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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
管理番号 1321955
審判番号 不服2015-18279  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-07 
確定日 2016-11-24 
事件の表示 特願2013-541779「動画像復号装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月10日国際公開、WO2013/065673〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2012(平成24)年10月30日(優先権主張2011年10月31日、日本国)を出願日とする国際特許出願であって、手続の概要は以下のとおりである。

手続補正 :平成25年 9月11日
拒絶理由通知 :平成26年10月 7日(起案日)
手続補正 :平成26年12月18日
拒絶理由通知(最後) :平成27年 3月 6日(起案日)
手続補正 :平成27年 5月15日
補正却下の決定 :平成27年 6月29日(起案日)
拒絶査定 :平成27年 6月29日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成27年10月 7日
手続補正 :平成27年10月 7日
拒絶理由(当審) :平成28年 6月15日(起案日)
手続補正 :平成28年 8月19日

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年8月19日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
((A)ないし(F)は当審において付与した。以下「構成要件(A)」等として引用する。)

【請求項1】
(A)ビットストリームから符号化ビットデータを分離する符号化ビットデータ分離手段と、
(B)上記符号化ビットデータ分離手段により分離された上記符号化ビットデータが示すタイルに対する予測差分復号処理を実施し、上記タイルに対する復号画像を生成する1以上のタイル復号手段と、
(C)上記ビットストリームから分離されたフィルタパラメータが示す上記タイルに対するフィルタを用いて、上記タイル復号手段により生成された復号画像に対するフィルタリング処理を実施する1以上のタイルフィルタ手段
とを備え、
(D)上記タイルフィルタ手段は、ビットストリームから分離された、第1のタイルのタイル境界の画素に対して異なるタイルの画素を参照しないフィルタリング処理内容を示す信号に基づき、タイル境界の画素に対するフィルタリング処理と、
(E)上記ビットストリームから分離された、上記第1のタイルと異なる第2のタイルを分割して得られるスライス境界の画素に対して異なるスライスの画素を参照するか否かのフィルタリング処理内容を示す信号に基づき、スライス境界の画素に対するフィルタリング処理と、
(F)を実施することを特徴とする動画像復号装置。

第3 平成28年6月15日付け拒絶理由
当審が平成28年6月15日付けで通知した拒絶の理由は以下のとおりのものである。

1.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

2.この出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
(理由1について)
請求項1の「上記タイルを分割して得られるスライス境界の画素に対して異なるスライスの画素を参照するか否かのフィルタリング処理内容を示す信号に基づき、スライス境界の画素に対するフィルタリング処理を実施する」と記載された構成は、発明の詳細な説明に記載された構成ではない。

(理由2について)
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2011-35620号公報
2.Arild Fuldseth, Michael Horowitz, Shilin Xu, Andrew Segall, Minhua Zhou, "Tiles", Joint Collaborative Team on Video Coding (JCT-VC) of ITU-T SG16 WP3 and ISO/IEC JTC1/SC29/WG11 6th Meeting: Torino, IT, 14-22July, 2011, [JCTVC-F335]

第4 理由1についての検討
1.平成28年8月19日付け手続補正について
上記拒絶の理由のうち、まず、理由1について検討する。
上記拒絶の理由が通知された、請求項1の記載に関して、平成28年8月19日付け補正前は、
「上記タイルフィルタ手段は、ビットストリームから分離された、タイル境界の画素に対して異なるタイルの画素を参照しないフィルタリング処理内容を示す信号に基づき、タイル境界の画素に対するフィルタリング処理を実施するとともに、
上記タイルを分割して得られるスライス境界の画素に対して異なるスライスの画素を参照するか否かのフィルタリング処理内容を示す信号に基づき、スライス境界の画素に対するフィルタリング処理を実施する」
の記載であったのに対し、補正後は、
「上記タイルフィルタ手段は、ビットストリームから分離された、第1のタイルのタイル境界の画素に対して異なるタイルの画素を参照しないフィルタリング処理内容を示す信号に基づき、タイル境界の画素に対するフィルタリング処理と、
上記ビットストリームから分離された、上記第1のタイルと異なる第2のタイルを分割して得られるスライス境界の画素に対して異なるスライスの画素を参照するか否かのフィルタリング処理内容を示す信号に基づき、スライス境界の画素に対するフィルタリング処理と、を実施する」
の記載となった。
すなわち、上記補正により、第1のタイルと第1のタイルとは異なる第2のタイルとが存在し、「第1のタイルのタイル境界の画素に対して異なるタイルの画素を参照しないフィルタリング処理」と、上記第2のタイルでは「第2のタイルを分割して得られるスライス境界の画素に対して異なるスライスの画素を参照するか否かのフィルタリング処理内容を示す信号に基づき、スライス境界の画素に対するフィルタリング処理」とを実施する構成とを有する構成に限定された。

2.判断
特許法第36条第6項第1号には「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定されている。
したがって、以下では、本願発明の「上記タイルフィルタ手段は、ビットストリームから分離された、第1のタイルのタイル境界の画素に対して異なるタイルの画素を参照しないフィルタリング処理内容を示す信号に基づき、タイル境界の画素に対するフィルタリング処理と、
上記ビットストリームから分離された、上記第1のタイルと異なる第2のタイルを分割して得られるスライス境界の画素に対して異なるスライスの画素を参照するか否かのフィルタリング処理内容を示す信号に基づき、スライス境界の画素に対するフィルタリング処理と、を実施する」の構成が、発明の詳細な説明に記載されたものであるか検討する。

