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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1321587 |
審判番号 | 不服2015-7701 |
総通号数 | 205 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-01-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-04-24 |
確定日 | 2016-11-09 |
事件の表示 | 特願2010-548077「活性成分の組み合わせおよびその使用」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月 3日国際公開、WO2009/106468、平成23年 4月28日国内公表、特表2011-513267〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2009年2月18日(パリ条約による優先権主張 2008年2月28日 ドイツ)を国際出願日とする出願であって、 平成25年11月21日付けで拒絶理由通知が通知され、平成26年5月20日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年4月24日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1?3に係る発明は、平成26年5月20日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載されたとおりのものであり、その請求項1に係る発明は、以下のとおりである。 「以下を含む活性成分の組み合わせ: a)8?30重量%の1-(2-エチルヘキシル)グリセロールエーテルと、 b)0.8?3.0重量%のオクテニジンジヒドロクロリドと、 c)40?88重量%の1,2-プロピレングリコールと、 d)0.003?0.02重量%のビタミンE であって、 成分a)、b)およびc)の和と成分c)との重量比は1:4?1:5である。」 ここで、請求項1の「成分a)、b)およびc)の和と成分c)との重量比は1:4?1:5である。」との記載について検討する。 ア 一般的な比の値の表記の仕方では、「AとBとの比」とは「A:B」を表すから、一般的な表記の仕方に従えば、請求項1の上記記載は、 [成分a)、b)およびc)の重量の和]:[成分c)の重量]=1:4?1:5 であることを意味すると解される。 しかしながら、成分a)、b)およびc)の重量の和を1とした場合に、成分c)のみの重量(当然こちらの方が少ない)の割合が4?5というのは、理論的におかしい。 イ そこで、仮に、比の値の表記が、上記アとは逆(分母と分子が逆)である、 すなわち、 [成分c)の重量]:[成分a)、b)およびc)の重量の和]=1:4?1:5 であることを意味すると解しても、以下に示すとおり、そのような比の値となることは理論的にあり得ない。 例えば、1:4である場合は、成分a)、b)およびc)の重量をそれぞれ、a、b、cとすると、c:a+b+c=1:4、すなわち、a+b+c=4c、a+b=3cとなり、a、b、cが、請求項1で規定される成分a)、b)およびc)の重量%の数値範囲の値をとる限り、a+b=3cは成り立たない。 ウ そうすると、上記ア、イの何れの場合であっても、請求項1において「成分a)、b)およびc)の和と成分c)との重量比は1:4?1:5である。」との記載は、意味のある記載とは認められない。 エ また、上記記載は、平成26年5月20日付け手続補正で請求項1の記載に加入されたものであるが、同日付け意見書でその補正の根拠とされた本願明細書の【0031】の記載は以下のとおりであり、請求項1の記載と変わるところはない。 「【0031】 本発明による組み合わせの好ましい実施形態において、成分a)、b)およびc)の和と成分c)との重量比は10:1?1:20であり、例えば、5:1?1:15、1:1?1:10、1:2?1:8または1:3?1:6である。特に好ましい実施形態において、前記重量比は約1:4?1:5である。」 オ その他、本願明細書全体をみても、上記重量比についての更なる説明は見当たらないので、本願明細書(翻訳文)の記載を見る限り、依然として上記記載は意味あるものとは認められない。 カ そこで、本願の国際特許出願の明細書(国際公開第2009/106468号)をみると、本願明細書【0031】(上記エ)に対応する10頁6?11行の記載は、次のとおりである。 