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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04G
管理番号 1322172
審判番号 不服2015-20469  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-29 
確定日 2016-12-01 
事件の表示 特願2013- 8567「山形鋼の補強装置及び山形鋼の補強施行方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月31日出願公開、特開2014-139384〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成25年1月21日の出願であって、平成26年7月16日及び平成27年2月20日に手続補正がなされ、平成27年7月28日付けで、前記同年2月20日になされた手続補正を却下する決定とともに拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月29日に拒絶査定不服審判が請求され、同年11月24日付けで手続補正書(方式)及び上申書が提出されたものである。


2 本願発明
本願に係る発明は、平成26年7月16日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載されたものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「既設のトラス構造物を構成するL形の両辺が等しい等辺山形鋼材もしくはL形の両辺が等しくない不等辺山形鋼材(以下単に山形鋼材という)を補強するための補強装置であって、
前記山形鋼材の前記L形両辺の幅より大きい幅を有し、該幅方向の一端縁が前記山形鋼材の内側隅部に当接しかつ前記L形両辺が形成する開口部の角度が二分される中間に位置するようにして前記山形鋼材の長手方向の全長に亘り延在して配置された補強板材と、
前記山形鋼材の長手方向の複数箇所で前記補強板材を前記山形鋼材に一体に固定する複数の固定機構とを備え、
前記固定機構は、前記L形両辺の外側から前記山形鋼材を挟むように面対称に配置される第1の固定金具及び第2の固定金具と、前記山形鋼材の開口部側で前記第1の固定金具及び第2の固定金具のそれぞれの一端部を前記補強板材の幅方向の他端部に固定する第1の固定用ボルト・ナットと、前記第1の固定用ボルト・ナットと反対側に位置する前記第1の固定金具及び第2の固定金具のそれぞれの他端部を互いに接近する方向に締め付けて前記補強板材と前記山形鋼材とを一体化する第1の締め付け用ボルト・ナットを有し、
前記第1の固定金具は、前記L形両辺の一方の辺の外側面に当接する第1当接部と、前記第1当接部の一端に該第1当接部から前記補強板材の幅方向と平行にかつ離間する方向に延在して設けられた第1締め付け部と、前記第1当接部の他端に連接され前記一方の辺の上端縁から前記山形鋼材の開口部側へ折り曲げ加工された第1連接部と、前記第1連接部の先端に設けられ前記第1の固定金具を前記補強板材に固定する第1固定部を有し、
前記第2の固定金具は、前記L形両辺の他方の辺の外側面に当接する第2当接部と、前記第2当接部の一端に該第2当接部から前記補強板材の幅方向と平行にかつ離間する方向に延在して設けられた第2締め付け部と、前記第2当接部の他端に連接され前記他方の辺の上端縁から前記山形鋼材の開口部側へ折り曲げ加工された第2連接部と、前記第2連接部の先端に設けられ前記第2の固定金具を前記補強板材に固定する第2固定部を有し、
前記第1固定部と前記第2固定部は前記第1の固定用ボルト・ナットで前記補強板材に固定され、
前記第1締め付け部と前記第2締め付け部を前記第1の締め付け用ボルト・ナットにより互いに接近する方向に締め付けることで前記補強板材が前記山形鋼材に一体に固定されるように構成され、
さらに前記第1の固定金具は、前記第1当接部と前記第1締め付け部との連接箇所を介して前記第1当接部及び前記第1締め付け部の両方に差し渡し状態に配置して前記第1当接部と前記第1締め付け部の外表面に一体に固着された補強用リブと、前記第1連接部と第1固定部との連接箇所を介して前記第1連接部及び第1固定部の両方に差し渡し状態に配置して前記第1連接部と第1固定部の外表面に一体に固着された補強用リブを有し、
さらに前記第2の固定金具は、前記第2当接部と前記第2締め付け部との連接箇所を介して前記第2当接部及び前記第2締め付け部の両方に差し渡し状態に配置して前記第2当接部と前記第2締め付け部の外表面に一体に固着された補強用リブと、前記第2連接部と第2固定部との連接箇所を介して前記第2連接部及び第2固定部の両方に差し渡し状態に配置して前記第2連接部と第2固定部の外表面に一体に固着された補強用リブを有している、
ことを特徴とする山形鋼の補強装置。」


