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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H04L
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 H04L
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H04L
管理番号 1321666
審判番号 不服2015-17460  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-25 
確定日 2016-11-10 
事件の表示 特願2013- 17975「携帯端末,ドキュメント管理方法,携帯端末用プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 8月21日出願公開,特開2014-150403〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成25年1月31日の出願であって,
平成26年3月4日付けで審査請求がなされ,平成26年11月18日付けで審査官により拒絶理由が通知され,これに対して平成27年1月13日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされ,平成27年2月27日付けで審査官により最後の拒絶理由が通知され,これに対して平成27年4月27日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされたが,平成27年6月24日付けで審査官により拒絶査定がなされ(謄本送達;平成27年6月26日),これに対して平成27年9月25日付けで審判請求がなされると共に手続補正がなされ,平成27年11月25日付けで審査官により特許法第164条第3項の規定に基づく報告がなされたものである。

第2.平成27年9月25日付けの手続補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成27年9月25日付け手続補正を却下する。

[理由]

1.補正の内容
平成27年9月25日付けの手続補正(以下,「本件手続補正」という)により,平成27年4月27日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲,
「 【請求項1】
ドキュメントサーバと通信可能に接続された携帯端末であって,
前記携帯端末の記憶部に記憶されたドキュメントを,暗号化し,前記ドキュメントサーバへ送信するアップロード手段と,
前記記憶部に記憶されたドキュメントに関連するドキュメント情報を前記ドキュメントサーバに送信するドキュメント情報送信手段と,
前記ドキュメントサーバに送信した前記ドキュメント情報に基づいて,前記ドキュメントサーバへ送信した前記ドキュメントを受信させる,一以上の機器により構成された閲覧グループを,受信閲覧グループとして前記ドキュメントサーバに通知する受信閲覧グループ通知手段と,
前記受信閲覧グループに属する機器に対して,前記暗号化されたドキュメントの復号に要する復号情報を送信する復号情報送信手段と,
前記復号情報を受信した後,対応する暗号化されたドキュメントを展開する際には,前記復号情報を用いて復号を行うドキュメント復号手段と,
を備えた携帯端末。
【請求項2】
前記アップロード手段において,送信されるドキュメントが文字列として編集可能なデータであった場合に,当該ドキュメントを文字列として編集不可能なバイナリデータに変換した後,暗号化し,前記ドキュメントサーバへ送信する,請求項1に記載の携帯端末。
【請求項3】
前記ドキュメント復号手段において,前記携帯端末の記憶部に記憶されたパラメータが,予め設定された,または,前記ドキュメントごとに設定された条件を満たす時にのみ,ドキュメントの復号を行う,請求項1または請求項2に記載の携帯端末。
【請求項4】
位置情報取得手段を備え,
前記ドキュメント復号手段において,前記位置情報取得手段によって取得された位置情報が,予め設定された,または,前記ドキュメントごとに設定された範囲内に該当する時にのみ,ドキュメントの復号を行う,請求項1乃至3のいずれか一項に記載の携帯端末。
【請求項5】
前記ドキュメント復号手段において,現在の時刻,日付,及び曜日の組み合わせが,予め設定された,または,前記ドキュメントごとに設定された条件を満たす時にのみ,ドキュメントの復号を行う,請求項1乃至4のいずれか一項に記載の携帯端末。
【請求項6】
前記ドキュメントごとに設定された条件に基づいて,前記パラメータを設定する条件設定手段とを備えた請求項3乃至5のいずれか一項に記載の携帯端末。
【請求項7】
ドキュメントサーバと通信可能に接続された携帯端末が行うドキュメント管理方法であって,
前記携帯端末の記憶部に記憶されたドキュメントを,暗号化し,前記ドキュメントサーバへ送信するステップと,
前記記憶部に記憶されたドキュメントに関連するドキュメント情報を前記ドキュメントサーバに送信するステップと,
前記ドキュメントサーバに送信した前記ドキュメント情報に基づいて,前記ドキュメントサーバへ送信した前記ドキュメントを受信させる,一以上の機器により構成された閲覧グループを,受信閲覧グループとして前記ドキュメントサーバに通知するステップと,
前記受信閲覧グループに属する機器に対して,前記暗号化されたドキュメントの復号に要する復号情報を送信するステップと,
前記復号情報を受信した後,対応する暗号化されたドキュメントを展開する際には,前記復号情報を用いて復号を行うステップと,
を備えたドキュメント管理方法。
【請求項8】
ドキュメントサーバと通信可能に接続された携帯端末に,
前記携帯端末の記憶部に記憶されたドキュメントを,暗号化し,前記ドキュメントサーバへ送信するステップ,
前記記憶部に記憶されたドキュメントに関連するドキュメント情報を前記ドキュメントサーバに送信するステップ,
前記ドキュメントサーバに送信した前記ドキュメント情報に基づいて,前記ドキュメントサーバへ送信した前記ドキュメントを受信させる,一以上の機器により構成された閲覧グループを,受信閲覧グループとして前記ドキュメントサーバに通知するステップ,
前記受信閲覧グループに属する機器に対して,前記暗号化されたドキュメントの復号に要する復号情報を送信するステップ,
前記復号情報を受信した後,対応する暗号化されたドキュメントを展開する際には,前記復号情報を用いて復号を行うステップ,
を実行させる携帯端末用プログラム。」(以下,上記引用の請求項各項を,「補正前の請求項」という)は,
「 【請求項1】
ドキュメントサーバと通信可能に接続された携帯端末であって,
前記携帯端末の記憶部に記憶されたドキュメントを,暗号化し,前記ドキュメントサーバへ送信するアップロード手段と,
前記ドキュメントサーバへ送信した前記ドキュメントを受信させる,一以上の機器により構成された閲覧グループを,受信閲覧グループとして前記ドキュメントサーバに通知する受信閲覧グループ通知手段と,
前記受信閲覧グループに属する機器に対して,前記暗号化されたドキュメントの復号に要する復号情報を送信する復号情報送信手段と,
前記復号情報を受信した後,対応する暗号化されたドキュメントを展開する際には,前記復号情報を用いて復号を行うドキュメント復号手段と,
を備え,
前記ドキュメント復号手段において,前記携帯端末の記憶部に記憶されたパラメータとして,時刻又は現在位置が,予め設定された,または,前記ドキュメントごとに設定された重要度を満たす時にのみ,ドキュメントの復号を行う携帯端末。
【請求項2】
前記アップロード手段において,送信されるドキュメントが文字列として編集可能なデータであった場合に,当該ドキュメントを文字列として編集不可能なバイナリデータに変換した後,暗号化し,前記ドキュメントサーバへ送信する,請求項1に記載の携帯端末。
【請求項3】
位置情報取得手段を備え,
前記ドキュメント復号手段において,前記位置情報取得手段によって取得された位置情報が,予め設定された,または,前記ドキュメントごとに設定された範囲内に該当する時にのみ,ドキュメントの復号を行う,請求項1または2に記載の携帯端末。
【請求項4】
前記ドキュメント復号手段において,現在の時刻,日付,及び曜日の組み合わせが,予め設定された,または,前記ドキュメントごとに設定された条件を満たす時にのみ,ドキュメントの復号を行う,請求項1乃至3のいずれか一項に記載の携帯端末。
【請求項5】
前記ドキュメントごとに設定された条件に基づいて,前記パラメータを設定する条件設定手段とを備えた請求項1乃至4のいずれか一項に記載の携帯端末。
【請求項6】
ドキュメントサーバと通信可能に接続された携帯端末が行うドキュメント管理方法であって,
前記携帯端末の記憶部に記憶されたドキュメントを,暗号化し,前記ドキュメントサーバへ送信するステップと,
前記ドキュメントサーバへ送信した前記ドキュメントを受信させる,一以上の機器により構成された閲覧グループを,受信閲覧グループとして前記ドキュメントサーバに通知するステップと,
前記受信閲覧グループに属する機器に対して,前記暗号化されたドキュメントの復号に要する復号情報を送信するステップと,
前記復号情報を受信した後,対応する暗号化されたドキュメントを展開する際には,前記復号情報を用いて復号を行うステップと,
を備え,
前記復号を行うステップにおいて,前記携帯端末の記憶部に記憶されたパラメータとして,時刻又は現在位置が,予め設定された,または,前記ドキュメントごとに設定された重要度を満たす時にのみ,ドキュメントの復号を行うドキュメント管理方法。
【請求項7】
ドキュメントサーバと通信可能に接続された携帯端末に,
前記携帯端末の記憶部に記憶されたドキュメントを,暗号化し,前記ドキュメントサーバへ送信するステップ,
前記ドキュメントサーバへ送信した前記ドキュメントを受信させる,一以上の機器により構成された閲覧グループを,受信閲覧グループとして前記ドキュメントサーバに通知するステップ,
前記受信閲覧グループに属する機器に対して,前記暗号化されたドキュメントの復号に要する復号情報を送信するステップ,
前記復号情報を受信した後,対応する暗号化されたドキュメントを展開する際には,前記復号情報を用いて復号を行うステップ,
を実行させ,
前記復号を行うステップにおいて,前記携帯端末の記憶部に記憶されたパラメータとして,時刻又は現在位置が,予め設定された,または,前記ドキュメントごとに設定された重要度を満たす時にのみ,ドキュメントの復号を実行させる携帯端末用プログラム。」(以下,上記引用の請求項各項を,「補正後の請求項」という)に補正された。

