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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07K
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C07K
審判 全部無効 2項進歩性  C07K
管理番号 1321470
審判番号 無効2014-800206  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-12-10 
確定日 2016-09-23 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4766528号発明「自己組織化ペプチドおよびそれより得られるゲル」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4766528号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり請求項1?7について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4766528号についての手続の経緯の概要は以下のとおりである。
平成18年6月26日 特許出願
平成23年6月24日 特許権の設定登録
平成26年12月10日 特許無効審判請求
平成27年2月16日 手続補正書
平成27年4月27日 答弁書及び訂正請求
平成27年7月8日 弁駁書
平成27年7月10日 参加申請書
平成27年10月16日 参加許否の決定
平成27年11月27日 口頭審理陳述要領書(請求人及び被請求人)
平成27年12月11日 口頭審理

第2 訂正請求について
1.平成27年4月27日付け訂正請求(以下、「本件訂正」という。)の内容
本件訂正における訂正事項は、以下のとおりである。なお、下線は、訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「極性アミノ酸残基と非極性アミノ酸残基とを有する、8?32個のアミノ酸残基からなる自己組織化ペプチドであって、該極性アミノ酸残基として酸性アミノ酸残基及び塩基性アミノ酸残基を含み、中性領域において、該酸性アミノ酸残基の電荷と該塩基性アミノ酸残基の電荷との総和が-3?-2、又は+2?+3であり、中性水溶液中において自己組織化した際に該非極性アミノ酸残基のみが一方の面に配置されたβ-シート構造を形成しうるものであり、該非極性アミノ酸残基が、アラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基及びグリシン残基からなる群より選択されたアミノ酸残基である自己組織化ペプチド。」とあるのを、「極性アミノ酸残基と非極性アミノ酸残基とを有する、12個又は16個のアミノ酸残基からなる自己組織化ペプチドであって、該極性アミノ酸残基として酸性アミノ酸残基及び塩基性アミノ酸残基を含み、中性領域において、該酸性アミノ酸残基の電荷と該塩基性アミノ酸残基の電荷との総和が-3?-2、又は+2?+3であり、中性水溶液中において自己組織化した際に該非極性アミノ酸残基のみが一方の面に配置されたβ-シート構造を形成しうるものであり、以下の表1?6に記載されるいずれかのアミノ酸配列で表される、自己組織化ペプチド(表1?6中、Xはアラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基、グリシン残基、チロシン残基、セリン残基、トレオニン残基、アスパラギン残基、グルタミン残基またはシステイン残基を示し、Zはアラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基またはグリシン残基を示す)。

」と訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「中性水溶液中において自己組織化した際に、非極性アミノ酸残基のみが一方の面に配置され、極性アミノ酸残基と非極性アミノ酸残基とが他方の面に配置されたβ-シート構造を形成しうる、請求項1記載の自己組織化ペプチド。」とあるのを、「前記表1?6中、Xはアラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基またはグリシン残基を示す、請求項1記載の自己組織化ペプチド。」と訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記極性アミノ酸残基として、少なくとも1個の中性アミノ酸残基をさらに含有してなる、請求項1記載の自己組織化ペプチド。」とあるのを、「前記表1?6中、Xはチロシン残基、セリン残基、トレオニン残基、アスパラギン残基、グルタミン残基またはシステイン残基を示す、請求項1記載の自己組織化ペプチド。」と訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「前記中性アミノ酸残基が、アスパラギン残基、グルタミン残基、セリン残基、トレオニン残基、チロシン残基及びシステイン残基からなる群から選択されたアミノ酸残基である、請求項3記載の自己組織化ペプチド。」とあるのを、「前記表1?6中、Xはアスパラギン残基またはセリン残基を示す、請求項3記載の自己組織化ペプチド。」と訂正する。
(5)訂正事項5
明細書の段落【0005】に「すなわち、本発明は〔1〕極性アミノ酸残基と非極性アミノ酸残基とを有する、8?32個のアミノ酸残基からなる自己組織化ペプチドであって、該極性アミノ酸残基として酸性アミノ酸残基及び塩基性アミノ酸残基を含み、中性領域において、該酸性アミノ酸残基の電荷と該塩基性アミノ酸残基の電荷との総和が-3?-2、又は+2?+3であり、中性水溶液中において自己組織化した際に該非極性アミノ酸残基のみが一方の面に配置されたβ-シート構造を形成しうるものであり、該非極性アミノ酸残基が、アラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基及びグリシン残基からなる群より選択されたアミノ酸残基である自己組織化ペプチドに関する。」とあるのを、「すなわち、本発明は〔1〕極性アミノ酸残基と非極性アミノ酸残基とを有する、12個又は16個のアミノ酸残基からなる自己組織化ペプチドであって、該極性アミノ酸残基として酸性アミノ酸残基及び塩基性アミノ酸残基を含み、中性領域において、該酸性アミノ酸残基の電荷と該塩基性アミノ酸残基の電荷との総和が-3?-2、又は+2?+3であり、中性水溶液中において自己組織化した際に該非極性アミノ酸残基のみが一方の面に配置されたβ-シート構造を形成しうるものであり、後述する表2?7に記載されるいずれかのアミノ酸配列で表される、自己組織化ペプチドに関する。」と訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

2.訂正請求の適否
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1では、自己組織化ペプチドが8個?32個のアミノ酸残基からなるペプチドであることを特定しているが、どのようなアミノ酸残基がどのように配列しているかについては具体的に特定していないのに対し、訂正後の請求項1では、自己組織化ペプチドが12個又は16個のアミノ酸残基からなるペプチドであって、表1?表6に記載されたいずれかのアミノ酸配列で表されるペプチドであることを限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書の段落【0035】?【0040】には、自己組織化ペプチドの例として、表2?表7に記載のアミノ酸配列で特定される、12個又は16個のアミノ酸残基からなるペプチドが記載されており、訂正後の請求項1に記載の表1?表6はそれぞれ当該表2?表7に対応しているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項1は、発明特定事項の限定であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
本件特許無効審判事件においては、全ての請求項が無効審判の請求の対象とされているので、訂正事項1に関して、第134条の2第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。
(2)訂正事項2
訂正前の請求項2では、自己組織化ペプチドが、中性水溶液中で自己組織化した際に、非極性アミノ酸残基のみが一方の面に配置され、極性アミノ酸残基と非極性アミノ酸残基とが他方の面に配置されたβ-シート構造を形成しうることを特定しているが、極性アミノ酸残基及び非極性アミノ酸残基がどのように配列しているかについては具体的に特定していないのに対し、訂正後の請求項2では、極性アミノ酸残基及び非極性アミノ酸残基が表1?表6に記載されたように配列していることを特定し、中性アミノ酸残基がアラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基またはグリシン残基であることを限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項2は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書の段落【0034】には、表2?7に記載のアミノ酸配列中のXはアラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基、グリシン残基、チロシン残基、セリン残基、トレオニン残基、アスパラギン残基、グルタミン残基又はシステイン残基を示すことが記載されているから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項2は、発明特定事項の限定であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
本件特許無効審判事件においては、全ての請求項が無効審判の請求の対象とされているので、訂正事項2に関して、第134条の2第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。
(3)訂正事項3
訂正前の請求項3では、自己組織化ペプチドが、極性アミノ酸残基として、少なくとも1個の中性アミノ酸残基をさらに含有してなることを特定しているが、中性アミノ酸残基を含む極性アミノ酸残基及び非極性アミノ酸残基がどのように配列しているかについては具体的に特定していないのに対し、訂正後の請求項3では、中性アミノ酸残基を含む極性アミノ酸残基及び非極性アミノ酸残基が表1?表6に記載されたように配列していることを特定し、中性アミノ酸残基がチロシン残基、セリン残基、トレオニン残基、アスパラギン残基、グルタミン残基またはシステイン残基であることを限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項3は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書の段落【0034】には、表2?7に記載のアミノ酸配列中のXはアラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基、グリシン残基、チロシン残基、セリン残基、トレオニン残基、アスパラギン残基、グルタミン残基又はシステイン残基を示すことが記載されているから、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項3は、発明特定事項の限定であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
本件特許無効審判事件においては、全ての請求項が無効審判の請求の対象とされているので、訂正事項3に関して、第134条の2第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。
(4)訂正事項4
訂正前の請求項4では、請求項3記載の自己組織化ペプチドにおいて、中性アミノ酸残基が、アスパラギン残基、グルタミン残基、セリン残基、トレオニン残基、チロシン残基及びシステイン残基からなる群より選択されたアミノ酸残基であることを特定しているのに対し、訂正後の請求項4では、中性アミノ酸残基がアスパラギン残基またはセリン残基であることを限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項4は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書の段落【0021】には、より好ましい中性アミノ酸残基としてセリン残基またはアスパラギン残基が記載されているから、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項4は、実質的に択一的記載の要素の削除であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
本件特許無効審判事件においては、全ての請求項が無効審判の請求の対象とされているので、訂正事項4に関して、第134条の2第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。
(5)訂正事項5
訂正事項5は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書の段落【0035】?【0040】には、自己組織化ペプチドの例として、表2?表7に記載のアミノ酸配列で特定される、12個又は16個のアミノ酸残基からなるペプチドが記載されているから、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
(6)訂正事項6
訂正事項6は、訂正前の請求項5を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項6は、請求項の削除であるから、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項6は、請求項の削除を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
(7)訂正事項7
訂正事項7は、訂正前の請求項6を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項7は、請求項の削除であるから、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項7は、請求項の削除を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
(8)訂正事項8
訂正事項8は、訂正前の請求項7を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項8は、請求項の削除であるから、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項8は、請求項の削除を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

3.訂正請求に対する結論
以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び6項に適合するものである。
よって、本件訂正を認める。

第3 本件特許発明
本件訂正により訂正された請求項1?4に係る発明は、訂正明細書等の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明4」という。)。なお、請求項5?7は削除された。下線は、訂正箇所を示す。
「【請求項1】極性アミノ酸残基と非極性アミノ酸残基とを有する、12個又は16個のアミノ酸残基からなる自己組織化ペプチドであって、
該極性アミノ酸残基として酸性アミノ酸残基及び塩基性アミノ酸残基を含み、
中性領域において、該酸性アミノ酸残基の電荷と該塩基性アミノ酸残基の電荷との総和が-3?-2、又は+2?+3であり、
中性水溶液中において自己組織化した際に該非極性アミノ酸残基のみが一方の面に配置されたβ-シート構造を形成しうるものであり、
以下の表1?6に記載されるいずれかのアミノ酸配列で表される、自己組織化ペプチド(表1?6中、Xはアラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基、グリシン残基、チロシン残基、セリン残基、トレオニン残基、アスパラギン残基、グルタミン残基またはシステイン残基を示し、Zはアラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基またはグリシン残基を示す)。

