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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66B
管理番号 1321676
審判番号 不服2016-2730  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-24 
確定日 2016-11-10 
事件の表示 特願2012- 95209「乗客コンベアおよび乗客コンベアの踏段」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月28日出願公開、特開2013-220934〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成24年4月19日の出願であって、平成27年4月22日付けで拒絶理由が通知され、平成27年6月23日に意見書が提出されるとともに同日に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたが、平成27年12月21日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成28年2月24日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年6月23日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「建築構造物の上階及び下階に跨って設置された枠体と、前記枠体内で無端状に連結され循環移動する複数の踏段とを備えた乗客コンベアであって、
前記踏段は、幅方向端部にクリート側端デマケーションを有する踏板と、隣接する踏段の踏板との間に生じる段差を覆い幅方向端部にライザー側端デマケーションを有するライザーとを有し、
前記ライザー側端デマケーションが前記クリート側端デマケーションより下方に配置されているとともに、前記ライザー側端デマケーションの前記クリート側端デマケーションとの継ぎ部に、面取り加工またはR加工が施されていることを特徴とする乗客コンベア。」

3 引用刊行物
(1)刊行物1
ア 刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物であって、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-45365号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は、理解の一助のために、当審において付したものである(後記(2)の刊行物2についても同様。)。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、動く歩道やエスカレータ等の乗客コンベアにおける乗客を搬送する踏板装置に関する。
【0002】
【従来の技術】図11は従来のエスカレータの概略構成を示す縦断側面図で、図12はその部分拡大図であって、エスカレータの踏板装置(踏段)1には、エスカレータ本体に取付けられたガイドレール2上を転動する前輪3及び後輪4が設けられており、さらに上記ガイドレール2に沿って無端状に巻装された踏段チェーン5にそれぞれ連結されている。
【0003】しかして、上記各踏板装置1は上記踏段チェーン5によって駆動され、ガイドレール2によって案内されて走行移動される。
【0004】ところで、このようなエスカレータにおいては、上記踏板装置1の移動がスムースに行われるとともに踏段チェーン5の損傷等が発生することを防止するため、踏段チェーン5や、ガイドレール2と踏板装置1の前輪3及び後輪4との間等に、通常潤滑油が手によりまたは自動給油装置により定期的に給油されている。
【0005】したがって、エスカレータの作動中にこの給油が上記踏段チェーン5からその踏段チェーン5に係合されている前輪軸6を経て踏板フレーム7の表面に伝播し、踏板8の表面側に油がにじむように浸出し表面を汚す傾向がある。特に、このようなエスカレータにおいては、踏板の帰還側においては反転し上下逆になるため、踏段チェーン5等の油の伝播経路が踏板装置1の上方に来て、自由落下により踏板フレーム7の表面側に浸出し、比較的短時間で汚染が進行する。
【0006】このようにして踏板8の表面に油が付着すると、乗客搬送中に乗客が運んで来る塵埃や設置環境の塵埃がこれに堆積するように付着する。また、上記油の汚染は踏板8の左右より進行するもので、左右に設けられている踏段チェーン5及びガイドレール2からの影響が大きく、さらにこれらの汚染状況は駅などのターミナルに使用される交通機関用等では、稼動時間及び高負荷使用時間帯が持続し、それだけ機械摩擦をもつ機構部への給油量も増える結果、給油の伝播量も比例して多くなる。
【0007】したがって、このような環境下のものでは運ばれてくる塵埃も多く、踏板の踏面部の汚染は短時間に進行する。またこの汚染は踏面ばかりでなく、踏板装置間の段差面を被うライザー9側にも発生する。
【0008】さらに、踏板装置1の内部(背面側)である踏板8及びライザー9の裏側、踏板フレーム7等は、油の伝播経路の上流側であり、油の量も多く、また塵埃も通常清掃できないので溜る量も多く、その汚れ物質は内部に油を含有するように付着する。
【0009】したがって、踏板装置1の表面側をいくら清掃しても内部から汚染物質を含んだ油が次々に表面側に浸出し、汚染が進行する。
【0010】ところで、従来の踏板装置の踏板(クリート)8及びライザー9は、エスカレータ本体に組込まれた場合、クリート8は内部側より踏板フレーム7に締結され、ライザー9は上記クリート8に係合させるとともに締結部が見えないところで踏板フレーム7に締結されており、踏板装置を単体としてエスカレータ本体から外さないと分解できない。」(段落【0001】ないし【0010】)