請求人は、平成28年8月19日付け意見書にて以下のとおり主張している。
『本願の発明は、画像を分割したレベルで「ループフィルタの処理を」「並列に行うことができる」(段落0009)ようにすることを目的としています。
当初明細書においては、ループフィルタの並列処理について、主に、画像を分割した「タイルレベルでの並列処理を行う場合について説明」(段落0054)しています。」
・・・中略・・・
これは、タイル復号部で処理された単位(この場合では「タイル」)でタイルループフィルタ部がフィルタリング処理を行うことを示しています。
・・・中略・・・
そして、当初明細書の段落0076-0077においては、「カレントタイルをスライスと呼ばれる1つ以上の構造体に分割して処理を行なっても良い」こと、「タイルと同様に、カレントスライスと異なるスライスに属するブロックの情報の参照を禁止…(略)…するなどの処理を行なうことができる」こと、及び「スライスは、タイルと同様に並列処理を容易にする効果がある」ことが記載されています。
これは、タイル符号化部(タイル復号部)によって、全てのタイルをスライスに分割する場合だけではなく、カレントタイルごとにタイルのまま処理またはスライスに分割して処理するようにしてもよいこと、すなわち、処理の単位をカレントタイルごとにタイルまたはスライスにすることができることを示しています。
してみると、タイル符号化部(タイル復号部)でタイル単位で処理されるタイル及びそれ以外のタイルを分割したスライス単位で処理される場合、タイルループフィルタ部がタイル単位またはスライス単位でフィルタリング処理を行なうことは当初明細書に記載されているに等しいと考えます。』
以上の記載によれば、「タイル単位でタイルループフィルタ部がフィルタリング処理を行う」ことが記載され、「カレントタイルをスライスに分割して処理を行っても良い」、「タイルと同様に、カレントスライスと異なるスライスに属するブロックの情報の参照を禁止…(略)…するなどの処理を行なうことができる」等の記載により、タイルを分割したスライス単位でも、タイルと同様のフィルタリング処理を行う技術思想が開示されているのであるから、本願請求項に係る、上記構成は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとの主張である。
しかし、以上の記載は、「前提として、タイル単位でフィルタリング処理を行うものにおいて、タイルをスライスに分割することも可能であり、スライスも、上記タイルと同様のフィルタリング処理を行うことが可能である」事項を開示するのみであり、第1のタイルと第2のタイルの関係、および、第1のタイルに対するフィルタリング処理と第2のタイルに存在するスライスに対するフィルタリング処理との関係について、何ら開示するものではない。
すなわち、タイル単位でフィルタリング処理を行うときに、異なるタイルの画素を参照しないフィルタリング処理を行うことと、上記タイルにおけるフィルタリング処理と同様、タイルを分割したスライスにおいても同様のフィルタリング処理が可能であることは開示されていても、タイルとスライスのフィルタリング処理に関して、
「上記タイルフィルタ手段は、ビットストリームから分離された、第1のタイルのタイル境界の画素に対して異なるタイルの画素を参照しないフィルタリング処理内容を示す信号に基づき、タイル境界の画素に対するフィルタリング処理と、
上記ビットストリームから分離された、上記第1のタイルと異なる第2のタイルを分割して得られるスライス境界の画素に対して異なるスライスの画素を参照するか否かのフィルタリング処理内容を示す信号に基づき、スライス境界の画素に対するフィルタリング処理と、を実施する」
の組み合わせが、具体的な技術思想として開示されているとはいえない。
また、請求人が摘示する以外の、本願明細書等の記載を参酌しても、上記請求項に係る構成について開示する記載はない。

したがって、特許請求の範囲に記載された
「上記タイルフィルタ手段は、ビットストリームから分離された、第1のタイルのタイル境界の画素に対して異なるタイルの画素を参照しないフィルタリング処理内容を示す信号に基づき、タイル境界の画素に対するフィルタリング処理と、
上記ビットストリームから分離された、上記第1のタイルと異なる第2のタイルを分割して得られるスライス境界の画素に対して異なるスライスの画素を参照するか否かのフィルタリング処理内容を示す信号に基づき、スライス境界の画素に対するフィルタリング処理と、を実施する」
の構成は、発明の詳細な説明に記載したものであるということはできず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているということはできない。

第5 理由2についての検討
仮に、上記理由1の拒絶の理由がないものとして、以下検討する。
(1)刊行物の記載
(1-1)刊行物1の記載
当審における拒絶の理由の通知において引用された特開2011-35620号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

【0001】
本発明は、画像処理装置および方法に関し、特に、符号化時または復号時のフィルタ処理の局所的な制御によるフィルタ処理の効果の低減を抑制することができるようにした画像処理装置および方法に関する。