2.補正の適否
(1)本件手続補正が,特許法第17条の2第3項の規定を満たすものであるか否か,即ち,本件手続補正が,願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲,及び,図面(以下,これを「当初明細書等」という)に記載した事項の範囲内でなされたものであるかについて,以下に検討する。

(2)本件手続補正は,補正前の請求項1に,
「前記ドキュメント復号手段において,前記携帯端末の記憶部に記憶されたパラメータとして,時刻又は現在位置が,予め設定された,または,前記ドキュメントごとに設定された重要度を満たす時にのみ,ドキュメントの復号を行う」(以下,「補正事項1」という),
という構成を付加して,補正後の請求項1とし,補正前の請求項7に,
「前記復号を行うステップにおいて,前記携帯端末の記憶部に記憶されたパラメータとして,時刻又は現在位置が,予め設定された,または,前記ドキュメントごとに設定された重要度を満たす時にのみ,ドキュメントの復号を行う」(以下,「補正事項2」という),
という構成を付加して,補正後の請求項6とし,及び,補正前の請求項8に,
「前記復号を行うステップにおいて,前記携帯端末の記憶部に記憶されたパラメータとして,時刻又は現在位置が,予め設定された,または,前記ドキュメントごとに設定された重要度を満たす時にのみ,ドキュメントの復号を実行させる」(以下,「補正事項3」という),
という構成を付加して,補正後の請求項7とする補正事項を含むものである。

(3)上記(2)に引用した補正事項1?補正事項3における,
“携帯端末の記憶部に記憶されたパラメータとして,時刻又は現在位置が,予め設定された,または,ドキュメントごとに設定された重要度を満たす時にのみ,ドキュメントの復号を行う”,
という記載と同等の記載内容は,当初明細書等に存在しない。
そこで,当初明細書等の記載内容から,上記(2)において引用した補正事項1?補正事項3の内容を読み取ることができるかについて,更に,検討する。

(4)当初明細書等には,「重要度」に関して,

a.「【0033】
次に携帯端末10は,ドキュメント2の暗号化方式と,セキュリティパラメータを特定し,ドキュメント2を暗号化する(ステップS02)。暗号化方式としては,パスワード方式や,共通鍵方式等が挙げられる。暗号化方式の特定としては,社のセキュリティポリシーやドキュメント2の重要度に応じ,予め携帯端末10に記憶されているものが特定されるものとする。
【0034】
同様に,セキュリティパラメータは,ドキュメント2を開く場所や時刻等を限定するものであって,同様に社のセキュリティポリシーやドキュメント2の重要度に応じ,予め携帯端末10に記憶されているものが特定されるものとしてよい。すなわち,公開された決算書類のように重要度が低い資料は自宅においても閲覧可能であるが,水面下で調整中の契約書といった重要書類は,本社から物理的に500m以内での閲覧のみに限るといった方針に基づき,セキュリティパラメータを特定する。セキュリティパラメータは場所や時刻に限られず,日付,曜日,通信強度等,携帯端末で取得可能な任意のパラメータに基づく制限であってよい。」(下線は,当審にて,説明の都合上附加したものである。以下,同じ。)

という記載が存在しており,更に,「時刻」,「位置」に関して,上記aに引用した記載の他,

b.「【0010】
本発明は,この要請を鑑み,位置情報や時刻といった携帯端末で取得可能なパラメータに関する複雑なセキュリティポリシーに対応可能であって,ドキュメントを編集不可能で,暗号化された状態で共有するとともに,正当な権限を持つ端末群にのみ復号に関する情報が提供される形態でドキュメント管理を行う携帯端末,ドキュメント管理方法,携帯端末用プログラムを提供することを目的とする。」

c.「【0019】
第4の特徴に係る発明は,位置情報取得手段を備え,
前記ドキュメント復号手段において,前記位置情報取得手段によって取得された位置情報が,予め設定された,または,前記ドキュメントごとに設定された範囲内に該当する時にのみ,ドキュメントの復号を行う,第1から第3のいずれかの特徴に係る発明である携帯端末を提供する。
【0020】
第4の特徴に係る発明によれば,第1から第3のいずれかの特徴に係る発明である携帯端末は,位置情報取得手段を備え,前記位置情報取得手段によって取得された位置情報が,予め設定された,または,前記ドキュメントごとに設定された範囲内に該当する時にのみ,ドキュメントの復号を行う。
【0021】
第5の特徴に係る発明は,前記ドキュメント復号手段において,現在の時刻,日付,及び曜日の組み合わせが,予め設定された,または,前記ドキュメントごとに設定された条件を満たす時にのみ,ドキュメントの復号を行う,第1から第4のいずれかの特徴に係る発明である携帯端末を提供する。
【0022】
第5の特徴に係る発明によれば,第1から第4のいずれかの特徴に係る発明である携帯端末は,現在の時刻,日付,及び曜日の組み合わせが,予め設定された,または,前記ドキュメントごとに設定された条件を満たす時にのみ,ドキュメントの復号を行う。」

d.「【発明の効果】
【0025】
本発明によれば,位置情報や時刻といった携帯端末で取得可能なパラメータに関する複雑なセキュリティポリシーに対応可能であって,ドキュメントを編集不可能で,暗号化された状態で共有するとともに,正当な権限を持つ端末群にのみ復号に関する情報が提供される形態でドキュメント管理を行う携帯端末,ドキュメント管理方法,携帯端末用プログラムを提供することが可能となる。」

