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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1321530
審判番号 不服2015-8592  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-08 
確定日 2016-11-07 
事件の表示 特願2013- 92758「接着フィルム、ダイシング・ダイボンドフィルム、半導体装置の製造方法及び半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月17日出願公開、特開2014-216488〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成25年4月25日に出願したものであって、平成26年11月17日付け拒絶理由通知に対して平成27年1月15日付けで手続補正がなされたが、同年2月13日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年5月8日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成27年1月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
第1半導体素子とワイヤーボンディング接続され、かつ前記第1半導体素子が固定された被着体を準備する被着体準備工程、
基材及び該基材上に形成された粘着剤層を有するダイシングフィルムと、前記粘着剤層上に積層された接着フィルムとを備えるダイシング・ダイボンドフィルムを準備する工程、
前記ダイシング・ダイボンドフィルムの前記接着フィルムと半導体ウェハとを貼り合わせる貼合せ工程、
前記半導体ウェハ及び前記接着フィルムをダイシングして第2半導体素子を形成するダイシング工程、
前記第2半導体素子を前記接着フィルムとともにピックアップするピックアップ工程、
及び
前記第2半導体素子とともにピックアップした前記接着フィルムにより、前記被着体に固定された前記第1半導体素子を包埋しながら前記第2半導体素子を該被着体に固定する固定工程
を含み、
前記接着フィルムは前記第1半導体素子の厚さT_(1)より厚い厚さTを有し、前記厚さTと前記厚さT_(1)との差は40μm以上260μm以下であり、
前記接着フィルムが熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を含み、
下記式で表わされる前記接着フィルムの熱可塑性樹脂存在比は10%以上30%以下、
前記接着フィルムの120℃における溶融粘度は100Pa・s以上3000Pa・s以下である半導体装置の製造方法。
熱可塑性樹脂存在比(%)={A/(A+B)}×100
(式中、Aは熱可塑性樹脂の重量、Bは熱硬化性樹脂の重量である。)」

3.引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開2010-118554号公報(平成22年5月27日公開、以下「引用例1」という。)には、半導体装置の製造方法に関し、図面とともに以下の技術事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与した。以下、同様。)
ア.「【技術分野】【0001】本発明は、半導体装置およびその製造方法に関する。」

イ.「【0015】また、半導体装置100は、第1の半導体チップ110と第2の半導体チップ120との間に充填された絶縁樹脂132を含む。絶縁樹脂132は、第2の半導体チップ120が第1の半導体チップ110からオーバハングした部分と基板102との間にも充填して設けられる。絶縁樹脂132は、たとえば、エポキシ樹脂、硬化剤、シリカ等の充填材、可撓剤等を含む構成とすることができる。また、絶縁樹脂132は、たとえば、放熱効果等を有する構成とすることができる。このような効果を持たせるためには、絶縁樹脂132は、たとえば充填材としてアルミナ等を含む構成とすることができる。」

ウ.「【0020】図3は、本実施の形態における半導体装置100の製造手順を示す工程断面図である。
以下、図3を参照して半導体装置100の製造手順を説明する。
まず、基板102上にマウント材である接着剤130を介して第1の半導体チップ110を取り付ける。接着剤130は、たとえば、Agペースト等の導電ペースト、エポキシ樹脂等の絶縁ペーストまたはダイアタッチフィルム(DAF:Die Attach Film)等とすることができる。次いで、第1の半導体チップ110の第1のボンディングパッドと基板102とをボンディングワイヤ112を介して電気的に接続する。これにより、第1の半導体チップ110が基板102上に搭載される。」

エ.「【0021】つづいて、基板102上に搭載された第1の半導体チップ110上に、第2の半導体チップ120を積層搭載する。この工程は、第1の半導体チップ110上に、平面視で第1の半導体チップ110からオーバハングした部分を有するように、第2の半導体チップ120と同じサイズの絶縁樹脂132の層と第2の半導体チップ120とをこの順で配置する工程と、第2の半導体チップ120を第1の半導体チップ110の方向に押圧して、第1の半導体チップ110と第2の半導体チップ120との間に絶縁樹脂132を充填するとともに、第2の半導体チップ120が第1の半導体チップ110からオーバハングした部分と基板102との間にも絶縁樹脂132を充填する工程とを含む。」

