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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1321942 |
審判番号 | 不服2015-8477 |
総通号数 | 205 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-01-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-05-07 |
確定日 | 2016-11-24 |
事件の表示 | 特願2011-537973「HSP90阻害剤とHERCEPTIN阻害剤との組合せ」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 6月 3日国際公開、WO2010/060939、平成24年 5月10日国内公表、特表2012-510443〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成21年11月25日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2008年11月28日及び2008年11月28日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする特許出願であって、平成26年1月24日付けで拒絶理由が通知され、平成26年7月28日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月25日付けで拒絶査定がされた。 これに対し、平成27年5月7日に拒絶査定不服の審判が請求されたものである。 第2. 本件発明 本件発明は、平成26年7月28日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、次のとおりのものである。 「式(E)又は式(I)の化合物およびトラスツズマブを含む医薬品の組合せであって、 (A)式(E)の化合物は以下の一般式(E)を有する化合物 【化19】 [式中、 R_(3)は、メチルアミノカルボニルCH_(32)CH_(2)NHC(=O)-、またはイソプロピルアミノカルボニル(CH_(3))_(2)CHNHC(=O)-)から選択され、 R_(8)は、エチル、イソプロピル、ブロモ、またはクロロから選択され、 R_(9)は、-CH_(2)NR^(10)R^(11)または-NR^(10)R^(11)であり、置換アミノ基-NR^(10)R^(11)は、モルホリニル、ピペリジニル、ピペラジニル、ピロリジニル、エチルアミノ、イソプロピルアミノ、ジエチルアミノ、シクロヘキシルアミノ、シクロペンチルアミノ、メトキシエチルアミノ、ピペリジン-4-イル、N-アセチルピペラジニル、N-メチルピペラジニル、メチルスルホニルアミノ、チオモルホリニル、チオモルホリニル-ジオキシド、4-ヒドロキシエチルピペリジニルまたは4-ヒドロキシピペリジニルである]、 または薬学的に許容されるその塩もしくはプロドラッグであり、 (B)式(I)の化合物は以下の一般式(I)を有する化合物 【化20】 [式中、 R^(a)は、 (1)水素、 (2)ハロゲン、 (3)ヒドロキシル、 (4)C_(1)?C_(6)アルコキシ、 (5)チオール、 (6)C_(1)?C_(6)アルキルチオール、 (7)置換もしくは非置換C1?C6アルキル、 (8)アミノまたは置換アミノ、 (9)置換もしくは非置換アリール、 (10)置換もしくは非置換ヘテロアリール、 (11)置換もしくは非置換ヘテロシクリルからなる群から選択され、 Rは、 (1)水素、 (2)置換もしくは非置換C1?C6アルキル、 (3)置換もしくは非置換C2?C6アルケニル、 (4)置換もしくは非置換C2?C6アルキニル、 (5)置換もしくは非置換C3?C7シクロアルキル、 (6)置換もしくは非置換C5?C7シクロアルケニル、 (7)置換もしくは非置換アリール、 (8)置換もしくは非置換ヘテロアリール、 (9)置換もしくは非置換ヘテロシクリルからなる群から選択され、 R^(b)は、 (1)置換もしくは非置換C3?C7シクロアルキル、 (2)置換もしくは非置換C5?C7シクロアルケニル、 (3)置換もしくは非置換アリール、 (4)置換もしくは非置換ヘテロアリール、 (5)置換もしくは非置換ヘテロシクリルからなる群から選択され、 ただし、R^(a)がアミノであるとき、R^(b)は、フェニル、4-アルキル-フェニル、4-アルコキシ-フェニル、および4-ハロ-フェニルではない]、または薬学的に許容されるその塩もしくはプロドラッグ である、医薬品の組合せ。」 なお、本件発明1の「式(E)又は式(I)の化合物」は、以下の説明の記載を含むものであるが、以後その説明の記載を省略し、「本件発明1の式(E)又は式(I)の化合物」という。 