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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1321985
審判番号 不服2014-23194  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-14 
確定日 2016-11-22 
事件の表示 特願2011-543618「放出可能な生物活性薬剤を含む移植用複合材および組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月 1日国際公開、WO2010/075298、平成24年 6月14日国内公表、特表2012-513473〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年12月21日(パリ条約による優先権主張 2008年12月23日(6件) いずれも米国)を国際出願日とする特許出願であって、平成26年11月14日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、手続補正がなされ、平成27年11月24日付け拒絶理由通知書に応答して、平成28年5月25日付け手続補正書及び意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1?24に係る発明(以下、「本願発明1?24」ともいう。」)は、上記手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?24に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「 【請求項1】
スプレーコーティング組成物を移植デバイスに適用するためのシステムであって、スプレーコーティング組成物とエアロゾル容器とを備え、前記スプレーコーティング組成物が、少なくとも1つの生体適合性揮発性溶媒と、生物活性薬剤と、前記溶媒中に溶解または分散された生体適合性ターポリマーとを含み、前記生物活性薬剤は、抗生物質、抗菌剤、成長因子、成長阻害剤、免疫調節剤、ステロイド、または抗炎症剤のうちの少なくとも1つを含み、前記生体適合性ターポリマーは、ラクチド残基と、グリコリド残基と、カプロラクトン残基とを含み、前記移植デバイスが対象内に移植される前の24時間以内に、前記スプレーコーティング組成物は前記移植デバイスの表面上に噴霧される、システム。
【請求項2】
前記移植デバイスは、ポンプ、ペースメーカー、除細動器、または刺激器を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記ターポリマーは、前記組成物の全重量に対して、1重量%から50重量%を占める、請求項1?2のうちのいずれか一項に記載のシステム。
【請求項4】
前記生物活性薬剤は、前記ターポリマー内に溶解または分散されている、請求項1?3のうちのいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記生物活性薬剤は、マイクロ粒子と会合している、請求項1?4のうちのいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記生物活性薬剤は、マイクロ粒子内にカプセル化される、請求項1?5のうちのいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記スプレーコーティング組成物は、前記移植デバイスが対象内に移植される2時間以内に噴霧される、請求項1?4のうちのいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記スプレーコーティング組成物は、前記移植デバイスが対象内に移植される1時間以内に噴霧される、請求項1?4のうちのいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記スプレーコーティング組成物は、前記移植デバイスが対象内に移植される30分以内に噴霧される、請求項1?4のうちのいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記スプレーコーティング組成物は、前記移植デバイスが対象内に移植される15分以内に噴霧される、請求項1?4のうちのいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記スプレーコーティング組成物は、前記移植デバイスが対象内に移植される1分以内に噴霧される、請求項1?4のうちのいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
少なくとも1つの生体適合性揮発性溶媒と、生物活性薬剤と、前記溶媒中に溶解または分散された生体適合性ターポリマーとを含む、移植デバイスに適用するためのスプレーコーティング組成物であって、前記生体適合性ターポリマーは、ラクチド残基と、グリコリド残基と、カプロラクトン残基とを含み、前記移植デバイスが対象内に移植される前の24時間以内に、前記スプレーコーティング組成物は前記移植デバイスの表面上に噴霧される、スプレーコーティング組成物。
【請求項13】
前記ターポリマーは、前記組成物の全重量に対して、1重量%から50重量%を占める、請求項12に記載のスプレーコーティング組成物。
【請求項14】
前記生物活性薬剤は、前記ターポリマー内に溶解または分散されている、請求項12または13に記載のスプレーコーティング組成物。
【請求項15】
前記生物活性薬剤は、マイクロ粒子と会合している、請求項12?14のうちのいずれか一項に記載のスプレーコーティング組成物。
【請求項16】
前記生物活性薬剤は、マイクロ粒子内にカプセル化される、請求項12?15のうちのいずれか一項に記載のスプレーコーティング組成物。
【請求項17】
前記生物活性薬剤は、抗生物質または抗菌剤のうちの少なくとも1つを含む、請求項12?16のうちのいずれか一項に記載のスプレーコーティング組成物。
【請求項18】
請求項12?17のうちのいずれか一項に記載のスプレーコーティング組成物と、エアロゾル噴射剤とを備える加圧エアロゾル容器。
【請求項19】
請求項12?17のうちのいずれか一項に記載のスプレーコーティング組成物と滅菌されたパッケージとを備える、キット。
【請求項20】
前記組成物は、前記移植デバイスが対象内に移植される2時間以内に噴霧される、請求項12?17のうちのいずれか一項に記載のスプレーコーティング組成物。
【請求項21】
前記組成物は、前記移植デバイスが対象内に移植される1時間以内に噴霧される、請求項12?17のうちのいずれか一項に記載のスプレーコーティング組成物。
【請求項22】
前記組成物は、前記移植デバイスが対象内に移植される30分以内に噴霧される、請求項12?17のうちのいずれか一項に記載のスプレーコーティング組成物。
【請求項23】
前記組成物は、前記移植デバイスが対象内に移植される15分以内に噴霧される、請求項12?17のうちのいずれか一項に記載のスプレーコーティング組成物。
【請求項24】
前記組成物は、前記移植デバイスが対象内に移植される1分以内に噴霧される、請求項12?17のうちのいずれか一項に記載のスプレーコーティング組成物。」

第3 当審が通知した拒絶理由
当審が上記手続補正書により補正される前の平成26年11月14日付け手続補正書の請求項1?30に関して上記拒絶理由通知書で通知した拒絶理由のうち、拒絶理由1は、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないというもので、拒絶理由2は、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないというもので、拒絶理由3は、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというもので、拒絶理由4は、補正前の請求項1?30に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないというものである。

