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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1321767
審判番号 不服2015-15551  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-08-21 
確定日 2016-11-17 
事件の表示 特願2013-188678「位相差フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月23日出願公開、特開2015- 55745〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続の経緯
本願は,平成25年9月11日に出願された特願2013-188678号であり,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成27年 1月23日:拒絶理由通知(同年2月3日発送)
平成27年 3月20日:意見書
平成27年 3月20日:手続補正書
平成27年 5月20日:拒絶査定(同年同月26日送達)
平成27年 8月21日:審判請求
平成27年 8月21日:手続補正書(以下,この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)
平成28年 6月 3日:拒絶理由通知(同年同月7日発送)
平成28年 7月22日:意見書

2 本願発明について
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりである。

「基材と,光配向材料を含む配向膜組成物を含有する配向層と,液晶化合物を含有する液晶層とを有する位相差フィルムであって,
前記基材と前記配向層の間に,該基材に対して前記配向膜組成物に含まれる前記光配向材料の一部が浸透して形成された浸透層を有し,該浸透層の厚みが10nm以上300nm以下であり,
前記浸透層上に形成される前記配向層の厚みが55nm以上である
位相差フィルム。」

3 拒絶の理由

平成28年6月3日の拒絶理由通知による拒絶の理由は,概略,本願発明は,本願の出願日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された事項に基づいて,その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用例1:特開2013-76758号公報
引用例2:特開2004-333702号公報

第2 当審判体の判断

1 引用例の記載及び引用発明

(1) 引用例1の記載
引用例1には,以下の事項が記載されている(下線は,当合議体が付した。以下同じ。)。

ア 「【請求項1】
基材上に,偏光照射により光配向性を発揮する光配向材料を含むパターン配向層を形成するためのパターン配向層用組成物であって,
前記光配向材料と,溶媒とを含有し,
前記溶媒は,前記光配向材料を溶解可能であり,かつ,酢酸ブチルを100とした場合の蒸発速度が100未満の主溶媒と,前記蒸発速度が100以上の副溶媒とを含有し,
前記溶媒中の前記副溶媒の割合が10質量%以上50質量%未満であるパターン配向層用組成物。
【請求項2】
前記主溶媒の蒸発速度が50以上であり,前記副溶媒の蒸発速度が120以上200以下である請求項1に記載のパターン配向層用組成物。
【請求項3】
前記主溶媒がプロピレングリコールモノメチルエーテルであり,前記副溶媒がイソプロピルアルコール及び/又は酢酸エチルである請求項1又は2に記載のパターン配向層用組成物。
【請求項4】
更に他の溶剤としてシクロヘキサノンを含有する請求項1から3のいずれかに記載のパターン配向層用組成物。
【請求項5】
更に密着向上剤を含有する請求項1から4のいずれかに記載のパターン配向層用組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のパターン配向層用組成物を基材上に塗布後に加熱乾燥し,更に,偏光パターン照射により異なる光配向性を有するパターン配向層を形成するパターン配向膜の製造方法。
【請求項7】
前記基材がトリアセチルセルロースである請求項6記載のパターン配向膜の製造方法。
【請求項8】
前記パターン配向層の厚さが100nm以上1000nm以下である請求項6又は7に記載のパターン配向膜の製造方法。
【請求項9】
請求項6から8のいずれかに記載の製造方法によって得られるパターン配向膜のパターン配向層上に,液晶性を示し分子内に重合性官能基を有する棒状化合物を含む位相差層を形成する工程を有するパターン位相差フィルムの製造方法。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,パターン配向層用組成物,並びにパターン配向膜及びパターン位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,三次元表示可能なフラットパネルディスプレイが注目を集め始めており,市販も始まっている。そして,今後のフラットパネルディスプレイにおいては三次元表示可能であることが,その性能として当然に求められることが予想され,三次元表示可能なフラットパネルディスプレイの検討が幅広い分野において進められている。
(中略)
【0005】
ところで,上述したようにパッシブ方式においてはパターン位相差フィルムを用いることが必須になるところ,このようなパターン位相差フィルムについてはまだ広く研究・開発が行われておらず,標準的な技術としても確立されているものがないのが現状である。その一例として,ガラス基材上に配向規制力がパターン状に制御された光配向膜と,当該光配向膜上に形成され,液晶化合物の配列が上記光配向膜のパターンに対応するようにパターニングされた位相差層とを有することが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-49865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし,特許文献1に記載のパターン位相差板は,ガラス基材を用いることが必須となっていることから,高価であり,また大面積のものを大量に製造できるというものではなく,実用性に課題が残る。
【0008】
この課題を解決するため,ガラス基材ではなく,トリアセチルセルロース(以下「TAC」という。)等のプラスチック基材を用いることも検討され,二次元表示用のフラットパネルディスプレイでは広く用いられている。しかし,TAC基材上に光配向膜を形成しようとすると,光配向性とTAC基材に対する密着性とを両立することが難しい。
【0009】
本発明は,上記事情に鑑みてなされたものであって,その目的とするところは,光配向性とTAC基材に対する密着性との両方に優れたパターン配向層用組成物を提供することである。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は,上記課題を解決するために,鋭意研究を重ねたところ,光配向材料を溶かす溶媒の組成を検討することで,光配向性とTAC基材に対する密着性との両方に優れたパターン配向層用組成物を提供できることを見出し,本発明を完成するに至った。具体的には,本発明では,以下のようなものを提供する。
【0011】
(1)本発明は,基材上に,偏光照射により光配向性を発揮する光配向材料を含むパターン配向層を形成するためのパターン配向層用組成物であって,前記光配向材料と,溶媒とを含有し,前記溶媒は,前記光配向材料を溶解可能であり,かつ,酢酸ブチルを100とした場合の蒸発速度が100未満の主溶媒と,前記蒸発速度が100以上の副溶媒とを含有し,前記溶媒中の前記副溶媒の割合が10質量%以上50質量%未満であるパターン配向層用組成物である。
【0012】
(2)また,本発明は,前記主溶媒の蒸発速度が50以上であり,前記副溶媒の蒸発速度が120以上200以下である(1)に記載のパターン配向層用組成物である。
【0013】
(3)また,本発明は,前記主溶媒がプロピレングリコールモノメチルエーテル(以下「PGME」という。)であり,前記副溶媒がイソプロピルアルコール(以下「IPA」という。)及び/又は酢酸エチルである(1)又は(2)に記載のパターン配向層用組成物である。
【0014】
(4)また,本発明は,更に他の溶剤としてシクロヘキサノン(以下「CHN」という。)を含有する(1)から(3)のいずれかに記載のパターン配向層用組成物である。
【0015】
(5)また,本発明は,更に密着向上剤を含有する(1)から(4)のいずれかに記載のパターン配向層用組成物である。
【0016】
(6)また,本発明は,(1)から(5)のいずれかに記載のパターン配向層用組成物を基材上に塗布後に加熱乾燥し,更に,偏光パターン照射により異なる光配向性を有するパターン配向層を形成するパターン配向膜の製造方法である。
【0017】
(7)また,本発明は,前記基材がTACである(6)記載のパターン配向膜の製造方法である。
【0018】
(8)また,本発明は,前記パターン配向層の厚さが100nm以上1000nm以下である(6)又は(7)に記載のパターン配向膜の製造方法である。
【0019】
(9)また,本発明は,(6)から(8)のいずれかに記載の製造方法によって得られるパターン配向膜のパターン配向層上に,液晶性を示し分子内に重合性官能基を有する棒状化合物を含む位相差層を形成する工程を有するパターン位相差フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば,光配向性とTAC基材に対する密着性との両方に優れたパターン配向層用組成物を提供できる。また,この組成物を用いてパターン配向膜及びパターン位相差フィルムを製造できる。」