「(A)式(E)の化合物は以下の一般式(E)を有する化合物 【化19】 [式中、 R_(3)は、メチルアミノカルボニルCH_(32)CH_(2)NHC(=O)-、またはイソプロピルアミノカルボニル(CH_(3))_(2)CHNHC(=O)-)から選択され、 R_(8)は、エチル、イソプロピル、ブロモ、またはクロロから選択され、 R_(9)は、-CH_(2)NR^(10)R^(11)または-NR^(10)R^(11)であり、置換アミノ基-NR^(10)R^(11)は、モルホリニル、ピペリジニル、ピペラジニル、ピロリジニル、エチルアミノ、イソプロピルアミノ、ジエチルアミノ、シクロヘキシルアミノ、シクロペンチルアミノ、メトキシエチルアミノ、ピペリジン-4-イル、N-アセチルピペラジニル、N-メチルピペラジニル、メチルスルホニルアミノ、チオモルホリニル、チオモルホリニル-ジオキシド、4-ヒドロキシエチルピペリジニルまたは4-ヒドロキシピペリジニルである]、 または薬学的に許容されるその塩もしくはプロドラッグであり、 (B)式(I)の化合物は以下の一般式(I)を有する化合物 【化20】 [式中、 R^(a)は、 (1)水素、 (2)ハロゲン、 (3)ヒドロキシル、 (4)C_(1)?C_(6)アルコキシ、 (5)チオール、 (6)C_(1)?C_(6)アルキルチオール、 (7)置換もしくは非置換C1?C6アルキル、 (8)アミノまたは置換アミノ、 (9)置換もしくは非置換アリール、 (10)置換もしくは非置換ヘテロアリール、 (11)置換もしくは非置換ヘテロシクリルからなる群から選択され、 Rは、 (1)水素、 (2)置換もしくは非置換C1?C6アルキル、 (3)置換もしくは非置換C2?C6アルケニル、 (4)置換もしくは非置換C2?C6アルキニル、 (5)置換もしくは非置換C3?C7シクロアルキル、 (6)置換もしくは非置換C5?C7シクロアルケニル、 (7)置換もしくは非置換アリール、 (8)置換もしくは非置換ヘテロアリール、 (9)置換もしくは非置換ヘテロシクリルからなる群から選択され、 R^(b)は、 (1)置換もしくは非置換C3?C7シクロアルキル、 (2)置換もしくは非置換C5?C7シクロアルケニル、 (3)置換もしくは非置換アリール、 (4)置換もしくは非置換ヘテロアリール、 (5)置換もしくは非置換ヘテロシクリルからなる群から選択され、 ただし、R^(a)がアミノであるとき、R^(b)は、フェニル、4-アルキル-フェニル、4-アルコキシ-フェニル、および4-ハロ-フェニルではない]、または薬学的に許容されるその塩もしくはプロドラッグ」 第3. 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、「この出願に係る発明は,その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」(以下、「理由2」という。)、及び、「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。」(以下、「理由4」という。)を含むものである。 第4. 理由2について (1)刊行物に記載された事項 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である「MODI S、TANESPIMYCIN (AN HSP90 INHIBITOR) AND TRASTUZUMAB IS AN ACTIVE COMBINATION IN PATIENTS (PTS) WITH HER2-POSITIVE TRASTUZUMAB-REFRACTORY METASTATIC BREAST CANCER (MBC)、30TH ANNUAL SAN ANTONIO BREAST CANCER SYMPOSIUM ON BREAST CANCER RESEARCH AND TREATMENT、2007、V106 SUPPL.1、P.S269-S270」(以下、「引用文献1」という。)には以下の事項が記載されている。なお、訳は、当審による。 ア. 「タネスピマイシン(Hsp90阻害剤)とトラスツズマブは、Her-2陽性トラスツズマブ耐性転移性乳癌の患者に対して有効な組み合わせである。」(タイトル) イ. 「結論:タネスピマイシンとトラスツズマブの組み合わせは、Her-2陽性トラスツズマブ耐性転移性乳癌に対して活性であり、7ヶ月を超えた時点で13人の評価可能な患者のうち、3人がPR、4人がMD又はSDであった。」(S270頁、結論) 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である「国際公開第2007/041362号」(以下、「引用文献5」という。)には以下の事項が記載されている。なお、訳は、当審による。 ウ. 