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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
管理番号 1321766
審判番号 不服2015-15423  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-08-19 
確定日 2016-11-17 
事件の表示 特願2010-286522「画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月12日出願公開、特開2012-133216〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年12月22日に出願され、平成25年12月24日に手続補正書が提出され、平成26年9月18日付けで拒絶理由が通知され、同年11月25日に意見書及び手続補正書が提出され、平成27年5月15日付けで拒絶査定がなされ、同査定の謄本は同年5月19日に送達された。これに対して、同年8月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成28年5月13日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成28年7月14日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成28年7月14日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
複数の感光体と、
複数の感光体のそれぞれを露光するためにレーザ光を射出する複数の発光手段と、
前記複数の感光体上に形成された複数の画像が転写される像担持体と、
位置ずれ補正値を用いて、前記複数の感光体上に形成される複数の画像の位置ずれを補正する位置ずれ補正手段と、
前記像担持体上のパターン画像の位置を検知する検知手段と、
前記検知されたパターン画像の位置に基づき前記位置ずれ補正値を格納する格納手段と、
複数の条件のいずれかを満たした場合、前記複数の感光体上にパターン画像を形成させる制御手段とを有し、
前記格納手段は、
前記検知手段によって検知されたパターン画像の位置に基づく位置ずれ量が、前記満たした条件に対応する許容値より小さい場合、該位置ずれ量に基づく位置ずれ補正値を格納し、
前記検知手段によって検知されたパターン画像の位置に基づく位置ずれ量が、前記満たした条件に対応する許容値より大きい場合、該位置ずれ量に基づく位置ずれ補正値を格納せず、
前記複数の条件には第1の条件および第2の条件が含まれ、
前記第1および第2の条件に対応する許容値のそれぞれには、主走査位置に関する許容値、副走査方向に関する許容値、変倍に関する許容値および傾斜角に関する許容値が規定されており、
前記第1の条件に対応する主走査位置に関する許容値、副走査方向に関する許容値、変倍に関する許容値および傾斜角に関する許容値において少なくとも1つの許容値は他の許容値と異なり、
前記第2の条件に対応する主走査位置に関する許容値、副走査方向に関する許容値、変倍に関する許容値および傾斜角に関する許容値において少なくとも1つの許容値は他の許容値と異なり、
前記第1の条件に対応する主走査位置に関する許容値、副走査方向に関する許容値、変倍に関する許容値および傾斜角に関する許容値は、前記第2の条件に対応する主走査位置に関する許容値、副走査方向に関する許容値、変倍に関する許容値および傾斜角に関する許容値と少なくとも1つにおいて異なることを特徴とする画像形成装置。」

第3 当審拒絶理由
当審拒絶理由の理由1の概要は、次のとおりのものである。
「本願発明は、下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・特開2004-69908号公報(以下「引用文献1」という。)
・特開2005-316118号公報(以下「引用文献2」という。)
・特開2003-29490号公報(以下「引用文献3」という。)
・備考
本願発明は、引用文献1ないし3に記載の発明、及び主走査位置、副走査方向、変倍による色ずれを補正するという周知技術(周知例として、引用文献3【0036】)に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。」

第4 刊行物
1 引用文献1
当審拒絶理由に引用された引用文献1には、以下の記載がある。(下線は当審で付した。)

(1)「 【請求項1】
各々、光学部と潜像形成媒体を有する複数の画像形成手段と、形成された画像を前記複数の画像形成部を順次通過する無端状ベルト上、又は、無端状ベルト上に保持されつつ搬送される記録材上に転写する複数の転写手段と、前記無端状ベルト上に色ずれ検出用のパターンを形成する手段と、前記無端状ベルト上に形成された色ずれ検出用のパターンを検出する手段と、前記色ずれ検出用パターンの検出結果から、基準色に対する検出色の傾きを算出する手段と、前記算出された傾きから傾きの補正量を算出する手段と、前記算出された補正量に基づいて傾き補正を行う手段とを有し、
前記補正量が予め定めた規定値を越えている場合は、傾き補正を行わないことを特徴とするカラー画像形成装置の色ずれ補正装置。」

(2)「【0009】
これら色ずれを修正する為に、搬送ベルト上に、各色毎に位置ずれ検出用のパターンを形成し、搬送ベルト下流部の両サイドに設けられた1対の光センサで検出し、検出したずれ量に応じて、ずれ量の補正を実施している。」

