• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1321623
審判番号 不服2015-12249  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-29 
確定日 2016-11-29 
事件の表示 特願2013-551872「半導体装置および半導体装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月 4日国際公開、WO2013/100155、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成24年12月28日を国際出願日とする出願(国内優先権主張 平成23年12月28日)であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成26年 6月11日 審査請求・手続補正
平成26年12月26日 拒絶理由通知
平成27年 3月 9日 意見書・手続補正
平成27年 3月26日 拒絶査定(以下,「原査定」という)
平成27年 6月29日 審判請求・手続補正
平成28年 8月 8日 拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由」という)
平成28年10月11日 意見書・手続補正

2 本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明は,平成28年10月11日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものと認められる。
そして,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「半導体基板にプロトン注入によるドナー層を形成する半導体装置の製造方法において,
結晶欠陥を発生させる結晶欠陥形成工程と,
前記プロトン注入および第1熱処理を行い,前記ドナー層を形成するドナー層形成工程と,
を含み,
前記プロトン注入は異なる加速エネルギーで複数回行い,
前記結晶欠陥形成工程では,前記ドナー層形成工程でのドナー生成率が増大するように前記結晶欠陥の量を調節する,
前記結晶欠陥形成工程では,前記プロトン注入の前に,電子線照射により前記結晶欠陥を発生させる,
かつ,前記結晶欠陥形成工程では,前記電子線照射の後,前記プロトン注入の前に,前記結晶欠陥の量を調節するための予備の第2熱処理を行うことを特徴とする半導体装置の製造方法。」

3 原査定の理由の概要
この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1,4-14
・引用文献等1-4
引用文献1には「FZウェハー10にプロトンを照射する際(図8の断面図810参照),アルミアブソーバを用いて飛程がFZウェハー10の裏面(エミッタ電極5が形成されていない面)側から130μmとなるように1回目の照射をおこなった後,アルミアブソーバを用いて飛程が表面から50μmとなるように2回目の照射をおこなう点である。」[0098]と,プロトン注入を異なる飛程で複数回行うことが記載されている。
そして,飛程を異ならせるために,加速エネルギーを異ならせる技術は周知で有り(引用文献4の[0108],[0112]),引用文献1記載の製造方法において,飛程を異ならせるために,プロトン注入を異なる加速エネルギーで複数回行うことは,当業者が容易に想到し得ることと認める。
引用文献2には電子線照射後に300℃で熱処理を行うことでライフタイムキラーを導入すること(第3頁左欄24?31行)が記載されている。また,プロトンのシャロウドナー化のための熱処理が350℃から600℃の範囲であり(第3頁左欄16?20行),プロトン照射後に行う電子線照射に伴う熱処理温度が300℃程度であること(第3頁左欄30?31行)が記載されている。
引用文献3(図2)には,プロトン注入より前に,主面を研削することが記載されている。
<引用文献等一覧>
引用文献1.特開2008-211148号公報
引用文献2.特開平9-232332号公報
引用文献3.特開2009-176892号公報
引用文献4.国際公開第2011/052787号

4 原査定の理由の判断
(1)引用文献1の記載事項
ア 引用文献1
引用文献1には,図面とともに,次の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
この発明は,半導体装置およびその製造方法に関し,特に,高速・低損失であるだけでなく,ソフトなスイッチング特性を兼ね備えたIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)およびその製造方法に関する。」