【0072】
ところで、H.264/AVCでは、1フレームを複数スライスに分割し、そのスライス毎に画像圧縮情報を出力するようにすることができる。図5は、マルチスライスの例を説明する図である。図5の例の場合、フレーム151は、スライス0、スライス1、およびスライス2の3つのスライスに分割されている。
【0073】
このようなフレームより細かなスライス単位で画像圧縮情報を出力することにより、画像符号化装置は、画像圧縮情報をより短い間隔で生成し、出力することができる。つまり、その画像圧縮情報を復号する画像復号装置は、より早期に画像圧縮情報の復号を開始することができる。つまり、画像が入力されてから、符号化処理および復号処理が行われ、画像が出力されるまでの遅延時間を短くすることができる。
【0074】
BALFについて記載されている非特許文献2には、このマルチスライスについて開示されていない。つまり、ALFブロックをフレーム全体について設定することしか記載されていない。ところがマルチスライスの場合、スライスの境界付近の画素に対しては、フィルタ処理を通常のように行うことが出来ない場合がある。
【0075】
図6は、スライスの境界付近の画素に対するフィルタ処理の様子を示す図である。適応フィルタ処理部113は、処理対象画素に対してフィルタ処理を行う場合、その処理対象画素周辺の所定の範囲内の画素(周辺画素)を用いて行う。例えば、図6の場合、処理対象画素161をフィルタ処理する場合、適応フィルタ処理部113は、斜線模様で示される9×9の周辺画素162を用いてそのフィルタ処理を行う。
【0076】
ただし、図6に示されるように、処理対象画素161は、スライス境界163付近の画素である。ここで、スライス境界163は、現在、処理対象とされるスライス(当該スライス)と、その処理対象スライスに隣接するスライス(隣のスライス)との境界を示す。つまり、スライス境界163は、当該スライスの外枠を示す。
【0077】
図6に示されるように、そのスライス境界163近傍の処理対象画素161に対するフィルタ処理に用いられる周辺画素162は、その一部がスライス境界163を超え、隣のスライスの領域に跨っている。つまり、この処理対象画素161に対して、例えば図7Aに示されるように、通常の場合と同様にフィルタ処理を行うためには、隣のスライスの画素値が必要になる。
【0078】
図7Aの例の場合、適応フィルタ処理部113は、当該スライスと隣のスライスの両方の画素AA乃至画素JJを用いて処理対象画素である画素EEに対するフィルタ処理を行う。
【0079】
しかしながら、そのためには、隣のスライスの復号画像が生成されるまで待機しなければならない。したがって、この場合、符号化処理の遅延時間が増大する恐れがあった。
【0080】
これに対して、例えば図7Bに示されるように、ダミーデータを生成し、利用する方法がある。図7Bの例の場合、適応フィルタ処理部113は、矢印で示されるように、スライス境界163に接する画素EA乃至画素EJを複製することにより、周辺画素162の隣のスライス内の画素(ダミーデータ)を生成する。フィルタ処理部113は、生成したダミーデータを用いて画素EEに対するフィルタ処理を行う。
【0081】
このようにすることにより、適応フィルタ処理部113は、隣のスライスの画素が生成されるのを待つ必要がなく、図7Aの場合よりも早期に画素EEをフィルタ処理することができる。
【0082】
つまり、隣接スライスの画素を用いる図7Aの方法の場合、適応フィルタ処理部113は、実際のデータを用いるので、実際の画像の内容により適したフィルタ処理を行うことができる。すなわち、フィルタ処理による画質のより大きな改善を期待することができる。
【0083】
これに対して図7Bの方法の場合、適応フィルタ処理部113は、フィルタ処理に隣のスライスのデータを必要とせず、当該スライスのデータのみで処理を行うことができるので、より早期にフィルタ処理を行うことができる。
【0084】
どちらの方法が望ましいかは、システムの仕様やユーザ要求等によって異なる。例えば、画質重視のシステムであれば、図7Aに示される方法の方が望ましいが、図7Aの方法は、図7Bの方法よりもメモリ消費量が多く、かつ、遅延時間が増大する恐れがある。したがって、システムにおいて使用可能なメモリの容量や許容される遅延時間の長さによっては、図7Bの方法の方が望ましい場合も考えられる。
【0085】
境界制御フラグは、このような境界付近の画素に対するフィルタ処理の方法を制御する。
【0086】
図3に戻り、境界制御フラグ生成部132は、このような境界制御フラグを生成する。境界制御フラグ生成部132は、システム仕様管理部141、判定部142、および生成部143を有する。
【0087】
システム仕様管理部141は、画像符号化装置100を含む、画像処理を行うシステムの仕様(ハードウェア資源や使用目的等)を管理する。例えば、システム仕様管理部141が、画像符号化装置100において符号化された画像復号装置の仕様(ハードウェア資源や使用目的等)も管理するようにしてもよい。
【0088】
判定部142は、処理対象画素が境界付近の画素であるか否かを判定する。生成部143は、境界付近の画素と判定された処理対象画素について境界制御フラグを生成する。
【0089】
図8は、図1の適応フィルタ処理部113の主な構成例を示すブロック図である。
【0090】
適応フィルタ処理部113は、制御情報生成部112から供給される制御情報を用いて、デブロックフィルタ111から供給される復号画像にフィルタ処理を行う。
【0091】
適応フィルタ処理部113は、図9に示されるように、制御部171、適応フィルタ172、および選択部173を有する。
【0092】
制御部171は、適応フィルタ172および選択部173を制御する。例えば、制御部171は、制御情報生成部112から制御情報を取得し、その制御情報に基づいてフィルタ処理を制御する。
【0093】
適応フィルタ172は、デブロックフィルタ111から供給される復号画像の、制御部171から処理対象ALFブロックとして指定される領域を、制御部171により設定されたフィルタ係数を用いてフィルタ処理する。
【0094】
適応フィルタ172は、バッファ181、スライス内用適応フィルタ182、境界用第1適応フィルタ183、および境界用第2適応フィルタ184を有する。
【0095】
バッファ181は、デブロックフィルタ111から供給される復号画像を一時的に保持する。バッファ181は、処理対象スライスだけでなく、処理対象スライスに隣接するスライス(隣のスライス)も保持することができる。
【0096】
スライス内用適応フィルタ182は、制御部171に制御されて、周辺画素に隣のスライスの画素が含まれない、スライス境界付近でない処理対象画素に対するフィルタ処理を行う。つまり、スライス内用適応フィルタ182は、当該スライスの画素のみを用いてフィルタ処理を行う。
【0097】
境界用第1適応フィルタ183は、制御部171に制御されて、周辺画素に隣のスライスの画素が含まれる、スライス境界付近の処理対象画素に対して、スライスを跨ぐフィルタ処理を行う。つまり、境界用第1適応フィルタ183は、図7Aに示されるような方法で、当該スライスと隣のスライスの画素を用いてフィルタ処理を行う。したがって、境界用第1適応フィルタ183は、バッファ181に隣のスライスの画素が蓄積されてからフィルタ処理を開始する。
【0098】
境界用第2適応フィルタ184は、制御部171に制御されて、周辺画素に隣のスライスの画素が含まれる、スライス境界付近の処理対象画素に対して、当該スライスで閉じたフィルタ処理を行う。つまり、境界用第2適応フィルタ184は、図7Bに示されるような方法で、当該スライスの画素のみを用い、必要に応じてダミーデータを生成してフィルタ処理を行う。したがって、境界用第2適応フィルタ184は、バッファ181に当該スライスの画素が蓄積され次第フィルタ処理を開始する。
【0099】
制御部171は、処理対象画素の位置と、制御情報に含まれる境界制御フラグの値とに従って、スライス内用適応フィルタ182、境界用第1適応フィルタ183、または境界用第2適応フィルタ184のうち、いずれか1つを選択し、選択した処理部に、各自の方法でフィルタ処理を実行させる。
【0100】
また、制御部171は、バッファ181の画像の蓄積状況に応じて、選択した処理部(スライス内用適応フィルタ182、境界用第1適応フィルタ183、または境界用第2適応フィルタ184)のフィルタ処理開始タイミングを制御する。
【0101】
適応フィルタ172(スライス内用適応フィルタ182、境界用第1適応フィルタ183、または境界用第2適応フィルタ184)は、フィルタ処理結果を選択部173に供給する。