e.「【0028】
ドキュメント管理システム1において,携帯端末10はドキュメント2を暗号化するとともに,ドキュメントサーバ200へアップロードする。また,ドキュメント2を閲覧する権利がある他の携帯端末10A,10Bを閲覧グループ9としてドキュメントサーバ200へ通知し,携帯端末10A,10Bに対して復号のための情報を送信する。このとき,携帯端末10A,10Bのみがドキュメントサーバ200からドキュメント2をダウンロードでき,復号できる。さらに,携帯端末10がセキュリティパラメータを設定することで,ドキュメント2を閲覧するにあたって,端末の固有IDだけでなく,時刻や現在位置に応じた制限を課すことが可能である。」

f.「【0049】
また,携帯端末10は,データやファイルを記憶する記憶部13として,ハードディスクや半導体メモリ,記録媒体,メモリカード等によるデータのストレージ部を備え,入出力部14として,制御部で制御したデータや画像を出力表示する表示部と,ユーザからの入力を受付けるタッチパネルやキーボード,マウスに加え,時刻を取得する時計機能,位置情報取得デバイスや,高度,通信強度,傾き,加速度等を取得するセンサを備える。
【0050】
携帯端末10において,制御部11が所定のプログラムを読み込むことで,通信部12と協働して,アップロードモジュール15,受信閲覧グループ通知モジュール16,復号情報送信モジュール17を実現する。また,携帯端末10において,記憶部13が所定のプログラムを読み込むことで,通信部12と協働して,ドキュメント復号モジュール18,ドキュメント変換モジュール19,セキュリティパラメータ評価モジュール20を実現する。また,携帯端末10において,制御部11が所定のプログラムを読み込むことで,入出力部14と協働して,位置情報取得モジュール21,時刻取得モジュール22を実現する。」

g.「【0058】
次に,アップロードモジュール15は,ドキュメント2のセキュリティパラメータを設定する(ステップS14)。セキュリティパラメータは,ファイルを開く場所や時刻等によって,ファイルを開くことが可能か否かを制限するものである。例えば,電子ファイルであるドキュメント2を禁帯出にするために,「本社ビルより500m以内」とのセキュリティパラメータをドキュメント2に付与し,社外での閲覧を制限する。
【0059】
セキュリティパラメータは,ユーザの入力によってもよいし,予めドキュメントのセキュリティレベルごとに設定されていてもよい。例えば,セキュリティレベル「高」であれば,アップロード後一か月の期間のみ,本社ビルより500m以内での閲覧のみが可能となるといった形式が一例として挙げられる。その他,朝の時間帯のみ,火曜日のみ,アップロードから一週間経過後のみ,といった複雑な条件も,セキュリティパラメータを適切に設定することにより実現可能である。」

h.「【0063】
図8は,ドキュメントデータベース210内のドキュメント情報テーブルの一例である。ここでは,ドキュメントのファイル名と,ドキュメント情報とが関連付けられて記憶されている。例えば,ファイル名が「R&D-110.pdf」なるファイルは,パスワード方式によって暗号化され,「R&D-group」閲覧グループに属する端末のみに閲覧が許される。
【0064】
また,「R&D-110.pdf」は,セキュリティパラメータにより,2012年12月24日から,2013年1月24日のみ閲覧が許されており,この期間外にあっては端末が「R&D-group」閲覧グループに属していてもファイルを開くことができない。同様に,「sales-graph.png」は共通鍵方式によって暗号化され,「Sales-Group」閲覧グループに属する端末のみ閲覧可能であり,緯度35.41°,経度139.45°の地点から500m以内の範囲においてのみ,閲覧可能である。」

という記載が存在している。
上記引用の記載の内,上記cに引用した,段落【0019】の,
「位置情報取得手段によって取得された位置情報が,予め設定された,または,前記ドキュメントごとに設定された範囲内に該当する時にのみ,ドキュメントの復号を行う」,
という記載,同じく,上記cに引用した,段落【0021】の,
「現在の時刻,日付,及び曜日の組み合わせが,予め設定された,または,前記ドキュメントごとに設定された条件を満たす時にのみ,ドキュメントの復号を行う」,
という記載から,当初明細書等の発明の詳細な説明の記載においては,
“ドキュメントごとに設定されている,復号可能な位置情報,或いは,復号可能な,時刻情報に,携帯端末の位置情報,或いは,時刻情報が一致する場合に,復号が可能となる”
と示されている。
そして,上記aに引用した段落【0033】の,
「暗号化方式の特定としては,社のセキュリティポリシーやドキュメント2の重要度に応じ,予め携帯端末10に記憶されているものが特定されるものとする」,
という記載と,同じく,上記aに引用した,段落【0034】の,
「同様に社のセキュリティポリシーやドキュメント2の重要度に応じ,予め携帯端末10に記憶されているものが特定されるものとしてよい」,
という記載,及び,上記gに引用した段落【0059】の,
「セキュリティパラメータは,ユーザの入力によってもよいし,予めドキュメントのセキュリティレベルごとに設定されていてもよい。例えば,セキュリティレベル「高」であれば」,
という記載から,
“重要度が設定されているのは,ドキュメントである”。
即ち,当初明細書等の記載内容においては,“ドキュメントに設定された重要度と,位置情報,或いは,時刻情報とを,直接関連付ける記載は存在しない”
そして,上記において検討したとおり,
“復号の可否の判定は,ドキュメントに設定されている,位置情報に関する制約条件,或いは,時刻情報に関する制約条件と,現在の携帯端末の,位置情報,時刻情報とを比較することで行われるものである”。
同様に,上記aに引用した,段落【0034】に記載された,
「セキュリティパラメータは,ドキュメント2を開く場所や時刻等を限定するものであって,同様に社のセキュリティポリシーやドキュメント2の重要度に応じ,予め携帯端末10に記憶されているものが特定されるものとしてよい」,
という内容は,
“ドキュメント2を開く場所や時刻等を限定するセキュリティパラメータ,即ち,位置情報に関する制約条件,或いは,時刻情報に関する制約条件が,社のセキュリティポリシーやドキュメント2に設定されている重要度に基づいて設定され,予め携帯端末1に記憶されるものである”ことを示すものである。
上記gに引用した,段落【0058】の,
「セキュリティパラメータは,ファイルを開く場所や時刻等によって,ファイルを開くことが可能か否かを制限するものである。例えば,電子ファイルであるドキュメント2を禁帯出にするために,「本社ビルより500m以内」とのセキュリティパラメータをドキュメント2に付与し,社外での閲覧を制限する」,
という記載を見ても,“ドキュメント2を開く場所や時刻については,ドキュメント2に設定されている,「本社ビルより500m以内」という位置に関するセキュリティパラメータと,現在の端末の位置とを比較することによって,ドキュメント2を開くことが可能となる”ものであって,このとき,「ドキュメント2」に設定されている「重要度」と,携帯端末の位置情報との比較判定が行われていないことは,明らかである。
一方,補正事項1?補正事項3における,
“携帯端末の記憶部に記憶されたパラメータとして,時刻又は現在位置が,予め設定された,または,ドキュメントごとに設定された重要度を満たす時にのみ,ドキュメントの復号を行う”
という表現は,“時刻又は携帯端末の現在位置と,ドキュメントごとに設定された重要度とを比較判定し,該時刻又は現在位置が,ドキュメントごとに設定された重要度を満たす時にのみ,ドキュメントの復号を行う”というものであるから,
当初明細書等に開示されている処理と,補正事項1?補正事項3における処理とは,明らかに異なるものである。

(5)以上,上記(3),及び,(4)において検討したとおり,上記(2)において指摘した,本件手続補正における,補正事項1?補正事項3は,当初明細書等に記載されたものではなく,また,当初明細書等に記載の内容から,読み取ることもできないものであるから,本件手続補正は,当初明細書等の記載の範囲内でなされたものではない。