(イ)「【0013】
ここで,キャリアのライフタイム制御は,N^(-)ドリフト層1801に,熱平衡密度以上のフレンケル欠陥を導入することによっておこなわれる。フレンケル欠陥は,シリコンパワーデバイスにおいては,電子線の照射,ヘリウム原子核(アルファ線)やプロトン原子核などの荷電粒子の照射,半導体中で深い準位を形成する重金属(鉄,金,白金など)の拡散などによって形成することができる。たとえば,図18に示す半導体装置では,重金属の拡散によってフレンケル欠陥を導入している。」
(ウ)「【0076】
(実施の形態2)
実施の形態2では,図1に示す半導体装置の製造方法の変形例について説明する。図8および図9は,図1に示す半導体装置の他の製造プロセスを示す図である。図2に示した製造方法との違いは,フィールドストップ層3をプロトンのドナー化現象を用いて形成した点である。以下,図2に示した製造方法と同様の点については,詳細な説明を省略する。
【0077】
まず,図8の断面図800に示すように,FZウェハー10の一方の主面に,Pベース層2,エミッタ電極5,ゲート絶縁膜6およびゲート電極7からなるMOSゲート構造,N^(+)エミッタ領域8を形成する。つぎに,FZウェハー10の表面側(MOSゲート構造が形成されている側)に,Al-Siを5μmスパッタリングにて成膜し,フォトエッチングしてエミッタ電極5を形成する。
【0078】
つぎに,断面図810に示すように,FZウェハー10に対して裏面側(MOSゲート構造が形成されていない側)からプロトンを照射する。このときのプロトンの加速電圧は,たとえば20MeVであり,プロトンのドーズ量は,たとえば1×10^(12)/cm^(2)である。このとき,アルミアブソーバを用い,その厚さを調節して,プロトンの飛程がFZウェハー10の裏面から130μmとなるようにする。断面図810において,×印は,プロトンの照射によりFZウェハー10内に生じた結晶欠陥12を示す。
【0079】
つぎに,断面図820に示すように,エミッタ電極5の側からFZウェハー10に,電子線を照射する。このとき,電子線の線量は,たとえば40kGyである。この電子線照射によって,FZウェハー10(図1のN^(-)ドリフト層1およびフィールドストップ層3となる領域)にフレンケル欠陥が導入される。その後,断面図830に示すように,FZウェハー10に,たとえば350℃,1時間程度の熱処理をおこなう。この処理によって,フィールドストップ層3が形成される。」
(エ)「【0098】
図12に示す半導体装置は,たとえば,図8および図9に示したプロセスとほぼ同様のプロセスで製造することができる。図8および図9に示したプロセスと異なる点は,FZウェハー10にプロトンを照射する際(図8の断面図810参照),アルミアブソーバを用いて飛程がFZウェハー10の裏面(エミッタ電極5が形成されていない面)側から130μmとなるように1回目の照射をおこなった後,アルミアブソーバを用いて飛程が表面から50μmとなるように2回目の照射をおこなう点である。このときのプロトンの加速電圧は,たとえば9MeVである。
【0099】
2回目のプロトン照射をおこなった段階で,FZウェハー10には,ドナー化したブロードバッファ層を中心にN^(-)ドリフト層1の50%以上の領域でフレンケル欠陥が導入される。この後,図8の説明と同様に,たとえば40kGyの線量で電子線を照射した後に,熱処理をおこなって欠陥を導入する。これにより,実施の形態4にかかる半導体装置の規格化オン電圧は1.04以下となり,ターンオフ損失を低減することができる。なお,2回目のプロトン照射をおこなった段階で熱処理をおこなうことによって欠陥を形成してもよい。」
イ 引用発明1
前記アより,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「半導体装置の製造方法において,FZウェハーに対してプロトンを照射する際,アルミアブソーバを用いて飛程が130μmとなるように1回目の照射を行った後,アルミアブソーバを用いて飛程が表面から50μmとなるように2回目の照射を行い,2回目のプロトン照射を行った段階で,FZウェハーには,ドナー化したブロードバッファ層を中心にフレンケル欠陥が導入され,この後,FZウェハーに電子線を照射し,その後FZウェハーに熱処理を行って欠陥を導入する。」
(2)引用文献2の記載事項
ア 引用文献2
引用文献2には,図面とともに,次の記載がある。
(ア)「【発明の属する技術分野】この発明は,縦型の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)などの半導体装置に関する。」(2頁1欄21-23行)
