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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61M
管理番号 1321714
審判番号 不服2014-18847  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-22 
確定日 2016-11-16 
事件の表示 特願2012-168231号「ハイブリッドステント」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月22日出願公開、特開2012-228569号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年1月12日(パリ条約による優先権主張 2006年1月13日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2008-549949号の一部を平成24年7月30日に新たな特許出願としたものであって、平成26年5月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年9月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後、当審において平成27年9月25日付けで拒絶の理由が通知され、平成28年4月6日付けで意見書、手続補正書及び上申書が提出されたものである。



第2 本願発明
本願の請求項1?11に係る発明は、平成28年4月6日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「管内植込み用のステントであって、
複数の短いステントセグメントと、
隣接する前記複数のステントセグメントを連結する、前記ステントの長さにわたって均一な多孔性を有する非生体吸収性多孔性ポリマー製のメッシュとを備え、
前記非生体吸収性多孔性ポリマー製のメッシュが、隣接するステントセグメント間に縦方向の柔軟性をもたらし、前記ステントセグメントが様々な設計パターンを有することを特徴とするステント。」



第3 引用文献の記載事項及び引用発明
1 引用文献2
1-1 引用文献2の記載事項
当審において通知された拒絶の理由の理由3で引用された、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である国際公開第2004/034931号(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、()内の日本語文は、引用文献2のパテントファミリーである特表2006-502770号公報の記載を援用しつつ当審が作成した翻訳文である。また、下線は当審において付与したものであり、「・・・」は記載の省略を示す。

(1-ア)
「Technical field
This invention relates to a stent assembly including an expandable tubular stent for implantation in the lumen of a body duct in order to ensure a passage therein.
(技術分野
本発明は、体内管路の内腔内に通路を確実に確保できるよう内腔内に移植するための拡張可能ないしは拡大可能な管状ステントを含むステントアセンブリに関するものである。)」(第1ページ第3?4行)

(1-イ)
「The openness of the fabric construction may be varied to suit the circumstances. Close construction fabrics can provide better (more homogeneous) support for the vessel wall and in fact the construction can be sufficiently close to provide reservoirs for liquid- based drugs between adjacent strands of the filamentary material making up the fabric.
(ファブリックの構造の開口は、環境(状況)に適合するように変えてもよい。閉構造のファブリックは、管壁の支持をより良好な(より均質な)ものとすることができ、実際に、この構造は、ファブリックを形成しているフィラメント状材料の隣り合う糸状体の間の液体ベースの薬剤の貯蔵部を形成するのに十分に密であろう。)」(第2ページ最下行?第3ページ第3行)

(1-ウ)
「In one embodiment, the fabric is applied by spinning of nanofibers, preferably electrospinning of such nanofibers, which consolidate to form the fabric. It has been found that such spinning of nanofibers may relatively easily or accurately controlled. It has also been found that fabrics produced by electrospinning of nanofibers have a low surface friction, and that such fabrics are well-suited as reservoirs to drugs, i.e. medical tubings in which the electrospun portions thereof constitute reservoirs for holding drugs. Various polymer-based materials may form the nanofibers, including polymer solutions and polymer melts. Applicable polymers are: nylon, fluoropolymers, polyolefins, polyimides, and polyesters.
(1つの実施態様では、ファブリックは、該ファブリックの形成を強化するナノファイバの紡糸により、好ましくはナノファイバの電気紡糸により取り付けられる。このようなナノファイバの紡糸は、比較的容易に又は正確に制御することができるということが見出された。また、ナノファイバの紡糸によって製造されるファブリックは表面摩擦が小さく、このファブリックは薬剤のための貯蔵部として適切であるということ、すなわちその電気紡糸された部分が薬剤を保持するための貯蔵部を形成する医療用管組織として適切であるということも見出された。ポリマ溶液やポリマ溶融物を含む種々のポリマを基材とする材料でナノファイバを形成することができる。適切なポリマとしては、ナイロン、フッ素重合体、ポリオレフィン、ポリイミド及びポリエステルなどがあげられる。)」(第3ページ第17?25行)

