィルタ装置の浄化能力を回復するために、前記指標温度検出手段の検出結果に基づいて、再生制御を行う制御装置を備えた排気ガス浄化システムにおいて、
前記制御装置が、前記内燃機関を搭載した車両の停止中における再生制御の際に、
前記触媒温度指標温度が所定の第1判定温度より低い場合は、アイドル回転数を通常運転時のアイドル回転数よりも高い所定の第1目標回転数にする第1排気ガス昇温制御を行い、前記触媒温度指標温度が前記所定の第1判定温度以上の場合は、アイドル回転数を前記所定の第1目標回転数よりも低く、かつ、通常運転時のアイドル回転数よりも高い所定の第2目標回転数にする第2排気ガス昇温制御を行うことを特徴とする排気ガス浄化システム。
【請求項6】
前記制御装置が、前記第1排気ガス昇温制御において、シリンダ内燃料噴射制御でマルチ噴射を行うと共に、前記第2排気ガス昇温制御において、シリンダ内燃料噴射制御でポスト噴射を行うことを特徴とする請求項5記載の排気ガスシステム。
【請求項7】
前記制御装置が、前記内燃機関を搭載した車両の停止中における再生制御の際に、前記ディーゼルパティキュレートフィルタ装置の温度を指標するフィルタ温度指標温度が、前記所定の第1判定温度より高い所定の第2判定温度より高い場合は、シリンダ内燃料噴射制御でポスト噴射を行わない再生温度維持制御を行うことを特徴とする請求項6記載の排気ガス浄化システム。
【請求項8】
前記制御装置が、前記内燃機関を搭載した車両の停止中における再生制御に手動再生制御を含むことを特徴とする請求項5?7のいずれか1項に記載の排気ガス浄化システム。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項8】)

イ 「【0002】
ディーゼル内燃機関から排出される粒子状物質(PM:パティキュレート・マター:以下PMとする)やNOxの排出量は、年々規制が強化されてきており、PMをディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter :以下DPFとする)と呼ばれるフィルタで捕集して、外部へ排出されるPMの量を低減する技術や、NOx吸蔵還元型触媒や直接還元型NOx触媒等のNOx触媒でNOxを還元して浄化する技術が開発されている。
(中略)
【0007】
そして、この触媒付きフィルタの連続再生型DPF装置等でも、上流側に酸化触媒を設けて、排気ガス中の未燃HC(炭化水素)やCO(一酸化炭素)の酸化反応により、これらの大気中への放出を防止しながら、フィルタ入口排気温度を上昇させて、PMの酸化除去を促進することが行われている。
【0008】
しかしながら、これらの連続再生型DPF装置においても、排気温度が約350℃以上の時には、このフィルタ(DPF)に捕集されたPMは連続的に燃焼して浄化され、フィルタは自己再生するが、排気温度が低い場合やNOの排出が少ない内燃機関の運転状態、例えば、内燃機関のアイドル運転や低負荷・低速度運転等の低排気温度状態が継続した場合においては、排気温度が低く触媒の温度が低下して活性化しないため、酸化反応が促進されず、また、NOが不足するので、上記の反応が生ぜず、PMを酸化してフィルタを再生できないため、PMのフィルタへの堆積が継続されて、フィルタが目詰まりが進行する。そのため、このフィルタの目詰まりによる排圧上昇の問題が生じる。
【0009】
このフィルタの目詰まりに対して、この目詰まりが所定の目詰まり量を超えた時に排気温度を強制的に昇温させて捕集されているPMを強制的に燃焼除去することが考えられている。このフィルタの目詰まりの検出手段としては、フィルタの前後差圧で検出する方法やエンジンの運転状態から捕集されるPM量を予め設定したマップデータ等から算出してPM累積量を求めて検出する方法等があり、また、排気温度の昇温手段としては、筒内(シリンダ内)噴射における噴射制御による方法や排気管内への直接燃料噴射における燃料制御による方法がある。
【0010】
この筒内噴射制御は、排気温度がフィルタの上流に設けた酸化触媒又はフィルタに担持された酸化触媒の活性温度よりも低い場合に、マルチ噴射(多段遅延噴射)を行って排気ガスを昇温し、その活性温度よりも上昇したらポスト噴射(後噴射)を行って、排気ガス中の燃料を酸化触媒で燃焼して排気ガスをフィルタに捕集されたPMが燃焼する温度以上に昇温して、捕集されたPMを燃焼除去してフィルタを再生させる。
【0011】
通常、これらの連続再生型DPF装置では、このPMの蓄積量が予め設定したPMの蓄積限界値に到達した時に、自動的に、内燃機関の運転状態を強制再生モード運転に変更して排気温度を強制的に上昇させたり、NOxの量を増加させたりして、フィルタに捕集されたPMを酸化して除去して再生処理を行っている。
【0012】
そして、このフィルタの強制再生におけるポスト噴射実行中に、内燃機関の負荷が下がるような車両の運転がなされる場合があるが、この場合に、排気温度が低下し酸化触媒の温度が活性温度よりも下がってしまうため、ポスト噴射によって排気ガス中に添加された未燃燃料が酸化されずに白煙として排出されるという問題が生じる。」(段落【0002】ないし【0012】)

