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審決分類 審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  G02B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  G02B
管理番号 1322252
異議申立番号 異議2015-700062  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-10-07 
確定日 2016-08-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5708951号発明「ヘッドアップディスプレイ装置」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5708951号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。 特許第5708951号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5708951号の請求項1ないし3に係る発明についての出願(特願2013-160105号)は,平成22年2月26日に出願した特願2010-41401号(以下,「原出願」という。)の一部を平成25年8月1日に新たな特許出願としたものであって,平成27年3月13日に設定登録がされたものである。
その後,平成27年10月7日に異議申立人より請求項1ないし3に係る特許に対して本件特許異議の申立てがなされ,平成27年12月21日付けで取消理由が通知され,平成28年2月18日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下,当該訂正の請求を「本件訂正請求」といい,本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)がされ,平成28年4月12日付けで取消理由(決定の予告)が通知されたが,特許権者からは何らの応答もなかった。
なお,平成28年2月18日に特許権者が提出した意見書に対して,平成28年3月29日に異議申立人より意見書が提出されている。


第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
本件訂正請求は,本件特許の明細書,特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書,特許請求の範囲(以下,「訂正明細書等」という。)のとおり,訂正後の請求項1?3について訂正することを求めるもので,本件訂正の内容は次のとおりである。(下線部は,訂正箇所を示す。)

請求項1の記載を,
「第1の観察者の第1の観察位置,第2の観察者の第2の観察位置に対向して配設されるホログラフィック光学系と,
前記ホログラフィック光学系に映像を投影するプロジェクタ部と,
を備え,
前記ホログラフィック光学系は,
第1のホログラフィック光学素子と,
第1の観察者及び第2の観察者の両者に対して,前記第1のホログラフィック光学素子より遠い側に積層され,前記第1のホログラフィック光学素子より回折率が高い第2のホログラフィック光学素子と,
を有し,
前記プロジェクタ部が投影する映像を,前記第1の観察位置と前記第2の観察位置の方向に回折させる角度選択性を有し,
前記第1の観察位置と前記第2の観察位置のそれぞれにて遠方に結像する虚像を形成する
ことを特徴とする
ヘッドアップディスプレイ装置。」
から,
「乗り物の操縦者である第1の観察者の第1の観察位置,第2の観察者の第2の観察位置に対向して配設されるホログラフィック光学系と,
前記ホログラフィック光学系に映像を投影するプロジェクタ部と,
を備え,
前記ホログラフィック光学系は,
第1のホログラフィック光学素子と,
第1の観察者及び第2の観察者の両者に対して,前記第1のホログラフィック光学素子より遠い側に積層され,前記第1のホログラフィック光学素子より回折率が高い第2のホログラフィック光学素子と,
を有し,
前記プロジェクタ部が投影する映像を,前記第1のホログラフィック光学素子が,前記第1の観察位置の方向に回折させる角度選択性を有するととともに,前記第2のホログラフィック光学素子が,前記第2の観察位置の方向に回折させる角度選択性を有し,
前記第1の観察位置と前記第2の観察位置のそれぞれにて遠方に結像する虚像を形成する
ことを特徴とする
ヘッドアップディスプレイ装置。」
に訂正するとともに,明細書の【0015】の記載を,
「上記課題を解決するため,本発明のヘッドアップディスプレイ装置は,第1の観察者の第1の観察位置,第2の観察者の第2の観察位置に対向して配設されるホログラフィック光学系と,前記ホログラフィック光学系に映像を投影するプロジェクタ部と,を備え,前記ホログラフィック光学系は,第1のホログラフィック光学素子と,第1の観察者及び第2の観察者の両者に対して,前記第1のホログラフィック光学素子より遠い側に積層され,前記第1のホログラフィック光学素子より回折率が高い第2のホログラフィック光学素子と,を有し,前記プロジェクタ部が投影する映像を,前記第1の観察位置と前記第2の観察位置の方向に回折させる角度選択性を有し,前記第1の観察位置と前記第2の観察位置のそれぞれにて遠方に結像する虚像を形成することを特徴とする。」
から,
「上記課題を解決するため,本発明のヘッドアップディスプレイ装置は,乗り物の操縦者である第1の観察者の第1の観察位置,第2の観察者の第2の観察位置に対向して配設されるホログラフィック光学系と,前記ホログラフィック光学系に映像を投影するプロジェクタ部と,を備え,前記ホログラフィック光学系は,第1のホログラフィック光学素子と,第1の観察者及び第2の観察者の両者に対して,前記第1のホログラフィック光学素子より遠い側に積層され,前記第1のホログラフィック光学素子より回折率が高い第2のホログラフィック光学素子と,を有し,前記プロジェクタ部が投影する映像を,前記第1のホログラフィック光学素子が,前記第1の観察位置の方向に回折させる角度選択性を有するととともに,前記第2のホログラフィック光学素子が,前記第2の観察位置の方向に回折させる角度選択性を有し,前記第1の観察位置と前記第2の観察位置のそれぞれにて遠方に結像する虚像を形成することを特徴とする。」
に訂正する。

