• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02G
管理番号 1322176
審判番号 不服2016-1474  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-01 
確定日 2016-12-01 
事件の表示 特願2011-283612「スペーサの導体把持部」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月 8日出願公開、特開2013-135512〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、平成23年12月26日の出願であって、平成27年10月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成28年2月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がされたものである。

第2 平成28年2月1日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年2月1日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、請求項1を
「架空送電線間の間隔を保つフレームと、ターミナルとに組合わされて構成されるスペーサの導体把持部であって、
前記導体把持部のコ型に分かれたターミナル接続部のそれぞれがボルト貫通孔を有し、前記フレームに接続された前記ターミナルの端部が同様のボルト貫通孔を有し、
前記導体把持部のコ型に分かれた前記ターミナル接続部に前記ターミナルの前記端部が挿入され、前記それぞれのボルト貫通孔を連結ボルトが貫通して前記導体把持部と前記ターミナルとが接続され、
当該接続された前記ターミナルに対向する両側の前記ターミナル接続部に複数の摩耗目盛り線を有し、
前記複数の摩耗目盛り線は、前記ターミナルから離隔する方向に渡って設けられ、前記ターミナル接続部が前記ターミナルとの摩擦により摩耗する際に、前記ターミナル接続部と共に摩耗し、
前記複数の摩耗目盛り線は、前記ターミナル接続部の外部に露出する面に設けられ、前記ターミナル接続部が摩耗する前から目視可能であるとともに、前記ターミナル接続部と共に摩耗することで、前記ターミナル接続部の摩耗量を示すことを特徴とするスペーサの導体把持部。」と補正する補正事項を含むものである。(下線は、補正箇所を示す。)

(2)補正の適否
本件補正の上記補正事項は、補正前の請求項1の両側のターミナル接続部に有する「複数の摩耗目盛り線」について「前記ターミナル接続部の外部に露出する面に設けられ、前記ターミナル接続部が摩耗する前から目視可能であるとともに、前記ターミナル接続部と共に摩耗することで、前記ターミナル接続部の摩耗量を示す」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載した発明と補正後の請求項1に記載した発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

ア.引用文献
(1)引用文献1・引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-198358号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも導体を保持するクランプ部と、複数のクランプ部を連結する連結部材とを具え、複数の導体の間隔を保持する送電線用スペーサーに関する。
【背景技術】
【0002】
多導体送電線において、複数の導体を一定間隔に保持する目的で使用されるスペーサーは、一般に、導体を保持する開閉可能なクランプ部と、複数のクランプ部を連結する連結部材とを有している。
【0003】
そして、スペーサーとしては、特許文献1に示すようなボルトレスのスペーサーが提案されている。これは、ばねの反力を利用してクランプ部を閉じることにより導体の保持を強固にするものである。
【0004】
このようなボルトレスのスペーサーの一部を図8に示す。クランプ部Aは、クランプ本体Bと、このクランプ本体Bに揺動可能に支持される蓋部Cと、クランプ本体Bに配設される開閉機構部Dとを具える。そして、クランプ本体Bと蓋部Cの間で導体を挟持するようになっている。また、クランプ本体Bには、連結部材Eが軸Fを介して連結されている。
・・・中略・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、複数のクランプ部Aと連結部材Eは軸Fを介して連結されている。この連結は、クランプ部Aに軸Fを固定する際に、連結部材Eにこの軸Fを遊びをもたせて挿通させることにより行なっている。
【0010】
さらに、連結部材Eが軸Fに対して軸方向に移動しないようにするため、クランプ本体Bには、連結部材Eの一方の平面部を軸Fの軸方向一方に向けて付勢するコイルばねGを配置させている。
【0011】
ここで、送電線に振動が発生した場合、この振動がクランプ部Aに伝わる。このときクランプ部Aに伝わった振動は、スペーサーを取付けた初期のうちは前記したコイルばねBに吸収され、連結部材Eは所定の位置に維持される(図8(a))。
【0012】
しかしながら、送電線の振動が繰り返し発生すると、クランプ本体Bと連結部材Eとの間で摩擦が生じてクランプ本体Bと連結部材Eが徐々に摩耗していく。特に、一般にクランプ部Aはアルミニウムやアルミニウム合金で形成され、連結部材Eは鉄で形成されているため、クランプ部Aの方が連結部材Eよりも摩耗量が多い(図8(b))。
【0013】
さらに、連結部材Eにおける軸Fを挿通させる孔も、軸Fとの摩擦で孔が摩耗し、また、連結部材Eに枠体などの支持部材が連結される場合には、この支持部材と連結部材Eとの摩擦により支持部材が摩耗していく場合もある。
【0014】
このように、各部分で摩耗が進行すると、各部材の連結部分における厚みが減少し、想定される外力に対して強度不足となったり、連結部分が離脱してしまったりするおそれがある。さらに、連結部分が離脱してしまったときには、クランプ部が別のクランプ部で保持されている送電線と衝突し、送電線が損傷するおそれがある。
【0015】
このことから、離脱に至る前に摩耗を検出して新品に取り替え、障害を回避することが非常に重要となる。しかしながら、スペーサーにおける連結部分の摩耗進行状態は目視では確認し難いため、障害発生後に発見されることが多かった。
【0016】
本発明は、上記問題に鑑み、クランプ部や連結部材などの連結部分が摩擦により摩耗が生じても、摩耗状態が容易に確認できる送電線用スペーサーを提供することを目的とする。」