ウ 「【0031】
図1に、この実施の形態の排気ガス浄化システム1の構成を示す。この排気ガス浄化システム1は、ディーゼルエンジン(内燃機関)10の排気通路11に排気ガス浄化装置12を設けて構成される。この排気ガス浄化装置12は、連続再生型DPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)装置の一つであり、上流側に酸化触媒装置12aを、下流側に触媒付きフィルタ装置12bを有して構成される。
【0032】
また、この排気ガス浄化装置12の上流側に排気ブレーキ弁(エキゾーストブレーキ)18が、下流側に排気絞り弁(エキゾーストスロットル)13が設けられる。なお、この排気ブレーキ弁18と排気絞り弁13の位置関係は特に限定されず、前後はどちらが前になってもよい。また、排気ガス浄化装置12との位置関係も特に限定されない。但し、排気ブレーキの効きを考慮すると、排気ブレーキ弁を上流側に排気絞り弁を下流側に配置することが好ましい。
【0033】
酸化触媒装置12aは、多孔質のセラミックのハニカム構造等の担持体に、白金(Pt)等の酸化触媒を担持させて形成され、触媒付きフィルタ装置12bは、多孔質のセラミックのハニカムのチャンネルの入口と出口を交互に目封じしたモノリスハニカム型ウオールフロータイプのフィルタ等で形成される。このフィルタの部分に白金や酸化セリウム等の触媒を担持する。ウオールフロータイプのフィルタを採用した場合には、排気ガスG中のPM(粒子状物質)は多孔質のセラミックの壁で捕集(トラップ)される。
【0034】
そして、触媒付きフィルタ装置12bのPMの堆積量を推定するために、排気ガス浄化装置12の前後に接続された導通管に差圧センサ21が設けられる。また、触媒付きフィルタ装置12bの再生制御用に、酸化触媒装置12aの上流側に酸化触媒入口排気温度センサ(指標温度検出手段) 22が、酸化触媒装置12aと触媒付きフィルタ装置12bの間にフィルタ入口排気温度センサ(指標温度検出手段、フィルタ温度検出手段) 23がそれぞれ設けられる。
【0035】
この酸化触媒入口排気温度センサ22は、酸化触媒装置12aに流入する排気ガスの温度である第1排気ガス温度(触媒温度指標温度)Tg1を検出する。また、フィルタ入口排気温度センサ23は、触媒付きフィルタ装置12bに流入する排気ガスの温度である第2排気ガス温度(触媒温度指標温度、フィルタ温度指標温度)Tg2を検出する。
【0036】
更に、吸気通路14には、エアクリーナ15、MAFセンサ(吸入空気量センサ)19、吸気絞り弁(インテークスロットル)16、吸気温度Taを検出するための吸気温度センサ29等が設けられる。この吸気絞り弁16は、吸気マニホールドへ入る吸気Aの量を調整する。
【0037】
これらのセンサの出力値は、エンジン10の運転の全般的な制御を行うと共に、排気ガス浄化装置12の再生制御も行う制御装置(ECU:エンジンコントロールユニット)30に入力され、この制御装置30から出力される制御信号により、吸気絞り弁16や、燃料噴射装置(噴射ノズル)17や、排気ブレーキ弁18や排気絞り弁13や、図示しないEGR通路にEGRクーラと共に設けられたEGR量を調整するEGRバルブ等が制御される。
【0038】
この燃料噴射装置17は燃料ポンプ(図示しない)で昇圧された高圧の燃料を一時的に貯えるコモンレール噴射システム(図示しない)に接続されており、制御装置30には、エンジンの運転のために、アクセルポジションセンサ(APS)24からのアクセル開度、回転数センサ25からのエンジン回転数等の情報の他、車両速度、冷却水温度等の情報も入力され、燃料噴射装置17から所定量の燃料が噴射されるように通電時間信号が出力される。