オ.「【0022】本実施の形態においては、第2の半導体チップ120の裏面に、マウント材として、全面に絶縁樹脂132の層を貼り付けておく。本実施の形態において、絶縁樹脂132の層は、フィルム状に形成された構成とすることができる。たとえば、絶縁樹脂132の層は、両面に接着性を有するフィルム状の層とすることができる。」

カ.「【0023】また、絶縁樹脂132の層は、下段の第1の半導体チップ110の厚さ以上の膜厚を有する。とくに限定されないが、第2の半導体チップ120の下段に搭載する第1の半導体チップ110の高さは、たとえば15?100μm程度となる。絶縁樹脂132の層の膜厚は、ボンディングワイヤ112の高さを考慮して、第1の半導体チップ110の高さにさらに50μm程度加えた膜厚以上とすることが望ましい。」

キ.「【0024】このように、裏面にフィルム状の絶縁樹脂132が貼り付けられた第2の半導体チップ120を第1の半導体チップ110が搭載された基板102上に搭載し、第2の半導体チップ120を第1の半導体チップ110の方向に押圧する(図3(a))。絶縁樹脂132の層は未硬化の状態で第2の半導体チップ120の裏面に塗布される。第2の半導体チップ120を第1の半導体チップ110上に搭載する時に、第2の半導体チップ120を加熱することができる。これにより、絶縁樹脂132の層が軟化(ゲル化)して、粘度が低下し、第1の半導体チップ110のボンディングワイヤ112を変形することなく、ボンディングワイヤ112を絶縁樹脂132で埋め込むことができる。この後、絶縁樹脂132を硬化する。これにより、第1の半導体チップ110と第2の半導体チップ120との間に絶縁樹脂132が充填され、第1の半導体チップ110と第2の半導体チップ120との間の領域が絶縁樹脂132により埋め込まれた構成とすることができる。また、このとき、第2の半導体チップ120が第1の半導体チップ110上でオーバハングした部分の裏面に形成された絶縁樹脂132を基板102と接触させる。これにより、第2の半導体チップ120がオーバハングした部分と基板102との間にも絶縁樹脂132が充填される。さらに、同時に、第1の半導体チップ110のボンディングワイヤ112が一括して絶縁樹脂132で埋め込まれる。これにより、図3(b)に示した構成となる。」

ク.「【0028】本実施の形態における半導体装置100の効果を説明する。
本実施の形態において、第2の半導体チップ120と第1の半導体チップ110との間に充填される絶縁樹脂132が第2の半導体チップ120の第1の半導体チップ110からオーバハングした部分の下方にも充填されているため、簡易な手順でオーバハングした部分の封止樹脂の未充填やボイドの発生を防ぐことができる。また、第2の半導体チップ120と第1の半導体チップ110との配置に関わらず、封止樹脂の未充填やボイドの発生を防ぐことができる。

・上記ウによれば、第1の半導体チップと基板とをボンディングワイヤを介して接続し、第1の半導体チップが基板上に搭載される。
・上記オによれば、第2の半導体チップに絶縁樹脂層が貼り付けられる。
・上記キによれば、第1の半導体チップと第2の半導体チップとの間の領域が絶縁樹脂により埋め込まれる。
・上記エによれば、基板上に第2の半導体チップを搭載する。
・上記オによれば、絶縁樹脂層は、接着性を有するフィルム状とする。
・上記カによれば、絶縁樹脂層は、第1の半導体チップの厚さ以上の膜厚を有する。
・上記イによれば、絶縁樹脂は、エポキシ樹脂を含む。
・上記クによれば、第2の半導体チップと第1の半導体チップとの配置に関わらず、絶縁樹脂の未充填やボイドの発生を防ぐことができる。

したがって、上記ア?キの記載及び図面を総合勘案すると、引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「第1の半導体チップと基板とがボンディングワイヤを介して接続され、前記第1の半導体チップを前記基板上に搭載する工程、
第2の半導体チップに貼り付けられた絶縁樹脂層により、前記第1の半導体チップと前記第2の半導体チップとの間の領域を埋め込み、前記第2の半導体チップを前記基板上に搭載する工程
を含み、
前記絶縁樹脂層は接着性を有するフィルム状とし、前記第1の半導体チップの厚さ以上の膜厚を有し、
前記絶縁樹脂がエポキシ樹脂を含む半導体装置の製造方法。」