「【0038】
なお、本発明の送電線用スペーサーは、2本の送電線の間隔を保持するものや、4本以上の送電線の間隔を保持するものなどに適用できる。2本の送電線の間隔を保持する場合には、一対のクランプ部を一本の連結部材で連結する。また、4本以上の送電線の間隔を保持する場合には、導体の本数と同じ数のクランプ部と、それぞれのクランプ部に接続される連結部材と、これら連結部材が取り付けられる支持部材から構成する。
本発明の送電線用スペーサーは、特許文献1に示すようなボルトレスのスペーサーとしてもよいし、クランプ部の開閉部分をボルトで締め付けて固定するボルト式のスペーサーとしもよい。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、検知手段により、クランプ本体、連結部材、支持部材などの摩耗の進行を目視により確実に確認でき、簡単に摩耗度合いが判別できる。」

「【0041】
(第1実施形態)
本発明の送電線用スペーサーの第1の実施形態について、図1および図2に基づいて説明する。
【0042】
本実施形態の送電線用スペーサーは、導体を保持する4つのクランプ部1と、これらクランプ部1を連結する棒状の連結部材2と、各連結部材が取付けられる支持部材3とを具える。
【0043】
クランプ部1は、クランプ本体4と、このクランプ本体4に一端側が揺動可能に連結される蓋部5と、クランプ本体4に配設される開閉機構部6とを具える。
【0044】
蓋部5は円弧形状をしており、円弧の一端側がクランプ本体4に枢軸11を介して揺動可能に連結されている。蓋部5を枢軸11を支点として揺動させることにより、蓋部5をクランプ本体4に対して開閉するようになっている。
【0045】
クランプ本体4と蓋部5の間に導体を挟持するための保持部12が形成され、この保持部12において、クランプ本体4と蓋部5とで導体を挟むようになっている。
【0046】
また、クランプ本体4には、連結部材2が取付けられるクレビス部41が設けられている。このクレビス部41のU字の間に連結部材2が支持軸7を介して揺動可能に支持される。
【0047】
連結部材2の一端部には、支持軸7が挿通される孔21が形成され、クレビス部41にも支持軸7が挿入される孔42が形成されている。連結部材2の孔21とクレビス部41の孔42の位置を合わせておいて、支持軸7をこれら孔42と孔21に挿通させて固定する。
【0048】
また、支持軸7の一端部にはフランジ部71が形成されており、このフランジ部71に一端部が当接し、他端部が連結部材2の平面部に当接するように、支持軸7に付勢手段となるコイルばね8が挿通されている。この付勢手段8により、連結部材2が支持軸7の軸方向一方に向けて付勢され、連結部材2の支持軸7の軸方向への摺動を規制している。
【0049】
本実施形態では、図1に示すように、4つのクランプ本体4のそれぞれに連結部材2の一端部を固定し、連結部材2の他端部を枠状の支持部材3に図示していないがコイルばねなどの弾性部材を介して固定している。
【0050】
そして、開閉機構部6は、クランプ本体4と蓋部5との間の保持部12に導体を配置させた状態でクランプ本体4と蓋部5を閉じ、クランプ本体4と蓋部5で導体を一定の保持力で保持できるようにするとともに、蓋部5をクランプ本体4に対して開くことができるようにしたものである。
・・・中略・・・
【0057】
さらに、本実施形態では以上の構成において、クレビス部41には、クレビス部41と連結部材2の対向部の摩耗量を検知する検知手段9を設けている。
【0058】
検知手段9は、図2に示すように、クレビス部41の連結部材2との対向面から許容摩耗量の厚み分だけ、クレビス部41の端部を支持軸7の軸心に対して直交する方向に突出させた突出部91により構成している。この突出部91は、クレビス部41の両端部に形成する。このように突出部91を設ける場合、突出部91が消失した状態が摩耗限界となる。
【0059】
以上のように、本実施形態では、各クランプ部1で保持されている導体に振動が発生し、この振動がクランプ部1に伝わってクレビス部41が摩耗しても、クレビス部41に形成する突出部91の有無は目視にて簡単に確認できることから、本実施形態では、容易にクレビス部41の摩耗度合いが判別できる。
【0060】
さらに、本実施形態では、突出部91の表面に着色を施すことが好ましい。このように着色を施すことによりさらに摩耗の判別がし易くなる。」