3.補正却下むすび
したがって,本件手続補正は,特許法第17条の2第3項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって,補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
平成27年9月25日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成27年4月27日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至請求項8に記載された,上記「第2.平成27年9月25日付けの手続補正の却下の決定」の「1.補正の内容」において,補正前の請求項1乃至請求項8として引用した記載により特定されるものである。

第4.原審の拒絶理由
原審における平成27年2月27日付けの拒絶理由(以下,これを「原審拒絶理由」という)は,概略,以下のとおりである。

「 理 由

1.平成27年 1月13日付けでした手続補正は,下記の点で願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

2.この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

3.<省略>



●理由1について

携帯端末が,
「前記記憶部に記憶されたドキュメントに関連するドキュメント情報を前記ドキュメントサーバに送信するドキュメント情報送信手段と,
前記ドキュメントサーバに送信した前記ドキュメント情報に基づいて,前記ドキュメントサーバへ送信した前記ドキュメントを受信させる,一以上の機器により構成された閲覧グループを,受信閲覧グループとして前記ドキュメントサーバに通知する受信閲覧グループ通知手段」
とを備えるとの請求項1に記載された事項は,当初明細書等に記載されていない。
当初明細書等の段落[0061]には,アップロードモジュールが,暗号化されたドキュメントとドキュメント情報とをドキュメントサーバに送信することが記載されている。
段落[0057]には,受信閲覧グループ通知モジュールが,閲覧グループをドキュメントサーバへ通知することが記載されている。
また,段落[0036]には,「これらのドキュメント情報とをドキュメントサーバ200に送信し,記憶させることで,閲覧グループ9に属する端末のみがドキュメントサーバ200からドキュメント2を取得することが可能となる」と記載されており,閲覧グループを通知するというのは,ドキュメント情報を送信することであると解される。
したがって,当初明細書等には,「前記ドキュメントサーバに送信した前記ドキュメント情報に基づいて」「閲覧グループを,受信閲覧グループとして前記ドキュメントサーバに通知する」ことに対応する事項(ドキュメント情報を送信することに加えて,さらに閲覧グループを通知すること)は記載されていない。

請求項7,8,段落[0012],[0013],[0023],[0024]に記載された事項についても同様に,当初明細書等に記載されていない。

なお,当該補正がなされた請求項1-8に記載した事項は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内にないことが明らかであるから,当該請求項に係る発明については新規性,進歩性等の特許要件についての審査を行っていない。

●理由2について

・請求項6
請求項6には「前記パラメータ」と記載されているが,請求項3を引用しない請求項6について,それより前に「パラメータ」は記載されていない。

よって,請求項6に係る発明は明確でない。

●理由3について<省略>」

第5.原審拒絶理由についての当審の判断
1.理由1について
(1)原審における平成27年4月27日付けの手続補正においては,原審における平成27年1月13日付けの手続補正において補正された,請求項1,請求項7,請求項8,及び,明細書の段落【0023】,同段落【0024】についての補正は行われていない。
そこで,原審拒絶理由において指摘された,原審における平成27年1月13日付けの手続補正において付加された,
「前記記憶部に記憶されたドキュメントに関連するドキュメント情報を前記ドキュメントサーバに送信するドキュメント情報送信手段と,
前記ドキュメントサーバに送信した前記ドキュメント情報に基づいて」(以下,これを「引用記載1」という),
という記載事項を含む,請求項1の,
「前記記憶部に記憶されたドキュメントに関連するドキュメント情報を前記ドキュメントサーバに送信するドキュメント情報送信手段と,
前記ドキュメントサーバに送信した前記ドキュメント情報に基づいて,前記ドキュメントサーバへ送信した前記ドキュメントを受信させる,一以上の機器により構成された閲覧グループを,受信閲覧グループとして前記ドキュメントサーバに通知する受信閲覧グループ通知手段」(以下,これを「引用記載2」という),
という記載について以下に検討する。

(2)上記引用の請求項1の記載は,要約すると,
“ドキュメントサーバに送信したドキュメント情報に基づいて,前記サーバに送信したドキュメントを受信させる閲覧グループを,受信閲覧グループとして,前記サーバに通知する受信閲覧グループ通知手段”,
というものであって,“受信閲覧グループは,サーバに送信されたドキュメント情報に基づいて,通知される”ものである。

(3)上記(1)において引用した,引用記載2と,同等の記載は,当初明細書等には存在しない。
そこで,次に,引用記載2が,当初明細書等から読み取れるかについて,検討する。
引用記載2に記載された,「閲覧グルーブ」,及び,「受信閲覧グループ」に関して,当初明細書等には,上記hに引用した記載の他,

i.「【0012】
第1の特徴に係る発明は,ドキュメントサーバと通信可能に接続された携帯端末であって,
前記携帯端末の記憶部に記憶されたドキュメントを,暗号化し,前記ドキュメントサーバへ送信するアップロード手段と,
前記ドキュメントサーバへ送信した前記ドキュメントを受信させる,一以上の機器により構成された閲覧グループを,受信閲覧グループとして前記ドキュメントサーバに通知する受信閲覧グループ通知手段と,
前記受信閲覧グループに属する機器に対して,前記暗号化されたドキュメントの復号に要する復号情報を送信する復号情報送信手段と,
前記復号情報を受信した後,対応する暗号化されたドキュメントを展開する際には,前記復号情報を用いて復号を行うドキュメント復号手段と,
を備えた携帯端末を提供する。
【0013】
第1の特徴に係る発明によれば,ドキュメントサーバと通信可能に接続された携帯端末は,前記携帯端末の記憶部に記憶されたドキュメントを,暗号化し,前記ドキュメントサーバへ送信し,前記ドキュメントサーバへ送信した前記ドキュメントを受信させる,一以上の機器により構成された閲覧グループを,受信閲覧グループとして前記ドキュメントサーバに通知し,前記受信閲覧グループに属する機器に対して,前記暗号化されたドキュメントの復号に要する復号情報を送信し,前記復号情報を受信した後,対応する暗号化されたドキュメントを展開する際には,前記復号情報を用いて復号を行う。」

j.「【0023】
第6の特徴に係る発明は,ドキュメントサーバと通信可能に接続された携帯端末が行うドキュメント管理方法であって,
前記携帯端末の記憶部に記憶されたドキュメントを,暗号化し,前記ドキュメントサーバへ送信するステップと,
前記ドキュメントサーバへ送信した前記ドキュメントを受信させる,一以上の機器により構成された閲覧グループを,受信閲覧グループとして前記ドキュメントサーバに通知するステップと,
前記受信閲覧グループに属する機器に対して,前記暗号化されたドキュメントの復号に要する復号情報を送信するステップと,
前記復号情報を受信した後,対応する暗号化されたドキュメントを展開する際には,前記復号情報を用いて復号を行うステップと,
を備えたドキュメント管理方法を提供する。
【0024】
第7の特徴に係る発明は,ドキュメントサーバと通信可能に接続された携帯端末に,
前記携帯端末の記憶部に記憶されたドキュメントを,暗号化し,前記ドキュメントサーバへ送信するステップ,
前記ドキュメントサーバへ送信した前記ドキュメントを受信させる,一以上の機器により構成された閲覧グループを,受信閲覧グループとして前記ドキュメントサーバに通知するステップ,
前記受信閲覧グループに属する機器に対して,前記暗号化されたドキュメントの復号に要する復号情報を送信するステップ,
前記復号情報を受信した後,対応する暗号化されたドキュメントを展開する際には,前記復号情報を用いて復号を行うステップ,
を実行させる携帯端末用プログラムを提供する。」