【0188】
<2.第2の実施の形態>
[デバイスの構成]
次に、第1の実施の形態において説明した画像符号化装置100に対応する画像復号装置について説明する。図15は、本発明を適用した画像処理装置としての画像復号装置の一実施の形態の構成例を示すブロック図である。
【0189】
画像復号装置200は、画像符号化装置100より出力される画像圧縮情報を復号し、復号画像を生成する。
【0190】
画像復号装置200は、蓄積バッファ201、可逆復号部202、逆量子化部203、逆直交変換部204、演算部205、およびデブロックフィルタ206を有する。また、画像復号装置200は、適応フィルタ処理部207を有する。さらに、画像復号装置200は、画面並べ替えバッファ208、およびD/A(Digital / Analog l)変換部209を有する。また、画像復号装置200は、フレームメモリ210、イントラ予測部211、動き補償部212、および選択部213を有する。
【0191】
蓄積バッファ201は、伝送されてきた画像圧縮情報を蓄積する。可逆復号部202は、蓄積バッファ201より供給された、図1の可逆符号化部106により符号化された情報を、可逆符号化部106の符号化方式に対応する方式で復号する。
【0192】
当該マクロブロックがイントラ符号化されたものである場合、可逆復号部202は、画像圧縮情報のヘッダ部に格納されたイントラ予測モード情報を復号し、その情報をイントラ予測部211へ伝送する。また、当該マクロブロックがインター符号化されたものである場合、可逆復号部202は、画像圧縮情報のヘッダ部に格納された動きベクトル情報を復号し、その情報を動き補償部212へ転送する。
【0193】
また、可逆復号部202は、画像圧縮情報のスライスヘッダから、適応フィルタ用の制御情報(制御情報生成部112により生成された制御情報)を抽出して復号し、その情報を適応フィルタ処理部207に供給する。
【0194】
逆量子化部203は可逆復号部202により復号された画像を、図1の量子化部105の量子化方式に対応する方式で逆量子化する。逆直交変換部204は、図1の直交変換部104の直交変換方式に対応する方式で逆量子化部203の出力を逆直交変換する。
【0195】
演算部205は、逆直交変換された差分情報に、選択部213から供給される予測画像を加算し、復号画像を生成する。デブロックフィルタ206は、その加算処理されて生成された復号画像のブロック歪を除去する。
【0196】
適応フィルタ処理部207は、可逆復号部202より供給された制御情報に含まれるフィルタ係数、ALFブロックサイズ、フィルタブロックフラグ、および境界制御フラグ等の情報に基づいて、デブロックフィルタ206より供給される画像に対してフィルタ処理を行う。適応フィルタ処理部207は、図1の適応フィルタ処理部113と同様の適応フィルタ処理を行う。これにより、適応フィルタ処理部207は、デブロックフィルタ206では取りきれなかったブロック歪や量子化による歪を低減することができる。