(3)「【0013】
LD703によって発光されたレーザ光は、図示しないコリメータレンズ、シリンドリカルレンズによって平行光に変換され、一定速で回転するポリゴンミラー702によって反射し、扇状に走査され、図示しないf-θレンズを経て、回折格子701によりスキャニング領域が補正され、感光ドラム101上に走査される。この時、ポリゴンミラー702や回折格子701等の光学系の取り付け位置と、感光ドラム101の取り付け位置との関係によって色ずれが発生するのは、前述した通りである。」

(4)「【0037】
以上で求めた距離XDを用いて、図10に矢印1009で示したように回折格子701を動作させることにより、基準色に対する各色の相対的な傾きの色ずれを補正している。」

(5)「【0039】
ユーザによるドラムカートリッジ交換時や、サービスマンによるレーザスキャナ交換時に不適切な取付けを行うと、色ずれ量が異常に大きくなることが有った。」

(6)「【0049】
図において、101は静電潜像を形成する感光ドラム(101a,101b,101c,101dは各々Y,M,C,K用の感光ドラム)、102は画像信号に応じて露光を行い感光ドラム101上に静電潜像を形成するレーザスキャナ(102a,102b,102c,102dは各々Y,M,C,K用のレーザスキャナ)、103は用紙を各色の画像形成部に順次搬送する転写ベルトを兼ねた無端状の搬送ベルトで、図示しないベルトモータにより駆動される駆動ローラ104により回転駆動する。」

(7)「【0055】
なお、上記図1では、搬送ベルト3により搬送される記録媒体に感光ドラム101a,101b,101c,101d上のトナー像を順次転写する場合について説明したが、感光ドラム101a,101b,101c,101d上のトナー像を一旦中間転写ベルト上に転写した後に記録媒体の一括転写するように構成してもよい。」

(8)「【0058】
図2は本発明の第1の実施形態に係る色ずれ補正動作を説明する図である。
色ずれ補正開始後(start)、内部カウンタnを初期化する(n=0、n=n+1)。色ずれ検出用パターンを搬送ベルト103上に形成し(色ずれパターン形成)、搬送ベルト103の両サイドに設けられた1対の光センサ106で読み取る(色ずれパターン検出)。従来例で説明したような式を用いて、各色間の色ずれ量を算出する(色ずれ量算出)。従来例で説明したように色ずれ量が異常に大きい場合、これを補正すると画像及び画像形成装置に問題が発生する可能性がある。そこで、検出した色ずれ量が予め定めた規定値を越える場合は(色ずれ量>規定値)、色ずれ補正を実行せず、内部カウンタnをカウントアップし(n=n+1)、再度色ずれ検出を繰り返した後も検出した色ずれ量が予め定めた規定値を越える場合は(色ずれ量>規定値)、異常が有ると判断し、オペレーションパネルやホストコンピュータ上に異常が発生したことを表示し、ユーザやサービスマンに報知した後に(エラー報知)、色ずれ補正を終了する(End)。なお本例においては複数回確認する場合を例に取り説明したが、この限りではなく一回の確認でエラーと判断してもよい。
【0059】
検出した色ずれ量が予め定めた規定値を越えない場合は、従来例で説明したような補正方法で、算出した色ずれ量を補正する色ずれ補正量を算出し(色ずれ補正量算出)、ステッピングモータ801を動作させることで色ずれを補正し(色ずれ補正実行)、色ずれ補正を終了する(End)。
【0060】
通常、色ずれ補正動作は、色ずれが規定値異常に悪化することを避ける為に、適切なタイミングで自動実行される。よって、検出した色ずれ量が予め定めた規定値を越える場合は、ドラムカートリッジやITB、スキャナユニットの不適切な装着が行われた場合に限られる。」
(【0060】の記載の「規定値異常」は、「規定値以上」の誤記と認められる。)