(2)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-270125号公報(平成19年10月18日公開、以下「引用例2」という。)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。
ケ.「【背景技術】【0002】近年、半導体パッケージの小型化に伴い、半導体チップと同等サイズであるCSP(Chip Size Package)、さらに、半導体チップを多段に積層したスタックドCSPが普及している(例えば、特許文献1?5参照。)。これらの例としては、図1に示すような配線4などに起因する凹凸を有する基板3上に半導体チップA1を積層したパッケージ、又は、図2に示すような同サイズの半導体チップA1を2つ以上使用し、ワイヤ2などに起因する凹凸を有する半導体チップ上にさらに別の半導体チップを積層したパッケージなどがある。このようなパッケージには、凹凸を埋込み、かつ上部の半導体チップとの絶縁性を確保することが可能な接着シートが求められている。なお、図1及び図2中、b1は接着剤である。
【0003】配線、ワイヤ等に起因する凹凸の充てんには、通常、凹凸の高さより接着シート厚さを厚くすること、接着シートの溶融粘度を低減し、充てん性を改善することが求められる。これまでは、貼付温度での接着シートの流動性が貼付性に影響するものと考えられており、接着シートの流動性が適度に高いものは凹凸やワイヤの充てん性に優れると考えられていた。しかし、流動性が高い接着剤付き半導体チップをワイヤボンィング済みのチップに貼り付ける工程を種々調査したところ、確かに流動性が高い接着シートはワイヤ充てんは良好であったが、貼り付け時に接着シートと下チップ間に気泡(ボイド)を形成し易いということがわかった。ボイドが形成されると、はんだリフロー時にボイド中に溜まった空気や水分が膨張することにより、接着シートが剥離するため、ボイドを低減することは凹凸やワイヤを充てんすることと同様に重要な課題である。しかしながら、貼付温度での物性(溶融粘度、硬化速度、溶融粘度の温度や時間依存性等)、あるいは接着シートの厚さを変更するだけでは、ボイドを完全に消滅することは難しかった。また、厚さが厚く、溶融粘度が低い接着シートは、ウエハ及び接着シートのダイシングによって、得られる半導体チップ端部の破損が大きくなるとともに、糸状のくず(樹脂ばり)が大きくなるという問題があった。」

コ.「【発明が解決しようとする課題】【0006】本発明の目的は、基板の配線や、半導体チップに付設されたワイヤ等の凹凸を充てんでき、貼り付け時にボイドを生じない、室温付近でのタック強度が低く作業性、安定性に優れる、耐熱性や耐湿性を満足する接着シートを提供することである。また、接着シートを用いた一体型シート、半導体装置、及び半導体装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】【0007】本発明の発明者らは、室温(25℃)、40℃で、特定のタック強度有する接着シートを使用することにより、貼付時のボイドを形成しないことを見出した。また、基板の配線や、半導体チップのワイヤ等の凹凸を充てん(接着シート中に凸部を埋め込む、又は接着シートで凹部を充填すること)でき、室温付近でのタック強度が低く作業性、安定性に優れることも見出し、本発明を完成させるに至った。さらに、本発明者らは、被着体である基板やチップのそりが一定範囲である場合、ボイドを低減し易いことも見出した。」

サ.「【0062】本発明に使用するダイシングテープとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリイミドフィルムなどのプラスチックフィルム等が挙げられる。また、必要に応じてプライマー塗布、UV処理、コロナ放電処理、研磨処理、エッチング処理等の表面処理を行っても良い。ダイシングテープは粘着性を有することが好ましく、上述のプラスチックフィルムに粘着性を付与したものを用いても良いし、上述のプラスチックフィルムの片面に粘着剤層を設けても良い。これは、樹脂組成物において特に液状成分の比率、高分子量成分のTgを調整することによって得られる適度なタック強度を有する樹脂組成物を塗布乾燥することで形成可能である。」

シ.「【0064】ダイシングテープ上に接着シートを積層する方法としては、印刷、グラビア塗工のほか、予め作製した接着シートをダイシングテープ上にプレス、ホットロールラミネートする方法が挙げられるが、連続的に製造でき、効率が良い点でホットロールラミネートする方法が好ましい。」