2 訂正事項
本件訂正は,次の訂正事項からなる。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1の「第1の観察者の第1の観察位置」を,「乗り物の操縦者である第1の観察者の第1の観察位置」と訂正し,本件訂正前の請求項1の「前記プロジェクタ部が投影する映像を,前記第1の観察位置と前記第2の観察位置の方向に回折させる角度選択性」を,「前記プロジェクタ部が投影する映像を,前記第1のホログラフィック光学素子が,前記第1の観察位置の方向に回折させる角度選択性を有するととともに,前記第2のホログラフィック光学素子が,前記第2の観察位置の方向に回折させる角度選択性」と訂正する。

(2)訂正事項2
本件訂正前の明細書の【0015】の「第1の観察者の第1の観察位置」を,「乗り物の操縦者である第1の観察者の第1の観察位置」と訂正し,本件訂正前の明細書の【0015】の「前記プロジェクタ部が投影する映像を,前記第1の観察位置と前記第2の観察位置の方向に回折させる角度選択性」を,「前記プロジェクタ部が投影する映像を,前記第1のホログラフィック光学素子が,前記第1の観察位置の方向に回折させる角度選択性を有するととともに,前記第2のホログラフィック光学素子が,前記第2の観察位置の方向に回折させる角度選択性」と訂正する。

3 訂正の目的についての判断
訂正事項1により,本件訂正前の請求項1の「前記プロジェクタ部が投影する映像を,前記第1の観察位置と前記第2の観察位置の方向に回折させる角度選択性」について,「第1の観察位置の方向へ回折させる角度選択性を有する」のが「第1のホログラフィック光学素子」であり,「第2の観察位置の方向へ回折させる角度選択性を有する」のが,第1の観察者及び第2の観察者の両者に対して,第1のホログラフィック光学素子より遠い側に積層される「第2のホログラフィック光学素子」であることが限定されるとともに,「第1の観察位置」が「乗り物の操縦者」による観察位置であること,すなわち,「第1のホログラフィック光学素子」がプロジェクタ部が投影する映像を「乗り物の操縦者」の方向へ回折することが限定されることとなるから,当該訂正事項1は,特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また,訂正事項2は,訂正事項1に伴って,明細書の記載を特許請求の範囲の記載に整合させるものであるから,特許法120条の5第2項ただし書き3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
したがって,本件訂正は,特許法120条の5第2項ただし書き1号及び3号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

4 新規事項の追加の有無についての判断
本件訂正前の明細書の【0032】及び【0033】には,「本発明の実施形態に係るホログラフィック光学系は,2枚のホログラフィック光学素子20R,20Lが積層されて形成されている。・・・(中略)・・・図7の光路図に示されるように,プロジェクタ装置10から照射された入射光は,第1のホログラフィック光学素子20Rで回折光1として回折し,第1の観察者にて視認可能な像を形成する。一方,第2のホログラフィック光学素子20Lにて回折した回折光2は,第2観察者にて視認可能な像を形成する。」と記載されている。
また,図7から,回折光1の進行方向に「観察者1(運転席側)」が存在し,回折光2の進行方向に「観察者2(助手席側)」が存在すること,及び第1のホログラフィック光学素子20Rが「観察者1(運転席側)」及び「観察者2(助手席側)」に近い側に,第2のホログラフィック光学素子20Lが「観察者1(運転席側)」及び「観察者2(助手席側)」から遠い側に位置していることを看取できる。
以上の記載事項より,図7に示されたヘッドアップディスプレイ装置では,第1のホログラフィック光学素子20Rが運転席の観察者すなわち「乗り物の操縦者」による観察位置である第1の観察位置の方向へ回折し,第1の観察者及び第2の観察者の両者に対して第1のホログラフィック光学素子20Rより遠い側に積層される第2のホログラフィック光学素子20Lが第2の観察位置の方向へ回折することを把握できる。
したがって,本件訂正は,本件訂正前の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてするものであり,特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。