3 刊行物の記載
(1)刊行物1に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である国際公開第2008/143275号(以下「刊行物1」という。)には、以下の記載がある(下線は審決で付した。以下同じ。)。

ア 「[0001] 本発明は鉄塔、建築骨組等の鉄骨構造物に使用される鉄骨開断面構造部材を補強する鉄骨開断面構造部材の補強金具に関する。
[0002] 従来、鉄骨構造物に使用されている鉄骨開断面構造部材を補強する場合、鉄骨開断面構造部材に孔を開け、アングル材、プレート材をボルトで螺合固定したり溶接等で結合させて補強している。
[0003] しかしながら、アングル材やプレート材をボルトで螺合固定する方法では、鉄骨開断面構造部材にボルト孔を開けるため、鉄骨開断面構造部材が劣化し、強度や剛性が低下するという欠点があった。
また、アングル材やプレート材を溶接で結合させる方法では、溶接による熱で鉄骨開断面構造部材を劣化させるという欠点があり、高所に設置されている部材には溶接作業がしきれないという欠点があった。
・・・
[0004] 本発明は以上のような従来の欠点に鑑み、既存の鉄骨構造物の鉄骨開断面構造部材を加工することなく、該鉄骨開断面構造部材の補強をすることができる鉄骨開断面構造部材の補強金具を提供することを目的としている。」

イ 「[0020] 図1ないし図4に示す本発明を実施するための最良の第1の形態において、1は鉄塔や建築骨組等の鉄骨構造物に使用されている鉄骨開断面構造部材2を補強する本発明の鉄骨開断面構造部材の補強金具で、この鉄骨開断面構造部材の補強金具1は前記鉄骨開断面構造部材2の開口端部2aおよび外側面2b、2bに当接することができる補強バンド3と、この補強バンド3を前記鉄骨開断面構造部材2の開口端部2aの変形を防止できるように、該鉄骨開断面構造部材2に取付けることができる、該補強バンド3に取付けられた取付け手段4とで構成されている。
[0021] 前記補強バンド3は前記鉄骨開断面構造部材2の開口端部2aで重なり合う端部に、開口端部2a側の外側面2b、2bと面接触する係止片3a、3aが形成された左右の補強バンド5、6で構成されている。
[0022] 前記取付け手段4は前記補強バンド3の鉄骨開断面構造部材の開口端部側の内側に位置する右の補強バンド6の上下部位に形成されたボルト挿入孔7、7と、このボルト挿入孔7、7が形成された部位の前記左の補強バンド5に形成された拡開して、前記鉄骨開断面構造部材2に挿入し、挿入後に押し込んで、係止片3a、3aが鉄骨開断面構造部材2の外側面2b、2bに当接させた状態で位置決めできるL字状のガイド溝8、8と、このガイド溝8、8と前記ボルト挿入孔7、7に挿入されて、前記左右の補強バンド5、6を固定するボルト9、9、ナット10、10とで構成されている。
・・・
[0028] 図14ないし図16に示す本発明を実施するための第5の形態において、前記本発明を実施するための最良の第1の形態と主に異なる点は、帯状で、近接して複数個使用するもので、鉄骨開断面構造部材2の開口端部2aおよび両外側面2b、2bと当接する一部が開口し、広げることができる三角形状に形成された補強バンド3Dと、この補強バンド3Dの両外側面と当接する両端部材3d、3dの端部より鉄骨開断面構造部材2の外方へ突出するフランジ部14、14を形成し、該フランジ部14、14をボルト9、ナット10で締付け固定して、補強バンド3Dを鉄骨開断面構造部材2に取付ける取付け手段4Bを用いた点で、このように構成された鉄骨開断面構造部材の補強金具1Dにしても、前記本発明を実施するための最良の第1の形態と同様な作用効果が得られる。
・・・
[0030] 図20ないし図22に示す本発明を実施するための第7の形態において、前記本発明を実施するための第5の形態と主に異なる点は、鉄骨開断面構造部材2の開口端部2a側の中央部にフランジ部15、15を形成し、該フランジ部15、15をボルト16、ナット17で締付け固定した補強バンド3Fを用いた点で、このように構成した補強バンド3Fを用いた鉄骨開断面構造部材の補強金具1Fにしても前記本発明を実施するための第5の形態と同様な作用効果が得られる。」