エ 「【0038】
[溶媒]
本発明のパターン配向層用組成物において,光配向材料は,複数種類の溶媒に溶かされている。溶媒は,光配向材料を溶解可能であり,かつ,酢酸ブチルを100とした場合の蒸発速度が100未満の主溶媒と,蒸発速度が100以上の副溶媒とで構成される。主溶媒とは,1種類で溶媒全体に対して50質量%以上を占めるものをいい,副溶媒とは,主溶媒を除く全ての溶媒をいい,主溶媒を除く全てを合わせても溶媒全体に対して50質量%未満を占める。
【0039】
(主溶媒)
主溶媒は,光配向材料を溶解可能であり,かつ,酢酸ブチルを100とした場合の蒸発速度が100未満である。蒸発速度が100を超えると,主成分が析出しやすい構造であるため,好ましくない。一方,蒸発速度の下限は特に限定されないが,基材上にパターン配向層用組成物を塗工したときに溶媒の一部が基材に含浸し,その結果,光配向性とTAC基材に対する密着性との両方が下がり得ることから,50以上であることが好ましい。
【0040】
上記の条件を満たす主溶媒として,他の溶媒に比べて光配向材料の相溶性が高いことから,PGMEを用いることが好ましい。
【0041】
ところで,PGMEの蒸発速度は,酢酸ブチルの蒸発速度100に対して66であり,他の溶媒に比べて低い。そのため,溶媒をPGMEだけにすると,基材上にパターン配向層用組成物を塗工したときに溶媒の一部が基材に含浸し,その結果,光配向性とTAC基材に対する密着性との両方が下がり得る。そこで,主溶媒に比べて蒸発速度が高い溶媒を副溶媒として用いることが好ましい。
【0042】
(副溶媒)
副溶媒は,溶媒が基材に含浸することを防ぐために用いられる。副溶媒の蒸発速度は,100以上であることが好ましく,120以上200以下であることがより好ましい。蒸発速度が100未満であると,基材上にパターン配向層用組成物を塗工したときに溶媒の一部が基材に含浸し,その結果,光配向性とTAC基材に対する密着性との両方が下がり得るため,好ましくない。蒸発速度が200を超えると,膜面がブラッシング(白化)する可能性がある。」

オ 「【0046】
[他の溶剤]
また,必須の構成要素ではないが,本発明のパターン配向層用組成物は,溶媒の他に他の溶剤を含有することが好ましい。他の溶剤は,基材上にパターン配向層用組成物を塗工したとき,基材と化学反応を起こして基材の表面を荒らし,基材と,パターン配向層用組成物の硬化物からなるパターン配向層との密着性を高める機能を有する。
【0047】
他の溶剤の例として,シクロヘキサノン(以下「CHN」という。)が挙げられる。
【0048】
他の溶剤としてCHNを用いる場合,その量は,溶媒に対して10質量部以下であることが好ましい。CHNの蒸発速度はPGMEの蒸発速度よりも遅いため,CHNの量が10質量部を超えると,基材上にパターン配向層用組成物を塗工したときに溶媒の一部が基材に含浸し,その結果,光配向性が下がり得る点で好ましくない。
【0049】
[密着向上剤]
また,必須の構成要素ではないが,本発明のパターン配向層用組成物は,密着向上剤を含有することが好ましい。密着向上剤は,基材上にパターン配向層用組成物を塗工したとき,基材と化学反応を起こして基材の表面を荒らし,基材と,パターン配向層用組成物の硬化物からなる配向層との密着性を高める機能を有する。
【0050】
密着向上剤の例として,ペンタエリスリトールテトラアクリレート(以下「PETA」という。)等の多官能アクリレートが挙げられる。
【0051】
PETA等を密着向上剤として用いる場合,その量は,光配向材料の合計100質量部に対して25質量部以下であることが好ましい。PETAの蒸発速度はPGMEの蒸発速度よりも遅いため,密着向上剤の量が25質量部を超えると,基材上にパターン配向層用組成物を塗工したときに溶媒の一部が基材に含浸し,その結果,光配向性が下がり得る点で好ましくない。」