「【請求項1】 式(I) の化合物もしくはその立体異性体、互変異性体、薬学的に受容可能な塩またはプロドラッグであって、ここで R^(a)は、 (1)水素、 (2)ハロゲン、 (3)ヒドロキシル、 (4)C1?C6アルコキシ、 (5)チオール、 (6)C1?C6アルキルチオール、 (7)置換または非置換C1?C6アルキル、 (8)アミノまたは置換アミノ、 (9)置換または非置換アリール、 (10)置換または非置換ヘテロアリール、および (11)置換または非置換ヘテロシクリル からなる群から選択され、 Rは、 (1)水素、 (2)置換または非置換C1?C6アルキル、 (3)置換または非置換C2?C6アルケニル、 (4)置換または非置換C2?C6アルキニル、 (5)置換または非置換C3?C7シクロアルキル、 (6)置換または非置換C5?C7シクロアルケニル、 (7)置換または非置換アリール、 (8)置換または非置換ヘテロアリール、および (9)置換または非置換ヘテロシクリル からなる群から選択され、 R^(b)は、 (1)置換または非置換C3?C7シクロアルキル、 (2)置換または非置換C5?C7シクロアルケニル、 (3)置換または非置換アリール、 (4)置換または非置換ヘテロアリール、および (5)置換または非置換ヘテロシクリル からなる群から選択され、 但し、R^(a)がアミノである場合、Rbはフェニル、4-アルキル-フェニル、4-アルコキシ-フェニルまたは4-ハロ-フェニルではない、 化合物もしくはその立体異性体、互変異性体、薬学的に受容可能な塩またはプロドラッグ。 (中略) 【請求項44】 薬学的に受容可能な担体と、請求項1から43のいずれか一項に記載の化合物を含む組成物。 【請求項45】 イリノテカン、トポテカン、ゲムシタビン、イマチニブ、トラスツズマブ、5-フルオロウラシル、ロイコボリン、カルボプラチン、シスプラチン、タキサン、テザシタビン、シクロホスファミド、ビンカアルカロイド、ゲフィチニブ、バタラニブ、スニチニブ、ソラフェニブ、エルロチニブ、デクスラゾキサン、アントラサイクリンおよびリツキシマブからなる群から選択される少なくとも1種の追加の薬剤をさらに含む、請求項44に記載の組成物。 【請求項46】 HSP90活性を調節することによって状態を治療するための方法であって、そうした治療を必要とするヒトまたは動物被験体に、有効量の請求項44に記載の組成物を投与する工程を含む、方法。 【請求項47】 前記状態が癌である、請求項46に記載の方法。 【請求項48】 HSP90活性を調節することによってヒトまたは動物被験体の状態を治療するための医薬品の製造における、請求項1から43のいずれか一項に記載の化合物の使用。」(特許請求の範囲) カ. 「本発明の一態様では、新規な2-アミノ-7、8-ジヒドロ-6H-ピリド[4、3-d]ピリミジン-5-オン化合物、その互変異性体、立体異性体および薬学的に受容可能な塩、およびプロドラッグを提供する。2-アミノ-7、8-ジヒドロ-6H-ピリド[4、3-d]ピリミジン-5-オン化合物、薬学的に受容可能な塩およびプロドラッグはHSP90阻害剤であり、細胞増殖性、ウイルス性、自己免疫性、循環器系および中枢神経系の疾患を治療するのに有用である。」(6頁22-28行) (2)引用発明 引用文献1(摘示ア.)には、「タネスピマイシン(Hsp90阻害剤)とトラスツズマブからなる、Her-2陽性トラスツズマブ耐性転移性乳癌の患者に対して有効な組み合わせ。」に係る発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。 (3)対比 本件発明1に関し、出願当初の特許請求の範囲には以下の記載がある。 「【請求項1】 (a)HSP90阻害剤およびHER2阻害剤を含む医薬品の組合せであって、HSP90阻害剤が、 (A)式(E)の化合物(化学式とその説明の記載を省略する。)、 または薬学的に許容されるその塩もしくはプロドラッグであるか、あるいは(B)式(I)による化合物(化学式とその説明の記載を省略する。)、 または薬学的に許容されるその塩もしくはプロドラッグ である、医薬品の組合せ。 【請求項2】 HER2阻害剤が、トラスツズマブである、請求項1に記載の医薬品の組合せ。」 また、発明の詳細な説明には、「本件発明1の式(E)又は式(I)の化合物」について以下の記載がある。 「本発明は、Hsp90阻害剤および1種または複数の医薬活性剤、例えはHER2阻害剤を含む医薬組成物、および増殖性疾患を含む疾患の治療のためのこのような組成物の使用を対象とする。」(段落【0002】) これらの記載及び発明の詳細な説明の記載を総合勘案しつつ、本件発明1と引用発明1を対比すると、引用発明1の「タネスピマイシン」は、「(Hsp90阻害剤)」と括弧書きが付されていることから、「本件発明1の式(E)又は式(I)の化合物」と、Hsp90阻害剤である点で一致する。 引用発明1の「Her-2陽性トラスツズマブ耐性転移性乳癌の患者に対して有効な組み合わせ」は、本件発明1の「医薬品の組合せ」に相当する。 