(9)「【0072】
従って、スキャナ交換を行うサービスモード後の色ずれ補正の場合(サービスモード後?)、スキャナ取り付け異常による色ずれ量は比較的大きな値となる為、検出した色ずれ量が予め定められた通常より大きな規定値▲1▼を越える場合は(色ずれ量>規定値▲1▼)、サービスマンによるレーザスキャナ交換時等に、レーザスキャナが異常な状態で装着されたが為に色ずれ異常が発生したと判断し、色ずれ補正を実行せず、オペレーションパネルやホストコンピュータ上に「レーザスキャナ装着異常」が発生したことを表示し、ユーザやサービスマンに報知した後に(「レーザスキャナ装着異常」エラー報知)、色ずれ補正を終了する(End)。
【0073】
サービスモード後ではなくドアクローズ後の色ずれ補正の場合(ドアクローズ後?)、ドラムカートリッジや搬送ベルト103の取り付け異常による色ずれ量は、スキャナ交換時に発生しうる色ずれ量より小さい。従って検出した色ずれ量が予め定められた規定値▲1▼より小さい規定値▲2▼を越える場合は(色ずれ量>規定値▲2▼)、ドアオープン時にドラムカートリッジ、もしくは搬送ベルト103が異常な状態で装着されたが為に色ずれ異常が発生したと判断し、色ずれ補正を実行せず、オペレーションパネルやホストコンピュータ上に「ドラムカートリッジor搬送ベルト装着異常」が発生したことを表示し、ユーザやサービスマンに報知した後に(「ドラムカートリッジor搬送ベルト装着異常」エラー報知)、色ずれ補正を終了する(End)。」

(10)上記(8)の【0059】には、「検出した色ずれ量が予め定めた規定値を越えない場合」は、「色ずれ量を補正する色ずれ補正量を算出し」、「色ずれを補正」することが記載されているが、画像形成装置が格納手段を備えることは技術常識であり、「算出」した「色ずれ補正量」を用いて「色ずれ補正」を行うにあたって、「色ずれ補正量」を格納手段に格納する必要があることは自明である。上記(9)の【0058】には、「検出した色ずれ量が予め定めた規定値を越える場合は(色ずれ量>規定値)、色ずれ補正を実行」しないことが記載されているが、この場合には、「色ずれ補正量」を算出しないから、「色ずれ補正量」を格納手段に格納しないことも自明である。

上記(1)ないし(10)の記載を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

「Y,M,C,K用の感光ドラムと、
LDによって発光されたレーザ光が、コリメータレンズ、シリンドリカルレンズによって平行光に変換され、一定速で回転するポリゴンミラーによって反射し、扇状に走査され、f-θレンズを経て、回折格子によりスキャニング領域が補正され、感光ドラム上に走査され、画像信号に応じて露光を行い感光ドラム上に静電潜像を形成する、Y,M,C,K用のレーザスキャナと、
用紙を各色の画像形成部に順次搬送する転写ベルトを兼ねた無端状の搬送ベルトと、感光ドラム上のトナー像を一旦に転写した後に搬送ベルトにより搬送される記録媒体に一括転写する中間転写ベルトと、
算出された色ずれ補正量を用いて回折格子を動作させることにより、基準色に対する各色の相対的な傾きの色ずれを補正する手段と、
搬送ベルト上に形成した各色毎に位置ずれ検出用のパターンを検出する1対の光センサと、
1対の光センサで検出したずれ量に応じて算出した、色ずれ量を補正する色ずれ補正量を格納する格納手段と、
色ずれ補正動作を、色ずれが規定値以上に悪化することを避ける為に、適切なタイミングで自動実行し、その際に各色毎に位置ずれ検出用のパターンを形成する手段とを有し、
検出した色ずれ量が予め定めた規定値を越えない場合は、色ずれ補正量を算出して、格納手段に格納し、色ずれを補正し、
検出した色ずれ量が予め定めた規定値を越える場合は、色ずれ補正量を格納手段に格納せず、色ずれ補正を実行せず、異常が有ると判断し、
ユーザによるドラムカートリッジ交換時や、サービスマンによるレーザスキャナ交換時に不適切な取付けを行うと、色ずれ量が異常に大きくなることが有り、
サービスモード後の色ずれ補正の場合に、スキャナ取り付け異常による色ずれ量は比較的大きな値となる為、規定値を通常より大きな規定値▲1▼とし、
ドアクローズ後の色ずれ補正の場合に、ドラムカートリッジや搬送ベルトの取り付け異常による色ずれ量は、スキャナ交換時に発生しうる色ずれ量より小さい為、規定値を、規定値▲1▼より小さい規定値▲2▼とした、
画像形成装置。」