「In a preferred embodiment of the combination according to the invention, the weight ratio of the sum of components a), b) and d) to component c) is 10:1 to 1:20, such as 5:1 to 1:15, 1:1 to 1:10, 1:2 to 1:8 or 1:3 to 1:6. In a particularly preferred embodiment, the weight ratio is about 1:4 to 1:5.」 上記原文に従えば、本願明細書【0031】の「成分a)、b)およびc)の和と成分c)との重量比」の箇所は、「成分a)、b)およびd)の和と成分c)との重量比」の誤訳であると解される。 キ したがって、請求項1に係る発明は、 「以下を含む活性成分の組み合わせ: a)8?30重量%の1-(2-エチルヘキシル)グリセロールエーテルと、 b)0.8?3.0重量%のオクテニジンジヒドロクロリドと、 c)40?88重量%の1,2-プロピレングリコールと、 d)0.003?0.02重量%のビタミンE であって、 成分a)、b)およびd)の和と成分c)との重量比は1:4?1:5である。」(以下、「本願発明」という。)にあるものと認める。 第3 刊行物の記載事項と引用発明 1 原審における拒絶の理由に引用文献2として引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2006-213708号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。 (1ア)「【請求項1】 消毒用組成物であって、 a)1以上の1-または2-(C_(1) からC_(24)アルキル)グリセロールエーテル(グリセロールモノアルキルエーテル)、 b)1以上のビスピリジニウムアルカンおよび c)1以上のポリオールおよび/またはc1)ノニオン性界面活性剤およびc2)第4級アンモニウム化合物の群から選択される1以上の界面活性剤 を含む組成物。 …… 【請求項3】 前記グリセロールモノアルキルエーテルが1-(2-エチルヘキシル)グリセロールエーテルであることを特徴とする請求項1または2記載の組成物。 …… 【請求項7】 前記ビスピリジニウムアルカンがオクテニジンジヒドロクロリドであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項記載の組成物。 …… 【請求項10】 前記ポリオールが1,2-プロピレングリコール、グリセロール、エリスリトール、1,2,6-ヘキサントリオール、イノシトール、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、メチルプロパンジオール、フィタントリオール、ポリグリセロール、ソルビトールおよびキシリトールから選択され、好ましくはグリセロールであることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項記載の組成物。」 (1イ)「【0040】 この最後に言及される態様において、成分c)の存在は、任意である。好ましいグリセロールモノアルキルエーテル、ビスピリジニウムアルカンなどに関する上記注意およびそれぞれの場合に用いられる量は対応して適用される。本発明によるそのような組成物について、グリセロールモノメンチルエーテルの水溶性はビスピリジニウムアルカン(特にオクテニジンジヒドロクロリド)の添加により有意に向上する。本発明によるそのような組成物は、衛生的な手の消毒または消毒目的の手の洗浄のために、皮膚の消毒剤、防腐剤、外傷の消毒剤、消臭剤または口腔の衛生用製品として用いられ得る。」 (1ウ)「【0050】 例 以下の組成物が配合された(重量%の比率)。 【表1】 …… 【0052】 組成物の効果を測定するための方法 本発明による組成物の効果を定量的懸濁試験で試験した。化学的消毒方法、J.ゲーベル、H.P.ベルナー、A.キルシュ-アルテナ、K.バンセミール、mhp ファーラックGmbH、ビースバーデン、ドイツ、方法9.1(日付:2001年9月1日)(細菌(マイコバクテリアは別である)および真菌についての定量的懸濁試験)を試験するためのDGHMの標準方法を比較する。 【0053】 効果試験 【表3】 」 上記(1ア)によれば、刊行物1は、消毒用組成物に関するものであり、請求項1を引用するものである請求項7において、請求項3を引用する場合を書き下すと、 「 消毒用組成物であって、 a)1-(2-エチルヘキシル)グリセロールエーテル、 b)オクテニジンジヒドロクロリドおよび c)1以上のポリオールおよび/またはc1)ノニオン性界面活性剤およびc2)第4級アンモニウム化合物の群から選択される1以上の界面活性剤を含む組成物。」