(イ)「またプロトン照射はソース電極11および層間絶縁膜12を形成した後,表面層全域に行う。この場合,照射量は1×10^(12)cm^(-2)?1×10^(14)cm^(-2)の範囲とし,照射深さは1μm?10μmの範囲とするが,好ましくは数μm程度がよい。照射後350℃から600℃の範囲(好ましくは350℃から450℃の範囲)で熱処理し,プロトンを照射して形成された格子欠陥をシャロウドナー化することで,n- ドレイン領域の表面層に低抵抗層13を形成する。照射量が1×10^(12)cm^(-2)以下で,熱処理温度が350℃以下では軽イオンで形成された格子欠陥がドナー化しない。また熱処理温度が600℃を越えると格子欠陥がアニールされて結晶化される割合が強くなり結果としてドナー化が弱まる。尚,ライフタイムキラー導入のための熱処理温度がプロトン照射後の熱処理温度より高い場合はライフタイムキラーを導入する工程をプロトン照射工程の先に行い,低い場合には後で行う。通常,金や白金によるライフタイムキラー導入はその熱処理温度が800℃程度と高温であるため,プロトン照射の前に行い,電子線照射の場合は熱処理温度が300℃程度であるためプロトン照射の後で行う。」(3頁3欄11-31行)
イ 引用発明2
前記アより,引用文献2には,次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「半導体装置の製造方法において,プロトン照射後に熱処理し,格子欠陥をシャロウドナー化すること。」
(3)引用文献3の記載事項
ア 引用文献3
引用文献3には,図面とともに,次の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
この発明は,高速・低損失であるだけでなく,ソフトリカバリー特性をも兼ね備えたダイオードまたはIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)等の半導体装置およびその製造方法に関する。」
(イ)「【0054】
次に,実施の形態1にかかる半導体装置の製造プロセスについて説明する。ここでは,一例として,図1に例示した寸法およびネットドーピング濃度の半導体装置(耐圧:1200Vクラス,定格電流:75A)を製造する場合について説明する。図2-1?図2-5は,製造プロセスを示す図である。まず,図2-1に示すように,半導体基板として,比抵抗が40?80Ωcm,例えば55Ωcmの,径が6インチのFZウェハ10を用意する。そして,標準的なトレンチゲート型MOSデバイスの形成工程によって,Pベース層4,Nソース層5,ゲート絶縁膜6,ゲート電極7,絶縁膜11およびエミッタ電極8を形成する。また,エミッタ電極8の材料は,例えばアルミニウム(Al)である。
【0055】
次いで,図2-2に示すように,FZウェハ10の裏面に対して研削やウェットエッチングをおこない,FZウェハ10を所定の厚さにする。1200Vクラスの場合,この段階でのFZウェハ10の厚さは,典型的には100?160μmである。実施の形態1では,この段階でのFZウェハ10の厚さは,例えば140μmである。
【0056】
次いで,図2-3に示すように,研削やウェットエッチングがおこなわれた面に対して,プロトン(H^(+))を照射する。その際,加速電圧は,例えば1MeVであり,プロトンのドーズ量は,例えば1×10^(14)atoms/cm^(2)である。このときのプロトンの飛程Rpは,イオン照射面から16μmである。その後,FZウェハ10の裏面にボロンイオン(B^(+)またはBF_(2))をイオン注入する。その際,加速電圧は,例えば50keVであり,ドーズ量は,例えば1×10^(13)atoms/cm^(2)である。」
イ 引用発明3
前記アより,引用文献3には次の発明(以下,「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「半導体装置の製造方法において,FZウェハの研削やウェットエッチングがおこなわれた面に対して,プロトン(H^(+))を照射する。」
(4)引用文献4の記載事項
ア 引用文献4
引用文献4には,図面とともに,次の記載がある。
(ア)「技術分野
【0001】この発明は,高速・低損失であるだけでなく,ソフトリカバリー特性をも兼ね備えたダイオードまたはIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)等の半導体装置および半導体装置の製造方法に関する。」
(イ)「【0108】次いで,FZウエハ10の他方の主面側(後にコレクタ電極25を形成する側)の表面から,サイクロトロンにより加速されたプロトンH^(+)11を照射する(図9(c))。その際,サイクロトロンの加速電圧は,例えば,7.9MeVであり,プロトンH^(+)11のドーズ量は,1.0×10^(14)atoms/cm^(2)である。また,アルミアブソーバーを用い,その厚さを調整して,シリコン基板表面から90μmとなるようにする。FZウエハ10の厚さが例えば500μmの場合は,プロトンH^(+)11の飛程が410μmになるよう調整する。この飛程は,静電加速器を用いて,加速電圧にて飛程調整を実施しても良く,この場合の加速電圧は7.5MeVである。図9(c)において,プロトンH^(+)11の照射によりFZウエハ10内に生じた結晶欠陥13を×印で示す。」