【請求項2】前記表1?6中、Xはアラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基またはグリシン残基を示す、請求項1記載の自己組織化ペプチド。
【請求項3】前記表1?6中、Xはチロシン残基、セリン残基、トレオニン残基、アスパラギン残基、グルタミン残基またはシステイン残基を示す、請求項1記載の自己組織化ペプチド。
【請求項4】前記表1?6中、Xはアスパラギン残基またはセリン残基を示す、請求項3記載の自己組織化ペプチド。」

第4 当事者の主張の概要
1.請求人の主張
請求人は、本件特許第4766528号の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された発明について特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、以下のように主張したが、平成27年7月8日付け弁駁書において無効理由1を取り下げたので、審理の対象となるのは無効理由2-1、2-2、3及び4である。
(無効理由1)本件特許発明は、甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。
(無効理由2-1)本件特許発明は、甲第5号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証、甲第7号証及び甲第8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(無効理由2-2)本件特許発明は、甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証、甲第7号証及び甲第8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(無効理由3)
本件発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、本件発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものである。
(無効理由4)
本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものである。
そして、請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:Zhang et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1993,90:3334-3338
甲第2号証:米国特許第5,670,483号明細書
甲第3号証:Zhang et al.,Biopolymers 1994,34:663-672
甲第4号証:Dado et al.,J.Am.Chem.Soc. 1993,115,12609-12610
甲第5号証:Altman et al.,Protein Science 2000,9:1095-1105
甲第6号証:Caplan et al.,Biomacromolecules 2000,1:627-631
甲第7号証:Yokoi et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 2005,102:8414-8419
甲第8号証:国際公開第2004/007532号
甲第9号証:宣誓書(Shunguang Zhang,Ph.D.)
甲第10号証:宣誓書(Eun Seok Gil)
甲第11号証:Zhang et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1997,94:23-28
甲第12号証:Nagai et al.,Biomaterials 2012,33(4):1044-1051
甲第13号証:米国特許第8,299,032号明細書
甲第14号証:米国特許出願公開第2012/0058066号明細書
甲第15号証:Aggeli et al.,Nature 1997,386:259-262
甲第16号証:Zhang,Biotechnology Advances 2002,20:321-339
甲第17号証:米国特許第7,179,784号明細書
甲第18号証:Kisiday et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 2002,99:9996-10001
甲第19号証:米国特許第5,798,243号明細書
甲第20号証:Komatsu et al.,PLoS ONE 2014,9(7):e102778

2.被請求人の主張
被請求人は、本件無効審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の主張する無効理由及び証拠によっては、本件特許発明を無効にすることはできないと主張した。
そして、被請求人の提出した証拠方法は以下のとおりである。
乙第1号証:J.Biol.Chem. 1984,259,5507-5513
乙第2号証:J.Nanomater. 2012,Article ID 537262
乙第3号証:Methods Enzymol. 2012,508:177-190
乙第4号証:Biomaterials 2009,30:1156-1165

第5 甲号証の記載事項
甲第1?3、5?8号証には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。下線は、当審にて付与したものである。)。

1.甲第1号証
(甲1-1)「安定な巨視的膜を形成するための自己相補的なオリゴペプチドの自発的会合
要旨 16残基のペプチド[(Ala-Glu-Ala-Glu-Ala-Lys-Ala-Lys)_(2)]は、水中で、特徴的なβ-シート円二色性スペクトルを有する。塩の添加により、このペプチドは巨視的膜を形成するように自発的に会合する。膜は、加熱又は酸性若しくはアルカリ性溶液中で溶解せず、グアニジン塩酸、SDS/尿素又は種々のタンパク質分解酵素の添加によっても溶解しない。」(第3334頁、表題及び要旨第1行?第7行)
(甲1-2)「この膜は、1%SDS中、90℃にて4時間以上安定である。これらの観察結果は、β-シートのCDスペクトルが、EAK16溶液を90℃で加熱により、又は様々なpH(1.5、3.0、7.0及び11)により、又は0.1%SDS、7Mグアニジン塩酸若しくは8M尿素により、有意に変化しないことを示す他の研究と一致している。」(第3335頁左欄第1行?第6行)
(甲1-3)「塩の効果 この自発的な会合過程において、塩は重要な役割を果たすように思われる。種々のカチオンが試された。膜形成の誘導における有効性は、Li^(+)>Na^(+)>K^(+)>Cs^(+)の順であろう。Cs^(+)は、構造的な膜というよりも、ほとんど沈殿を生成した。水溶液中において、Li^(+)は、最も大きな水和半径(3.4Å)を有し、一方、Na^(+)(2.76Å)、K^(+)(2.32Å)及びCs^(+)(2.28Å)は、より小さな水和半径を有する(11)。膜の形成は、一価の金属イオンのエンタルピーの順に相関しているようである。」(第3335頁左欄第10行?第19行)

2.甲第2号証
(甲2-1)「発明の概要
EAK16と名付けられた小ペプチド(AEAEAKAKAEAEAKAK配列番号2の310-325)は、ミリモル濃度の塩の存在下で安定な巨視的膜に自己組織化することが思いがけなく発見された。この発明は、ペプチドの安定な巨視的膜への自己組織化に関する。膜を形成するペプチドは、両親媒性、すなわち、疎水性及び親水性のアミノ酸残基を交互に有し;12アミノ酸よりも大きく、そして好ましくは少なくとも16アミノ酸であり;相補的かつ構造的に互換的であるとして特徴付けられている。相補的とは、その親水性側鎖間で形成するイオン化対及び/または水素結合を通して相互作用するペプチドの能力を指し、そして構造的に互換的とは、そのペプチド骨格間の一定の距離を維持する相補的ペプチドの能力を指す。これらの特性を有するペプチドは、二次構造レベルでのβ-シート及び三次構造レベルでの織り合わされた繊維の形成及び安定化をもたらす分子間相互作用に関与する。」(第1欄第29行?第49行)
(甲2-2)「その親水性側鎖間のイオン化対を形成することが可能なペプチドは、本明細書において、相補的であると参照される。相補対相互作用は、親水性側鎖間の水素結合の結果によっても生じ得る。したがって、AsnまたはGlnは、膜形成ペプチドにおける荷電残基の代わりの親水性アミノ酸として機能し得る。イオン化対相互作用は水素結合よりも強いので、酸性及び/または塩基性アミノ酸側鎖を有するペプチドは、水素結合性側鎖を有するペプチドよりも安定な膜を形成すると予期されるだろう。」(第5欄第1行?第11行)
(甲2-3)「ペプチドは、完全には相補的または構造的に互換的でないと、核酸のハイブリダイゼーションにおけるミスマッチ塩基対と類似のミスマッチを含有しているとみなすことができる。ミスマッチを含有するペプチドは、ミスマッチ対の破壊力よりもペプチド間相互作用の全体的な安定性の方が支配的な場合は、膜を形成可能である。機能的に、係るペプチドもまた、相補的または構造的に互換的であるとみなすことができる。例えば、ミスマッチアミノ酸対は、両側でいくつかの完全にマッチしたペアに囲まれている場合、寛容であり得る。ミスマッチペプチドは、本明細書記載の方法を用いて、巨視的膜に自己組織化する能力についてテストを受けることができる。」(第6欄第12行?第24行)
(甲2-4)「要約すると、巨視的膜を形成すると予期されるペプチドは、疎水性及び親水性のアミノ酸を交互に有し、12アミノ酸よりも大きく、そして好ましくは少なくとも16アミノ酸長であり、相補的かつ構造的に互換性である。疎水性アミノ酸は、Ala、Val、Ile、Met、Phe、Tyr、Trp、Ser、Thr及びGlyを含む。親水性アミノ酸は、塩基性アミノ酸、例えばLys、Arg、His、Orn;酸性アミノ酸、例えばGlu、Asp;または水素結合を形成するアミノ酸、例えばAsn、Glnであり得る。酸性及び塩基性アミノ酸は、EAK16及びARD16のように、ペプチド上でクラスター化され得る。末端残基のカルボキシル基及びアミノ基は、保護化または非保護化され得る。膜は、自己相補的及び自己互換的なペプチドの均質な混合物中で、または互いに相補的で構造的に互換的なペプチドの不均質な混合物中で形成され得る。上記基準に合致するペプチドは、適切な条件下(下記に記載)で巨視的膜に自己組織化し得る。」(第6欄第25行?第42行)
(甲2-5)「巨視的膜の形成
EAK16の新規な自己組織化は、仔ウシ血清含有組織培養培地(ダルベッコ改変イーグル培地、GibcoBRL、ゲイザースバーグ、メリーランド)中で最初に観察された。膜は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS:150mM NaCl:に10mMリン酸ナトリウム、pH7.4)中でもEAK16から形成し得る。巨視的膜は、水中では形成しないが、リン酸ナトリウムを水-ペプチド水溶液に終濃度約100mg/mlまで添加すると表れる。したがって、塩が、自己組織化プロセスにおいて重要な役割を果たしているようである。」(第6欄第47行?第57行)

3.甲第3号証
(甲3-1)「イオン性自己相補的なオリゴペプチドにおける異常に安定なβ-シート形成
要旨 16残基の両親媒性オリゴペプチド(EAK16)は、一残基おきにアラニンを、そしてまたグルタミン酸及びリジンを含み(Ac-NH-AEAEAKAKAEAEAKAK-CONH_(2))、異常に安定なβ-シート構造を形成しうる。そのβ-シート構造は、水中の極めて低濃度、かつ高温で安定である。そのβ-シート構造は、0.1%SDS、7M塩酸グアニジン又は8M尿素の存在下でさえ有意な変化を受けない。」(第663頁、表題及び要旨第1行?第7行)
(甲3-2)「ペプチドストック溶液は、水中で約0.57mM(1mg/mL)の濃度で調製された(EAK16の分子量は1760である)。EAK16は、水中で3mM(約5mg/mL)の最大溶解度を有するが、23%アセトニトリルには、6mM(約10mg/mL)まで溶解しうる。」(第664頁左欄下から第6行?右欄第1行)
(甲3-3)「

本研究で用いられた交互の両親媒性ペプチドの構造特性
」(第668頁、表2)