ス.「【0066】本発明の接着シートは、好ましくは半導体装置の製造に用いられ、ウエハ、接着シート及びダイシングテープを0℃?120℃で貼り合わせた後、回転刃でウエハ、接着シート及びダイシングテープを同時に切断し、接着シート付き半導体チップを得た後、当該接着シート付き半導体チップを凹凸を有する基板又は半導体チップに荷重0.001?1MPaで接着し、接着剤で凹凸を充てんする工程を含む半導体装置の製造に用いられる。またダイシングテープは、一部が切断され(溝が形成)、切り離されない場合もある。」

セ.「【0072】次いで、接着シート、ダイシングテープが貼り付けられた半導体ウエハを、ダイシングカッターを用いてダイシング、さらに洗浄、乾燥することにより、接着シート付き半導体チップを得ることができる。接着シート付き半導体チップをピックアップするには、ダイシングの後、ダイシングテープにUV光を照射し、ダイシングテープの粘着性を低下せしめた後、吸着コレットなどにより、垂直方向にピックアップする。」

ソ.「【0076】さらに、他の実施態様として、本発明の接着シートは、図5及び図6に示す構造で、かつ接着シート自体がダイシングテープとしての役割を果たしても良い。このような接着シートは、ダイシングダイボンド一体型接着シートなどと呼ばれ、一つのシートでダイシングテープとしての役割と、接着シートとしての役割を果たすので、図7のように、ダイシングしてピックアップするだけで接着シート付き半導体チップを得ることができる。」

(3)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-142247号公報(平成19年6月7日公開、以下「引用例3」という。)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。
タ.「【発明が解決しようとする課題】【0005】本発明は、上記のような従来技術に鑑みてなされたものであって、樹脂シートを用いた半導体素子の封止方法において、樹脂シートの汎用性が高く、また得られるパッケージ端面の形状が一定であり、かつ装置の小型化が可能な方法を提供し、半導体装置の製造において、コストの低減および品質の向上を図ることを目的としている。」

チ.「【0019】封止工程においては、樹脂シート1の封止樹脂層3を、回路基板10の半導体チップ搭載面の凹凸、隙間に埋め込み、封止樹脂層面を回路基板面に接触させ、半導体チップ11を完全に覆うように樹脂シート1を被せる。この際、好ましくは、図4に示すように封止工程を次の2工程により行う。なお、図4以降では、ワイヤボンドされたデバイスを例にとり示したが、フリップチップボンドされたデバイスであっても同様である。」

ツ.「【0038】また、チップ搭載面への圧接時において、封止樹脂層3が硬すぎると、フリップチップボンドされたデバイスでは樹脂が充分に充填されず空気溜まりが生じる虞があり、ワイヤボンディングされたデバイスではワイヤが潰れたり、断線する虞がある。一方、封止樹脂層3が軟らか過ぎると、封止樹脂が過剰に流動化し、必要とされる部分以外にまで樹脂が拡散し、デバイスの汚損、外観不良を招来する虞がある。したがって、チップ搭載面への圧接時における封止樹脂層3、すなわち、熱硬化前の封止樹脂層3は、適度な加熱流動性を有することが求められる。」

テ.「【0039】このため、熱硬化前の封止樹脂層3の120℃における溶融粘度は、好ましくは100?200Pa・秒、さらに好ましくは110?190Pa・秒である。なお、熱硬化前の封止樹脂層3の120℃における溶融粘度は動的粘弾性測定装置により測定周波数1Hzにて測定される。」

ト.「【0041】上記封止樹脂層3は、基本的にはバインダー成分(A)と熱硬化性成分(B)とを必須成分とし、必要に応じ、その他の添加物(C)が配合される。
以下、上記成分(A)?(C)を説明する。」

ナ.「【0058】また、封止樹脂層3の熱応答性(加熱流動性)を制御するため、60?150℃にガラス転移点を有する熱可塑性樹脂を配合してもよい。熱可塑性樹脂としては、たとえばポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド樹脂、セルロース、ポリエチレン、ポリイソブチレン、ポリビニルエーテル、ポリイミド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体などが挙げられる。これらの中でも、封止樹脂層の他の成分との相溶性に優れることで、フェノキシ樹脂が特に好ましい。」