(1-エ)
「Figures 1 and 2 show a first embodiment of a stent assembly according to the invention in side and perspective views respectively. The assembly comprises a stent consisting of an elongate, approximately tubular body or frame defined by a plurality of tubular elements 1 aligned along a common longitudinal axis and successively joined together by a plurality of linking members 4. A stent of four elements is shown in Figures 1 and 2, however typical stents can have as few as 3 elements, or as many as 20 elements, or even more, depending upon the circumstances.
(図1及び図2は、それぞれ、本発明の第1の実施の形態に係るステントアセンブリ(ステント組立体)の側面図及び斜視図を示している。このステントアセンブリは、複数の管状部材1によって形成された長いほぼ管形の管状体又はフレームで構成されたステントを備えている。ここで、管状部材1は、共通の長手方向軸に沿って配列され、ともに複数の連結部4によって連続的に結合されている。図1及び図2においては、4つの管状部材からなるステントが示されている。しかしながら、典型的なステントは、状況に応じて、3つだけの管状部材を有するものであってもよく、また20もの管状部材を有するものであってもよく、あるいはさらに多くの管状部材を有するものであってもよい。)」(第5ページ第2行?8行)

(1-オ)
「Except at the ends, each tubular element 1 is joined to its neighbour by a single linking member 4. The number of linking members, however, need not be just one, and can range from none at all, to several, the exact number depending upon the structure of the tubular elements - in particular the number of corrugations - as well as the particular characteristics required of the stent (where there are no linking members, the tubular elements are, of course, independent of one another).
(端部を除いて、各管状部材1は、1つの連結部4によって隣の管状部材に結合されている。しかしながら、連結部4の数は、1つである必要はなく、全くなくてもよく、また数個の範囲内のいずれであってもよい。その正確な数は、管状部材の構造?とくにうねりの数?に依存するほか、ステントに要求される特定の特性に依存する(連結部が存在しない場合は、管状部材が互いに独立するのはもちろんである。)。」(第5ページ第20?25行)

(1-カ)
「The assembly further comprises a layer 5 of fabric material which completely covers the cylindrical external surface of the stent. The particular fabric material shown is of open construction and is made from multi filament yarn 6, for example polymer yarn. Optionally a liquid-based drug is soaked into the yarn and held therein by virtue of its multi-filamentary construction. Examples of suitable fabrics include non-woven fabrics such as tissue, woven fabrics and knitted fabrics. The drug used will depend upon the particular requirements. For example drugs capable of discouraging restenosis could be used.
(ステントアセンブリは、さらに、ステントの円柱形の外表面を完全に覆うファブリック材料層5を備えている。図示されている特定のファブリック材料層は、開構造のものであり、例えばポリマの糸などのマルチフィラメント糸6からつくられている。任意の選択肢として、この糸には液体ベースの薬剤が含浸され、この薬剤がそのマルチフィラメント構造により糸内に保持されるようにしてもよい。適切なファブリックの例としては、ティッシュなどの不織ファブリック、織物ファブリック及び編み物ファブリックがあげられる。用いられる薬剤は、特定の要求に依存するであろう。例えば、再狭窄を防止することができる薬剤を用いることができるであろう。)」(第5ページ最下行?第6ページ第7行)

(1-キ)
「Figures 4 and 5 illustrate, in its expanded condition, an alternative embodiment utilising the same stent as that illustrated in Figures 1 to 3, but with a layer 5 of a fabric having a relatively fine mesh - i.e. a more closed construction.
(図4及び図5は、図1?図3に示すステントと同一のステントを利用しているが、ファブリック層5は比較的目の細かい網状体である、すなわち、より閉じた構造である別の実施の形態を、拡大された状態で示している。」(第6ページ第25?27行)

(1-ク)
「The stent itself can be manufactured by any of the conventional methods (see below). Following this, the fabric layer can be applied to the unexpanded stent by various methods,・・・
(ステント自体は従来の方法(以下、参照)のいずれかにより製造することができる。これに続いて、ファブリック層は、種々の方法で、拡大していないステントに取り付けることができる。・・・)」(第7ページ第17?19行)