第4 当審の判断
1.拒絶理由4(特許法第29条第1項第3号)
(1)刊行物1の記載
本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2007/054108号(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。なお、刊行物1は英文であるため、翻訳文として、特表2009-514623号公報の記載を援用する。

(1a)「1.TNF-アルファの阻害剤を少なくとも1種含む組成物を備えた医療用ステント。
・・・
7.平滑筋細胞(SMC)の増殖を処置する医療用ステントを提供するための医薬品調製を目的とする、TNF-アルファの阻害剤を少なくとも1種含む組成物の使用。
・・・
9.a)少なくとも1つの医療用ステント、とb)TNF-アルファの阻害剤を少なくとも1種含む組成物とを含む、キット。
・・・
19.SMC増殖の阻害に使用するために好適な、請求項1?6、9?18のいずれかに記載の医療用ステントまたはキット。
20.前記SMC増殖が再狭窄または狭窄である、請求項7、8、11?19のいずれかに記載の医療用ステント、キットまたは使用。
21.該ステントが動脈または静脈に配置される、請求項1?20のいずれかに記載の医療用ステント、キットまたは使用。」(刊行物1の26?28頁のクレーム、翻訳文の【特許請求の範囲】)

(1b)「ステントを使用して血管腔を拡張すると、再狭窄(再狭小化)が生じることがある。独立型の血管形成術後のアテローム硬化型冠状動脈の再狭窄は、10?50%の患者において6か月以内に生じる可能性があり、追加の血管形成術または冠状動脈バイパス移植が必要となる。アテローム硬化型の閉塞動脈を開くことに加えて、裸のステント(薬剤を全く伴わない)をはめ込むプロセスが常在性の冠状動脈平滑筋細胞(SMC)を傷つけることが、現在認識されている。この外傷に応答して、付着血小板、浸潤マクロファージ、白血球、または平滑筋細胞(SMC)自体が細胞由来の成長因子を放出し、その後、内側SMCが増殖し、内弾性板を通過して血管内膜の領域へ遊走する。3?6か月の期間にわたる内膜SMCの追加の増殖および過形成、ならびに最も顕著には、大量の細胞外基質の生産によって、結果として冠状血流を著しく妨げるのに十分なほど血管の間隙を埋めること、および狭小化することになる。」(刊行物1の1頁14?25行、翻訳文の【0003】)

(1c)「本発明は、血管におけるSMC増殖の治療に使用するための、腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-アルファ)阻害剤を少なくとも1種含む組成物を備えたステントに関する。本発明の組成物の具体的使用について記述する場合、該使用を方法として理解してよい。
該組成物を使用して、SMC増殖を治療することができる。このことは、該組成物を使用して狭窄細胞塊または再狭窄細胞塊を治療できることを意味する。該組成物によって該塊は縮小し、または完全に根絶されうる。さらに、狭窄または再狭窄細胞が外科的に除去された領域に該組成物を適用すると、再狭窄を予防して、再成長の可能性を低減できる。該ステントにより長期間にわたるSMC増殖の治療が可能になる。
発明者らは、活性なTNF-アルファの生産を減少させるTNF-アルファ多型を有するマウスモデルがSMC増殖のリスクを低下させることを発見した。したがって、TNF-アルファの阻害剤、例えばサリドマイドを狭窄または再狭窄細胞に投与すると、該増殖細胞に対して有効な治療が提供される。これは事実であることが示された。TNF-アルファ阻害剤を使用すると、細胞周期の早期にSMC増殖が低減または停止し、良好な治癒応答および他の細胞を死滅させる攻撃性の低い治療につながる。TNF-アルファの阻害により、細胞周期のG_(1)期での細胞の成長停止が誘発されるため細胞分裂抑制が生じる。さらにまた、TNF-アルファの阻害は、炎症性サイトカインの放出を減少させ、かつ細胞接着分子の発現を低減する。これらのプロセスは再狭窄の予防に役立つ。」(刊行物1の3頁2?24行、翻訳文の【0012】?【0014】)

(1d)「ステントが組成物を備えている場合、それは、該組成物がステント表面またはステント内に配置されていて、該ステントが該管に接触すると該組成物が放出されうることを意味する。ステントを組成物でコーティングするか、あるいはステントに組成物をしみ込ませるか、あるいは、組成物が存在する空洞をステントが含んでもよい。ステントの種々の実施態様を以下に記載する。」(刊行物1の3頁35行?4頁4行、翻訳文の【0017】)