(イ)「【0015】
【課題を解決するための手段】第1の発明は、踏板面を構成するクリートと段差面を被うライザーを踏板フレームに取付けた乗客コンベアの踏板装置において、上記踏板フレームがコンベア本体に組込まれた状態のままで、上記クリート及びライザーを上記踏板フレームに着脱可能に装着したことを特徴とする。」(段落【0015】)

(ウ)「【0023】
【発明の実施の形態】以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の踏板装置の分解斜視図であり、その踏面装置における踏板フレーム10は、上面にクリートを装着する枠状のクリート取付部10aと、そのクリート取付部10aの一端縁からそのクリート取付部10aと直交するように下方に延びる枠状のライザー取付部10bとを有し、上記クリート取付部10aの前部とライザー取付部10bの下部とが左右一対の連結杆10cによって互いに連結され、一体として形成されている。
【0024】上記両連結杆10cの前端部にはそれぞれ前輪軸(図示せず)に嵌合する係合部11が設けられており、この係合部11が図示しない踏段チェーンに設けられた前輪軸に回動自在に係合装着されている。一方、両連結杆10cの後端部にはそれぞれ後輪12が軸装してある。また、上記クリート取付部10aにはその4つの隅部にそれぞれ上下方向の取付ねじ穴13aが形成してあり、ライザー取付部10bにもその上下左右4個所に前後方向の取付ねじ穴13bが形成されている。
【0025】ところで、上記クリート取付部10aに取付けられるクリート14には、エスカレータの進行方向と平行な多数の凹凸条14aが形成されており、さらに左右両側縁及び前端縁には注意体15a、15b,15cを取付けるための段部16が形成され、その段部16が形成されている4つの隅部にはそれぞれ上下に貫通する取付穴17aが穿設されている。
【0026】そこで、上記クリート14は、取付ねじ18をクリート14の取付穴17aに差し込み、踏板フレーム10のクリート取付部10aに形成された取付ねじ穴13aに螺合することによって踏板フレーム10に固着されている。また上記踏板フレーム10に固着されたクリート14には、上記段部16上に前記取付ねじ18の頭部が見えなくなるように注意体15a、15b,15cが載置され、それぞれ取付ねじ19によってクリート14に装着されている。
【0027】一方、ライザー20にもエスカレータの進行方向と平行でかつ隣接する踏板装置のクリートに形成されている凹凸条と噛合できるようにした凹凸条20aが形成されており、左右上下の4個所に設けられている取付穴21に挿通された取付ねじ22を前記ライザー取付部10bの取付ねじ穴13bに螺着することによって、上記ライザー20がライザー取付部10bに装着されている。
【0028】しかして、クリート14及びライザー20の踏板フレーム10への着脱はその外面側から取付ねじ18,22等を着脱するだけで容易に行うことができ、踏板フレーム10を踏段チェーン等から取外すことなく行うことができる。
【0029】すなわち、既設エスカレータにおいて、踏板装置が汚染されたとき、それを清掃するときは、踏板フレーム10がエスカレータの本体に組込まれた状態のまま、所望のクリート14、ライザー20及び注意体15a、15b,15cを分解及び再組立を行うことができる。
【0030】したがって、重い踏板装置をいちいち外す必要がなく、清掃作業時間を短くできるとともに、分解時の周囲スペースも小スペースで済む。
【0031】また、注意体をクリートに組み込んでおき、このクリートを踏板フレームに着脱するようにしてもよく、この場合には、現場における作業能率を向上させるとともに、各部品の紛失等を防止することもできる。
【0032】一方、クリートと注意体とを、それぞれ個別に踏板フレームに取付けることもでき、この場合、分解及び再組立を別々に実施でき、必要時に所要の個所を外し、清掃や部品交換を自由に実施することができる。
【0033】前記クリート14、ライザー20及び注意体15a、15b,15cが油や塵埃により汚染された場合には、前述のようにこれらを現場の既設エスカレータ本体から外し、集めて洗浄または清掃する場所に搬送して清掃する。この清掃は空気吹付け、洗浄液の吹付けまたは洗浄液中への浸漬等の方法によって行われる。また、表面処理面が劣化したものに対しては、再塗装等の表面処理を施し、再製する。
【0034】踏板装置の汚れは、乗降側の表面側のみを清掃してもすぐに裏面側の汚れを処置しておかないと油の伝播が進行し易い。そこで、上記クリート及びライザーの分解時に、その開口部から踏板フレームやエスカレータ本体内を同時に清掃することにより、汚れ度の進行を遅らせることができる。
【0035】すなわち、踏板フレーム10からクリート14及びライザー20を取外すことにより、踏板フレーム10のクリート取付部10a及びライザー取付部10bに形成されている開口部10a1 ,10b1 から踏板フレーム10内にアクセスすることができ、踏板フレーム10の内面側及び踏段チェーン等のエスカレータ本体内部の清掃を行うことができる。
【0036】既設の稼動エスカレータは、ビル等の交通機関として停止することが極めて難しい状況にあり、月に1?2度の定休日とか、或いは深夜のみとかまちまちな状況である。このような場合には短時間清掃でなければ対応ができない。そこで、本発明ではクリート及びライザー等をその場で代替品と交換することにより、極めて短時間に清潔な踏段装置を実現できる。」(段落【0023】ないし【0036】)

