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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
管理番号 1321273
異議申立番号 異議2016-700821  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-12-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-06 
確定日 2016-11-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第5879596号「海生生物の付着防止方法およびそれに用いる付着防止剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5879596号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5879596号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成27年8月4日(優先権主張 平成27年4月15日)に出願されたものであって、平成28年2月12日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 中田義直より特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第5879596号の請求項1ないし4の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
海水冷却水系の海水中に、二酸化塩素と過酸化水素とをこの順もしくは逆順でまたは同時に添加して、前記二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共存させることにより海水冷却水系への海生生物の付着を防止することを特徴とする海生生物の付着防止方法。
【請求項2】
前記二酸化塩素および過酸化水素が、前記海水に対してそれぞれ0.01?0.5mg/Lおよび0.1?2.0mg/Lの濃度で海水中に共存する請求項1に記載の海生生物の付着防止方法。
【請求項3】
前記二酸化塩素と過酸化水素とが1日14?24時間添加される請求項1または2に記載の海生生物の付着防止方法。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1つに記載の方法に使用される海生生物の付着防止剤であって、
前記付着防止剤が、
過酸化水素発生源としての
(a)過酸化水素水溶液、または
(b)過酸化水素供給化合物の水溶液と、
二酸化塩素発生源としての
(1)次亜塩素酸ナトリウムと塩酸と亜塩素酸ナトリウムとの組み合わせ
(2)亜塩素酸ナトリウムと塩酸との組み合わせ、または
(3)塩素酸ナトリウム、過酸化水素および硫酸との組み合わせ
とを含むことを特徴とする海生生物の付着防止剤。

第3 特許異議申立の理由について
申立人は、以下の甲各号証及び参考資料を証拠として提出し、取消理由1ないし3に示す概要の理由により、本件発明1ないし4に係る特許は取り消されるべきである旨を主張している。

<取消理由1>
本件発明1ないし4に係る特許は、同発明が、甲第1又は2号証に記載された発明、及び、甲第3号証に記載の技術手段に基づき、甲第4ないし7号証に記載の技術手段を参酌することで、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

<取消理由2>
本件発明1ないし4に係る特許は、同発明が、甲第8又は9又は10号証に記載された発明に基づき、甲第4ないし7号証に記載の技術手段を参酌することで、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

<取消理由3>
本件発明1ないし4に係る特許は、同発明が発明の詳細な説明に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

<証拠>
甲第1号証 :特開平1-275504号公報
甲第2号証 :特開平6-153759号公報
甲第3号証 :特開2000-70954号公報
甲第4号証 :特開2008-44862号公報
甲第5号証 :特表2011-528357号公報
甲第6号証の1 :中国特許出願公開第102415409号明細書
甲第6号証の2 :甲第6号証の1の翻訳文
甲第7号証の1 :中国特許出願公開第102100237号明細書
甲第7号証の2 :甲第7号証の1の翻訳文
甲第8号証 :特開2003-155720号公報
甲第9号証の1 :中国特許第100391860号明細書
甲第9号証の2 :甲第9号証の1の翻訳文
甲第10号証の1:中国特許出願公開第1524799号明細書
甲第10号証の2:甲第10号証の1の翻訳文
甲第11号証の1:「亜塩素酸ナトリウムの酸分解に及ぼす
過酸化水素の影響」、石 源三、
工業化学雑誌、第65巻第4号(1962)、
10?13頁
甲第11号証の2:甲第11号証の1の図5の拡大図
参考資料1 :本件特許明細書に記載の
「試験例3」(【0043】?【0047】)の
評価(異議申立人が作成した資料)
参考資料2 :ウエブ頁、日本水処理工業株式会社、
「冷却水で注意すべきこととは?」、
平成28年7月15日検索、
<URL:http//www.mizu-syori.com/solution・・・>
参考資料3 :ウエブ頁、日本油化工業株式会社、
「トラブル解決 冷却水系統に貝が付く」、
平成28年7月15日検索、
<URL:http//www.nipponyuka.jp/resolution04.html>
なお、以下で「甲第X号証」「甲第X号証の2」を「甲X」、「参考資料Y」を「参考Y」と記すことがある。

