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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K
管理番号 1321578
審判番号 不服2014-25804  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-17 
確定日 2016-11-09 
事件の表示 特願2010-539332「電気機械変換器の作動方法、コントローラ、およびコンピュータプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 6月25日国際公開、WO2009/078720、平成23年 3月 3日国内公表、特表2011-507483〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2008年12月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年12月18日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成26年8月15日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成26年8月19日)、これに対し、平成26年12月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出され、当審により平成27年10月13日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成27年10月20日)、これに対し、平成28年4月7日付で意見書が提出されたものである。


2.特許請求の範囲
平成26年12月17日付手続補正で、特許請求の範囲は以下のように補正された(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。
「【請求項1】
電気機械変換器の作動方法であって、前記電気機械変換器は、ロータが取り付けられた一次側シャフトと、インターロータが取り付けられた二次側シャフトと、前記電気機械変換器のハウジング(審決注:「前記ハウジング」は誤記)に固定的に取り付けられたステータとを備え、前記一次側シャフトから半径方向に見て前記ロータと前記インターロータと前記ステータとは互いに同心円状に配置され、前記ロータと前記ステータとは1つ以上の巻線を用いて設計され、前記インターロータは機械的にも電磁的にも統一体を形成し、少なくとも接線方向の磁束の導体として配置され、該方法は前記インターロータにおける磁気飽和が、インターロータの磁束曲線上の作用点をインターロータが少し飽和するように変更することによって、減るようにロータ磁束を可変制御するステップを含む作動方法。
【請求項2】
前記ロータおよび/または前記ステータの前記1つ以上の巻線は、単相または多相型であり、電気的にアクセス可能である、請求項1に記載の作動方法。
【請求項3】
前記インターロータは磁気および電気回路をさらに備え、前記磁気回路は磁束伝導性の円柱体を備え、前記電気回路は前記磁束伝導性の円柱体の内側に延在するいくつかの電気回路形成巻線を備え、前記インターロータは、前記インターロータの磁気飽和により前記ロータと前記ステータとの間に直接トルクを加えることができるように、接線方向および半径方向の前記磁束の導体として配置される、請求項1または2に記載の作動方法。
【請求項4】
ステータ界磁弱め条件下で前記ロータ磁束が減る、先行請求項の何れか1項に記載の作動方法。
【請求項5】
前記ロータおよび/または前記ステータの電気的にアクセス可能な巻線は、前記巻線に流れる電流を制御する制御部に接続される、先行請求項の何れか1項に記載の作動方法。
【請求項6】
前記ロータのd(direct)軸電流を減らすことによって、前記ロータ磁束を減らす、先行請求項の何れか1項に記載の作動方法。
【請求項7】
前記インターロータに対応付けられた所望のパラメータからロータ磁束を決めるステップを含む、先行請求項の何れか1項に記載の作動方法。
【請求項8】
ルックアップテーブルから値を取り出すことによって、および/または前記電気機械変換器の前記物理的挙動を数値的にモデル化することによって、ロータ磁束を決める、請求項7に記載の作動方法。
【請求項9】
電気機械変換器を作動するように構成されたプロセッサを備えるコントローラであって、前記電気機械変換器は、ロータが取り付けられた一次側シャフトと、インターロータが取り付けられた二次側シャフトと、前記電気機械変換器の前記ハウジングに固定的に取り付けられたステータと備え、前記一次側シャフトから半径方向に見て前記ロータと前記インターロータと前記ステータとは互いに同心円状に配置され、前記ロータと前記ステータとは1つ以上の巻線を用いて設計され、前記インターロータは機械的にも電磁的にも統一体を形成し、少なくとも接線方向の磁束の導体として配置され、前記プロセッサは、前記インターロータにおける磁気飽和が、インターロータの磁束曲線上の作用点をインターロータが少し飽和するように変更することによって、減るように、ロータ磁束を可変制御する、コントローラ。
【請求項10】
電気機械変換器の作動方法をプロセッサに実施させるためのコンピュータ可読コードを備えるコンピュータプログラムであって、前記電気機械変換器は、ロータが取り付けられた一次側シャフトと、インターロータが取り付けられた二次側シャフトと、前記電気機械変換器の前記ハウジングに固定的に取り付けられたステータとを備え、前記一次側シャフトから半径方向に見て前記ロータと前記インターロータと前記ステータとは互いに同心円状に配置され、前記ロータと前記ステータとは1つ以上の巻線を用いて設計され、前記インターロータは機械的にも電磁的にも統一体を形成し、少なくとも接線方向の磁束の導体として配置され、前記方法は、前記インターロータの磁気飽和が、インターロータの磁束曲線上の作用点をインターロータが少し飽和するように変更することによって、減るように、ロータ磁束を可変制御するステップを含む、コンピュータプログラム。」