カ 「【0054】
[基材11]
基材11は,透明フィルム材であり,パターン配向層12を支持する機能を有し,長尺に形成されている。
【0055】
基材11は,位相差が小さいことが好ましく,面内位相差(面内レターデーション値,以下「Re値」ともいう。)が,0nm?10nmの範囲内であることが好ましく,0nm?5nmの範囲内であることがより好ましく,0nm?3nmの範囲内であることがさらに好ましい。Re値が10nmを超えると,パターン配向膜を用いたフラットパネルディスプレイの表示品質が悪くなる可能性がある点で好ましくない。
【0056】
ここで,Re値とは,屈折率異方体の面内方向における複屈折性の程度を示す指標をいい,面内方向において屈折率が最も大きい遅相軸方向の屈折率をNx,遅相軸方向に直交する進相軸方向の屈折率をNy,屈折率異方体の面内方向に垂直な方向の厚さをdとした場合に,
Re[nm]=(Nx-Ny)×d[nm]
で表わされる値である。Re値は,例えば,位相差測定装置KOBRA-WR(王子計測機器社製)を用い,平行ニコル回転法により測定することができる。また,本明細書においては,特に別段の記載をしない限り,Re値は波長589nmにおける値を意味するものとする。
【0057】
基材11の可視光領域における透過率は,80%以上であることが好ましく,90%以上であることがより好ましい。ここで,透明フィルム基材の透過率は,JIS K7361-1(プラスチック-透明材料の全光透過率の試験方法)により測定することができる。
【0058】
基材11は,ロール状に巻き取ることができる可撓性を有するフレキシブル材であることが好ましい。このようなフレキシブル材としては,セルロース誘導体,ノルボルネン系ポリマー,シクロオレフィン系ポリマー,ポリメチルメタクリレート,ポリビニルアルコール,ポリイミド,ポリアリレート,ポリエチレンテレフタレート,ポリスルホン,ポリエーテルスルホン,アモルファスポリオレフィン,変性アクリル系ポリマー,ポリスチレン,エポキシ樹脂,ポリカーボネート,ポリエステル類等を例示することができる。中でも,光学的等方性に優れ,光学的特性に優れたパターン配向膜を製造できる点でセルロース誘導体を用いることが好ましい。
【0059】
上記セルロース誘導体の中でも,工業的に広く用いられ,入手が容易である点で,セルロースエステルを用いることが好ましく,セルロースアシレート類を用いることがより好ましい。
【0060】
上記セルロースアシレート類としては,炭素数2?4の低級脂肪酸エステルが好ましい。低級脂肪酸エステルとしては,例えばセルロースアセテートのように,単一の低級脂肪酸エステルのみを含むものでもよく,また,例えばセルロースアセテートブチレートやセルロースアセテートプロピオネートのような複数の脂肪酸エステルを含むものであってもよい。
【0061】
低級脂肪酸エステルの中でも,セルロースアセテートを特に好適に用いることができる。セルロースアセテートとしては,平均酢化度が57.5%?62.5%(置換度:2.6?3.0)のTACを用いることが最も好ましい。ここで,酢化度とは,セルロース単位質量当りの結合酢酸量を意味する。酢化度は,ASTM:D-817-91(セルロースアセテート等の試験方法)におけるアセチル化度の測定及び計算により求めることができる。なお,TACの酢化度は,フィルム中に含まれる可塑剤等の不純物を除去した後,上記の方法により求めることができる。
【0062】
基材11の厚さは,パターン配向膜を用いて製造される位相差フィルムの用途等に応じて,当該位相差フィルムに必要な自己支持性を付与できる範囲内であれば特に限定されないが,通常,25μm?125μmの範囲内であることが好ましく,40μm?100μmの範囲内であることがより好ましく,60μm?80μmの範囲内であることがさらに好ましい。25μm未満であると,位相差フィルムに必要な自己支持性を付与できない場合があり,好ましくない。125μmを超えると,位相差フィルムが長尺状である場合,長尺状の位相差フィルムを裁断加工し,枚葉の位相差フィルムとする際に,加工屑が増加したり,裁断刃の磨耗が早くなってしまう場合があり,好ましくない。
【0063】
基材11は,単一の層からなる構成に限られるものではなく,複数の層が積層された構成を有してもよい。複数の層が積層された構成を有する場合は,同一組成の層が積層されてもよく,また,異なった組成を有する複数の層が積層されてもよい。」

キ 「【0064】
[パターン配向層12]
パターン配向層12は,上記パターン配向層用組成物の硬化物からなり,2種類の配向パターンを交互に有する。図2は,配向パターンの形成手法を模式的に示した図である。配向パターンの詳細は,後の「パターン配向膜の製造方法」の項において詳しく説明するが,基材11上に上記パターン配向層用組成物を塗工し,このパターン配向層用組成物を加熱乾燥させて薄膜状のパターン配向層形成用層12’を形成した後,図2の(A)に示すように,右目用の領域に対応する第1配向準備領域12’Aを遮光せず,左目用の領域に対応する第2配向準備領域12’Bだけを遮光したマスク11を介して,直線偏光による紫外線(偏光紫外線)をパターン配向層形成用層12’に向けて照射することにより,遮光されていない第1配向準備領域12’Aを所望の方向に配向させた後,図2の(B)に示すように,1回目の照射とは偏光方向が90度異なる直線偏光により紫外線をパターン配向層形成用層12’の全面に照射し,1回目の照射では未露光の第2配向準備領域12’Bを所望の方向に配向させる。これら2回の紫外線照射により,2種類の配向パターンを有するパターン配向層12が形成される。
【0065】
図2の例では,まず第1配向準備領域12’Aに偏光紫外線を照射し,その後,第2配向準備領域12’Bに偏光紫外線を照射しているが,この順番に限るものではなく,まず第2配向準備領域12’Bに偏光紫外線を照射し,その後,第1配向準備領域12’Aに偏光紫外線を照射してもよい。
【0066】
パターン配向層12の厚さは,棒状化合物に対して所望の配向規制力を発現できる範囲内であれば特に限定されるものではないが,100nm?1000nmの範囲内であることが好ましい。100nm未満であると,棒状化合物に対して所望の配向規制力を発現できない可能性があるため,好ましくない。1000nmを超えると,密着力が低減する可能性があるため,好ましくない。」

ク 「【0067】
<パターン位相差フィルム2>
図3は,本実施形態に係るパターン位相差フィルム2を示す図である。なお,以下では「パターン位相差」を「位相差」と略記するが,特に断りがない限り,「位相差」は,「パターン位相差」と同義である。位相差フィルム2は,パターン配向膜1のパターン配向層12上に,液晶性を示し分子内に重合性官能基を有する棒状化合物を含む位相差層13がさらに形成される。
【0068】
[位相差層13]
位相差層13は,液晶性を示し分子内に重合性官能基を有する棒状化合物を含む。位相差層13は,上記配向パターンに沿って形成されるため,右目用の領域に対応する第1位相差領域4Aと,左目用の領域に対応する第2位相差領域4Bとを有する。」