5 特許請求の範囲の実質的拡張又は変更についての判断
訂正事項1は特許請求の範囲を減縮する訂正事項であって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
また,訂正事項2が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。
したがって,本件訂正は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。

6 本件訂正の適否についての判断のまとめ
前記3ないし5のとおりであって,本件訂正は,特許法120条の5第2項ただし書き1号及び3号に掲げる事項を目的とするものに該当し,同条9項において読み替えて準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので,訂正後の請求項1ないし3について訂正を認める。


第3 請求項1ないし3に係る本件特許発明
前記第2のとおり,本件訂正は認められるから,請求項1ないし3に係る本件特許発明(以下,それぞれを「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)は,訂正明細書等の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであるところ,訂正明細書等の請求項1ないし3の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
乗り物の操縦者である第1の観察者の第1の観察位置,第2の観察者の第2の観察位置に対向して配設されるホログラフィック光学系と,
前記ホログラフィック光学系に映像を投影するプロジェクタ部と,
を備え,
前記ホログラフィック光学系は,
第1のホログラフィック光学素子と,
第1の観察者及び第2の観察者の両者に対して,前記第1のホログラフィック光学素子より遠い側に積層され,前記第1のホログラフィック光学素子より回折率が高い第2のホログラフィック光学素子と,
を有し,
前記プロジェクタ部が投影する映像を,前記第1のホログラフィック光学素子が,前記第1の観察位置の方向に回折させる角度選択性を有するととともに,前記第2のホログラフィック光学素子が,前記第2の観察位置の方向に回折させる角度選択性を有し,
前記第1の観察位置と前記第2の観察位置のそれぞれにて遠方に結像する虚像を形成する
ことを特徴とする
ヘッドアップディスプレイ装置。

【請求項2】
前記ホログラフィック光学系は,体積型のホログラフィック光学素子である
ことを特徴とする
請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。

【請求項3】
前記ホログラフィック光学系は,光学拡大機能を有する
ことを特徴とする
請求項1または請求項2に記載のヘッドアップディスプレイ装置。」


第4 引用例
1 取消理由通知の引用例
平成27年12月21日付けで通知された取消理由において引用された引用例は次のとおりである。

引用文献1:特開平7-101267号公報
引用文献2:実願平2-72670号(実開平4-31038号)のマイクロフィルム
引用文献3:特開平10-69209号公報

2 引用文献1
(1)引用文献1の記載
引用文献1は,特許法44条2項の規定により本件特許に係る特許出願がされたとみなされる原出願の出願の時(以下,単に「本件特許出願時」という。)より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献1には次の記載がある。(下線は,後述する「引用発明」の認定に特に関係する箇所を示す。)
ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,ホログラムを使用した自動車用のヘッドアップディスプレイ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】自動車のインストルメントパネルのメータ等を表示する装置として,メータ等の画像をフロントガラスに投射し,フロントガラスで反射した画像を運転者の目に入射させることにより,フロントガラスの外側前方にその像を結像させ,運転者が目をそらさずにメータ等を視認することができるヘッドアップディスプレイ装置が知られている。
【0003】この種のヘッドアップディスプレイ装置として,特定の角度で入射した波長領域の光のみ反射するホログラムを光学系の一部に配置し,ホログラムで反射させた表示画像を,フロントガラス内面又はその内側に付着したコンバイナで,運転者の視線方向に反射させ,太陽光等の外光による影響を軽減した装置が開発されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで,この種のヘッドアップディスプレイ装置は,ホログラムが表示器からの表示光を特定の出射角で出射し,特定の場所に位置する運転者の目に表示光を入射させるように動作する。このため,表示光が達しない助手席や後部座席の乗員は,ヘッドアップディスプレイの表示を見ることができない問題があった。
【0005】本発明は,上記の点に鑑みてなされたもので,運転者と共に,助手席や後部座席の乗員も,表示画像を視認することができるヘッドアップディスプレイ装置を提供することを目的とする。」