2 引用文献2
当審拒絶理由通知で引用された引用文献2には、以下の記載がある。(下線は当審で付した。)
(1)「【0016】
以下、添付図面を用いながら本発明のカラー画像形成装置を詳細に説明する。
先ず、図1は本発明を適用したカラーレーザビームプリンタの一例を示すものである。このレーザビームプリンタはイエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの各色毎にトナー像を形成する4基の作像エンジン10Y、10M、10C、10Bkを備えると共に、各作像エンジンからトナー像が一次転写される中間転写ベルト20を備え、かかる中間転写ベルト20に多重転写されたトナー像を記録シートPに二次転写してフルカラー画像を形成するように構成されている。」

(2)「【0028】
このため、この実施例のカラーレーザビームプリンタでは、各作像エンジン10Y、10M、10C、10Bkから中間転写ベルト20の表面に対して制御用マークを形成する色ずれ補正モードを行い、かかる制御用マークを制御情報検出手段1を用いて検出すると共に、その検出結果を利用して中間転写ベルト20上における各色トナー像の相対的な位置ずれ量を抽出し、実際のカラー画像の形成時における各色トナー像の形成位置の補正を行っている。この色ずれ補正モードを実行するタイミングについては後述する。
【0029】
図2は、制御用マークを用いてトナー像の形成位置を補正するための制御系を示すブロック図である。かかる制御用マークの形成に当たっては、先ず、補正モード実行部4が所定の条件に従って色ずれ補正モードの実行の要否を判断する。そして、実行が必要であると判断された場合には、補正モード実行部4がマーク基準信号発生部2に対して制御用マークに対応した画情報を出力するように指示し、マーク基準信号発生部2がラスタ走査ユニット12に対して、制御用マークに対応した画情報を出力する。これにより、感光体ドラム11上には制御用マークに対応した静電潜像が形成され、それを現像器14によってトナー現像した後、通常のトナー像と同様に中間転写ベルト20へ転写することにより、かかる中間転写ベルト20上に制御用マークMが形成される。このように制御用マークMは通常のトナー像と同じ作像プロセスを経て中間転写ベルト20上に形成されるので、その時点で各作像エンジン10Y、10M、10C、10Bkが有する問題、すなわち各作像エンジン10Y、10M、10C、10Bkにより作像されるトナー像の位置ズレ量を如実に反映したものとなる。」

(3)「【0048】
補正モードカウンタ5の計数値C=0になる場合は、例えば、工場による組立直後であって未だに画像形成動作を行っていない場合や、前述のようにフィールドエンジニアがプリンタの分解修理を行ったような場合である。この場合、補正モード実行部4はマーク基準信号発生部2に対して制御用マークMに対応した画像信号を各作像エンジン10Y、10M、10C、10Bkに供給するよう指示し、直ちに色ずれ補正モードを実行する(ST12)。ここでの色ずれ補正モードは粗調整ステップであり、完全に色ずれを解消できる程度にまでトナー像の形成位置を補正するのではない。組立完了後や分解修理後の色ずれ量は日常使用している最中に生じる色ずれ量よりも格段に大きく、この大きな色ずれ量を検出するためには、互いに隣接して中間転写ベルト20上に形成される2色の制御用マークM,Mに関し、その間隔を大きく設定しておく必要がある。従って、この粗調整ステップではトナー像の形成位置を概ね把握し、それを補正する制御が行われる。粗調整ステップが実行されると、補正モード実行部4は補正制御部3が補正データを適切に作成することができたか否かをチェックし、補正データを作成することができた場合には、粗調整ステップが正常終了したと判断する(ST13)。また、補正データを作成できなかった場合には、作像エンジンや中間転写ベルトに何かしらの異常が存在すると考えられることから、その旨を工場のライン工員若しくはフィールドエンジニアに知らせるFail処理を行い(ST1 4)、色ずれ補正モードはここで終了する。」

(4)上記(3)には、「フィールドエンジニアがプリンタの分解修理を行ったような場合」に「補正モード実行部4はマーク基準信号発生部2に対して制御用マークMに対応した画像信号を各作像エンジン10Y、10M、10C、10Bkに供給するよう指示し、直ちに色ずれ補正モードを実行する」ことが記載されている。これらの記載から、「フィールドエンジニアがプリンタの分解修理を行った」ことを条件として、この条件を満たした場合、「補正モード実行部4はマーク基準信号発生部2に対して制御用マークMに対応した画像信号を各作像エンジン10Y、10M、10C、10Bkに供給するよう指示し、直ちに色ずれ補正モードを実行する」ことは自明である。また、上記(2)【0029】の記載から、「マーク基準信号発生部2に対して制御用マークMに対応した画像信号を各作像エンジン10Y、10M、10C、10Bkに供給する」ことにより、「マーク基準信号発生部」が「各作像エンジン10Y、10M、10C、10Bkから中間転写ベルト20の表面に対して制御用マークを形成する」ことも自明である。