4.甲第5号証
(甲5-1)「

」(第1096頁、表1)
(甲5-2)「同様に、ペプチドDAR16-IV、DAR16-IV*及びDAR32-IVはすべてN末端に向けて負に荷電した残基のクラスターを有する。DAR16-IV及びDAR16-IV*の両方はまた、β-シートからα-ヘリックスへ二次構造の変換を起こしうる。」(第1097頁左欄第30行?第33行)
(甲5-3)「DAR16-IVの場合は、pH1?2でらせん状の構造を形成し、pH3で移行して、pH5以上でβ-シートに変化する。EAK12-dは、pH1?3でβ-シートを形成し、pH4で移行して、pH5以上でよりらせん状の構造に変化する。」(第1100頁右欄第5行?第9行)
(甲5-4)「β-シート構築の推定構造
伸長したβ-シート主鎖(β-ストランド)をもつ単量体ペプチドは、本質的に不安定であり、それ故、両方の面で会合体を形成するように安定化されなければならない。自己相補的イオン性ペプチドは、疎水性面及び親水性面を含む。その結果、1つの面は分子間イオン性相互作用により安定化され、一方、他の面は、通常の主鎖の水素結合に加えて、分子間疎水性相互作用により安定化される。交互の親水性残基及び疎水性残基により、分子間に重複を起こし、ネットワーク複合体を生成することを可能にする。」(第1100頁右欄第17行?第27行)

5.甲第6号証
(甲6-1)「ファンデアワールス引力に比較して静電反発力の解放により支配されるβ-シートタンパク質の自己会合
三次元マトリクス生体材料へ自己会合し得る一群のペプチドの代表例である、合成オリゴペプチド、n-FKFEFKFEFKFE-c(KFE12)を用いて、我々は、自己会合が、DLVO理論に従って、溶液条件が、電気二重層反発力をフアンデアワールス引力よりも低下させるときに起こることを示す。この理論は、対イオンの臨界凝集濃度が会合を許すために必要であり、この濃度は、対イオンの価数の6乗に反比例することを予測する。我々の実験結果は、KFE12が、低pHにおいて、KCl、K_(2)SO_(4)及びK_(3)Fe(CN)_(6)の3つの異なる塩溶液のそれぞれについて臨界凝集濃度を示し、これらの臨界濃度の相対値はアニオンの価数に予測された依存性に従うことが示す。この理論は、オリゴペプチドが、外因性の塩の非存在下でさえ、電気的に中性の場合に、自己組織化すべきであることをさらに予測する。我々の実験結果は、KFE12がNaOHで中和されたときに、確かにゲルを形成することを示す。したがって、我々は、この種のオリゴペプチドに基づく生体材料の会合をいかにコントロールするかについての基礎的理論的な理解を獲得した。」(第627頁、表題及び要約)
(甲6-2)「KFE12(図1に示される)と称される特定のオリゴペプチドは、ズオチン(Zuotin)タンパク質中にZhangらによって最初に発見された配列の誘導体であって、疎水性側鎖のフェニルアラニンと、荷電した側鎖のリジン及びグルタミン酸を交互に有する。十分な濃度の塩の添加により、弾性ゲルとして挙動する線維状のネットワークが形成される5。我々の目的は、人体の外では可溶性状態(粘性のある溶液を形成)から、人体に注入されるとゲルに転移を起こす材料を製造することである。」(第627頁左欄第11行?第20行)
(甲6-3)「我々は、KFE12は、疎水性効果(水のエントロピーが疎水性側鎖と接触しないときにより大きくなること)により会合するが、この会合は荷電した面からの同種の電荷の反発力によって妨げられるであろうと仮定する。それ故、オリゴペプチドは、同種の電荷の反発力が疎水性効果を上回っているときは会合せずにいるが、静電反発力のエネルギーが疎水性引力のそれより小さくなったとき、自己会合が起こるであろう。」(第628頁左欄第6行?第14行)

6.甲第7号証
(甲7-1)「RADA16-Iの溶液は、ペプチド粉末をミロQ水及びトリス塩酸緩衝液(pH7.5)に溶解して調製した。20mMトリス塩酸緩衝液中のペプチドの最終濃度は、3mM又は0.5%(5mg/ml)であった。このペプチド溶液を、各測定前に、超音波洗浄機(50T、VWRサイエンティフィック)を用いて最大出力に設定して30分間超音波振盪に付した。」(第8414頁右欄第25行?第31行)
(甲7-2)「

」(第8415頁、図1)
(甲7-3)「

」(第8415頁、図2)
(甲7-4)「足場ヒドロゲルは完全に透明であり、これは、3次元組織細胞培養における正確な画像作成に重要な要件である。」(第8415頁右欄第10行?第13行)
(甲7-5)「AFM画像により、ナノファイバーは、超音波処理前に、数百ナノメートルから数ミクロンの長さの範囲であることが判明した。」(第8416頁左欄第22行?第24行)
(甲7-6)「生物学的材料としてのいくつかのペプチド及びタンパク質のナノファイバー構造は広く研究されてきたが、自己アセンブリ及びリアセンブリのその分子機序は依然として明らかではない。我々はここで、明確に定義されたナノファイバー骨格を形成するイオン性自己相補性ペプチドRADARADARADARADA(RADA16-I)のリアセンブリを報告する。」(第8414頁、要旨第1行?第6行)

7.甲第8号証
(甲8-1)「数多く(数十個)の系統的に変化させたペプチド(典型的には7?30残基長)は、我々の実験室で細胞培地中での可溶性ポリマー及びゲル形成について研究された。これらのペプチドのすべては、特定の低イオン強度培地中でβ-シ-トポリマーを形成するために自己組織化しうるが、それらのほとんどは、細胞培地中にて溶液から沈殿することを見出した。我々は、生理的なpH=7.5で、ペプチドあたり正味で約+2又は-2の電荷を持つペプチドのみが可溶性のポリマー及び細胞培地においてゲルを形成することができると結論付けた(細胞培地中で、そのポリマーを可溶性に保つために必要なペプチドあたりの正味の電荷量は、そのペプチドが形成するペプチドテープの全体の表面特性及び可溶性に依存して変化するであろう。)。我々が研究したペプチドの中で、分子あたり+3又は-3の正味の電荷を有するペプチドは、ペプチド濃度が10mg/m1以上で細胞培地中、わずかに限定された自己組織化能を示し、どのようなペプチド濃度においてもゲルマトリクスを生成しなかった。分子あたり+4又は-4の正味の電荷を有するペプチドは、細胞培地中で自己組織化しなかった。」(第8頁第5行?第17行)
(甲8-2)「同じような挙動が、細胞培地中における合理的にデザインされたペプチド(表1)について見出された。P11-3及びP11-5の線維間での主な相違は、p11-3によって形成される線維がpH=7.5でペプチドあたり正味で-2の負電荷を有するのに対し、P11-5によって形成される線維は、pH=7.5でペプチドあたり正味で+2の電荷を有する点である。
したがって、様々な化学的性質を有するペプチド線維やゲルがペプチドデザインによって製造されうることは明らかである。例えば、ポリマーの電荷の種類(正又は負)は、ポリマーマトリクスと細胞との相互作用のために極めて重要であろう。中性の極性側鎖の性質もまた、好ましいポリマー-細胞相互作用に微調整し、そして生体内でのポリマーの安定性を最大化するために変化させることができる。」(第9頁第6行?第15行)
(甲8-3)「

」(図面1/10、表1)
(甲8-4)「細胞培地中、可溶性のβシート重合体足場およびゲル足場を形成させるためのペプチド設計の段階は、
1)単独テープ生成のため、国際特許出願第PCT/GB96/00743号の基準に従ってペプチドを設計する。細胞培地中安定な単独テープを生成するため、テープの両面は、優勢的に極性基で保護(covered)されなければならない。
2)リボン、微小繊維、および繊維生成のため、例えば一方は優勢的に極肢でもう一方は優勢的に無極性といったように、テープの一面は他方の面と異なっていなければならない。極性面はまた、例えば、グルタミンまたはアスパラギン側鎖により提供される水素結合部位を通して、互いに弱く相互作用することが可能でなければならない。
3)これら重合体が全て細胞培地に可溶性であることを確実にするために、重合体間にある程度の反発が作り出されなければならない。これは、重合体の同じ電荷間の静電反発であり得る。あるいは、これは、ペプチド重合体を修飾する柔軟な親溶媒性(solvophilic)鎖(水が好適な溶媒の場合はポリエチレングリコール鎖など)により作り出される立体反発であり得る。これらPEG部分は、アミノ酸側鎖に、またはペプチド末端に結合され得る。」(第7頁第16行?第8頁第2行)

第6 当審の判断
1.無効理由2-1について
(1)甲第5号証に記載された発明
上記記載事項(甲5-1)及び(甲5-4)によると、甲第5号証には、「ADADADADARARARARのアミノ酸配列で表される、16個のアミノ酸残基からなる自己相補的ペプチド。」の発明(以下、「甲5発明」という)が記載されていると認められる。

(2)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲5発明との対比
本件特許発明1のうちの、表1に「1-XZ」として記載されているアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチドに係る発明(以下、「本件特許発明1-1」という。)と甲5発明とを対比する。甲5発明の「自己相補的ペプチド」は、本件特許発明1-1の「自己組織化ペプチド」に相当する。
甲5発明のペプチドのアミノ酸配列中、Dは極性アミノ酸残基の酸性アミノ酸残基であり、Rは極性アミノ酸残基の塩基性アミノ酸残基であり、Aは非極性アミノ酸残基である。また、甲5発明のペプチドのアミノ酸配列中、Dは4個、Rは4個存在するから、酸性アミノ酸残基の電荷と塩基性アミノ酸残基の電荷との総和は0であり、また、非極性アミノ酸残基を交互に有することから、甲5発明のペプチドは、中性水溶液中において自己組織化した際に該非極性アミノ酸残基のみが一方の面に配置されたβ-シート構造を形成しうるものと認められる。
本件特許発明1-1のペプチドのアミノ酸配列中、Dは2個、Rは4個存在するから、酸性アミノ酸残基の電荷と塩基性アミノ酸残基の電荷との総和は+2であり、また、本件特許発明1-1の3及び7位のXの選択肢の中にAがある。
そうすると、両者は、
極性アミノ酸残基と非極性アミノ酸残基とを有する、16個のアミノ酸残基からなる自己組織化ペプチドであって、
該極性アミノ酸残基として酸性アミノ酸残基及び塩基性アミノ酸残基を含み、
中性水溶液中において自己組織化した際に該非極性アミノ酸残基のみが一方の面に配置されたβ-シート構造を形成しうるものであり、
3及び7位にAを有するアミノ酸配列で表される、自己組織化ペプチドである点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)1、5、9及び13位のアミノ酸が、本件特許発明1-1はRであるのに対し、甲5発明はAである点。
(相違点2)11及び15位のアミノ酸が、本件特許発明1-1はDであるのに対し、甲5発明はAである点。
(相違点3)2、4、6及び8位のアミノ酸が、本件特許発明1-1はZであるのに対し、甲5発明はDである点。
(相違点4)10、12、14及び16位のアミノ酸が、本件特許発明1-1はZであるのに対し、甲5発明はRである点。
(相違点5)中性領域において、酸性アミノ酸残基の電荷と塩基性アミノ酸残基の電荷との総和が、本件特許発明1-1は+2であるのに対し、甲5発明は0である点。