イ 「【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,本発明のヘッドアップディスプレイ装置は,表示画像を表示する表示器と,表示器から放射された表示光を反射するホログラムと,を備え,表示画像をフロントガラスの内側で反射させその外側前方に表示画像を結像させるヘッドアップディスプレイ装置において,ホログラムは,表示器からの表示光が複数の相違した方向に回折・反射されるように,露光時に,ホログラム乾板に対する角度を変えて多重露光されて製作されていることを特徴とする。」

ウ 「【0007】
【作用・効果】このように構成されたヘッドアップディスプレイ装置では,表示器からの表示光が複数の相違した方向に回折・反射されるように,露光時に,ホログラム乾板に対する角度を変えて多重露光されて,ホログラムが製作されるため,表示器からの表示光が運転者,助手席又は/及び後部座席の乗員の方向に向うように,ホログラムに多重露光すれば,フロントガラス等で反射された表示光は,運転者のみならず,助手席及び/又は後部座席の乗員の方向にも反射され,運転者のみならず,助手席及び/又は後部座席の乗員も,ヘッドアップディスプレイの表示を視認することができる。」

エ 「【0008】
【実施例】以下,本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0009】ヘッドアップディスプレイ装置は,図1の概略構成図に示すように,表示器2とホログラム3を主要部にして構成され,表示器2は,バックライト付きの液晶ディスプレイ,EL表示器,CRT等からなり,自動車のダッシュボード等の内部に設置され,速度画像,ウオーニング画像等を表示する。
【0010】表示器2の前方には,表示器2から放射される表示光を受ける位置に,ホログラム3が傾斜して配置される。ホログラム3は表示光を回折・反射し,その光は上方に進み,上方に位置するフロントガラス5の内側で反射され,運転者,及び助手席又は後部座席の乗員の目に入射するように,ホログラム3等の角度・位置が設定される。
【0011】コンバイナとなるフロントガラス5の内側には,酸化チタン等の蒸着膜が半透過性の反射膜として付着されるが,蒸着膜を付着せずにそのガラス面上に反射面をつくるようにしてもよい。
【0012】ここで使用されるホログラム3は,特定波長の光を特定の入射角で入射させて露光することにより,特定波長の光のみを特定の出射角で回折・反射する光反射特性を有する共に,凹面鏡(例えば,軸外し放物面鏡)14をそこに記録するように露光される。また,その凹面鏡の位置を変えてつまり光の入射角を変えて多重露光することにより,表示器2からの表示光が,運転者ばかりでなく,助手席又は後部座席の乗員にも,回折・反射されるように,製作されている。
【0013】即ち,ホログラム3は,図2,図3に示すような光学系を使用して露光され,製作される。図2は側面側の断面図を示し,図3は平面側の断面図を示す。3aはホログラム乾板であり,ソーダガラス等の基材上に感光剤となる重クロム酸ゼラチンを約20nmの厚さに付着し乾燥して形成される。重クロム酸ゼラチンのほかに,銀塩,フォトポリマ,エレポン等の感光剤を使用することもできる。
【0014】ホログラム乾板3aの両側には,図2に示すように,屈折率調整液10を介して反射防止膜付きガラス11が挟むように密着され,このような状態のホログラム乾板3aは,その両側から,同一波長の平行光と発散光により露光するように,光学系の一部に配置される。
【0015】光源には例えば波長514.5μmのレーザ光が使用され,図示しないレーザ発振器から放出されたレーザ光が,発散用のレンズ12を通り,発散光としてホログラム乾板3aの一方の側に入射するように光学系が配置される。また,ホログラム3aの他方の側には,斜め前方に,凹面鏡(軸外し放物面鏡)14が配置され,同じレーザ発振器から放射されたレーザ光の一部が,レンズ13を通して凹面鏡14に照射され,凹面鏡14で反射された平行光がホログラム乾板3aに入射する。