(1e)「ポリマー
本発明のある態様では、ポリマーを含む組成物でステントを少なくとも部分的にコーティングすることで、ステントはTNF-アルファの阻害剤を少なくとも1種備えている。本発明のポリマーは、ステント(すなわちステントおよび/またはメンブレン)に対する阻害剤(群)の取り付けを容易にし、および/または該阻害剤の制御放出を促進する任意のポリマーである。
本発明での使用に好適なポリマーは、ステントに取り付け可能で、かつ阻害剤を放出可能な任意のポリマーである。それらは管壁に対する刺激を最小にするために生体適合性でなければならない。ポリマーは、例えば、吸収性または非吸収性のフィルム形成ポリマーであってよい。該ポリマーは、所望の放出速度または所望のポリマー安定度に応じて、生体安定性または生体吸収性であってよい。
使用することができる好適な生体吸収性ポリマーには、以下からなる群から選択されるポリマーが含まれる:脂肪族ポリエステル、ポリ(アミノ酸)、コポリ(エーテル-エステル)、ポリアルキレンオキサラート、ポリアミド、ポリ(イミノカルボナート)、ポリアンヒドリド、ポリオルトエステル、ポリオキサエステル、ポリアミドエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリヒドロキシブチラートバレラート、アミド基含有ポリオキサエステル、ポリ(アンヒドリド)、ポリホスファゼン、シリコーン、ヒドロゲル、生体分子およびその混合物。
本発明の目的では、脂肪族ポリエステルには、ラクチド(乳酸D-、L-およびメソラクチドを含む)、イプシロン-カプロラクトン、グリコリド(グリコール酸を含む)、ヒドロキシブチラート、ヒドロキシバレラート、パラ-ジオキサノン、トリメチレンカルボナート(およびそのアルキル誘導体)、1,4-ジオキセパン-2-オン、1,5-ジオキセパン-2-オン、6,6-ジメチル-1,4-ジオキサン-2-オンのホモポリマーおよびコポリマー、ならびにそのポリマー混合物が含まれる。・・・
ポリホスファゼンや、L-ラクチド、D,L-ラクチド、乳酸、グリコリド、グリコール酸、パラ-ジオキサノン、トリメチレンカルボナートおよびイプシロン-カプロラクトンからなるco-、ter-およびさらに高次の混合モノマーベースのポリマーは、例えばAllcock, The Encyclopedia of Polymer Science, Vol. 13, pages 31-41, Wiley Intersciences, John Wiley & Sons, 1988およびVandorpe, Schacht, DejardinおよびLemmouchi, Handbook of Biodegradable Polymers, edited by Domb, Kost and Wisemen, Hardwood Academic Press, 1997, pages 161-182(ここに参照により本明細書中に援用される)に記載のものである。」(刊行物1の7頁10行?8頁16行、翻訳文の【0027】?【0031】)

(1f)「本発明での使用に好適な他のポリマーは生体吸収性エラストマー、より好ましくは脂肪族ポリエステルエラストマーである。適正な割合では、脂肪族ポリエステルコポリマーはエラストマーである。エラストマーは、金属ステントに良好に付着する傾向があり、かなりの変形に対して、割れずに、よく耐えることができるという利点を与える。高い伸長性および良好な付着性は、コーティング済みステントを拡張した時に、他のポリマーコーティングより優れた性能を提供する。好適な生体吸収性エラストマーの例は、米国特許第5,468,253号(参照によりここに援用される)に記載されている。好ましくは、脂肪族ポリエステルベースの生体吸収性生体適合性エラストマーには、非限定的に、イプシロン-カプロラクトンおよびグリコリドのエラストマーコポリマー(好ましくは約35:65?約65:35、より好ましくは45:55?35:65のイプシロン-カプロラクトン:グリコリドのモル比を有する)、E-カプロラクトンおよびラクチド、例えばL-ラクチド、D-ラクチドその混合物または乳酸コポリマーのエラストマーコポリマー(好ましくは約35:65?約90:10、より好ましくは約35:65?約65:35、最も好ましくは約45:55?30:70または約90:10?約80:20のイプシロン-カプロラクトン:ラクチドのモル比を有する)、p-ジオキサノン(1,4-ジオキサン-2-オン)およびラクチド、例えばL-ラクチド、D-ラクチドおよび乳酸のエラストマーコポリマー(好ましくは約30:70?約70:30、45:55?約55:45、および好ましくは約40:60?約60:40のp-ジオキサノン:ラクチドのモル比を有する)、イプシロン-カプロラクトンおよびp-ジオキサノンのエラストマーコポリマー(好ましくは約40:60?約60:40および好ましくは約30:70?約70:30のイプシロン-カプロラクトン:p-ジオキサノンのモル比を有する)、p-ジオキサノンおよびトリメチレンカルボナートのエラストマーコポリマー(好ましくは約40:60?約60:40、好ましくは約30:70?約70:30のp-ジオキサノン:トリメチレンカルボナートのモル比を有する)、トリメチレンカルボナートおよびグリコリドのエラストマーコポリマー(好ましくは約40:60?約60:40、好ましくは約30:70?約70:30のトリメチレンカルボナート:グリコリドのモル比を有する)、トリメチレンカルボナートおよびラクチド、例えばL-ラクチド、D-ラクチド、その混合物または乳酸コポリマーのエラストマーコポリマー(好ましくは約30:70?約70:30のトリメチレンカルボナート:ラクチドのモル比を有する)およびその混合物からなる群から選択されるものが含まれる。当技術分野において周知であるように、これらの脂肪族ポリエステルコポリマーは種々の加水分解速度を有し、したがって、エラストマーの選択は、部分的に、コーティング吸着に関する要求に基づく。例えばイプシロン-カプロラクトン-co-グリコリドコポリマー(それぞれ45:55モルパーセント)フィルムは2週後に人工生理バッファー中でその初期強度の90%を失い、一方、イプシロン-カプロラクトン-co-ラクチドコポリマー(それぞれ40:60モルパーセント)は12?16週の範囲で、同バッファー中でその強度のすべてを失う。速く加水分解するポリマーおよびゆっくり加水分解するポリマーの混合物を使用して、強度保持の期間を調節することができる。
コーティングの量は、コーティング後のステントの総重量のパーセントとして約0.5?約20の範囲におよび、好ましくは、約1?約15パーセントの範囲におよぶ。ポリマーコーティングは、塗布したポリマーの量に応じて、1以上のコーティング段階で塗布してよい。ステントコーティング中の異なる層に関して、異なるポリマーを使用してもよい。実際、阻害剤を含有してよいコーティング層の後の付着を促進するための下塗りとして、希釈した第一コーティング液を使用することが選択肢にあってよい。
さらに、阻害性医薬品の放出をさらに遅延させるために上塗りを施すことができ、または異なる医薬活性材料の送達のための基質としてそれらを使用することができる。ステント上の上塗りの量は変動するが、概して、約2000マイクログラム未満であり、好ましくは上塗りの量は約マイクログラム?約1700マイクログラムの範囲であり、最も好ましくは約300マイクログラム?約1000マイクログラムの範囲である。速く加水分解するコポリマーおよびゆっくり加水分解するコポリマーのコーティングのレイヤーを使用して、薬剤の放出を段階的にするか、または異なる層中に置かれた異なる物質の放出を制御することができる。ポリマー混合物を使用して、異なる物質の放出速度を制御するか、またはコーティング(すなわち弾性、靭性等)および薬剤送達特性(放出プロファイル)の望ましいバランスを提供してもよい。溶媒中の溶解度が異なるポリマーを使用して、種々の薬剤を送達するか、または薬剤の放出プロファイルを制御するために使用してよい種々のポリマー層を構築することができる。例えば、イプシロン-カプロラクトン-co-ラクチドエラストマーは酢酸エチルに可溶性であり、イプシロン-カプロラクトン-co-グリコリドエラストマーは酢酸エチルに不溶性であるからである。薬剤を含有するイプシロン-カプロラクトン-co-グリコリドエラストマーからなる第一の層は、溶媒である酢酸エチルでできているコーティング液を使用して、イプシロン-カプロラクトン-co-グリコリドエラストマーで上塗りすることができる。さらに、コポリマー内のモノマー比、ポリマー構造または分子量が異なれば、溶解度が異なる。例えば、45/55イプシロン-カプロラクトン-co-グリコリドは、室温でアセトンに可溶性であり、一方、同様の分子量の、35/65イプシロン-カプロラクトン-co-グリコリドのコポリマーは4重量パーセント溶液以内で実質的に不溶性である。第二のコーティング(または複数の追加のコーティング)を上塗りとして使用して、第一層中に含有される薬剤の薬剤送達を遅延させることができる。あるいは、第二層は、連続的な阻害剤送達を提供するために、異なる阻害剤を含有することができる。異なる阻害剤からなる多層は、第一のあるポリマー、そして他のポリマーの層を交互にすることによって提供することができる。当業者に容易に理解されるように、多数のレイヤーアプローチを使用して所望の薬剤送達を提供することができる。」(刊行物1の9頁24行?11頁23行、翻訳文の【0035】?【0037】、なお、下線は当審で付した。)