3.拒絶の理由I
平成27年10月13日付の当審の拒絶の理由Iで以下の事項を通知した。
「I この出願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。


(1)この出願の発明の構成が不明である。例えば、電気機械変換器(【図1】)が具体的にどの様な回転動作をするのか不明[一次側シャフトと二次側シャフトがあることから判断して、一次側の回転速度とは異なる回転速度で二次側シャフトが回転するものと考えるがこの点不明。ロータ8とかご形電機子9で1つのモータを形成し、ステータ10とかご形電機子11でもう1つのモータを形成するものと考えるがこの点不明。ロータ8のスロット数とステータ10のスロット数が異なる(【図2】)から、巻線の配置も異なるはずであり、ロータ8とステータ10の巻線配置をそれぞれどの様にするのか不明であり、ロータ8とステータ10の巻線はそれぞれ何極の磁場を発生させるのか不明。ロータ8とステータ10にはインバータから三相交流が与えられるが、どの様な周波数が与えられるのか明細書に記載が無く不明(インバータ12の発する周波数とインバータ13の発する周波数は同じであるのか異なるのか不明。周波数が異なれば回転速度が変わる。)であり、どの様なタイミングで与えられるのか明細書に記載が無く不明(例えば、インバータ12の発する周波数とインバータ13の発する周波数は同じでも、インバータ12の発する正弦波とインバータ13の発する正弦波の位相が電気角で90°ずれて端子21、22に与えられる場合、インバータ12の発する正弦波とインバータ13の発する正弦波が同位相で端子21、22に与えられる場合等が考えられる。又、インバータ12の発する周波数とインバータ13の発する周波数が異なる場合、インバータ12の発する正弦波の位相とインバータ13の発する正弦波の位相の位相差をどの様に調整するのか不明。)であり、どの様な回転磁場を生成するのか不明(ロータ8の発する磁場ととステータ10の発する磁場は図2において同方向に回転するのか、互いに逆方向に回転するのか。)。]である。
更に、請求項1に「該方法は前記インターロータにおける磁気飽和が、インターロータの磁束曲線上の作用点をインターロータが少し飽和するように変更することによって、減るようにロータ磁束を可変制御する」との訳語があり、原査定の拒絶の理由で挙げた引用例1に引用例2を適用すれば「インターロータにおいて生じ得る全ての磁気飽和を防ぐという結果を得ることとなる」(平成26年2月21日付意見書)から、本願は作用効果がある旨主張しており、当該主張に基づけば本願はインターロータにおいて生じ得る磁気飽和の一部を防ぐと解せるがこの点不明(異なるならばどの様な主張か説明されたい)であり、この解釈に基づけば、本願はインターロータにおいて生じ得る磁気飽和を部分的に防げることとなるが、具体的にどの部分の電流をどの様に流せば本願の作用効果が実現するのか明細書に記載が無く不明[インターロータのみならず電気機械変換器の鉄心を流れる磁場は、ロータ8とステータ10の巻線が発生させるものであるから、ロータ8とステータ10の巻線に流れる電流を小さくすれば、インターロータの全ての磁界が弱まるはずであり、一部のみ磁気飽和を解消することは不可能(電気機械変換器の鉄心の形状は極めて一般的なものであり、鉄心の形状に基づく磁気飽和の一部を解消するものとは考えられない。)ではないか。仮に、意見書の主張が、引用例1、2のものの作用効果が磁気飽和が一切ないことを意味するならば、通常弱め界磁制御は、電流をどの程度弱めるか必要に応じて可変の値としており、弱め界磁の意味が、磁気飽和が無い電流と磁束が比例関係にある部分(【図3】の35)の利用の意味に限定されない。]である。
更に、請求項1の「該方法は前記インターロータにおける磁気飽和が、インターロータの磁束曲線上の作用点をインターロータが少し飽和するように変更することによって、減るようにロータ磁束を可変制御する」との訳語に対応する記載は明細書の何処にあるのか不明(請求人が補正の根拠と主張する【0014】には、「インターロータにおける磁気飽和が減るようにロータ磁束を可変制御することによって、インターロータが飽和しにくくなるようにインターロータ磁化曲線上の作用点を変更できるため」とあるだけで、「インターロータが少し飽和するように変更する」とは記載されていない。)であり、「減るようにロータ磁束を可変制御する」とは単なる希望を記載しただけで、具体的にどの様にして可変制御するのか何ら開示が無く不明であり、「少し飽和」の少しとはどの様な状態であれば少し飽和となるのか不明(少し飽和とは磁気飽和しているのではないか。少し飽和の定義はどの様なもので、その境界はどの様に決定するのか。少し飽和があるから、中程度に飽和、多く飽和が存在するが、差異はどの様に決定するのか。図3の35の部分を用いても、鉄心の形状により飽和部分が発生する。)である。請求項9、10も同様である。
更に、請求項1において、「前記ロータと前記ステータとは1つ以上の巻線を用いて設計され」との訳語があるが、ロータとステータのどちらか一方に巻線があれば足りると解せるがこの点不明であり、巻線とは、「三相交流巻線」の巻線の意味か、単なるコイルの意味か、それ以外か、構成を特定できず不明である。請求項9、10も同様である。
更に、請求項1において、「機械的にも電磁的にも統一体を形成」、「少なくとも接線方向の磁束の導体として配置」との訳語があるが、一般的な用語ではなく、どの様な構成であるのか不明(統一体とは何か。導体とは通常電気抵抗の小さいものを意味するが、この意味か。接線方向の磁束とは何か。接線方向しか磁束が流れないならば、モータは回転できないのではないか。)である。請求項9、10も同様である。
更に、請求項3において、「前記インターロータの磁気飽和により前記ロータと前記ステータとの間に直接トルクを加えることができる」、「接線方向および半径方向の前記磁束の導体として配置」との訳語があるが、一般的な用語ではなく、どの様な構成であるのか不明(直接トルクを加えるとはどの様な定義か。間接トルクを加える状態は存在するのか。)である。
更に、請求項7、8に記載の事項は、「インターロータに対応付けられた所望のパラメータ」、「値」、「前記物理的挙動」(前記に対応する記載無い)、「数値的にモデル化」を、各々具体的にどの様に決定するのか明細書に何ら開示が無いため、構成を特定できず不明である。
更に、請求項9のコントローラ、請求項10のコンピュータプログラムは、請求項9、10に電気機械変換器の構成を記載するのみで、コントローラとしての構成、コンピュータプログラムとしての構成が示されておらず、各々構成が不明である。」