(エ)「【0039】図3は、本発明の他の実施の形態を示す図であり、クリート14及びライザー20が一体に形成され、断面逆L字状の一つの表被体26として構成されている。そして、上記ライザー20部の両側には注意体取付段部27が形成され、その注意体取付段部にはその上下位置に注意体28を取付けるための取付ねじ穴29及び前後に貫通する取付穴30が穿設されている。
【0040】しかして、踏板フレーム10のクリート取付部10a及びライザー取付部10bの上面及び前面側に表被体26を載置係合し、取付ねじ18を表被体24のクリート14部の取付穴17aに差し込み、踏板フレーム10のクリート取付部10aに形成された取付ねじ穴13aに螺合し、またライザー20部の取付穴30に取付ねじ22を差し込み踏板フレーム10のライザー取付部10bの取付ねじ穴13bに螺合するこによって上記表被体26が踏板フレーム10に装着されている。
【0041】そして、注意体15a、15b,15cをそれぞれクリート14の段部16に取付ねじ19によって装着するとともに、ライザー20の左右の注意体取付段部27にそれぞれ注意体28を装着し、上記注意体28に貫挿された取付ねじ31を取付ねじ穴29に螺合することによって注意体28がライザー20に固着されている。
【0042】しかして、この場合も各注意体15a,15b,15c,28を除去した後、取付ねじ18及び22を取り除くことによって、表被体26を踏板フレーム10から容易に取り外すことができる。また、その取付けも上記と逆の順序によって容易に行うことができる。
【0043】また、表被体26はクリートとライザーを一体として形成したものであるため、踏板フレームに対する取付ねじの数を少なくでき、図1に示す例と同様にその着脱を表面側から容易に行うことができる。
【0044】表被体26は断面逆L字状に形成されているため、機械強度においても剛性が増し、機械的安全性が向上する。さらに機械的強度が上るためその分軽量化できる。しかも、注意体によって表被体の取付部を被うようにしてあるため、その取付部が表面側より全く見えなく意匠的効果を向上できる。
【0045】なお、表被体と注意体を踏板フレームにそれぞれ直接取付けるようにすることもできる。この場合、それぞれ別個に清掃や交換を実施することもできる。」(段落【0039】ないし【0045】)