第4 当審の判断
A.取消理由1について
取消理由1は、甲第1又は2号証から引用発明を認定する場合の取消理由であり、以下に検討する。

A-1.本件発明1について
1.甲第1又は2号証に記載された発明について
甲1の、特許請求の範囲、1頁左下欄の〔従来の技術〕、2頁左上欄8-14行の記載を参酌し、甲2の、特許請求の範囲、【0002】及び【0003】、【0012】の記載を参酌すると、甲1と甲2には略同内容の発明が記載されており、甲1の用語で記載すれば、甲1又は甲2には、
「海水冷却水系の海水に二酸化塩素を添加して海水生物の付着を防止する海水生物の付着防止方法。」の発明(以下、「引用発明12」という。)
が記載されていると認められる。

2.本件発明1と引用発明12との対比
i)本件発明1の「海生生物」は「ムラサキイガイなどのイガイ類やフジツボ類やコケムシ類などの海生生物種」(本件特許明細書【0002】)であり、引用発明12の「海水生物」は「フジツボ、ムラサキイガイ、コケムシヒドロ虫類等の海水生物」(甲1の1頁左下欄)、「ムラサキイガイやフジツボ等の水中生物」(甲2の【0003】)であるから、引用発明12の「海水生物」は、本件発明1の「海生生物」に相当する。
ii)すると、本件発明1と引用発明12とは「海水冷却水系の海水中に、二酸化塩素を存在させることにより海水冷却水系への海生生物の付着を防止する海生生物の付着防止方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
本件発明1は海水中に「二酸化塩素」と「過酸化水素」を「この順もしくは逆順でまたは同時に添加して、前記二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共存させる」ものであるのに対して、引用発明12は「過酸化水素」を添加していない点。

3.相違点の検討
(1)甲第3号証に記載の技術手段について
甲3の、【請求項1】、【0002】、【0029】を参酌すると、甲3には、「海水冷却水系」の「通水路」等に「海水中に生息するムラサキイガイ、フジツボ、コケムシ、ヒドロムシなどの海生生物」の「付着を防止する」ために、「過酸化水素」を「海水冷却水系」に添加する技術手段が示されているといえる。

(2)引用発明12へ甲第3号証に記載の技術手段を適用する動機付けについて
引用発明12は「二酸化塩素」を添加して「海水生物の付着を防止する」もので、甲第3号証に記載の技術手段は「過酸化水素」を添加して「海生生物」の「付着を防止する」ものだから、引用発明12へ甲第3号証に記載の技術手段を適用することに困難性がなければ、本件発明1は引用発明12と甲第3号証に記載の技術手段に基いて容易に想到し得るといえる。
そこで、まず、ただちに引用発明12へ甲第3号証に記載の技術手段を適用できる動機付けがあるかを検討すると、引用発明12と甲第3号証に記載の技術手段は、共に、「二酸化塩素」と「過酸化水素」を併用することも、またその必要性も示唆するものではない。
そして、本願特許明細書【0010】の記載を踏まえると、本願優先日前に、「二酸化塩素」と「過酸化水素」を併用すると、両剤は長時間安定して共存することはできないから、両剤を併用しないことが技術常識であったといえる。
したがって、ただちに引用発明12へ甲第3号証に記載の技術手段を適用できる動機付けは認められない。
次に、他の甲各号証の記載に基づいて、引用発明12への甲第3号証に記載の技術手段の適用の動機付けが認められるか否かを、以下で検討する。