【0039】
また、この排気ガス浄化装置12の再生制御において、走行中に自動的に再生制御するだけでなく、触媒付きフィルタ装置12bのPMの捕集量が一定量を超えて、触媒付きフィルタ装置12bが目詰まった時に、運転者(ドライバー)に注意を促し、任意に運転者が車両を停止して再生制御ができるように、注意を喚起するための警告手段である点滅灯(DPFランプ)26及び異常時点灯ランプ27と、手動再生ボタン(マニュアル再生スイッチ)28が設けられる。
【0040】
この排気ガス浄化システム1の制御においては、通常の運転でPMを捕集するが、この通常の運転において、再生時期であるか否かを監視し、再生時期であると判断されると警告又は走行自動再生を行う。警告の場合は、この警告を受けた運転者が手動再生ボタン28を操作することにより手動再生が行われる。
【0041】
そして、この手動再生や走行自動再生の再生制御は、この実施の形態では、図2や図3に例示するような制御フローに従って行われる。この図2では、酸化触媒の温度(ベッド温度)を指標する触媒温度指標温度としては、フィルタ入口排気温度センサ23で検出された第2排気ガス温度Tg2を用い、この第2排気ガス温度Tg2が所定の第1判定温度Tc1以上となった時にポスト噴射により未燃燃料を酸化触媒装置12aの上流側に供給する。また、触媒付きフィルタ装置12bの温度を指標するフィルタ温度指標温度としても、フィルタ入口排気温度センサ23で検出された第2排気ガス温度Tg2を用い、この第2排気ガス温度Tg2が所定の第2判定温度Tc2以上となった時にポスト噴射を行わずにマルチ噴射による再生温度維持制御を行う。
【0042】
この図2の制御フローがスタートすると、ステップS11で、車両停止中再生制御であるか否かを判定し、車両停止中再生制御でない場合には、この再生制御を実施することなく、リターンし、通常運転制御や走行自動再生制御を行う。また、ステップS11で車両停止中再生制御である場合には、ステップS12に行く。
【0044】
ステップS12では、第1判定温度Tc1を算出する。この第1判定温度Tc1は、フィルタ入口排気温度センサ23で検出された排気ガス温度である第2排気ガス温度(触媒温度指標温度)Tg2がこの温度になると、酸化触媒装置12aの酸化触媒で、ポスト噴射により供給される未燃燃料であるHCが十分に酸化される温度(例えば、200℃?250℃程度)である。また、この第1判定温度Tc1に、その時のエンジン回転数Neに従って変化する値を使用してもよい。また、フィルタ入口排気温度センサ23で検出される第2排気ガス温度Tg2に替えて、酸化触媒入口排気温度センサ22で検出される第1排気ガス温度Tg1を用いてもよい。
【0045】
次のステップS13では、第2排気ガス温度Tg2(触媒温度指標温度)のチェックを行う。この第2排気ガス温度Tg2が、ステップS12で算出した第1判定温度Tc1より低いときには、ステップS14で、第1排気ガス昇温制御を、所定の時間(ステップS13の第2排気ガス温度Tg2のチェックのインターバルに関係する時間)Δt1の間行う。
【0046】
この第1排気ガス昇温制御では、アイドル回転数を第1目標回転数Nei1にすると共に、ポスト噴射を伴わないマルチ噴射を行う。この第1目標回転数Nei1は、通常のアイドル回転数Nei0よりは大きい値とし、これにより、排気ガスの昇温効率を向上させる。この第1目標回転数Nei1は、エンジンの種類などにもよるが、通常のアイドル回転数Nei0の1.6?1.8倍程度に設定する。また、この第1排気ガス昇温制御では排気絞りや排気ブレーキを併用し、昇温性を向上させる。」(段落【0031】ないし【0046】)