また、本件特許発明1のうちの、表1?6に「2-XZ」?「432-XZ」として記載されているアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチドに係る発明(以下、「本件特許発明1-2」?「本件特許発明1-432」という。)は、非極性アミノ酸残基(Z)の位置(2、4、6、8、10、12、14及び16位)が本件特許発明1-1と共通しており、2個又は3個の極性アミノ酸残基が非極性アミノ酸残基又は中性アミノ酸残基(X)に置換されている位置以外は、極性アミノ酸残基(D、E、R、K、H)の位置(1、3、5、7、9、11、13及び15位のいずれかの位置)は本件特許発明1-1と共通しているので、本件特許発明1-2?本件特許発明1-432についても、同様の対比ができる。

イ 相違点についての検討
相違点1及び相違点2について検討する。
上記記載事項(甲2-1)及び(甲2-4)をみても、甲5発明のペプチドにおいて、1、5、9、11、13及び15位の非極性アミノ酸残基であるA(アラニン)を、極性アミノ酸残基であるR(アルギニン)やD(アスパラギン酸)に置換することの動機付けとなるような記載はなく、上記記載事項(甲2-1)及び(甲2-4)の他、上記記載事項(甲2-2)?(甲2-3)、(甲2-5)、(甲3-1)?(甲3-3)、(甲6-1)?(甲6-3)、(甲7-1)?(甲7-6)、(甲8-1)?(甲8-4)に基づいても、甲5発明の1、5、9、11、13及び15位のA(アラニン)を、R(アルギニン)やD(アスパラギン酸)に置換することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

次に、相違点3及び相違点4について検討する。
上記記載事項(甲2-1)及び(甲2-4)をみても、甲5発明のペプチドにおいて、2、4、6及び8位の極性アミノ酸残基であるD(アスパラギン酸)、10、12、14及び16位の極性アミノ酸残基であるR(アルギニン)を、非極性アミノ酸残基であるZに置換することの動機付けとなるような記載はなく、上記記載事項(甲2-1)及び(甲2-4)の他、上記記載事項(甲2-2)?(甲2-3)、(甲2-5)、(甲3-1)?(甲3-3)、(甲6-1)?(甲6-3)、(甲7-1)?(甲7-6)、(甲8-1)?(甲8-4)に基づいても、甲5発明の2、4、6及び8位のD(アスパラギン酸)、10、12、14及び16位のR(アルギニン)を、非極性アミノ酸残基であるZに置換することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

最後に、相違点5について検討する。
上記記載事項(甲8-1)、(甲8-2)及び(甲8-3)から、甲第8号証には、生理的なpH=7.5で、ペプチドあたり正味で約+2又は-2の電荷を持つペプチドのみが可溶性のポリマー及び細胞培地においてゲルを形成することができることが記載されており、pH=7.5でペプチドあたり正味で+2の正電荷を有するペプチドとして、P11-5(QQRFOWOFEQQ)が、pH=7.5でペプチドあたり正味で-2の負電荷を有するペプチドとして、P11-3(QQRFEWEFEQQ)が記載されている。そして、上記記載事項(甲8-3)をみると、P11-5は、3、5及び7位のアミノ酸残基が+、9位のアミノ酸残基が-であるアミノ酸配列からなる11アミノ酸残基のペプチドであり、P11-3は、3位のアミノ酸残基が+、5、7及び9位のアミノ酸残基が-であるアミノ酸配列からなる11アミノ酸残基のペプチドである。
一方、甲5発明は、ADADADADARARARARのアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチドであり、親水性のアミノ酸残基(D、R)、疎水性のアミノ酸残基(A)を交互に有するアミノ酸配列で構成される16アミノ酸残基のペプチドである。
ペプチドあたりの正味電荷を+2又は-2にする方法としては、様々な方法が存在するが、上記記載事項(甲8-1)、(甲8-2)、(甲8-3)及び(甲8-4)をみても、どのようにしてペプチドあたりの正味電荷を+2又は-2にするのか何ら具体的に記載されておらず、甲第8号証に具体的に記載されているペプチドは、交互配列のアミノ酸配列を基にしたペプチドではないから、上記記載事項(甲8-1)、(甲8-2)、(甲8-3)及び(甲8-4)の他、上記記載事項(甲2-1)?(甲2-5)、(甲3-1)?(甲3-3)、(甲6-1)?(甲6-3)、(甲7-1)?(甲7-6)に基づいても、甲5発明の交互配列のアミノ酸配列で構成されるペプチドにおいて、酸性アミノ酸残基の電荷と塩基性アミノ酸残基の電荷との総和を+2とすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

また、本件特許発明1-2?本件特許発明1-432も、本件特許発明1-1の相違点1?5において検討したように、甲5発明の1、3、5、7、9、11、13又は15位のA(アラニン)を、極性アミノ酸残基であるD(アスパラギン酸)、E(グルタミン酸)、R(アルギニン)、K(リジン)又はH(ヒスチジン)に置換すること、甲5発明の2、4、6、8、10、12、14又は16位のD(アスパラギン酸)やR(アルギニン)を、非極性アミノ酸残基であるZに置換すること、及び、酸性アミノ酸残基の電荷と塩基性アミノ酸残基の電荷との総和を+2とすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

ウ 本件特許発明1の効果について
本件明細書の実施例1?30及び比較例1?3の記載から、本件特許発明1は、優れたゲル形成性を発揮し、優れた安定性を有するという、甲5発明に比べて格別顕著な効果を奏するといえる。

エ まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲第5号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証、甲第7号証及び甲第8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明2?4について
本件特許発明2?4は、本件特許発明1に更なる限定を加えた発明であるから、上記(2)で述べたように、本件特許発明1が、甲第5号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証、甲第7号証及び甲第8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明2?4も、甲第5号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証、甲第7号証及び甲第8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.無効理由2-2について
(1)甲第2号証に記載された発明
上記記載事項(甲2-1)によると、甲第2号証には、「AEAEAKAKAEAEAKAKのアミノ酸配列で表される、16個のアミノ酸残基からなる自己組織化ペプチド。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲2発明との対比
本件特許発明1-1と甲2発明とを対比する。
甲2発明のペプチドのアミノ酸配列中、Eは極性アミノ酸残基の酸性アミノ酸残基であり、Kは極性アミノ酸残基の塩基性アミノ酸残基であり、Aは非極性アミノ酸残基である。また、甲2発明のペプチドのアミノ酸配列中、Eは4個、Kは4個存在するから、酸性アミノ酸残基の電荷と塩基性アミノ酸残基の電荷との総和は0であり、また、非極性アミノ酸残基を交互に有することから、甲2発明のペプチドは、中性水溶液中において自己組織化した際に該非極性アミノ酸残基のみが一方の面に配置されたβ-シート構造を形成しうるものと認められる。
本件特許発明1-1のペプチドのアミノ酸配列中、Dは2個、Rは4個存在するから、酸性アミノ酸残基の電荷と塩基性アミノ酸残基の電荷との総和は+2であり、また、本件特許発明1-1の3及び7位のXの選択肢の中にAがある。
そうすると、両者は、
極性アミノ酸残基と非極性アミノ酸残基とを有する、16個のアミノ酸残基からなる自己組織化ペプチドであって、
該極性アミノ酸残基として酸性アミノ酸残基及び塩基性アミノ酸残基を含み、
中性水溶液中において自己組織化した際に該非極性アミノ酸残基のみが一方の面に配置されたβ-シート構造を形成しうるものであり、
3及び7位にAを有するアミノ酸配列で表される、自己組織化ペプチドである点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)1、5、9及び13位のアミノ酸が、本件特許発明1-1はRであるのに対し、甲2発明はAである点。
(相違点2)11及び15位のアミノ酸が、本件特許発明1-1はDであるのに対し、甲2発明はAである点。
(相違点3)2、4、10及び12位のアミノ酸が、本件特許発明1-1はZであるのに対し、甲2発明はEである点。
(相違点4)6、8、14及び16位のアミノ酸が、本件特許発明1-1はZであるのに対し、甲2発明はKである点。
(相違点5)中性領域において、酸性アミノ酸残基の電荷と塩基性アミノ酸残基の電荷との総和が、本件特許発明1-1は+2であるのに対し、甲2発明は0である点。

また、本件特許発明1のうちの、本件特許発明1-2?本件特許発明1-432は、非極性アミノ酸残基(Z)の位置(2、4、6、8、10、12、14及び16位)が本件特許発明1-1と共通しており、2個又は3個の極性アミノ酸残基が非極性アミノ酸残基又は中性アミノ酸残基(X)に置換されている位置以外は、極性アミノ酸残基(D、E、R、K、H)の位置(1、3、5、7、9、11、13及び15位のいずれかの位置)は本件特許発明1-1と共通しているので、本件特許発明1-2?本件特許発明1-432についても、同様の対比ができる。

イ 相違点についての検討
相違点1及び相違点2について検討する。
上記記載事項(甲2-1)及び(甲2-4)をみても、甲2発明のペプチドにおいて、1、5、9、11、13及び15位の非極性アミノ酸残基であるA(アラニン)を、極性アミノ酸残基であるR(アルギニン)やD(アスパラギン酸)に置換することの動機付けとなるような記載はなく、上記記載事項(甲2-1)及び(甲2-4)の他、上記記載事項(甲2-2)?(甲2-3)、(甲2-5)、(甲3-1)?(甲3-3)、(甲6-1)?(甲6-3)、(甲7-1)?(甲7-6)、(甲8-1)?(甲8-3)に基づいても、甲2発明の1、5、9、11、13及び15位のA(アラニン)を、R(アルギニン)やD(アスパラギン酸)に置換することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

次に、相違点3及び相違点4について検討する。
上記記載事項(甲2-1)及び(甲2-4)をみても、甲2発明のペプチドにおいて、2、4、10及び12位の極性アミノ酸残基であるE(グルタミン酸)、6、8、14及び16位の極性アミノ酸残基であるK(リジン)を、非極性アミノ酸残基であるZに置換することの動機付けとなるような記載はなく、上記記載事項(甲2-1)及び(甲2-4)の他、上記記載事項(甲2-2)?(甲2-3)、(甲2-5)、(甲3-1)?(甲3-3)、(甲6-1)?(甲6-3)、(甲7-1)?(甲7-6)、(甲8-1)?(甲8-3)に基づいても、甲2発明の2、4、10及び12位のE(グルタミン酸)、6、8、14及び16位のK(リジン)を、非極性アミノ酸残基であるZに置換することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