ウ 「[0032] 図26ないし図28に示す本発明実施するための第9の形態において、前記本発明を実施するための第7の形態と主に異なる点は、左右の補強バンド5D、6Cを広幅に形成し、ほぼ中央部の外周部に補強用のリブ18、18、18、18を形成した補強バンド3Hを用いた点で、このような補強バンド3Hを用いて構成した鉄骨開断面構造部材の補強金具1Hにしても、前記本発明を実施するための第7の形態と同様な作用効果が得られる。
[0033] 図29ないし図31に示す本発明を実施するための第10の形態において、前記本発明を実施するための第9の形態と主に異なる点は左右の補強バンド5D、6Cの上下部に補強用のリブ18、18、18、18、18、18、18、18を形成した補強バンド3Iを用いた点で、このような補強バンド3Iを用いて構成した鉄骨開断面構造部材の補強金具1Iにしても、前記本発明を実施するための第9の形態と同様な作用効果が得られる。」

エ 「[0034] 図32ないし図34に示す本発明を実施するための第11の形態において、前記本発明を実施するための第9の形態と主に異なる点は左右の補強バンド5D、6Cのフランジ部15、15間に鉄骨開断面構造部材2のほぼ中央部の内壁面に先端部が当接する長さ方向の補強を図ることができる補強板11Cを取付けた補強バンド3Jを用いた点で、このように補強板11Cを用いる補強バンド3J を使用して構成した鉄骨開断面構造部材の補強金具1Jにしても、前記本発明の第9の実施の形態と同様な作用効果が得られるとともに、鉄骨開断面構造部材2の長さ方向の補強も図ることができる。
・・・
[0037] 図41および図42に示す本発明を実施するための第14の形態において、前記本発明を実施するための第11の形態と主に異なる点は、複数個の補強バンド3J、3J、3Jのフランジ部15、15で固定される長い補強板11Eを用いた点で、このように構成した鉄骨開断面構造部材の補強金具1Mにしてもよい。」

オ 図29ないし図31として、下記の図が記載されている。


カ 図41、図42として、下記の図が記載されている。


キ 上記イ、ウを踏まえて、図29ないし図31をみると、
「L型の鉄骨開断面構造部材2のL型両辺の一方の辺の外側面と面接触する部位と、当該面接触する部位の一端に設けられたフランジ部14と、前記面接触する部位の他端に連接され前記一方の辺の上端縁から鉄骨開断面構造部材2の開口端部2a側へ折り曲げられた部位と、当該折り曲げられた部位の先端に設けられたフランジ部15と、前記面接触する部位とフランジ部14との連接箇所を介して前記面接触する部位とフランジ部14の両方に差し渡し状態に配置して前記面接触する部位とフランジ部14の外表面に一体に固着された補強用のリブ18と、折り曲げられた部位とフランジ部15との連接箇所を介して前記折り曲げられた部位とフランジ部15の両方に差し渡し状態に配置して前記折り曲げられた部位とフランジ部15の外表面に一体に固着された補強用のリブ18を有する、L型の鉄骨開断面構造部材2のL型両辺の外側から鉄骨開断面構造部材2を挟むように配置される補強バンド5D及び補強バンド6C」
が看取できる。