4.拒絶の理由Iに対する当審の判断
(1)請求項1には、「該方法は前記インターロータにおける磁気飽和が、インターロータの磁束曲線上の作用点をインターロータが少し飽和するように変更することによって、減るようにロータ磁束を可変制御する」と記載されているが、明細書には、「インターロータにおける磁気飽和が減るようにロータ磁束を可変制御することによって、インターロータが飽和しにくくなるようにインターロータ磁化曲線上の作用点を変更できるため」(【0014】)とあるだけで、「インターロータが少し飽和するように変更する」は発明の詳細な説明に記載したものではなく(新規事項に該当する疑いがある)、又、「減るようにロータ磁束を可変制御する」とは単なる希望を記載しただけで、具体的にどの様にして可変制御するのか何ら開示が無く不明であり、しかも、電気機械変換器は無限変速機として用いることを想定しているが、或る負荷に対する無限変速機の使用中に、磁気飽和解消のために当該可変制御を行えば、出力トルクや回転数の変動が生じ、無限変速機としての所望の動作を行わないこととなるが、何故この様な可変制御を行うのか不明であり、可変制御を行った場合、出力トルクや回転数をどの様に制御するのか何ら開示が無く不明であり、又、「少し飽和」の「少し」とは、相対的な用語であり、どの様な状態であれば少し飽和となるのか不明であり、しかも、磁気飽和とは、鉄心の最大磁束密度を超えた場合に生じる現象であり、最大磁束密度を超えなければ磁気飽和は生じないから、インターロータは飽和するか飽和していないかのどちらかの状態しかなく、「少し飽和」とはどの様な物理現象を意味するのか何ら開示が無く不明であり、少し飽和があるから、中程度に飽和、多く飽和が存在するが、差異はどの様に決定するのか不明であり、又、図3の35の部分を用いても、鉄心の形状によっては飽和部分が発生するから、少し飽和とはどの様な状態を意味するのか不明である。
請求項9、10も同様である。
(2)請求項1には、「前記ロータと前記ステータとは1つ以上の巻線を用いて設計され」と記載されており、当該記載に基づけば、ロータとステータのどちらか一方に巻線があれば足りると解せるがこの点不明であり、通常ステータは巻線を有するがロータは必ずしも巻線を有していないから、技術的に判断してもステータのみが巻線を有するものが含まれるが、この様な電気機械変換器は発明の詳細な説明に記載したものではない。
請求項9、10も同様である。
(3)請求項3には、「前記インターロータの磁気飽和により前記ロータと前記ステータとの間に直接トルクを加えることができる」と記載されているが、当該記載は一般的な用語ではなく、しかも、ロータとステータは接触はしていないから、直接トルクを加えるとはどの様な定義か不明のため構成が特定できず不明であり、直接トルクを加える状態があるから、間接トルクを加える状態があるはずであるが、どの様な定義であって両者はどの様に異なるのか不明である。
(4)請求項7に、「インターロータに対応付けられた所望のパラメータ」、請求項8に、「値」、「前記物理的挙動」、「数値的にモデル化」と記載されているが、各々具体的にどの様に決定するのか明細書に何ら開示が無いため、構成を特定できず不明であり、しかも、請求項8の「前記物理的挙動」に対応する記載が無いため、発明の構成が特定できず不明である。
(5)したがって、請求項1、9、10の記載は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1、3、7、8、9、10の記載は、発明の詳細な説明を参照しても明確ではないから、請求項2の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