(2-1)甲第4号証について
i)甲4の、【請求項1】、【0015】、【0017】を参酌すると、甲4には、「魚の体内に浸入したスクーチカ繊毛虫をin vivoで死滅させ」る「魚のスクーチカ感染症治療方法」であって、「養殖水として採水する海水」において「安定化二酸化塩素又は亜塩素酸塩を0.5ppm以上10ppm以下、有機カルボン酸を0.015ppm以上0.3ppm以下、過酸化水素を5ppm以上30ppm以下の濃度範囲でそれぞれ含有」させて、「紫外線を遮断した状態で魚を薬浴させる」という技術手段が示されている。
ii)甲4に示される技術手段においては、「安定化二酸化塩素」と「過酸化水素」は、「魚の体内に侵入したスクーチカ繊毛虫」を「in vivo」すなわち魚の体内で死滅させるという効果のある用途に使用されるものであり、上記「薬浴」の成分は「安定化二酸化塩素又は亜塩素酸塩」、「有機カルボン酸」、「過酸化水素」であって、薬剤の成分としてそれらの内から「安定化二酸化塩素」と「過酸化水素」のみを用いても上記効果を奏するとの記載はない。
iii)すると、甲4に示される技術手段は、その用途及び薬剤の成分が、「海水冷却水系への海生生物の付着を防止する」ものでも、「二酸化塩素」と「過酸化水素」のみでなるものでもないから、引用発明12への甲第3号証に記載の技術手段の適用の動機付けとなるものではない。

(2-2)甲第5号証について
i)甲5の、【請求項1】、【請求項2】、【請求項10】、【0018】、【0021】、【0093】を参酌すると、甲5には、「二酸化塩素」と「過酸化水素」を主とすることで「二酸化塩素」の「生体組織」に対する「細胞毒性反応のリスク」を「低減」できるので、「口腔ケア、・・・粘膜感染治療、並びにコンタクトレンズの消毒」等に用いられる「局所的消毒剤」として利用できる「組成物」という技術手段が示されている。
ii)甲5に示される技術手段においては、「二酸化塩素」と「過酸化水素」は、人体あるいは人体に接触する部材の「局部的消毒剤」の用途に使用されるものであり、薬剤の成分として「二酸化塩素」と「過酸化水素」を混合して使用するものではあるが、両剤を混合することで「二酸化塩素」の「細胞毒性」を弱めるものだから、両剤により殺菌効果を高くするものとはいえない。
iii)すると、甲5に示される技術手段は、その用途及び薬剤の成分が、「海水冷却水系への海生生物の付着を防止する」ものでも、「二酸化塩素」と「過酸化水素」のみでなるものではあっても両剤により殺菌効果を高くするものではないから、引用発明12への甲第3号証に記載の技術手段の適用の動機付けとなるものではない。

(2-3)甲第6号証について
以下では、翻訳文である甲第6号証の2(以下、「甲6」という。)を基礎として検討する。
i)甲6の、「背景技術」(2/3頁)、「発明を実施するための最良の形態」の「実施例1」(3/3頁)を参酌すると、甲6には、「油田」の「水攻法」において問題となる「細菌微生物」の殺菌剤として「二酸化塩素溶液」「過酸化水素溶液」「アルキルジメチルアンモニウムクロリド」を混合したものを用いるという技術手段が示されている。
(当審注)「水攻法」とは、自噴しない油層に水を圧入して地下に遺留した油を回収する採油法で、その際に、パイプ、タンク等が微生物により腐食されるという問題がある。
必要なら特開2011-126867号公報【0051】等を参照されたい。
ii)甲6に示される技術手段においては、「二酸化塩素」と「過酸化水素」は、「細菌微生物」の殺菌剤の用途に使用されるものであり、当該殺菌剤の成分は「二酸化塩素」「過酸化水素」「アルキルジメチルアンモニウムクロリド」であって、薬剤の成分としてそれらの内から「二酸化塩素」と「過酸化水素」のみを用いても「油田」の「水攻法」における十分な殺菌という効果を奏するとの記載はない。
iii)すると、甲6に示される技術手段は、その用途及び薬剤の成分が、「海水冷却水系への海生生物の付着を防止する」ものでも、「二酸化塩素」と「過酸化水素」のみでなるものでもないから、引用発明12への甲第3号証に記載の技術手段の適用の動機付けとなるものではない。

