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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L 審判 査定不服 6項4号請求の範囲の記載形式不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L |
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管理番号 | 1322105 |
審判番号 | 不服2013-20564 |
総通号数 | 205 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-01-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-10-23 |
確定日 | 2016-11-29 |
事件の表示 | 特願2011-526238「安定したアモルファス金属酸化物半導体」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 3月11日国際公開,WO2010/028269,平成24年 1月26日国内公表,特表2012-502486〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2009年9月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年9月8日,アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって,平成23年3月4日に手続補正書が提出され,平成25年1月16日付けで拒絶の理由が通知され,同年4月22日に意見書と手続補正書が提出され,同年6月14日付けで拒絶査定がされ,同年10月23日に前記拒絶査定に対する不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され,同年12月9日付けで当審から審尋を行い,平成26年3月17日に回答書が提出され,同年6月3日付けで,平成25年10月23日付けの手続補正を却下するとともに拒絶の理由を通知し,同年12月8日に意見書と手続補正書が提出され,平成27年4月15日付けで拒絶の理由を通知し,同年9月14日に意見書と手続補正書が提出され,同年10月28日付けで拒絶の理由を通知し,平成28年4月28日に意見書と手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明について 本願の請求項1ないし8の各請求項に係る発明(以下,本願の請求項○に係る発明を「本願発明○」という。)は,それぞれ,平成28年4月28日に提出された手続補正書により補正された,特許請求の範囲の請求項1ないし8の各請求項に記載された,次のとおりものと認める。 「【請求項1】 半導体装置内で半導体として使用するための安定したアモルファス金属酸化物材料であって,前記材料は,4eV未満のエネルギーギャップを有するアモルファス半導体イオン化金属酸化物と6eVより大きいエネルギーギャップを有するアモルファス絶縁共有結合金属酸化物との混合物から成り,前記アモルファス半導体イオン化金属酸化物は,前記アモルファス絶縁共有結合金属酸化物よりも多い量であり,前記アモルファス絶縁共有結合金属酸化物は,前記アモルファス半導体イオン化金属酸化物が前記半導体装置を処理する際に使用される250℃から700℃の範囲内の全ての温度で多結晶になることを防止する量であることを特徴とする安定したアモルファス金属酸化物材料。 【請求項2】 前記アモルファス絶縁共有結合金属酸化物の量は,前記アモルファス半導体イオン化金属酸化物の連続的なネットワークの形成を許容し,前記アモルファス絶縁共有結合金属酸化物は,前記混合物の5%より多いことを特徴とする請求項1記載の安定したアモルファス金属酸化物材料。 【請求項3】 前記アモルファス半導体イオン化金属酸化物は,亜鉛酸化物,インジウム酸化物,スズ酸化物,ガリウム酸化物,カドミウム酸化物,および,それらの組合せのうちの1つを含み,前記アモルファス絶縁共有結合金属酸化物は,アルミニウム酸化物,シリコン酸化物,ベリリウム酸化物,および,それらの組合せのうちの1つを含むことを特徴とする請求項1記載の安定したアモルファス金属酸化物材料。 【請求項4】 4eV未満のエネルギーギャップを有するアモルファス半導体イオン化金属酸化物と6eVより大きいエネルギーギャップを有するアモルファス絶縁共有結合金属酸化物との混合物から成る半導体層であって,前記アモルファス半導体イオン化金属酸化物は,前記アモルファス絶縁共有結合金属酸化物よりも多い量であり,前記アモルファス絶縁共有結合金属酸化物は,前記アモルファス半導体イオン化金属酸化物が前記半導体装置を処理する際に使用される250℃から700℃の範囲内の全ての温度で多結晶になることを防止する量である,半導体層と, 前記半導体層と連絡するために配置され,かつ,導通チャネルを画定する1対の端子と, 前記導通チャネルと連絡し,かつ,前記チャネルの導通を制御するために配置されたゲート端子と, から構成されることを特徴とする薄膜半導体装置。 【請求項5】 前記アモルファス半導体イオン化金属酸化物は,前記のアモルファス絶縁共有結合金属酸化物よりも多い量であり,前記アモルファス絶縁共有結合金属酸化物は,前記混合物の5%より多く,前記アモルファス絶縁共有結合金属酸化物の量は,前記アモルファス半導体イオン化金属酸化物の連続的なネットワークの形成を許容することを特徴とする請求項4記載の薄膜半導体装置。 【請求項6】 前記アモルファス半導体イオン化金属酸化物は,亜鉛酸化物,インジウム酸化物,スズ酸化物,ガリウム酸化物,カドミウム酸化物,および,それらの組合せのうちの1つを含み,前記アモルファス絶縁共有結合金属酸化物は,アルミニウム酸化物,シリコン酸化物,ベリリウム酸化物,および,それらの組合せのうちの1つを含むことを特徴とする請求項4記載の薄膜半導体装置。 