イ 刊行物1の記載事項及び図面の記載から分かること
以下、図11及び12に主要部の構成が示された従来の技術のエスカレータの踏板装置及び図1に主要部の構成が示された実施の形態のエスカレータの踏板装置を基本構成として参照しつつ、図3に主要部の構成が示された実施の形態のエスカレータの踏板装置に着目して検討する。
(ア)上記ア(ア)及び(ウ)の記載(特に、段落【0006】及び【0036】)によれば、刊行物1には、駅又はビル等に設置されたエスカレータが記載されていることが分かる。

(イ)上記ア(ア)及び(ウ)並びに図11及び12の記載(特に、段落【0002】、【0010】、【0033】、【0034】及び【0035】並びに図11の記載)によれば、エスカレータは、エスカレータ本体を備えていることが分かる。
そして、エスカレータとは人・貨物を昇降する階段状の搬送装置であることが本願の出願時の技術常識であり、当該技術常識並びに上記ア(ア)及び図11の記載によれば、上記エスカレータ及び上記エスカレータが備えている上記エスカレータ本体は、上階及び下階に跨って設置されることは明らかである。
これらのことを上記(ア)とあわせてみると、エスカレータは、駅又はビル等の上階及び下階に跨って設置されたエスカレータ本体を備えることが分かる。

(ウ)上記ア(ア)並びに図11及び12の記載(特に、段落【0002】、【0003】及び【0005】並びに図12の記載)によれば、エスカレータは、無端状に巻装された踏段チェーン5に連結され循環移動する複数の踏板装置1を備えることが分かる。
ここで、各踏板装置1は、無端状に連結された状態で走行移動し、反転し上下逆になった状態で帰還するのであるから、循環移動することは明らかである。

(エ)上記ア(ア)ないし(ウ)並びに図11及び12の記載(特に、段落【0010】、【0015】、【0029】及び【0035】並びに図11の記載)によれば、踏板装置1を構成する踏板8及び踏板フレーム10はエスカレータ本体に組込まれ、踏段チェーン5はエスカレータ本体内部にあることから、踏板装置1は、エスカレータ本体内にあることが分かる。

(オ)上記ア(ア)ないし(ウ)並びに図1、3、11及び12の記載(特に、段落【0007】、【0015】、【0023】及び【0027】並びに図12の記載)によれば、踏板装置1は、クリート14と、隣接する踏板装置1のクリート14との間の段差面を被うライザー20とを有することが分かる。

(カ)上記ア(ウ)及び(エ)並びに図1及び3の記載(特に、段落【0023】、【0025】、【0027】、【0039】及び【0041】並びに図1及び3の記載)によれば、上面にクリート14を装着するクリート取付部10aの一端縁からライザー取付部10bが下方に延びており、上記クリート取付部10aに取付けられる上記クリート14の左右両側縁にある段部16に注意体15a、15bが装着されており、上記ライザー取付部10bに装着される上記ライザー20の左右両側縁にある注意体取付段部27に注意体28が装着されていることから、クリート14は、左右両側縁に第1の注意体15a、15bを装着し、ライザー20は、左右両側縁に第2の注意体28を装着することが分かる。
また、上記ライザー20を介して上記第2の注意体28が装着された上記ライザー取付部10bが、上記クリート14を介して上記第1の注意体15a、15bが装着された上記クリート取付部10aから下方に延びていることから、上記第2の注意体28が上記第1の注意体15a、15bより下方に配置されていることは、明らかである。

(キ)上記ア(ウ)及び(エ)並びに図3の記載(特に、図3の記載)によれば、ライザー20に装着された第2の注意体28の上端とクリート14に装着された第1の注意体15a、15bの後端とは隣接していることが見てとれるから、踏板装置1は、上記第2の注意体28の上記第1の注意体15a、15bとの隣接部を有することが分かる。

ウ 引用発明
上記ア及び上記イを総合して、本願発明の表現にならって整理すると、刊行物1には、次の事項からなる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「駅又はビル等の上階及び下階に跨って設置されたエスカレータ本体と、前記エスカレータ本体内で無端状に巻装された踏段チェーン5に連結され循環移動する複数の踏板装置1とを備えたエスカレータであって、
前記踏板装置1は、左右両側縁に第1の注意体15a、15bを装着するクリート14と、隣接する踏板装置1のクリート14との間の段差面を被い左右両側縁に第2の注意体28を装着するライザー20とを有し、
前記第2の注意体28が前記第1の注意体15a、15bより下方に配置されているとともに、前記第2の注意体28の前記第1の注意体15a、15bとの隣接部を有するエスカレータ。」

