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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12P
管理番号 1321656
審判番号 不服2015-12353  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-30 
確定日 2016-11-10 
事件の表示 特願2010-237886「生姜エキスの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月17日出願公開、特開2012- 90526〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯、本願発明
本願は、平成22年10月22日の出願であって、平成27年4月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年6月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされ、平成28年5月31日付けで当審より拒絶理由が通知され、同年8月31日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

本願の請求項1?3に係る発明は、平成28年8月31日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、請求項1に記載される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
乾燥生姜をエタノールを含まない水によって抽出する工程、
得られた抽出液をペクチナーゼ処理する工程、
該ペクチナーゼ処理された抽出液を0?25℃にて低温処理する工程、及び
該低温処理する工程の後に除菌フィルターを用いて除菌する工程、
を含む生姜エキスの製造方法。」

第2.平成28年5月31日付け拒絶理由
平成28年5月31日付け拒絶理由は、本願の請求項1?5に係る発明は、その出願日前に頒布された刊行物である引用例1及び引用例2?5(低温処理)、引用例6?8(除菌フィルター)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

第3.当審の判断
1.引用例
(1)引用例1
本願出願日前に頒布された刊行物である特開2007-145774号公報(以下、「引用例1」という)には、以下の事項が記載されている。
なお、下線は当審にて付記したものである。以下、同様である。
(1-ア)「【請求項1】 ショウガエキスおよびトウガラシ末を含有する体温調節剤」(特許請求の範囲)
(1-イ)「ショウガは、生薬として、古くからその薬効が利用されてきた。生薬としてのショウガの形態には、生姜(しょうきょう:生の根茎)、乾生姜(カンショウキョウ:生姜を乾燥させたもの)および乾姜(かんきょう:生姜を蒸してから乾燥させたもの)が含まれる。」(段落【0010】)
(1-ウ)「1.ショウガエキスの調製
300メッシュ粉砕した生姜500kgに水1,000Lを加えて、90?95℃にて2時間抽出した。抽出液のpHを5.90に調製した後、フクタミラーゼ50を110g添加し、80℃にて30分間酵素反応させた。さらに、この反応物のpHを4.50に調製した後、165gのセルロシンAC-40および110gのセルロシンPE-60を添加し、50℃にて16時間酵素反応させた。次いで、この反応物を90?95℃にて2時間反応させて、酵素失活させた。さらに、ろ過し、得られたろ液を減圧濃縮し、滅菌することによって、181.2kgの濃縮エキスを得た。この濃縮エキスをスプレードライすることによって、乾燥ショウガエキスを得た。」(段落【0018】)

(2)引用例2
本願出願前に頒布された刊行物である特開2005-289950号公報(以下、「引用例2」という)には、以下の事項が記載されている。
(2-ア)「【請求項17】 杜仲葉を水により抽出する工程における抽出温度が80?100℃であり;抽出液を濃縮する前に0?10℃で静置し、生じる沈殿物を除去する工程を含み;さらに抽出液の濃縮工程後に680?840gのg値で20?30分間遠心分離を行い、沈殿物を除去する工程を含む、請求項15または16に記載の製造方法。」(特許請求の範囲)
(2-イ)「抽出液の濾過は、例えば30?200メッシュのフィルターなどを用いて行われうる。濾液は濃縮を行う前に一定時間静置してもよい。静置することにより発生する沈殿物を除去することにより、不要物を取り除くことができる。静置する時間は、特に限定はされないが、例えば1?24時間、好ましくは6?20時間、より好ましくは8?18時間から適宜選択されうる。静置する際の温度は、特に限定はされないが、例えば0?35℃、好ましくは0?16℃、より好ましくは2?8℃から適宜選択されうる。」(5頁41行?同頁46行)
(2-ウ)「その後150メッシュのフィルターを用いて濾過し、濾液を5℃に冷却し一晩放置した。上澄み液を取り出し、減圧下50℃で濾液を濃縮し1kg得た。」(実施例1:8頁21行?同頁22行)

(3)引用例3
本願出願前に頒布された刊行物である国際公開第2009/145363号(以下、「引用例3」という)には、以下の事項が記載されている。
(3-ア)「【請求項11】 ワスレグサ属植物より、抗うつ様作用及び睡眠改善による疲労回復作用を有する組成物を製造する方法であって、乾燥させたワスレグサ属植物を60?100℃の水で30?90分間熱し、得られた抽出物をろ過し、次いで乾燥させたワスレグサ属植物1g当たり0.5?2mlに濃縮することを含む方法。」(請求の範囲)
(3-イ)「次いで、(2)で得られた中性熱水抽出物粗精製物を水溶性の有機溶媒で処理する。・・・(省略)・・・攪拌後6?24時間低温?室温で静置する。水溶性有機溶剤処理と温度処理により、中性熱水抽出物粗生成物中の高分子が凝縮沈殿する。次いで、水溶性の有機溶剤処理物中の凝固沈殿物をろ過又は遠心分離により除去する。」(5頁19行?同頁27行)
(3-ウ)「攪拌後、室温で6時間静置した。次いで溶液を50メッシュの木綿布2枚を用い、ろ過し、凝固物を除去した。ろ過液は透明度のある濃いオレンジ色を呈していた。」(実施例1:13頁18行?同頁20行)