ニ.「【0059】封止樹脂層3における熱可塑性樹脂の配合割合は、バインダー成分(A)と熱硬化性成分(B)の合計100質量部当たり、好ましくは1?50質量部、さらに好ましくは2?40質量部、特に好ましくは3?30質量部の割合で用いられる。また、バインダー成分(A)として、アクリル系重合体が用いられる場合、アクリル系重合体と、熱可塑性樹脂との重量比(アクリル系重合体/熱可塑性樹脂)が、9/1?3/7であること好ましい。」

ヌ.「【0061】また、封止樹脂が熱可塑性樹脂を多量に含む場合、流動性が過剰になり、所望の弾性率や溶融粘度が得られない場合がある。したがって、熱可塑性成分を配合する場合、その配合割合は上記した範囲で、目的とする弾性率や加熱流動性を見合うように適宜に選定する。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
a.引用発明の「第1の半導体チップ」及び「基板」は、本願発明の「第1半導体素子」及び「被着体」に相当し、そして、引用発明の「基板」は、「第1の半導体チップ」とボンディングワイヤを介して接続され、かつ「前記第1の半導体チップ」が搭載されるのであるから、引用発明と本願発明とは、「第1半導体素子とワイヤーボンディング接続され、かつ前記第1半導体素子が固定された被着体を準備する」被着体準備工程を含む点で共通する。

b.引用発明の「絶縁樹脂層」は、「接着性を有するフィルム状」のものであるから、本願発明の「接着フィルム」に相当し、引用発明の「第2の半導体チップ」は、本願発明の「第2半導体素子」に相当する。 そして、引用発明は、「絶縁樹脂層により」、「前記第1の半導体チップと前記第2の半導体チップとの間の領域」が埋め込まれ、「前記第2の半導体チップを前記基板上に搭載する」ものであり、その際、図3(b)を参照すると、第1の半導体チップを包埋しながら第2の半導体チップを基板上に搭載しているといえるから、引用発明と本願発明とは、「接着フィルムにより、前記被着体に固定された前記第1半導体素子を包埋しながら前記第2半導体素子を該被着体に固定する」固定工程を含む点で共通する。

c.引用発明の「絶縁樹脂層」は、「前記第1の半導体チップの厚さ以上の膜厚を有」するものであるから、引用発明と本願発明とは、「前記接着フィルムは前記第1半導体素子の厚さT1より厚い厚さTを有」する点で共通する。

d.引用発明の「絶縁樹脂」は、エポキシ樹脂を含むものであるところ(上記イ)、エポキシ樹脂は熱硬化性樹脂であるから、引用発明と本願発明とは、「前記接着フィルムが」「熱硬化性樹脂を含」む点で共通する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「第1半導体素子とワイヤーボンディング接続され、かつ前記第1半導体素子が固定された被着体を準備する被着体準備工程、
基材及び該基材上に形成された粘着剤層を有するダイシングフィルムと、前記粘着剤層上に積層された接着フィルムとを備えるダイシング・ダイボンドフィルムを準備する工程、
前記ダイシング・ダイボンドフィルムの前記接着フィルムと半導体ウェハとを貼り合わせる貼合せ工程、
前記半導体ウェハ及び前記接着フィルムをダイシングして第2半導体素子を形成するダイシング工程、
前記第2半導体素子を前記接着フィルムとともにピックアップするピックアップ工程、
及び
前記第2半導体素子とともにピックアップした前記接着フィルムにより、前記被着体に固定された前記第1半導体素子を包埋しながら前記第2半導体素子を該被着体に固定する固定工程
を含み、
前記接着フィルムは前記第1半導体素子の厚さT_(1)より厚い厚さTを有し、前記厚さTと前記厚さT_(1)との差は40μm以上260μm以下であり、 前記接着フィルムが熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を含み(む)、
下記式で表わされる前記接着フィルムの熱可塑性樹脂存在比は10%以上30%以下、
前記接着フィルムの120℃における溶融粘度は100Pa・s以上3000Pa・s以下である半導体装置の製造方法。
熱可塑性樹脂存在比(%)={A/(A+B)}×100
(式中、Aは熱可塑性樹脂の重量、Bは熱硬化性樹脂の重量である。)」