上記記載によれば、送電線用スペーサーの第1の実施形態について次のことがいえる。
(a)【0042】の記載によれば、送電線用スペーサーは、導体を保持する4つのクランプ部1と、これらクランプ部1を連結する棒状の連結部材2と、各連結部材が取付けられる支持部材3とを具えており、【0049】の記載によれば、送電線用スペーサーの4つのクランプ本体4のそれぞれに連結部材2の一端部を固定し、連結部材2の他端部を枠状の支持部材3に固定している。

(b)【0045】の記載によれば、クランプ本体4と蓋部5の間に導体を挟持するための保持部12が形成され、この保持部12において、クランプ本体4と蓋部5とで導体を挟むようになっている。

(c)【0046】、【0047】の記載によれば、クランプ本体4には、連結部材2が取付けられるクレビス部41が設けられ、クレビス部41のU字の間に連結部材2が支持軸7を介して揺動可能に支持され、連結部材2の一端部には、支持軸7が挿通される孔21が形成され、クレビス部41にも支持軸7が挿入される孔42が形成され、連結部材2の孔21とクレビス部41の孔42の位置を合わせておいて、支持軸7をこれら孔42と孔21に挿通させて固定している。

(d)【0057】、【0058】の記載によれば、クレビス部41には、クレビス部41と連結部材2の対向部の摩耗量を検知する検知手段として、クレビス部41の連結部材2との対向面から許容摩耗量の厚み分だけ、クレビス部41の端部を支持軸7の軸心に対して直交する方向に突出させた突出部91をクレビス部41の両端部に形成したものである。

(e)【0059】の記載によれば、各クランプ部1で保持されている導体に振動が発生し、この振動がクランプ部1に伝わってクレビス部41が摩耗しても、クレビス部41に形成する突出部91の有無は目視にて簡単に確認でき、容易にクレビス部41の摩耗度合いが判別できるものである。

上記(a)?(e)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「送電線用スペーサーのクランプ本体4であって、クランプ本体4それぞれに連結部材2の一端部を固定し、連結部材2の他端部を枠状の支持部材3に固定し、
クランプ本体4と蓋部5の間に導体を挟持するための保持部12が形成され、この保持部12において、クランプ本体4と蓋部5とで導体を挟むようになっており、
クランプ本体4には、連結部材2が取付けられるクレビス部41が設けられ、クレビス部41のU字の間に連結部材2が支持軸7を介して揺動可能に支持され、連結部材2の一端部には、支持軸7が挿通される孔21が形成され、クレビス部41にも支持軸7が挿入される孔42が形成され、連結部材2の孔21とクレビス部41の孔42の位置を合わせておいて、支持軸7をこれら孔42と孔21に挿通させて固定し、
クレビス部41には、クレビス部41と連結部材2の対向部の摩耗量を検知する検知手段として、クレビス部41の連結部材2との対向面から許容摩耗量の厚み分だけ、クレビス部41の端部を支持軸7の軸心に対して直交する方向に突出させた突出部91をクレビス部41の両端部に形成し、
各クランプ部1で保持されている導体に振動が発生し、この振動がクランプ部1に伝わってクレビス部41が摩耗しても、クレビス部41に形成する突出部91の有無は目視にて簡単に確認でき、容易にクレビス部41の摩耗度合いが判別できる送電線用スペーサーのクランプ本体4。」