5.拒絶の理由II
(1)引用例
当審の拒絶の理由に引用された特表2005-519571号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

a「ロータ(8)が取り付けられた一次側シャフト(5)、インターロータ(15)が取り付けられた二次側シャフト(7)、および、電気機械変換器のハウジング(3)に固定して取り付けられたステータ(10)が設けられ、
前記一次側シャフト(5)から半径方向に見ると、前記ロータ(8)、前記インターロータ(15)および前記ステータ(10)は互いに同心円状に配置され、
前記ロータ(8)および前記ステータ(10)は、一つ以上の単相または多相の電気的にアクセス可能な巻線を用いて設計されている、
電気機械変換器、特に、電動可変変速機であって、
前記インターロータ(15)は、機械的にも電磁的にも一つの統一体を形成し、少なくとも接線方向に磁束の導体として配置される、
電気機械変換器。」(【請求項1】)

b「本発明は、ロータが取り付けられた一次側シャフトと、インターロータが取り付けられた二次側シャフトと、ハウジングに固定して取り付けられたステータが設けられ、一次側シャフトから半径方向に見ると、ロータ、インターロータおよびステータは互いに同心円状に配置され、ロータおよびステータは、一つ以上の単相または多相の電気的にアクセス可能な巻線を用いて設計された、電気機械変換器、特に、電動可変変速機に関する。一次側シャフトによって供給されたパワーの一部分は、電磁的な方式で、二次側シャフト上のインターロータへ直接的に送られ、別の部分は、例えば、スリップリングを使用して、一次側シャフトから集められ、パワーエレクトロニック変換器を介してステータへ供給され得る。さらに、パワー伝送方向は反転させてもよく、出力速度は入力速度より高くすることも低くすることも可能である。これらの速度は符号が変化してもよい。」(【0001】)

c「ステータ巻線およびロータ巻線は、一つ以上のパワーエレクトロニック変換器を介して相互接続される。その結果として、例えば、車両が速度を上げるときに、ロータからステータへの電気エネルギーの移動が可能であり、例えば、オーバードライブ中に、その逆への電気エネルギーの移動が可能である。特殊なケースでは、これらの一つ以上のパワーエレクトロニック変換器は、例えば、オンボードバッテリをそれに接続するため、単一の電気的ゲートを介して電気的にアクセス可能であり、その結果として、EVTを用いて、実質的に耐久性のあるスターターモーターが実現可能である。」(【0017】)

上記記載事項及び図面を参照すると、制御するステップを含む電気機械変換器の作動方法が示されている。

上記記載事項からみて、引用例1には、
「電気機械変換器の作動方法であって、前記電気機械変換器は、ロータが取り付けられた一次側シャフトと、インターロータが取り付けられた二次側シャフトと、前記電気機械変換器のハウジングに固定して取り付けられたステータが設けられ、前記一次側シャフトから半径方向に見ると、前記ロータ、前記インターロータおよび前記ステータは互いに同心円状に配置され、前記ロータおよび前記ステータは、一つ以上の単相または多相の電気的にアクセス可能な巻線を用いて設計され、前記インターロータは機械的にも電磁的にも一つの統一体を形成し、少なくとも接線方向に磁束の導体として配置され、制御するステップを含む作動方法。」
との発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。