【0202】
[処理の流れ]
図16のフローチャートを参照して、この画像復号装置200が実行する復号処理の流れの例を説明する。
【0203】
ステップS301において、蓄積バッファ201は伝送されてきた画像を蓄積する。可逆復号部202は、ステップS302において、画像圧縮情報のスライスヘッダから適応フィルタ処理用の制御情報を抽出し、ステップS303において復号する。復号された制御情報は、適応フィルタ処理部207に供給される。
【0204】
また、ステップS303において、可逆復号部202は、蓄積バッファ201から供給される圧縮画像を復号する。すなわち、図1の可逆符号化部106により符号化されたIピクチャ、Pピクチャ、並びにBピクチャが復号される。
【0205】
このとき、動きベクトル情報、参照フレーム情報、予測モード情報(イントラ予測モード、またはインター予測モードを示す情報)なども復号される。
【0206】
すなわち、予測モード情報がイントラ予測モード情報である場合、予測モード情報は、イントラ予測部211に供給される。予測モード情報がインター予測モード情報である場合、予測モード情報と対応する動きベクトル情報および参照フレーム情報は、動き補償部212に供給される。
【0207】
ステップS304において、逆量子化部203は、ステップS302において復号された変換係数を、図1の量子化部105の特性に対応する特性で逆量子化する。ステップS305において逆直交変換部204は、ステップS204の処理により逆量子化された変換係数を、図1の直交変換部104の特性に対応する特性で逆直交変換する。これにより図1の直交変換部104の入力(演算部103の出力)に対応する差分情報が復号されたことになる。
【0208】
ステップS306において、演算部205は、後述するステップS212の処理で選択される予測画像を差分情報と加算する。これにより元の画像が復号される。ステップS307において、デブロックフィルタ206は、演算部205より出力された画像をフィルタリングする。これによりブロック歪みが除去される。
【0209】
ステップS308において、適応フィルタ処理部207は、デブロックフィルタ処理された画像に、さらに適応フィルタ処理を施すための適応フィルタ制御処理を行う。この適応フィルタ制御処理は、図1の適応フィルタ処理部113が行う処理と同様である。すなわち、この適応フィルタ制御処理は、可逆復号部202より供給された制御情報を用いること以外、図12のフローチャートを参照して説明した場合と同様に行われる。ただし、この可逆復号部202より供給される制御情報も、図1の制御情報生成部112が生成したものであり、実質的に図1の適応フィルタ処理部113が利用する、制御情報生成部112より供給される制御情報と同等である。
【0210】
この適応フィルタ制御処理により、デブロッキングフィルタ処理により取りきれなかったブロック歪みや量子化による歪みを低減することができる。

(1-2)刊行物2の記載
当審における拒絶の理由の通知において引用された「Arild Fuldseth, Michael Horowitz, Shilin Xu, Andrew Segall, Minhua Zhou, "Tiles", Joint Collaborative Team on Video Coding (JCT-VC) of ITU-T SG16 WP3 and ISO/IEC JTC1/SC29/WG11 6th Meeting: Torino, IT, 14-22July, 2011, [JCTVC-F335]」(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。

「Tiles include vertical and horizontal boundaries that partition a picture into columns and rows respectively. These boundaries break coding dependencies (e.g., dependencies associated with intra prediction, motion vector prediction and parsing) in the same way as slice boundaries unless otherwise indicated. The rectangular regions resulting from the intersecting column and row boundaries are called tiles (hence the name for the technique as a whole). Each tile contains an integer number of LCUs. LCUs are processed in raster scan order within each tile and the tiles themselves are processed in raster scan order within the picture (see Figures 1 and 2). Slice boundaries are introduced by the encoder and need not be coincident with tile boundaries. For example, a tile may contain more than one slice and slices may contain more than one tile.」(1頁下から10行-下から2行)
(訳)
タイルはそれぞれ列と行に画像を分割する垂直方向と水平方向の境界を含む。これらの境界は、特に断りのない限り、スライス境界と同様、符号化の依存関係(例えば、イントラ予測、動きベクトル予測と解析に関連した依存関係)を壊す。列と行の境界線によって生じる長方形の領域は、タイルと呼ばれている(・・略・・)。各タイルはLCUを整数個含んでいる。LCUは、各タイル内でラスタスキャン順で処理され、タイル自身は画像内のラスタスキャン順で処理される。(図1および2参照)スライス境界は、符号器によって導入され、タイル境界に一致する必要はない。例えば、タイルは、複数のスライスを含んでいてもよいし、スライスは、複数のタイルを含むことができる。

(2)刊行物に記載された発明
以上の記載によれば、刊行物1には次の発明(以下、刊行物1発明という。)が記載されている。

(2-1)刊行物1の【0001】の記載によれば、刊行物1に記載された発明は、画像処理装置に関する発明であり、【0188】以下に記載された第2の実施の形態では、「本発明を適用した画像処理装置としての画像復号装置」が開示されている。
したがって、刊行物1に記載された発明は、画像復号化装置に関する発明であるといえる。

(2-2)刊行物1の【0191】の記載によれば、刊行物1に記載された画像復号化装置は、伝送されてきた画像圧縮情報を蓄積し、これを復号しているから、伝送されてきた画像圧縮情報を復号するものである。
刊行物1の【0192】、【0193】の記載によれば、上記復号には、「画像圧縮情報のヘッダ部に格納されたイントラ予測モード情報を復号」することや、「画像圧縮情報のスライスヘッダから、適応フィルタ用の制御情報(制御情報生成部112により生成された制御情報)を抽出して復号」することも含んでいるから、伝送されてきた画像圧縮情報から、ヘッダ(あるいはスライスヘッダ)から、「イントラ予測モード情報」や「適応フィルタ用の制御情報」等の制御情報を抽出している。
以上まとめると、刊行物1に記載された画像復号化装置は、伝送されてきた画像圧縮情報から、制御情報を抽出する抽出手段を備えているといえる。