(2-4)甲第7号証について
以下では、翻訳文である甲第7号証の2(以下、「甲7」という。)を基礎として検討する。
i)甲7の、「【要約】」(1/3頁)、「技術分野」(2/3頁)、「【特許請求の範囲】【請求項0001】」(3/3頁)を参酌すると、甲7には、「医療機器、食器、動物及び環境」といった「衛生分野」の「消毒殺菌」に用いられ、「二酸化塩素」「過酸化水素」「過マンガン酸カリウム」を含む「消毒液」という技術手段が示されている。
ii)甲7に示される技術手段においては、「二酸化塩素」と「過酸化水素」は、「衛生分野」の殺菌剤の用途に使用されるものであり、当該殺菌剤の成分は「二酸化塩素」「過酸化水素」「過マンガン酸カリウム」であって、薬剤の成分としてそれらの内から「二酸化塩素」と「過酸化水素」のみを用いても「衛生分野」の十分な「消毒殺菌」という効果を奏するとの記載はない。
iii)すると、甲7に示される技術手段は、その用途及び薬剤の成分が、「海水冷却水系への海生生物の付着を防止する」ものでも、「二酸化塩素」と「過酸化水素」のみでなるものでもないから、引用発明12への甲第3号証に記載の技術手段の適用の動機付けとなるものではない。

(3)結言
以上から、甲第4ないし7号証に記載の技術手段を参酌しても、引用発明12への甲第3号証に記載の技術手段の適用の動機付けを見出すことはできない。
すると、上記相違点に係る本件発明1の特定事項は、 甲第1又は2号証に記載された発明、及び、甲第3号証に記載の技術手段に基づき、甲第4ないし7号証に記載の技術手段を参酌することで、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでなく、取り消されるべきものでない。

A-2.本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、直接又は間接的に本件発明1を引用するから、本件発明1に係る特許と同様に、本件発明2ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでなく、取り消されるべきものでない。

B.取消理由2について
取消理由2は、甲第8又は9又は10号証から引用発明を認定する場合の取消理由であり、以下に検討する。

B-1.本件発明1について
1.甲第8号証について
(1)甲第8号証に記載された発明
甲8の、【0002】、【0008】、【0011】、【0017】の記載を参酌し、本件発明1の記載に則して整理すれば、甲8には、次の発明が記載されていると認められる。
「機器冷却用の冷却水として用いられる海水に、海生生物繁殖防止剤を供給し、該供給は、海水中の水生生物が付着対象物に留まることのできない程度の水流を起こして、該水流に添加することで行う海生生物の付着を防止する方法。」の発明(以下、「引用発明8」という。)
(2)本件発明1と引用発明8との対比