そうすると、本件発明1と引用発明1の一致点、相違点は、以下のとおりである。 <一致点> 「HSP90阻害剤およびトラスツズマブを含む医薬品の組合せ。」 <相違点> HSP90阻害剤について、本件発明1は、「本件発明1の式(E)又は式(I)の化合物」であるのに対し、引用発明1は、「タネスピマイシン」である点。 (4)相違点についての判断 引用文献1には、「タネスピマイシン」について「(Hsp90阻害剤)」と括弧書きが付されていることから、本件発明1が属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)は、引用発明1においてタネスピマイシンが使用されている理由を、タネスピマイシンがHsp90阻害剤としての性質あるいは機能を有するからであると理解する。 そうすると、新たな医薬を提供するという本件発明1が属する技術分野における一般的な課題を解決するために、引用発明1においてタネスピマイシンに代えて他のHsp90阻害剤を使用してみることを着想し、タネスピマイシンに代えて引用文献5(摘示ウ.)にHsp90阻害剤であることが記載されている化合物(I)を使用することによって、本件発明1とすることは、当業者であれば容易に着想しうると認められる。 本件発明1が奏する効果について検討する。 本件発明1が奏する効果について発明の詳細な説明(実施例1、段落【0187】-【0193】、【表1】、【図1】)には「ヌードマウスにおけるヒト乳癌異種移植片モデルにおけるトラスツズマブと組み合わせて使用したときの、化合物I5-(2、4-ジヒドロキシ-5-イソプロピル-フェニル)-4-(4-モルホリン-4-イルメチル-フェニル)-イソオキサゾール-3-カルボン酸エチルアミドの抗腫瘍効果」について、トラスツズマブ単独の場合のT/Cが43%である(ビヒクル対照の腫瘍体積の増加が970mm^(3)であり、トラスツズマブ単独の場合の腫瘍体積の増加が415mm^(3)である(【表1】参照。)ので、その比(T/C)が43%である。)ことが記載されている。 そうすると、「実施例1」で使用している「ヒト乳癌異種移植片モデル」は、トラスツズマブ単独の場合のT/Cが43%であるから、トラスツズマブが有効なヒト乳癌のモデルである。 また、トラスツズマブと化合物Iを組み合わせて使用した場合には腫瘍体積の退縮が22%である(治療開始時からの腫瘍体積の減少が48mm^(3)(【表1】参照。)であるのに対し、治療開始時の腫瘍体積は、【図1】から概ね200mm^(3)程度であると理解でき、その比(退縮(%))は、概ね22%(=48/200)である。)こと、「治療期間は21日」であることも記載されている。 一方、本件発明1において実施例1で使用している「化合物I」(式(E)の化合物に該当する。)以外の「本件発明1の式(E)又は式(I)の化合物」を使用した場合やヒトに適用した場合にどのような効果が奏されるのかを確認することができる具体的な記載(実施例等)はない。 これに対し、引用発明1(トラスツズマブとタネスピマイシンを組み合わせて使用するもの)が奏する効果は、「Her-2陽性トラスツズマブ耐性転移性乳癌」について「7ヶ月を超えた時点で13人の評価可能な患者のうち、3人がPR、4人がMR又はSDであった」(摘示ア.、イ.)というものである。 なお、引用文献1には「PR」及び「SD」の定義に関する記載がないので、WHOで定義された分類であると解すると、PRは、「部分奏功」の略号であって、ベースライン長径和と比較して標的病変の最長径の和が30%以上減少を意味し、同じく、SDは、「安定」の略号である。また、MRについてはWHOによる定義がないが、部分寛解の略号である。 以上を踏まえて、まず、本件発明1の実施例1(トラスツズマブと化合物Iを組み合わせて使用する場合)に係る効果(以下、「実施例1が奏する効果」という。)と引用発明1が奏する効果を比較する。 実施例1が奏する効果と引用発明1が奏する効果は、上記のとおり、実施例1ではモデル(マウス)で評価をしているのに対し引用発明1ではヒトで評価をしている点、及び、実施例1ではトラスツズマブが有効なヒト乳癌のモデルで効果を評価しているのに対し引用発明1ではトラスツズマブ耐性乳癌で評価している点で評価条件が相違しているため、直接比較できるものではないが、仮に比較すると以下のとおりである。 実施例1の効果は、「腫瘍体積の退縮が22%」(すなわち、体積が0.78倍)であるから、腫瘍がその形状を維持したまま均一に退縮したとするとその長径が概ね0.92倍(0.78倍の3乗根)に退縮したと計算でき、これは、WHOの分類ではSDに該当する。 これに対し、引用発明1の効果は、これと同等であるSDか、SDよりも優れた効果であるMRやPR(長径が0.7倍以下。)の患者が得られている。 加えて、実施例1の評価条件は、トラスツズマブが有効なヒト乳癌のモデルで効果を評価している点で、トラスツズマブ耐性乳癌で効果を評価している引用発明1よりも、より縮退したことに対応する結果が得られる評価条件になっている。 