k.「【図面の簡単な説明】
【0026】
・・・・・(中略)・・・・・
【図7】図7は,ドキュメントサーバ200が利用する閲覧グループリストの一例で ある。
【図8】図8は,ドキュメントデータベース210内のドキュメント情報テーブルの一例である。」

l.「【0028】
ドキュメント管理システム1において,携帯端末10はドキュメント2を暗号化するとともに,ドキュメントサーバ200へアップロードする。また,ドキュメント2を閲覧する権利がある他の携帯端末10A,10Bを閲覧グループ9としてドキュメントサーバ200へ通知し,携帯端末10A,10Bに対して復号のための情報を送信する。このとき,携帯端末10A,10Bのみがドキュメントサーバ200からドキュメント2をダウンロードでき,復号できる。さらに,携帯端末10がセキュリティパラメータを設定することで,ドキュメント2を閲覧するにあたって,端末の固有IDだけでなく,時刻や現在位置に応じた制限を課すことが可能である。」

m.「【0035】
ここで,携帯端末10はドキュメント2を開くことができる端末について,その集合である閲覧グループ9を特定する(ステップS03)。特定にあたっては,ユーザが都度選択してもよいし,アップロード前のドキュメント2の格納ディレクトリ等により,自動判別されてもよい。
【0036】
携帯端末10は暗号化されたドキュメント2と,これらのドキュメント情報とをドキメントサーバ200に送信し,記憶させることで,閲覧グループ9に属する端末のみがドキュメントサーバ200からドキュメント2を取得することが可能となる。携帯端末10自体は,閲覧グループ9に含まれていてもよいし,含まれていなくてもよい。また,閲覧グループ9は予め登録されていてもよいし,この段階で新たに作成されてもよい。
【0037】
次に,携帯端末10は,閲覧グループ9に属する端末に対して,ドキュメント2を復号するための情報を送信する(ステップS04)。パスワード認証の場合は,パスワードそのものを送信してもよいし,予め携帯端末10A等に記憶されたパスワードのIDを送付してもよい。また,共通鍵方式の場合は,秘密鍵そのものを通信経路で伝送するのは好ましくないので,復号に用いる秘密鍵を指定する情報のみを送信することが望ましい。
【0038】
ここにおいて,正当な権限を持つ携帯端末10A,10Bのみがドキュメントサーバ200からドキュメント2を取得可能となり(ステップS05),取得したドキュメント2を復号可能となる。一方,閲覧グループ9に属さない携帯端末10Cは,ドキュメントサーバ200からドキュメント2を取得できず,仮に通信経路を盗聴してドキュメント2を取得したとしても,復号を行うことができない。」

n.「【0050】
携帯端末10において,制御部11が所定のプログラムを読み込むことで,通信部12と協働して,アップロードモジュール15,受信閲覧グループ通知モジュール16,復号情報送信モジュール17を実現する。また,携帯端末10において,記憶部13が所定のプログラムを読み込むことで,通信部12と協働して,ドキュメント復号モジュール18,ドキュメント変換モジュール19,セキュリティパラメータ評価モジュール20を実現する。また,携帯端末10において,制御部11が所定のプログラムを読み込むことで,入出力部14と協働して,位置情報取得モジュール21,時刻取得モジュール22を実現する。」

o.「【0056】
次に,携帯端末10の受信閲覧グループ通知モジュール16は,ドキュメント2の閲覧が可能な端末の集合である,閲覧グループ9を選択する(ステップS13)。ここで選択された閲覧グループ9に含まれない端末は,ドキュメント2を閲覧することができない。
【0057】
図7は,ドキュメントサーバ200が利用する閲覧グループリストの一例である。ここで,閲覧グループリストには個々の端末が属する閲覧グループIDと,IPアドレスとが記憶されている。ここにおいて,一の端末が複数の閲覧グループに属することを妨げない。また,IPアドレスは後述する通信において用いるものであって,他の端末から通信経路の確立が可能であれば,グローバルIPアドレスであってもよいし,ローカルIPアドレスであっても,ドメイン名であってもよい。この例において,受信閲覧グループ通知モジュール16は単に閲覧を許可する閲覧グループの閲覧グループIDをドキュメントサーバ200へ通知すればよい。端末IDは,各端末において固有な値であればよく,UDIDのように端末に工場出荷時に割り振られる値のほか,端末と一対一で関連付けられたメールアドレスや,MACアドレス等を用いてもよい。」

p.「【0061】
次に,アップロードモジュール15は,前記特定された暗号方式によりドキュメントを暗号化し,暗号化されたドキュメントとセキュリティパラメータや閲覧グループ9の情報であるドキュメント情報とをドキュメントサーバ200に送信する(ステップS16)。」

q.「【0066】
最後に,携帯端末10の復号情報送信モジュール17は,ドキュメント2の復号に関する情報を,前記閲覧グループ9に属する端末に送信する(ステップS19)。ここで,端末の情報はドキュメントサーバ200から受信してもよいし,送信自体もドキュメントサーバ200を介して行ってもよい。ただし,ドキュメントサーバ200を介さずに送信を行った場合には,ドキュメントの伝送経路と復号情報の伝送経路とが異なることにより,セキュリティ上の安全性が更に高まるという利点がある。」

r.「【0071】
ドキュメントサーバ200のドキュメント送信モジュール205は,送信要求を受信し,ドキュメント記憶モジュール206が,送信要求の送信元である端末がドキュメント2の閲覧グループに含まれているか否かを判断する(ステップS23)。含まれていなかった場合(ステップS23:「NO」の場合)には,ドキュメントの送信を行わず,そのままドキュメントオープン処理を終了する。閲覧グループに含まれていた場合(ステップS23:「YES」の場合)には,ドキュメント送信モジュール205はドキュメント2を,ドキュメント情報とともに携帯端末10へ送信する(ステップS24)。携帯端末10のアップロードモジュール15は,ドキュメントサーバ200からドキュメント2と,ドキュメント情報とを受信する(ステップS25)。」

という記載が存在している。また,「基づいて」という表現については,当初明細書等には,上記aにおいて引用した,段落【0034】の記載の他,段落【0005】,及び,段落【0007】に,段落【0006】に記載の,従来技術である,特許文献1に関連して,

s.「特許文献1では,ドキュメントに対するアクセス要求があった場合には,ドキュメントに関してアクセスを許可すべきユーザを規定するライセンス情報に基づいて,保護データを編集する方法が開示されている」(段落【0005】)

t.「特許文献1によれば,保護データ及び非保護データを含む対象データに対するアクセス要求があった場合には,前記対象データに関してアクセスを許可すべきユーザを規定するライセンス情報に基づいて,保護データを編集又はアクセス禁止にする方法が開示されている」(段落【0007】)

u.「【0069】
初めに,携帯端末10のドキュメント復号モジュール18は,展開するドキュメントを特定する(ステップS21)。ここで,ドキュメントの選択はユーザの入力に基づいたものでもよいし,定時連絡のような形で,特定のドキュメントが特定の時刻に自動で選択されるものであってもよい。このドキュメントを,以降ドキュメント2とする。」