(1-ケ)
「In the case of an auto-expandable stent, it will be preferable to use a material with a recovery capacity, for example, stainless steel, Phynox^((R)) or nitinol.
In the case of a stent utilising a forced expansion, a material with a low elastic recovery capacity may be used to advantage. Examples are metallic materials such as tungsten, platinum, tantalum, gold, or stainless steel.
(自動的に拡大することができるステントの場合、例えば、ステンレススチール、フィノックス(登録商標、Phynox)又はニチノールなどの回復能力を備えた材料を用いるのが好ましいであろう。
強制された拡大を利用するステントの場合は、伸縮性が小さく回復能力を備えた材料を用いるのが有利であろう。具体例としては、タングステン、白金、タンタル、金又はステンレススチールなどの金属材料があげられる。)」(第9ページ第11?15行)

(1-コ)
「CLAIMS
1. A stent assembly comprising a tubular stent, an external surface of which is provided with a fabric.
2. A stent assembly according to claim 1, wherein the fabric constitutes a reservoir to hold drugs.
3. A stent assembly according to claim 1 or 2, wherein the fabric is made from a filamentary material.
4. A stent assembly according to claim 3, wherein the filamentary material includes at least one polymer.
・・・
7. A stent assembly according to any of the claims 3-5, wherein at least a portion of the fabric is produced by spinning of nanofibers.
・・・
10. A stent assembly according to any of claims 7-9, wherein the nanofibers are made from a polymer.
11. A stent assembly according to claim 10, wherein the nanofibers are made from a material selected from the group consisting of: nylon, fluoropolymers, polyolefins, polyimides, and polyesters.
12. A stent assembly according to any of the preceding claims, wherein the fabric has an openness which allows the fabric to serve as a reservoir for liquid-based drugs.
・・・
22. A method of manufacturing a stent assembly according to any of the preceding claims, comprising the steps of:
- manufacturing the stent; - applying the fabric to the stent.
(【請求項1】
外表面にファブリックが配設されている管状ステントを備えたステントアセンブリ。
【請求項2】
上記ファブリックが薬剤を保持する貯蔵部を構成している、請求項1に記載のステントアセンブリ。
【請求項3】
上記ファブリックがフィラメント状材料からつくられている、請求項1又は2に記載のステントアセンブリ。
【請求項4】
上記フィラメント状材料が少なくとも1つのポリマを含む、請求項3に記載のステントアセンブリ。
・・・
【請求項7】
上記ファブリックの少なくとも一部分がナノファイバの紡糸によってつくられている、請求項3?5のいずれか1つに記載のステントアセンブリ。
・・・
【請求項10】
上記ナノファイバがポリマからつくられている、請求項7?9のいずれか1つに記載のステントアセンブリ。
【請求項11】
上記ナノファイバが、ナイロン、フッ素重合体、ポリオレフィン、ポリイミド及びポリエステルで構成されるグループから選択された材料からつくられている、請求項10に記載のステントアセンブリ。
【請求項12】
上記ファブリックが、該ファブリックが液体を基材とする薬剤の貯蔵部として機能することを可能にする開口部を有している、請求項1?11のいずれか1つに記載のステントアセンブリ。
・・・
【請求項22】
請求項1?21のいずれか1つに記載のステントアセンブリを製造する方法であって、
ステントを製造するステップと、
ステントにファブリックを取り付けるステップとを含んでいる方法。)」(第11ページ第1行?第12ページ下から2行)


1-2 引用文献2に記載された発明
記載事項1-オにおける「端部を除いて、各管状部材1は、1つの連結部4によって隣の管状部材に結合されている。しかしながら、連結部4の数は、1つである必要はなく、全くなくてもよく、また数個の範囲内のいずれであってもよい。その正確な数は、管状部材の構造?とくにうねりの数?に依存するほか、ステントに要求される特定の特性に依存する(連結部が存在しない場合は、管状部材が互いに独立するのはもちろんである。)」との記載によれば、各管状部材1を隣の管状部材に結合する連結部4について、連結部4の数は、全くなくてもよく、連結部が存在しない場合は、管状部材が互いに独立することが理解できる。
また、「これに続いて、ファブリック層は、種々の方法で、拡大していないステントに取り付けることができる。・・・」(記載事項1-ク)、「ステントアセンブリを製造する方法であって・・・ ステントにファブリックを取り付けるステップ・・・」(記載事項1-ケ)との記載、図1?8の図示内容からみて、ファブリック層は、管状部材1に取り付けられていることは明らかである。
そうすると、技術常識を参酌すれば、連結部4が全くなく、連結部が存在しない場合は、互いに独立する管状部材1に取り付けられているファブリック層が、隣接する複数の管状部材1を連結することとなるから、引用文献2には、
(1-サ)ステントアセンブリは、複数の管状部材1と、隣接する前記複数の管状部材1を連結する、ファブリック層を備える、
構成が記載されていると認められる。