(2)引用文献2
当審において新たに引用する実願昭56-10114号(実開昭57-125101号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献2」という。)には、第1図(A)、(B)とともに以下の記載がある。
「従来のこの種集電すり板の摩耗表示機構としては、例えば第1図に示すようなものがある。即ち、1が車両に配設された集電すり板であり、その端面に目盛2が付してある。3は集電すり板の摺接面であって、これにトロリー線4が摺接している。・・・中略・・・集電すり板1が第1図(B)のように摩耗すると、その摩耗の程度を目盛り2により読み取って、摩耗量が摩耗許容寸法(摩耗限界)内であるか否か判定し、この許容寸法を越えたときに、集電すり板1を交換する。」(第1頁第13行?第2頁第5行)

第1図(B)及び上記記載によれば、引用文献2には、「集電すり板1の端面に複数の目盛2が付してあり、集電すり板1の摺接面が摩耗すると、その摩耗の程度を目盛り2により読み取ること。」(以下、「引用文献2記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

(3)引用文献3
当審において新たに引用する実願昭59-170238号(実開昭61-85715号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献3」という。)には、第1図、第2図とともに以下の記載がある。
「[従来の技術]
スラスト軸受では第2図に示すようにスラストメタル(a)が用いられているが、スラスト荷重により徐々に摩耗する。
スラストメタルが一定量以上摩耗すると運転に支障を来すため、摩耗限界値を超えないように定期的に摩耗量を計測していた。
・・・中略・・・
[問題を解決するための手段]
上述の問題点を解決するため本考案では、スラストメタル外周に該スラストメタルの摩耗量の指標となる目盛を設けた。
[作用]
スラストメタル外周の目盛は開口部を通して外部より目視できるので、スラストメタルの摩耗量が目盛を指標として容易に計測できる。」(第1頁第12行?第2頁第13行)

「該摩耗限界溝(3)の幅は適宜定めることができ、一定間隔で複数本刻設してもよく、スラストメタル(1)の外周の全周に亘って刻設してもよく又部分的に刻設してもよい。」(第2頁第20行?第3頁第4行)

上記記載によれば、引用文献3には、「スラスト軸受のスラストメタル外周に該スラストメタルの摩耗量の指標となる複数本の目盛を設け、該目盛は開口部を通して外部より目視できるので、スラストメタルの摩耗量が目盛を指標として容易に計測できること。」(以下、「引用文献3記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

(4)引用文献4
当審において新たに引用する特開2004-74044号公報(以下、「引用文献4」という。)には、第5図、第6図とともに以下の記載がある。
「【請求項1】
ケーシングの中央部に縦方向の回転軸を設け、該回転軸の上部に固定ハンマを設けた竪型破砕機において、前記固定ハンマのハンマブレードを支持するアーム部に、バランス調整用のウエイトを取り付けることのできる中空部を設けたことを特徴とする竪型破砕機。
・・・中略・・・
【請求項3】
固定ハンマのハンマーブレードの摩耗しやすい部分に摩耗の指標となる目盛を設けた請求項1又は2に記載の竪型破砕機。」

「【0019】
ところで、使用により摩耗した固定ハンマ10にウエイト42を加えてバランスをとるためには、ハンマブレードの摩耗量を簡単に知る方法が必要となる。ハンマブレード11の摩耗量を知る方法としては、ハンマブレードを外して重量を直接測定する方法や、当該ハンマブレードの肉厚を測定する方法や、最も摩耗しやすい箇所に複数の突起や溝を設けておき、それらが消滅した数により摩耗量を判定する方法を採用することができる。図示例では、その摩耗しやすい部分に、摩耗量を表示する目盛50が刻設されている。この目盛は、適当間隔、例えば数mm?数十mm間隔で設けておけばよい。なお、左右のハンマブレードは、同じ形状のものを向きを左右反転して取り付けるため、上記目盛も両側に設けておくのが好ましい。」