以上を総合的に評価すると、「実施例1が奏する効果」は、引用発明1が奏する効果と比べて当業者に予測することのできない格別顕著なものであるとはいえない。 次に、本件発明1において「本件発明1の式(E)又は式(I)の化合物」として「化合物I」以外の化合物を使用する場合に奏される効果について検討する。 本件発明1において「本件発明1の式(E)又は式(I)の化合物」として「化合物I」以外の化合物を使用する場合については、どのような効果が奏されるのか発明の詳細な説明には具体的な記載(実施例等)がないので、引用発明1と比べて当業者に予測することのできない格別顕著な効果が奏されているとはいえない。 また、仮に、本件発明1において「本件発明1の式(E)又は式(I)の化合物」として「化合物I」以外の化合物を使用する場合においても、「実施例1が奏する効果」と同程度の効果を奏するとしても、上述のとおりであるので、引用発明1と比べて当業者に予測することのできない格別顕著な効果が奏されているとはいえない。 (5)まとめ 以上のとおり、本件発明1は、引用文献1、5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第5. 理由4について 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 本件発明1が解決しようとする課題について、発明の詳細な説明には以下の記載がある。 「【発明が解決しようとする課題】 【0008】 例えば下記で定義するような少なくとも1種のHsp90阻害化合物および少なくとも1種のHER2阻害剤を含む組合せは、例えば固形腫瘍、例えば乳癌を含むがこれらに限定されない増殖性障害に対して有益な効果を有することが今や見出された。」(段落【0007】-【0008】) また、本件発明1は、「式(E)又は式(I)の化合物およびトラスツズマブを含む医薬品の組合せ」という物の発明であり、「医薬品」には様々な具体的な用途が含まれるところ、その用途の限定に関する事項を発明を特定するための事項として何も有していない。 そうすると、本件発明1が解決しようとする課題は、「少なくとも1種のHsp90阻害化合物および少なくとも1種のHER2阻害剤を含む組合せであって、例えば固形腫瘍、例えば乳癌を含むがこれらに限定されない増殖性障害に対して有益な効果を有する組み合わせ」を提供することであると認められる。 一方、本件発明1に関する実施例(実施例1、段落【0187】-【0193】)は、「ヌードマウスにおけるヒト乳癌異種移植片モデルにおけるトラスツズマブと組み合わせて使用したときの、化合物I5-(2、4-ジヒドロキシ-5-イソプロピル-フェニル)-4-(4-モルホリン-4-イルメチル-フェニル)-イソオキサゾール-3-カルボン酸エチルアミドの抗腫瘍効果」に係るものが唯一記載されているだけである。 そして、本件発明1において「本件発明1の式(E)又は式(I)の化合物」が実施例1に係る「化合物I」以外の化合物である場合や、「ヒト乳癌」以外の「例えば固形腫瘍、例えば乳癌を含むがこれらに限定されない増殖性障害」に対しても「有益な効果を有する」といえる技術常識もない。 そうすると、実施例1の記載の記載に基づいて本件発明1の範囲にまで拡張・一般化できるとはいえないので、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 したがって、本件は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。 第6.むすび 以上のとおり、本件の請求項1に係る発明は、引用文献1、5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができず、また、本件は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができなきない。 したがって、他の理由について検討するまでもなく、本件は、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-06-23 |
結審通知日 | 2016-06-28 |
審決日 | 2016-07-11 |
出願番号 | 特願2011-537973(P2011-537973) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
P 1 8・ 537- Z (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 安藤 公祐 |
特許庁審判長 |
服部 智 |
特許庁審判官 |
蔵野 雅昭 渕野 留香 |
発明の名称 | HSP90阻害剤とHERCEPTIN阻害剤との組合せ |
代理人 | 鈴木 康仁 |
代理人 | 今里 崇之 |
代理人 | 小林 浩 |
代理人 | 大森 規雄 |