(2-3)刊行物1の【0191】-【0195】の記載によれば、刊行物1に記載された画像復号化装置は、伝送されてきた画像圧縮情報を蓄積バッファ201に蓄積し、蓄積バッファ201より供給された情報を、可逆復号部202で復号し、逆量子化部203で逆量子化し、逆直交変換部204で逆直交変換し、演算部205で、逆直交変換された差分情報に、選択部213から供給される予測画像を加算し、復号画像を生成している。
したがって、刊行物1に記載された画像復号化装置は、伝送されてきた画像圧縮情報を、差分情報に予測画像を加算することを含む復号化処理を行うことで復号画像を生成する処理手段を備えているといえる。

(2-4)刊行物1の【0193】の記載によれば、刊行物1に記載された画像復号化装置は、適応フィルタ処理部207を備えている。ここで、刊行物1の【0196】には「適応フィルタ処理部207は、図1の適応フィルタ処理部113と同様の適応フィルタ処理を行う。」とあるから、画像符号化装置における適応フィルタ処理部113についての刊行物1の【0072】-【0075】の記載をみると、適応フィルタ処理部113は、フレームを複数のスライスに分割したときのスライスの境界付近の画素に対して、フィルタ処理を行うものであることが開示されている。
したがって、刊行物1に記載された画像復号化装置は、フレームを複数のスライスに分割したときのスライスの境界付近の画素に対してフィルタ処理を行う適応フィルタ処理部を備えている。

(2-5)刊行物1の【0091】-【0101】の記載によれば、画像符号化装置における適応フィルタ処理部113は、制御部171、適応フィルタ172、および選択部173を有し、さらに、適応フィルタ172は、バッファ181、スライス内用適応フィルタ182、境界用第1適応フィルタ183、および境界用第2適応フィルタ184を有している。
上記スライス内用適応フィルタ182(周辺画素に隣のスライスの画素が含まれない、スライス境界付近でない処理対象画素に対するフィルタ処理を行うフィルタ)、境界用第1適応フィルタ183(周辺画素に隣のスライスの画素が含まれる、スライス境界付近の処理対象画素に対して、スライスを跨ぐフィルタ処理を行うフィルタ)、および境界用第2適応フィルタ184(周辺画素に隣のスライスの画素が含まれる、スライス境界付近の処理対象画素に対して、当該スライスで閉じたフィルタ処理を行うフィルタ)は、処理対象画素の位置と、制御情報に含まれる境界制御フラグの値とに従って、選択され、選択されたフィルタによって、フィルタ処理が実行されることが開示されている。
ここで、上述のように復号化装置の適応フィルタ処理部207は、符号化装置の適応フィルタ処理部113と同様の適応フィルタ処理を行うものであるから、刊行物1に記載された適応フィルタ処理部207は、制御情報に含まれる境界制御フラグの値に従って、フレームを分割したスライスの境界画素に対して、スライスを跨ぐフィルタ処理を行うか、当該スライスで閉じたフィルタ処理を行うかの選択を行い、フィルタリング処理を行うものである。

(2-6)まとめ
以上まとめると、刊行物1発明として、以下のとおりのものを認定することができる。((a)ないし(g)は当審において付与し、以下「構成要件(a)」等として引用する。)
(a)伝送されてきた画像圧縮情報から、制御情報を抽出する抽出手段と、
(b)伝送されてきた画像圧縮情報を、差分情報に予測画像を加算することを含む復号化処理を行うことで復号画像を生成する処理手段と、
(c)フレームを複数のスライスに分割したときのスライスの境界付近の画素に対してフィルタ処理を行う適応フィルタ処理部とを備え、
(d)適応フィルタ処理部は、制御情報に含まれる境界制御フラグの値に従って、フレームを分割したスライスの境界画素に対して、スライスを跨ぐフィルタ処理を行うか、当該スライスで閉じたフィルタ処理を行うかの選択を行い、フィルタリング処理
(e)を行う画像復号化装置。

(3)対比
本願発明と刊行物1発明とを対比する。

(3-1)本願発明の構成要件(A)と刊行物1発明の構成要件(a)とを対比する。
本願発明の「ビットストリーム」は、明細書の【0044】の「この実施の形態1では、映像の各フレーム画像を入力画像として、近接フレーム間で動き補償予測を実施して、得られた予測差分信号に対して直交変換・量子化による圧縮処理を施し、その後、可変長符号化を行ってビットストリームを生成する動画像符号化装置」等の記載からみて、映像を符号化して得られた符号列のストリーム(流れ)であって、当該技術分野において、「ストリーム」というと、リアルタイムで再生が行われるビット列を表している。
これに対して、刊行物1発明の「伝送されてきた画像圧縮情報」は、映像を符号化して得られた符号列である点で、本願発明の「ビットストリーム」と対応しているものの、刊行物1発明では、上記「伝送されてきた画像圧縮情報」を蓄積バッファ201に蓄えて、処理を行っており、「ストリーム」であるか明らかでないから、この点で相違する。
また、刊行物1発明の「抽出手段」は、伝送されてきた画像圧縮情報から、制御情報を抽出しており、制御情報は、符号化されたビットデータであることは明らかであるから、符号化ビットデータを分離する符号化ビットデータ分離手段といえる。
したがって、刊行物1発明は、映像を符号化して得られた符号列から符号化ビットデータを分離する符号化ビットデータ分離手段を有している点で、本願発明と相違がない。
もっとも、映像を符号化して得られた符号列が、本願発明では「ビットストリーム」であるのに対し、刊行物1発明では、「ビットストリーム」であることが特定されていない点で相違する。