ク 上記イ、エを踏まえて、図41、図42をみると、
「L型の鉄骨開断面構造部材2のL型両辺の開口端部2a方向の幅より大きい幅を有し、幅方向の先端部が鉄骨開断面構造部材2のほぼ中央部の内壁面に当接し、かつ、L型両辺が形成する開口端部2aの角度が二分される中間に位置するようにして鉄骨開断面構造部材2の長手方向に延在して配置された補強板11Eと、鉄骨開断面構造部材2の長手方向の複数箇所で補強板11Eを鉄骨開断面構造部材2に一体に固定する複数の補強板11Eを固定する部材とを備え、
補強板11Eを固定する部材は、鉄骨開断面構造部材2のL型両辺の外側から鉄骨開断面構造部材2を挟むように面対称に配置される補強バンド5D及び補強バンド6Cと、鉄骨開断面構造部材2の開口端部2a側で補強バンド5D及び補強バンド6Cのそれぞれの一端部を、補強板11Eの幅方向の他端側に固定するボルト16、ナット17と、当該ボルト16、ナット17と反対側に位置する補強バンド5D及び補強バンド6Cのそれぞれの他端部を互いに接近する方向に締め付けて補強板11Eと鉄骨開断面構造部材2とを一体化するボルト9、ナット10を有し、
補強バンド5D及び補強バンド6Cが、L型の鉄骨開断面構造部材2のL型両辺の一方の辺の外側面と面接触する部位と、当該面接触する部位の一端に前記面接触する部位から補強板11Eの幅方向と平行にかつ離間する方向に延在して設けられたフランジ部14と、当該面接触する部位の他端に連接され前記一方の辺の上端縁から鉄骨開断面構造部材2の開口端部2a側へ折り曲げられた部位と、当該折り曲げられた部位の先端に設けられ、当該バンドを補強板11Eに固定するフランジ部15を有し、
補強バンド5Dのフランジ部15と補強バンド6Cのフランジ部15はボルト16、ナット17で補強板11Eに固定され、
補強バンド5Dのフランジ部14と補強バンド6Cのフランジ部14をボルト9、ナット10により互いに接近する方向に締め付けることで補強板11Eが鉄骨開断面構造部材2に一体的に固定されるように構成されている、補強金具1M」
が看取できる。

ケ 上記ア、イ、エ、カ、クからみて、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる(以下「刊行物1発明」という。)。
「鉄塔である鉄骨構造物に使用されているL型の鉄骨開断面構造部材2を補強する補強金具であって、
L型の鉄骨開断面構造部材2のL型両辺の開口端部2a方向の幅より大きい幅を有し、幅方向の先端部が鉄骨開断面構造部材2のほぼ中央部の内壁面に当接し、かつ、L型両辺が形成する開口端部2aの角度が二分される中間に位置するようにして鉄骨開断面構造部材2の長手方向に延在して配置された補強板11Eと、鉄骨開断面構造部材2の長手方向の複数箇所で補強板11Eを鉄骨開断面構造部材2に一体に固定する複数の補強板11Eを固定する部材とを備え、
補強板11Eを固定する部材は、鉄骨開断面構造部材2のL型両辺の外側から鉄骨開断面構造部材2を挟むように面対称に配置される補強バンド5D及び補強バンド6Cと、鉄骨開断面構造部材2の開口端部2a側で補強バンド5D及び補強バンド6Cのそれぞれの一端部を、補強板11Eの幅方向の他端側に固定するボルト16、ナット17と、当該ボルト16、ナット17と反対側に位置する補強バンド5D及び補強バンド6Cのそれぞれの他端部を互いに接近する方向に締め付けて補強板11Eと鉄骨開断面構造部材2とを一体化するボルト9、ナット10を有し、
補強バンド5D及び補強バンド6Cが、L型の鉄骨開断面構造部材2のL型両辺の一方の辺の外側面と面接触する部位と、当該面接触する部位の一端に前記面接触する部位から補強板11Eの幅方向と平行にかつ離間する方向に延在して設けられたフランジ部14と、当該面接触する部位の他端に連接され前記一方の辺の上端縁から鉄骨開断面構造部材2の開口端部2a側へ折り曲げられた部位と、当該折り曲げられた部位の先端に設けられ、当該バンドを補強板11Eに固定するフランジ部15を有し、
補強バンド5Dのフランジ部15と補強バンド6Cのフランジ部15はボルト16、ナット17で補強板11Eに固定され、
補強バンド5Dのフランジ部14と補強バンド6Cのフランジ部14をボルト9、ナット10により互いに接近する方向に締め付けることで補強板11Eが鉄骨開断面構造部材2に一体的に固定されるように構成されている、補強金具。」