イ 引用発明4
前記アより,引用文献4には次の発明(以下,「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
「半導体装置の製造方法において,FZウエハの表面からプロトンを照射する際に,加速電圧にて飛程調整を実施する。」
(5)本願発明と引用発明1との対比
ア 引用発明1の「半導体装置の製造方法」は,「FZウェハーに対してプロトンを照射」し,「プロトンのドナー化を行う」から,下記相違点を除いて,本願発明の「半導体基板にプロトン注入によるドナー層を形成する半導体装置の製造方法」に相当すると認められる。
イ 引用発明1の「FZウェハーに電子線を照射し,その後FZウェハーに熱処理」を行うことは,「欠陥を導入する」ものであるから,下記相違点を除いて,本願発明の「結晶欠陥を発生させる結晶欠陥形成工程」に相当すると認められる。
ウ 引用発明1の「熱処理」は,フィールドストップ層が形成されるもの(前記(1)ア(ウ)【0079】)であり,フィールドストップ層はプロトンのドナー化現象を用いて形成される(前記(1)ア(ウ)【0076】)から,「プロトンの照射」と相まってドナー層を形成すると認められるから,引用発明1の「プロトンを照射」及び「熱処理」は,本願発明の「前記プロトン注入および第1熱処理を行い,前記ドナー層を形成するドナー層形成工程」に相当すると認められる。
エ すると,本願発明と引用発明1とは,下記(ア)の点で一致するが,下記(イ)の点で相違すると認められる。
(ア)一致点
「半導体基板にプロトン注入によるドナー層を形成する半導体装置の製造方法において,
結晶欠陥を発生させる結晶欠陥形成工程と,
前記プロトン注入および第1熱処理を行い,前記ドナー層を形成するドナー層形成工程と,
を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。」
(イ)相違点
a 相違点1
本願発明は「前記プロトン注入は異なる加速エネルギーで複数回行」うのに対し,引用発明1は,「アルミアブソーバを用いて飛程が130μmとなるように1回目の照射を行った後,アルミアブソーバを用いて飛程が表面から50μmとなるように2回目の照射を行」うもので,「異なる加速エネルギーで」行うものではない点。
b 相違点2
本願発明においては,「前記結晶欠陥形成工程では,前記ドナー層形成工程でのドナー生成率が増大するように前記結晶欠陥の量を調節する,前記結晶欠陥形成工程では,前記プロトン注入の前に,電子線照射により前記結晶欠陥を発生させる,かつ,前記結晶欠陥形成工程では,前記電子線照射の後,前記プロトン注入の前に,前記結晶欠陥の量を調節するための予備の第2熱処理を行う」のに対し,引用発明1においては,プロトン照射の後に電子線を照射するものであり,「電子線照射の後,前記プロトン注入の前に」,前記結晶欠陥の量を調節するための予備の第2熱処理を行う余地はなく,「結晶欠陥形成工程では,前記ドナー層形成工程でのドナー生成率が増大するように前記結晶欠陥の量を調節する」ことも開示されていない点。
(6)相違点についての判断
相違点2について検討する。
「電子線照射の後,プロトン注入」を行うことは,引用文献1ないし4に記載も示唆もない。
引用文献1においてはプロトン照射によりフレンケル欠陥が生じることが記載されており(前記(1)ア(イ)),これを前提とした上でプロトン照射の後に電子線を照射するものである(前記(1)ア(ウ)【0078】,【0079】)から,この2つの工程の順序を入れ替えれば,欠陥生成について前提条件が変わってしまうことは明らかである。してみると,そのような入れ替えは想定されていないというべきであり,相違点2に係る構成を採用することには,阻害要因がある。
(7)小括
したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本願発明は,引用発明1ないし4に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(8)請求項2ないし10について
本願の請求項2ないし10に係る発明は,本願発明の発明特定事項をすべて含みさらに別の発明特定事項を付加したものに相当するから,本願発明が前記(7)のとおり,引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない以上,請求項2ないし10に係る発明も同様の理由で,引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(9)まとめ