ケ 「【図3】



コ 「【0086】
<パターン配向膜1の製造方法>
パターン配向膜1は,次の工程を経て製造される。まず,ロールに巻き取った長尺フィルムにから基材11を提供し,この基材11上に上記パターン配向層用組成物を塗工する組成物塗工処理を行う。続いて,この組成物を熱硬化させて薄膜状のパターン配向層形成用層12’を形成するパターン配向層形成用層形成処理を行う。続いて,パターン配向層形成用層12’に対して紫外線を照射する紫外線照射処理を行う。これらの処理によってパターン配向層12が形成され,結果としてパターン配向膜1が形成される。
【0087】
[組成物塗工処理]
まず,基材11の提供にあたっては,長尺フィルムを連続的に搬送できるものであれば,特に限定されるものではなく,一般的な搬送手段を用いる方法を用いることができる。具体的には,ロール状の長尺フィルムを供給する巻き出し機及び長尺フィルムを巻き取る巻き取り機等を用いる方法,ベルトコンベア,搬送用ロール等を用いる方法を挙げることができる。また,エアの吐出と吸引とを行うことにより,長尺配向膜形成用フィルムを浮上させた状態で搬送する浮上式搬送台を用いる方法であっても良い。
【0088】
また,搬送時の長尺フィルムへのテンション付与の有無については,長尺フィルムを安定的に連続搬送できる方法であれば特に限定されるものではないが,所定のテンションを加えた状態で搬送されることが好ましい。より安定的に連続搬送することができるからである。
【0089】
搬送手段の色としては,長尺フィルムに偏光紫外線が照射される部位に配置される場合には,長尺フィルムを透過した偏光紫外線を反射しない色であることが好ましい。具体的には,黒色であることが好ましい。このような黒色とする方法としては,例えば,表面をクロム処理する方法を挙げることができる。
【0090】
搬送用ロールの形状としては,安定的に長尺フィルムを搬送することができるものであれば特に限定されるものではないが,長尺フィルムに偏光紫外線が照射される部位に配置される場合には,長尺フィルムの表面と,紫外線照射装置との距離を一定に保つことができるものであることが好ましく,通常,真円形状であることが好ましい。
【0091】
パターン配向層用組成物の塗工は,基材11上にパターン配向層形成用層12’を所望の厚さで形成できるものであれば特に限定されるものではなく,グラビアコート法,リバースコート法,ナイフコート法,ディップコート法,スプレーコート法,エアーナイフコート法,スピンコート法,ロールコート法,プリント法,浸漬引き上げ法,カーテンコート法,ダイコート法,キャスティング法,バーコート法,エクストルージョンコート法,E型塗布方法等を例示することができる。
【0092】
パターン配向層形成用層12’の厚さは,所望の平面性を達成できる範囲内であれば特に限定されるものではないが,0.1μm?50μmの範囲内であることが好ましく,0.5μm?30μmの範囲内であることがより好ましく,0.5μm?10μmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0093】
[パターン配向層形成用層形成処理]
パターン配向層用組成物の硬化温度は,100℃以上130℃以下であることが好ましい。100℃未満であると組成物を均一に熱硬化できず,薄膜が不均一になる可能性がある点で好ましくない。130℃を超えると,基材11や薄膜が収縮する可能性があるため,好ましくない。
【0094】
[紫外線照射処理]
パターン配向層形成用層12’に対して紫外線を照射する紫外線照射処理について,図2を参照しながら詳しく説明する。
まず,図2の(A)に示すように,右目用の領域に対応する第1配向準備領域12’Aを遮光せず,左目用の領域に対応する第2配向準備領域12’Bだけを遮光したマスク11を介して,直線偏光による紫外線(偏光紫外線)をパターン配向層形成用層12’に向けて照射することにより,遮光されていない第1配向準備領域12’Aを所望の方向に配向させる。続いて,図2の(B)に示すように,1回目の照射とは偏光方向が90度異なる直線偏光により紫外線をパターン配向層形成用層12’の全面に照射し,1回目の照射では未露光の第2配向準備領域12’Bを所望の方向に配向させる。これら2回の紫外線照射により,2種類の配向パターンが形成される。」

サ 「【0113】
<位相差フィルム2の製造方法>
位相差フィルム2は,次の工程を経て製造される。まず,パターン配向膜1のパターン配向層12に上記棒状化合物を含む位相差層形成用塗工液を塗工し,位相差層形成用層を形成する位相差層形成用塗工液塗工処理を行う。その後,位相差層形成用塗工液の塗膜に含まれる棒状化合物を,上記パターン配向層12が有する,右目用の領域に対応する第1配向領域12Aと,左目用の領域に対応する第2配向領域12Bとの異なる配向方向に沿って,棒状化合物を配列させる配向処理を行う。これらの処理によって位相差層13が形成される。
【0114】
最後にフィルムを所望の大きさに切り出す切断処理を行う。上記の工程を経て位相差フィルム2が作製される。」

(2) 引用発明

上記(1)からみて,引用例1には,請求項1,4?8の記載を引用する形式で記載された請求項9の「パターン位相差フィルムの製造方法」により製造される「パターン位相差フィルム」に関する,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,請求項の番号は,引用発明の認定に活用した引用例1の記載箇所を示すために併記したものである。
「【請求項1】基材上に,偏光照射により光配向性を発揮する光配向材料を含むパターン配向層を形成するためのパターン配向層用組成物であって,
【請求項1】前記光配向材料と,溶媒とを含有し,前記溶媒は,前記光配向材料を溶解可能であり,かつ,酢酸ブチルを100とした場合の蒸発速度が100未満の主溶媒と,前記蒸発速度が100以上の副溶媒とを含有し,前記溶媒中の前記副溶媒の割合が10質量%以上50質量%未満であり,【請求項4】更に他の溶剤としてシクロヘキサノンを含有し,【請求項5】更に密着向上剤を含有する【請求項6】パターン配向層用組成物を基材上に塗布後に加熱乾燥し,更に,偏光パターン照射により異なる光配向性を有するパターン配向層を形成し,
【請求項7】前記基材がトリアセチルセルロースであり,
【請求項8】前記パターン配向層の厚さが100nm以上1000nm以下であり,
【請求項9】得られたパターン配向膜のパターン配向層上に,液晶性を示し分子内に重合性官能基を有する棒状化合物を含む位相差層を形成する工程を有するパターン位相差フィルムの製造方法によって製造される
【請求項9】パターン位相差フィルム。」