(1g)「コーティングは当業者に周知の好適な方法論、例えばディップコーティング、スプレーコーティング、静電コーティング、ステント上へのパワード型(powered form)の溶解によって施すことができる。心臓インターベンション専門医によるインターベンション時に裸のステント上にコーティングを施してもよい。いくつかのポリマー(例えばポリオルトエステル)は特殊な保存条件(アルゴン雰囲気および低温)を必要とするため、コーティングを伴う薬剤を特殊な包装で送達してよい。医師(MD)は裸のステント表面にコーティングを施す。それはわずかに粘着性であるため、取り付け済みのステントを患者の管または腔内に導入する直前に行う。」(刊行物1の11頁25?32行、翻訳文の【0038】)

(1h)「キット
本発明のキットは、少なくとも1つのステントおよび、別途、少なくとも1つの本発明の組成物を含んでよい。該キットによって、技術者または他の者が、ステントを管に挿入する前に組成物でコーティングすることが可能になる。
該組成物は、TNF-アルファの阻害剤を少なくとも1種含むことに加えて、エンドユーザーがステントのコーティングを容易にする追加物質を含有してよい。該組成物は、例えば、ステントを迅速に乾燥させるために高速で蒸発する溶媒を含有してよい。それは、阻害剤をステントに付着させ、その徐放を促すポリマー材料を含有してよい。
該組成物は、当技術分野において周知の任意の手段、例えば、ステントを組成物中に浸すか、ステントに組成物をスプレーするか、静電気力を使用することを、キットのステントに適用してよい。該方法は当技術分野において周知である。
本発明のある態様では、該組成物を容器中で提供する。例えば、バイアル、小袋、ねじ口びん、シリンジ、開けると封ができない容器、何度も封ができる容器である。該容器は、組成物を含有し、かつ、場合により、ステントに対する組成物の適用を容易にするために好適な任意の容器である。実際、活性化合物のコーティングおよび制御放出に使用するいくつかのポリマー、例えばポリオルトエステルは、非常に不安定で、湿度に非常に感受性で、冷雰囲気および例えばアルゴン雰囲気中に保存すべきであろう。いくつかの活性な製品、例えばロテノンは同様に、光および熱に感受性であり、暗冷所で保存すべきであろう。そのような場合、組成物を含む容器は裸のステントとは別にしておく。心臓インターベンション専門医は、コーティングを含有する箱を開封し、インターベンション直前にステントに適用してよい。」(刊行物1の19頁35行?20頁25行、翻訳文の【0072】?【0075】)

(2)刊行物1記載の発明
刊行物1には、「a)少なくとも1つの医療用ステント、とb)TNF-アルファの阻害剤を少なくとも1種含む組成物とを含む、キット」(摘示(1a)の請求項9)が記載されていることから、ステントに適用するための組成物(摘示(1a)、(1d)及び(1e))として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「TNF-アルファの阻害剤と、生体適合性ポリマーとを含む、ステントに適用するためのコーティング組成物」

(3)対比
本願発明12と引用発明とを対比する。
引用発明の「TNF-アルファの阻害剤」が、血管における平滑筋細胞(SMC)増殖の治療に使用するためのものであるから(摘示(1a)?(1c))、本願明細書の【0017】の「生物活性薬剤」の定義からみて、本願発明12の「生物活性薬剤」に相当する。
また、引用発明の「ステント」が、本願明細書の【0058】(移植デバイスとしてステントが例示されている。)からみて、本願発明12の「移植デバイス」に相当する。
そうすると、本願発明12と引用発明とは、次の一致点及び一応の相違点1?3を有する。