エ 「【0051】
ステップS15では、第2判定温度Tc2を算出する。この第2判定温度Tc2は、ステップS17の第2排気ガス昇温制御の目標温度であり、フィルタ入口排気温度センサ23で検出された排気ガスの温度である第2排気ガス温度(フィルタ温度指標温度)Tg2をこの温度Tc2以上に維持することにより、触媒付きフィルタ装置12bに捕集されたPMの燃焼を良好な状態に維持する。この第2判定温度Tc2は、通常はPMの燃焼開始温度(例えば、350℃程度)よりも高い値とし、例えば、500℃程度とする。また、第2判定温度Tc2の値を時間によって多段階に変化させてもよい。
【0052】
次のステップS16では、第2排気ガス温度(フィルタ温度指標温度)Tg2のチェックを行う。この第2排気ガス温度Tg2が第2判定温度Tc2より低いときは、ステップS17の第2排気ガス昇温制御に行き、第2排気ガス温度Tg2が第2判定温度Tc2以上の時は、ステップS18の再生温度維持制御に行く。ステップS17では、第2排気ガス昇温制御を、所定の時間(ステップS16の第2排気ガス温度Tg2のチェックのインターバルに関係する時間)Δt2の間行う。
【0053】
この第2排気ガス昇温制御では、アイドル回転数を第2目標回転数Nei2にする。この第2目標回転数Nei2は、燃費と騒音を低減するために、第1目標回転数Nei1よりも小さく設定するが、排気ガスの昇温効率を向上させるために、通常のアイドル回転数Nei0よりは大きな値に設定する。この第2目標回転数Nei2は、エンジンの種類などにもよるが、通常のアイドル回転数Nei0の1.3?1.5倍程度に設定する。
【0054】
そして、マルチ噴射に追加してポスト噴射を行い、このマルチ噴射により排気ガス温度の昇温を継続すると共に、ポスト噴射により排気ガス中に未燃燃料(HC)を供給する。この未燃燃料を酸化触媒装置12aで酸化し、この酸化熱により排気ガスの温度を更に昇温する。この昇温した排気ガスの温度Tg2が第2判定温度Tc2以上になると触媒付きフィルタ装置12bに捕集されたPMの燃焼が促進される。なお、この第2排気ガス昇温制御で、第2排気ガス温度Tg2を、制御目標の温度Tc2まで連続的に昇温してもよいが、二段階や多段階で昇温するようにしても良い。また、この第2排気ガス昇温制御では排気ブレーキ弁18による排気絞り制御を併用し、昇温性を向上する。このステップS17の後は、ステップS19に行く。
【0055】
そして、ステップS16の判定で、第2排気ガス温度Tg2が第2判定温度Tc2以上の場合には、ステップS18で、エンジン10のシリンダ内(筒内)噴射においてマルチ噴射を行う再生温度維持制御を、所定の時間(ステップS16の第2排気ガス温度Tg2の継続時間のチェックのインターバルに関係する時間)Δt3の間行う。
【0056】
この再生温度維持制御では、アイドル回転数を第2目標回転数Nei2に維持したまま、マルチ噴射の継続により排気ガスの昇温を継続するが、ポスト噴射を停止することにより、排気ガス中への未燃燃料の供給を停止し、触媒付フィルタ装置12bに流入する排気ガスの温度Tg2が高くなり過ぎないように昇温を抑制する。この排気ガス温度の昇温の抑制により、触媒付きフィルタ装置12bにおける異常燃焼を防止することができる。
【0057】
また、ステップS18では、PM燃焼累積時間のカウントを行う。このカウントは、第2排気ガス温度Tg2が所定の第2判定温度Tc2以上の場合にのみPM燃焼累積時間taをカウントする(ta=ta+Δt3)。このステップS18の後は、ステップS19に行く。
【0058】
ステップS19では、再生制御の終了か否かを判定するために、PM燃焼累積時間taのチェックを行う。このチェックではPM燃焼累積時間taが所定の判定時間Tacを超えたか否かをチェックする。即ち、超えていれば、再生制御が完了したとして、ステップS20に行き、超えてなければ、再生制御は完了していないとして、ステップS12に戻る。そして、PM燃焼累積時間taが所定の判定時間tacを超えるまで、ステップS14の第1排気ガス昇温制御か、ステップS17の第2排気ガス昇温制御か、ステップS18の再生温度維持制御を行う。
【0059】
そして、ステップS20では、再生制御を終了して、排気絞り弁13や排気ブレーキ弁18を通常運転状態に戻して、通常噴射制御に復帰する。その後、リターンする。」(段落【0051】ないし【0059】)