最後に、相違点5について検討する。
上記記載事項(甲8-1)、(甲8-2)及び(甲8-3)から、甲第8号証には、生理的なpH=7.5で、ペプチドあたり正味で約+2又は-2の電荷を持つペプチドのみが可溶性のポリマー及び細胞培地においてゲルを形成することができることが記載されており、pH=7.5でペプチドあたり正味で+2の正電荷を有するペプチドとして、P11-5(QQRFOWOFEQQ)が、pH=7.5でペプチドあたり正味で-2の負電荷を有するペプチドとして、P11-3(QQRFEWEFEQQ)が記載されている。そして、上記記載事項(甲8-3)をみると、P11-5は、3、5及び7位のアミノ酸残基が+、9位のアミノ酸残基が-であるアミノ酸配列からなる11アミノ酸残基のペプチドであり、P11-3は、3位のアミノ酸残基が+、5、7及び9位のアミノ酸残基が-であるアミノ酸配列からなる11アミノ酸残基のペプチドである。
一方、甲2発明は、AEAEAKAKAEAEAKAKのアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチドであり、親水性のアミノ酸残基(E、K)、疎水性のアミノ酸残基(A)を交互に有するアミノ酸配列で構成される16アミノ酸残基のペプチドである。
ペプチドあたりの正味電荷を+2又は-2にする方法としては、様々な方法が存在するが、上記記載事項(甲8-1)、(甲8-2)、(甲8-3)及び(甲8-4)をみても、どのようにしてペプチドあたりの正味電荷を+2又は-2にするのか何ら具体的に記載されておらず、甲第8号証に具体的に記載されているペプチドは、交互配列のアミノ酸配列を基にしたペプチドではないから、上記記載事項(甲8-1)、(甲8-2)、(甲8-3)及び(甲8-4)の他、上記記載事項(甲2-1)?(甲2-5)、(甲3-1)?(甲3-3)、(甲6-1)?(甲6-3)、(甲7-1)?(甲7-6)に基づいても、甲2発明の交互配列のアミノ酸配列で構成されるペプチドにおいて、酸性アミノ酸残基の電荷と塩基性アミノ酸残基の電荷との総和を+2とすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

また、本件特許発明1-2?本件特許発明1-432も、本件特許発明1-1の相違点1?5において検討したように、甲2発明の1、3、5、7、9、11、13又は15位のA(アラニン)を、極性アミノ酸残基であるD(アスパラギン酸)、E(グルタミン酸)、R(アルギニン)、K(リジン)、H(ヒスチジン)に置換すること、甲2発明の2、4、6、8、10、12、14又は16位のE(グルタミン酸)やK(リジン)を、非極性アミノ酸残基であるZに置換すること、及び、酸性アミノ酸残基の電荷と塩基性アミノ酸残基の電荷との総和を+2とすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

ウ 本件特許発明1の効果について
本件明細書の実施例1?30及び比較例1?3の記載から、本件特許発明1は、優れたゲル形成性を発揮し、優れた安定性を有するという、甲2発明に比べて格別顕著な効果を奏するといえる。

エ まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証、甲第7号証及び甲第8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明2?4について
本件特許発明2?4は、本件特許発明1に更なる限定を加えた発明であるから、上記(2)で述べたように、本件特許発明1が、甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証、甲第7号証及び甲第8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明2?4も、甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証、甲第7号証及び甲第8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3.無効理由3について
請求人は、本件特許について、ゲル化することが証明されているのは、ペプチドNo.1?9のみであり、ペプチドの設計方法が具体的に本件明細書に記載されていないことから、ペプチドNo.1?9以外の表1?6に記載のぺプチドについて、当業者といえども、アミノ酸の一次構造を見ただけでは、自己組織化ペプチドとして使用できるか否かを理解することはできないから、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件特許の請求項1?4に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない、と主張している。
本件特許の請求項1の表1?6の記載から、本件特許の請求項1?4に係る自己組織化ペプチドは、酸性アミノ酸残基又は塩基性アミノ酸残基の極性アミノ酸残基(D、E、R、K、H)、非極性アミノ酸残基(Z)を交互に有するアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチドにおいて、2個又は3個の極性アミノ酸残基が非極性アミノ酸残基又は中性アミノ酸残基に置換されている構造を有するものといえる。そして、表1?6に記載のアミノ酸配列は、2個又は3個の極性アミノ酸残基が非極性アミノ酸残基又は中性アミノ酸残基に置換されている位置以外は、非極性アミノ酸残基(Z)の位置(2、4、6、8、10、12、14及び16位)、極性アミノ酸残基(D、E、R、K、H)の位置(1、3、5、7、9、11、13及び15位のいずれかの位置)は共通しているから、極性アミノ酸残基と非極性アミノ酸残基とを交互に有するアミノ酸配列からなるペプチドが、β-シート構造を形成し、自己組織化するという性質を有することを考慮すれば、2個又は3個の極性アミノ酸残基が非極性アミノ酸残基又は中性アミノ酸残基に置換されても、β-シート構造を形成する性質を維持できるか否かを検討すればよいことになる。
一方、本件発明の詳細な説明には、配列番号1?9のいずれかのアミノ酸配列で表されるペプチド(ペプチドNo.1?9)が、自己組織化してゲルを形成すること及びβ-シート構造を形成することを確認したことが記載されている(実施例1、試験例1及び参考例2)。本件発明の詳細な説明の表8の記載から、配列番号1?3、4、5、6、7、8及び9のアミノ酸配列で表されるペプチドは、それぞれ本件特許の請求項1の表1?6の「2-XZ」、「3-XZ」、「4-XZ」、「7-XZ」、「12-XZ」、「218-XZ」及び「231-XZ」として記載されているアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチドに対応すると認められる。そして、それらの自己組織化ペプチドにおいて、2個又は3個の極性アミノ酸残基が非極性アミノ酸残基又は中性アミノ酸残基に置換されている位置は、3、11位(「2-XZ」)、3、15位(「3-XZ」)、7、11位(「4-XZ」)、3、7、11位(「7-XZ」)、3、11位(「12-XZ」)、3、11位(「218-XZ」)、1、9位(「231-XZ」)であり、すべての位置ではないにしても、大部分の位置において極性アミノ酸残基を非極性アミノ酸残基又は中性アミノ酸残基へ置換しても、自己組織化してβ-シート構造を形成する性質をペプチドが維持することができたものと認められる。
また、酸性アミノ酸残基のアスパラギン酸及びグルタミン酸、塩基性アミノ酸残基のアルギニン、リジン及びヒスチジン、非極性アミノ酸残基のアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン及びグリシン、中性アミノ酸残基のチロシン、セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン及びシステインが、その構造及び親水性、疎水性、酸性、塩基性などの性質により各グループに分類されていることは、出願時の技術常識である。そして、自己組織化ペプチドにおいては、構成するアミノ酸の親水性、疎水性、酸性、塩基性の性質が自己組織化してβ-シート構造を形成する性質に大きく寄与するものであるから、自己組織化ペプチドにおいては、同じ酸性アミノ酸残基のD(アスパラギン酸)とE(グルタミン酸)の置換、同じ塩基性アミノ酸残基のR(アルギニン)とK(リジン)とH(ヒスチジン)の置換、非極性アミノ酸残基内での置換、中性アミノ酸残基内での置換が、自己組織化ペプチドの自己組織化してβ-シート構造を形成する性質に大きな変化を生じさせるものとは認められない。
よって、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件特許の請求項1?4に係る自己組織化ペプチドを使用できるように記載されているといえる。
したがって、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件特許の請求項1?4に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえるから、本件発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、とすることはできない。

4.無効理由4について
請求人は、β-シ-ト構造を形成することが明らかであるのは、実施例に記載されたペプチドNo.1?9のペプチドのみに過ぎず、出願時の技術常識に照らしても、ペプチドNo.1?9以外の表1?6に記載のペプチドについてまで、請求項に係る発明の範囲を拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件特許の請求項1?4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない、と主張している。
上記3.で述べたように、本件発明の詳細な説明に具体的に記載されているペプチドNo.1?9の結果から、大部分の位置において極性アミノ酸残基を非極性アミノ酸残基又は中性アミノ酸残基へ置換しても、自己組織化してβ-シート構造を形成する性質をペプチドが維持することができたものと認められる。
そして、自己組織化ペプチドにおいては、構成するアミノ酸の親水性、疎水性、酸性、塩基性の性質が自己組織化してβ-シート構造を形成する性質に大きく寄与するものであるから、自己組織化ペプチドにおいては、同じ酸性アミノ酸残基のD(アスパラギン酸)とE(グルタミン酸)の置換、同じ塩基性アミノ酸残基のR(アルギニン)とK(リジン)とH(ヒスチジン)の置換、非極性アミノ酸残基内での置換、中性アミノ酸残基内での置換が、自己組織化ペプチドの自己組織化してβ-シート構造を形成する性質に大きな変化を生じさせるものとは認められない。
よって、本件特許の請求項1?4に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるといえる。
したがって、本件特許の請求項1?4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものといえるから、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、とすることはできない。