4 対比
本願発明と刊行物1発明とを対比する。

ア 刊行物1発明の「鉄塔である鉄骨構造物に使用されているL型の鉄骨開断面構造部材2」と、本願発明の「既設のトラス構造物を構成する」「山形鋼材」は、「既設の構造物を構成する山形鋼材」で共通する。

イ 刊行物1発明の「L型の鉄骨開断面構造部材2を補強する補強金具」は、本願発明の「山形鋼材」「を補強するための補強装置」に相当する。

ウ 刊行物1発明の「L型の鉄骨開断面構造部材2のL型両辺の開口端部2a方向の幅より大きい幅を有し、幅方向の先端部が鉄骨開断面構造部材2のほぼ中央部の内壁面に当接し、かつ、L型両辺が形成する開口端部2aの角度が二分される中間に位置するようにして鉄骨開断面構造部材2の長手方向に延在して配置された補強板11E」と、本願発明の「山形鋼材の前記L形両辺の幅より大きい幅を有し、該幅方向の一端縁が前記山形鋼材の内側隅部に当接しかつ前記L形両辺が形成する開口部の角度が二分される中間に位置するようにして前記山形鋼材の長手方向の全長に亘り延在して配置された補強板材」は、「山形鋼材の前記L形両辺の幅より大きい幅を有し、該幅方向の一端縁が前記山形鋼材の内側隅部に当接しかつ前記L形両辺が形成する開口部の角度が二分される中間に位置するようにして前記山形鋼材の長手方向に延在して配置された補強板材」で共通する。

エ 刊行物1発明の「L型の鉄骨開断面構造部材2のL型両辺の一方の辺の外側面と面接触する部位と、当該面接触する部位の一端に前記面接触する部位から補強板11Eの幅方向と平行にかつ離間する方向に延在して設けられたフランジ部14と、当該面接触する部位の他端に連接され前記一方の辺の上端縁から鉄骨開断面構造部材2の開口端部2a側へ折り曲げられた部位と、当該折り曲げられた部位の先端に設けられ、当該バンドを補強板11Eに固定するフランジ部15を有」する「補強バンド5D」及び「補強バンド6C」は、それぞれ、本願発明の「前記L形両辺の一方の辺の外側面に当接する第1当接部と、前記第1当接部の一端に該第1当接部から前記補強板材の幅方向と平行にかつ離間する方向に延在して設けられた第1締め付け部と、前記第1当接部の他端に連接され前記一方の辺の上端縁から前記山形鋼材の開口部側へ折り曲げ加工された第1連接部と、前記第1連接部の先端に設けられ前記第1の固定金具を前記補強板材に固定する第1固定部を有」する「「第1の固定金具」、及び、「前記L形両辺の他方の辺の外側面に当接する第2当接部と、前記第2当接部の一端に該第2当接部から前記補強板材の幅方向と平行にかつ離間する方向に延在して設けられた第2締め付け部と、前記第2当接部の他端に連接され前記他方の辺の上端縁から前記山形鋼材の開口部側へ折り曲げ加工された第2連接部と、前記第2連接部の先端に設けられ前記第2の固定金具を前記補強板材に固定する第2固定部を有」する「第2の固定金具」に相当する。