(2)上記(1)及び図面の記載から分かること

カ 上記(1)及び図2の記載から、第2排気ガス昇温制御(S17)(「マルチ噴射+ポスト噴射」及び「アイドル回転数を通常時の1.3?1.5倍の第2目標回転数に設定」)を所定の時間Δt2の間行った後に、PM燃焼累積時間のチェック(S19)を行い、PM燃焼累積時間taが所定の判定時間Tacを超えていなければ(S19でNOの場合)、ステップS12に戻って第1判定温度を算出し、ステップS13で排気ガス温度のチェックを行い、排気ガス温度が第1判定温度未満であれば(S13のNO)第1排気ガス昇温制御を行い、排気ガス温度が第1判定温度以上(S13のYES)第2判定温度未満(S16のNO)であれば第2排気ガス昇温制御を行い、排気ガス温度が第1判定温度以上(S13のYES)かつ第2判定温度以上(S16のYES)であれば再生温度維持制御を行うことが分かる。

(3)甲3技術
上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合して、本件発明1の表現に倣って整理すると、甲第3号証には、次の技術(以下「甲3技術」という。)が記載されていると認める。

「第2排気ガス昇温制御の実行中にPM燃焼累積時間taのチェックを行い、PM燃焼累積時間taが所定の判定時間Tacを超えていなければ、排気ガス温度のチェックを行い、排気ガスの温度が第1判定温度(例えば200?250℃)未満であれば第1排気ガス昇温制御を行い、排気温度が第1判定温度になるまで第1排気ガス昇温制御を繰り返す技術。」

2 理由1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを、その機能、構成又は技術的意義を考慮して対比する。
甲1発明における「コモンレール式エンジン70」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件発明1における「ディーゼルエンジン」に相当し、以下同様に、「排気ガス」は「排出ガス」に、「PM」は「粒子状物質」に、「スートフィルタ54」は「フィルタ」に、「DPF50」は「排出ガス浄化装置」に、「PM堆積量の推定値」は、「粒子状物質の堆積量」に、「規定量」は「所定値」に、「排気ガス温度TP」は「排気温度」に、「約560℃程度」は「第2目標温度」に、「リセット再生モード」は「第2昇温手段」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明における「再生境界温度以上」は、本件発明1における「第1目標温度」に、「所定の温度」という限りにおいて相当し、同様に、甲1発明における「自動補助再生モード」は、本件発明1における「第1昇温手段」に、「第1の昇温手段」という限りにおいて相当する。
また、甲1発明における「自動補助再生モード実行後、DPF50の詰り状態が改善しない場合、リセット再生モード実行前に、再生禁止ボタン27が押し操作中か否かを判別し押し操作中であれば再生禁止ランプ28を点灯させ、再生禁止ボタン27が押し操作中でなければ所定時間経過後にリセット再生モードを実行することを判断するECU11」は、本件発明1における「第1燃焼条件判断手段によって排気温度が第1目標温度に達していると判断された後、さらに、当該排気温度を第1目標温度より高い温度に上昇させる昇温を行うか否かを確認する昇温確認手段」に、「第2昇温手段の作動前に、当該排気温度を所定の温度より高い温度に上昇させる昇温を行うか否かを確認する昇温確認手段」という限りにおいて相当する。
また、甲1発明における「前記ECU11によってリセット再生モードを実行することが判断されたときに前記排気ガス温度TPを再生境界温度よりも高く且つPMの燃焼が促進される約560℃程度に向けて昇温するリセット再生モード」は、本件発明1における「前記昇温確認手段によって昇温を行うことが確認されたときに前記排気温度を第1目標温度よりも高く且つ粒子状物質の燃焼が促進される第2目標温度に向けて昇温する第2昇温手段」に、「前記昇温確認手段によって昇温を行うことが確認されたときに前記排気温度を所定の温度よりも高く且つ粒子状物質の燃焼が促進される第2目標温度に向けて昇温する第2昇温手段」という限りにおいて相当する。

したがって、両者は、
「ディーゼルエンジンから排出された排出ガスに含まれる粒子状物質を捕集するフィルタを備えた排出ガス浄化装置と、
前記排出ガス浄化装置のフィルタに堆積した粒子状物質の堆積量が所定値以上であるときに排出ガス浄化装置内の排気温度を所定の温度に向けて昇温させる第1の昇温手段と、
第2昇温手段の作動前に、当該排気温度を所定の温度より高い温度に上昇させる昇温を行うか否かを確認する昇温確認手段と、
前記昇温確認手段によって昇温を行うことが確認されたときに前記排気温度を所定の温度よりも高く且つ粒子状物質の燃焼が促進される第2目標温度に向けて昇温する第2昇温手段と、
を備える作業機。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点>
(ア)本件発明1においては「排出ガス浄化装置内の排気温度を第1目標温度に向けて昇温させる第1昇温手段」を備えるのに対し、甲1発明においては、「DPF50内の排気ガス温度TPを再生境界温度以上に向けて昇温させる自動補助再生モード」を備える点(以下、「相違点1」という。)