上記(1)ないし(4)の記載を総合すると、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。
「イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの各色毎にトナー像を形成する4基の作像エンジンを備えると共に、各作像エンジンからトナー像が一次転写される中間転写ベルトを備え、かかる中間転写ベルトに多重転写されたトナー像を記録シートに二次転写してフルカラー画像を形成するレーザビームプリンターであって、
各作像エンジンから中間転写ベルトの表面に対して制御用マークを形成する色ずれ補正モードを行い、かかる制御用マークを制御情報検出手段を用いて検出すると共に、その検出結果を利用して中間転写ベルト上における各色トナー像の相対的な位置ずれ量を抽出し、実際のカラー画像の形成時における各色トナー像の形成位置の補正を行い、
分解修理後には、色ずれ量は日常使用している最中に生じる色ずれ量よりも格段に大きいため、フィールドエンジニアがプリンタの分解修理を行った場合を条件として、この条件を満たした場合、中間転写ベルトの表面に対して制御用マークを形成するマーク基準信号発生部を備え、直ちに色ずれ補正モードを実行する
レーザビームプリンター」

3 引用文献3
当審拒絶理由通知で引用された引用文献3には、以下の記載がある。(下線は当審で付した。)

(1)「【0004】
【従来の技術】従来、複数の画像形成部を備え、各画像形成部では、像担持体としてのドラム状の電子写真感光体、即ち、感光体ドラム上にレーザビームを照射し、電子写真プロセスによって感光体ドラム上に静電潜像を形成し、この静電潜像を現像手段にて現像して可視像(トナー像)とし、各画像形成部にて形成された感光体ドラム上のトナー像を転写部にて、第二の像担持体としての、例えば中間転写体の表面に重畳転写してカラー画像を形成する画像形成装置が実用化されている。」

(2)「【0006】このため、従来より、電源オン時、感光体ドラム交換時、現像手段としての現像装置交換時、或いは、所定枚数印字後などの、レジストレーションが合わなくなる可能性が生じた場合に、補正用トナー画像を各感光体ドラム上に形成して中間転写体上に重畳転写し、この補正用トナー画像をフォトセンサやCCDセンサ等で読み取り、各色の色ずれ量を検出し、記録されるべき画像信号に機械的補正、電気的補正をかけている。」

(3)「【0008】このようなカートリッジの交換もまた、レジストレーションが合わなくなる要因のひとつである。」

(4) 「【0011】また、各カートリッジに対する上述の検出手段をもたない場合には、カートリッジ着脱時に開閉するドアが開いたことを検出した時に、カートリッジが着脱された可能性があると判断して、色ずれ補正制御を実施することになる。これは、過剰に色ずれ補正制御を行うこととなり、プリンタとしてのパフォーマンスを落とす可能性が生じる。」

(5)「【0036】色ずれ補正用トナー画像を検出した結果、搬送方向に色ずれが発生していると判断した場合は、搬送方向の書き出し位置を補正する(S103、S104)。色ずれ補正用トナー画像を検出した結果、走査方向位置に色ずれが発生していると判断した場合は、走査方向の書き出し位置を補正する(S105、106)。色ずれ補正パターンを検出した結果、走査幅要因による色ずれが発生していると判断した場合は、走査幅を補正する(S107、S108)。色ずれ補正パターンを検出した結果、走査方向の傾きの要因により、色ずれが発生していると判断した場合には、走査方向の傾きを補正する(S109、S110)。」

(6)上記(4)には、「カートリッジ着脱時に開閉するドアが開いたことを検出した時」に、「色ずれ補正制御を実施する」ことが記載されているが、カートリッジ着脱時に開閉するドアが開いている間は、カートリッジの着脱が行われるものであるから、この間に色ずれ補正制御を行うことは適切ではなく、この記載の「カートリッジ着脱時に開閉するドアが開いたことを検出した時」は、「カートリッジ着脱時に開閉するドアが閉じたことを検出した時」を意味していることは自明である。また、「検出した時」という記載は、「検出したことを条件として、この条件を満たした場合」と同じ意味であることも自明である。したがって、引用文献3の上記記載は、カートリッジ着脱時に開閉するドアが閉じたことを検出したことを条件として、この条件を満たした場合、色ずれ補正制御を実施する手段の技術的事項を開示している。