という記載が存在し,加えて,「ドキュメント情報」という表現については,上記において引用した記載の他,
段落【0026】に,
「【図8】図8は,ドキュメントデータベース210内のドキュメント情報テーブルの一例である。」,
段落【0036】に,
「携帯端末10は暗号化されたドキュメント2と,これらのドキュメント情報とをドキュメントサーバ200に送信し,記憶させることで,閲覧グループ9に属する端末のみがドキュメントサーバ200からドキュメント2を取得することが可能となる」,
段落【0051】に,
「記憶部203には,ドキュメント2及びドキュメント情報を記憶させるドキュメントデータベース210が含まれる」,
段落【0062】に,
「ドキュメント受信モジュール204は,ドキュメントとドキュメント情報とを受信する(ステップS17)。その後,ドキュメントとドキュメント情報とを,関連付けて記憶部に記憶させる」,
段落【0063】に,
「図8は,ドキュメントデータベース210内のドキュメント情報テーブルの一例である。ここでは,ドキュメントのファイル名と,ドキュメント情報とが関連付けられて記憶されている」,
段落【0073】に,
「携帯端末10のセキュリティパラメータ評価モジュール20は,受信したドキュメント情報に含まれるセキュリティパラメータを解釈し,前記取得した,セキュリティパラメータの評価に関連する情報を評価する」,
という記載が存在している。
そして,「閲覧グルーブ」,「受信閲覧グループ」,及び,「基づいて」に関連して,上記に引用した,当初明細書等の記載内容においは,
“閲覧グループを,ドキュメントサーバに送信したドキュメント情報に基づいて,受信閲覧グループとして,ドキュメントサーバに通知する”という構成を読み取ることはできず,
「ドキュメント情報」に関連して,上記に引用した,特に,上記pの,
「暗号化されたドキュメントとセキュリティパラメータや閲覧グループ9の情報であるドキュメント情報とをドキュメントサーバ200に送信する」,
という記載,上記rの,
「閲覧グループに含まれていた場合(ステップS23:「YES」の場合)には,ドキュメント送信モジュール205はドキュメント2を,ドキュメント情報とともに携帯端末10へ送信する」,
という記載,及び,上記に引用した,段落【0036】の,
「携帯端末10は暗号化されたドキュメント2と,これらのドキュメント情報とをドキュメントサーバ200に送信」,
という記載から,当初明細書等では,「ドキュメント」は,「ドキュメント情報」と共に送信されるものであって,当初明細書等における,「ドキュメント情報」に関連する記載内容をみても,「ドキュメント」が,“ドキュメント情報に基づいて,送信される”構成を読み取ることはできない。
さらに,上記引用の関連記載以外の,当初明細書等の記載内容を、併せて検討しても,引用記載2は,当初明細書等に記載されたものではない。
原審における平成27年1月13日付けの手続補正において補正された,請求項7,請求項8,及び,本願明細書の段落【0023】,同段落【0024】に含まれる,
「ドキュメントサーバに送信した前記ドキュメント情報に基づいて,前記ドキュメントサーバへ送信した前記ドキュメントを受信させる」,
という記載内容も,引用記載2と同じく,当初明細書等に記載されたものではない。
したがって,原審における平成27年1月13日付けの手続補正は,当初明細書等の記載の範囲内でなされたものではなく,原審における平成27年4月27日付けの手続補正により補正された,請求項1,請求項7,請求項8,及び,本願明細書の段落【0023】,同段落【0024】の記載は,依然として,上記指摘の記載内容を含むものであるから,原審拒絶理由において指摘した理由1は,解消していない。

2.理由2について
(1)平成27年4月27日付けの手続補正によって,平成27年1月13日付けの手続補正により補正された,請求項6が,
「前記ドキュメントごとに設定された条件に基づいて,前記パラメータを設定する条件設定手段とを備えた請求項1乃至5のいずれか一項に記載の携帯端末。」
から,
「前記ドキュメントごとに設定された条件に基づいて,前記パラメータを設定する条件設定手段とを備えた請求項3乃至5のいずれか一項に記載の携帯端末。」
に補正された。
当該補正によって,理由2が解消したかについて,以下に検討する。

(2)当該補正によって,請求項6が引用する請求項が,請求項1?請求項5であったものが,請求項3?請求項5に変更された。
当該請求項6は,「請求項3乃至5のいずれか一項」を引用するものであるから,この記載は,請求項6に係る発明が,
“請求項3を引用する請求項6”,
“請求項4を引用する請求項6”,
“請求項5を引用する請求項6”,
の何れか一つであることを示すものである。
平成27年4月27日付けの手続補正により補正された,請求項3は,「請求項1または2」を引用するものであり,同請求項4は,「請求項1乃至3のいずれか一項」を引用するものであり,そして,同請求項5は,「請求項1乃至4のいずれか一項」を引用するものであるから,このことを踏まえると,平成27年4月27日付けの手続補正により補正された請求項6は,
“請求項1を引用する請求項3を引用する請求項6”,(パターン1)
“請求項2を引用する請求項3を引用する請求項6”,(パターン2)
“請求項1を引用する請求項4を引用する請求項6”,(パターン3)
“請求項2を引用する請求項4を引用する請求項6”,(パターン4)
“請求項3を引用する請求項4を引用する請求項6”,(パターン5)
“請求項1を引用する請求項5を引用する請求項6”,(パターン6)
“請求項2を引用する請求項5を引用する請求項6”,(パターン7)
“請求項3を引用する請求項5を引用する請求項6”,(パターン8)
“請求項4を引用する請求項5を引用する請求項6”,(パターン9)
のいずれかである。
ここで,請求項6に記載の「前記パラメータ」に対して,「パラメータ」という用語を含むのは,請求項3のみである。
したがって,上記指摘のパターンの内,請求項3を含まない,パターン3,パターン4,パターン6,及び,パターン7は,請求項6の「前記パラメータ」に対応するものが,存在していない。
そして,請求項1,請求項2と,請求項1,或いは,請求項2を引用する請求項4,及び,請求項1,或いは,請求項2を引用する請求項5における,構成要素の何が,「前記パラメータ」に相当するものであるか,請求項1,請求項2,請求項4,及び,請求項5に記載の内容,本願の他の請求項に記載の内容,及び,本願明細書の発明の詳細な説明の記載内容を検討しても,不明である。
以上に検討したとおり,平成27年4月27日の手続補正後であっても,理由2は,解消していない。
よって,本願の請求項6に係る発明は,明確ではない。

第6.むすび
したがって,平成27年1月13日付けの手続補正による補正は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
加えて,本願は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

よって,結論のとおり審決する。

(附言:
<以下に記載する事項は,審決を構成するものではない。>

上記「第4.原審の拒絶理由」に引用したとおり,原審の拒絶査定の理由は,特許法17条の2第3項,及び,同36条6項2号違反であり,上記「第5.原審拒絶理由についての当審の判断」において検討したとおり,第原審拒絶理由における理由1,及び,理由2は,解消していないが,仮に,平成27年4月27日の手続補正によって,理由1,及び,理由2が解消したものとして,原審における平成26年11月18日付けの拒絶理由(以下,これを「最初の拒絶理由」という)において指摘された,進歩性について検討しておく。
なお,以下の検討事項は,上述のとおり,審決を構成するものではない。