よって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。

5 当審拒絶理由の概要
(1)当審拒絶理由1
本願発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (以下,「当審拒絶理由1」という。)
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
引 用 文 献 等 一 覧
引用文献A 特開2011-159654号公報
引用文献1 特開2008-211148号公報
引用文献4 国際公開第2011/052787号
・備考
本願発明と引用文献A(段落0013-0015参照)に記載された発明(以下,「引用発明A」という。)とを対比する。引用発明Aの「ライフタイム調整のために電子線照射を40kGy照射する」工程は,本願発明の「結晶欠陥形成工程」に相当する。そして,引用発明Aにおいては,電子線照射した後に水素イオン(「プロトン」)を注入するから,そこでドナー生成が増大していると認められ,引用発明Aにおいて電子線照射の照射量を40kGyに設定していることは,ドナー生成が増大した上で最終的に適切な大きさのドナー領域が形成されるために設定されているのであるから,本願発明の「前記ドナー層形成工程でのドナー生成率が増大するように前記結晶欠陥の量を調節する」ことに相当すると認められる。
すると,本願発明と引用発明Aとを対比すると,本願発明では,「前記プロトン注入は異なる加速エネルギーで複数回行」うのに対し,引用発明Aでは水素イオンの注入を異なる加速エネルギーで複数回行うことは開示されていない点で相違すると認められる。
そこで,前記相違点について検討する。引用文献1(段落0098)には,半導体装置の製造方法において,プロトンを照射する際に,アルミアブソーバを用いて異なる飛程で複数回照射することが記載されており,引用発明Aにおいて,所望のドーピングプロファイルを得るために,引用文献1に記載された発明を採用することは,当業者が容易になし得ることである。その際に,引用文献4([0108])に記載されているように,飛程を加速電圧で調整することは周知技術であるから,アルミアブソーバを用いる代わりに加速電圧を異ならしめることにより,前記複数回の照射を実現することは当業者が容易になし得る設計変更である。
(2)当審拒絶理由2
この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (以下,「当審拒絶理由2」という。)

本願発明の課題は「結晶欠陥量を適正にしてドナー生成率を上げ,電気的特性を向上させる」ところにあり(本願明細書段落0011-0012),この解決手段として,本願明細書段落0028には,「電子線照射11後に,結晶欠陥12の量を調整するための予備加熱(第2熱処理)」を行うことが記載されている。
しかし,本願発明の解決手段である「ドナー生成率を上げるように,電子線照射後に,予備加熱すること」が請求項1に反映されていない。
請求項1を引用して記載した請求項2ないし13についても同様である。
(3)当審拒絶理由3
この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 (以下,「当審拒絶理由3」という。)

・請求項13について
請求項13は,「半導体装置」という物の発明であるが,「請求項1?12のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法」との記載は,製造方法の発明を引用する場合に該当するため,当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。
ここで,物の発明に係る特許請求の範囲にその物を製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号,平成24年(受)第2658号)。
しかしながら,本願明細書等には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく,当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるとも言えない。
したがって,請求項13に係る発明は明確でない。

6 当審拒絶理由の判断
(1)本件補正について
平成28年10月11日付け手続補正書によって,本願の特許請求の範囲は次のように補正(以下,「本件補正」という。)された。(下線は補正個所を示すものとして,当審で付加した。)
「【請求項1】
半導体基板にプロトン注入によるドナー層を形成する半導体装置の製造方法において,