【請求項7】 半導体装置内の半導体として使用するための安定したアモルファス金属酸化物材料の層を形成する方法であって,前記方法は, 4eV未満のエネルギーギャップを有するアモルファス半導体イオン化金属酸化物を提供する段階と, 6eVより大きいエネルギーギャップを有するアモルファス絶縁共有結合金属酸化物を提供する段階と, 前記アモルファス半導体イオン化金属酸化物の連続的なネットワークを形成する予め決められた割合で前記アモルファス絶縁共有結合金属酸化物を前記アモルファス半導体イオン化金属酸化物と混合する段階と, 基板上に,前記アモルファス半導体イオン化金属酸化物と前記アモルファス絶縁共有結合金属酸化物との混合物を堆積する段階と, 前記堆積中に窒素を使用して前記混合物のキャリヤ集中を制御する段階と, から構成され, 前記堆積する段階は,前記混合物の5%より多い前記アモルファス絶縁共有結合金属酸化物の量を堆積する段階を含む,前記アモルファス絶縁共有結合金属酸化物の量よりも多い前記アモルファス半導体イオン化金属酸化物の量を堆積する段階を含み, 前記アモルファス絶縁共有結合金属酸化物は,前記アモルファス半導体イオン化金属酸化物が前記半導体装置を処理する際に使用される250℃から700℃の範囲内の全ての温度で多結晶になることを防止する量であり,かつ前記アモルファス絶縁共有結合金属酸化物の量は,前記アモルファス半導体イオン化金属酸化物の連続的なネットワークを許容する, ことを特徴とする方法。 【請求項8】 前記堆積する段階は,亜鉛酸化物,インジウム酸化物,スズ酸化物,ガリウム酸化物,カドミウム酸化物,および,それらの組合せのうちの1つを含む前記アモルファス半導体イオン化金属酸化物を堆積する段階,および,アルミニウム酸化物,シリコン酸化物,ベリリウム酸化物,および,それらの組合せのうちの1つを含むアモルファス絶縁共有結合金属酸化物を堆積する段階を含むことを特徴とする請求項7記載の方法。」 第3 当審拒絶理由通知の概要 平成27年10月28日付けで当審から通知した拒絶の理由の概要は,次のとおりである。 「1 この出願は,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第4項第1号,第6項第1号,第2号に規定する要件を満たしていない。 記 <途中省略> (1-3)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について ア 発明の詳細な説明の記載は,当業者が,請求項1,5,8,及び,これらの請求項を引用する請求項に記載された発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められない。 イ すなわち,請求項1,5,8等に係る発明は,「半導体装置を処理する際に使用される250℃から700℃の範囲内の全ての温度で多結晶になることを防止」されている「半導体装置内において,半導体として使用するためのアモルファス金属酸化物材料」等に係る発明であるところ,「半導体装置を処理する際に使用される250℃から700℃の範囲内の全ての温度で多結晶になることを防止」し,かつ,「半導体装置内において,半導体として使用するため」に必要とされる電気的特性,例えば,所定のキャリア濃度及びキャリア移動度を備えた「アモルファス金属酸化物材料」を作製する具体的な方法が,発明の詳細な説明に開示されていないので,発明の詳細な説明の記載は,当業者が,請求項1,5,8等に記載された発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められない。 ウ すなわち,発明の詳細な説明の記載は,当業者が,請求項1,5,8,及び,これらの請求項を引用する請求項に記載された発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められない。 (1-4)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について ア 発明の詳細な説明の記載は,当業者が,請求項3,7,9に記載された発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められない。 イ すなわち,請求項3,7,9等に係る発明は,「4eV未満のエネルギーギャップを有するアモルファス半導体イオン化金属酸化物」を,「亜鉛酸化物,インジウム酸化物,スズ酸化物,ガリウム酸化物,カドミウム酸化物,および,それらの組合せのうちの1つ」と限定し,「6eVより大きいエネルギーギャップを有するアモルファス絶縁共有結合金属酸化物」を「アルミニウム酸化物,シリコン酸化物,ベリリウム酸化物,および,それらの組合せのうちの1つ」と限定したものであるが,このような材料の組合せからなる混合物の堆積において,具体的な材料として,何を使用し,成膜方法として,具体的にどのような方法を用い,さらに,成膜条件(温度,圧力,電力等)として具体的にどの程度の値を使用することによって,どの程度の電気的特性を有する堆積膜を得ることができ,かつ,当該堆積膜が,何度の温度まで多結晶になることが防止されたのかについて,発明の詳細な説明には何らの説明がされていない。 ウ 他方,本願の優先権主張の日前に公開された文献である,特開2000-44236号公報(下記の引例6)には,以下の事項が記載されている。 (6a)「【発明の名称】 透明導電性薄膜を有する物品及びその製造方法」 (6b)「【請求項1】 基材の少なくとも一方の表面の少なくとも一部に,一般式Zn_(x)M_(y)In_(z)O_((x+3y/2+3z/2))(式中,Mはアルミニウム及びガリウムのうち少なくとも一つの元素であり,比率x/yが0.2?12の範囲であり,比率z/yが0.4?1.4の範囲にある)で表される非晶質酸化物を含有する膜を有することを特徴とする物品。」 (6c)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,高い導電性と可視,特に青色光透過性を有し,かつ作製が容易である非晶質性酸化物を含む透明導電体膜を有する物品およびその製造方法に関する。さらに本発明は,本発明の物品からなる電極に関する。」 (6d)「【0013】 【発明の実施の態様】本発明の第1の態様の物品 一般式Zn_(x)M_(y)In_(z)O_((x+3y/2+3z/2))中,Mはアルミニウム及びガリウムのいずれか単独であってもよいし,Mはアルミニウム及びガリウムが共存してもよい。アルミニウム及びガリウムが共存する場合,アルミニウムとガリウムの比率には特に制限はない。但し,アルミニウムの比率が増えると結晶化温度が高くなる傾向がある。ガリウムの比率が増えると結晶化温度が低くなる傾向がある。」 