i)本件発明1の「海生生物」は、「冷却水」として取水する「海水取水路や配管内」に「付着」する「ムラサキイガイなどのイガイ類やフジツボ類やコケムシ類などの海生生物種」(本件特許明細書【0002】)であり、引用発明8の「水生生物」も「付着繁殖」して「流水路を閉塞したり、冷却対象機器等の負荷を増大」させる「イガイやフジツボ」である(【0002】【0011】【0028】)であるから、引用発明8の「水生生物」は本件発明1の「海生生物」に相当する。
ii)引用発明8の「海生生物繁殖防止剤」が供給される「機器冷却用の冷却水として用いられる海水」は、本件発明1の「海水冷却水系の海水」に相当する。
iii)引用発明8の「海生生物繁殖防止剤」は「水中生物付着防止効果を有する」(【0017】)から、本件発明1の「二酸化塩素と過酸化水素」と、引用発明8の「海生生物繁殖防止剤」とは、「付着防止剤」の点で一致する。
iv)本件発明1は、「二酸化塩素」と「過酸化水素」の「海水」中への添加手段を特定せず、また、薬剤によらない付着防止手段の併用を許さない旨の特定はないから、本件発明1は「付着防止剤」の「供給」を「海水中の水生生物が付着対象物に留まることのできない程度の水流を起こして、該水流に添加する」ことで行うことを包含するといえる。
v)すると、本件発明1と引用発明8とは、
「海水冷却水系の海水中に、付着防止剤を添加して、海水冷却水系への海生生物の付着を防止する海生生物の付着防止方法。」の点で一致し、次の点で相違する。
(相違点)
海生生物の「付着防止剤」について、本件発明1では海水中に「二酸化塩素」と「過酸化水素」を「この順もしくは逆順でまたは同時に添加して、前記二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共存させる」ものであるのに対して、引用発明8では「海生生物繁殖防止剤」である点。
(3)相違点の検討
i)引用発明8の「海生生物繁殖防止剤」について、甲8には、「薬液としては、水生生物付着防止効果を有するものであれば限定されるものではなく、例えば、塩素、二酸化塩素、過酸化水素、次亜塩素酸等に代表される海生生物繁殖抑止剤を用いることができる。」(【0017】)と記載されるのみで、「海生生物」の「付着防止剤」として、上記複数の物質を併用できることも、上記複数の物質から「二酸化塩素」と「過酸化水素」のみを選択することが、最も付着防止効果が良好である等の両剤を特に選択する理由も見いだせない。
ii)そして「海生生物」の「付着防止剤」として、「二酸化塩素」と「過酸化水素」のみを選択することを動機付ける点は、上記「A-1.3.(2-1)?(2-4)」でみたように、甲第4ないし7号証に記載の技術手段を参酌してもみいだすことはできない。
iii)よって、上記相違点に係る本件発明1の特定事項は、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
(4)結言
本件発明1に係る特許は、同発明が、甲第8号証に記載された発明に基づき、甲第4ないし7号証に記載の技術手段を参酌することで、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものといえず、取り消されるべきものでない。