結晶欠陥を発生させる結晶欠陥形成工程と,
前記プロトン注入および第1熱処理を行い,前記ドナー層を形成するドナー層形成工程と,
を含み,
前記プロトン注入は異なる加速エネルギーで複数回行い,
前記結晶欠陥形成工程では,前記ドナー層形成工程でのドナー生成率が増大するように前記結晶欠陥の量を調節する,
前記結晶欠陥形成工程では,前記プロトン注入の前に,電子線照射により前記結晶欠陥を発生させる,
かつ,前記結晶欠陥形成工程では,前記電子線照射の後,前記プロトン注入の前に,前記結晶欠陥の量を調節するための予備の第2熱処理を行うことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
複数回の前記プロトン注入は,それぞれ,前記プロトン注入ごとに設定された所定の平均飛程に基づいて算出された異なる前記加速エネルギーで行うことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記結晶欠陥形成工程では,前記第1熱処理中に所定量の前記結晶欠陥が残留するように前記結晶欠陥を発生させることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記第1熱処理中に前記半導体基板の内部に残留する前記結晶欠陥が前記ドナー層の生成に寄与することを特徴とする請求項1?3のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記第1熱処理の条件が,350℃以上550℃以下の温度で,1時間以上10時間以下の処理時間であることを特徴とする請求項1?4のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記プロトン注入よりも前に,前記半導体基板の一方の主面を研削する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1?5のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記プロトン注入は,前記半導体基板の研削面側から行うことを特徴とする請求項6に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
少なくとも1回の前記プロトン注入の飛程が15μm以上であることを特徴とする請求項1?7のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記ドナー層が,ダイオードまたは絶縁ゲート型バイポーラトランジスタのn型フィールドストップ層であることを特徴とする請求項1?8のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記第1熱処理後に行う工程の処理温度が,前記第1熱処理の温度より低いことを特徴とする請求項1?9のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。」
(2)当審拒絶理由1について
ア 引用文献Aの記載事項
(ア)引用文献A
引用文献Aには,図面とともに,次の記載がある。
a「【技術分野】
【0001】
本発明は,絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(以降,IGBTと略記することもある)と,該IGBTに逆並列接続されるダイオードとが同一半導体基板上に併設される逆導通形絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(以降,RC-IGBTと略記することもある)およびその製造方法の改良に関する。」
b「【0013】
この実施例1のRC-IGBT100は,前述のように,裏面から見ると,面積の小さいセル状に区分されるIGBT部40とFWD部50とが相互に隣接する構造にされるが,表面からはIGBT部40とFWD部50とを区別できないようにIGBT部とFWDの主要活性部には共通の金属電極が被着されて一体化,共通化されている。
また,セル状に区分される前記IGBT部40とFWD部50はそれぞれ異なる位置に第1n^(+)FS領域33aおよび第2n^(+)FS領域33bを備える。つまり,IGBT部40の第1n^(+)FS領域33aは,前記段差の凹部31底部よりも深い位置のn^(-)ドリフト層9内にp^(+)コレクタ領域20と同じ程度の幅で配置される。一方,FWD部50の第2n^(+)FS領域33bは,n^(+)カソード領域21よりは深い部分であるが,前記段差の凸部32の中に配置される。
段差の凸部の側壁部分には,絶縁膜34で被覆されることが望ましいが,この絶縁膜34は無くても,本発明の効果は得られる。