エ すなわち,上記記載事項から,4eV未満のエネルギーギャップを有するアモルファス半導体イオン化金属酸化物である,亜鉛酸化物,インジウム酸化物,スズ酸化物,ガリウム酸化物,カドミウム酸化物,および,それらの組合せのうちの1つを含むアモルファス半導体イオン化金属酸化物と,6eVより大きいエネルギーギャップを有するアモルファス絶縁共有結合金属酸化物である,アルミニウム酸化物との混合物から成るアモルファス金属酸化物材料を,単純に堆積をすると,本願の優先権の主張の日前の技術水準を前提とすれば,前記堆積膜は,半導体装置内で使用する「半導体」ではなく,電極等として使用される「導電性薄膜」が堆積されるものと理解される。 オ そうすると,本願発明において,前記引例6に記載された組成と同様の組成を有するアモルファス金属酸化物材料を堆積して,「導電性薄膜」ではなく,半導体装置内で使用する「半導体」を得るためには,従来から行われてきていたアモルファス金属酸化物材料の堆積とは異なる手法が必要であると考えられるところ,発明の詳細な説明には,具体的な説明が,明確かつ十分には記載されていないから,本願の優先権の主張の日前の技術水準を前提しても,当業者が本願発明を実施できるとは認められない。 カ したがって,本願発明を実施すること,すなわち,「亜鉛酸化物,インジウム酸化物,スズ酸化物,ガリウム酸化物,カドミウム酸化物,および,それらの組合せのうちの1つ」と,「アルミニウム酸化物,シリコン酸化物,ベリリウム酸化物,および,それらの組合せのうちの1つ」との混合物からなる,250℃から700℃の範囲内の全ての温度で多結晶にならない,半導体装置内で半導体として使用できるだけの電気的特性を備えたアモルファス金属酸化物材料を製造すること等には,当業者に期待しうる程度を越える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があるといえる。すなわち,発明の詳細な説明の記載は,当業者が,請求項3,7,9等に記載された発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められない。 (1-5)特許法第36条第6項第2号について 請求項1等の「前記アモルファス半導体イオン化金属酸化物は,前記アモルファス絶縁共有結合金属酸化物よりも多い量であり」,及び,請求項2の「5%より多い」は,不明瞭な記載である。 すなわち,前記「多い」は,何を計量単位として比較したものであるかが特定されていない。(比較方法として,例えば,重量比,体積比,原子数比等を挙げることができるが,いずれであるか特定することができない。)」 第4 当審の判断 1 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について 特許法第36条第4項第1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載要件について,「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」と規定しており,当業者が,明細書及び図面に記載された発明の実施についての説明と出願時の技術常識とに基づいて,請求項に係る発明を実施しようとした場合に,どのように実施するかを理解できない場合(例えば,どのように実施するかを見いだすために,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤,複雑な実験等をする必要がある場合)には,当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていないことになる。 そして,上記における「実施」とは,「物の発明」においては,その物を作れ,かつその物を使用できることであるから,発明の詳細な説明には,当業者がその物を作れるように記載されていなければならず,明細書及び図面の記載,並びに出願時の技術常識を考慮しても,当業者がどのように作るか理解できない場合(例えば,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤,複雑な実験等をする必要がある場合)には,実施可能要件違反となる。 また,上記における「実施」とは,「物を生産する方法」においては,その方法により物を生産することであるから,発明の詳細な説明には,当業者がその方法により物を生産することが可能となるように記載されていなければならず,明細書及び図面の記載,並びに出願時の技術常識を考慮しても,当業者が物を生産する方法について理解できない場合(例えば,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤,複雑な実験等をする必要がある場合)には,実施可能要件違反となる。 以下,上記の観点に立って,本願明細書の発明の詳細な説明が実施可能要件に適合するか否か,すなわち,本願の請求項1ないし8の各請求項に係る発明について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されているか否かについて検討する。 (1)本願発明 本願の請求項1ないし8の各請求項に係る発明は,上記「第2 本願発明について」のとおりである。 (2)本願明細書 本願明細書の発明の詳細な説明には,本願に係る発明について,以下の記載がある。(当審注.下線は当審で付した。以下同じ。) ア「【技術分野】 【0001】 本発明は,半導体装置のチャネル層内で使用するための金属酸化物半導体材料に関する。 【背景技術】 ・・・ 【0003】 金属酸化物半導体は,高いキャリヤ移動度,光透過性,および低い堆積温度を有することから,強い関心が持たれている。高いキャリヤ移動度によって,より高い周波数またはより大きい電流が要求されるような,より高い性能領域への応用が広がる。光透過性によって,ディスプレイおよびセンサ・アクティブ・マトリックス内での光遮蔽の必要が無くなる。低い堆積温度によって,プラスチック基板上のフレキシブルなエレクトロニクスへの応用が可能になる。 ・・・ 【0005】 しかしながら,金属酸化物半導体の主たる欠点は,安定性に欠けること,および,より高い加工温度で多結晶になる傾向があることである。酸化亜鉛,インジウム酸化亜鉛,インジウム・ガリウム酸化亜鉛のような一般的な金属酸化物は,あまり安定性がなく,また,中程度の加工温度(例えば,約400℃強)で多結晶になる。多結晶の半導体金属酸化物は,いくつかの理由から半導体装置にとって望ましくない。