記載事項1-キには、ファブリック層について「図4及び図5は、図1?図3に示すステントと同一のステントを利用しているが、ファブリック層5は比較的目の細かい網状体である・・・」と記載されており、記載事項1-ウには、1つの実施形態として、ファブリックの材料に関し「ポリマ溶液やポリマ溶融物を含む種々のポリマを基材とする材料でナノファイバを形成することができる。適切なポリマとしては、ナイロン、フッ素重合体(fluolopolymers)、ポリオレフィン、ポリイミド及びポリエステルなどがあげられる。」と記載されているから、これらを併せ考えると、引用文献2には、
(1-シ)比較的目の細かい網状体であるファブリック層は、ポリマー製である、
構成が記載されていると認められる。

上記記載事項1-ア?1-コ、上記認定事項1-サ?1-シを、技術常識を踏まえつつ本願発明に照らして整理すると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

「体内管路の内腔内に移植するための管状ステントを含むステントアセンブリであって、
複数の管状部材と、
隣接する前記複数の管状部材を連結する、比較的目の細かい網状体であるポリマー製のファブリック層とを備える、
ステントアセンブリ。」


2 引用文献4
2-1 引用文献4の記載事項
当審において通知された拒絶の理由の理由3で引用された、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特表2005-503240号公報(以下、「引用文献4」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、「・・・」は記載の省略を示す。

(2-ア)
「【請求項1】
生理活性物質が結び付けられ、埋込部位に対する該生理活性物質の送達を調節するための埋込型の複合器具において、
(a)第1の多孔度の内腔領域と、
(b)上記内腔領域の周囲に重なる第2の多孔度の第2領域とを有し、
上記第2領域は、該複合器具を通り抜ける上記生理活性物質の送達を調節することを特徴とする複合器具。
【請求項2】
上記第2領域の内部に薬剤が包含されていることを特徴とする請求項1記載の複合器具。
・・・」(特許請求の範囲)

(2-イ)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、生理活性物質を送達するための管状埋込型人工器具に関する。詳細には、本発明は延伸ポリテトラフルオロエチレンと直径方向に変形可能な管状のステントとを組合わせることによって構成された多層管状内蔵式人工器具に関する。」(0001段落)

(2-ウ)
「【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の押出管を埋込型管腔内人工器具、特に血管グラフト、ステント、及びステント/グラフト複合器具として使用することが知られている。・・・血管に適用する場合、グラフト、ステント、及びステント/グラフト複合器具は、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)管から製造される。・・・
【0003】
ePTFEで形成されたグラフトは、横結節により中断された縦向きフィブリルに特徴がある繊維状態を示し、この繊維状態はPTFEの延伸及び膨張の過程で形成される。フィブリルが繋いでいる結節表面間の空間は結節間距離(IND)と定義される。結節及びフィブリルは、さらに、その相対位置関係により特徴付けることもできる。特に、結節は長さ、幅及び高さに特徴があり、フィブリルは直径及び長さに特徴がある。多孔性PTFEの多孔度及び透過性は、結節とフィブリルとの相対位置関係及び結節間距離によって決定される。」(0002?0003段落)

(2-エ)
「【0008】
治療薬を埋込み型ePTFE材料に包含することも公知である。・・・」(0008段落)

(2-オ)
「【0018】
図1は、ステント/グラフト複合器具10を含む本発明の好ましい実施例を示したものである。複合器具10は、内部管状部材12と、その周囲に同軸配置された外部管状部材14とを含む。内腔管12の内壁12aによってさらに定義される中央内腔18が管状複合グラフト10の端から端まで伸びており、このグラフト10が血管内に適切に埋込まれると、血液がグラフト内を通り抜けることができる。」(0018段落)