(3-2)本願発明の構成要件(B)と刊行物1発明の構成要件(b)とを対比する。
刊行物1発明における、「差分情報に予測画像を加算することを含む復号化処理」は、本願発明の「予測差分復号処理」に相当することは明らかであるから、刊行物1発明の「復号画像を生成する処理手段」は、本願発明の「予測差分復号処理を実施し、復号画像を生成する復号手段」に対応する。
もっとも、本願発明の復号手段は、「上記符号化ビットデータ分離手段により分離された上記符号化ビットデータが示すタイルに対する予測差分復号処理を実施し、上記タイルに対する復号画像を生成する1以上のタイル復号手段」であるのに対し、刊行物1発明では、タイルの構成を有していないから、この点で相違する。

(3-3)本願発明の構成要件(C)と刊行物1発明の構成要件(c)とを対比する。
刊行物1発明の「適応フィルタ処理部」は、復号手段により生成された復号画像に対するフィルタリング処理を実施する点で、本願発明の「フィルタ手段」に対応する。
もっとも、本願発明のフィルタ手段は、「上記ビットストリームから分離されたフィルタパラメータが示す上記タイルに対するフィルタを用いて、上記タイル復号手段により生成された復号画像に対するフィルタリング処理を実施する1以上のタイルフィルタ手段」であるのに対し、刊行物1発明のフィルタ手段は、タイルに関する構成を有していない点で相違する。

(3-4)本願発明の構成要件(D)と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明は、タイルに関する構成を有していないから、本願発明の構成要件(D)に相当する構成を有していない。

(3-5)本願発明の構成要件(E)と刊行物1発明の構成要件(d)とを対比する。
刊行物1発明の「制御情報に含まれる境界制御フラグ」は、【0196】に「適応フィルタ処理部207は、可逆復号部202より供給された制御情報に含まれるフィルタ係数、ALFブロックサイズ、フィルタブロックフラグ、および境界制御フラグ等の情報に基づいて、デブロックフィルタ206より供給される画像に対してフィルタ処理を行う。」とあるから、構成要件(a)の抽出手段により、抽出された制御情報(に含まれる)のフラグであり、「上記映像を符号化して得られた符号列から分離された信号」といえる。
また、上記「制御情報に含まれる境界制御フラグ」は、当該フラグの値に従って、フレームを分割したスライスの境界画素に対して、スライスを跨ぐフィルタ処理を行うか、当該スライスで閉じたフィルタ処理を行うかの選択を行うのであるから、スライス境界の画素に対して、スライスを跨ぐフィルタ処理を行うか(すなわち、異なるスライスの画素を参照するか)、当該スライスで閉じたフィルタ処理を行うか(否か)のフィルタリング処理内容を示す信号であるといえる。
したがって、刊行物1発明のフィルタ手段は、「上記映像を符号化して得られた符号列から分離された、スライス境界の画素に対して異なるスライスの画素を参照するか否かのフィルタリング処理内容を示す信号に基づき、スライス境界の画素に対するフィルタリング処理」を実施している点で、本願発明と相違がない。
もっとも、「映像を符号化して得られた符号列」が、本願発明では「ビットストリーム」であるのに対し、刊行物1発明ではそうでない点で相違することは、上記(3-1)で検討したのと同じであり、また、スライスが、本願発明では、「上記第1のタイルと異なる第2のタイルを分割して得られるスライス」であるのに対し、刊行物1発明では、「フレームを複数のスライスに分割したときのスライス」である点で相違する。

(3-6)本願発明の構成要件(F)と刊行物1発明の構成要件(e)とを対比する。
刊行物1発明の「画像復号化装置」は、刊行物1発明の記載からみて、「動画像復号装置」であることは明白である。

(3-7)まとめ(一致点・相違点)
以上まとめると、本願発明と刊行物1発明とは以下の一致点で一致し相違点で相違する。

(一致点)
映像を符号化して得られた符号列から符号化ビットデータを分離する符号化ビットデータ分離手段と、
予測差分復号処理を実施し、復号画像を生成する復号手段と、
フィルタを用いて、上記復号手段により生成された復号画像に対するフィルタリング処理を実施する1以上のフィルタ手段
とを備え、
上記映像を符号化して得られた符号列から分離された、スライス境界の画素に対して異なるスライスの画素を参照するか否かのフィルタリング処理内容を示す信号に基づき、スライス境界の画素に対するフィルタリング処理と、
を実施する動画像復号装置。

(相違点1)
「映像を符号化して得られた符号列」が、本願発明では「ビットストリーム」であるのに対し、刊行物1発明では、「ビットストリーム」であることが特定されていない点

(相違点2)
本願発明の復号手段は、「上記符号化ビットデータ分離手段により分離された上記符号化ビットデータが示すタイルに対する予測差分復号処理を実施し、上記タイルに対する復号画像を生成する1以上のタイル復号手段」であるのに対し、刊行物1発明では、タイルの構成を有していない点

(相違点3)
本願発明のフィルタ手段は、「上記ビットストリームから分離されたフィルタパラメータが示す上記タイルに対するフィルタを用いて、上記タイル復号手段により生成された復号画像に対するフィルタリング処理を実施する1以上のタイルフィルタ手段」であるのに対し、刊行物1発明のフィルタ手段は、タイルに関する構成を有していない点

(相違点4)
本願発明は、「上記タイルフィルタ手段は、ビットストリームから分離された、第1のタイルのタイル境界の画素に対して異なるタイルの画素を参照しないフィルタリング処理内容を示す信号に基づき、タイル境界の画素に対するフィルタリング処理」を行うのに対し、刊行物1発明は、当該構成を有していない点

(相違点5)
スライスが、本願発明では、「上記第1のタイルと異なる第2のタイルを分割して得られるスライス」であるのに対し、刊行物1発明では、「フレームを複数のスライスに分割したときのスライス」である点