【0016】露光の際,凹面鏡14のホログラム乾板3aに対する角度(平面視での左右方向の角度)は,図3の仮想線に示すように,角度αから角度βに変えて多重露光を行う。この角度αと角度βは,露光・製作されたホログラムが図1に示すように配置されて使用される際,ホログラムで回折・反射されフロントガラス5で反射された表示光が,運転者,及び助手席又は後部座席の乗員の目に達するように決定される。
【0017】また,図2に示すように,ホログラム乾板3aへの発散光と平行光との入射角θ(側面視での上下方向の入射角)線は,ホログラム3をヘッドアップディスプレイに実際に使用した際の再生角度に合せるために,例えばθ=33.5°に設定される。
【0018】露光を行う場合,先ず,凹面鏡14を,図3の実線に示す位置に配置して,ホログラム乾板3aに対する角度をαとし,所定波長のレーザ光をレンズ13を通して凹面鏡14に照射し,凹面鏡14から反射された平行光をホログラム乾板3aに入射させ,同時に,同じレーザ光をレンズ12で発散させた発散光を,反対側からホログラム乾板3aに入射させ,最初の露光を行う。
【0019】次に,凹面鏡14を図3の仮想線の位置に移動して,ホログラム乾板3aに対する角度をβとし,同様に,凹面鏡14から反射された平行光をホログラム乾板3aに入射させ,反対側から,レンズ12からの発散光をホログラム乾板3aに入射させ,次の露光を行う。
【0020】このように,凹面鏡14の角度を変えた2回の多重露光を行った後,所定の現像・定着処理を施してホログラム3が製作され,ホログラム3には,角度を変えて配置した2つの凹面鏡14,14が干渉縞として記録される。
【0021】なお,第一回目の露光と第二回目の露光を行う際,平行光と発散光の入射角θから所定の角度に変えることにより,使用時にホログラムから回折・反射される表示光の波長つまり色を,見る方向に応じて変えるようにすることもできる。
【0022】このように製作されたホログラム3は,表面における散乱や反射を防止し,ホログラム層の劣化を防ぐために,その表裏からシール剤を介してエポキシ系樹脂のカバープレートをサンドイッチ状に密着させ,表裏のカバープレートの表面に反射防止膜と散乱防止膜を形成して完成する。そして,図4に示すように,ホログラム3は,フロントガラス5の下側で,表示器2の光軸に対し所定の角度θ(33.5°)で配置される。
【0023】このように構成されたヘッドアップディスプレイ装置では,図4及びその平面を示す図5のように,表示器2から放射された速度画像やウオーニング画像の光が,ホログラム3に入射し,ホログラム3で回折し反射された特定波長の光が上方に進む。
【0024】このとき,ホログラム3には,角度をαとβに変化させた2つの凹面鏡14が多重露光により記録されているため,図5に示すように,ホログラム3から回折・反射した表示光は,露光時の角度αに対応した角度α1(ホログラム平面に対する角度)と露光時の角度βに対応した角度β1(ホログラム平面に対する角度)で出射される。そして,一方の表示光は,フロントガラス5の内側で反射され,運転者との目に入射し,他方の表示光は,フロントガラス5の内側で反射され,助手席又は後部座席の乗員の目に入射する。
【0025】このため,図1に示すように,運転者と助手席又は後部座席の乗員の目には,表示器2に表示された速度画像が,フロントガラス5の前方に投影された像として視認される。
【0026】このとき,図4に示すように,ホログラム3に記録された凹面鏡の焦点Fは表示器2の後部に位置し,その焦点距離fが表示器2とホログラム3の距離aより長くなり,ホログラム3の裏側に表示像の虚像Bが生じ,虚像Bとホログラム3の距離bが距離aより長くなるため,表示像の拡大率m(m=b/a)が1を越え,拡大された像が表示される。
【0027】また,試作実験によれば,ホログラムに記録された凹面鏡の焦点距離を978mm,表示器とホログラムとの距離aを400mm,ホログラムとフロントガラスの距離を142mmとした場合,フロントガラスの前方約1000mmの位置に表示像が表示された。
【0028】なお,上記では,ホログラム3をフロントガラス5の下方に配置したが,図6に示すように,ホログラム3をフロントガラス5の内部に封入し,或はその内側に取着することもできる。」