一致点:
「生物活性薬剤と、生体適合性ポリマーとを含む、移植デバイスに適用するためのコーティング組成物。」

相違点1:
前者は「少なくとも1つの生体適合性揮発性溶媒」を含むと特定しているのに対し、後者はそのような特定を有さない点。

相違点2:
生体適合性ポリマーについて、前者は「溶媒中に溶解または分散された生体適合性ターポリマー」で、「生体適合性ターポリマーは、ラクチド残基と、グリコリド残基と、カプロラクトン残基とを含」むと特定しているのに対し、後者はそのような特定を有さない点。

相違点3:
移植デバイスに適用するためのコーティング組成物について、前者は「移植デバイスに適用するためのスプレーコーティング組成物」で、「移植デバイスが対象内に移植される前の24時間以内に、前記スプレーコーティング組成物は前記移植デバイスの表面上に噴霧される」と特定しているのに対し、後者はそのような特定を有さない点。

(4)判断
ア.相違点1について
(ア)「少なくとも1つの・・・揮発性溶媒」を含む点
刊行物1には、ステントに適用するためのコーティング組成物(以下、単に「組成物」ともいう。)に、溶媒として酢酸エチルやアセトンを含むことが記載されており(摘示(1f))、酢酸エチルやアセトンは周知の揮発性溶媒である。また、刊行物1には、組成物に「高速で蒸発する溶媒」を含むことも記載されている(摘示(1h))。
そうであれば、本願発明12が「少なくとも1つの・・・揮発性溶媒」を含む点は、引用発明との間の実質的な相違点ではない。
(イ)「生体適合性」揮発性溶媒を含む点
まず、本願明細書の【0268】で「好適な溶媒の例には、エタノール、乳酸エチル、プロピレンカーボネート、グリコフロール、Nメチルピロリドン、2ピロリドン、プロピレングリコール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、ベンジルアルコール、トリアセチン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジクロロメタン、ポリエチレングリコール、CFC噴射剤、非CFC噴射剤、またはそれらの組合せもしくは混合物が含まれるが、これらに限定されない。」と「溶媒」が例示されている。
そして、刊行物1に記載された酢酸エチルやアセトンは本願明細書の上記【0068】で例示されている溶媒である。
次に、本願明細書の【0015】で「「生体適合性」という用語は、対象に対し実質的に「非毒性」である物質を指す。」と記載され、【0268】で「溶媒は、生体適合性溶媒であってもよい。そのような態様において、組成物が移植デバイス表面上に噴霧されてから、溶媒のほとんどが揮発した後に残留溶媒が残る場合であっても、残留溶媒が対象に対し有害とならないことが好ましくなり得る。」と記載されているが、これは、本願明細書の【0005】、【0282】の記載によれば、本願発明12が移植デバイスの使用場所・時点で移植デバイスに適用することが想定されているからであると解される。
ここで、刊行物1の医師がステントへのコーティングを「患者の管または腔内に導入する直前に行う」(摘示(1g))、「インターベンション直前にステントに適用」(摘示(1h))するとの記載からすれば、引用発明も、ステントの使用場所・時点でステントに適用することが想定されているものである。
そうであれば、引用発明に含まれる揮発性溶媒も、本願明細書の上記【0015】、【0268】に記載されているような「生体適合性」揮発性溶媒であることは明らかである。
よって、本願発明12が「生体適合性」揮発性溶媒を含む点は、引用発明との間の実質的な相違点ではない。
(ウ)以上から、上記相違点1は実質的には相違点ではない。

イ.相違点2について
(ア)「溶媒中に溶解または分散され」ている点
上記相違点1で検討したことに加え、刊行物1には、組成物中の生体適合性ポリマーが溶媒に溶解されていることが記載されている(摘示(1f))。
また、「溶媒中に溶解または分散され」ているという状態は、組成物中の生体適合性ポリマーにおける周知の状態を特定しているにとどまる。
そうであれば、生体適合性ポリマーについて、本願発明12が「前記溶媒中に溶解または分散され」ている点は、引用発明との間の実質的な相違点ではない。
(イ)「生体適合性ターポリマー」で、「生体適合性ターポリマーは、ラクチド残基と、グリコリド残基と、カプロラクトン残基とを含」む点
刊行物1には、生体適合性ポリマーについて、「L-ラクチド、D,L-ラクチド、乳酸、グリコリド、グリコール酸、パラ-ジオキサノン、トリメチレンカルボナートおよびイプシロン-カプロラクトンからなるco-、ter-およびさらに高次の混合モノマーベースのポリマー」(摘示(1e))が記載されている。
そうであれば、生体適合性ポリマーについて、本願発明12が「生体適合性ターポリマー」で、「前記生体適合性ターポリマーは、ラクチド残基と、グリコリド残基と、カプロラクトン残基とを含」む点は、引用発明との間の実質的な相違点ではない。
(ウ)以上から、上記相違点2は実質的には相違点ではない。

ウ.相違点3について
(ア)「移植デバイスに適用するためのスプレーコーティング組成物」の点
刊行物1には、ステントに組成物をスプレーすることが記載されている(摘示(1g)及び(1h))。
そうであれば、移植デバイスに適用するためのコーティング組成物について、本願発明12が「移植デバイスに適用するためのスプレーコーティング組成物」としている点は、引用発明との間の実質的な相違点ではない。
(イ)「移植デバイスが対象内に移植される前の24時間以内に、前記スプレーコーティング組成物は前記移植デバイスの表面上に噴霧される」点
刊行物1には、組成物によるステントへの適用について、医師が「患者の管または腔内に導入する直前に行う」(摘示(1g))、「インターベンション直前にステントに適用」(摘示(1h))すると記載されている。
そうであれば、移植デバイスに適用するためのコーティング組成物について、本願発明12が「前記移植デバイスが対象内に移植される前の24時間以内に、前記スプレーコーティング組成物は前記移植デバイスの表面上に噴霧される」点は、引用発明との間の実質的な相違点ではない。
(ウ)以上から、上記相違点3は実質的には相違点ではない。

