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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G21B
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G21B
管理番号 1321826
審判番号 不服2015-11233  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-29 
確定日 2016-11-14 
事件の表示 特願2013-230616「ターゲット式パルス衝突型核融合炉」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月27日出願公開、特開2015- 81914〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、平成25年10月21日の出願であって、平成26年6月9日付けで手続補正がなされ、同年8月29日付けで拒絶理由が通知され(同年9月9日発送)、同年同月10日付けで手続補正がなされ、同年10月10日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされたが、平成27年3月9日付けで拒絶査定がなされ(同年同月17日送達)、これに対して同年5月29日に該拒絶査定を不服として審判請求がなされたものである。
その後、当審において、平成28年6月21日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され(同年同月28日発送)、同年7月27日付けで意見書が提出されたものである。


第2 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由は以下のとおりである。

「理由1(新規事項追加)
平成26年10月10日付けでした手続補正(以下「本件補正」という。)は、下記の点で願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「本願当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

理由2(実施可能要件)
この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


理由1(新規事項追加)について
1 本件補正は、図6についての以下の補正をするものを含むものである。

(1)直接衝突(ビーム交差衝突)の場合の入力を「4e×100(KV)」から「100(KV)×2」として、直接衝突(ビーム交差衝突)の場合の入力に対する出力の比を「10.1」から「20.1」とする(以下「補正事項1」という。)。
(2)液滴集合体衝突の場合の入力を「2e×100(KV)」から「100(KV)×1」として、液滴集合体衝突の場合の入力に対する出力の比を「20.2」から「40.1」とする(以下「補正事項2」という。)。
(3)液滴集合体 1次反応+連鎖2次反応の合計利得の入力を「2e×100(KV)」から「100(KV)×1」として、液滴集合体 1次反応+連鎖2次反応の合計利得の場合の入力に対する出力の比を「217」から「434」とする(以下「補正事項3」という。)。
(4)「合計利得(gain)は217となる。」を「合計 理路的利得(gain)は 434となる。」とする(以下「補正事項4」という。)。
(5)「液滴ターゲットというD粒子がリッチな環境を作り出すことにより」の前に「液滴の2段ジェットにより、」を挿入する(以下「補正事項5」という。)。

2 当審の判断
(1)直接衝突(ビーム交差衝突)の場合の入力を「100(KV)×2」とすること、液滴集合体衝突の場合の入力を「100(KV)×1」とすること、液滴集合体 1次反応+連鎖2次反応の合計利得の入力を「100(KV)×1」とすることは、いずれも本願当初明細書等には記載されておらず、また、記載されていることが自明であるとも認められない。
直接衝突(ビーム交差衝突)の場合の入力に対する出力の比、液滴集合体 1次反応+連鎖2次反応の合計利得の場合の入力に対する出力の比、液滴集合体 1次反応+連鎖2次反応の合計利得の場合の入力に対する出力の比は、それぞれ直接衝突(ビーム交差衝突)の場合の入力、液滴集合体衝突の場合の入力、1次反応+連鎖2次反応の合計利得の入力によるものであるから、同様に、いずれも本願当初明細書等には記載されておらず、また、記載されていることが自明であるとも認められない。
さらに、「合計利得」と「合計理路的利得」との差異は不明であるものの、gainは、液滴集合体 1次反応+連鎖2次反応の合計利得の場合の入力に対する出力の比より求められると考えれるので、同様に、本願当初明細書等には記載されておらず、また、記載されていることが自明であるとも認められない。
したがって、補正事項1?4は、本願当初明細書等には記載されておらず、また、記載されていることが自明であるとも認められない。

(2)「液滴の2段ジェット」は、本願当初明細書等には記載されておらず、また、記載されていることが自明であるとも認められない。
したがって、補正事項5は、本願当初明細書等には記載されておらず、また、記載されていることが自明であるとも認められない。

(3)よって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲においてするものとはいえないので、平成26年10月10日付けの手続補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。


理由2(実施可能要件)について
1 第1ステージについて
(1)【0015】の液滴のサイズが、ガス噴射された液滴であるのか、集合体(ターゲット)であるのか不明である。
(2)ガス噴射された液滴のサイズを特定のサイズとし、液滴の(ガス)噴射速度を50m/sとするために、重水素液滴パルスガス噴射器をどのような構造とするのか、どのように制御するのか不明である。
特に、液滴重水素用ニードル弁ニードル5により摘出される液滴重水素の量、気体重水素用ニードル弁ニードルにより噴射される気体重水素の量、並びに、液滴重水素用ニードル弁ニードル5及び気体重水素用ニードル弁ニードルの動作のタイミングが不明である。
図1は概念図にすぎず、明細書にも図1の具体的な説明はないので、重水素液滴パルスガス噴射器をどのような構造とするのか、どのように制御するのか不明である。
(3)液滴重水素、気体重水素の温度が不明である。また、温度をどのように制御しているのか不明である。
(4)ガス噴射された液滴の形状が不明である。
(5)衝突した液滴が飛散することなく1ヶの集合体となるように、どのように液滴パルスガス噴射器を制御するのか不明である。
(6)集合体(ターゲット)の形状が不明である。
図2は概念図にすぎず、明細書にも図2の具体的な説明はないので、集合体(ターゲット)の形状が不明である。
(7)集合体(ターゲット)を空間的に静止させるための上下2方向から吸引する吸引手段をどのような構造とするのか、どのように制御するのか不明である。