となる。 そして、請求項10には、c)成分のポリオールとして、1,2-プロピレングリコールを選択することが記載されている。 してみると、刊行物1には、 「 消毒用組成物であって、 a)1-(2-エチルヘキシル)グリセロールエーテル、 b)オクテニジンジヒドロクロリドおよび c)1,2-プロピレングリコールおよび/またはc1)ノニオン性界面活性剤およびc2)第4級アンモニウム化合物の群から選択される1以上の界面活性剤を含む組成物。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 2 同じく、原審における拒絶の理由に引用文献4として引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である、特表2003-535116号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。 (2ア)「【請求項11】 以下に記載したa)およびb)を含むことを特徴とする濃縮物。 a)99.5重量%から99.95重量%までの3-[(2-エチルヘキシル)オキシ]-1,2-プロパンジオール。 b)ビタミンEおよびその誘導体、3-ターシャリー-ブチル-4-ヒドロキシアニソールおよび2,6-ジ-ターシャリー-ブチル-p-クレゾール、好ましくはビタミンEおよびビタミンEアセテート、およびそれらの混合物から選択されている0.05重量%から0.5重量%までの酸化防止剤。 …… 【請求項16】 組成物、特に濃縮物または使用液の使用方法であって、請求項1ないし15のいずれか記載の化粧品及び/又は医薬品中での組成物の使用方法。」 (2イ)「【0010】 【発明が解決しようとする課題】 我々はここで貯蔵安定性、特に長期にわたる貯蔵安定性(数ヶ月から数年を越える)は、グリセロールモノアルキルエーテルを含む製剤の過酸化物含有量に関しては、不満足であることを発見した。すなわち、例えば化粧品製造業者はグリセロールモノアルキルエーテルと配合成分との間の不適合、または最終製品の質的変化が確立してしまうことに不満をもつ。このような質的損失の原因は特に過酸化物の形成によるものである。過酸化物は時間および貯蔵に依存して製剤中に発生する。貯蔵製剤中の過酸化物含有量は比較的大きく変動し、予測できない(過酸化物価(peroxide number)のカオス的展開、実施例1表1中の実験AおよびA(Alu)参照)。さらに低分子量の望まれない分解産物の出現が化学分析によって検出される。」 (2ウ)「【0020】 【課題を解決するための手段】 従って、本発明の目的は1以上のグリセロールモノアルキルエーテルを含む組成物を提供するにあたり、本発明はこれらの組成物のために貯蔵安定性、特に長期間にわたる貯蔵安定性を有するようになり、実際条件の下で貯蔵可能で安定している組成物を提供することである。好ましくは、上記不利益は60ヶ月までの間生じるべきではない。せめて12ヶ月から36ヶ月、例えば12ヶ月または24ヶ月までの貯蔵期間に生じるべきではない。本発明の更なる目的はグリセロールモノアルキルエーテルの長期安定性のために使用できる安定剤を提供することである。このような安定剤は、低混合率でグリセロールモノアルキルエーテル、またはグリセロールモノアルキルエーテルを含む製剤に加えたものであり、特に高い過酸化物価であってもこれらの製剤が分解することを防止する。 【0021】 これらの目的は本発明によって達成される。請求項1によれば、安定組成物は以下の組合せを含むという点で特徴をもつ。 【0022】 a)1以上のグリセロールモノアルキルエーテルを含む。この一般的化学式は、 R-O-CH_(2)-CHOH-CH_(2)OH 化学式中のRは枝分れしたまたは枝分れしていないC_(3)からC_(18)までのアルキル基であり、この部位でこのアルキル基を1以上のヒドロキシル基及び/又はC1からC4までのアルコキシル基によって置換することができ、及び/又は、アルキル鎖に4つまでの酸素原子を割り込ませることができる。 【0023】 b)安定剤としての1つの酸化防止剤、又は2以上の酸化防止剤を含む。」 3 同じく、原審における拒絶の理由に引用文献5として引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2004-315537号公報(以下、「刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。 (3ア)「【0001】 本発明は、熱化学的殺菌のための1-(2-エチルヘキシル)グリセリンエーテルを含有する組成物の使用に関する。」 (3イ)「【0024】 本発明は、器具および熱不安定性材料のような物品の表面の熱化学的殺菌のための組成物を提供することを目的とする。この組成物は、上に述べた要件を満たし、先行技術の不利点を回避するものである。本目的は、特に(機械的)熱化学的殺菌方法のために、 (1)物品の表面として病院部門で使用され、また室温以上で殺菌されなければならない材料を腐食せず、または無視し得る程度しか腐食せず、および (2)人の皮膚と接触した際に、刺激または脱脂効果を有さない(つまり、エタノールまたはイソプロパノールのような低級アルコールの高い含有量を有する必要がない) 組成物を提供するものである。」 (3ウ)「【0039】 濃縮物は通常液体であるが、適切な方法により、ペースト状または固体濃縮物を製造することが可能である。本発明の一つの態様において、使用される混合物は、液体濃縮物の形態で使用され、水で希釈されて使用のための水溶液とされる。このような組成物は、例えば(a)1?20重量%、例えば2?10重量%の1-(2-エチルヘキシル)グリセリンエーテル、および適切ならば、40重量%までの水を含む。当業者は、適切な水希釈性濃縮物を、溶媒(プロピレングリコールのようなグリコール)、可溶化剤、酸、アルカリ化剤または表面活性剤のような適切な助剤の補助により配合することができる。好ましい濃縮物は、無水である。」 (3エ)「【0045】 …… さらに、1-(2-エチルヘキシル)グリセリンエーテルは、次のさらなる利点を有する。 【0046】 (1)前記物質は、使用に際して低濃度が必要なため、使用に対して経済的である。 …… 【0049】 (4)前記物質は、極少量(500ppm)のビタミンEを加えることにより安定化が可能であり、よって貯蔵に安定で、毒物学的に有害な、臭気または材料の損傷を通して認知できる分解生成物(ホルムアルデヒド、過酸化物、2-エチルヘキサノール)を全く含有しない、または生成しない。 …… 【0056】 (5)1-(2-エチルヘキシル)グリセリンエーテルは、多数のさらなる薬剤および助剤と広い範囲において混和性があり、相容性がある。」 4 注記: ここで、上記(1ア)の「1-(2-エチルヘキシル)グリセロールエーテル」、(2ア)の「3-[(2-エチルヘキシル)オキシ]-1,2-プロパンジオール」、及び(3ア)の「1-(2-エチルヘキシル)グリセリンエーテル」は、すべて、下記式で示される同一の化合物の別称である。 以下、この化合物を、本願発明の表記と一致する上記(1ア)の「1-(2-エチルヘキシル)グリセロールエーテル」に統一して表記する。 第4 対比 1 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の成分a)?c)は、それぞれ本願発明の成分a)?c)に相当することは明らかであり、引用発明の消毒用組成物も本願発明の「活性成分の組合せ」も、どちらも組成物である点は共通する。 また、引用発明は「c)1,2-プロピレングリコールおよび/またはc1)ノニオン性界面活性剤およびc2)第4級アンモニウム化合物の群から選択される1以上の界面活性剤」と特定されるので、「または」を選択した場合には、「c1)ノニオン性界面活性剤およびc2)第4級アンモニウム化合物の群から選択される1以上の界面活性剤」は必須の構成成分ではない。 そうすると、両者は、 「以下を含む組成物: a)1-(2-エチルヘキシル)グリセロールエーテルと、 b)オクテニジンジヒドロクロリドと、 c)1,2-プロピレングリコール。」の発明である点で一致し、 次の点で相違する。 <相違点1> 本願発明は「活性成分の組合せ」であるのに対して、引用発明は「消毒用組成物」である点。 <相違点2> 本願発明はd)成分としてビタミンEを含むのに対して、引用発明は含まない点。 <相違点3> 引用発明は、任意成分としてではあるが、c)成分の1,2-プロピレングリコールと共に、「c1)ノニオン性界面活性剤およびc2)第4級アンモニウム化合物の群から選択される1以上の界面活性剤」を含むのに対して、本願発明は界面活性剤を含むことが特定されていない点。 <相違点4> 本願発明は各成分の配合量(重量%)、及び、「成分a)、b)およびd)の和と成分c)との重量比」が特定されているのに対して、引用発明は特定されていない点。 第5 当審の判断 以下、相違点について検討する。 1 <相違点1>について (1)本願発明における「活性成分の組合せ」について 本願明細書【0011】、【0041】の記載、及び、請求項3に係る製剤の発明との関係からみて、本願発明は濃縮物を意図していることは明らかである。そして、本願発明で規定される成分a)?d)の重量%の値の選択如何によってはその総和が100%を超えることになることから、本願発明の「活性成分の組合せ」とは、活性成分のみからなる組成物(濃縮物)を意図するものとも解釈されうる。 (2)これに対して、刊行物1には濃縮物を希釈して製剤とすることに関する特段の記載はないので、引用発明の消毒用組成物は主にそのまま消毒用の製剤とすることを予定するものと解される。 (3)しかしながら、消毒剤や消臭剤を濃縮物の形態とし、製剤とする際に濃縮物を希釈するような使用形態をとることは、刊行物2の【請求項16】((2ア))や刊行物3の【0039】((3ウ))に記載されるとおり、本願の優先日前における慣用技術である。 (4)してみると、引用発明においても上記慣用技術のように、活性成分のみを主たる成分とする濃縮物の形態とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。 2 <相違点2>について 1-(2-エチルヘキシル)グリセロールエーテル等のグリセロールモノアルキルエーテルを含む組成物を化粧品とする場合に、製剤中の過酸化物の形成により、貯蔵安定性が不満足であるとの課題を解決するために、グリセロールモノアルキルエーテルを含む組成物にビタミンE等の酸化防止剤を含ませることは、刊行物2((2ア)?(2ウ))及び刊行物3((3エ))に記載されるとおり、本願の優先日前に周知の事項である。 してみると、引用発明の消毒用組成物においても製品としてみた場合の貯蔵安定性は当然期すべき性能であるから、刊行物2、3に開示される周知事項に基づき、1-(2-エチルヘキシル)グリセロールエーテルを含む引用発明の組成物に対して酸化防止剤としてのビタミンEを含ませることは、当業者の容易に想到することである。 そして、ビタミンEを配合したことによる貯蔵安定性の向上効果は当業者であれば自明のことである。 3 <相違点3>について 本願明細書の【0041】、【0042】には、「前記製剤は、典型的に、……例えば約0.1重量%の濃縮物として存在する前記組み合わせ、および任意に、1以上の活性成分、補助剤および/または添加剤を含む。」「使用できる任意の活性成分、補助剤および/または添加剤は、以下に示すものが好ましい:……陰イオン性、両性、陽イオン性および非イオン性の界面活性剤、……または化粧品製剤の他の通常の成分。」と記載され、【0054】、【0055】には、シャンプー等のヘアケア組成物としての用途についてであるが、組成物に含ませる洗浄用界面活性剤の例として、「陽イオン性界面活性剤(例えば、C8-C20-アルキルトリメチルアンモニウム塩、……ジアルキルジメチルアンモニウム塩等)」が挙げられている。 本願明細書の上記記載によれば、本願発明は、製剤とする際には、任意の活性成分、補助剤および/または添加剤として、非イオン(ノニオン)性界面活性剤や第4級アンモニウム化合物からなる界面活性剤を含む態様を包含しているといえる。 そうすると、<相違点3>は、実質的な相違点ではない。 4 <相違点4>について (1) 組成物において、活性成分をどの程度の配合量とすべきかは、組成物の使用目的(用途)や使用態様に応じて、当業者が適宜設定しうるものであり、種々実験検討して作用効果を確認することにより各活性成分の最適な配合量の範囲を導き出すことは、当業者が通常行うことである。 そうであるところ、刊行物1((1ウ))の例(【0050】)には、所定の配合(重量%)の組成物(【表1】)の抗微生物効果を試験した結果(【表3】)が記載されている。そして、引用発明の消毒組成物は「衛生的な手の消毒または消毒目的の手の洗浄のために、皮膚の消毒剤、防腐剤、外傷の消毒剤、消臭剤または口腔の衛生用製品として用いられ得る」(刊行物1の(1イ))ものであるから、例えば、消臭剤としての用途に向け、引用発明の各成分の最適な配合量の範囲を導き出すことは、当業者は通常行う創作活動に過ぎない。 (2) 一方、本願発明において、成分a)?d)の配合量(重量%)の数値範囲や「成分a)、b)およびd)の和と成分c)との重量比」が限定される理由、すなわち、各成分の配合量の数値範囲や重量比の値のもつ技術的意義について、本願明細書の記載をみると、以下の記載がある。 ア 「【0014】 成分a)の含量は、一般的に、活性成分の組み合わせに基づいて、1?50重量%の範囲であり、例えば、2?45重量%、4?40重量%、6?35重量%、8?30重量%、10?25重量%、12?20重量%、14?18重量%、例えば約16重量%である。」 イ 「【0018】 好ましい実施形態において、成分b)の含量は、活性成分の組み合わせに基づいて、0.2?15重量%の範囲であり、例えば、0.4?4重量%、0.6?3.5重量%、0.8?3.0重量%、1.0?2.5重量%、1.2?2.0重量%、1.4?1.8重量%、例えば約1.6重量%である。」 