(相違点1)
本願発明は、「基材及び該基材上に形成された粘着剤層を有するダイシングフィルムと、前記粘着剤層上に積層された接着フィルムとを備えるダイシング・ダイボンドフィルムを準備する工程」「前記ダイシング・ダイボンドフィルムの前記接着フィルムと半導体ウェハとを貼り合わせる貼合せ工程」「前記半導体ウェハ及び前記接着フィルムをダイシングして第2半導体素子を形成するダイシング工程」及び「前記第2半導体素子を前記接着フィルムとともにピックアップするピックアップ工程」を含むのに対し、引用発明は、そのような工程の特定はされていない点。

(相違点2)
本願発明は、「前記接着フィルムの厚さ(T)と前記第1半導体素子の厚さ(T_(1))との差は40μm以上260μm以下であ」るのに対し、引用発明はそのような特定はされていない点。

(相違点3)
「接着フィルム」について、本願発明は、「熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を含」むものであるのに対し、引用発明は熱硬化性樹脂を含むものである点。

(相違点4)
本願発明は、「下記式で表わされる前記接着フィルムの熱可塑性樹脂存在比は10%以上30%以下 熱可塑性樹脂存在比(%)={A/(A+B)}×100(式中、Aは熱可塑性樹脂の重量、Bは熱硬化性樹脂の重量である。)」であるのに対し、引用発明はそのような特定はされていない点。

(相違点5)
本願発明は、「前記接着フィルムの120℃における溶融粘度は100Pa・s以上3000Pa・s以下である」のに対し、引用発明はそのような特定はされていない点。

5.判断
そこで、上記相違点について検討する。
(相違点1について)
一般に、半導体装置の製造方法において、ウエハを半導体チップの寸法に合わせてカットして個々のチップに切り分けることは周知技術であるところ、半導体装置の製造方法に関して、引用発明および本願発明と同一の技術分野に属する上記引用例2には、ワイヤなどに起因する凹凸を有する半導体チップ上にさらに別の半導体チップを積層したパッケージにおいて、凹凸を埋込み、かつ上部の半導体チップとの絶縁性を確保することが可能な接着シートとして、基板の配線や、半導体チップに付設されたワイヤ等の凹凸を充てんでき、貼り付け時にボイドを生じないものを提供するため(上記ケ、コ)、プラスチックフィルムの片面に粘着剤層を設けた(上記サ)ダイシングテープ上に接着シートを積層し(上記シ)、ウエハ、接着シート及びダイシングテープを貼り合わせた後、ウエハ及び接着シートを切断し(上記ス)、接着シート付き半導体チップをピックアップする(上記セ、ソ)半導体装置の製造方法が記載されており、係る半導体装置の製造方法は、プラスチックフィルム及び該プラスチックフィルム上に形成された粘着剤層を有するダイシングテープと、前記粘着剤層上に積層された接着シートとを備えるダイシング・ダイボンドフィルムを準備する工程、前記ダイシング・ダイボンドフィルムの前記接着シートとウエハとを貼り合わせる貼り合わせ工程、前記ウエハ及び前記接着シートをダイシングして半導体チップを形成するダイシング工程、前記半導体チップを前記接着シートとともにピックアップするピックアップ工程を含んでいるといえる。
ここで、引用例2に記載された「プラスチックフィルム」「粘着剤層」「ダイシングテープ」「接着シート」「ウエハ」及び「半導体チップ」は、本願発明の「基材」「粘着剤層」「ダイシングフィルム」「接着フィルム」「半導体ウェハ」及び「(第2)半導体素子」にそれぞれ相当している。
そうすると、引用発明において、絶縁樹脂層が貼り付けられた第2の半導体チップを引用例2に記載された上記各工程により製造すること、すなわち相違点1とすることは当業者が容易になし得たことである。