(4)判断
上記相違点について検討する。

(4-1)相違点1について
「伝送されてきた画像圧縮情報を復号化する画像復号化装置」として、いわゆるストリーミングを行うものは、本願出願前周知であり、刊行物1発明の画像復号化装置が、ストリーミングを行うものであることを想定することは、当業者であれば普通に想定できたことである。
そして、当該画像復号化装置がストリーミングを行うものであれば、伝送されてきた画像圧縮情報はビットストリームとなることは、当然のことである。
したがって、刊行物1発明の「伝送されてきた画像圧縮情報」を「ビットストリーム」とすることは当業者が適宜なしえたことである。

(4-2)相違点2ないし相違点5について
まず、刊行物1発明に、「タイル」の技術思想を導入することについて検討する。
当審が通知した拒絶の理由において、提示した刊行物2の記載をみると、ピクチャを符号化する際に、1枚のピクチャをタイルに分割して、さらに上記タイルが1以上のスライスを含むようにすることが開示されているから、上記タイルに関する技術思想を刊行物1発明に導入して、刊行物1発明の「フレームを複数のスライスに分割したときのスライス」を、フレームを複数のタイルに分割し、さらに、当該タイルを複数に分割したスライスとすることは、当業者であれば、容易に想定できたことである。
上記刊行物1発明のスライスを「フレームを複数のタイルに分割し、さらに、当該タイルを複数に分割したスライス」としたとき、刊行物2に記載されるように、各CUの処理(復号化)は、各タイル内でラスタスキャン順に処理され、各タイルの処理(復号化)は、画像内のラスタスキャン順で処理されるのであるから、上記復号化を行う際に、どのタイルの復号化を行っているか知る必要があることは明白であり、符号化された画像データに対して、タイルを示すビットデータを付加し、上記画像データを受信したとき、当該タイルを示すビットデータを分離・復号化して、復号化時に上記分離・復号化されたタイルを示すビットデータに基づき復号化処理を行う復号手段とすることは、刊行物1発明に、上記タイルの技術思想を導入したとき、当然採用される構成である。
したがって、刊行物1発明に相違点2の構成を採用することは、当業者が容易になしえたことである。

また、タイルもスライスと同様フレーム画像を分割したものであり、分割されたタイルの間では、(スライスと同様)依存関係が無いのであるから、タイルの境界でもスライスの境界と同様の処理が必要であろうことは、当業者であれば普通に想起しえたことである。
したがって、刊行物1発明に、上記タイルの技術思想を導入したとき、刊行物1発明が、スライスの境界において、フィルタ処理を行う手段を備えていたのと同様、タイルの境界においてフィルタ処理を行う手段を備えるようにすることは、当業者であれば、普通に想起しえたことである。
したがって、刊行物1発明に相違点3の構成を採用することは、当業者が容易になしえたことである。

相違点4、相違点5について検討する前に、本願発明の構成要件(D)、(E)について検討する。
本願発明の構成要件(D)、(E)については、先に検討したように、発明の詳細な説明に、その具体的な構成が開示されていない。
第4 2.で摘示した、平成28年8月19日付け意見書の請求人の主張によれば、「タイル復号部で処理された単位(この場合では「タイル」)でタイルループフィルタ部がフィルタリング処理を行うこと」と「タイル符号化部(タイル復号部)によって、全てのタイルをスライスに分割する場合だけではなく、カレントタイルごとにタイルのまま処理またはスライスに分割して処理するようにしてもよいこと、すなわち、処理の単位をカレントタイルごとにタイルまたはスライスにすることができること」が開示されているから、フレーム画像を分割する際に、タイルに分割してタイル単位で処理を行う部分(タイル単位で処理されるタイル)と、これとは別にタイルをさらにスライスに分割する部分(それ以外のタイルを分割したスライス単位で処理される)とが混在し、それぞれの単位で、本願明細書で開示されたフィルタ処理を適宜組み合わせれば、上記構成要件(D)、(E)の構成が導き出せると主張しているものと解釈できる。
ところで、刊行物1発明に刊行物2に記載された技術思想を適用すれば、刊行物1発明のスライスは、まずピクチャをタイルに分割し、さらに、上記タイルをスライスに分割した構成となるが、このとき、一部のタイルについてはスライスに分割しない構成は、刊行物2の記載によれば「タイルは、複数のスライスを含んでいてもよい」のであるから、当業者であれば、当然想定できることである。
そして、上記相違点3で判断したように、タイルの境界およびスライスの境界において、他のタイルや他のスライスの画素の参照の有無を適宜選択できるようにすることは当業者が容易になしえたことであるのであるから、その組み合わせとして、相違点(D)、(E)の構成に至ることは、当業者が容易に想到し得たことである。

したがって、上記各相違点は、当業者が容易に想到し得たものと認められ、本願発明全体としてみても格別のものはなく、その作用効果も、上記各相違点に係る構成の採用に伴って当然に予測される程度のものにすぎず、格別顕著なものがあるとは認められない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、刊行物1、刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-20 
結審通知日 2016-09-27 
審決日 2016-10-11 
出願番号 特願2013-541779(P2013-541779)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H04N)
P 1 8・ 121- WZ (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂東 大五郎  
特許庁審判長 藤井 浩
特許庁審判官 渡邊 聡
戸次 一夫
発明の名称 動画像復号装置  
代理人 辻岡 将昭  
代理人 中島 成  
代理人 濱田 初音  
代理人 河村 秀央  
代理人 坂元 辰哉  
代理人 田澤 英昭  

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