(イ)本件発明1においては「第1の昇温手段による昇温開始後に排気温度が第1目標温度に達しているか否かを判断する第1燃焼条件判断手段」を備えるのに対し、甲1発明においては、そのような手段を備えるか否か明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。

(ウ)「第2昇温手段の作動前に、当該排気温度を所定温度より高い温度に上昇させる昇温を行うか否かを確認する昇温確認手段」に関し、本件発明1においては「第1燃焼条件判断手段によって前記排気温度が第1目標温度に達していると判断された後、さらに、当該排気温度を第1目標温度より高い温度に上昇させる昇温を行うか否かを確認する昇温確認手段」であるのに対し、甲1発明においては「自動補助再生モード実行後、DPF50の詰り状態が改善しない場合、リセット再生モード実行前に、再生禁止ボタン27が押し操作中か否かを判別し押し操作中であれば再生禁止ランプ28を点灯させ、再生禁止ボタン27が押し操作中でなければ所定時間経過後にリセット再生モードを実行することを判断するECU11」である点(以下、「相違点3」という。)。

(エ)「前記昇温確認手段によって昇温を行うことが確認されたときに前記排気温度を所定の温度よりも高く且つ粒子状物質の燃焼が促進される第2目標温度に向けて昇温する第2昇温手段」に関し、本件発明1においては「前記昇温確認手段によって昇温を行うことが確認されたときに前記排気温度を第1目標温度よりも高く且つ粒子状物質の燃焼が促進される第2目標温度に向けて昇温する第2昇温手段」であるのに対し、甲1発明においては「前記ECU11によってリセット再生モードを実行することが判断されたときに前記排気ガス温度TPを再生境界温度よりも高く且つPMの燃焼が促進される約560℃程度に向けて昇温するリセット再生モード」である点(以下、「相違点4」という。)。

(オ)本件発明1においては「第2昇温手段による昇温開始後に排気温度が第1目標温度未満となっているか否かを判断する第2燃焼条件判断手段と、排気温度が第1目標温度未満でなければ第2昇温手段による昇温を継続し且つ排気温度が第1目標温度未満であれば第2昇温手段による昇温を中止する昇温継続中止手段」とを備えるのに対し、甲1発明においては、そのような手段を備えるか否か明らかでない点(以下、「相違点5」という。)。

(カ)本件発明1においては、「第1昇温手段は、第1燃焼条件判断手段によって前記排気温度が第1目標温度に達していないと判断された場合、第1目標温度に達していると判断されるまで昇温を継続する」のに対し、甲1発明においては、そのように昇温を継続するか否か明らかでない点(以下、「相違点6」という。)。

(2)判断
(ア)本件発明1の課題及び作用効果について
本件発明1は、「トラクタなどの農業機械では、圃場内で作業を行いながら走行することが多く、圃場内での作業中にDPFの再生が自動的に開始されてしまうと、作物等にDPFの再生による高温の排気ガスがあたってしまい、DPFの再生による排気ガスによって作物にダメージを与えてしまう可能性がある。そのため、トラクタの作業中において、トラクタを運転する作業者は常にDPFの再生に注意を払う必要があり、トラクタによる作業がスムーズに進まず、トラクタによる作業に影響を与える可能性があった。(中略)そこで、本発明は、作業機による作業に影響を与えることなくDPFの再生を行うことができる作業機を提供することを目的とする。」(段落【0006】及び【0007】)ということを課題とし、本件発明1の発明特定事項を備えることにより、「請求項1によれば、堆積量が所定値以上となったときに排気温度を第1目標温度に昇温させたうえで、さらに、第1目標温度より高い第2目標温度に上昇させて粒子状物質を燃焼させる場合には昇温確認を行ってから排気温度の昇温を行うことができるため、例えば、作業機による作業の合間を見て作業に支障のないときに昇温確認を行ってDPFの再生(フィルタに堆積した粒子状物質を燃焼させること)を自由に実行することができ、作業機による作業に影響を与えることなく容易にDPFの再生を行うことができる。特に、排気温度を第1目標温度に昇温してから第2目標温度に昇温する制御を行っているため、昇温確認後、素早く、排気温度を粒子状物質を燃焼させる温度域まで上げて粒子状物質を燃焼させることができ、作業者による昇温確認とDPFの再生との時間ズレがなく、昇温してよいという作業者の意志を即座に反映することができる。」(段落【0012】)という作用効果を奏するものである。
一方、甲第1号証には、本件発明1の上記課題及び作用効果に関連する事項は記載も示唆もされていない。
また、甲第2号証及び甲第3号証にも、本件発明1の上記課題及び作用効果に関連する事項は記載も示唆もされていない。
以下、事案に鑑み、相違点1及び4並びに3について検討する。