(2-カ)
「【0025】
さらに、複合器具20は、内腔領域21と外部領域23との間にステント22を挟むこともできる。上述のように、埋込み後の血管の支持を強化するため、ステントは一般的には管状器具と結合されることになる。」(0025段落)

(2-キ)
「【0031】
図3及び図6に示すような他の実施例においては、薬剤(24及び24’)を第2多孔度領域(23及び23’)に埋込むこともできる。図6は本発明の好ましい実施例を示したものである。・・・例えば、第2の層に埋込む場合に好適なマイクロスフィアの直径は約10ミクロン以下となる。このマイクロスフィアは、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)の結節の基質を連結するフィブリルの網目の内部に入れることもできる。・・・」(0031段落)

(2-ク)
「【0072】
実施例1は、ステントが間に配置されたシート/管構造を使用して行われた。この実施例は図1に示してあるが、この図1は、内部及び/又は外部ステントグラフトの上で使用されている管又はシートを示している。外部層は、節間距離約5?約10ミクロンのePTFEシートから形成されている。内部層は、節間距離約40?約60ミクロンのePTFE管状グラフトから構成されている。外部シート層は生理活性調節層の役割を果たし、ePTFEの細孔の内部に生理活性物質を含んでいた。」(0072段落)


2-2 引用文献4に記載された発明
記載事項2-オにおける「複合器具10は、内部管状部材12と、その周囲に同軸配置された外部管状部材14とを含む。」との記載、記載事項2-クにおける「外部層は、節間距離約5?約10ミクロンのePTFEシートから形成されている。内部層は、節間距離約40?約60ミクロンのePTFE管状グラフトから構成されている。」との記載を併せ考えると、引用文献4には、
(2-ケ)ePTFE管状グラフトから構成されている内部管状部材12及びePTFEシートから形成されている外部管状部材14を備える、
構成が記載されていると認められる。

記載事項2-アにおける「・・・上記内腔領域の周囲に重なる第2の多孔度の第2領域とを有し、・・・上記第2領域の内部に薬剤が包含されている・・・」との記載、記載事項2-クにおける「外部層は、節間距離約5?約10ミクロンのePTFEシートから形成されている。・・・外部シート層は生理活性調節層の役割を果たし、ePTFEの細孔の内部に生理活性物質を含んでいた。」との記載、認定事項2-ケを併せ考えると、引用文献4には、
(2-コ)ePTFEシートから形成されている外部管状部材14に薬物を包含する、
構成が記載されていると認められる。

記載事項2-ウにおける「ePTFEで形成されたグラフトは、横結節により中断された縦向きフィブリルに特徴がある繊維状態を示し、この繊維状態はPTFEの延伸及び膨張の過程で形成される。フィブリルが繋いでいる結節表面間の空間は結節間距離(IND)と定義される。・・・多孔性PTFEの多孔度及び透過性は、結節とフィブリルとの相対位置関係及び結節間距離によって決定される。」との記載によれば、記載事項2-クにおける「ePTFEシート」及び「ePTFE管状グラフト」が、「多孔性」を有する「メッシュ」であることは明らかである。また、「ePTFE」は、技術常識を参酌すれば(例えば、特開平5-269196号公報0011段落、特開2005-152178号公報0025?0028段落等参照)、「非生体吸収性」で「多孔性」の「ポリマー」であることは明らかであるから、、認定事項2-ケと併せ考えると、引用文献4には、
(2-サ)多孔性を有する非生体吸収性多孔性ポリマー製のメッシュである内部管状部材12及び多孔性を有する非生体吸収性多孔性ポリマー製のメッシュである外部管状部材14とを備える、
構成が記載されていると認められる。

上記記載事項2-ア?2-ク、上記認定事項2-ケ?2-サを、技術常識を踏まえつつ総合すると、引用文献4には、次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されている。

「ステント/グラフト複合器具であって、ステントと、多孔性を有する非生体吸収性多孔性ポリマー製のメッシュである内部管状部材12及び多孔性を有する非生体吸収性多孔性ポリマー製のメッシュである外部管状部材14とを備え、多孔性を有する非生体吸収性多孔性ポリマー製のメッシュである外部管状部材14に薬物を包含した、ステント/グラフト複合器具。」