ウ 「【0022】 好ましい実施形態において、成分c)の含量は、活性成分の組み合わせに基づいて、1.5?95重量%の範囲であり、例えば、5?95重量%、10?91重量%、20?90重量%、30?89重量%、40?88重量%、50?87重量%、60?86重量%、70?85重量%、80?84重量%、例えば約82?83重量%である。」 エ 「【0026】 ここで、酸化防止剤の特に好ましい量は、本発明による活性成分の組み合わせに基づいて、0.0005?1重量%であり、例えば、0.001?0.5重量%、0.002?0.05重量%、0.003?0.02重量%、0.004?0.015重量%または0.005?0.01重量%、例えば約0.008重量%である。」 オ 「【0027】 本発明によると、以下を含んでなる濃縮物の形態の組み合わせが特に好ましい: a)8?30重量%、例えば14?18重量%、例えば約16重量%のグリセロールモノアルキルエーテル(例えば1-(2-エチルヘキシル)グリセロールエーテル)と、 b)0.8?3.0重量%、例えば1.4?1.8重量%、例えば約1.6重量%のビスピリジニウムアルカン(例えばオクテニジンジヒドロクロリド)と、 c)40?88重量%、例えば70?85重量%、例えば約82.5重量%のポリオール(例えば1,2-プロピレングリコール)と、 d)0.003?0.02重量%、例えば0.006?0.010重量%、例えば約0.008重量%の酸化防止剤(例えばビタミンE)。」 カ 上記「第2 エ【0031】」に同じ ただし、「成分a)、b)およびc)の和と成分c)との重量比」は「成分a)、b)およびd)の和と成分c)との重量比」の誤訳と認める。 キ 「【0045】 本発明によると、以下を含んでなる製剤が特に好ましい: a)0.008?0.03重量%、例えば0.014?0.018重量%、例えば約0.016重量%のグリセロールモノアルキルエーテル(例えば1-(2-エチルヘキシル)グリセロールエーテル)と、 b)0.0008?0.003重量%、例えば0.0014?0.0018重量%、例えば約0.0016重量%のビスピリジニウムアルカン(例えばオクテニジンジヒドロクロリド)と、 c)0.04?0.15重量%、例えば0.07?0.085重量%、例えば約0.0825重量%のポリオール(例えば1,2-プロピレングリコール)と、 d)30?200ppb、例えば60?100ppb、例えば約80ppbの酸化防止剤(例えばビタミンE)。」 ク 「【0061】 例えば、0.1重量%の上述した特に好ましい濃縮物(単に、0.016重量%のグリセロールエーテル(例えば1-(2-エチルへキシル)グリセロールエーテル)、0.0016重量%のビスピリジニウムアルカン(例えばオクテニジンジヒドロクロリド)、0.0825重量%のポリオール(例えば1,2-プロピレングリコール)および約80ppmの酸化防止剤(例えばビタミンE)に対応する)を使用した場合、0.1重量%のトリクロサンに匹敵する消臭活性成分としての効果が達成される。このことは、DE 42 40 674 C1の消臭製剤においては多量の活性成分が義務的に規定されているという観点から、驚くべきことである(0.9重量%のグリセロールモノアルキルエーテル、0.1重量%のビスピリジニウムアルカンおよび1重量%の1,2-プロピレングリコール)。本発明による組み合わせの提供により、望ましくない塩素を含有するトリクロサンに匹敵する消臭活性成分が濃縮物として入手可能になることは、DE 42 40 674 C1からは推測できない。」 ここで、【0061】では「約80ppmの酸化防止剤(例えばビタミンE)」と記載されるが、上記キの【0045】の「例えば約80ppbの酸化防止剤(例えばビタミンE)。」との対応関係からみて、【0061】の「約80ppmの酸化防止剤(例えばビタミンE)」は「約80ppbの酸化防止剤(例えばビタミンE)」の誤記と解される。 (3) 上記ア?エの記載は、成分a)?d)の配合量(重量%)の好ましい数値範囲を単に列記したに過ぎず、その数値範囲とする具体的な理由や、その数値範囲を外れた場合の説明は一切ない。 (4) 上記オは本願発明に係る請求項1の成分a)?d)の配合量についての記載に対応する記載であって、ここにも、その数値範囲とする具体的な理由や、その数値範囲を外れた場合を説明する記載はない。 (5) 上記「第2 エ、オ」でも述べたとおり、本願明細書において「成分a)、b)およびd)の和と成分c)との重量比」(以下、単に「重量比」ということがある。)に関する記載があるのは上記カのみであるが、そもそも、上記カでは、「重量比」を特定する技術的意義について何等説明されていない。 