オ 刊行物1発明の「鉄骨開断面構造部材2の開口端部2a側で補強バンド5D及び補強バンド6Cのそれぞれの一端部を、補強板11Eの幅方向の他端側に固定するボルト16、ナット17」、「ボルト16、ナット17と反対側に位置する補強バンド5D及び補強バンド6Cのそれぞれの他端部を互いに接近する方向に締め付けて補強板11Eと鉄骨開断面構造部材2とを一体化するボルト9、ナット10」は、それぞれ、本願発明の「山形鋼材の開口部側で前記第1の固定金具及び第2の固定金具のそれぞれの一端部を前記補強板材の幅方向の他端部に固定する第1の固定用ボルト・ナット」、「第1の固定用ボルト・ナットと反対側に位置する前記第1の固定金具及び第2の固定金具のそれぞれの他端部を互いに接近する方向に締め付けて前記補強板材と前記山形鋼材とを一体化する第1の締め付け用ボルト・ナット」に相当する。

カ 刊行物1発明の「鉄骨開断面構造部材2のL型両辺の外側から鉄骨開断面構造部材2を挟むように面対称に配置される補強バンド5D及び補強バンド6Cと、鉄骨開断面構造部材2の開口端部2a側で補強バンド5D及び補強バンド6Cのそれぞれの一端部を、補強板11Eの幅方向の他端側に固定するボルト16、ナット17と、当該ボルト16、ナット17と反対側に位置する補強バンド5D及び補強バンド6Cのそれぞれの他端部を互いに接近する方向に締め付けて補強板11Eと鉄骨開断面構造部材2とを一体化するボルト9、ナット10を有」し、「鉄骨開断面構造部材の長手方向の複数箇所で補強板11Eを鉄骨開断面構造部材2に一体に固定する複数の補強板11Eを固定する部材」は、本願発明の「前記L形両辺の外側から前記山形鋼材を挟むように面対称に配置される第1の固定金具及び第2の固定金具と、前記山形鋼材の開口部側で前記第1の固定金具及び第2の固定金具のそれぞれの一端部を前記補強板材の幅方向の他端部に固定する第1の固定用ボルト・ナットと、前記第1の固定用ボルト・ナットと反対側に位置する前記第1の固定金具及び第2の固定金具のそれぞれの他端部を互いに接近する方向に締め付けて前記補強板材と前記山形鋼材とを一体化する第1の締め付け用ボルト・ナットを有」し、「山形鋼材の長手方向の複数箇所で前記補強板材を前記山形鋼材に一体に固定する複数の固定機構」に相当する。

キ 刊行物1発明の「補強バンド5Dのフランジ部15と補強バンド6Cのフランジ部15はボルト16、ナット17で補強板11Eに固定され、補強バンド5Dのフランジ部14と補強バンド6Cのフランジ部14をボルト9、ナット10により互いに接近する方向に締め付けることで補強板11Eが鉄骨開断面構造部材2に一体的に固定される」ことは、本願発明の「第1固定部と前記第2固定部は前記第1の固定用ボルト・ナットで前記補強板材に固定され、前記第1締め付け部と前記第2締め付け部を前記第1の締め付け用ボルト・ナットにより互いに接近する方向に締め付けることで前記補強板材が前記山形鋼材に一体に固定される」ことに相当する。