3 引用文献3
3-1 引用文献3の記載事項
当審において通知された拒絶の理由の理由3で引用された、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である米国特許第5123917号明細書(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、()内の日本語は、当審が作成した翻訳文である。また、「・・・」は記載の省略を示す。

(3-ア)
「This invention relates to an expandable intraluminal vascular graft. More particularly, the present invention relates to a graft which is particularly useful for repairing blood vessels narrowed or occluded by disease.
(この発明は、拡張可能な管腔内血管グラフトに関する。より詳細には、本発明は、疾病により狭窄または閉塞した血管を修復するために特に有用なグラフトに関する。)」(第1欄第3?6行)

(3-イ)
「・・・the graft comprises a flexible cylindrical conduit having first and second ends, a luminal inner separate stiffening rings are each secured to one of the conduit inner and outer surfaces. The stiffening rings provide circumferential stiffness to the conduit. The stiffening rings are spaced from each other to allow the graft to be flexible along its longitudinal axis.
(・・・グラフトは、第1及び第2の端部を有する可撓性の円筒状管を含み、管腔内面の分離した強化リングは、それぞれ導管の内面および外面の一方に固定される。強化リングは、グラフトがその長手方向軸に沿って柔軟であることを可能にするために、互いに間隔を空けられる。)」(第2欄下から12?6行)

(3-ウ)
「・・・the graft includes an inner layer 10 having an inner surface or luminal surface 12 and an outer surface 14. The inner layer or membrane can be made from PTFE (polytetrafluoroethylene) or another suitable material such as porous polyurethane.
(・・・グラフトは、内側表面または内腔表面12を有する内側層10と、外側表面14を含む。内側の層または膜は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)または多孔性ポリウレタンのような他の適切な材料から作られうる。)」(第4欄下から20?15行)

(3-エ)
「The rings 30 can be secured to the inner liner 10 by a suitable means such as an adhesive layer.
(リング30は、接着層のような適切な方法により、内側ライナ10に固定されうる。)」(第5欄第25?27行)

(3-オ)
「The spacing of the rings 30 from each other allows for the maximum amount of maneuverability of the graft along its longitudinal axis while maintaining the radial stiffness of the graft. The spacing of the rings therefore allows for maximal longitudinal flexibility in order to allow the graft to enter tortuous lumens in the body, such as various vascular passages.
(リング30の互いの間隔は、グラフトの半径方向の剛性を維持しつつ、グラフトの長手方向軸に沿う最大量の操縦性を可能にする。リングの間隔は、それゆえ、さまざまな脈管路のような、体内の曲がりくねった管腔にグラフトを入れることを可能にするために、最大の長手方向柔軟性を可能にする。)」(第5欄第44?50行)


3-2 引用文献3に記載の技術事項
記載事項3-イにおける「・・・管腔内面の分離した強化リングは、それぞれ導管の内面および外面の一方に固定される。」との記載、記載事項3-ウにおける「内側の層または膜は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)または多孔性ポリウレタンのような他の適切な材料から作られうる。」との記載、記載事項3-エにおける「リング30は、接着層のような適切な方法により、内側ライナ10に固定されうる。」との記載を併せ考えると、引用文献3には、
(3-カ)PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)または多孔性ポリウレタンのような他の適切な材料から作られる内側層は、隣接する複数の補強リングを連結する、
構成が記載されていると認められる。

記載事項3-イにおける「強化リングは、グラフトがその長手方向軸に沿って柔軟であることを可能にするために、互いに間隔を空けられる。」との記載、記載事項3-オにおける「リングの間隔は、それゆえ、さまざまな脈管路のような、体内の曲がりくねった管腔にグラフトを入れることを可能にするために、最大の長手方向柔軟性を可能にする。」との記載、上記認定事項3-カを併せ考えると、引用文献3には、
(3-キ)内側層が、補強リング間に縦方向の柔軟性をもたらす、
構成が記載されていると認められる。