次に,本発明のRC-IGBT100にかかる実施例1について,定格電圧1200V,定格電流75A,チップサイズ8mm×8mmの場合について製造方法を説明する。シリコン半導体基板(以降,Si基板)は,1200Vクラスの場合その比抵抗は40?80Ωcmであり,本実施例1では比抵抗を60Ωcmとする。この比抵抗で,厚さ650μm,6インチ径のn型FZ-Si基板を用いる。従来と同様の標準的なトレンチ型MOSデバイスの製造工程により,図1(a)に示すpベース層10,トレンチ11,ゲート酸化膜12,ポリシリコンゲート電極13,n^(+)エミッタ領域14,アルミニウムエミッタ電極15,p^(+)コンタクト領域16,層間絶縁膜17などを形成する。
【0014】
その後,MOSゲート構造30側(表面側)からライフタイム調整のために電子線照射を40kGy照射する。一旦表面側をレジスト膜(図示せず)で保護したのち,Si基板の裏面から研削して基板厚さを140μmにし,エッチングして研削歪層を除去する。その後,裏面側からFWD部50の第2n^(+)FS領域33bとn^(+)カソード領域21の形成のため,水素イオンを1MeV,ドーズ量1×10^(14)/cm2,続いて,リンイオンを50keV,ドーズ量1×10^(15)/cm^(2)注入する。
続いて,裏面側にTEOS(Tetra Ethyl Ortho Silicate)膜(図示せず)を1μmの厚さに形成する。レジストを塗布後,リソグラフィによる所要のパターニング(露光,現像)を行い,TEOS膜に異方性ドライエッチングを施して,段差形成のため,開口部のみTEOS膜を除去し,幅1μmの開口パターンを形成する。ここで露光は,両面アライナーを用いて表面とアライメントしてもいいし,片面アライナーのみで表面とのアライメントをしなくても動作に問題はない。
次に,裏面側のみレジストを剥離後,TEOS膜パターンをマスクにして裏面側から異方性ドライエッチングによりSi基板をエッチングする。この段階で,TEOS膜の開口部に段差となる凹部31がトレンチ状に複数周期的パターンで形成され,TEOS膜でマスクされエッチングされない領域は,段差の凸部32となる。
【0015】
さらに続いて,裏面側からIGBT部第1n^(+)FS領域33aとp^(+)コレクタ領域20との形成のため,水素イオンを1MeV,1×10^(14)/cm^(2),続いてボロンイオンを50keV,1×10^(14)/cm^(2)注入する。
その後,ドライエッチングでTEOS膜を除去する。続いて,YAG2ωレーザーを2台の装置を使ってダブルパルスで計2J/cm^(2),遅延時間300nsにて,裏面の最表層を焦点としてレーザー光を照射する。その後同じ条件で,焦点のみ凹部31底部に合わせて,再度レーザーを照射してp^(+)コレクタ領域20とn^(+)カソード領域21のために,それぞれイオン注入領域を活性化する。その後再びTEOS膜を0.01μmの厚さに形成する。その後,異方性ドライエッチングにより,段差の凸部32と凹部31の底部のみTEOS膜を除去し,凹部の側壁にはTEOS膜が絶縁膜34として残るようにする。その後表面の保護用レジスト膜も剥離し,380℃1時間にて,熱処理を行う。この熱処理は,水素イオンの注入による結晶欠陥を回復させてドナー領域(第1n^(+)FS領域33a)およびn^(+)カソード領域21を形成するものである。ただし前記YAG2ωレーザーによるレーザーアニールにより,水素イオン注入による欠陥回復およびドナー領域形成あるいはn^(+)カソード領域21の形成の効果も得られるため,前記熱処理は無くても構わない
。後は,裏面にAl/Ti/Ni/Auを,それぞれ1μm/0.07μm/1μm/0.3μmの厚さで形成して共通の電極であるコレクタ電極35またはカソード電極とする。」
(イ)引用発明A
前記(ア)より,引用文献Aには次の発明(以下,「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。
「逆導通形絶縁ゲート型バイポーラトランジスタの製造方法において,シリコン半導体基板の表面側からライフタイム調整のために電子線照射を40kGy照射し,その後裏面側から水素イオンを注入し,その後熱処理を行ってドナー領域を形成する。」
イ 引用発明1及び4
前記4(1)及び同(4)のとおり,引用文献1及び4には,それぞれ引用発明1及び4が記載されていると認められる。
ウ 本願発明と引用発明Aとの対比
(ア)引用発明Aの「逆導通形絶縁ゲート型バイポーラトランジスタの製造方法」は,「シリコン半導体基板の」「裏面側から水素イオン(プロトン)を注入し,その後熱処理を行ってドナー領域を形成する」から,下記相違点を除いて,本願発明の「半導体基板にプロトン注入によるドナー層を形成する半導体装置の製造方法」に相当すると認められる。