(2)引用文献1に記載された発明
前記(1)アないしエの記載から,引用文献1に次の発明が記載されていると認められる。

「速度画像やウオーニング画像等を表示する表示器2と,前記表示器2から放射される表示光を回折・反射するホログラム3とを備え,前記ホログラム3が自動車のフロントガラス5の内側に取着された自動車用のヘッドアップディスプレイ装置であって,
前記ホログラム3として,レーザ発振器から放出されたレーザ光を,発散用のレンズ12を通して発散光としてホログラム乾板3aの一方の側に入射させると同時に,同じレーザ発振器から放射されたレーザ光の一部を,レンズ13を通して,ホログラム乾板3aに対する角度がαとされた凹面鏡14で反射させた平行光をホログラム乾板3aに入射させて,最初の露光を行い,次に,前記凹面鏡14を移動して,ホログラム乾板3aに対する角度をβとし,同様に,凹面鏡14から反射された平行光をホログラム乾板3aに入射させ,反対側から,レンズ12からの発散光をホログラム乾板3aに入射させ,次の露光を行うという多重露光によって製作されたものを用いるとともに,前記角度α及び前記角度βを適切な値に設定することによって,
前記ホログラム3に入射した表示光が,露光時の角度αに対応した角度α1と露光時の角度βに対応した角度β1で出射され,出射された各表示光がそれぞれ運転者及び助手席の乗員の目に達し,前記ホログラム3の裏側に虚像Bが生じて,前記表示器2に表示された速度画像やウオーニング画像等が,前記フロントガラス5の前方に投影された拡大像として視認されるよう構成した,
自動車用のヘッドアップディスプレイ装置。」(以下,「引用発明」という。)

3 引用文献2
(1)引用文献2の記載
引用文献2は,本件特許出願時より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献2には次の記載がある。(下線は,後述する「引用文献2記載の技術的事項」の認定に特に関係する箇所を示す。)
ア 「[産業上の利用分野]
本考案は自動車等の車輌にもちいられる表示装置に関し,特に広角度方向に光情報を伝達する車輌用表示装置に関する。
[従来の技術]
従来この種の車輌用表示装置の先行例としては,特開昭62-64638号公報が挙げられる。これによれば,自動車フロントガラスにホログラムを用いた反射装置を設け,その運転者に自己の自動車の光情報を与える技術が提示されている。
[考案が解決しようとする課題]
しかしながら,上述した従来技術におけるホログラムでは非正反射性及び波長選択性のみを有するに過ぎないことから,指向性の強い出射光が生成され,運転者等の視認者の視認可能範囲を狭めてしまい,却って有効な光情報を伝達することが困難であった。
・・・(中略)・・・
また,そのため,1枚のホログラムに多重露光する方法を考案したが,露光回数に反比例して,情報量の輝度が低減する。
・・・(中略)・・・
そこで,本考案の第1の技術的課題は,上記欠点に鑑み,光情報を広角度に伝達して,視認者の視認可能範囲を拡大し得る車輌用表示装置を提供することである。」(明細書1ページ12行ないし3ページ7行)

イ 「[課題を解決するための手段]
本考案によれば,光源から放射される光を,光を回折する手段としてホログラム部を有する光学系を介して表示させる車輌用表示装置において,前記ホログラム部は,ホログラムを複数枚積層したもの(以下,多重層ホログラムという)であることを特徴とする車輌用表示装置が得られる。」(明細書3ページ14行ないし4ページ1行)

ウ 「[作用]
多重層ホログラム部は互いに異なる方向に回折するように角度を変えて露光されたホログラムが複数枚積層されている。それぞれのホログラムに入射する光は,その回折効率に応じて一定の割合で入射方向と異なる方向に回折する。したがって,複数枚のホログラムを積層することにより入射光を多数の方向に回折することができる。」(明細書4ページ2ないし10行)

エ 「[実施例]
以下本考案の実施例を図面に従って詳細に説明する。
第1図は本考案の一実施例に係る車輌用表示装置の多重層ホログラム周辺部分の概略構成を示す平面図である。
第1図(a)において1は光源,2はレンズ,3はレンズ2を通過した後の照明光,4は多重層ホログラム,5は信号光である。
・・・(中略)・・・
ここで本実施例の場合多重層ホログラム4は図中で左水平方向5a,右水平方向5b,直進水平方向5cの各々異なる方向に回折する様に入射角度を変えて予め露光されたホログラムを複数枚積層している。その結果,照明光3は1つの多重層ホログラム4により左右水平方向に信号光5として拡がり,視認範囲が拡大できた。
・・・(中略)・・・
ホログラム材料には重クロム酸ゼラチンやフォトポリマー等が使用できる。尚,ホログラム4としては透過型,反射型があるが,その何れでも使用できる。」(明細書4ページ11行ないし7ページ11行)

(2)引用文献2の記載から把握される技術的事項
前記(1)アないしエの記載から,引用文献2には次の技術的事項が記載されていると認められる。

「光源から放射される光を,光を回折する手段としてホログラム部を有する光学系を介して表示させる車輌用表示装置において,
ホログラムは非正反射性及び波長選択性のみを有するにすぎず,指向性の強い出射光が生成され,運転者等の視認者の視認可能範囲を狭めてしまうことから,
前記ホログラム部として,それぞれ異なる方向に回折するように入射角度を変えて予め露光されたホログラムを複数枚積層した透過型または反射型の多重層ホログラムを用いることにより,入射光がそれぞれのホログラムの回折効率に応じた割合で入射方向と異なる多数の方向に回折して,光情報を広角度に伝達でき,視認者の視認可能範囲を拡大できること。」(以下,「引用文献2記載の技術的事項」という。)