上記記載事項3-ア?3-オ、上記認定事項3-カ?3-キを、技術常識を踏まえつつ総合すると、引用文献3には、次の技術事項が記載されている。

「隣接する複数の補強リングを連結するPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)または多孔性ポリウレタンのような他の適切な材料から作られる内側層が、補強リング間に縦方向の柔軟性をもたらすこと。」



第4 対比
本願発明と引用発明2とを対比する。
(ア)引用発明2における「体内管路の内腔内に移植するための管状ステントを含むステントアセンブリ」は、その機能及び構成からみて、本願発明における「管内植込み用のステント」に相当する。
(イ)引用発明2における「管状部材」は、「ステントセグメント」ということができ、また、ステントアセンブリないしはファブリック層に比べて短いことは明らかであるから、引用発明2における「複数の管状部材」は、本願発明における「複数の短いステントセグメント」に相当する。
(ウ)引用発明2における「ファブリック層」は、「比較的目の細かい網状体」であって、さらに、「ファブリックの構造の開口は、環境(状況)に適合するように変えてもよい。閉構造のファブリックは、管壁の支持をより良好な(より均質な)ものとすることができ、実際に、この構造は、ファブリックを形成しているフィラメント状材料の隣り合う糸状体の間の液体ベースの薬剤の貯蔵部を形成するのに十分に密であろう。」(記載事項1-イ)との記載によれば、ファブリックを形成しているフィラメント状材料の隣り合う糸状体の間が、液体ベースの薬剤の貯蔵部として機能することが理解できるから、ファブリック層は多孔性を有していると認められる。そして、「比較的目の細かい網状体」は、「メッシュ」ということができるから、引用発明2における「比較的目の細かい網状体であるポリマー製のファブリック層」は、本願発明における「前記ステントの長さにわたって均一な多孔性を有する非生体吸収性多孔性ポリマー製のメッシュ」と、「多孔性を有する」「ポリマー製のメッシュ」の限りで共通する。

してみると、本願発明と引用発明2とは、

(一致点)
「管内植込み用のステントであって、
複数の短いステントセグメントと、
隣接する前記複数のステントセグメントを連結する、多孔性を有するポリマー製のメッシュとを備える、
ステント。」

である点で一致し、次の点で相違している。

(相違点1)
メッシュについて、本願発明は、「ステントの長さにわたって均一な多孔性を有する非生体吸収性多孔性ポリマー製のメッシュ」であるのに対し、引用発明2は、多孔性を有するポリマー製のメッシュであるものの、「ステントの長さにわたって均一な多孔性を有する」か否か不明であり、また、「非生体吸収性多孔性ポリマー製」ではない点。

(相違点2)
本願発明は、「非生体吸収性多孔性ポリマー製のメッシュが、隣接するステントセグメント間に縦方向の柔軟性をもたら」すのに対し、引用発明2は、そのような発明特定事項を有していない点。

(相違点3)
本願発明は、「前記ステントセグメントが様々な設計パターンを有する」のに対し、引用発明2は、そのような発明特定事項を有していない点。



第5 相違点についての検討
1 相違点1について
引用文献2における「ファブリックの構造の開口は、環境(状況)に適合するように変えてもよい。閉構造のファブリックは、管壁の支持をより良好な(より均質な)ものとすることができ、実際に、この構造は、ファブリックを形成しているフィラメント状材料の隣り合う糸状体の間の液体ベースの薬剤の貯蔵部を形成するのに十分に密であろう。」(記載事項1-イ)との記載を参酌すると、引用発明2におけるファブリック層は、メッシュの多孔性を利用して薬物を保持するという機能を有していることが理解できる。
そうすると、引用発明2及び引用発明4は、共にステントという共通の技術分野に属するものであり、かつ、メッシュの多孔性を利用して薬物を保持するという共通の機能を有するものである。
さらに、引用文献4の記載事項2-ウに背景技術として記載されているように、ステントの技術分野において、延伸ポリテトラフルオロエチレンのメッシュ(非生体吸収性多孔性ポリマー製のメッシュ)を用いることは本願優先権主張日前に周知の技術でもあるから、引用発明2におけるファブリック層に代えて、引用発明4における「多孔性を有する非生体吸収性多孔性ポリマー製のメッシュ」を採用することに、格別の困難性があるとはいえない。
そして、引用発明2において、メッシュの多孔性を、ステントの長さにわたってあえて不均一とすべき事情もないから、相違点1における「ステントの長さにわたって均一な多孔性を有する非生体吸収性多孔性ポリマー製のメッシュ」に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものである。