(2)刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物であって、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭56-149968号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「さらに最近、本発明者らにより、踏面の周端四方に注意帯を設け、利用客の視覚に強く訴えて安全性を向上させたステップが提案されている。この構造を、第2図以下第6図に示す。ステツプ1は踏面となるクリート部1a、段差を塞ぐライザ部1bそしてクリート部1aの周端四方に配設された注意帯Y1とこれらを支えるステップ本体1d等で構成され、注意帯Y1の固定は、第3図に示す如きステップ本体1dに固設されている。
しかるに、このような構造ではステツプ本体1dの製品精度hおよびlと、注意帯Y1の製品精度h1およびl1とが相まつて、クリート部1aと注意帯Y1のクリート部Y1aおよびライザ部1bと注意帯Y1のライザY1bとは面一とならず、おのおのδ1,δ2だけ段差が生じる。この段差δ1およびδ2は実際上わずかであるが、エスカレータが昇り運転の場合には、第4図に示す如く上部曲線部でステツプ1がお互いに段差を減少させるべく相対運動を行う。このとき利用客の靴5が先行するステツプ1のライザ部1bに接近あるいは接触した状態にあり、利用客も気づかないでいると、第5図に示す如く相対運動により段差が減少して利用客の靴5のつま先5aは、ライザ部1bよりδ2だけ突き出した注意帯Y1のライザ部Y1bに衝突し、つま先5aの一部がはぎとられたり、あるいは注意帯Y1のライザ部Y1bの変形や折損を引き起こす場合がある。」(第1ページ右下欄第12行ないし第2ページ左上欄第19行)

4 対比
本願発明(以下、「前者」ともいう。)と引用発明(以下、「後者」ともいう。)とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者における「駅又はビル等」は前者における「建築構造物」に相当し、以下同様に、「無端状に巻装された踏段チェーンに連結され」は「無端状に連結され」に、「踏板装置1」は「踏段」に、「エスカレータ」は「乗客コンベア」に、「左右両側縁」は「幅方向端部」に、「装着する」は「有する」に、「クリート14」は「踏板」に、「隣接する踏板装置1のクリート14との間の段差面」は「隣接する踏段の踏板との間に生じる段差」に、「被い」は「覆い」に、「ライザー20」は「ライザー」に、それぞれ相当する。

・建造物の本体において一定の強度を保つために骨組み等の何らかの枠体を設けることは、本願の出願前において技術常識であり、建造物の一種であるエスカレータ本体にも何らかの枠体が設けられることは明らかであるから、後者における「エスカレータ本体」は、前者における「枠体」に相当する。

・後者における「第1の注意体15a、15b」は、クリート14の左右両端縁に装着されるものであるから、前者における「クリート側端デマケーション」に相当する。

・後者における「第2の注意体28」は、ライザー20の左右両側に装着されるものであるから、前者における「ライザー側端デマケーション」に相当する。

・後者における「隣接部」は、前者における「継ぎ部」に、「隣接部」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「建築構造物の上階及び下階に跨って設置された枠体と、前記枠体内で無端状に連結され循環移動する複数の踏段とを備えた乗客コンベアであって、
前記踏段は、幅方向端部にクリート側端デマケーションを有する踏板と、隣接する踏段の踏板との間に生じる段差を覆い幅方向端部にライザー側端デマケーションを有するライザーとを有し、
前記ライザー側端デマケーションが前記クリート側端デマケーションより下方に配置されているとともに、前記ライザー側端デマケーションの前記クリート側端デマケーションとの隣接部を有する乗客コンベア。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
本願発明においては、「前記ライザー側端デマケーションの前記クリート側端デマケーションとの継ぎ部に、面取り加工またはR加工が施され」ているのに対して、
引用発明においては、「第2の注意体28の第1の注意体15a、15bとの隣接部を有する」ものの、隣接部の具体的構成は不明である点(以下、「相違点」という。)。