例えば,多結晶の半導体金属酸化物内で形成されたトランジスタの特性は,結晶の大きさおよび位置が様々であるために,アレイ内で隣接する装置間でさえ様々になり得る。この問題をよりよく理解するために,サブ-ミクロン・ゲート下の導通領域内では,異なるトランジスタのそれぞれは,1個または2個から数個のポリシリコン結晶粒を含むことがあり,そして,導通領域内の異なる数の結晶によって,異なる特性が生じるであろう。さらに,異なる結晶粒間では,大きさおよびそれらの物理的特性もまた異なる。 【0006】 金属酸化物薄膜トランジスタ(TFT)の安定性は,加工温度に強く依存する。高温では,バルク半導体層内,およびゲート絶縁体と半導体層との間のインターフェイスでのトラップを減少させることができる。アクティブ・マトリクス方式有機発光装置(AMOLED)のようなものに応用するためには,極度の安定性が必要である。加工中に,金属酸化物TFTを,一般に250℃と700℃との間の高温にすることは有利である。同時に,これらの加工温度で,金属酸化物のアモルファス(非晶質)性質を維持することが望ましい。 【0007】 したがって,先行技術に内在する前述したような欠陥および他の欠陥を改善することは,非常に有利であろう。 【0008】 従って,本発明の1つの目的は,新規な改善された金属酸化物半導体材料を提供することである。 【0009】 本発明の他の目的は,改善された安定性を有し,かつ,より高い加工温度で多結晶になる傾向がより少ない,新規かつ改善された金属酸化物半導体材料を提供することである。 【0010】 本発明の他の目的は,改善された安定性,高いキャリヤ移動度,および酸素空孔およびキャリヤ密度の良好な制御性を有する,新規かつ改善された金属酸化物半導体材料を提供することである。 【発明の概要】 【0011】 簡潔に述べれば,本発明の好適な実施例に従って本発明が所望する目的を達成するために,安定したアモルファス金属酸化物材料が半導体装置内の半導体として使用するために提供され,その材料は,アモルファス半導体イオン化金属酸化物とアモルファス絶縁共有結合金属酸化物との混合物を含む。安定したアモルファス金属酸化物材料は,式XO_(a)YO_(b)および式X-O-Yのうちの1つによって表わされ,ここで,YOはアモルファス絶縁共有結合金属酸化物であり,XOはアモルファス半導体イオン化金属酸化物である。」 イ「【0020】 アモルファス金属酸化物半導体材料は,それらのキャリヤ移動度が高いために,半導体装置のチャネル層内で使用するものとして望ましい。この開示の目的のために,金属酸化物半導体材料は,亜鉛酸化物,インジウム酸化物,スズ酸化物,ガリウム酸化物,カドミウム酸化物,および,それらの任意の組合せのうちの少なくとも1つを含む。しかしながら,金属酸化物半導体は,比較的不安定で,かつ,より高温で多結晶になる傾向がある。多結晶の半導体金属酸化物は,比較的大きな粒子サイズであるという欠点も含めて構造上多くの欠点を有するために,半導体装置として望ましいものではない。 【0021】 当該技術分野において,現在標準の薄膜トランジスタのチャネル長は,約5ミクロンより小さいことが知られている。この開示の目的のために,用語「アモルファス」は,現在標準の薄膜トランジスタのチャネル長よりもずっと小さい(例えば,約100ナノメータまたはそれ以下),チャネル長に沿った粒子サイズを有する材料として定義される。 【0022】 アルミニウム酸化物,ホウ素酸化物,シリコン酸化物,マグネシウム酸化物,ベリリウム酸化物,および,それらの組合せのようないくつかのアモルファス金属酸化物は,非常に安定しており,かつ,簡単には多結晶にならない。しかしながら,これらの金属酸化物は良好な半導体ではないので,通常の状態では半導体装置内で使用することができない。 【0023】 いくつかのアモルファス絶縁金属酸化物をアモルファス金属酸化物半導体材料と混合することにより,アモルファス金属酸化物半導体材料の安定性を格段に改善することができることは知られている。しかしながら,絶縁アモルファス金属酸化物は,ほとんど非導電性であるので,結果として生じた混合物を通してアモルファス金属酸化物半導体材料の連続的なネットワークを提供することが必要である。それによって,キャリヤの流れは,アモルファス金属酸化物半導体材料と混合されたアモルファス金属酸化物絶縁材料によって中断されず,合成酸化物の移動度を高くすることができる。このようにして,合成酸化物の安定性は,安定した酸化物成分によって増強されるが,移動度は高いまま保たれる。さらに,異なる結果,安定性を増強するという少なくとも1つの結果を達成するために,異なる原子価または他の特性を備えたいくつかの異なるタイプの絶縁アモルファス金属酸化物が合成混合物中に含まれてもよいことが理解されるであろう。 【0024】 合成混合物中で使用することができるいくつかの典型的な絶縁アモルファス金属酸化物には,AlO,SiO,MgO,BeO,BO,および,同種のもの,ならびに,それらの組合せが含まれる。一般に,絶縁アモルファス金属酸化物は,本来,より共有的であり,比較的高いエネルギーギャップ(約6eVよりも大きいEg)を有する。理解を容易にするために,絶縁アモルファス金属酸化物は,「共有結合金属酸化物(covalent metal oxides)」と総称する。 【0025】 一般に,アモルファス金属酸化物半導体材料は,約4eV未満のEgの比較的低いエネルギーギャップで,本来,事実上より多くのイオンを含んでいる。理解を容易にするために,アモルファス金属酸化物半導体材料は,「イオン化金属酸化物(ionic metal oxides)」と総称する。 【0026】 異なる原子価の金属(すなわち,周期表中の異なるグループの金属)およびその混合物は,合成混合物中の安定性または望ましい半導体特性を増強するために使用することができる。いくつかの共有結合金属酸化物は,結晶を生じさせない傾向(例えば,より高いエネルギーギャップ)があるので,より大きい安定性が加わることが解るであろう。さらに,合成混合物に加えられる,安定した,または共有結合した金属酸化物の量は,アモルファス金属酸化物半導体材料の連続的なネットワークを維持するための必要性によって決定される。 【0027】 この合成混合物では,アモルファス金属酸化物半導体材料は,XOによって表わされる。また,絶縁アモルファス金属酸化物は,YOによって表わされる。