(5)請求人は、上記意見書で「引用される刊行物1?3は、本願発明を教示も示唆もしません。刊行物1および3の開示は、せいぜい、ラクチド、グリコリドまたはカプロラクトンのコポリマーに限定され、本願発明が規定するような生体適合性ターポリマーは教示も示唆もしていません。」と述べているが、刊行物1の記載は上記(4)イ(イ)で指摘したとおりである。

(6)小括
したがって、本願発明12は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。

2.拒絶理由1(特許法第36条第6項第2号)
(1)本願発明1?24の「揮発性溶媒」には、どのような溶媒が包含されるのかが不明である。
なお、「生体適合性揮発性溶媒」にどのような溶媒が包含されるのかも不明である。

(2)したがって、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(3)請求人は、上記意見書で「当業者に容易に理解されます。」と述べているだけで、何ら具体的な釈明をしていない。

(4)なお、「1.拒絶理由4(特許法第29条第1項第3号)」は、一般的な揮発性溶剤は、本願発明12の「揮発性溶媒」に包含されるものとして判断している。(本願明細書の【0268】には、一般的な揮発性溶剤ではないプロピレングリコール等も「溶剤」として例示されている。)

3.拒絶理由2、3(特許法第36条第6項第1号、同条第4項第1号)
(1)発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明1?11(システム)、本願発明12?17、20?24(組成物)、本願発明18(エアロゾル容器)、本願発明19(キット)と関連して次のような記載がある。なお、下線は当審で付した。

(1a)「【0005】
本明細書において、移植用複合材および組成物、移植用複合材および組成物を備えるキット、ならびに移植用複合材および組成物を備える移植デバイスが開示される。一態様において、使用場所での適用が開示され、生物活性薬剤は、使用時点に近い時点で医療デバイスに適用され、これにより、最終移植デバイスの品質または有効性が過度に影響を受けないように、生物活性薬剤および移植デバイスの個別でより迅速な開発が可能となる。」

(1b)「【0156】
iv)接着性生体適合性ターポリマー組成物
別の態様において、接着性生体適合性ターポリマー組成物が開示される。一態様において、組成物は、接着生体適合性ターポリマーと放出可能な生物活性薬剤とを含む生物活性薬剤送達組成物である。・・・
・・・
【0168】
・・・一態様において、ターポリマーは、少なくとも1つのエステルエンドキャップを有するポリ(D-ラクチド-コ-グリコリド-コ-カプロラクトン)であり、ラクチド対グリコリド対カプロラクトンの比率は、20:30:50であり、約0.1dL/gの粘度を有する(20:30:50 DLGCL 1Eと略される)。
【0169】
・・・さらなる態様において、ターポリマーは、ポリ(D-ラクチド-コ-グリコリド-コ-mPEG)であり、ラクチド対グリコリドの比率は50:50であり、mPEGの分子量は約2000ダルトンである。そのようなターポリマーは、エステルエンドキャップおよび約0.2dL/gの粘度を有する(50:50 DLG mPEG 2000 2Eと略される)。
【0170】
一態様において、ターポリマーは、ラクチド、グリコリド、カプロラクトン、任意選択でエンドキャップされたポリエチレングリコール(PEG)、またはそれらの組合せのうちの少なくとも1つを含む。さらなる態様において、ターポリマーは、ラクチド、グリコリド、およびカプロラクトン残基のターポリマーを含み、ターポリマーは、開始剤の残基である末端基を有し、開始剤は、非結晶性の第一級または第二級アルコールである。さらなる態様において、ターポリマーは、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド-コ-任意選択でエンドキャップされたPEG)、またはポリ(ラクチド-コ-グリコリド-コ-カプロラクトン、またはそれらの組合せのうちの少なくとも1つを含む。
【0171】
一態様において、ターポリマーは、2008年11月12日出願の米国特許出願公開第12/269135号(米国特許公開第2009/0124535号)に開示されるターポリマーであり、この参照によりそのターポリマーおよび本開示の考慮される部分の教示の全てが本明細書に組み込まれる。
・・・
【0197】
実施例iv.1(予測)
第1の実施例においては、ターポリマー組成物が提供される。第1のシリンジは、20:30:50 DLGCL 1E等の粘性ターポリマーを含有する。第2のシリンジは、生物活性薬剤を含有し、これはこの場合ポリマー適合性溶媒(DMSO、NMP等)中に溶解または懸濁した溶媒抗生物質である。組成物を移植デバイス表面に適用する前に、2つのシリンジを接続することができ、シリンジプランジャを押して前後させることにより成分を混合することができる。生物活性薬剤含量は、所望の用量に依存して、0.1wt%から約60wt%以上までの範囲となり得る。得られる粘性溶液/懸濁液は、シリンジで直接移植デバイス表面に適用することができる。活性薬剤の制御放出は、上述のように、数時間から数日までの範囲の期間で達成され得る。
【0198】
実施例iv.2(予測)
第2の実施例においては、別のターポリマー組成物が提供される。第1のシリンジは、20:30:50 DLGCL 1E等の粘性ターポリマーを含有する。第2のシリンジは、乾燥粉末の形態の生物活性薬剤を含有する。2つのシリンジを接続し、シリンジプランジャを押して前後させることにより活性薬剤をターポリマーに懸濁させる。得られる粘性懸濁液は、シリンジで直接移植デバイス表面に適用することができる。同様に、薬物含量は、用量および放出速度を制御するために、必要に応じて0.1wt%から約60wt%以上までの範囲となり得る。
【0199】
実施例iv.3(予測)
第3の実施例においては、ターポリマー組成物を提供するための単一シリンジ法が開示される。ターポリマー、活性薬剤、および共溶媒(所望の場合、または必要に応じて)を一緒に組み合わせ、単一シリンジ内に封入することができる。薬物含量は、所望の用量に依存して、0.1wt%から約60wt%以上までの範囲となり得る。得られる粘性溶液/懸濁液は、シリンジで直接移植デバイスの表面に適用することができる。活性薬剤の制御放出は、数時間から数日までの範囲の期間で達成され得る。
【0200】
実施例iv.4(予測)
第4の実施例においては、ターポリマー組成物を備える単一包装システムが提供される。単一シリンジまたは他の好適な包装デバイスは、50:50 DLG mPEG 2000 2E等の粘着性ターポリマーを含有する。第2のシリンジまたは包装デバイスは、乾燥粉末またはフィルムの形態の生物活性薬剤を含有する。粘着性ターポリマーは、移植デバイスの表面上に適用および展着して、それにより、生物活性薬剤調合物を適用することができる接着表面を提供することができる。次いで、生物活性薬剤調合物を、粘着性ターポリマー表面に適用することができる。生物活性薬剤の制御放出は、数時間から数日までの範囲の期間で達成され得る。
【0201】
実施例iv.5(予測)
第5の実施例においては、別のターポリマー組成物が提供される。単一シリンジシステムまたは他の好適な包装デバイスは、50:50 DLG mPEG 2K等のターポリマー、生物活性薬剤、および共溶媒(所望の場合または必要に応じて)を備える。生物活性薬剤含量は、所望の用量に依存して、0.1wt%から約60wt%以上までの範囲となり得る。得られる粘性溶液/懸濁液は、シリンジで直接移植デバイス表面に適用し、デバイスの表面上に展着することができる。活性薬剤の制御放出は、数時間から数日までの範囲の期間で達成され得る。」