(イ)引用発明Aの「シリコン半導体基板の表面側からライフタイム調整のために電子線照射を40kGy照射」は,フレンケル欠陥を形成する(前記4(1)ア(イ))から,本願発明の「結晶欠陥を発生させる結晶欠陥形成工程」に相当すると認められる。
(ウ)引用発明Aの「裏面側から水素イオンを注入し,その後熱処理を行ってドナー領域を形成」は,本願発明の「前記プロトン注入および第1熱処理を行い,前記ドナー層を形成するドナー層形成工程」に相当すると認められる。
(エ)引用発明Aにおいては,電子線照射した後に水素イオンを注入するから,そこでドナー生成が増大していると認められ,引用発明Aにおいて電子線照射の照射量を40kGyに設定していることは,ドナー生成が増大した上で最終的に適切な大きさのドナー領域が形成されるために設定されているのであるから,本願発明の「前記ドナー層形成工程でのドナー生成率が増大するように前記結晶欠陥の量を調節する」ことに相当すると認められる。
(オ)引用発明Aにおいては,「電子線照射し,その後水素イオンを注入」するから,前記(イ)より,本願発明の「前記結晶欠陥形成工程では,前記プロトン注入の前に,電子線照射により前記結晶欠陥を発生させる」を満たすと認められる。
(カ)してみると,本願発明と引用発明Aとは,下記aの点で一致し,下記bの点で相違すると認められる。
a 一致点
「半導体基板にプロトン注入によるドナー層を形成する半導体装置の製造方法において,
結晶欠陥を発生させる結晶欠陥形成工程と,
前記プロトン注入および第1熱処理を行い,前記ドナー層を形成するドナー層形成工程と,
を含み,
前記結晶欠陥形成工程では,前記ドナー層形成工程でのドナー生成率が増大するように前記結晶欠陥の量を調節する,
前記結晶欠陥形成工程では,前記プロトン注入の前に,電子線照射により前記結晶欠陥を発生させる,
ことを特徴とする半導体装置の製造方法。」
b 相違点
(a)相違点1
本願発明は「前記プロトン注入は異なる加速エネルギーで複数回行」うのに対し,引用発明Aでは水素イオンの注入を異なる加速エネルギーで複数回行うことは開示されていない点。
(b)相違点2
本願発明は「前記結晶欠陥形成工程では,前記電子線照射の後,前記プロトン注入の前に,前記結晶欠陥の量を調節するための予備の第2熱処理を行う」のに対し,引用発明Aは「予備の第2熱処理」を行わない点。
エ 相違点についての判断
相違点2について検討する。
「結晶欠陥形成工程では,前記電子線照射の後,前記プロトン注入の前に,前記結晶欠陥の量を調節するための予備の第2熱処理を行う」ことについて,引用文献1及び4のいずれにも記載も示唆もない。
本願発明の課題である「結晶欠陥量を適正にしてドナー生成率を上げ,電気的特性を向上させること」(本願明細書段落0011-0012)について引用文献A,1及び4のいずれにも記載も示唆もなく,前記課題に対応した相違点2に係る構成を採用する動機づけに欠けるというべきである。
よって,相違点2に係る構成を想到することは,当業者が容易になし得るとはいえない。
オ 小括
したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本願発明は,引用発明A,1及び4に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
カ 請求項2ないし10について
本願の請求項2ないし10に係る発明は,本願発明の発明特定事項をすべて含みさらに別の発明特定事項を付加したものに相当するから,本願発明が前記オのとおり,引用文献A,1及び4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない以上,請求項2ないし10に係る発明も同様の理由で,引用文献A,1及び4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(3)当審拒絶理由2について
本件補正により,補正後の請求項1ないし10の記載は,発明の詳細な説明(本願明細書段落0011,0012,0028)の記載と整合するものとなった。
(4)当審拒絶理由3について
本件補正により,補正前の請求項13は削除された。
(5)まとめ
したがって,当審拒絶理由はすべて解消した。

7 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-11-14 
出願番号 特願2013-551872(P2013-551872)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 須原 宏光  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 深沢 正志
加藤 浩一
発明の名称 半導体装置および半導体装置の製造方法  
代理人 酒井 昭徳  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