したがって,合成混合物の式は,XO_(a)YO_(b)で表わすことができ,ここで,「a」は合成混合物中のアモルファス金属酸化物半導体材料(イオン化金属酸化物)の量,「b」は合成混合物中の絶縁アモルファス金属酸化物材料(共有結合金属酸化物)の量である。「a」および「b」は,0ではなく(0より大きい),合成混合物がアモルファス金属酸化物半導体材料の連続的なネットワークを含むという要求に応じるために,「a」は一般に「b」よりも大きいと理解すべきである。好ましくは,bは,材料全体の約5%より多い。さらに,アモルファス半導体のイオン化金属酸化物の量は,好ましくは,混合物の約17%より多い。 【0028】 合成混合物中のアモルファス半導体イオン化金属(X)およびアモルファス絶縁共有結合金属(Y)は,いくつかの実例では酸素と直接的に原子結合を形成することができ,X-O-Yとして表わされる。このような実例では,式X-O-Yは,単に式XO_(a)YO_(b)に置換できると理解すべきである。いずれの実例においても,アモルファス半導体イオン化金属酸化物とアモルファス絶縁共有結合金属酸化物との混合物は,安定したアモルファス金属酸化物材料中に含まれることが理解されるであろう。」 ウ「【0029】 安定した金属酸化物をアモルファス金属酸化物半導体材料と混合することから生じる他の1つの問題は,安定した金属酸化物は酸素空孔を減少させる傾向があるということである。酸素が,通常の処理手順で堆積の間に使用される場合(すなわち5%未満),酸素空孔を実質上減少させることができるが,合成材料の導電性(移動度)は低くなりすぎる。例えば,堆積中に酸素を使用することによって,キャリヤは,cm^(3)当たり10^(18)未満のキャリヤに減少することが知られている。したがって,合成混合物におけるキャリヤ集中を制御するために酸素を使用することができるが,非常に困難かつ繊細さを要する。 【0030】 堆積中にキャリヤ集中を制御するために酸素を使用する代わりに,窒素(N_(2))がキャリヤ集中を減少させるために使用できることが知られている。堆積中のN_(2)の存在によって,キャリヤ集中を減少させることができるが,酸素と比べて窒素はそれほど反応的ではないので,酸素と同じほど強くはない。したがって,窒素の使用はそれほど繊細さを要しないので,希望する結果を達成するのが容易である。」 (3)実施可能要件についての検討 ア 本願発明1,及び当該発明を引用する発明(本願発明2及び3)について (ア)本願明細書の発明の詳細な説明の記載について 上記(2)より,本願明細書の発明の詳細な説明には,本願に係る発明について,以下の記載があると認められる。 a 本願に係る発明は,半導体装置のチャネル層内で使用するための金属酸化物半導体材料に関する(【0001】)ものであるところ,金属酸化物半導体は,高いキャリヤ移動度等から強い関心が持たれている反面,安定性に欠ける,及びより高い加工温度で多結晶になる傾向があるとの欠点を有しており,酸化亜鉛,インジウム酸化亜鉛,インジウム・ガリウム酸化亜鉛のような一般的な金属酸化物は,あまり安定性がなく,中程度の加工温度(例えば,約400℃強)で多結晶になる(【0003】,【0005】)との欠陥があった。 しかし,金属酸化物薄膜トランジスタ(TFT)の安定性は,加工温度に強く依存し,高温では,バルク半導体層内,およびゲート絶縁体と半導体層との間のインターフェイスでのトラップを減少させることができ,加工中に,金属酸化物TFTを,一般に250℃と700℃との間の高温にすることは有利であり,これらの加工温度で,金属酸化物のアモルファス(非晶質)性質を維持することが望ましい(【0006】)とされる。 そこで,本願に係る発明は,先行技術に内在する上記の欠陥を改善して,改善された安定性を有し,且つ,より高い加工温度で多結晶になる傾向がより少ない,新規かつ改善された金属酸化物半導体材料を提供することや,改善された安定性,高いキャリヤ移動度,および酸素空孔およびキャリヤ密度の良好な制御性を有する,新規かつ改善された金属酸化物半導体材料を提供することを目的とし(【0007】ないし【0010】),アモルファス半導体イオン化金属酸化物とアモルファス絶縁共有結合金属酸化物との混合物を含む,安定したアモルファス金属酸化物材料を半導体装置内の半導体として使用するために提供する(【0011】)ことで,上記の目的を達成するものである。 b ところで,亜鉛酸化物,インジウム酸化物,スズ酸化物,ガリウム酸化物,カドミウム酸化物,及びそれらの任意の組合せのうちの少なくとも1つを含む,アモルファス(現在標準の薄膜トランジスタのチャネル長よりもずっと小さい(例えば,約100ナノメータまたはそれ以下),チャネル長に沿った粒子サイズを有する材料)金属酸化物半導体材料は,それらのキャリヤ移動度が高いが,比較的不安定で,かつ,より高温で多結晶になる傾向があり(【0020】,【0021】),また,アルミニウム酸化物,ホウ素酸化物,シリコン酸化物,マグネシウム酸化物,ベリリウム酸化物,及びそれらの組合せのようないくつかのアモルファス金属酸化物は,非常に安定しており,かつ,簡単には多結晶にならない反面,良好な半導体ではないので,通常の状態では半導体装置内で使用することができない(【0022】)。 そして,いくつかのアモルファス絶縁金属酸化物をアモルファス金属酸化物半導体材料と混合することにより,アモルファス金属酸化物半導体材料の安定性を格段に改善することができることは知られているが,絶縁アモルファス金属酸化物は,ほとんど非導電性であるので,結果として生じた混合物を通してアモルファス金属酸化物半導体材料の連続的なネットワークを提供することが必要であり,それによって,キャリヤの流れは,アモルファス金属酸化物半導体材料と混合されたアモルファス金属酸化物絶縁材料によって中断されず,合成酸化物の移動度を高くすることができ,合成酸化物の安定性は,安定した酸化物成分によって増強されるが,移動度は高いまま保たれる(【0023】)。 ここで,上記合成酸化物中で使用することができるいくつかの典型的な絶縁アモルファス金属酸化物には,AlO,SiO,MgO,BeO,BO,および,同種のもの,ならびに,それらの組合せが含まれ,絶縁アモルファス金属酸化物(共有結合金属酸化物)は,本来,より共有的であり,比較的高いエネルギーギャップ(約6eVよりも大きいEg)を有し,また,アモルファス金属酸化物半導体材料(イオン化金属酸化物)は,約4eV未満のEgの比較的低いエネルギーギャップを有する(【0024】,【0025】)。 