(3) 引用例2の記載

ア 「【請求項1】
透明ポリマー製の基材上に複屈折層の形成材料を塗工して塗工膜を形成する工程および前記塗工膜を固化することによって,前記基材上に複屈折層を形成する工程を有する,基材と複屈折層とを含む光学フィルムの製造方法であって,
前記形成材料の塗工が,前記形成材料を溶剤に分散または溶解させた形成材料液の塗工であり,
前記溶剤として,前記基材に対して溶解性を示す溶剤を使用することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
さらに,前記基材を延伸または収縮させて,それに伴い前記塗工膜を延伸または収縮させる工程を含む請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記基材の材料がトリアセチルセルロースであって,前記溶剤が,酢酸エチル,シクロヘキサノン,シクロペンタノンおよびアセトンからなる群から選択された少なくとも一つの溶剤である請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
前記基材の材料が,イソブテン・N-メチルマレイミド共重合体およびアクリロニトリル・スチレン共重合体の少なくとも一方であって,前記溶剤が,酢酸エチル,メチルイソブチルケトン,メチルエチルケトン,シクロヘキサノン,シクロペンタノンおよびアセトンからなる群から選択された少なくとも一つの溶剤である請求項1または2記載の製造方法。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,光学フィルム,その製造方法,およびそれを用いた積層偏光板ならびに各種画像表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来,各種液晶表示装置には,光学補償を目的として位相差板が使用されている。このような位相差板としては,例えば,光学的二軸位相差板があげられ,これらは主に,ロール間引張り延伸法,ロール間圧縮延伸法,テンター横一軸延伸法等の各種ポリマーフィルム延伸法等や(例えば,特許文献1参照),二軸延伸により異方性を持たせる方法等によって作製することができる(例えば,特許文献2参照)。また,この他にも,正の光学異方性を持つ一軸延伸ポリマーフィルムと,面内の位相差値が小さい負の光学異方性を持つ二軸延伸ポリマーフィルムとを併用した位相差板や(例えば,特許文献3参照),前述のような延伸方法ではなく,例えば,ポリイミドの性質により,基板上で可溶性ポリイミドをフィルム化することによって,負の一軸性が付与された位相差板もある(例えば,特許文献4参照)。
【0003】
前述のようなフィルム延伸技術等によれば,形成される延伸フィルムには,例えば,nx>ny>nzという光学特性を付与することができる。ここで,nx,ny,nzとは,前記フィルムにおけるX軸,Y軸およびZ軸方向の屈折率をそれぞれ示し,前記X軸方向とは,前記フィルム面内において最大の屈折率を示す軸方向であり,Y軸方向は,前記面内において前記X軸に対して垂直な軸方向であり,Z軸方向は,前記X軸およびY軸に垂直な厚み方向を示す。このような光学特性を有する複屈折性フィルムは,例えば,液晶表示装置の液晶セルと偏光子との間に配置すれば,前記液晶表示装置の表示特性を広視野角化できるため,前記液晶セルの視角補償フィルムとして有用である。そして,このような光学特性を有する複屈折フィルムは,強度や取り扱い性等の点から,例えば,基板上に形成され,前記基板との積層した状態まま,位相差板として使用される。」

ウ 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら,このような従来の積層型の位相差板では,以下に示すような問題がある。すなわち,前記位相差板は,基材上に複屈折層が形成されているが,前記基材と複屈折層との密着性が十分ではない場合が多く,例えば,加熱条件,加湿条件,加冷条件下等においては,前記基材から複屈折層が剥離するおそれがある。このため,液晶表示装置等の画像表示装置に前記位相差板を組み込んだ場合に,前記両者の剥離によって,光学ひずみが生じ,表示品質が低下するという問題がある。
【0006】
そこで,本発明は,前記基材と複屈折層との密着性に優れた光学フィルムの提供を目的とする。」

エ 「【0007】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために,本発明の光学フィルムの製造方法は,
透明ポリマー製の基材上に複屈折層の形成材料を塗工して塗工膜を形成する工程および前記塗工膜を固化することによって,前記基材上に複屈折層を形成する工程を有する,基材と複屈折層とを含む光学フィルムの製造方法であって,
前記形成材料の塗工が,前記形成材料を溶剤に分散または溶解させた形成材料液の塗工であり,前記溶剤として,前記基材に対して溶解性を示す溶剤を使用することを特徴とする。
【0008】
このように,前記基材に対して溶解性を示す溶剤を用いて,前記複屈折層形成材料の塗工液を調製すれば,前記基材の表面に前記溶液を塗工することによって,前記基材の表面から前記溶液中の溶剤が浸透する。このように基材の一部に前記溶剤が浸透することによって,前記基材と前記基材上に形成される複屈折層との密着性が向上されるのである。このような方法によって,前記両者の密着性を向上できることは,本発明の発明者らが初めて見出したことである。前記溶剤の浸透によって前記基材と前記複屈折層との密着性が向上するのは,おそらく以下のような理由によると推測される。すなわち,(1)基材表面が,溶剤によって部分的に溶解されて粗くなるため,複屈折層との接触面積が大きくなり,密着性が向上する,(2)基材が溶解することによって基材の分子配列が変わり,複屈折層との密着性が向上する,(3)基材表面が溶剤によって溶解され,基材と複屈折層との間に相溶層(基材成分,溶剤および複屈折層の形成材料とが混ざり合った層)が形成され,密着性が向上する,というような理由が考えられる。このように基材と複屈折層との密着性に優れるため,本発明により製造された光学フィルムを,例えば,液晶表示装置等の各種画像表示装置に位相差フィルムとして使用した際に,従来とは異なり,光学ひずみが防止され,視認性が良好であるという効果を奏するのである。
【0009】
つぎに,本発明の光学フィルムは,透明ポリマー製の基材と複屈折層との積層体を含む光学フィルムであって,前記本発明の製造方法によって製造されることを特徴とする。このような光学フィルムは,前記基材と前記複屈折層の密着性にも優れることから,例えば,液晶表示装置に位相差フィルムとして使用した際に,光学ひずみが防止され,視認性が向上するというような効果を奏する。このため,液晶表示装置をはじめとする各種画像表示装置に有用である。」

オ 「【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の光学フィルムの製造方法は,前述のように,透明ポリマー製の基材上に複屈折層の形成材料を塗工して塗工膜を形成する工程および前記塗工膜を固化することによって,前記基材上に複屈折層を形成する工程を有する,基材と複屈折層とを含む光学フィルムの製造方法であって,前記形成材料の塗工が,前記形成材料を溶剤に分散または溶解させた形成材料液の塗工であり,前記溶剤として,前記基材に対して溶解性を示す溶剤を使用し,前記塗工膜の形成工程において,前記基材内部に前記溶剤を浸透させることを特徴とする。」