2.甲第9号証について
以下では、翻訳文である甲第9号証の2(以下、「甲9」という。)を基礎として検討する。
(1)甲第9号証に記載された発明
甲9の、【特許請求の範囲】【請求項0001】(9/10頁)、【要約】(1/10頁)、「背景技術」(2/10頁)、「発明の開示」(3/10頁、4/10頁)の記載を参酌し、本件発明1の記載に則して整理すれば、甲9には、次の発明が記載されていると認められる。
「海水冷システムの配管と熱交換設備を冷却する海水中に、非酸化性殺生物剤と酸化性殺生物剤を交互に投加する、海水冷システム生物阻害の方法。」の発明(以下、「引用発明9」という。)
(2)本件発明1と引用発明9との対比
i)引用発明9の「海水冷システムの配管と熱交換設備を冷却する海水」は、本件発明1の「海水冷却水系の海水」に相当する。
ii)引用発明9の「背景技術」には、海水を冷却水として用いるシステムにおいて、「海生生物」である「フジツボ」「イガイ」等の「システム内での付着」がひどく、これを「皆殺し」する方法について記載されている。
すると、引用発明9の「海水冷システム生物阻害の方法」において、「生物」は、海水を冷却水として用いる「システム内」に「付着」する「フジツボ」「イガイ」等の「海生生物」であり、同「海生生物」は「非酸化性殺生物剤と酸化性殺生物剤を交互に投加する」ことで「皆殺し」すなわち死滅するので付着しないようになるものといえる。
すると、引用発明9の「海水冷システム生物阻害の方法」は、「海水冷システム」において「海生生物」の付着を防止する方法ということができ、これは、本件発明1の「海水冷却水系への海生生物の付着を防止する海生生物の付着防止方法」に相当する。
iii)本件発明1の「二酸化塩素と過酸化水素とをこの順もしくは逆順でまたは同時に添加して、前記二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共存させること」と、引用発明9の「非酸化性殺生物剤と酸化性殺生物剤を交互に投加する」こととは、「海生生物」の「付着防止剤」を添加する点で一致する。
iv)すると、本件発明1と引用発明9とは、
「海水冷却水系の海水中に、付着防止剤を添加して、海水冷却水系への海生生物の付着を防止する海生生物の付着防止方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点)
海生生物の「付着防止剤」について、本件発明1では、海水中に「二酸化塩素」と「過酸化水素」を「この順もしくは逆順でまたは同時に添加して、前記二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共存させる」ものであるのに対して、引用発明9では、「非酸化性殺生物剤と酸化性殺生物剤を交互に投加する」ものである点。
(3)相違点の検討
i)引用発明9の「非酸化性殺生物剤と酸化性殺生物剤」については、甲9の「発明の開示」(3/10頁、4/10頁)に、「非酸化性殺生物剤」として「第四級アミン塩・・・1種類以上の混合物」を、「酸化性殺生物剤」として「塩素、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、二酸化塩素、オゾン、過酸化水素、過酢酸、ブロム塩素ジメチル・・・1種類以上の混合物」を、それぞれ用いることが記載されている。
しかし、甲9の記載には、「海生生物」の「付着防止剤」として、上記複数の物質から「二酸化塩素」と「過酸化水素」のみを選択することが、最も付着防止効果が良好である等の両剤を特に選択する理由も、「二酸化塩素」と「過酸化水素」のみを選択した実施例も見いだせない。
ii)そして、「海生生物」の「付着防止剤」として、「二酸化塩素」と「過酸化水素」のみを選択することを動機付ける点は、上記「A-1.3.(2-1)?(2-4)」でみたように、甲第4ないし7号証に記載の技術手段を参酌してもみいだすことはできない。
iii)よって、上記相違点に係る本件発明1の特定事項は、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
(4)結言
本件発明1に係る特許は、同発明が、甲第9号証に記載された発明に基づき、甲第4ないし7号証に記載の技術手段を参酌することで、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものといえず、取り消されるべきものでない。