このように,いくつかの共有結合金属酸化物は,結晶を生じさせない傾向(例えば,より高いエネルギーギャップ)があるので,より大きい安定性が加わるが,合成混合物に加えられる,安定した,または共有結合した金属酸化物の量は,アモルファス金属酸化物半導体材料の連続的なネットワークを維持するための必要性によって決定され(【0026】),式「XO_(a)YO_(b)」で表わされる合成混合物が,アモルファス金属酸化物半導体材料の連続的なネットワークを含むという要求に応じるために,合成混合物中のアモルファス金属酸化物半導体材料(イオン化金属酸化物)の量「a」は,一般に,合成混合物中の絶縁アモルファス金属酸化物材料(共有結合金属酸化物)の量「b」よりも大きいと理解すべきであり,好ましくは,「b」は材料全体の約5%より多く,「a」は混合物の約17%より多い(【0027】)とされる。 c さらに,安定した金属酸化物をアモルファス金属酸化物半導体材料と混合すると,安定した金属酸化物は酸素空孔を減少させる傾向があり,合成材料の導電性(移動度)は低くなりすぎるので,合成混合物におけるキャリヤ集中を制御するために酸素を使用することができる反面,非常に困難かつ繊細さを要するが,金属酸化物半導体材料の堆積中にキャリヤ集中を制御するために酸素を使用する代わりに,窒素(N_(2))がキャリヤ集中を減少させるために使用できることが知られている(【0029】,【0030】)。 (イ)判断 a 上記(1)によれば,本願発明1は,半導体装置内で半導体として使用するための安定した「アモルファス金属酸化物材料」であって,「4eV未満のエネルギーギャップを有するアモルファス半導体イオン化金属酸化物」と「6eVより大きいエネルギーギャップを有するアモルファス絶縁共有結合金属酸化物」との混合物から成り,上記「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」は,上記「アモルファス絶縁共有結合金属酸化物」よりも多い量であり,上記「アモルファス絶縁共有結合金属酸化物」は,上記「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」が上記半導体装置を処理する際に使用される250℃から700℃の範囲内の全ての温度で多結晶になることを防止する量となるように構成したものである。 そして,上記(ア)aより,本願発明1は,半導体装置のチャネル層内で使用するための金属酸化物半導体材料に関するもので,上記の構成によって,改善された安定性を有し,且つ,より高い加工温度で多結晶になる傾向がより少ない,新規かつ改善された金属酸化物半導体材料を提供することや,改善された安定性,高いキャリヤ移動度,および酸素空孔およびキャリヤ密度の良好な制御性を有する,新規かつ改善された金属酸化物半導体材料を提供することを目的としたものであることが,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されていると認められる。 b 上記(ア)bより,本願発明1の「アモルファス絶縁共有結合金属酸化物」は,結晶を生じさせない傾向があるので,より大きい安定性が加わるが,ほとんど非導電性であるので,本願発明1の「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」の連続的なネットワークを提供することが必要であり,それによって,キャリヤの流れは,「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」と混合された「アモルファス絶縁共有結合金属酸化物」によって中断されず,本願発明1の「アモルファス金属酸化物材料」において,その安定性は増強されるが,移動度は高いまま保たれることが,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されていると認められる。 そして,上記(ア)bより,本願発明1において,「アモルファス絶縁共有結合金属酸化物」の量は,「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」の連続的なネットワークを維持するための必要性によって決定され,式「XO_(a)YO_(b)」で表わされる,本願発明1の「アモルファス金属酸化物材料」が,「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」の連続的なネットワークを含むという要求に応じるために,「アモルファス金属酸化物材料」の「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」の量「a」は,一般に,「アモルファス金属酸化物材料」中の「アモルファス絶縁共有結合金属酸化物」の量「b」よりも大きいと理解すべきであり,好ましくは,「b」は材料全体の約5%より多く,「a」は「アモルファス金属酸化物材料」の約17%より多いとされることが,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されていると認められる。 また,上記(ア)cより,本願発明1において,「アモルファス絶縁共有結合金属酸化物」を「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」と混合すると,安定した「アモルファス絶縁共有結合金属酸化物」は酸素空孔を減少させる傾向があり,「アモルファス金属酸化物材料」の導電性(移動度)は低くなりすぎるので,キャリヤ集中を制御するために酸素を使用することができる反面,非常に困難かつ繊細さを要すること,及び金属酸化物半導体材料の堆積中にキャリヤ集中を制御するために酸素を使用する代わりに,窒素(N_(2))がキャリヤ集中を減少させるために使用できることが知られていることが,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されていると認められる。 c ところで,本願発明1における「アモルファス金属酸化物材料」を製造するには,250℃から700℃の範囲内の全ての温度で多結晶になることを防止し,且つ,「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」の連続的なネットワークを維持し,金属酸化物半導体材料としての機能を備える「アモルファス金属酸化物材料」が得られるように,「アモルファス絶縁共有結合金属酸化物」及び「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」それぞれの材料と重量又は体積,並びに両者を混合する方法と混合時の諸条件(温度,時間等)を設定しなければならないことは,当該技術分野における技術常識を参酌すれば明らかである。 