カ 「【0058】
一方,前記基材の形成材料である透明ポリマーとしては,特に制限されないが,後述する延伸処理や収縮処理に適していることから,熱可塑性樹脂が好ましい。具体的には,例えば,トリアセチルセルロース(TAC)等のアセテート樹脂,ポリエステル樹脂,ポリエーテルスルホン樹脂,ポリスルホン樹脂,ポリカーボネート樹脂,ポリアミド樹脂,ポリイミド樹脂,ポリオレフィン樹脂,アクリル樹脂,ポリノルボルネン樹脂,セルロース樹脂,ポリアリレート樹脂,ポリスチレン樹脂,ポリビニルアルコール樹脂,ポリ塩化ビニル樹脂,ポリ塩化ビニリデン樹脂,ポリアクリル樹脂や,これらの混合物等があげられる。また,液晶ポリマー等も使用できる。さらに,例えば,特開平2001-343529号公報(WO 01/37007号)に記載されているような,側鎖に置換イミド基または非置換イミド基を有する熱可塑性樹脂と,側鎖に置換フェニル基または非置換フェニル基とニトリル基とを有する熱可塑性樹脂との混合物等も使用できる。具体例としては,例えば,イソブテンとN-メチルマレイミドからなる交互共重合体と,アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物等である。これらの形成材料の中でも,例えば,透明フィルムを形成した際の複屈折率を,相対的により一層低く設定できる材料が好ましく,具体的には,前述の側鎖に置換イミド基または非置換イミド基を有する熱可塑性樹脂と,側鎖に置換フェニル基または非置換フェニル基とニトリル基とを有する熱可塑性樹脂との混合物が好ましい。
【0059】
前記基材は,例えば,単層体でも良いし,2層以上の積層体でもよい。また,前記基材が積層体の場合は,例えば,強度,耐熱性,複屈折層のさらなる密着性の向上等,種々の目的に応じて,同種ポリマー層から構成されてもよいし,異種ポリマー層の積層体であってもよい。」

キ 「【0063】
まず,前記複屈折層の形成材料を溶剤に分散または溶解して,形成材料液(塗工液)を調製する。
【0064】
本発明において,前記溶剤は,次の塗工膜形成工程において,前記基材内部に前記溶剤が浸透する必要があるため,前述のように基材に対して溶解性を示すものを選択する必要がある。したがって,溶剤の種類は,前記基材の形成材料である透明ポリマーの種類に応じて適宜決定すれば,特に制限されず,その他には,前記複屈折層形成材料を溶解できればよい。
【0065】
前記溶剤としては,例えば,クロロホルム,ジクロロメタン,四塩化炭素,ジクロロエタン,テトラクロロエタン,トリクロロエチレン,テトラクロロエチレン,クロロベンゼン,オルソジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;フェノール,バラクロロフェノール等のフェノール類;ベンゼン,トルエン,キシレン,メトキシベンゼン,1,2-ジメトキシベンゼン等の芳香族炭化水素類;アセトン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン,シクロヘキサノン,シクロペンタノン,2-ピロリドン,N-メチル-2-ピロリドン等のケトン系溶媒;酢酸エチル,酢酸ブチル等のエステル系溶媒;t-ブチルアルコール,グリセリン,エチレングリコール,トリエチレングリコール,エチレングリコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコールジメチルエーテル,プロピレングリコール,ジプロピレングリコール,2-メチル-2,4-ペンタンジオールのようなアルコール系溶媒;ジメチルホルムアミド,ジメチルアセトアミドのようなアミド系溶媒;アセトニトリル,ブチロニトリルのようなニトリル系溶媒;ジエチルエーテル,ジブチルエーテル,テトラヒドロフランのようなエーテル系溶媒;あるいは二硫化炭素,エチルセルソルブ,ブチルセルソルブ等があげられる。これらの溶媒は,一種類でもよいし,二種類以上を併用してもよい。
【0066】
具体的な基材と溶剤との組み合わせとしては,例えば,以下のような組み合わせがあげられる。前記基材の透明ポリマーがTACの場合,溶剤としては,例えば,酢酸エチル,シクロヘキサノン,シクロペンタノン,アセトン等が使用できる。また,基材の透明ポリマーがイソブテン・N-メチルマレイミド共重合体およびアクリロニトリル・スチレン共重合体の少なくとも一方の場合,溶剤としては,例えば,メチルイソブチルケトン,メチルエチルケトン,シクロヘキサノン,シクロペンタノン,アセトン等が使用できる。」

ク 「【0072】
つぎに,調製した前記塗工液を基材表面に塗工して,前記形成材料の塗工膜を形成する。この際,前記塗工液中の前記溶剤が,前記基材表面から内部に浸透するのである。このように溶剤が浸透することによって,前記基材の前記溶剤浸透部位は,前記塗工前とは異なる状態となっている。この前記溶剤が浸透した部位を,以下,前記基材における「溶剤浸透層」という。
【0073】
前記溶剤浸透層の厚みは,前記基材と溶剤との組み合わせ等によって異なるが,例えば,前記複屈折層の厚み(D(a))に対して,前記基材における前記溶剤浸透層の厚み(D(y))が,D(y)>D(a)×0.01 であることが好ましい。「D(y)>D(a)×0.01」であれば,前記基材と前記複屈折層との間に十分な密着性が得られるからである。また,例えば,基材の耐久性も十分に維持できことから,より好ましくは D(a)×0.5>D(y)>D(a)×0.01 である。さらに好ましくは D(a)×0.3>D(y)>D(a)×0.01 である。具体的には,例えば,複屈折層が6μmの場合に,前記溶剤浸透層は0.06?3μmであることが好ましく,より好ましくは0.06?1.8μmである。なお,この溶剤浸透層の厚みは,完全に均一でなくてもよく,不均一であってもよい。」