1.引用文献に記載の発明
最初の拒絶理由に引用された,特開2009-260499号公報(平成21年11月5日公開,以下,「引用文献1」という)の,段落【0018】の,
「ネットワーク複合機1は,スキャンtoE-mail機能を有し,暗号化PDFファイル(特許請求の範囲に記載の暗号化画像ファイルに相当)を生成するとともに,該暗号化PDFファイルを電子メールに添付して,例えばクライアント端末2又はクライアント端末3に対して送信する。・・・・ネットワーク複合機1は,既読確認(MDN)情報を含む返信メールが受信されたときに,該返信メールに対して暗号化PDFファイルを復号するためのパスワードを含む電子メールを返信する」,
段落【0023】の,
「読取部13は,ユーザ要求に応じ,操作部11から入力されたパスワードを暗号キーとして,画像データを暗号化し,暗号化PDFファイルを作成する。なお,読取部13で生成された暗号化PDFファイルは電子メール送受信部20に出力される」,
段落【0025】の,
「電子メール送受信部20は,スキャンtoE-mail機能が実行される際に,読取部13で生成された暗号化PDFファイルを既読確認要求情報が付加された電子メールに添付し,操作部11から入力されたメールアドレス宛に送信する。ここで,暗号化PDFファイルが添付された電子メールが送信される際に,該電子メールのメッセージIDと,該電子メールに添付された暗号化PDFファイルのパスワードとがパスワード管理テーブルに対応付けて記録される」,
段落【0031】の,
「クライアント端末2,3は,ネットワーク複合機1から電子メールで送られたパスワードを取得し,該パスワードを復号キーとして暗号化PDFファイルを復号する機能を有している」,
段落【0045】の,
「暗号化PDFファイルを電子メールに添付して送信する例としてスキャンtoE-mail機能を挙げて説明したが,本発明の適用範囲は,スキャンtoE-mailに限られることなく,パスワードロックされたデータファイルを電子メールに添付して送信する通常の用途においても適用することができる」,
段落【0046】の,
「本発明をネットワーク複合機に適用した場合を例にして説明したが,本発明は,電子メール機能が搭載された一般的なパーソナルコンピュータ等にも適用することができる」,
等の記載と,引用文献1は,「電子メール通信装置」に関するものであって,“電子メール”の送受信においては,“メールサーバ”が存在し,該“メールサーバに対して,メールを送信する側は,送信するメールデータと,送信先のメールアドレスとを送信し,同一の内容のデータを送信する場合には,複数のメールアドレスと共に,該データを,メールサーバに送信する”という,当該技術分野における技術常識とから,引用文献1には,次の発明(以下,これを「引用発明」という)が記載されているものと認める。

「メールサーバに接続されたパーソナルコンピュータであって,
前記パーソナルコンピュータの読取部は,ユーザ要求に応じ,操作部から入力されたパスワードを暗号キーとして,データを暗号化し,暗号化ファイルを作成し,
前記暗号化ファイルは,前記パーソナルコンピュータの電子メール送受信部に出力され,
前記電子メール送受信部は,前記読取部で生成された,前記暗号化ファイルを既読確認要求情報が付加された電子メールに添付し,前記操作部から入力されたメールアドレス宛に送信し,
前記パーソナルコンピュータは,前記既読確認情報を含む返信メールが受信されたときに,前記返信メールに対して,前記暗号化ファイルを復号するためのパスワードを含む電子メールを返信するものであって,
前記メールアドレスの宛先においては,前記パーソナルコンピュータから電子メールで送られた前記パスワードを取得し,前記パスワードを復号キーとして前記暗号化ファイルを復号する,パーソナルコンピュータ。」

2.本願の請求項1に係る発明と引用発明との対比
(1)平成27年1月13日付けの手続補正により補正された請求項1に係る発明(内容は,平成27年4月27日の手続補正後の請求項1も同じ,以下,これを「本願発明」という)と,引用発明とを対比すると,
引用発明における「メールサーバ」は,「ファイル」を「パーソナルコンピュータ」から受信して,それを,宛先に転送するものであるから,本願発明における「ドキュメントサーバ」と,“配信サーバ”である点で共通し,
引用発明における「パーソナルコンピュータ」も,本願発明における「携帯端末」も,データを送信する送信元であり,「パーソナルコンピュータ」も,データを受信する受信側になり得るものであることは,明らかであるから,
引用発明における「パーソナルコンピュータ」が,本願発明における「携帯端末」に相当する。
したがって,引用発明における「メールサーバに接続されたパーソナルコンピュータ」と,
本願発明における「ドキュメントサーバと通信可能に接続された携帯端末」とは,
“配信サーバに通信可能に接続された携帯端末”である点で共通する。

(2)引用発明における「ファイル」と,本願発明における「ドキュメント」とは,
“送信データ”である点で共通し,
引用発明においては,暗号化された「ファイル」は,「パーソナルコンピュータ」内に,一旦保存されることは明らかであるから,「パーソナルコンピュータ」が,該「ファイル」を保存するための「保存部」を有することも,明らかである。
そして,引用発明においては,該「ファイル」が,宛先に送信するために,「メールサーバ」に送信されるものであって,
上記において検討した,引用発明における「保存部」が,本願発明における「記憶部」に相当するものであるから,
引用発明における「パーソナルコンピュータの読取部は,ユーザ要求に応じ,操作部から入力されたパスワードを暗号キーとして,データを暗号化し,暗号化ファイルを作成し,
前記暗号化ファイルは,前記パーソナルコンピュータの電子メール送受信部に出力され,
前記電子メール送受信部は,前記読取部で生成された,前記暗号化ファイルを既読確認要求情報が付加された電子メールに添付し,前記操作部から入力されたメールアドレス宛に送信」することと,
本願発明における「携帯端末の記憶部に記憶されたドキュメントを,暗号化し,前記ドキュメントサーバへ送信するアップロード手段」とは,
“携帯端末の記憶部に記憶された送信データを,暗号化し,前記配信サーバへ送信する送信部”を有する点で共通する。

(3)引用発明においては,「ファイル」を「宛先」を指定して送信し,該「宛先」は,1以上であって,該「宛先」に指定されているクライアント端末のみが,「ファイル」を取得することが可能であって,引用発明においても,“宛先をメールサーバに通知する通知手段”を有していると言え,
引用発明における「宛先」が,
本願発明における「受信閲覧グループ」に相当するものであるから,
引用発明における“宛先をメールサーバに通知する通知手段”と,
本願発明における「ドキュメントサーバに送信した前記ドキュメント情報に基づいて,前記ドキュメントサーバへ送信した前記ドキュメントを受信させる,一以上の機器により構成された閲覧グループを,受信閲覧グループとして前記ドキュメントサーバに通知する受信閲覧グループ通知手段」とは,
“配信サーバへ送信した配信データを受信させる,一以上の機器により構成された閲覧グループを,受信閲覧グループとして前記配信サーバに通知する受信閲覧クループ通知手段”である点で共通する。

(4)引用発明においても,「パーソナルコンピュータ」は,「宛先」に対して,「暗号化ファイルを復号するためのパスワードを含む電子メールを返信」しているので,該「パーソナルコンピュータ」が,“暗号化ファイルを復号するためのパスワードを送信する復号用情報送信手段”を有していることは,明らかであり,
引用発明における「パスワード」が,本願発明における「復号情報」に相当し,
引用発明における「復号用情報送信手段」が,本願発明における「復号情報送信手段」に相当するので,
引用発明における「パーソナルコンピュータは,前記既読確認情報を含む返信メールが受信されたときに,前記返信メールに対して,前記暗号化ファイルを復号するためのパスワードを含む電子メールを返信する」と,
本願発明における「受信閲覧グループに属する機器に対して,前記暗号化されたドキュメントの復号に要する復号情報を送信する復号情報送信手段」とは,
“受信閲覧グループに属する機器に対して,暗号化データの復号に要する復号情報を送信する復号送信手段”である点で共通する。

(5)引用発明における「パスワード」が,本願発明における「復号情報」に相当し,
引用発明においても,「暗号化ファイル」を「パスワード」を用いて「復号」するための「復号手段」を有することは,明らかであるから,
引用発明における「メールアドレスの宛先においては,前記パーソナルコンピュータから電子メールで送られた前記パスワードを取得し,前記パスワードを復号キーとして前記暗号化ファイルを復号する」と,
本願発明における「復号情報を受信した後,対応する暗号化されたドキュメントを展開する際には,前記復号情報を用いて復号を行うドキュメント復号手段」とは,
“復号情報を受信した後,対応する暗号化されたデータを展開する際には,前記復号情報を用いて,データ復号手段が復号を行う”である点で共通する。