5.請求項5?7に対する無効理由について
訂正請求により請求項5?7が削除されたため、請求項5?7に対する無効理由はいずれも理由がない。

第7 むすび
以上のとおり、請求人の主張するいずれの無効理由にも理由がない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
自己組織化ペプチドおよびそれより得られるゲル
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己組織化ペプチド及び該ペプチドが自己組織化したゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、生体内で三次元的に増殖する細胞を三次元的に培養する際、該細胞の足場としては、例えば、コラーゲンゲルが知られている。しかしながら、前記コラーゲンゲルは、材料の供給源となる動物等により、用途が限定されるという欠点がある。
【0003】
また、前記細胞の足場として、ペプチドから構成されるゲルが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。しかしながら、前記特許文献1及び2に開示されたゲルは、使用の際に、煩雑な操作を要するという欠点がある。
【特許文献1】米国特許第5,670,483号明細書
【特許文献2】米国特許第5,955,343号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、中性領域において安定したゲルを形成すること、中性領域において優れたゲル形成性を発揮すること、中性領域において優れた透明性を発揮するゲルを形成すること、簡便な操作でゲルを作製できること等の少なくともいずれかを達成しうる、自己組織化ペプチドを提供することに関する。また、本発明は、中性領域において優れた安定性を発揮すること、中性領域において優れた透明性を発揮すること、培養対象となる細胞に適した条件下で三次元培養を行なうこと、迅速に操作を行なうこと、生体環境に実質的に近い条件下で細胞を維持すること等の少なくともいずれかを達成しうるゲルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は
〔1〕極性アミノ酸残基と非極性アミノ酸残基とを有する、12個又は16個のアミノ酸残基からなる自己組織化ペプチドであって、
該極性アミノ酸残基として酸性アミノ酸残基及び塩基性アミノ酸残基を含み、
中性領域において、該酸性アミノ酸残基の電荷と該塩基性アミノ酸残基の電荷との総和が-3?-2、又は+2?+3であり、
中性水溶液中において自己組織化した際に該非極性アミノ酸残基のみが一方の面に配置されたβ-シート構造を形成しうるものであり、
後述する表2?7に記載されるいずれかのアミノ酸配列で表される、自己組織化ペプチドに関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の自己組織化ペプチドによれば、中性領域において、優れた透明性を発揮する安定したゲルを形成させることができ、優れたゲル形成性を発揮させることができ、簡便な操作でゲルを作製できるという優れた効果を奏する。また、本発明のゲルによれば、中性領域において、優れた安定性及び透明性を発揮し、培養対象となる細胞に適した条件下で三次元培養を行なうことができ、迅速に操作を行なうことができ、生体環境に実質的に近い条件下で細胞を維持することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、一つの側面では、極性アミノ酸残基と非極性アミノ酸残基とを有する自己組織化ペプチドであって、該極性アミノ酸残基として酸性アミノ酸残基及び塩基性アミノ酸残基を含み、中性領域において、該酸性アミノ酸残基の電荷と該塩基性アミノ酸残基の電荷との総和が0を除く数であり、水溶液中において自己組織化した際に該非極性アミノ酸残基のみが一方の面に配置されたβ-シート構造を形成しうる自己組織化ペプチドに関する。
【0008】
本発明の自己組織化ペプチドは、極性アミノ酸残基と非極性アミノ酸残基とを有するペプチドであって、該極性アミノ酸残基として酸性アミノ酸残基及び塩基性アミノ酸残基を含み、中性領域において、該酸性アミノ酸残基の電荷と該塩基性アミノ酸残基の電荷との総和が0を除く数であることに1つの大きな特徴がある。したがって、本発明の自己組織化ペプチドによれば、中性領域において、静電的引力と静電的斥力とをバランスよく生じうる。そのため、本発明の自己組織化ペプチドによれば、過度の会合を実質的に生じずに、安定的にゲルを形成することができるという優れた効果を発揮する。さらには、本発明の自己組織化ペプチドによれば、中性領域において、白濁及び/又は沈殿を実質的に生じることがないという優れた効果を発揮する。
【0009】
また、本発明の自己組織化ペプチドは、中性領域において、酸性アミノ酸残基の電荷と塩基性アミノ酸残基の電荷との総和が0を除く数となるように、極性アミノ酸残基、即ち、酸性アミノ酸残基と塩基性アミノ酸残基とを含有していることにも1つの大きな特徴がある。したがって、本発明の自己組織化ペプチドによれば、中性領域において、優れた透明性を発揮するゲルを形成させることができる。また、本発明の自己組織化ペプチドによれば、簡便な操作でゲルを作製できるという優れた効果を発揮する。
【0010】
本発明の自己組織化ペプチドは、水溶液中において自己組織化した際に、非極性アミノ酸のみが一方の面に配置されたβ-シート構造を形成しうることにも1つの大きな特徴がある。したがって、本発明の自己組織化ペプチドによれば、安定的に、ファイバーを形成することができるという優れた効果を発揮する。そのため、本発明の自己組織化ペプチドによれば、安定的にゲルを形成することができるという優れた効果を発揮する。また、本発明の自己組織化ペプチドによれば、優れたゲル形成性を発現する。この優れたゲル形成性により、本発明の自己組織化ペプチドを、例えば、細胞の三次元培養における足場として好適に利用し得る。
【0011】
本発明において、前記「自己組織化ペプチド」とは、溶媒中において、水素結合、静電的相互作用、ファンデルワールス力、疎水性相互作用等の相互作用を介して自発的に集合するペプチドをいう。具体的には、例えば、「水溶液中において、自己組織化してナノファイバーやゲルを形成するペプチド」を、「自己組織化ペプチド」という。
【0012】
なお、本明細書において、前記「ナノファイバー」とは、ナノメートルスケールの幅を有する繊維状の分子集合体をいう。かかるナノファイバーが、ファイバー間に働く静電的引力及び斥力により三次元網状構造を形成することにより、本発明の自己組織化ペプチドはゲルを形成し得ると推測される。
【0013】
例えば、後述の実施例に記載のように、原子間力顕微鏡を用い、ピエゾ素子への印加電圧に基づく走査範囲から見積もったファイバーの幅や高さがナノスケールである場合、ナノファイバーの形成が確認されうる。
【0014】
また、本明細書において、「ゲル」とは、粘性的な性質と弾性的な性質とを併せ持つ粘弾性物質をいう。具体的には、前記ゲルは、動的粘弾性測定を行なって、貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G’’を測定したときに、G’>G’’であるものをいう。なお、前記貯蔵弾性率G’は、弾性的性質を示す。また、前記損失弾性率G’’は、粘性的性質を示す。
【0015】
動的粘弾性は、後述の実施例に記載のように、動的粘弾性測定装置を用いて測定され得る。具体的には、鉄製プレート上にサンプルを置き、鉄製コーンでサンプルを押しつぶし、鉄製コーンを回転させたときに該コーンを回転させるモーターにかかる力をモニターすることで動的粘弾性を測定することができる。
【0016】
本発明の自己組織化ペプチドは、極性アミノ酸残基と非極性アミノ酸残基とを含有する。
【0017】
具体的には、本発明の自己組織化ペプチドは、酸性アミノ酸残基と塩基性アミノ酸残基と非極性アミノ酸残基とを少なくとも含有する。本発明の自己組織化ペプチドは、自己組織化のために適度な疎水性相互作用および/または静電的相互作用を得る観点から、好ましくは少なくとも1個の中性アミノ酸残基をさらに含有する。
【0018】
なお、本明細書においては、中性アミノ酸残基は、水酸基、酸アミド基、チオール基等を有するため、極性を有するものとして、極性アミノ酸残基に分類するものとする。また、グリシンは、該グリシン中に含まれるアミノ基とカルボキシル基とが、アミノ酸同士のペプチド結合に用いられ、極性基を露出することがないため、非極性アミノ酸残基に分類するものとする。
【0019】
本発明において、前記アミノ酸残基は、天然型アミノ酸又は非天然型アミノ酸のいずれの残基でもよい。前記アミノ酸残基としては、特に限定されるものではないが、容易にβ-シート構造を形成する観点から、好ましくは、以下の表1に示されるアミノ酸が挙げられる。
【0020】
【表1】

【0021】
なかでも、本発明に用いられる中性アミノ酸残基としては、適度な疎水性相互作用を得る観点から、親水性が高いアミノ酸残基が好ましく、またβ-シートを形成しやすいアミノ酸残基が好ましい。かかるアミノ酸残基としては、好ましくは、セリン残基、アスパラギン残基、チロシン残基、トレオニン残基、グルタミン残基またはシステイン残基、より好ましくは、セリン残基またはアスパラギン残基が望ましい。
【0022】
また、本発明に用いられる酸性アミノ酸残基としては、低価格で合成が容易であるという観点から、好ましくは天然の酸性アミノ酸、より好ましくは、アスパラギン酸残基またはグルタミン酸残基が望ましい。
【0023】
本発明に用いられる塩基性アミノ酸残基としては、中性領域における高い水溶性および合成の容易さの観点から、好ましくはアルギニン残基、リジン残基、オルニチン残基またはヒスチジン残基、より好ましくはアルギニン残基またはリジン残基が望ましい。
【0024】
また、本発明に用いられる非極性アミノ酸残基としては、高い水溶性および合成の容易さの観点から、好ましくはアラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、トリプトファン残基、グリシン残基またはフェニルアラニン残基、より好ましくはアラニン残基またはフェニルアラニン残基が望ましい。
【0025】
本発明の自己組織化ペプチドは、例えば、水溶液中におけるペプチド分子間の静電的相互作用、水素結合及び疎水性相互作用などの相互作用などを介して自己組織化しうる。
【0026】
自己組織化のために十分な相互作用をペプチド分子間に働かせる観点から、本発明の自己組織化ペプチドは、好ましくは8個以上、より好ましくは10個以上、さらに好ましくは12個以上のアミノ酸残基からなる。また、β-シート形成の容易化及び合成の簡易化の観点から、好ましくは200個以下、より好ましくは50個以下、さらに好ましくは32個以下のアミノ酸残基からなる。
【0027】
本発明の自己組織化ペプチドは、水溶液中においてβ-シート構造を形成しうる。前記β-シート構造において、一方の面には、非極性アミノ酸残基のみが配置される。また、他方の面には、極性アミノ酸残基と非極性アミノ酸残基との双方が配置されていてもよく、極性アミノ酸残基のみが配置されていてもよい。本発明の自己組織化ペプチドにより形成されるβ-シート構造は、前記したように、一方の面は非極性アミノ酸残基のみが配置された疎水面となり、他方の面は極性アミノ酸残基が配置された親水面となる。したがって、かかる疎水面と親水面とを併せ持つβ-シートが、水溶液中において疎水面を隠すように集合して二層構造を形成する。また、その結果、例えば、両面に極性アミノ酸残基が配置されたシートとなり、さらに分子の自己組織化が進むにつれてこのシートが伸びていき、ナノファイバーを構成しうると推測される。尚、β-シート構造形成の有無は、後述の実施例に記載のように、円二色性測定法により確認することができる。
【0028】
中性領域における本発明の自己組織化ペプチドの電荷、即ち、該ペプチドに含まれるアミノ酸残基の電荷の総和は0を除く数である。そのため、本発明の自己組織化ペプチドは、中性領域において該自己組織化ペプチドに含まれる極性アミノ酸残基の側鎖が全てイオン化している状態でも、アミノ酸残基に由来するプラス電荷とマイナス電荷とが実質的に相殺されないという優れた性質を発現する。したがって、本発明の自己組織化ペプチドは、例えば、ペプチド間に静電的引力に加えて静電的斥力が働き、これらの微妙なバランスが保たれることで過度の会合が実質的に生じないため、中性領域で沈殿することなく安定なゲルを形成しうると推測される。
【0029】
前記「中性領域における本発明の自己組織化ペプチドの電荷」は、前記自己組織化ペプチドに含まれるアミノ酸の中性領域における電荷の総和を意味する。より具体的には、前記電荷は、酸性アミノ酸残基の中性領域における電荷と塩基性アミノ酸残基の中性領域における電荷との総和を意味する。
【0030】
ゲル形成に適した静電的引力及び斥力のバランスを保つ観点から、前記中性領域における電荷は、好ましくは、-25?-0.03、又は+0.03?+25であることが望ましく、また、製造のしやすさの観点からアミノ酸残基数は32残基程度までがよく、その場合は、-3?-1、又は+1?+3であることが好ましく、より好ましくは、-3、-2、+2又は+3であることが望ましい。
【0031】
各pHにおける本発明の自己組織化ペプチドの電荷は、例えば、レーニンジャー(Lehninger)〔Biochimie、1979〕の方法に従って算出されうる。前記レーニンジャーの方法は、例えば、EMBL WWW Gateway to Isoelectric Point Serviceのウェブサイト(http://www.embl-heidelberg.de/cgi/pi-wrapper.pl)上で利用可能なプログラムにより行なわれうる。
【0032】
なお、本明細書において、中性領域とは、pH6?8、好ましくは、pH6.5?7.5の領域をいう。また、水溶液としては、pH調節可能な水溶液であればよく、特に限定はない。かかる水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウムや塩酸でpHを調節した水溶液、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)、Tris-HCl等の各種緩衝液、又はD-MEM/F12(1:1(容量比))培地(インビトロジェン社製)などの細胞培養用培地などが挙げられる。
【0033】
本発明の自己組織化ペプチドは、当該分野で公知の方法により作製されうる。例えば、本発明の自己組織化ペプチドは、後述の実施例に記載されるようにFmoc法等の固相法又は液相法等の化学合成方法により合成されてもよく、遺伝子組換え発現等の分子生物学的方法により作製されてもよい。
【0034】
本発明の自己組織化ペプチドの例としては、例えば、下記の表2?表7に記載のペプチドが挙げられる。また、例えば、配列表の配列番号1?9のペプチドは、水溶液中で自己組織化して安定なゲルを形成する。なお、表2?表7中、Xはアラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基、グリシン残基、チロシン残基、セリン残基、トレオニン残基、アスパラギン残基、グルタミン残基またはシステイン残基を示す。また、Zはアラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基またはグリシン残基を示す。
【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
【表5】