加えて,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された,「アモルファス絶縁共有結合金属酸化物」を「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」と混合すると,「アモルファス絶縁共有結合金属酸化物」は酸素空孔を減少させる傾向があり,「アモルファス金属酸化物材料」の導電性(移動度)は低くなりすぎるので,非常に困難かつ繊細さを要するということからすれば,本願発明1における「アモルファス金属酸化物材料」を製造するための条件を設定することは,非常に困難かつ繊細さを要するとも認められる。 しかし,本願明細書の発明の詳細な説明には,本願発明1における「アモルファス金属酸化物材料」の製造に関し,式「XO_(a)YO_(b)」で表わすことができる,本願発明1の「アモルファス金属酸化物材料」の「アモルファス絶縁共有結合金属酸化物」の量「a」,及び「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」の量「b」に関する説明と,金属酸化物半導体材料の堆積中にキャリヤ集中を制御するために酸素を使用する代わりに,窒素(N_(2))がキャリヤ集中を減少させるために使用できることが知られていることが記載されているにとどまり,本願発明1における「アモルファス絶縁共有結合金属酸化物」を「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」に混合した「アモルファス金属酸化物材料」であって,250℃から700℃の範囲内の全ての温度で多結晶になることを防止し,且つ,「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」の連続的なネットワークを維持し,金属酸化物半導体材料としての機能を備える「アモルファス金属酸化物材料」について,「アモルファス絶縁共有結合金属酸化物」と「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」それぞれの材料と重量又は体積,両者を混合する方法と混合時の諸条件(温度,時間等),及び最終生成物である「アモルファス金属酸化物材料」のキャリア移動度と250℃から700℃の範囲内の温度で加熱した際の結晶構造を,具体的に示した製造方法の説明は記載されていない。 そして,本願明細書の発明の詳細な説明には,本願発明1の「アモルファス金属酸化物材料」における「アモルファス絶縁共有結合金属酸化物」の量「a」,及び「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」の量「b」について,上記「a」は一般に上記「b」より大きいとの記載,及び好ましくは,「b」は材料全体の約5%より多く,「a」は「アモルファス金属酸化物材料」の約17%より多いとの記載があるだけで,「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」及び「アモルファス絶縁共有結合金属酸化物」それぞれの,採用し得る重量又は体積の絶対値は示されておらず,「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」と「アモルファス絶縁共有結合金属酸化物」との量的な大小関係,「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」の比率の下限,及び「アモルファス絶縁共有結合金属酸化物」の比率の下限が示されているにすぎない。 また,本願明細書の発明の詳細な説明には,250℃から700℃の範囲内の全ての温度で多結晶になることを防止し,且つ,「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」の連続的なネットワークを維持し,金属酸化物半導体材料としての機能を備える「アモルファス金属酸化物材料」を製造する際に,金属酸化物半導体材料の堆積中にキャリヤ集中を制御するために酸素を使用する代わりに,窒素(N_(2))を使用する方法についての具体的な説明は記載されておらず,当該技術分野における技術常識を参酌しても,上記の方法の具体的な内容は明らかであるとはいえない。 そうすると,「アモルファス絶縁共有結合金属酸化物」及び「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」それぞれの材料と重量又は体積,及び両者を混合する方法と混合時の諸条件(温度,時間等)を設定する際に,想定されるこれらの組み合わせは多数に及ぶと認められるところ,この多数の組み合わせの中から,本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて,250℃から700℃の範囲内の全ての温度で多結晶になることを防止し,且つ,「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」の連続的なネットワークを維持し,金属酸化物半導体材料としての機能を備える「アモルファス金属酸化物材料」が得られるように,設定される「アモルファス絶縁共有結合金属酸化物」及び「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」それぞれの材料と重量又は体積,及び両者を混合する方法と混合時の諸条件(温度,時間等)の組み合わせを選択することには,当該技術分野における技術常識を参酌しても,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤,複雑な実験等をする必要があるといわざるを得ない。 (ウ)小括 以上から,本願明細書の発明の詳細な説明は,本願発明1について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない。 そして,同様の理由により,本願の発明の詳細な説明は,本願発明1を引用する本願発明2及び3についても, 当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない。 