(相違点2について)
上記引用例1には、絶縁樹脂132の層の膜厚は、ボンディングワイヤ112の高さを考慮して、第1の半導体チップ110の高さにさらに50μm程度加えた膜厚以上とすることが望ましいこと(上記カ)、第1の半導体チップ110と第2の半導体チップ120との間に絶縁樹脂132が充填され、第1の半導体チップ110と第2の半導体チップ120との間の領域が第1の半導体チップの110のボンディングワイヤ112を変形することなく、ボンディングワイヤ112を絶縁樹脂132により埋め込まれた構成とすること(上記キ)、が記載されている。
そうすると、上記引用例1の記載から、第1の半導体チップと第2の半導体チップとの間にボンディングワイヤを変形することなく絶縁樹脂を埋め込む場合の絶縁樹脂の層の膜厚については、第1の半導体チップに接続されているボンディングワイヤの高さを考慮して、第1の半導体チップの高さにさらに50μm程度加えた膜厚以上とすることが望ましいとの技術思想を読み取ることができる。
ここで、接着フィルムの厚さと第1半導体素子の厚さとの差について、本願明細書の段落【0105】には、「(第2固定工程)第2固定工程では、第2半導体素子12とともにピックアップした包埋用接着フィルム22により、別途被着体1上に固定しておいた第1半導体素子11を包埋しながら前記第1半導体素子11とは異なる第2半導体素子12を前記被着体1に固定する(図3F参照)。包埋用接着フィルム22は、前記第1半導体素子11の厚さT1より厚い厚さTを有している。本実施形態では、前記被着体1と前記第1半導体素子11との電気的接続がワイヤーボンディング接続により達成されることから、前記厚さTと前記厚さT1との差を40μm以上260μm以下が好ましい。前記厚さTと前記厚さT1との差の下限は40μm以上が好ましいものの、50μm以上がより好ましく、60μm以上がさらに好ましい。また、前記厚さTと前記厚さT1との差の上限は260μm以下が好ましいものの、200μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましい。これにより、半導体装置全体の薄型化を図りながらも、第1半導体素子11と第2半導体素子12との接触を防止しつつ第1半導体素子11全体を包埋用接着フィルム22の内部に包埋することができ、コントローラとしての第1半導体素子11の被着体1上への固定(すなわちワイヤー長が最短となる最下段での固定)を可能にする。」と記載されているが、要するに第1の半導体素子及びボンディングワイヤーの高さを考慮して接着フィルムの厚さを設定したものであって、その技術思想は上記引用例1に記載されているものと何ら相違するものではなく、新たな技術思想を付加したものでもない。
そうすると、接着フィルムの厚さと第1半導体素子の厚さとの差を「40μm以上260μm以下」とすることは、上記引用例1に記載されている技術思想の下、単に設計上適宜設定される事項を特定したものにとどまるものであり、引用発明において、相違点2とすることは当業者が適宜なし得ることである。