上記(1)ないし(6)を総合すると、引用文献3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されている。

「複数の画像形成部を備え、各画像形成部では、感光体ドラム上にレーザビームを照射し、電子写真プロセスによって感光体ドラム上に静電潜像を形成し、この静電潜像を現像手段にて現像して可視像(トナー像)とし、各画像形成部にて形成された感光体ドラム上のトナー像を中間転写体の表面に重畳転写してカラー画像を形成する画像形成装置において、
カートリッジの交換はレジストレーションが合わなくなる要因であり、カートリッジ着脱時に開閉するドアが閉じたことを検出したことを条件として、この条件を満たした場合、補正用トナー画像を各感光体ドラム上に形成して中間転写体上に重畳転写し、
この補正用トナー画像をフォトセンサやCCDセンサ等で読み取り、各色の色ずれ量を検出し、
記録されるべき画像信号に機械的補正、電気的補正をかける、色ずれ補正制御を実施する手段を備え、
色ずれ補正用トナー画像を検出した結果、搬送方向に色ずれが発生していると判断した場合は、搬送方向の書き出し位置を補正し、走査方向位置に色ずれが発生していると判断した場合は、走査方向の書き出し位置を補正し、走査幅要因による色ずれが発生していると判断した場合は、走査幅を補正し、走査方向の傾きの要因により、色ずれが発生していると判断した場合には、走査方向の傾きを補正する画像形成装置」

第5 対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「Y,M,C,K用の感光ドラム」は、本願発明の「複数の感光体」に相当する。
引用発明1の「LDによって発光されたレーザ光が、コリメータレンズ、シリンドリカルレンズによって平行光に変換され、一定速で回転するポリゴンミラーによって反射し、扇状に走査され、f-θレンズを経て、回折格子によりスキャニング領域が補正され、感光ドラム上に走査され、画像信号に応じて露光を行い感光ドラム上に静電潜像を形成する、Y,M,C,K用のレーザスキャナ」が備える「LD」は、本願発明の「複数の感光体のそれぞれを露光するためにレーザ光を射出する複数の発光手段」に相当する。
引用発明1の「感光ドラム上のトナー像を一旦に転写した後に搬送ベルトにより搬送される記録媒体に一括転写する中間転写ベルト」は、本願発明の「複数の感光体上に形成された複数の画像が転写される像担持体」に相当する。
引用発明1の「色ずれ補正量」は、本願発明の「位置ずれ補正値」に相当する。
引用発明1の「算出された色ずれ補正量を用いて回折格子を動作させることにより、基準色に対する各色の相対的な傾きの色ずれを補正する手段」は、本願発明の「位置ずれ補正値を用いて、複数の感光体上に形成される複数の画像の位置ずれを補正する位置ずれ補正手段」に相当する。
引用発明1の「各色毎に位置ずれ検出用のパターンを検出する1対の光センサ」は、本願発明の「パターン画像の位置を検知する検知手段」に相当する。
引用発明1の「1対の光センサで検出したずれ量に応じて算出した、色ずれ量を補正する色ずれ補正量を格納する格納手段」は、本願発明の「検知されたパターン画像の位置に基づき位置ずれ補正値を格納する格納手段」に相当する。
引用発明1の「各色毎に位置ずれ検出用のパターンを形成する手段」は、本願発明の「複数の感光体上にパターン画像を形成させる制御手段」に相当する。
引用発明1の「規定値」は、本願発明の「許容値」に相当する。
引用発明1の「検出した色ずれ量が予め定めた規定値を越えない場合は、色ずれ補正量を算出して、格納手段に格納」することは、本願発明の「検知手段によって検知されたパターン画像の位置に基づく位置ずれ量が、前記満たした条件に対応する許容値より小さい場合、該位置ずれ量に基づく位置ずれ補正値を格納」することに相当する。
引用発明1の「検出した色ずれ量が予め定めた規定値を越える場合は、色ずれ補正量を格納手段に格納」しないことは、本願発明の「検知手段によって検知されたパターン画像の位置に基づく位置ずれ量が、前記満たした条件に対応する許容値より大きい場合、該位置ずれ量に基づく位置ずれ補正値を格納」しないことに相当する。
引用発明1の「サービスモード後」は、本願発明の「第1の条件」に相当し、引用発明1の「ドアクローズ後」は、本願発明の「第2の条件」に相当する。
引用発明1の「規定値▲1▼」は、本願発明の「(第1の条件に対応する)傾斜角に関する許容値」、引用発明1の「規定値▲2▼」は、本願発明の「(第2の条件に対応する)傾斜角に関する許容値」にそれぞれ相当する。