ク したがって、本願発明と刊行物1発明とは、
「既設の構造物を構成する山形鋼材を補強するための補強装置であって、前記山形鋼材の前記L形両辺の幅より大きい幅を有し、該幅方向の一端縁が前記山形鋼材の内側隅部に当接しかつ前記L形両辺が形成する開口部の角度が二分される中間に位置するようにして前記山形鋼材の長手方向に延在して配置された補強板材と、前記山形鋼材の長手方向の複数箇所で前記補強板材を前記山形鋼材に一体に固定する複数の固定機構とを備え、前記固定機構は、前記L形両辺の外側から前記山形鋼材を挟むように面対称に配置される第1の固定金具及び第2の固定金具と、前記山形鋼材の開口部側で前記第1の固定金具及び第2の固定金具のそれぞれの一端部を前記補強板材の幅方向の他端部に固定する第1の固定用ボルト・ナットと、前記第1の固定用ボルト・ナットと反対側に位置する前記第1の固定金具及び第2の固定金具のそれぞれの他端部を互いに接近する方向に締め付けて前記補強板材と前記山形鋼材とを一体化する第1の締め付け用ボルト・ナットを有し、前記第1の固定金具は、前記L形両辺の一方の辺の外側面に当接する第1当接部と、前記第1当接部の一端に該第1当接部から前記補強板材の幅方向と平行にかつ離間する方向に延在して設けられた第1締め付け部と、前記第1当接部の他端に連接され前記一方の辺の上端縁から前記山形鋼材の開口部側へ折り曲げ加工された第1連接部と、前記第1連接部の先端に設けられ前記第1の固定金具を前記補強板材に固定する第1固定部を有し、前記第2の固定金具は、前記L形両辺の他方の辺の外側面に当接する第2当接部と、前記第2当接部の一端に該第2当接部から前記補強板材の幅方向と平行にかつ離間する方向に延在して設けられた第2締め付け部と、前記第2当接部の他端に連接され前記他方の辺の上端縁から前記山形鋼材の開口部側へ折り曲げ加工された第2連接部と、前記第2連接部の先端に設けられ前記第2の固定金具を前記補強板材に固定する第2固定部を有し、前記第1固定部と前記第2固定部は前記第1の固定用ボルト・ナットで前記補強板材に固定され、前記第1締め付け部と前記第2締め付け部を前記第1の締め付け用ボルト・ナットにより互いに接近する方向に締め付けることで前記補強板材が前記山形鋼材に一体に固定されるように構成される山形鋼の補強装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]:「既設の構造物」に関して、
本願発明が、「トラス構造物」であるのに対し、
刊行物1発明では、「鉄塔である鉄骨構造物」である点。

[相違点2]:「山形鋼材の前記L形両辺の幅より大きい幅を有し、該幅方向の一端縁が前記山形鋼材の内側隅部に当接しかつ前記L形両辺が形成する開口部の角度が二分される中間に位置するようにして前記山形鋼材の長手方向に延在して配置された補強板材」に関して、
本願発明は、補強板材が山形鋼材の長手方向の「全長に亘り」延在しているのに対し、
刊行物1発明では、「全長に亘り」延在するとの特定がない点。

[相違点3]:「第1の固定金具」及び「第2の固定金具」に関して、
本願発明は、第1の固定金具が、「第1当接部と前記第1締め付け部との連接箇所を介して前記第1当接部及び前記第1締め付け部の両方に差し渡し状態に配置して前記第1当接部と前記第1締め付け部の外表面に一体に固着された補強用リブと、前記第1連接部と第1固定部との連接箇所を介して前記第1連接部及び第1固定部の両方に差し渡し状態に配置して前記第1連接部と第1固定部の外表面に一体に固着された補強用リブを有し」、第2の固定金具が、「第2当接部と前記第2締め付け部との連接箇所を介して前記第2当接部及び前記第2締め付け部の両方に差し渡し状態に配置して前記第2当接部と前記第2締め付け部の外表面に一体に固着された補強用リブと、前記第2連接部と第2固定部との連接箇所を介して前記第2連接部及び第2固定部の両方に差し渡し状態に配置して前記第2連接部と第2固定部の外表面に一体に固着された補強用リブを有している」のに対し、
刊行物1発明では、上記補強用リブについての特定がない点。