そこで、本願明細書の記載から把握できる「重量比」の技術的意義について検討すると、本願発明の成分中、成分c)の配合量が最も多いこと、及び、【0021】の「ポリオールは、(液体)キャリア、低温安定剤、溶媒、溶解促進剤、結晶化阻害剤、湿潤剤(皮膚湿潤剤としての効果は、グリセロールエーテルの存在下で付加的に増強される)として作用する。」なる記載からみて、「重量比」は、ポリオールの液体キャリアまたは溶媒としての機能に着目して、他の成分(成分a)、b)、d))に対する溶媒としての成分c)の割合を特定したものともいえる。 しかしながら、液体状の組成物を製造するにあたり、配合量の多い成分あるいは液体キャリアまたは溶媒としての機能を果たす成分に着目し、他の成分との相溶性等を検討することは、当業者が通常行う常套手段である。 そして、上記カによれば、「重量比は10:1?1:20」であれば本願発明の活性成分の組合せにかかる組成物を調製することが可能なのであるから、「重要比」を限定すべき特段の事情(相溶性に問題がある等)は認められない。 しかも、「重量比」を1:4?1:5と特定する具体的な理由や、「重量比」がその範囲を外れた場合の説明もない。 してみると、本願明細書の記載から把握される「重要比」を特定する技術的意義は、当業者が通常行う常套手段の域を出るものとはいえない。 (6) 上記キは、製剤とする場合に、濃縮物の態様である本願発明を製剤中に0.1重量%存在させた場合の各成分の濃度範囲を示すもの、すなわち、各成分の濃度範囲の数値がすべて上記オの1/1000となっているもの、に過ぎない。 (7) そして、上記クには、本願発明の各成分の具体的な配合量の数値が示された唯一の処方例が記載されているが、当該記載は、「(その処方で)使用した場合、0.1重量%のトリクロサンに匹敵する消臭活性成分としての効果が達成される」こと、「DE 42 40 674 C1の消臭製剤においては多量の活性成分が義務的に規定されているという観点から、驚くべきこと」であり、「DE 42 40 674 C1からは推測できない」こと、すなわち、トリクロサンのような塩素を含有せずに、低濃度でトリクロサンと同等の消臭効果を奏することが示されているだけで、その唯一の処方例についての記載が、本願発明の各成分の配合量の数値範囲や、「重量比」の値の範囲のもつ技術的意味を説明するものとはいえない。 (8) また、上記「1 <相違点1>について」で検討したとおり、本願発明は濃縮物の態様であり、消臭製剤とする場合は、その濃縮物を製剤中に例えば0.1重量%存在させる(すなわち、水や他の添加物により希釈される)ような使い方をするものであることから、濃縮物を製剤中に何%存在させるか(すなわち、どの程度の希釈割合とするか)に応じて、実際の製剤中で各成分の配合量(重量%)は変動するものといえる。 そうすると、各成分の配合比は重要であるとしても、配合量(重量%)の数値自体は、製剤とする際の希釈度合いで変動するものであって、格別な意味をもつものとはいえない。 (9) 上記(2)?(8)のとおり、本願明細書の記載からは、<相違点4>にかかる、本願発明の成分a)?d)の配合量(重量%)の数値範囲、及び、「重量比」の特定は、当業者が通常行う、消臭効果等を奏するための最適な配合量、及び、「重量比」を選定したに過ぎないものであり、その数値範囲自体に臨界的意義があるものとは認められない。 5 本願発明の効果について ビタミンEの配合による貯蔵安定性の向上(過酸化物や分解産物の生成の抑制)は刊行物2及び刊行物3に、1-(2-エチルヘキシル)グリセロールエーテルは使用に際して低濃度でよいため経済的であること、及び、エタノール、イソプロパノールのような低級アルコール(VOCに該当)を高含有量で含ませる必要がないことは刊行物3の【0046】及び【0024】((3エ)、(3イ))に、また、個々の成分が相溶性があり溶解性が高まることは刊行物3の【0056】((3エ))に、それぞれ記載ないし示唆されるとおり、何れも本願の優先日前知られており、本願明細書記載の本願発明の奏する効果は、引用発明及び刊行物2、3に開示される周知事項から予測し得る範囲内のものである。 第6 まとめ 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び刊行物1ないし3に記載された事項から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-06-14 |
結審通知日 | 2016-06-21 |
審決日 | 2016-06-28 |
出願番号 | 特願2010-548077(P2010-548077) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 今村 明子 |
特許庁審判長 |
松浦 新司 |
特許庁審判官 |
関 美祝 小川 慶子 |
発明の名称 | 活性成分の組み合わせおよびその使用 |
代理人 | 蔵田 昌俊 |