(1c)「【0251】
vi)スプレーコーティング組成物
また、本明細書において、移植デバイス、または対象の組織もしくは流体に適用され得るスプレーコーティング組成物も記載される。本明細書に記載の組成物は、生物活性薬剤の制御放出、持続放出、調節放出、徐放、パルス放出、遅延放出、またはプログラム放出を可能とする。
【0252】
スプレーコーティング組成物とともに使用されるポリマーは、任意の生体適合性および生体分解性または非生体分解性ポリマーを含み得る。本明細書に記載のポリマーは、ホモポリマーまたはコポリマーであってもよい。ポリマーは、ブロックもしくはブロック状コポリマーもしくはターポリマー、ランダムコポリマーもしくはターポリマー、星型ポリマー、またはデンドリマーであってもよい。・・・
【0253】
ポリマーの分子量は、スプレーコーティング組成物の所望の特性を提供するように選択され得る。ある特定の態様において、スプレーコーティング組成物は、揮発性溶媒中のポリマーの溶液または分散液を形成することにより提供され得る。そのような態様において、分子量は、十分な溶液または分散液を形成させるような分子量であるべきである。ある特定の態様において、分子量はまた、加圧された噴射剤によりポリマーをエアロゾル容器から噴射させるのに好適であるべきである。いくつかの態様において、ポリマーは、生物学的に関連した溶媒系に対する十分な溶解度を有するために、低分子量ポリマーであってもよい。・・・
・・・
【0259】
一態様において、ポリマー材料は、好適なレベル(例えば、1%、5%、10%、20%、40%)で溶媒系に溶解される粘性ターポリマーであってもよい。・・・
・・・
【0266】
さらなる態様において、スプレーコーティング組成物は、ターポリマーを含んでもよい。一態様において、ターポリマーは、2008年11月12日出願の米国特許出願公開第12/269135号(米国特許公開第2009/0124535号)に開示されるターポリマーであり、この参照によりそのターポリマーおよび本開示の考慮される部分の教示の全てが本明細書に組み込まれる。
・・・
【0268】
ポリマーは、好適な溶媒または溶媒系に溶解または分散されてもよい。一態様において、溶媒は、生体適合性溶媒であってもよい。そのような態様において、組成物が移植デバイス表面上に噴霧されてから、溶媒のほとんどが揮発した後に残留溶媒が残る場合であっても、残留溶媒が対象に対し有害とならないことが好ましくなり得る。好適な溶媒の例には、エタノール、乳酸エチル、プロピレンカーボネート、グリコフロール、Nメチルピロリドン、2ピロリドン、プロピレングリコール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、ベンジルアルコール、トリアセチン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジクロロメタン、ポリエチレングリコール、CFC噴射剤、非CFC噴射剤、またはそれらの組合せもしくは混合物が含まれるが、これらに限定されない。そのような溶媒は、許容されるレベルの水を含んでもよい。
・・・
【0282】
・・・本明細書に開示される組成物、方法、システムおよびキットは、移植デバイスの表面上へのスプレーコーティング組成物の使用場所での適用を可能とし、それにより生物活性薬剤放出能力を有する移植デバイスを事前に製造する必要性を排除することができる。
・・・
【0285】
一態様において、スプレーコーティング組成物は、例えば23時間以内、20時間以内、15時間以内、10時間以内、5時間以内、3時間以内、2時間以内、1時間以内、30分以内、15分以内、10分以内、5分以内、2分以内、30秒以内、または移植手術中を含む、移植手術の同日(すなわち、24時間以内)に移植デバイスの表面上に噴霧され得る。
・・・
【0287】
典型的には、スプレーコーティング組成物を移植デバイス上に噴霧する前に、いかなる表面汚染物質も除去しスプレーコーティング組成物の良好な接着を促進するために、移植デバイス表面を清浄化または処理することができる。例えば、スプレー分配システム(例えば、エアロゾル容器)および/またはインプラントデバイスは、滅菌することができる。ある特定の態様において、滅菌された容器またはパッケージ内に、スプレーコーティング組成物または組成物を備えるキットを保存することが望ましくなり得る。一態様において、キットは、好適な分配システム内に存在する、スプレーコーティング組成物の滅菌されたパッケージを備えることができる。
・・・
【0290】
生物活性薬剤
上述のように、開示される移植用複合材および組成物はそれぞれ、生物活性薬剤を備える。生物活性薬剤は、放出可能な生物活性薬剤、すなわち、ポリマーフィルムから放出され得る生物活性薬剤であってもよい。ある特定の態様において、生物活性薬剤は、ポリマーフィルム内またはポリマーフィルム上にあってもよい。
・・・
【0298】
さらなる特定の態様において、生物活性薬剤は、抗生物質を含む。・・・」