2 第2ステージについて
(1)発射される重水素中性粒子のエネルギー、密度が不明である。
(2)発射される重水素中性粒子を特定のエネルギー、特定の密度とするために、加速器セットをどのような構造とするのか、どのように制御するのか不明である。
特に、重水素(D)ガスG-1及び薄いDガスG-2の濃度、並びにイオン源IS、イオンゲートIS-2、パルス電界加速器、イオン収束部IS-3及びイオン中性化筒IS-Nのサイズや形状などの構造が不明である。
図3、4は概念図にすぎず、明細書にも図3、4の具体的な説明はないので、加速器セットをどのような構造とするのか、どのように制御するのか不明である。

3 球形炉全体の構成、制御について
(1)重水素の融点は18.7K、沸点は23.8Kであることから、重水素を液状に保つための冷却装置が液滴パルスガス噴射器に近接して配置されることが必要である。一方で、重水素中性粒子が衝突する球形炉の中心では、かなりの熱が発生することから、冷却装置に対する前記熱の影響をどう克服するのか不明である。
(2)液滴パルスガス噴射器を球形炉の中心点からどの程度の距離に配置するのか不明である。
中心点から離れると、液滴を衝突させるのが困難になる。一方で、中心点に近づきすぎると、前記熱が冷却装置に影響を及ぼすと考えられる。
すると、液滴パルスガス噴射器を球形炉の中心点からどの程度の距離に配置するのかは重要であると考えられるが、明細書には具体的な記載はない。

(3)上記(2)で示したように、液滴パルスガス噴射器の配置が不明であるが、液滴を衝突させることから、球形炉内にあると考えられる。すると、加速器セットは球形炉内の水平面内にある液滴パルスガス噴射器を避けて配置する必要があり、球形炉上における加速器セットをどのように配置するのか不明である。
仮に、液滴パルスガス噴射器が球形炉外にあるとすると、直径40mの球形炉(【0015】)の中心において液滴を衝突させることが困難になる上、球形炉上に液滴パルスガス噴射器、加速器セットをどのように配置するのか不明である。
(4)球形炉の温度が不明である。
(5)直径40mの球形炉内の真空度0.1KPa(【0015】)を維持するためにどのような手段を用いているのか不明である。
液滴を衝突させる際にガスを噴射するものであり、また、重水素中性粒子を炉内に発射するものであるから、真空度が低下すると考えられる。一方で、集合体(ターゲット)を空間的に静止させるための上下2方向から吸引する吸引手段により、真空度が上昇すると考えられる。
しかしながら、上述したように、吸引手段、液滴パルスガス噴射器、加速器セットの配置が不明である上に、ポンプの位置や排気速度の構成、制御の方法の具体的な記載がなく、真空度を制御するためにポンプをどのように構成するのか、どのように制御するのか不明である。
(6)核融合反応が発生するのであればHeが発生するが、濃密なD粒子分布(【0009】)とするために、炉内のHeをどのように処理するのか不明である。
(7)炉の表面に均等に3000台の加速器セットが配置されている球形炉からどのように動力を抽出するのか不明である。
(8)図5も概念図にすぎず、明細書にも図5の具体的な説明はないので、球形炉をどのように構成するのか、どのように制御するのか不明である。

4 その他明細書、図面の記載について
(1)明細書の【0009】の「通常のD+D核融合反応を1次反応とすれば、これに連鎖した2次核融合反応が発生する可能性がある。」との記載について、核融合反応が発生する条件が、明細書を参酌しても不明である。
(2)明細書の【0015】?【0017】、図6の各数値の根拠が不明である。
(3)図6(補正後)において、「理路的利得」はどのような意味であるのか不明である。
(4)図6(補正後)において、「液滴の2段ジェット」はどのような意味であるのか不明である。

5 まとめ
上記1?4より、明細書及び図面を参酌しても、ターゲット式パルス衝突型核融合炉の具体的な構造や制御が不明であるために、明細書及び図面は、当業者がターゲット式パルス衝突型核融合炉を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」


第3 当審拒絶理由についての当審の判断
1 理由1(新規事項追加)について
請求人は、何ら手続補正をなすこともなく、また、平成28年7月27日付け意見書においても、実質的な反論を行っていない。
そして、上記「第2 当審拒絶理由について」で摘記した「理由1(新規事項追加)」のとおりであって、平成26年10月10日付けでした手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

2 理由2(実施可能要件)について
(1)平成28年7月27日付け意見書には、「核融合反応によって発生するHeについては、炉内排ガスと共に吸引し、『通常のリサイクルシステム』によって回収処理する。」と記載されている。
上記記載は、上記「第2 当審拒絶理由について」の「理由2(実施可能要件)」において「(6)核融合反応が発生するのであればHeが発生するが、濃密なD粒子分布(【0009】)とするために、炉内のHeをどのように処理するのか不明である。」との理由に対応するものと思われる。
しかしながら、通常のリサイクルシステムによってHeを回収することは可能であるとしても、濃密なD粒子分布(【0009】)とするためにどのようにHeを回収するのかについて、本願明細書及び図面には具体的なHeの回収手段は記載されていないので、当業者が実施できる程度に記載されているとはいえない。

(2)上記(1)以外の「理由2(実施可能要件)」について、請求人は、何ら手続補正をなすこともなく、また、平成28年7月27日付け意見書においても、実質的な反論を行っていない。

(3)そして、上記「第2 当審拒絶理由について」で摘記した「理由2(実施可能要件)」のとおりであって、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


第4 むすび
以上のとおり、平成26年10月10日付けでした手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、また、本願は、特許法第36条第4項1号に規定する要件を満たしていないので、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-07 
結審通知日 2016-09-13 
審決日 2016-09-26 
出願番号 特願2013-230616(P2013-230616)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G21B)
P 1 8・ 55- WZ (G21B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 林 靖  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 伊藤 昌哉
井口 猶二
発明の名称 ターゲット式パルス衝突型核融合炉  

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