5 判断
上記相違点について検討する。
刊行物2には、上記3(2)及び第1ないし5図の記載によれば、マンコンベア(本願発明の「乗客コンベア」に相当。以下、括弧内は同様。)において、ステップ1(踏段)に設けた注意帯Y1(デマケーション)のライザ部1b(ライザー)などの踏段を構成する他の部材との隣接部において段差を生じさせる突き出した注意帯Y1のライザ部Y1b(「突出部分」ということができる。)に起因して乗客やデマケーションが損害を受けるという課題(以下、「刊行物2記載の課題」という。)が記載されていると認める。
また、乗客コンベアにおいて、隣接する二部材の隣接部において段差を生じさせる突出部分に起因して乗客やデマケーションが損害を受けるという課題を解決するための手段として、隣接部に面取り加工またはR加工を施すことは、本願の出願前に周知の技術(以下、「周知技術1」という。必要であれば、特開昭51-102883号公報(特に、第2ページ左下欄第5行ないし同ページ右下欄第20行及び第8ないし10図)及び実願昭57-156051号(実開昭59-061175号)のマイクロフィルム(特に、明細書第3ページ第10行ないし第6ページ第7行及び第8ないし12図)を参照。)である。
してみると、引用発明において、隣接部についての上記刊行物2記載の課題を考慮して、上記周知技術1を適用し、第2の注意体28(本願発明の「ライザー側端デマケーション」に相当。以下、括弧内は同様。)の第1の注意体15a、15b(クリート側端デマケーション)との隣接部に面取り加工またはR加工を施すことには、格別な困難性は認められない。

また、クリート側端デマケーションとライザー側端デマケーションとを有する乗客コンベアにおいて、クリート側端デマケーションとライザー側端デマケーションとを連続して設けることは、本願の出願前に周知の技術(以下、「周知技術2」という。必要であれば、実願昭53-147159号(実開昭55-67067号)のマイクロフィルム(特に、明細書第6ページ第10ないし14行及び第6図)及び実願昭53-147171号(実開昭55-67068号)のマイクロフィルム(特に、明細書第6ページ第11行ないし第7ページ第2行及び第6図)を参照。)であるから、同じく、第1の注意体15a、15b(クリート側端デマケーション)と第2の注意体28(ライザー側端デマケーション)とを有する引用発明において、上記周知技術2を適用し、前記第2の注意体28(ライザー側端デマケーション)の前記第1の注意体15a、15b(クリート側端デマケーション)との隣接部を継ぐことには、格別な困難性は認められない。
ここで、本願の明細書及び図面の記載(特に、段落【0008】及び【0018】ないし【0021】並びに図4、5及び9の記載)によれば、本願発明における「ライザー側端デマケーションのクリート側端デマケーションとの継ぎ部」には、ライザー側端デマケーションがクリート側端デマケーションに直接面している部分のみならず、前記ライザー側端デマケーションの前記クリート側端デマケーションとの隣接部において生じた突出部分であって面取り加工またはR加工が施された部分も含まれると解されることから、引用発明において上記周知技術2を適用して隣接部を継いだ結果、引用発明において上記周知技術1を適用したものにおける隣接部の面取り加工またはR加工が施された部分も継ぎ部といえることとなる。
そうすると、引用発明において、上記周知技術1及び周知技術2を適用することにより、第2の走行注意体28(ライザー側端デマケーション)の第1の注意体15a、15b(クリート側端デマケーション)との継ぎ部に、面取り加工またはR加工が施されるようにし、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明、上記刊行物2記載の課題、周知技術1及び周知技術2から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。
したがって、本願発明は、引用発明、上記刊行物2記載の課題、周知技術1及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-01 
結審通知日 2016-09-06 
審決日 2016-09-26 
出願番号 特願2012-95209(P2012-95209)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B66B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 葛原 怜士郎  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 槙原 進
松下 聡
発明の名称 乗客コンベアおよび乗客コンベアの踏段  
代理人 井上 学  

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