イ 本願発明4,及び当該発明を引用する発明(本願発明5及び6)について 上記アと同様の理由により,本願明細書の発明の詳細な説明は,本願発明4について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない。 そして,同様の理由により,本願の発明の詳細な説明は,本願発明4を引用する本願発明5及び6についても, 当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない。 ウ 本願発明7,及び当該発明を引用する発明(本願発明8)について 上記アと同様の理由により,本願明細書の発明の詳細な説明は,本願発明7について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない。 そして,同様の理由により,本願の発明の詳細な説明は,本願発明7を引用する本願発明8についても, 当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない。 (4)むすび したがって,本願明細書の発明の詳細な説明は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件に適合しない。 2 特許法第36条第6項第2号(特許請求の範囲の明確性要件)について (1)特許請求の範囲の記載 本願の特許請求の範囲の請求項1ないし8の記載は,上記「第2 本願発明について」のとおりである。 (2)特許請求の範囲の明確性要件について ア 本願請求項1,及び当該請求項を引用する請求項(本願請求項2及び3)について 本願請求項1における「前記アモルファス半導体イオン化金属酸化物は,前記アモルファス絶縁共有結合金属酸化物よりも多い量であり,」との記載では,「量」の計量単位が不明であり,「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」と「アモルファス絶縁共有結合金属酸化物」との量的比較に用いられる計量単位として,重量,体積,原子数等,様々なものが挙げられるところ,何を計量単位として「多い量」であるのかが不明である。 この点について更に説明すると,例えば,アモルファス半導体イオン化金属酸化物が,カドミウム酸化物(CdO)であり,アモルファス絶縁共有結合金属酸化物がベリリウム酸化物(BeO)である場合には,カドミウム酸化物(CdO)のモル質量が,約128g/molであり,ベリリウム酸化物(BeO)のモル質量が,約25g/molであることから,カドミウム酸化物(CdO)とベリリウム酸化物(BeO)の「量」の大小関係は,両酸化物を原子数を計量単位として比較して,カドミウム酸化物(CdO):ベリリウム酸化物(BeO)=1:2の場合には,「アモルファス半導体イオン化金属酸化物は,アモルファス絶縁共有結合金属酸化物よりも少ない量」という関係となり,これに対し,同じ酸化物の同じ組成比における大小関係を,重量を計量単位として比較すると,カドミウム酸化物(CdO):ベリリウム酸化物(BeO)=128:25×2=128:50となり,「アモルファス半導体イオン化金属酸化物は,前記アモルファス絶縁共有結合金属酸化物よりも多い量」となる。 そうすると,本願請求項1の上記の記載では,「アモルファス半導体イオン化金属酸化物」と「アモルファス絶縁共有結合金属酸化物」との量的な大小関係が,比較に用いられる計量単位によって逆転する場合があるといえるから,計量単位が不明である本願請求項1の上記の記載では,当該請求項に係る発明の構成が明確に記載されているとは認められない。 そして,同様の理由により,本願請求項1を引用する本願請求項2及び3の各請求項にも,当該各請求項に係る発明の構成が明確に記載されているとは認められない。 イ 本願請求項4,及び当該請求項を引用する請求項(本願請求項5及び6)について 上記アのとおり,本願請求項4において,「前記アモルファス半導体イオン化金属酸化物は,前記アモルファス絶縁共有結合金属酸化物よりも多い量であり,」との記載では,当該請求項に係る発明の構成が明確に記載されているとは認められない。 そして,同様の理由により,本願請求項4を引用する本願請求項5及び6の各請求項にも,当該各請求項に係る発明の構成が明確に記載されているとは認められない。 ウ 本願請求項7,及び当該請求項を引用する請求項(本願請求項8)について 上記アと同様の理由により,本願請求項7において,「前記アモルファス絶縁共有結合金属酸化物の量よりも多い前記アモルファス半導体イオン化金属酸化物の量を堆積する段階を含み,」との記載では,当該請求項に係る発明の構成が明確に記載されているとは認められない。 そして,同様の理由により,本願請求項7を引用する本願請求項8にも,当該請求項に係る発明の構成が明確に記載されているとは認められない。 (3)むすび したがって,本願の特許請求の範囲の請求項1ないし8は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件に適合しない。 第5 むすび 以上のとおり,発明の詳細な説明の記載は,本願の請求項1ないし8に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでないから,本願は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 また,特許請求の範囲の請求項1ないし8の記載は,特許を受けようとする発明を明確に記載したものではないから,本願は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 したがって,本願の他の拒絶理由については検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-06-29 |
結審通知日 | 2016-07-04 |
審決日 | 2016-07-15 |
出願番号 | 特願2011-526238(P2011-526238) |
審決分類 |
P
1
8・
538-
WZ
(H01L)
P 1 8・ 537- WZ (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 竹口 泰裕 |
特許庁審判長 |
河口 雅英 |
特許庁審判官 |
鈴木 匡明 加藤 浩一 |
発明の名称 | 安定したアモルファス金属酸化物半導体 |
代理人 | 本城 雅則 |
代理人 | 本城 吉子 |