(2)拒絶理由2(特許法第36条第6項第1号)
ア.本願発明12?17、20?24
(ア)本願発明12?17、20?24の解決しようとする課題は、本願明細書の【0005】(摘示(1a))、【0282】(摘示(1c))からみて、「移植デバイスの表面上へのスプレーコーティング組成物の使用場所での適用を可能とし、それにより生物活性薬剤放出能力を有する移植デバイスを事前に製造する必要性を排除する組成物を提供すること」にあると解される。
そこで、本願発明12?17、20?24について、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえるか検討する。
(イ)本願明細書の「vi)スプレーコーティング組成物」に関する記載(摘示(1c))をみても、実施例は記載されておらず、上記課題に関する客観的データを伴う実施例の記載から、本願発明12?17、20?24について、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲内のものであるとはいえない。
なお、本願明細書には、「iv)接着性生体適合性ターポリマー組成物」に関する記載(摘示(1b))において、実施例iv.1(予測)?実施例iv.5(予測)(【0197】?【0201】)が記載されており、そのうち実施例iv.1(予測)及び実施例iv.2(予測)は、本願発明12?17、20?24と同様にラクチド残基と、グリコリド残基と、カプロラクトン残基とを含む生体適合性ターポリマーを使用しているが、スプレーコーティング組成物ではない点はさておくとしても、上記課題に関する客観的データを伴う実施例ではないから、実施例iv.1(予測)及び実施例iv.2(予測)の記載を参酌しても、本願発明12?17、20?24について、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲内のものであるとはいえない。
(ウ)そこで、本願明細書の他の記載をみても、本願発明12?17、20?24の各成分について種々の物質が列記されているだけであり(摘示(1c)、生体適合性ターポリマーについては摘示(1b)も参照。ただし、摘示(1c)の【0268】には、「溶媒」として列記されており、「生体適合性揮発溶媒」としては列記されていない。)、どのような組成等のスプレーコーティング組成物を、どのようなコーティング形成条件(乾燥温度、圧力等)で用いることで、どのような時間で移植デバイス表面にコーティングが形成され、生物活性薬剤放出能力を有する移植デバイスを使用場所で製造できるのかについて、何ら具体的な説明は記載されていない。
そうすると、本願明細書の他の記載をみても、本願発明12?17、20?24について、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲内のものであるとはいえない。
(エ)そして、本願発明12?17、20?24のような組成等のスプレーコーティング組成物が、「移植デバイスの表面上へのスプレーコーティング組成物の使用場所での適用を可能とし、それにより生物活性薬剤放出能力を有する移植デバイスを事前に製造する必要性を排除する組成物」であるというような技術常識は存在しない。
そうすると、技術常識に照らして、本願明細書をみても、本願発明12?17、20?24について、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲内のものであるとはいえない。
(オ)以上から、本願発明12?17、20?24は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

イ.本願発明1?11、18、19
上記アで述べたのと同様の理由で、本願発明1?11、18、19は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

ウ.小括
したがって、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(3)拒絶理由3(特許法第36条第4項第1号)
上記(2)で指摘したように、本願明細書をみても、どのような組成等のスプレーコーティング組成物を、どのようなコーティング形成条件(乾燥温度、圧力等)で用いることで、どのような時間で移植デバイス表面にコーティングが形成され、生物活性薬剤放出能力を有する移植デバイスを使用場所で製造できるのかについて、当業者は何も具体的に理解することができない。
そうすると、当業者が本願発明1?24を実施するのには過度の試行錯誤を要するといえる。
したがって、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(4)請求人は、上記意見書において、「当業者は、本願明細書の記載に基づき、本願発明を実施するために必要な最小限の特徴が何であるかを容易に理解することができます。当業者は、少なくとも本願明細書に列挙される溶媒が周知の物質であるので、使用される温度および圧力のような条件を容易に調節することができます。当業者は、本願発明を実施することが可能であり、本願発明は、明細書中にサポートされた範囲内です。」と述べているだけで、何ら具体的な釈明をしていない。

第5 まとめ
したがって、この出願は、上記「第4 1」に記載したように、請求項12に係る発明が、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、上記「第4 2」に記載したように、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、上記「第4 3」に記載したように、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-29 
結審通知日 2016-06-30 
審決日 2016-07-13 
出願番号 特願2011-543618(P2011-543618)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61K)
P 1 8・ 536- WZ (A61K)
P 1 8・ 113- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 関 美祝
小久保 勝伊
発明の名称 放出可能な生物活性薬剤を含む移植用複合材および組成物  
代理人 飯田 貴敏  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  
代理人 石川 大輔  
代理人 山本 健策  

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