(イ)相違点1及び4について
本件発明1における「第1目標温度」の技術的意義を知るために本件明細書を参照すると、「ここで、第1目標温度とは、後述するように、第1目標温度からさらに排気温度を上昇させるという第2段階の昇温制御を行った時、第2段階の昇温制御による昇温がスムーズに進みやすい段階の温度域であり、この第1目標温度は、第2段階の昇温制御の性能等によって適宜設定される。例えば、第2段階の昇温制御が、燃料の噴射によって排気温度の昇温を行う「ポスト噴射」である場合には、ポスト噴射によるオイルダイリューションなどを防止するために250℃に設定されている。」(段落【0030】)と記載されており、「第1目標温度」とは、「第1目標温度からさらに排気温度を上昇させるという第2段階の昇温制御を行った時、第2段階の昇温制御による昇温がスムーズに進みやすい段階の温度域」であり、実施例においては250℃に設定されていることが分かる。
それに対し、甲1発明において目標温度とされる「再生境界温度以上」は、約300℃程度以上の温度であり、「排気ガスがディーゼル酸化触媒53及びスートフィルタ54を通過するに際して、排気ガス温度が再生境界温度(例えば約300℃程度)を超えていれば、ディーゼル酸化触媒53の作用にて、排気ガス中のNO(一酸化窒素)が不安定なNO_(2)(二酸化窒素)に酸化する。そして、NO_(2)がNOに戻る際に放出するO(酸素)にて、スートフィルタ54に堆積したPMを酸化除去することにより、スートフィルタ54のPM捕集能力が回復(DPF50が再生)することになる。」(段落【0031】)、「図3に示すように、出力特性マップMは、排気ガス温度が再生境界温度(約300℃程度)の場合における回転速度NとトルクTとの関係を表した境界ラインBLによって上下に分断される。境界ラインBLを挟んで上側の領域は、スートフィルタ54に堆積したPMを酸化除去できる(酸化触媒53の酸化作用が働く)再生可能領域であり・・・」(段落【0037】)という記載から分かるように、スートフィルタ54に堆積したPMを酸化除去するために必要な温度であるから、その技術的意義が相違する。
したがって、本件発明1における「第1目標温度」(250℃)と甲1発明における「再生境界温度以上」(約300℃程度以上)とは、その技術的意義が相違しており、甲1発明における「再生境界温度以上」(約300℃程度以上)を、本件発明1における「第1目標温度」(250℃)に変更すると、DPF50の再生ができなくなるという阻害要因がある。
また、甲1発明における「再生境界温度よりも高く」についても同様である。
したがって、甲1発明に基づいて、相違点1及び4に係る本件発明1の発明特定事項を容易に想到できたということはできない。