4 引用文献3
(1)引用文献3の記載
引用文献3は,本件特許出願時より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献3には次の記載がある。(下線は,後述する「引用文献3記載の技術的事項」の認定に特に関係する箇所を示す。)
ア 「【発明の属する技術分野】本発明は,車両用ヘッドアップデイスプレイ(以下HUDという)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車内等の運転者に情報を表示する方法として,HUDが最近用いられるようになっている。これは,液晶表示装置等の情報投射手段から投射された光学的情報を,自動車の風防ガラス等に組み込まれたホログラムやハーフミラー等からなるコンバイナに映し,運転者が運転状態からほとんど視点を動かすことなく情報を読み取れるようにしたものである。
【0003】特に,コンバイナにホログラムを用いたものは,運転者に向かって光学的情報を回折する機能とともにレンズ機能等を併せ持つことができるので,光学的情報を運転者の視野方向に回折したり,あるいは,他にレンズ等の光学系を使用せず,任意の位置に結像したりすることが可能であり,また前景輝度を損なわずに高輝度の表示像が得られるという特徴があるため,HUDのコンバイナとしては有効である。」

イ 「【0011】
【発明が解決しようとする課題】かかるホログラムコンバイナは,波長選択性を高めるために通常体積型ホログラムを使用する。体積型ホログラムはこの波長選択性が優れていることにより色収差を低減して表示像のボケを押さえることが可能である一方,角度選択性にも優れているために,この角度選択性がかえって表示像の回折による視認範囲を狭めている。」

(2)引用文献3の記載から把握される技術的事項
前記(1)ア及びイの記載から,引用文献3には次の技術的事項が記載されていると認められる。

「情報投射手段から投射された光学的情報を,自動車の風防ガラス等に組み込まれたコンバイナに映し,運転者が運転状態からほとんど視点を動かすことなく情報を読み取れるようにした車両用ヘッドアップデイスプレイにおいて,
ホログラムには光学的情報を回折する機能とともにレンズ機能等を併せ持たせることができるので,前記コンバイナとしてホログラムを用いると,光学的情報を運転者の視野方向に回折したり,あるいは,他にレンズ等の光学系を使用せず,任意の位置に結像したりすることが可能であり,また前景輝度を損なわずに高輝度の表示像が得ることができるというメリットがあり,
前記コンバイナに用いるホログラムとしては,波長選択性が優れていることにより色収差を低減して表示像のボケを押さえることが可能であることから,通常体積型ホログラムが使用されていること。」(以下,「引用文献3記載の技術的事項」という。)


第5 取消理由についての判断
1 本件特許発明1について
(1)対比
ア 引用発明の「運転者」,「助手席の乗員」,「ホログラム3」,「表示器2」,「速度画像やウオーニング画像等」,「虚像B」及び「ヘッドアップディスプレイ装置」は,本件特許発明1の「乗り物の操縦者である第1の観察者」,「第2の観察者」,「ホログラフィック光学系」,「プロジェクタ部」,「映像」,「虚像」及び「ヘッドアップディスプレイ装置」にそれぞれ相当する。

イ 引用発明の「ホログラム3」は,自動車のフロントガラス5の内側に取着され,入射した表示光が,露光時の角度αに対応した角度α1と露光時の角度βに対応した角度β1で出射され,出射された各表示光がそれぞれ「運転者」及び「助手席の乗員」の目に達するように構成されたものであるから,「運転者」(本件特許発明1における「乗り物の操縦者である第1の観察者」に相当。以下,「(1)対比」欄における引用発明の構成に付されたカッコ内の記載は,当該構成に相当する本件特許発明1の構成を表す。本件特許発明2及び3についての対比の欄についても同様。)の観察位置及び「助手席の乗員」(第2の観察者)の観察位置に対向して配設されたものであるといえる。
したがって,本件特許発明1の「ホログラフィック光学系」と引用発明の「ホログラム3」は,「乗り物の操縦者である第1の観察者の第1の観察位置,第2の観察者の第2の観察位置に対向して配設される」点で一致する。