以上より、本願発明と引用発明1とは
「複数の感光体と、
複数の感光体のそれぞれを露光するためにレーザ光を射出する複数の発光手段と、
前記複数の感光体上に形成された複数の画像が転写される像担持体と、
位置ずれ補正値を用いて、前記複数の感光体上に形成される複数の画像の位置ずれを補正する位置ずれ補正手段と、
パターン画像の位置を検知する検知手段と
前記検知されたパターン画像の位置に基づき前記位置ずれ補正値を格納する格納手段と、
複数の感光体上にパターン画像を形成させる制御手段とを有し、
前記格納手段は、
前記検知手段によって検知されたパターン画像の位置に基づく位置ずれ量が、前記満たした条件に対応する許容値より小さい場合、該位置ずれ量に基づく位置ずれ補正値を格納し、
前記検知手段によって検知されたパターン画像の位置に基づく位置ずれ量が、前記満たした条件に対応する許容値より大きい場合、該位置ずれ量に基づく位置ずれ補正値を格納せず、
複数の条件には第1の条件および第2の条件が含まれ、
第1および第2の条件に対応する許容値のそれぞれには、傾斜角に関する許容値が規定されており、
第1の条件に対応する傾斜角に関する許容値は、第2の条件に対応する傾斜角に関する許容値と異なる
画像形成装置」
である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願発明は、「像担持体上」のパターン画像の位置を検知するのに対し、引用発明1は「搬送ベルト上」のパターン画像の位置を検知する点。

[相違点2]
本願発明は、(「第1の条件および第2の条件」を含む)「複数の条件のいずれかを満たした場合に、複数の感光体上にパターン画像を形成する制御手段」を備えるのに対し、引用発明1は、「複数の感光体上にパターン画像を形成する制御手段」が、「複数の感光体上にパターン画像を形成する」ための「条件」を特定していない点。

[相違点3]
本願発明では、「前記第1および第2の条件に対応する許容値のそれぞれには、主走査位置に関する許容値、副走査方向に関する許容値、変倍に関する許容値」が「規定されており、
前記第1の条件に対応する主走査位置に関する許容値、副走査方向に関する許容値、変倍に関する許容値および傾斜角に関する許容値において少なくとも1つの許容値は他の許容値と異なり、
前記第2の条件に対応する主走査位置に関する許容値、副走査方向に関する許容値、変倍に関する許容値および傾斜角に関する許容値において少なくとも1つの許容値は他の許容値と異な」るのに対し、引用発明1は、「主走査位置に関する許容値、副走査方向に関する許容値、変倍に関する許容値」を特定していない点。

なお、本願発明の「第1の条件に対応する主走査位置に関する許容値、副走査方向に関する許容値、変倍に関する許容値および傾斜角に関する許容値は、前記第2の条件に対応する主走査位置に関する許容値、副走査方向に関する許容値、変倍に関する許容値および傾斜角に関する許容値と少なくとも1つにおいて異なる」という発明特定事項について、引用発明1との相違点を検討すると、上記のとおり本願発明と引用発明1とは、「第1の条件に対応する傾斜角に関する許容値は、第2の条件に対応する傾斜角に関する許容値と異なる」点で一致するから、本願発明は、「第1および第2の条件に対応する許容値のそれぞれには、主走査位置に関する許容値、副走査方向に関する許容値、変倍に関する許容値」が「規定されて」いるのに対し、引用発明1はこれについて特定していない点が相違点となるが、この相違点は相違点3に含まれている。