(4)引用例4
本願出願前に頒布された刊行物である特表2005-515238号公報(以下、「引用例4」という)には、以下の事項が記載されている。
(4-ア)「【請求項1】 カンナビス植物材料からΔ-9-テトラヒドロカンナビノール(THC)を単離する方法において、(a)かんなビス植物材料を抽出し、(b)酸に富むカンナビス抽出物中のΔ-9-THCをアルミナにキレートさせ、(c)アルミナにキレートされた抽出物の非酸成分を有機溶媒で洗浄し、かつ(d)Δ-9-THC酸を酸性の強い溶媒で溶離する、工程を含むΔ-9-THC酸及びTHCを別々に得ることを特徴とする方法。」(特許請求の範囲)
(4-イ)「形成された沈殿物を遠心分離により分離した(質量100mg)。試料を一昼夜冷蔵庫に置いた。翌日更なる沈殿物が観察された(40mg)。試料を0.45Mmのフィルターを用いて濾過した。」段落【0055】)

(5)引用例5
本願出願前に頒布された刊行物である特開2003-321384号公報(以下、「引用例5」という)には、以下の事項が記載されている。
(5-ア)「濃縮されたクマザサ抽出液は、必要により加熱滅菌された後、0?10℃の温度条件で冷却される。この冷却時に、抽出液は静置しておくことが望ましく、これにより、いわゆる澱(おり)と呼ばれる不純物を効果的に沈殿させることができる。抽出液を冷却する時間は、抽出物中の不純物が不溶化して沈殿するために十分な時間であるが、具体的には抽出液の量や求められる純度等により適宜決定すればよく、例えば、1日以上、好ましくは3日以上行えばよい。」(段落【0016】)
(5-イ)「冷却された抽出液中から、析出した不純物を除去するための固液分離手段としては、ろ過や遠心分離が挙げられる。このうち、ろ過としては、珪藻土プリコートフィルタープレス、珪藻土プリコート吸引ろ過等のフィルタープレス、吸引ろ過等を用いるろ過が好ましい。」(段落【0017】)
(5-ウ)「上記3回の熱水抽出で得られた抽出液57klを、メッシュ数が100のメッシュスクリーンを用いて濾過し、夾雑物を取り除いた後、液温55?65℃の条件で減圧濃縮し、抽出液を2000kgまで濃縮した。この濃縮液を加熱滅菌した後、(条件:90℃×10秒)、冷蔵庫(温度:5℃)にて2日間静置冷却した。」(段落【0025】)

(6)引用例6
本願出願前に頒布された刊行物である特開平07-017845号公報(以下、「引用例6」という)には、以下の事項が記載されている。
(6-ア)「試料をMEM(Eagle's Minimum Essential Medium)に最終濃度が表1に示す濃度になるように調製、溶解し、孔経0.45μmの除菌フィルターで濾過した。」(段落【0033】)
(6-イ)表1-1?表1-5(併用の植物エキス(水)について記載あり:段落【0035】?【0039】)

(7)引用例7
本願出願前に頒布された刊行物である特開平06-340542号公報(以下、「引用例7」という)には、以下の事項が記載されている。
(7-ア)「実施例2. アスナロよりの有効成分の抽出 アスナロ葉(生葉)1Kgを細かく裁断し、2000mlの75%メタノールで実施例1と同様に3回抽出し、以下同様に処理して、抽出物10gを得た。」(段落【0038】)
(7-イ)「製剤例3.ドリンク剤の製造 実施例2の抽出物・・・(省略)・・・[製法]処方に従って上記の成分を蒸留水800mlに溶解し、蒸溜水を加えて全量1000mlとした後、0.22μmの除菌フィルターで滅菌し、100mlずつ褐色びんに無菌充填して、1剤あたり200mgの実施例2の抽出物を含有するドリンク剤を得た。」(段落【0052】)

(8)引用例8
本願出願前に頒布された刊行物である特開平06-048931号公報(以下、「引用例8」という)には、以下の事項が記載されている。
(8-ア)「ビャクダン水抽出物をMEM(Eagle's Minimum Essential Medium) に最終濃度が表1および表2に示す濃度になるように調製、溶解し、孔径0.4 μm の除菌フィルターで濾過した。」(段落【0021】)
(8-イ)表1?表2(ビャクダン水抽出物について記載あり:段落【0023】?【0024】)