ケ 「【0093】
以上のような製造方法によって,製造された光学フィルムは,基材上に複屈折層が直接形成されており,前述のように前記基材に前記溶剤が浸透して溶剤浸透層が形成されることによって,前記基材と複屈折層との密着性に優れるフィルムとなっている。このため,画像表示装置等に適用した際に,例えば,広視野角で優れた今トラスとを示すだけでなく,光学ひずみが抑制され,表示品質が向上するという効果を奏するのである。
【0094】
本発明の光学フィルムは,前述のような製造方法によって製造されており,複屈折層が形成されている基材の表面側に,前記溶剤浸透層が形成されている。この溶剤浸透層は,例えば,目視,もしくはSEM(走査型電子顕微鏡),TEM(透過型電子顕微鏡)等によって確認することができる。例えば,前記SEM等で確認した際に,溶剤が浸透しなかった基材部分(L)と,溶剤が浸透した基材部分(すなわち溶剤浸透層:M)と,複屈折層(N)との間で,界面が確認できるため,前記基材部分(L)と複屈折層(N)との間の層が,溶剤浸透層(M)であるとわかる。なお,通常,界面の確認は,前述のように目視によって行うが,目視による界面の確認が不明確な場合は,断面IRで判定することもできる。」

2 対比
本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
引用発明は,「光配向材料」を含有する「パターン配向層用組成物」を「塗布」することによって,「基材上に,偏光照射により光配向性を発揮する光配向材料を含むパターン配向層を形成」し,「偏光パターン照射により異なる光配向性を有するパターン配向層を形成し」,「パターン配向層上に,液晶性を示し分子内に重合性官能基を有する棒状化合物を含む位相差層を形成する」ことにより「パターン位相差フィルム」を製造している。
引用発明の「基材」は,本願発明の「基材」に相当する。
引用発明の「光配向材料」,「パターン配向層用組成物」及び「パターン配向層」は,それぞれ,本願発明の「光配向材料」,「配向膜組成物」及び「配向層」に相当するとともに,引用発明の「パターン配向層」は,本願発明の「配向層」の「光配向材料を含む配向膜組成物を含有する」との要件を満たす。
引用発明の「液晶性を示し分子内に重合性官能基を有する棒状化合物」及び「位相差層」は,それぞれ,本願発明の「液晶化合物」及び「液晶層」に相当するとともに,引用発明の「位相差層」は,本願発明の「液晶層」の「液晶化合物を含有する」との要件を満たす。
引用発明の「パターン位相差フィルム」は,本願発明の「位相差フィルム」に相当するとともに,引用発明の「パターン位相差フィルム」は,上記の範囲で本願発明の「位相差フィルム」の要件を満たす。

3 一致点
したがって,本願発明と引用発明は,以下の構成において一致する。
「基材と,光配向材料を含む配向膜組成物を含有する配向層と,液晶化合物を含有する液晶層とを有する位相差フィルム。」

4 相違点
本願発明と引用発明は,以下の点で相違する。

本願発明の「位相差フィルム」は,「前記基材と前記配向層の間に,該基材に対して前記配向膜組成物に含まれる前記光配向材料の一部が浸透して形成された浸透層を有」し,「該浸透層の厚みが10nm以上300nm以下であり」,「前記浸透層上に形成される前記配向層の厚みが55nm以上である」のに対して,引用発明の「位相差フィルム」は,「前記基材と前記配向層の間に,該基材に対して前記配向膜組成物に含まれる前記光配向材料の一部が浸透して形成された浸透層を有」するか必ずしも明確ではなく,したがって,「該浸透層の厚みが10nm以上300nm以下」であるか不明であり,また,「パターン配向層の厚さが100nm以上1000nm以下」ではあるが,「前記浸透層上に形成される前記配向層の厚みが55nm以上である」かについても不明である点。

5 判断
上記相違点について,判断する。

(1) 浸透層の有無について
引用発明の「位相差フィルム」において,「パターン配向層用組成物」は,「他の溶剤」及び「密着向上剤」を含有している。この「他の溶剤」及び「密着向上剤」について,引用例1には,ともに,「基材上にパターン配向層用組成物を塗工したとき,基材と化学反応を起こして基材の表面を荒らし,基材と,パターン配向層用組成物の硬化物からなるパターン配向層との密着性を高める機能を有する。」と記載されている(段落【0046】,【0049】)。
前記「基材上にパターン配向層用組成物を塗工したとき,基材と化学反応を起こして基材の表面を荒らし,基材と,パターン配向層用組成物の硬化物からなるパターン配向層との密着性を高める機能を有する。」の記載は,基材の表面を構成する物質と「他の溶剤」又は「密着向上剤」(以下「他の溶剤等」という。)が化学反応することにより基材の表面を構成する物質の一部が組成物中に溶け出す結果,基材の表面が荒れた状態になって,基材とパターン配向層が強固に接着することを意味すると解される。
この点は,引用例2において,「基材の材料」及び「溶剤」として,引用発明の「基材」及び「他の溶剤」と同一物質である「トリアセチルセルロース」及び「シクロヘキサノン」が挙げられるとともに(請求項3),基材との密着性が向上する理由として,「(1)基材表面が,溶剤によって部分的に溶解されて粗くなるため,複屈折層との接触面積が大きくなり,密着性が向上する,(2)基材が溶解することによって基材の分子配列が変わり,複屈折層との密着性が向上する,(3)基材表面が溶剤によって溶解され,基材と複屈折層との間に相溶層(基材成分,溶剤および複屈折層の形成材料とが混ざり合った層)が形成され,密着性が向上する」ことが挙げられている(段落【0008】)ことからみても,明らかである。
そして,基材の表面を構成する物質の一部が組成物中に溶け出した場合には,基材表面の荒れて溶けた部分に他の溶剤等を含む組成物が侵入することとなるから,そこに「浸透層」と称することができる層が,必然的に形成されることとなる。
したがって,引用発明においても,「他の溶剤」及び「密着向上剤」を含む「パターン配向層用組成物」を用いることにより,結果的に,基材表面を荒らすと共に,基材と配向層の間に,該基材に対して前記配向膜組成物に含まれる前記光配向材料の一部が浸透して形成された浸透層が接着層として機能することにより基材とパターン配向層が密着しているといえるから,浸透層の有無については実質的な相違点とはいえない。