3.甲第10号証について
以下では、翻訳文である甲第10号証の2(以下、「甲10」という。)を基礎として検討する。
(1)甲第10号証に記載された発明
甲10の、【要約】(1/6頁)、【特許請求の範囲】【請求項001】【請求項002】(5/6頁)、「背景技術」(2/6頁)、「発明の開示」(3/6頁)の記載を参酌し、本件発明1の記載に則して整理すれば、甲10には、次の発明が記載されていると認められる。
「冷却塔を用いる開放サイクル冷却水システムにおいて、冷却水に殺菌剤と塩基性物質を加えて同システム中の藻類を皆殺しする方法。」の発明(以下、「引用発明10」という。)
(2)本件発明1と引用発明10との対比
i)本件発明1の「海水冷却水系の海水」は、「工業用の冷却水として、特に火力発電所や原子力発電所の復水器の冷却水として多量に使用」されている「海水」(本件特許明細書【0002】)であるのに対して、引用発明10の「冷却塔を用いる開放サイクル冷却水システム」における「冷却水」は、同「システム」が「循環冷却水システム」又は「空調冷却水システム」(「発明の開示」(3/6頁))であって塩分による腐食を避けるものだから淡水であることは明らかである。
よって、上記両者は「冷却水」である点で一致する。
ii)本件発明1の「海生生物」は、海水で生育する動物である「ムラサキイガイなどのイガイ類やフジツボ類やコケムシ類などの海生生物種」(本件特許明細書【0002】)であるのに対して、引用発明10の「藻類」は淡水で生育する植物である。
よって、上記両者は「水中で生育する生物」である点で一致する。
iii)引用発明10の「殺菌剤と塩基性物質を加えて同システム中の藻類を皆殺しする」ことにおける「藻類を皆殺しする」ことは、「藻類の付着を防止する」ことといえるから、本件発明1の「二酸化塩素と過酸化水素とをこの順もしくは逆順でまたは同時に添加して、前記二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共存させることにより海水冷却水系への海生生物の付着を防止する」ことと、引用発明10の「殺菌剤と塩基性物質を加えて同システム中の藻類を皆殺しする」ことは、「水中で生育する生物」の「付着防止剤」を「冷却水」に添加する点で一致する。
iv)すると、本件発明1と引用発明10とは、
「水中で生育する生物の付着防止剤を冷却水に添加して、水中で生育する生物の付着を防止する方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
「冷却水」について、本件発明1では、「海水冷却水系の海水」であるのに対して、引用発明10では、「冷却塔を用いる開放サイクル冷却水システム」における「冷却水」という「淡水」である点。
(相違点2)
「水中で生育する生物」について、本件発明1では、海水で生育する動物である「海生生物」であるのに対して、引用発明10では、淡水で生育する植物である「藻類」である点。
(相違点3)
「水中で生育する生物の付着防止剤」について、本件発明1では、「二酸化塩素」と「過酸化水素」を「この順もしくは逆順でまたは同時に添加して、前記二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共存させる」ものであるのに対して、引用発明10では、「殺菌剤と塩基性物質を加え」るものである点。
(3)相違点の検討
相違点1-3についてまとめて検討する。
i)本件発明1は、「火力発電所や原子力発電所」の「工業用の冷却水」として「海水」を多量に使用するところ、「海水」で生育する動物である「海生生物種」が「海水取水路壁や配管内」等に付着するのを防ぐために、「付着防止剤」として「二酸化塩素と過酸化水素」を併用して添加するものに関する発明である。
ii)これに対して、引用発明10は、「循環冷却水システム」又は「空調冷却水システム」である「冷却塔を用いる開放サイクル冷却水システム」(ビルの屋上などに設置されることの多い空調用の水冷却システムが対象と推測される。)において、淡水で生育する植物である「藻類」が付着するのを防ぐために、「付着防止剤」として「殺菌剤と塩基性物質」を併用して添加するものに関する発明である。
iii)そうすると、淡水で生育する植物である「藻類」に対して「付着防止剤」として効果のある薬剤が、「海水」で生育する動物である「海生生物種」に対して「付着防止剤」として必ず効果のある薬剤であるとは考え難いというべきである。
iv)また、仮に前者が後者として使用できるとしても、前者の薬剤である引用発明10の「殺菌剤と塩基性物質」は、甲10の「発明の開示」(3/6頁)に記載される塩基性物質(「Li_(2)O・・・酢酸カリウム・・・の一つあるいはそのうちの2種類あるいは2種類以上の混合物」)と殺菌剤(「塩素・・・二酸化塩素・・・過酸化水素・・・グルタルアルデヒド類の一つあるいはそのうちの2種類あるいは2種類以上の混合物」)を必須とするものであり、上記複数の物質から「二酸化塩素」と「過酸化水素」のみを選択することが、最も付着防止効果が良好である等の両剤を特に選択する理由も、「二酸化塩素」と「過酸化水素」のみを選択した実施例も見いだせない。
v)そして、「付着防止剤」として、「二酸化塩素」と「過酸化水素」のみを選択することを動機付ける点は、上記「A-1.3.(2-1)?(2-4)」でみたように、甲第4ないし7号証に記載の技術手段を参酌してもみいだすことはできない。
vi)よって、上記相違点1-3に係る本件発明1の特定事項は、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
(4)結言
本件発明1に係る特許は、同発明が、甲第10号証に記載された発明に基づき、甲第4ないし7号証に記載の技術手段を参酌することで、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものといえず、取り消されるべきものでない。