5 判断
(1)相違点1について
刊行物1発明の「鉄塔である鉄骨構造物」については、例えば送電鉄塔などの鉄骨からなる鉄塔がトラス構造物として構成されることは技術常識であるから、上記相違点1は実質的な相違点とは認められない。
仮に「鉄塔である鉄骨構造物」がトラス構造物とは必ずしもいえないとしても、上記の技術常識を踏まえれば、刊行物1発明において相違点1に係る本願発明の構成を採用することは、当業者であれば適宜なし得た設計的事項に過ぎない。

(2)相違点2について
刊行物1発明の「補強板材」(補強板11E)は、「山形鋼材」(鉄骨開断面構造部材2)の長さ方向の補強を図るために用いられているものであり(上記(1)ア(エ)を参照。)、「補強板材」(補強板11E)を長くすることが「山形鋼材」(鉄骨開断面構造部材2)の長さ方向の補強の観点で好ましいことは当業者にとって明らかであるから、刊行物1発明において、そのような観点で相違点2に係る本願発明の構成を採用することは、当業者であれば適宜なし得たことである。

(3)相違点3について
刊行物1には、「L型の鉄骨開断面構造部材2のL型両辺の一方の辺の外側面と面接触する部位と、当該面接触する部位の一端に設けられたフランジ部14と、前記面接触する部位の他端に連接され前記一方の辺の上端縁から鉄骨開断面構造部材2の開口端部2a側へ折り曲げられた部位と、当該折り曲げられた部位の先端に設けられたフランジ部15と、前記面接触する部位とフランジ部14との連接箇所を介して前記面接触する部位とフランジ部14の両方に差し渡し状態に配置して前記面接触する部位とフランジ部14の外表面に一体に固着された補強用のリブ18と、折り曲げられた部位とフランジ部15との連接箇所を介して前記折り曲げられた部位とフランジ部15の両方に差し渡し状態に配置して前記折り曲げられた部位とフランジ部15の外表面に一体に固着された補強用のリブ18を有する、L型の鉄骨開断面構造部材2のL型両辺の外側から鉄骨開断面構造部材2を挟むように配置される補強バンド5D及び補強バンド6C」を用いることが記載されており(上記3(1)キを参照。)、刊行物1発明において、「第1の固定金具」(補強バンド5D)、「第2の固定金具」(補強バンド6C)として、刊行物1に記載された上記構成のものを採用して、相違点3に係る本願発明の構成することは、当業者であれば容易に着想し得たことである。
なお、平成27年11月25日付け手続補正書(方式)により補正された請求の理由において、請求人は、「引用文献1には、「補強バンド5D、6C」に補強用リブ18を設けた発明の記載があり、図41、図42の構成に、上記補強用のリブを設けることは当業者が容易になし得たことである。」(6頁下から9行?下から4行)と主張しているとおり、刊行物1発明において同刊行物の図29ないし図31に記載された補強バンド5D及び補強バンド6Cを採用することが容易であることに関して、請求人は争っていない。

(4)本願発明の効果について
本願発明が奏する効果は、当業者が刊行物1発明及び刊行物1に記載された事項から予測し得る程度のものであって、格別のものとは認められない。


6 むすび
以上の検討によれば、本願発明は、当業者が刊行物1発明及び刊行物1に記載された事項に基いて、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
なお、請求人は、平成27年11月24日付け手続補正書(方式)及び上申書において、補正案を記載しているが、仮に補正されたとしても進歩性を有するものとも認められないので、特許法が補正の時期的制限を設けていることの趣旨に鑑みて、補正の機会を設けることとはしない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-30 
結審通知日 2016-10-04 
審決日 2016-10-17 
出願番号 特願2013-8567(P2013-8567)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西村 隆多田 春奈  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 住田 秀弘
谷垣 圭二
発明の名称 山形鋼の補強装置及び山形鋼の補強施行方法  
代理人 門間 正一  
代理人 久門 保子  
代理人 久門 享  

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