第6 判断
上記の各相違点について検討する。

1 相違点1
引用発明2は「中間転写ベルトの表面に対して制御用マークを形成」し、「制御用マークを制御情報検出手段を用いて検出する」ものである。そして、引用発明2の「中間転写ベルト」、「制御用マーク」、「制御情報検出手段」は、それぞれ本願発明の「像担持体」、「パターン画像」、「検知手段」に相当するから、引用発明2は相違点1に係る本願の発明特定事項を備えている。
引用発明3は、「補正用トナー画像を各感光体ドラム上に形成して中間転写体上に重畳転写し、この補正用トナー画像をフォトセンサやCCDセンサ等で読み取」るものである。そして、引用発明3の「中間転写体」、「補正用トナー画像」、「フォトセンサやCCDセンサ等」は、それぞれ本願発明の「像担持体」、「パターン画像」、「検知手段」に相当するから、引用発明3も相違点1に係る本願の発明特定事項を備えている。
引用発明1ないし3は、「像担持体」を備え、パターン画像を検知する点で共通してるから、引用発明1において、引用発明2、3に基づいて、パターン画像を検知する場所を「像担持体上」とすることは、当業者であれば容易に想到し得たものである。
よって、相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明1ないし3に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

2 相違点2
引用発明1は、「サービスモード後の色ずれ補正の場合」、及び「ドアクローズ後の色ずれ補正の場合」という技術的事項を備えているから、「サービスモード後」(本願発明の「第1の条件」に相当する。)、「ドアクローズ後」(本願発明の「第2の条件」に相当する。)のいずれかの条件を満たした場合に、色ずれ補正を行うよう制御する手段、すなわち「複数の感光体上に位置ずれ検出用のパターンを形成させる制御手段」を備えることが示唆されているといえる。
よって、相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明1に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

3 相違点3
当該技術分野において、「主走査位置に関する位置ずれ、副走査方向に関する位置ずれ、変倍に関する位置ずれ、傾斜角に関する位置ずれを補正すること」は、当業者に周知の事項である(周知例として当審拒絶理由で引用した引用文献3【0036】には、「色ずれ補正用トナー画像を検出した結果、搬送方向に色ずれが発生していると判断した場合は、搬送方向の書き出し位置を補正し、走査方向位置に色ずれが発生していると判断した場合は、走査方向の書き出し位置を補正し、走査幅要因による色ずれが発生していると判断した場合は、走査幅を補正し、走査方向の傾きの要因により、色ずれが発生していると判断した場合には、走査方向の傾きを補正する」という技術的事項が開示されている。引用文献3の「色ずれ補正用トナー画像」、「色ずれ」、「搬送方向」、「走査方向」、「走査幅要因」は、それぞれ本願発明の「パターン画像」、「位置ずれ」、「副走査方向」、「主走査位置」、「変倍」に相当するから、「パターン画像を検出して、主走査位置に関する位置ずれ、副走査方向に関する位置ずれ、変倍に関する位置ずれ、傾斜角に関する位置ずれを補正すること」が開示されている。)。
引用発明1と上記周知の事項とは、位置ずれを補正するという共通の機能を有しているから、引用発明1に上記周知の事項を適用することは、当業者が容易に想到し得たものである。そして、引用発明1では、傾斜角に関する色ずれ量について規定値を設定し、検出した色ずれ量が規定値を越えない場合は、色ずれ量を格納手段に格納して色ずれ補正を行い、検出した色ずれ量が規定値を越える場合は、色ずれ量を格納手段に格納せずに、色ずれ補正を行わないことを踏まえれば、主走査位置、副走査方向、変倍のそれぞれの規定値を設け、検出した色ずれ量が規定値を越えない場合は、色ずれ量を格納手段に格納し、検出した色ずれ量が規定値を越える場合は、色ずれ量を格納手段に格納しないようにすることについても、当業者が容易に想到し得たものである。
また、主走査位置、副走査方向、変倍のそれぞれの規定値を設定する際に、規定値は、主走査位置、副走査方向、変倍、傾斜といった異なる色ずれに対応するものであるから、当業者であれば当然、主走査位置、副走査方向、変倍のそれぞれの規定値を適宜異なるようにするものであって、したがって、この点は当業者が容易に想到し得た程度のものである。
よって、相違点3に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明1及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

そして、本願発明の発明特定事項の全体によって奏される効果についてみても、引用発明1ないし3及び上記周知の事項から当業者が予測し得る範囲のものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1ないし3及び上記周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-14 
結審通知日 2016-09-20 
審決日 2016-10-03 
出願番号 特願2010-286522(P2010-286522)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齋藤 卓司神田 泰貴  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 吉村 尚
植田 高盛
発明の名称 画像形成装置  
代理人 黒岩 創吾  
代理人 阿部 琢磨  

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