B-2.本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、直接又は間接的に本件発明1を引用するから、本件発明1に係る特許と同様に、本件発明2ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでなく、取り消されるべきものでない。

C.異議申立人の主張について
1.異議申立人の主張
異議申立人は異議申立書12-17頁で概ね以下のように主張している。
(1)本件特許明細書に記載の各試験例のデータからは、参考1の「コルビー」の式、参考2の「スライム」の定義、参考3の「ムラサキイガイ」の成長過程を勘案すると、本件発明における海生生物の付着防止に、二酸化塩素と過酸化水素を併用することの相乗効果は認められない。
よって、「二酸化塩素」と「過酸化水素」の併用は容易に成し得るから、取消理由1又は2は成立するものである。
(2)ClO_(2)にH_(2)O_(2)を混合したときのClO_(2)の濃度の時間変化を示す甲第11号証の1の図5とその拡大図である甲第11号証の2(以下、「甲11」という。)に示されるように、本件特許明細書に記載の試験例1(【表1】【0035】二剤の混合による二剤の残留状態)は、甲11を追試したものに等しく、ClO_(2)とH_(2)O_(2)は両者を混ぜてから15分程度はClO_(2)とH_(2)O_(2)は共に存在することが知られていたから、両者は混合できることが本件出願時から公知であるので、取消理由1又は2は成立するものである。

2.当審の判断
(1)について
仮に、本件特許明細書に記載の各試験例のデータから、本件発明における海生生物の付着防止に、二酸化塩素と過酸化水素を併用することの相乗効果は認められず、相加効果しか認められないとしても、上記「第4 A.B.」でみたように、そもそも海生生物の付着防止に、二酸化塩素と過酸化水素を併用すること自体が容易に想到できない以上、容易に想到できたことを前提とする効果論を論ずること自体に意味が無い。
そして、試験例3(【表3】【0046】)、試験例5(【表5】【0056】)から、上記二剤の添加により海生生物の付着が防止されるという本件発明の効果のあることは明らかであるから、異議申立人の主張は採用し得ない。
(2)について
甲11が公知であるとしても、それは本件発明の前提であるClO_(2)とH_(2)O_(2)は両者を混ぜると短時間しか共存できないということ(本件特許明細書【0010】、試験例1(【表1】【0035】)を裏付けるものでしかなく、ClO_(2)とH_(2)O_(2)は両者を混ぜてから15分程度はClO_(2)とH_(2)O_(2)は共に存在することが知られていたとしても、その15分間の両剤の共存が海生生物の付着防止に効果があることまでを立証するものではないから、異議申立人の主張は採用し得ない。

D.取消理由3について
異議申立人は、本件特許明細書には「二酸化塩素と過酸化水素」を特定の濃度と両剤の割合で海水中で存在させることで、本件発明の効果を達成することが記載されているが、本件発明1では「二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共存させる」とのみ記載されているおり、両剤の濃度と割合が不明だから、本件発明の効果を達成できない場合を含むもので、同発明は発明の詳細な説明の記載されたものでなく、特許法第36条第6項第1号に適合しない旨を取消理由として申し立てた。(異議申立書18頁)
しかしながら、本件発明1では「二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共存させることにより海水冷却水系への海生生物の付着を防止する」と特定されており、「海水冷却水系への海生生物の付着を防止」できる程度に「二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共存させる」ことは明らかだから、両剤の濃度と割合は「海水冷却水系への海生生物の付着を防止」できる程度にすることは明らかで、同発明は、技術常識に照らし、発明の詳細な説明に記載されたものといえ、直接又は間接的に本件発明1を引用する本件発明2ないし4についても同様である。
したがって、本件発明1ないし4に係る特許は、同発明が発明の詳細な説明に記載されたものだから、特許法第36条第6項第1号の規定に適合する特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものでない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-11-07 
出願番号 特願2015-154203(P2015-154203)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C02F)
P 1 651・ 537- Y (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 富永 正史  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 中澤 登
山本 雄一
登録日 2016-02-12 
登録番号 特許第5879596号(P5879596)
権利者 株式会社片山化学工業研究所 三菱瓦斯化学株式会社 ナルコジャパン合同会社
発明の名称 海生生物の付着防止方法およびそれに用いる付着防止剤  
代理人 金子 裕輔  
代理人 甲斐 伸二  
代理人 甲斐 伸二  
代理人 稲本 潔  
代理人 稲本 潔  
代理人 野河 信太郎  
代理人 甲斐 伸二  
代理人 野河 信太郎  
代理人 稲本 潔  
代理人 金子 裕輔  
代理人 金子 裕輔  
代理人 野河 信太郎  
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