2.引用発明
引用例1の(1-ウ)には、乾燥ショウガエキスの製造方法が記載されており、そこには、乾燥ショウガエキスとする前の濃縮ショウガエキスを得る方法、すなわち、「粉砕した生姜に水を加えて、90?95℃にて2時間抽出する工程、この抽出液にフクタミラーゼ50を酵素反応させ、さらに、この反応物にセルロシンAC-40およびセルロシンPE-60を酵素反応させ、次いで、酵素失活させる工程、その後、ろ過し、得られたろ液を減圧濃縮するショウガエキスを得る方法。」が記載されている(以下、「引用発明」という)。
なお、引用発明のフクタミラーゼ50はαアミラーゼ、セルロシンAC-40はセルラーゼ、セルロシンPE-60はペクチナーゼ(いずれの酵素もエイチビィアイ株式会社製)として市販されている酵素である。

3.対比
引用発明の「粉砕した生姜に水を加えて、90?95℃にて2時間抽出する工程」は、本願発明の「乾燥生姜をエタノールを含まない水によって抽出する工程」に相当し、引用発明の「この抽出液にフクタミラーゼ50を酵素反応させ、さらに、この反応物にセルロシンAC-40およびセルロシンPE-60を酵素反応させ、次いで、酵素失活させる工程」は、本願発明の「得られた抽出液をペクチナーゼ処理する工程」に相当し、引用発明の「濃縮ショウガエキスを得る方法」は、本願発明の「生姜エキスの製造方法」に相当する。
本願発明と引用発明とを比較すると、両者は、「生姜をエタノールを含まない水によって抽出する工程、得られた抽出液をペクチナーゼ処理する工程、を含む生姜エキスの製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本願発明は、乾燥生姜を抽出するのに対して、引用発明は生姜である点。
相違点2:本願発明は、ペクチナーゼ処理された抽出液を0?25℃にて低温処理する工程、及び該低温処理する工程の後に除菌フィルターを用いて除菌する工程を有するのに対して、引用発明には、これらの工程に関して明記されていない点。

4.当審の判断
以下、相違点1?2について検討する。
相違点1について、引用例1の(1-イ)に記載されているように、生姜には、乾燥品と生があることは当業者によく知られたことで有り、どちらを使用するかは、入手のしやすさ等により当業者が適宜選択する事項であり、この点は実質的な差異にならない。

相違点2について、植物等の天然物から抽出を行った場合、抽出液中に含まれる夾雑物等を除くために抽出液を、冷蔵庫等で冷却(例えば5℃)し、抽出物中の夾雑物等を沈殿させ、濾過等により取り除くことは、当業者によく知られた方法(引用例2の(2-ア)?(2-ウ),引用例3の(3-イ)?(3-ウ),引用例4の(4-イ),引用例5の(5-ア)及び(5-ウ)参照)である。
また、ショウガが香味を有する植物であること、さらに、香味のうち、特に香りは、熱が加えられることにより失われやすいことも当業者によく知られた技術常識である。
これらのことを考慮して、当業者が、よりショウガの香り成分が残ることを期待して低温処理を選択することに何ら技術的困難性を認めることができない。
さらに、冷却した後、夾雑物をフィルターで除去することは、当業者が通常行うことであり、その際、植物エキス等のフィルターとして周知の除菌フィルター(例えば、引用例6の(6-ア)?(6-イ),引用例7の(7-ア)?(7-イ),引用例8の(8-ア)?(8-イ)参照)を採用することも当業者が適宜なし得ることである。

そして、本願発明において、引用例1?8から当業者が予測できない効果が奏されたとはいえない。
なお、実施例1(本願発明に該当)と実施例2(本願発明に該当しない)の差は、低温処理と除菌フィルターの処理順の差に加え、実施例2のPVPP(ポリビニルポリピロリドン樹脂)の存在による差も考えられる。

したがって、本願発明は、引用例1?8の記載に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

5.審判請求人の主張について
審判請求人は平成28年8月31日付け意見書において、低温処理とその後の除菌処理の組み合わせにより得られる生姜エキスが香味を強く維持するという効果は、夾雑物を除くためのよく知られた方法の単なる組み合わせにより期待し得る効果を遥かに超えたものといえ、予測は到底困難である旨主張しているが、本願明細書の記載を見ても、そのような効果が奏されたと認めることができない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1?8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-15 
結審通知日 2016-09-16 
審決日 2016-09-28 
出願番号 特願2010-237886(P2010-237886)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松浦 安紀子川合 理恵  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 山本 匡子
佐々木 秀次
発明の名称 生姜エキスの製造方法  
代理人 小林 泰  
代理人 鶴喰 寿孝  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 小林 泰  
代理人 山本 修  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 鶴喰 寿孝  
代理人 小野 新次郎  
代理人 山本 修  
代理人 小野 新次郎  

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