上記記載によれば、引用文献4には、「竪型破砕機の固定ハンマのハンマブレードの摩耗しやすい部分に摩耗量を表示する目盛を適当間隔で設け、ハンマブレードの摩耗量を簡単に知ること。」(以下、「引用文献4記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

イ.対比
補正発明と引用発明を対比する。
(ア)引用発明の「枠状の支持部材3」、「連結部材2」、「送電線用スペーサーのクランプ本体4」は、それぞれ、補正発明の「架空送電線間の間隔を保つフレーム」、「ターミナル」、「スペーサの導体把持部」に相当する。
引用発明の「クランプ本体4それぞれに連結部材2の一端部を固定し、連結部材2の他端部を枠状の支持部材3に固定」する構成は、補正発明の「架空送電線間の間隔を保つフレームと、ターミナルとに組合わされて構成されるスペーサの導体把持部」の構成に相当する。

(イ)引用発明の「クレビス部41」、「支持軸7が挿通される孔」、「支持軸7」は、それぞれ、補正発明の「ターミナル接続部」、「ボルト貫通孔」、「連結ボルト」に相当するといえ、引用発明の「クランプ本体4には、連結部材2が取付けられるクレビス部41が設けられ、クレビス部41のU字の間に連結部材2が支持軸7を介して揺動可能に支持され、連結部材2の一端部には、支持軸7が挿通される孔21が形成され、クレビス部41にも支持軸7が挿入される孔42が形成され、連結部材2の孔21とクレビス部41の孔42の位置を合わせておいて、支持軸7をこれら孔42と孔21に挿通させて固定」する構成は、補正発明の「前記導体把持部のコ型に分かれたターミナル接続部のそれぞれがボルト貫通孔を有し、前記フレームに接続された前記ターミナルの端部が同様のボルト貫通孔を有し、前記導体把持部のコ型に分かれた前記ターミナル接続部に前記ターミナルの前記端部が挿入され、前記それぞれのボルト貫通孔を連結ボルトが貫通して前記導体把持部と前記ターミナルとが接続」される構成に相当するといえる。

(ウ)引用発明の「クレビス部41には、クレビス部41と連結部材2の対向部の摩耗量を検知するために、クレビス部41の連結部材2との対向面から許容摩耗量の厚み分だけ、クレビス部41の端部を支持軸7の軸心に対して直交する方向に突出させた突出部91をクレビス部41の両端部に形成し、各クランプ部1で保持されている導体に振動が発生し、この振動がクランプ部1に伝わってクレビス部41が摩耗しても、クレビス部41に形成する突出部91の有無は目視にて簡単に確認でき、容易にクレビス部41の摩耗度合いが判別できる」構成は、補正発明の「当該接続された前記ターミナルに対向する両側の前記ターミナル接続部に複数の摩耗目盛り線を有し、前記複数の摩耗目盛り線は、前記ターミナルから離隔する方向に渡って設けられ、前記ターミナル接続部が前記ターミナルとの摩擦により摩耗する際に、前記ターミナル接続部と共に摩耗し、前記複数の摩耗目盛り線は、前記ターミナル接続部の外部に露出する面に設けられ、前記ターミナル接続部が摩耗する前から目視可能であるとともに、前記ターミナル接続部と共に摩耗することで、前記ターミナル接続部の摩耗量を示す」構成と「当該接続された前記ターミナルに対向する両側の前記ターミナル接続部に検知手段を有し、前記検知手段は、前記ターミナルから離隔する方向に渡って設けられ、前記ターミナル接続部が前記ターミナルとの摩擦により摩耗する際に、前記ターミナル接続部と共に摩耗し、前記検知手段は、前記ターミナル接続部の外部に露出する面に設けられ、前記ターミナル接続部が摩耗する前から目視可能であるとともに、前記ターミナル接続部と共に摩耗することで、前記ターミナル接続部の摩耗量を示す」構成である点では共通するといえる。