2 相違点2について
引用文献2における「端部を除いて、各管状部材1は、1つの連結部4によって隣の管状部材に結合されている。しかしながら、連結部4の数は、1つである必要はなく、全くなくてもよく、また数個の範囲内のいずれであってもよい。その正確な数は、管状部材の構造?とくにうねりの数?に依存するほか、ステントに要求される特定の特性に依存する(連結部が存在しない場合は、管状部材が互いに独立するのはもちろんである。)。」(記載事項1-オ)との記載によれば、各管状部材1を隣の管状部材に結合する連結部が存在しない場合は、管状部材が互いに独立することが理解できる。
ここで、引用発明2は、互いに独立する管状部材が、ファブリック層によって連結されるものであるところ、引用文献2には、管状部材の材料として、「例えば、ステンレススチール、フィノックス(登録商標、Phynox)又はニチノールなどの回復能力を備えた材料・・・タングステン、白金、タンタル、金又はステンレススチールなどの金属材料・・・」(記載事項1-ケ)が記載されており、技術常識を参酌すれば、ファブリック層が管状部材よりも柔軟性を有することは明らかである。
そうすると、引用発明2においても、ファブリック層が、隣接するステントセグメント間に縦方向の柔軟性をもたらすことは、当業者であれば当然に理解できることである。
そして、上記「1 相違点1について」で検討したように、引用発明2におけるファブリック層に代えて、引用発明4における「多孔性を有する非生体吸収性多孔性ポリマー製のメッシュ」を採用することに、格別の困難性があるとはいえないところ、相違点2に係る「非生体吸収性多孔性ポリマー製のメッシュが、隣接するステントセグメント間に縦方向の柔軟性をもたら」すという発明特定事項は、引用発明2におけるファブリック層に代えて、引用発明4における「多孔性を有する非生体吸収性多孔性ポリマー製のメッシュ」を採用しても、同様に得られる構成にすぎない。
さらに、引用文献3には、隣接する複数の補強リング(ステントセグメント)を連結するPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)または多孔性ポリウレタンのような他の適切な材料から作られた内側層(非生体吸収性ポリマー製のメッシュ)が、補強リング(ステントセグメント)間に縦方向の柔軟性をもたらすことが記載されているのであるから、相違点2に係る「非生体吸収性多孔性ポリマー製のメッシュが、隣接するステントセグメント間に縦方向の柔軟性をもたら」す点は、当業者が容易に想到し得たものである。

3 相違点3について
ステントセグメントが様々な設計パターンを有することは、本願優先権主張日前に周知の技術であり(例えば、特表2002-536057号公報の第12ページ下から8行?第13ページ3行、国際公開第2005/118971号第10ページ第22行?第11ページ第2行、第13ページ下から3行?第14ページ第2行(翻訳文として、特表2008-501398号公報の0030?0031段落、0041?0042段落)等参照)、また、ステントセグメントの設計パターンを均一とするか様々とするかは、当業者であれば、ステントの用途や適用部位、製造コスト等を勘案しつつ適宜選択し得る程度の事項と認められる。
したがって、引用発明2において、ステントの用途や適用部位、製造コスト等を勘案しつつ、上記周知技術を採用して、相違点3に係る「前記ステントセグメントが様々な設計パターンを有する」構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。

4 小括
よって、本願発明は、引用発明2、引用発明4、引用文献3に記載の技術事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。



第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明2、引用発明4、引用文献3に記載の技術事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-09 
結審通知日 2016-06-14 
審決日 2016-06-27 
出願番号 特願2012-168231(P2012-168231)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 永冨 宏之上田 真誠  
特許庁審判長 山口 直
特許庁審判官 土田 嘉一
熊倉 強
発明の名称 ハイブリッドステント  
復代理人 山村 昭裕  
代理人 廣田 雅紀  

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