【0039】
【表6】

【0040】
【表7】

【0041】
本発明は、別の側面では、前記自己組織化ペプチドが自己組織化したゲルに関する。
【0042】
本発明のゲルは、少なくとも1種の本発明の自己組織化ペプチドを、前記水溶液に、例えば、終濃度が0.3?5.0重量%、好ましくは0.5?1.5重量%となるように溶解し、しばらく放置して自己組織化させることにより作製されうる。放置する際の温度又は時間は、前記の自己組織化ペプチドが自己組織化する限り特に制限はなく、ゲルの使用目的や該ペプチドの種類や水溶液中の濃度に応じて適宜調整すればよい。
【0043】
本発明のゲルを、例えば、細胞の三次元培養の足場として用いる場合、ゲル形成時における本発明の自己組織化ペプチドの使用濃度は、ゲル形成の容易さの観点から、細胞培養用培地中、好ましくは0.3重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上であり、細胞との混合のしやすさの観点から、好ましくは5重量%以下、より好ましくは2重量%以下であることが望ましい。また、かかる場合、蛍光顕微鏡等による細胞観察の容易さの観点から、ゲルは透明であることが好ましい。例えば、0.5重量%の自己組織化ペプチドを含有してなるゲルにおいて、光路長10mmのセル中、380nm?780nmの吸光度で測定した可視光透過率が、少なくとも50%/cmであることが望ましく、好ましくは、70%/cm以上、より好ましくは、90%/cm以上が望ましい。さらに、前記ゲルを、長期間、例えば2ヶ月間、室温で放置した後のゲルの可視光透過率は、ゲルの長期安定性の観点から、好ましくは、50%/cm以上、より好ましくは、70%/cm以上、さらに好ましくは90%/cm以上であり、可視光透過率の低下率(%)(100-(保存後の可視光透過率/保存前の可視光透過率×100))が、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下が望ましい。前記ゲルの透明度は、後述の実施例に記載のように、UV/VIS測定装置を用いて測定することができる。
【0044】
尚、本発明において、透明であるゲルとは、例えば、光路長10mmのセル中、380nm?780nmの吸光度で測定した場合に、50%/cm以上の可視光透過率を有するゲルをいう。
【0045】
本発明の自己組織化ペプチド、該ペプチドが自己組織化してなるナノファイバー、及び該ペプチドが自己組織化してなるゲルは、化粧品(スキンケア用品、ヘアケア用品等)、細胞培養用基材(医薬品開発スクリーニング、再生医療等に用いられるもの)、医薬品および医療機器(じょくそう製剤、骨充填・美容形成用注入剤、眼科用手術補助剤、人工硝子体、人工水晶体、関節潤滑剤、点眼剤、DDS基材、止血剤等)、湿潤用保水剤、乾燥剤、または医療機器等へのコーティング剤等に使用され得る。
【実施例】
【0046】
製造例1 ペプチドの合成
ペプチドNo.1(配列-RASARADARASARADA、配列番号:1)の合成を、以下のように、Fmoc固相合成法により行なった。
【0047】
1) 固相担体樹脂の調製
ペプチド合成用の固相担体樹脂であるCLEAR^(TM)-Amide Resin(コード番号:RCY-1250-PI、100-200メッシュ、4-(2,4-ジメトキシフェニル-フルオレニルメチルオキシカルボニル-アミノメチル)フェノキシアセチル-ノルロイシル-CLEAR Resin、ペプチド インスティチュート(PEPTIDES INSTITUTE製) 400mgを、固相合成装置(商品名:Solid Organic Synthesizer CCS-150M、アイラ(EYELA)社製)上の反応容器に入れた。
【0048】
ついで、前記固相担体樹脂に、ジクロロメタン(和光純薬株式会社製) 5mLを添加した。得られた混合物を、室温で10分間攪拌して、前記固相担体樹脂を膨潤させた。得られた産物を吸引ろ過に供して、それにより、ジクロロメタンを除去した。さらに、ジクロロメタンによる前記固相担体樹脂の膨潤及び該ジクロロメタンの除去の操作を行なった。
【0049】
2) アミノ酸のカップリング
前記1)で得られた産物を、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(和光純薬株式会社製) 5mLの存在下に、室温で1分間攪拌した。ついで、得られた産物を吸引ろ過に供して、それにより、DMFを除去した。その後、前記DMF存在下での攪拌及びDMFの除去の操作(以下、「DMF処理」という)をさらに4回行なった。
【0050】
得られた産物に、ピペリジン(和光純薬株式会社製)/DMF混合溶媒(ピペリジン:DMF=1:4(容量比)) 5mLを添加し、得られた混合物を、室温で3分間攪拌することにより、前記固相担体樹脂中のフルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基を除去した。得られた産物を、吸引ろ過に供して、混合溶媒を除去した。さらに、前記Fmoc基の除去及び混合溶媒の除去の操作を同様に行なった。ついで、攪拌時間を15分間としたことを除き、前記Fmoc基の除去及び混合溶媒の除去の操作を同様に行なった。
【0051】
その後、得られた産物を、前記と同様に、DMF処理に供した。なお、前記DMF処理を、5回行なった。
【0052】
得られた固相担体樹脂と、該固相担体樹脂の活性末端の3倍等量(0.384mmol)のFmocアミノ酸誘導体(ペプチド インスティチュート製、商品名:Fmoc-Ala・H2O(9-フルオレニルメチルオキシカルボニル-L-アラニン-1水和物))を含むDMF溶液 3mLと、128mM 1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)を含むDMF溶液 1mLと、384mM N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIPCDI)を含むDMF溶液 1mLとを混合し、2時間攪拌した。得られた産物を、吸引ろ過に供して、反応溶液を除去した。なお、ペプチドNo.1のアミノ酸配列に従って、前記Fmocアミノ酸誘導体として、所望のアミノ酸残基に対応するFmoc誘導体を用いて同様の操作を繰り返した。
【0053】
得られた産物を、前記と同様に、DMF処理に供した。なお、かかるDMF処理を5回繰り返した。
【0054】
得られた産物に、768mM 無水酢酸(ナカライテスク社製)(該産物中の活性末端の10倍等量に相当)を含むDMF溶液を添加し、室温で2時間攪拌した。得られた産物を、吸引ろ過に供して、反応溶液を除去した。得られた産物を、前記と同様に、DMF処理に供した。なお、前記DMF処理を、5回繰り返した。
【0055】
その後、得られた産物に、ジクロロメタン 5mLを添加し、室温で10分間攪拌することにより、ジクロロメタン処理を行なった。その後、得られた産物を、吸引ろ過に供した。なお、前記ジクロロメタン処理及び吸引ろ過を20回繰り返した。
【0056】
得られた樹脂を乾燥させ、バイアルに移した。前記バイアルに、95容積% トリフルオロ酢酸(ナカライテスク社製) 9.5mLと、1,2-エタンジチオール〔ティーシーアイ オーガニック ケミカルズ(TCI Organic Chemicals)社製〕 0.85mLと、チオアニソール(ティーシーアイ オーガニック ケミカルズ社製) 0.5mLと、水 0.5mLとを添加した。その後、得られた混合物を、3時間攪拌することにより、樹脂から、目的のペプチドを切断した。
【0057】
得られたペプチド含有溶液に、ジエチルエーテル(ナカライテスク社製) 100mL(該ペプチド含有溶液の約10倍容量)を添加した。得られた産物を、3500r/minで5分間、室温で遠心分離して、上澄みを除去した。得られた沈殿物に、ジエチルエーテル 50mLを添加して、室温で、10分間攪拌した。得られた混合物を、3500r/minで5分間、室温で遠心分離して、上澄みを除去した。得られた沈殿物を、真空乾燥させ、ペプチド 200mgを得た。
【0058】
製造例2 ペプチドの合成
前記製造例1と同様にして、下記表8記載のペプチドNo.2?12のペプチドを合成した。
【0059】
【表8】

【0060】
参考例1 ペプチドの電荷計算
レーニンジャー(Lehninger)〔Biochimie、1979〕の方法に従って、各pHにおけるペプチド全体の電荷を計算した。前記レーニンジャーの方法を、EMBL WWW Gateway to Isoelectric Point Serviceのウェブサイト(http://www.embl-heidelberg.de/cgi/pi-wrapper.pl)上で利用可能なプログラムを用いて行なった。
【0061】
なお、アラニン、バリン、アスパラギン及びグルタミンは電荷を持たないアミノ酸であるため、前記プログラムでは区別することができなかった。そこで、これらを同一のものとして計算した。また、前記プログラムでは、ペプチド分子の両末端が、それぞれ、アミノ基及びカルボキシル基になっているものと仮定して計算を行ない、自己組織化ペプチドの計算値から該自己組織化ペプチドと同じ重合度のポリアラニン(両末端のみ電荷を有する)の計算値を引くことによって、末端部分による電荷を補正した。これにより、前記ペプチドの末端のアミノ基及びカルボキシル基のそれぞれの影響を排除し、より現実的構造に近似する値を求めた。ペプチドNo.1?12のそれぞれのpH7.0における電荷の算出値を、表9に示す。
【0062】
【表9】