(2)対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ハウジングに固定して取り付けられたステータが設けられ」、「前記一次側シャフトから半径方向に見ると、前記ロータ、前記インターロータおよび前記ステータは互いに同心円状に配置され」、「前記ロータおよび前記ステータは、一つ以上の単相または多相の電気的にアクセス可能な巻線を用いて設計され」、「前記インターロータは機械的にも電磁的にも一つの統一体を形成し、少なくとも接線方向に磁束の導体として配置され」は、それぞれ本願発明の「ハウジングに固定的に取り付けられたステータとを備え」、「前記一次側シャフトから半径方向に見て前記ロータと前記インターロータと前記ステータとは互いに同心円状に配置され」、「前記ロータと前記ステータとは1つ以上の巻線を用いて設計され」、「前記インターロータは機械的にも電磁的にも統一体を形成し、少なくとも接線方向の磁束の導体として配置され」に相当する。
引用発明の「制御するステップを含む」と、本願発明の「該方法は前記インターロータにおける磁気飽和が、インターロータの磁束曲線上の作用点をインターロータが少し飽和するように変更することによって、減るようにロータ磁束を可変制御するステップを含む」は、「制御するステップを含む」との概念で一致する。

したがって、両者は、
「電気機械変換器の作動方法であって、前記電気機械変換器は、ロータが取り付けられた一次側シャフトと、インターロータが取り付けられた二次側シャフトと、前記電気機械変換器の前記ハウジングに固定的に取り付けられたステータとを備え、前記一次側シャフトから半径方向に見て前記ロータと前記インターロータと前記ステータとは互いに同心円状に配置され、前記ロータと前記ステータとは1つ以上の巻線を用いて設計され、前記インターロータは機械的にも電磁的にも統一体を形成し、少なくとも接線方向の磁束の導体として配置され、制御するステップを含む作動方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点〕
制御するステップに関し、本願発明は、インターロータにおける磁気飽和が、インターロータの磁束曲線上の作用点をインターロータが少し飽和するように変更することによって、減るようにロータ磁束を可変制御するのに対し、引用発明は、この様な特定がない点。


(3)判断
誘導電動機に限らず、一般に電動機に対し、飽和によるトルクの低下等を避けるため、磁束を弱めて弱め界磁制御を行うことは、当審の拒絶の理由で挙げた特開2005-348551号公報(【0029】)、特開2002-325500号公報(【0013】)、特開2001-145797号公報(【0007】)等にもみられるように慣用手段であるから、引用発明においても、モータから構成される電気機械変換器に弱め界磁制御を適用して、インターロータの磁束曲線上の作用点をインターロータが少し飽和するように変更することによって、インターロータにおける磁気飽和が減るようにすることは当業者が適宜採用し得ることと認められる。
なお、請求人は、平成28年4月7日付意見書において、「また引用文献2から4に開示の制御方法を、引用文献1に開示の電気機械変換器に適用したとしても、引用文献2から4には、弱い飽和領域においてロータ磁束を提供する技術については何ら言及されておらず、単に磁気飽和を防ぐ技術が開示されているのみであるから、本願発明に想到することはない。むしろ、上記の通りに適用することによって、ロータとステータとの間に直接トルクを加えることができるというEVTの重要な利点が失われることになる。」と主張するが、そもそも請求項1には、「飽和領域を用いること」が記載されておらず、また、例えば前記特開2005-348551号公報図4では、弱め界磁制御において、飽和領域を用いる定格励磁電流値を最大値として、様々な励磁電流値を採用することが示されており、当然に請求人が意図する少し飽和するようにする電流値も含まれているとみることができるから、請求人の上記主張は採用できない。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


6.むすび
したがって、請求項1、9、10の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1、3、7、8、9、10の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。また、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、本願を拒絶すべきであるとした原査定は維持すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-13 
結審通知日 2016-06-14 
審決日 2016-06-27 
出願番号 特願2010-539332(P2010-539332)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02K)
P 1 8・ 537- WZ (H02K)
P 1 8・ 536- WZ (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松永 謙一  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 堀川 一郎
中川 真一
発明の名称 電気機械変換器の作動方法、コントローラ、およびコンピュータプログラム  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  

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