(ウ)相違点3について
本件発明1における「昇温確認手段」の技術的意義を知るために本件明細書を参照する。本件明細書には「昇温確認手段42は、排気温度が第1目標温度に達していると判断された後、さらに、当該排気温度を第1目標温度より高い温度に上昇させる昇温を行うか否かをトラクタ1を運転している作業者等に確認するものである。具体的には、第1燃焼条件判断手段41によって排気温度が第1目標温度に達したと判断された後、昇温確認手段42は、運転席8の周囲に設置された再生確認スイッチ44の入力を許可する。そして、昇温確認手段42は、再生確認スイッチ44の入力許可の状態を保持しておき、再生確認スイッチ44が押された(オンされた)ときに、「排気温度を第1目標温度より高い温度に上昇させる第2段階の昇温制御を行ってよい」ことを作業者が確認したと判断する。一方、排気温度が第1目標温度に達したとしても再生確認スイッチ44が押されなければ、昇温確認手段42は、第2段階の昇温制御を行ってよいということは確認されていないと判断する。」(段落【0033】)と記載されており、昇温確認手段42は、排気温度が第1目標温度に達していると判断された後、さらに、当該排気温度を第1目標温度より高い温度に上昇させる昇温を行うか否かをトラクタ1を運転している作業者等に確認するものであり、再生確認スイッチ44が押された(オンされた)ときに、「排気温度を第1目標温度より高い温度に上昇させる第2段階の昇温制御を行ってよい」ことを作業者が確認したと判断するものであることが分かる。
それに対し、甲1発明において昇温確認手段に対応するものは、「自動補助再生モード実行後、DPF50の詰り状態が改善しない場合、リセット再生モード実行前に、再生禁止ボタン27が押し操作中か否かを判別し押し操作中であれば再生禁止ランプ28を点灯させ、再生禁止ボタン27が押し操作中でなければ所定時間経過後にリセット再生モードを実行することを判断するECU11」であるが、再生禁止ボタン27は、排気温度が第1目標温度に達していると判断された後に操作されるものではなく、自動補助再生モード実行前(段落【0048】を参照。)及びリセット再生モード実行前(段落【0053】を参照。)に操作されて判別されるものである。したがって、排気温度が第1目標温度に達しているときに、作業者等が「排気温度を第1目標温度より高い温度に上昇させる第2段階の昇温制御を行ってよい」ことを確認するようなものではない。
つまり、本件発明1における「第1燃焼条件判断手段によって前記排気温度が第1目標温度に達していると判断された後、さらに、当該排気温度を第1目標温度より高い温度に上昇させる昇温を行うか否かを確認する昇温確認手段」と、甲1発明における「自動補助再生モード実行後、DPF50の詰り状態が改善しない場合、リセット再生モード実行前に、再生禁止ボタン27が押し操作中か否かを判別し押し操作中であれば再生禁止ランプ28を点灯させ、再生禁止ボタン27が押し操作中でなければ所定時間経過後にリセット再生モードを実行することを判断するECU11」とは、「当該排気温度を所定温度より高い温度に上昇させる昇温を行うか否かを確認する昇温確認手段」という点では共通するが、確認の時期と、確認の内容が全く異なる。
また、甲1発明においては、自動補助再生モード実行後、温度を維持しているわけではなく、一度再生モードを終了する(段落【0051】を参照。)のであるから、温度は次第に低下することになり、この点でも相違している。
なお、甲2には、前記甲2技術が記載されているが、甲2技術は、作業機に係るものではなく、上記(ア)のような本件発明1に特有の課題及び作用効果が考慮されておらず、課題と密接に関連するDPF装置の再生時期も本件発明1と相違するから、甲1発明において、甲2技術を適用する動機がない。
また、この甲2技術は、相違点5に対応するものであって、相違点3に対応するものではないから、仮に、甲1発明において甲2技術を適用したとしても、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項に想到することはできない。

したがって、甲1発明及び甲2技術に基づいて、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を容易に想到できたということはできない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、上記相違点2、5及び6について判断するまでもなく、甲1発明及び甲2技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当するものではない。

3 理由2及び3について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものである。
甲3技術は、本件発明2における「前記第2昇温手段による昇温開始後に前記排気温度が第1目標温度未満となっていることを報知する条件外れ報知手段と、前記第2昇温手段による昇温開始後に前記第1目標温度未満となっているときに前記ディーゼルエンジンのエンジン回転数の上昇を行って排気温度を昇温させることを促す昇温案内手段と、を備えている」という発明特定事項に対応するものであるが、甲3技術は、作業機に係るものではなく、上記(ア)のような本件発明1に特有の課題及び作用効果が考慮されておらず、課題と密接に関連するDPF装置の再生時期も本件発明1と相違するから、甲1発明において、甲3技術を適用する動機がない。
そして、上記のように、本件発明1が、甲1発明及び甲2技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、仮に甲1発明及び甲2技術にさらに甲3技術を適用したとしても、本件発明2は、甲1発明並びに甲2技術及び甲3技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

また、本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものであるから、上記2 理由1について(2)判断で述べたと同様の理由により、甲1発明及び甲2技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

以上のとおりであるから、請求項2及び3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、特許法第113条第2号に該当するものではない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-11-02 
出願番号 特願2011-257818(P2011-257818)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (F01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 稲村 正義  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 金澤 俊郎
槙原 進
登録日 2016-01-08 
登録番号 特許第5863415号(P5863415)
権利者 株式会社クボタ
発明の名称 作業機  
代理人 安田 幹雄  
代理人 安田 敏雄  

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