(6)以上,(1)?(5)において検討した事項から,本願発明と,引用発明との一致点,及び,相違点は,次のとおりである。

[一致点]
配信サーバに通信可能に接続された携帯端末であって,
携帯端末の記憶部に記憶された送信データを,暗号化し,前記配信サーバへ送信する送信部と,
配信サーバへ送信した配信データを受信させる,一以上の機器により構成された閲覧グループを,受信閲覧グループとして前記配信サーバに通知する受信閲覧クループ通知手段と,
受信閲覧グループに属する機器に対して,暗号化データの復号に要する復号情報を送信する復号送信手段とからなる,携帯端末であって,
復号情報を受信した後,対応する暗号化されたデータを展開する際には,前記復号情報を用いて,データ復号手段が復号を行う,携帯端末。

[相違点1]
“配信サーバ”に関して,
本願発明においては,「ドキュメントサーバ」であるのに対して,
引用発明においては,「メールサーバ」である点。

[相違点2]
“配信データ”に関して,
本願発明においては,「ドキュメント」であるのに対して,
引用発明においては,「ファイル」である点。

[相違点3]
“送信部”に関して,
本願発明においては,「アップロード手段」であるのに対して,
引用発明においては,「メール送受信部」である点。

[相違点4]
本願発明においては,「記憶部に記憶されたドキュメントに関連するドキュメント情報を前記ドキュメントサーバに送信するドキュメント情報送信手段」を有しているのに対して,
引用発明においては,「ドキュメント情報送信手段」に相当する構成に関して,特に言及されていない点。

[相違点5]
“受信閲覧クループ通知手段”に関して,
本願発明においては,「ドキュメントサーバに送信した前記ドキュメント情報に基づいて,前記ドキュメントサーバへ送信した前記ドキュメントを受信させる,一以上の機器により構成された閲覧グループを,受信閲覧グループとして前記ドキュメントサーバに通知する」ものであるのに対して,
引用発明においては,「ドキュメントサーバに送信した前記ドキュメント情報に基づいて,前記ドキュメントサーバへ送信した前記ドキュメントを受信させる」構成について,特に言及されていない点。

[相違点6]
“データ復号手段”に関して,
本願発明においては,「データ復号手段」を,「携帯端末」が有するものあるのに対して,
引用発明においては,「暗号化ファイル」の送信元である,「パーソナルコンピュータ」が,該「暗号化ファイル」の受信側である「クライアント端末」に含まれる点について,特に,言及されておらず,したがって,該「パーソナルコンピュータ」が,「暗号化ファイル」の“復号手段”を有するか,明確には示されていない点。

3.相違点についての当審の判断
(1)[相違点1]?[相違点3]について
「ファイル」に換えて,「ドキュメント」を送信すること自体は,当業者に周知の技術事項に過ぎない(必要であれば,例えば,特開2005-165844号公報<平成17年6月23日公開>の段落【0036】?段落【0039】等参照)。
そして,引用発明における「メールサーバ」を,“「ドキュメント」の送受を仲介するサーバ”として,「ドキュメントサーバ」と呼称することは,単なる言い換えであって,技術的な特徴に関わるものではないので,サーバの使用者が適宜なし得る事項である。
そして,「メール」を,「メールサーバ」に向けて送信することを,“メールをアップロードする”と称することも,当該技術分野において,従来から用いられていた表現方法であるから(必要であれば,例えば,特開2002-259864号公報<平成14年9月13日公開>の【請求項1】,段落【0010】等,或いは,特開平11-146095号公報<平成11年5月28日公開>の段落【0014】等参照),引用発明における「メール送受信部」を,「メールアップロード手段」,或いは,「アップロード手段」と呼称することは,当業者の表現上の選択事項に過ぎない。
以上に検討したとおりであるから,[相違点1]?[相違点3]は,格別のものではない。

(2)[相違点4]について
本願発明における「ドキュメント情報」がどのようなものであるか,請求項1?請求項8に記載された事項からは,明確にならないが,本願明細書の段落【0062】?段落【0064】に記載された内容,及び,【図8】に開示された事項から,「ドキュメント」を復号できる条件,即ち,該「ドキュメント」の提供を受けられる条件であるものと解される。
そして,「ファイル」等のデータを取得する条件を,当該データの提供元から,サーバに送信するようなことは,本願の出願時点で,当業者には周知の技術事項に過ぎないから(必要であれば,例えば,特開2006-285326号公報<平成18年10月19日公開>段落【0026】,段落【0027】等参照),
引用発明においても,「ファイル」を復号できるための条件を,送信するよう構成することは,当業者が適宜なし得る事項である。
よって,[相違点4]は,格別のものではない。

(3)[相違点5],及び,[相違点6]について
[相違点5]として指摘の事項は,上記「第5.原審拒絶理由についての当審の判断」の「1.理由1について」において,“新規事項である”旨指摘した構成ではあるが,同「1.理由1について」において指摘した,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたとおりのものであるとすると,上記(2)において例示した周知技術文献の段落に記載に記載されもいるように,「ドキュメント」と,「ドキュメント情報」とを,共に送信するよう構成することは,当業者にとって周知の技術事項である。
また,暗号化されたデータを送信する場合,受信側に“復号手段”を設けるようなことは,先行技術を提示するまでもなく,当業者には周知の技術事項である。
よって,[相違点5]が,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたとおりのものであるとすれば,[相違点5],及び,[相違点6]は,格別のものではない。

(4)以上に検討したとおり,[相違点1]?[相違点6]は,格別のものではなく,そして,本願発明の構成によってもたらされる効果も,当業者であれば当然に予測可能なものに過ぎず格別なものとは認められない。
よって,平成27年4月27日付けの手続補正が,適法になされたとしても,原審における平成26年11月18日付けの拒絶理由の理由である,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない点は,解消していない。

(5)上記「第2.平成27年9月25日付けの手続補正の却下の決定」において検討した,本件手続補正は,平成27年4月27日付けの手続補正における[相違点5]に相当する補正事項を削除すると共に,同「却下の決定」において,新規事項であると指摘された補正事項を加えるものであるが,
当該補正事項が,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたとおりのものであるとした場合,原審における平成26年11月18日付けの拒絶理由において引用された,特開2008-250642号公報(平成20年10月16日公開)に,“ユーザの現在位置,現在時刻と,設定されている,位置情報,時刻情報とを比較し,一致した場合に復号が可能となる”発明が開示されているので(段落【0038】?段落【0048】,【図3】,及び,【図4】等参照),仮に,本件手続補正が適法になされていたとしても,補正後の請求項1に係る発明は,特許法29条2項の規定により特許出願の際,独立して特許を受けることができない。

(6)以上,(1)?(5)に検討した事項は,あくまで附言であって,上述のとおり,審決を構成するものではない。)
 
審理終結日 2016-09-09 
結審通知日 2016-09-13 
審決日 2016-09-27 
出願番号 特願2013-17975(P2013-17975)
審決分類 P 1 8・ 55- Z (H04L)
P 1 8・ 537- Z (H04L)
P 1 8・ 561- Z (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 打出 義尚  
特許庁審判長 高木 進
特許庁審判官 辻本 泰隆
石井 茂和
発明の名称 携帯端末、ドキュメント管理方法、携帯端末用プログラム  
代理人 小木 智彦  
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