(相違点3について)
上記引用例3には、樹脂シートを用いた半導体素子の封止方法において、封止工程として、樹脂シート1の封止樹脂層3を、回路基板10の半導体チップ搭載面の凹凸、隙間に埋め込み、封止樹脂層面を回路基板面に接触させ、半導体チップ11を完全に覆うように樹脂シート1を被せる点が記載されており(上記タ、チ、図4、図5)、その場合の樹脂は、封止樹脂層の熱応答性(加熱流動性)を制御するため、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂を配合することが記載されている(上記ト、ナ)。
ここで、本願発明の「包埋」なる用語の意味するところは、本願明細書の段落【0105】の「 第2固定工程では、第2半導体素子12とともにピックアップした包埋用接着フィルム22により、別途被着体1上に固定しておいた第1半導体素子11を包埋しながら前記第1半導体素子11とは異なる第2半導体素子12を前記被着体1に固定する(図3F参照)。(中略)これにより、半導体装置全体の薄型化を図りながらも、第1半導体素子11と第2半導体素子12との接触を防止しつつ第1半導体素子11全体を包埋用接着フィルム22の内部に包埋することができ、コントローラとしての第1半導体素子11の被着体1上への固定(すなわちワイヤー長が最短となる最下段での固定)を可能にする。」との記載、および図3Fから、「第1半導体素子11全体を封止用接着フィルム22の内部に封止すること」と同義と認められる。
そうすると、上記引用例3の封止工程も「樹脂シート1の封止樹脂層3を、回路基板10の半導体チップ搭載面の凹凸、隙間に埋め込み、封止樹脂層面を回路基板面に接触させ、半導体チップ11を完全に覆うように樹脂シート1を被せる」ものであるから、本願発明の「包埋」する工程に相当する。
したがって、半導体チップを包理する絶縁樹脂に関して、引用発明の絶縁樹脂に引用例3の封止樹脂を適用して、相違点3の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(相違点4について)
上記引用例3には、半導体チップを包埋する封止樹脂として、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂を配合する際に、熱可塑性樹脂の配合割合をバインダー成分と熱硬化性成分の合計100質量部当たり、3?30質量部の割合(熱可塑性樹脂存在比)で用いられることが記載されている(上記ニ)。
ここで、「接着フィルム」について、本願明細書の段落【0028】には「接着フィルム22は、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂(後述)を含み、熱可塑性樹脂存在比が10%以上30%以下である。熱可塑性樹脂存在比の下限としては15%以上が好ましい。熱可塑性樹脂存在比の上限としては25%以下が好ましい。熱可塑性樹脂存在比を上記範囲とすることにより、接着フィルム22に適度な粘度を付与することができる。その結果、接着フィルム22の被着体1上の凹凸に対する追従性が良好になってボイドの取り込みを抑制することができ、また、第2半導体素子12の周縁部からの接着フィルム22の過度のはみ出しを抑制して周辺部材の汚染を防止することができる(図3F参照)。」と記載されていることから、熱可塑性樹脂存在比は、接着フィルムに適度な粘度を付与するためのものであって、「10%以上30%以下」とすることは、単に設計上適宜設定される事項を特定したものにとどまるものである。
そうすると、引用発明の絶縁樹脂に、引用例3の封止樹脂(熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂を配合する際に、熱可塑性樹脂の配合割合をバインダー成分と熱硬化性成分の合計100質量部当たり、3?30質量部の割合(熱可塑性樹脂存在比)で用いられた封止樹脂)を適用して、相違点4の構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(相違点5について)
上記引用例3には、熱硬化前の封止樹脂層3の120℃における溶融粘度を100?200Pa・秒とすることが記載されている(上記テ)。
ここで、「接着フィルム」について、本願明細書の段落【0052】には「前記接着フィルムの120℃における溶融粘度は、第1半導体素子の包埋性を有する限り特に限定されないものの、その下限は100Pa・s以上が好ましく、300Pa・s以上がより好ましく、500Pa・s以上がさらに好ましい。一方、前記溶融粘度の上限は3000Pa・s以下が好ましく、2000Pa・s以下がより好ましく、1500Pa・s以下がさらに好ましい。これにより、前記接着フィルムによる第2半導体素子の被着体への固定の際に、第2半導体素子の周縁部からの接着フィルムのはみ出しを抑制しつつ、第1半導体素子の前記接着フィルムへの包埋をより容易に行うことができる。」と記載されていることから、120℃における溶融粘度は、第1半導体素子の包埋性を有する限りのものであって、「100Pa・s以上3000Pa・s以下」とすることは、単に設計上適宜設定される事項を特定したものにとどまるものである。
そうすると、引用発明の絶縁樹脂に、引用例3の120℃における溶融粘度を100?200Pa・秒とする封止樹脂を適用して、相違点5の構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

なお、請求人は、審判請求書において、「引用例1の絶縁樹脂132と、引用例2の接着シート及び引用例3の封止樹脂層3は、それぞれ用途が異なるため、引用例1と異なる用途の引用例2及び引用例3の技術事項を参照することは自然ではない」旨主張している。
しかしながら、引用例1、引用例2及び引用例3は、何れも半導体装置の製造方法において、半導体チップを包埋・封止する絶縁樹脂として、「充填性に優れ、ボイドの発生を防ぐ」という解決しようとする課題が共通するものであるから(上記ク、ケ・コ、ツ)、引用例1に引用例2及び引用例3の技術事項を適用することに特段の阻害要因は存在しない。よって請求人の主張は認められない。

そして、上記相違点を総合的に判断しても、本願発明が奏する効果は引用例1ないし3から当業者が十分に予測できたものであって格別なものとはいえない。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-08 
結審通知日 2016-09-09 
審決日 2016-09-26 
出願番号 特願2013-92758(P2013-92758)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 将之  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 森川 幸俊
水野 恵雄
発明の名称 接着フィルム、ダイシング・ダイボンドフィルム、半導体装置の製造方法及び半導体装置  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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