したがって、両者は、
「架空送電線間の間隔を保つフレームと、ターミナルとに組合わされて構成されるスペーサの導体把持部であって、
前記導体把持部のコ型に分かれたターミナル接続部のそれぞれがボルト貫通孔を有し、前記フレームに接続された前記ターミナルの端部が同様のボルト貫通孔を有し、
前記導体把持部のコ型に分かれた前記ターミナル接続部に前記ターミナルの前記端部が挿入され、前記それぞれのボルト貫通孔を連結ボルトが貫通して前記導体把持部と前記ターミナルとが接続され、
当該接続された前記ターミナルに対向する両側の前記ターミナル接続部に検知手段を有し、
前記検知手段は、前記ターミナルから離隔する方向に渡って設けられ、前記ターミナル接続部が前記ターミナルとの摩擦により摩耗する際に、前記ターミナル接続部と共に摩耗し、
前記検知手段は、前記ターミナル接続部の外部に露出する面に設けられ、前記ターミナル接続部が摩耗する前から目視可能であるとともに、前記ターミナル接続部と共に摩耗することで、前記ターミナル接続部の摩耗量を示すことを特徴とするスペーサの導体把持部。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
補正発明では、ターミナル接続部の摩耗量を示す検知手段が、ターミナル接続部の外部に露出する面に設けられた「複数の摩耗目盛り線」であるのに対し、引用発明では、許容摩耗量の厚み分だけ、クレビス部41の端部を支持軸7の軸心に対して直交する方向に突出させた「突出部91」である点。

ウ.判断
上記相違点について検討する。
引用文献2?4記載の技術事項によれば、使用により摩耗する部品の摩耗量を目視可能とするために、摩耗する部品の摩耗する部分の外部に露出する面に摩耗する前から目視可能な複数の目盛り線を設けることは、本願出願前周知技術であったことを示している。
そして、引用発明の突出部91と上記周知技術の目盛り線は、摩耗による消滅より摩耗量を目視判定できる点では共通する技術事項であるから、引用発明において、上記周知技術を適用することは当業者であれば容易に想到し得ることである。
したがって、引用発明において、上記周知技術を適用することにより、クレビス部41の端部の外部に露出する面に複数の目盛り線を設けることは、当業者が容易になし得ることである。

そして、補正発明の奏する作用効果も、引用発明及び周知技術から、当業者であれば予想できる範囲内のものである。

したがって、補正発明は、引用発明および周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない発明である。

エ.結論
以上のとおり、本件補正は,特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するものであり、同法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
(1)本願発明
以上のとおり、平成28年2月1日付けの手続補正は却下されたので、本願発明は、平成27年6月24日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものであると認められる。
「架空送電線間の間隔を保つフレームと、ターミナルとに組合わされて構成されるスペーサの導体把持部であって、
前記導体把持部のコ型に分かれたターミナル接続部のそれぞれがボルト貫通孔を有し、前記フレームに接続された前記ターミナルの端部が同様のボルト貫通孔を有し、
前記導体把持部のコ型に分かれた前記ターミナル接続部に前記ターミナルの前記端部が挿入され、前記それぞれのボルト貫通孔を連結ボルトが貫通して前記導体把持部と前記ターミナルとが接続され、
当該接続された前記ターミナルに対向する両側の前記ターミナル接続部に複数の摩耗目盛り線を有し、
前記複数の摩耗目盛り線は、前記ターミナルから離隔する方向に渡って設けられ、前記ターミナル接続部が前記ターミナルとの摩擦により摩耗する際に、前記ターミナル接続部と共に摩耗することを特徴とするスペーサの導体把持部。」

(2)引用文献
引用文献は、前記「第2 平成28年2月1日付の手続補正についての補正却下の決定」、[補正却下の決定の結論]、「(2)補正の適否」の「ア.引用文献」の欄で説明した通りである。

(3)対比・判断
本願発明は補正発明から当該補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に当該補正に係る限定を付加した補正発明が、上記「第2.補正却下の決定」で検討したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
 
審理終結日 2016-09-27 
結審通知日 2016-10-04 
審決日 2016-10-17 
出願番号 特願2011-283612(P2011-283612)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02G)
P 1 8・ 575- Z (H02G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保 正典  
特許庁審判長 高瀬 勤
特許庁審判官 稲葉 和生
和田 志郎
発明の名称 スペーサの導体把持部  
代理人 萩原 誠  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