【0063】
その結果、表9に示すように、前記ペプチドNo.1?9のpH7.0における電荷は、0ではないことが確認できた。なお、ペプチドNo.12のpH7.0における電荷は0ではないが、該ペプチドは、非極性アミノ酸残基を有しないペプチドであるため、本発明のペプチドではない。
【0064】
参考例2 ペプチドのβ-シート構造形成能の確認
前記製造例1及び2で合成したペプチドNo.1?9及びNo.12それぞれのβ-シート構造の形成を、円二色測定法により確認した。具体的には、ペプチドをそれぞれ、0.1M Tris-HCl(pH7.5)に溶解して、3x10^(-3)M ペプチド溶液を調製した。得られたペプチド溶液を、光路長0.5mmの石英セル(ジャスコ(JASCO)社製、商品名110J円筒型セル、0.04mL容)に満たし、商品名:J-820K Spectropolarimeter(JASCO社製)に前記石英セルをセットして、ペプチド溶液について、円二色測定法により、195nm?260nmのモル楕円率を測定した。結果を図1に示す。
【0065】
その結果、図1に示されるように、前記ペプチドNo.1?9は、216nmのモル楕円率が負の値となった。したがって、前記ペプチドNo.1?9は、水溶液中でβ-シート構造を形成することがわかった。一方、前記ペプチドNo.12は、β-シート構造を形成しないことがわかった。
【0066】
実施例1 ナノファイバー形成の確認
製造例1及び2で合成したペプチドNo.1?9を、0.1M Tris-HCl(pH7.5)に溶解して、それぞれ0.5重量% ペプチド溶液を調製した。得られたペプチド溶液を、0.1M Tris-HCl(pH7.5)で1/20濃度となるように希釈した。
【0067】
得られた希釈液 1μLを、劈開させたマイカ基板上に滴下した。その後、前記マイカ基板上の余分なペプチドを、イオン交換水で洗い流した。ついで、室温(25℃)で基板を乾燥させた。
【0068】
乾燥後のマイカ基板上のペプチドを、原子間力顕微鏡(商品名:NanoScope IIIa、デジタルインストゥルメンツ(Digital Instrument)社製)を用いて観察した。その結果を、図2に示す。
【0069】
図2に示されるように、前記ペプチドNo.1?9は、いずれも、自己組織化してナノファイバーを形成することがわかった。
【0070】
試験例1 ゲル形成の確認1
商品名:AR1000(TA インストゥルメンツ ジャパン社製)を用いて、0.5重量% ペプチド(前記ペプチドNo.1?10)含有水溶液の貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G’’を測定した。具体的には、室温で1日放置した0.5重量% ペプチド含有水溶液 800μLを鉄のプレート上に乗せ、該0.5重量% ペプチド含有水溶液の上に鉄製のコーン(直径40mm、コーン角2°)を置いた。ついで、前記0.5重量% ペプチド含有水溶液を押しつぶし、前記鉄製のコーンを回転させたときに、モーターにかかる力を、コーンの周波数を0.1?10rad/secの範囲で変化させてモニターした。結果を表10に示す。
【0071】
【表10】

【0072】
表10に示されるように、前記ペプチドNo.1?9(実施例2?10)は、いずれもG’>G’’であった。また、前記ペプチドNo.1?9では、コーンの周波数を変化させても、G’及びG’’の値が比較的一定であった。したがって、前記ペプチドNo.1?9は、少なくとも前記範囲で周波数を変化させても、ゲルを形成することがわかった。なお、表10に示されるように、pH7.0における電荷が0であるペプチドNo.10(比較例1)は、酸性水溶液中でゲルを形成することが分かった。
【0073】
試験例2 ゲル形成の確認2
製造例1及び2で合成したペプチドNo.1、2、4、5、6、10及び11を、表11に示される各水溶液に溶解させた。得られたペプチド含有水溶液 1mLを、1.5mL容のテストチューブに入れた。ついで、前記テストチューブを、37℃で24時間静置させた。
【0074】
その後、チューブを逆さまにしても内容物が落ちなかったものを、ゲル形成が「良好」であると評価し、内容物が落ちたものを「不良」と評価した。結果を表11に示す。
【0075】
【表11】

【0076】
表11に示されるように、ペプチドNo.1、2、4、5及び6(実施例11?30)は、各種の中性水溶液中でゲルを形成することがわかった。一方、pH7.0における電荷が0であるペプチドNo.10及び11(比較例2及び3)は、中性水溶液中でゲルを形成しないことがわかった。
【0077】
実施例31 ペプチド水溶液の可視光透過率測定
製造例1及び2で合成したペプチドNo.1?9を0.1M Tris-HCl(pH7.5)に溶解し、0.5重量% ペプチド溶液からなるゲルを調製した。光路長10mmのセルと商品名:V-550 UV/VIS Spectrometer(ジャスコ社製)とを用いて、調製したゲルの380nm?780nmの範囲における可視光透過率を測定した。かかる範囲における可視光透過率の平均値を表12に示す。
【0078】
【表12】

【0079】
表12に示されるように、ペプチドNo.1?9のそれぞれから構成されるゲルは、いずれも高い可視光透過率を示した。したがって、前記ペプチドNo.1?9は、それぞれ透明なゲルを形成することがわかった。また、前記ゲルのうち、ペプチドNo.1、4、6または7のそれぞれから構成されるゲルを室温で2ヶ月放置し、前記と同様にして可視光透過率を測定したところ、その平均値は、それぞれ88、87、91または93%/cmであり、低下率は、それぞれ9.3、5.4、6.2または4.1%であった。即ち、調製後2ヶ月経過したゲルも高い可視光透過率を維持した。したがって、ペプチドNo.1、4、6または7のそれぞれから構成されるゲルは、長期間にわたり白濁等することなく安定であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の自己組織化ペプチド、該自己組織化ペプチドが自己組織化してなるナノファイバー、及び該自己組織化ペプチドが自己組織化したゲルは、化粧品(スキンケア用品、ヘアケア用品等)、細胞培養用基材(医薬品開発スクリーニング、再生医療等に用いられるもの)、医薬品および医療機器(じょくそう製剤、骨充填・美容形成用注入剤、眼科用手術補助剤、人工硝子体、人工水晶体、関節潤滑剤、点眼剤、DDS基材、止血剤等)、湿潤用保水剤、乾燥剤、または医療機器等へのコーティング剤等に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は、ペプチド水溶液の195?260nmにおけるモル楕円率を示すグラフである。
図中、(1)はペプチドNo.1、(2)はペプチドNo.2、(3)はペプチドNo.3、(4)はペプチドNo.4、(5)はペプチドNo.5、(6)はペプチドNo.6、(7)はペプチドNo.7、(8)はペプチドNo.8、(9)はペプチドNo.9、(10)はペプチドNo.12、の3x10^(-3)M 水溶液のモル楕円率を示す。
【図2】図2は、原子間力顕微鏡を用いて観察したペプチド水溶液中のナノファイバーの写真である。パネル(A)は、ペプチドNo.1、パネル(B)はペプチドNo.2、パネル(C)はペプチドNo.3、パネル(D)はペプチドNo.4、パネル(E)はペプチドNo.5、パネル(F)はペプチドNo.6、パネル(G)はペプチドNo.7、パネル(H)はペプチドNo.8、パネル(I)はペプチドNo.9、の0.5重量%水溶液の写真を表す。図中、スケールバーは、500nmを示す。
【配列表フリーテキスト】
【0082】
配列表の配列番号1は、本発明の自己組織化ペプチドである。
配列表の配列番号2は、本発明の自己組織化ペプチドである。
配列表の配列番号3は、本発明の自己組織化ペプチドである。
配列表の配列番号4は、本発明の自己組織化ペプチドである。
配列表の配列番号5は、本発明の自己組織化ペプチドである。
配列表の配列番号6は、本発明の自己組織化ペプチドである。
配列表の配列番号7は、本発明の自己組織化ペプチドである。
配列表の配列番号8は、本発明の自己組織化ペプチドである。
配列表の配列番号9は、本発明の自己組織化ペプチドである。
配列表の配列番号10は、本発明の自己組織化ペプチドでないペプチドである。
配列表の配列番号11は、本発明の自己組織化ペプチドでないペプチドである。
配列表の配列番号12は、本発明の自己組織化ペプチドでないペプチドである。
【配列表】







(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性アミノ酸残基と非極性アミノ酸残基とを有する、12個又は16個のアミノ酸残基からなる自己組織化ペプチドであって、
該極性アミノ酸残基として酸性アミノ酸残基及び塩基性アミノ酸残基を含み、
中性領域において、該酸性アミノ酸残基の電荷と該塩基性アミノ酸残基の電荷との総和が-3?-2、又は+2?+3であり、
中性水溶液中において自己組織化した際に該非極性アミノ酸残基のみが一方の面に配置されたβ-シート構造を形成しうるものであり、
以下の表1?6に記載されるいずれかのアミノ酸配列で表される、自己組織化ペプチド(表1?6中、Xはアラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基、グリシン残基、チロシン残基、セリン残基、トレオニン残基、アスパラギン残基、グルタミン残基またはシステイン残基を示し、Zはアラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基またはグリシン残基を示す)。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【請求項2】
前記表1?6中、Xはアラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、フェニルアラニン残基、トリプトファン残基またはグリシン残基を示す、請求項1記載の自己組織化ペプチド。
【請求項3】
前記表1?6中、Xはチロシン残基、セリン残基、トレオニン残基、アスパラギン残基、グルタミン残基またはシステイン残基を示す、請求項1記載の自己組織化ペプチド。
【請求項4】
前記表1?6中、Xはアスパラギン残基またはセリン残基を示す、請求項3記載の自己組織化ペプチド。
【請求項5】 (削除)
【請求項6】 (削除)
【請求項7】 (削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-04-28 
結審通知日 2016-05-06 
審決日 2016-05-17 
出願番号 特願2007-523936(P2007-523936)
審決分類 P 1 113・ 536- YAA (C07K)
P 1 113・ 537- YAA (C07K)
P 1 113・ 121- YAA (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松田 芳子  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 高堀 栄二
山崎 利直
登録日 2011-06-24 
登録番号 特許第4766528号(P4766528)
発明の名称 自己組織化ペプチドおよびそれより得られるゲル  
代理人 上野山 温子  
代理人 上野山 温子  
代理人 津国 肇  
代理人 籾井 孝文  
代理人 籾井 孝文  
代理人 上野山 温子  
代理人 津国 肇  
代理人 籾井 孝文  
代理人 鈴木 音哉  
代理人 鈴木 音哉  

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