仮に,浸透層の有無について,実質的な相違点だとしても,引用例2には,「光学フィルム」の製造において,「基材の材料」として「トリアセチルセルロース」,「溶剤」として「酢酸エチル,シクロヘキサノン,シクロペンタノンおよびアセトンからなる群から選択された少なくとも一つの溶剤」(請求項3)の組み合わせにより「(1)基材表面が,溶剤によって部分的に溶解されて粗くなるため,複屈折層との接触面積が大きくなり,密着性が向上する,(2)基材が溶解することによって基材の分子配列が変わり,複屈折層との密着性が向上する,(3)基材表面が溶剤によって溶解され,基材と複屈折層との間に相溶層(基材成分,溶剤および複屈折層の形成材料とが混ざり合った層)が形成され,密着性が向上する」ことが記載されている(段落【0008】)。引用発明についても,基材とパターン配向層との密着性を課題としており,少なくとも「他の溶剤」等により基材の表面を荒らして層の密着性を高める点で,引用例2に記載の上記技術事項と共通している。したがって,引用発明においても,密着性を更に向上するために,基材表面が,溶剤によって部分的に溶解されて粗くなり接触面積が大きくなることのみならず,界面に相溶層が形成されるように引用例2に記載の上記技術事項(適切な溶媒の選択等)を適用することは,当業者が容易に想到することができたものである。

(2) 浸透層,配向層の厚みについて
浸透層の厚みに関して,引用例2には、複屈折層の厚みD(a)に対して浸透層の厚みD(y)が「D(a)×0.3>D(y)>D(a)×0.01」であれば十分な密着性が得られるとして,「副屈折層が6μmの場合」に「0.06?1.8μm」との数値範囲が示され(段落【0073】),これを引用発明のパターン配向層(100nm以上1000nm以下)に単純に当てはめると,「1?300nm」となる。しかしながら,基材とパターン配向層を密着させるための層として,「300nm」は十分と思われるが「1nm」では薄すぎて好ましくないと考えられ(例えば,引用例2の段落【0124】には,接着層の厚みとして「1?500nmであり,好ましくは10?300nmであり,より好ましくは20?100nmである」と記載され),また,引用例2の段落【0179】に開示された具体的実施例(表1)でも,D(y)として,最も薄くて0.04μmまでしか開示されていない(当合議体注:表のD(y)及びD(a)の単位「nm」は,「μm」の誤記である。)。
引用発明と引用例2に記載された技術は,ともに,密着性の改善を目的とした発明であるから,引用例2に記載された示唆を考慮して,引用発明において「10nm以上300nm以下」の範囲を満たす浸透層の構成を採用することは,当業者における最適な数値範囲の選択にすぎない。
そして,配向層の厚みに関して,引用例1には,「パターン配向層12の厚さ」について「100nm未満であると,棒状化合物に対して所望の配向規制力を発現できない可能性があるため,好ましくない。」と記載されている(段落【0066】)。したがって,引用発明において,「浸透層」が形成された場合であっても,所望の配向規制力を発現するため「浸透層上に形成される前記配向層の厚み」を100nm以上とすることは,当業者が当然行うべき事項である。
したがって,上記の引用発明において,本願発明の数値範囲の「浸透層の厚み」及び「浸透層上に形成される前記配向層の厚み」とすることは,当業者が容易に想到することができたものである。

6 効果について
本願発明の効果に関して,本願の明細書の段落【0015】には,「本発明によれば,基材と配向層の間に所定の厚さの浸透層を設けることで,基材と配向膜との密着性を向上させることができ,良好な配向性を安定的に発揮させることができる。また,その配向層の厚さを55nm以上となるようにすることで,より一層に良好な配向性を発揮させることができる。」と記載されている。
しかしながら,引用発明は,「光配向性とTAC基材に対する密着性との両方に優れたパターン配向層用組成物を提供すること」を目的としている(引用例1の段落【0009】)。そして,引用発明は,上記のとおり,さらに密着性を高めるために「他の溶剤」及び「密着向上剤」を用いている。また,引用例2にも,上記のとおり,層間に「相溶層」が形成され,密着性が向上することも記載されている。
そうしてみると,本願発明が奏する効果は,引用発明が奏する効果であるか,あるいは,引用発明及び引用例2に記載された技術事項に基づいて当業者が期待する効果の範囲内のものである。

7 請求人の主張について
(1) 引用例1について
請求人は,平成28年7月22日付けの意見書において「引用例1の技術では,基材表面を単に荒らしているにすぎず,ましてや,この引用例1の技術は,基材への溶媒等の含浸を好ましくない態様としている技術であって,「浸透層」を形成しているものではありません。」(<3-2.引用例との対比>(2))と主張する。
「引用例1の技術では,基材表面を単に荒らしているにすぎず」,「「浸透層」を形成しているものではありません。」との主張については,上記5(1)のとおりである。
なお,「この引用例1の技術は,基材への溶媒等の含浸を好ましくない態様としている技術であ」ることは,引用発明における「パターン配向層」と「基材」との界面における「浸透層」の形成,あるいは,引用例2に記載の技術事項の適用を妨げるものではない。つまり,引用発明の「他の溶剤」及び「密着向上剤」は,「基材」と「化学反応を起こ」して,「基材の表面を荒ら」すものであり,引用例1は,基材と化学反応を起こして基材の表面を荒らす以上に,基材への溶媒の含浸は好ましくないとするものにすぎない。
また,本願の明細書においても,「溶媒の量が3900質量部を超えると,配向膜組成物中の溶媒が基材11に浸潤しすぎてしまい,光配向性が低下してしまう」(段落【0050】)との記載があり,界面での「浸透層」を形成する以上に基材に溶媒が浸潤しすぎることが好ましくないとしていることは,引用例1と同様である。

(2) 引用例2について
請求人は,平成28年7月22日付けの意見書において,「引用例2には,基材と複屈折層との間に層(溶剤浸透層,相溶層)を設けた構成が示されていますが,あくまでも複屈折層であって配向層ではありません。」(<3-2.引用例との対比>(3))と主張する。
しかしながら,引用例2は,上記5の通り,あくまで引用発明の基材と配向層の界面で生じている現象を説明するため,あるいは,引用発明において基材と配向層の密着性向上のため適用される技術事項を示すものであり,引用例2の相溶層が基材と複屈折層によるものであることは,その役割を妨げるものではない。
また,請求人は,配向層の厚みについて主張するが(<3-2.引用例との対比>(3)),これについては,上記5(2)のとおりである。

第3 まとめ
以上のとおり,本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,その出願日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された事項に基づいて,その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

したがって,他の請求項に係る発明について審究するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-01 
結審通知日 2016-09-06 
審決日 2016-10-04 
出願番号 特願2013-188678(P2013-188678)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡▲辺▼ 純也  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 鉄 豊郎
多田 達也
発明の名称 位相差フィルム  
代理人 正林 真之  
代理人 芝 哲央  
代理人 林 一好  
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