ウ 引用発明の「ホログラム3」には,「速度画像やウオーニング画像等」を表示する「表示器2」から放射される表示光が入射されるから,「表示器2」(プロジェクタ部)を,「ホログラム3」(ホログラフィック光学系)に「速度画像やウオーニング画像等」(映像)を投影するものといえる。
したがって,本件特許発明1の「表示器2」と引用発明の「プロジェクタ部」は,「ホログラフィック光学系に映像を投影する」点で一致する。

エ 本件特許発明1の「ホログラフィック光学系」は,第1のホログラフィック光学素子と第2のホログラフィック光学素子とを有しており,第1のホログラフィック光学素子が第1の観察位置の方向に回折させる角度選択性を有し,第2のホログラフィック光学素子が第2の観察位置の方向に回折させる角度選択性を有しているのだから,本件特許発明1の「ホログラフィック光学系」は,「プロジェクタ部」が投影する「映像」を,「第1の観察位置」と「第2の観察位置」の方向に回折させる角度選択性を有している。
一方,引用発明の「ホログラム3」は「表示器2」から放射される表示光を回折・反射するものであって,入射した表示光が,露光時の角度αに対応した角度α1と露光時の角度βに対応した角度β1で出射され,出射された各表示光がそれぞれ「運転者」及び「助手席の乗員」の目に達するから,当該「ホログラム3」(ホログラフィック光学系)は,「表示器2」(プロジェクタ部)が投影する「速度画像やウオーニング画像等」(映像)を,「運転者」(第1の観察者)の観察位置と「助手席の乗員」(第2の観察者)の観察位置の方向に回折させる角度選択性を有しているといえる。
したがって,本件特許発明1の「ホログラフィック光学系」と引用発明の「ホログラム3」は,「プロジェクタ部が投影する映像を,第1の観察位置と第2の観察位置の方向に回折させる角度選択性を有」する点で共通する。

オ 引用発明において,「運転者」及び「助手席の乗員」の目に達する各表示光には,それぞれホログラム3の裏側に「虚像B」が生じているところ,当該「虚像B」が,凹面鏡14を用いた露光によって製作された「ホログラム3」によって形成されることが当業者に自明である。
また,引用発明では,「ホログラム3」によって,ホログラム3の裏側に「虚像B」が生じさせることで,「運転者」及び「助手席の乗員」に,表示器2に表示された速度画像やウオーニング画像等を,フロントガラス5の前方に投影された拡大像として視認させているのであるから,「ホログラム3」(ホログラフィック光学系)が形成する「虚像B」(虚像)は,「運転者」(第1の観察者)の観察位置と「助手席の乗員」(第2の観察者)の観察位置のそれぞれにて遠方に結像するものであるといえる。
したがって,本件特許発明1の「ホログラフィック光学系」と引用発明の「ホログラム3」は,「第1の観察位置と第2の観察位置のそれぞれにて遠方に結像する虚像を形成」する点で一致する。

カ 前記アないしオから,本件特許発明1と,引用発明とは,
「乗り物の操縦者である第1の観察者の第1の観察位置,第2の観察者の第2の観察位置に対向して配設されるホログラフィック光学系と,
前記ホログラフィック光学系に映像を投影するプロジェクタ部と,
を備え,
前記ホログラフィック光学系は,
前記プロジェクタ部が投影する映像を,前記第1の観察位置と前記第2の観察位置の方向に回折させる角度選択性を有し,
前記第1の観察位置と前記第2の観察位置のそれぞれにて遠方に結像する虚像を形成する
ヘッドアップディスプレイ装置。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:
本件特許発明1の「ホログラフィック光学系」が,
プロジェクタ部が投影する映像を第1の観察位置の方向に回折させる角度選択性を有する第1のホログラフィック光学素子と,
プロジェクタ部が投影する映像を第2の観察位置の方向に回折させる角度選択性を有し,第1の観察者及び第2の観察者の両者に対して第1のホログラフィック光学素子より遠い側に積層され,第1のホログラフィック光学素子より回折率が高い第2のホログラフィック光学素子と,
を有するものであるのに対して,
引用発明の「ホログラム3」は,多重露光によって製作されたものであって,第1及び第2のホログラフィック光学素子を積層したものではない点。

(2)判断
ア 相違点1の容易想到性
(ア)ホログラフィック光学素子を積層したホログラフィック光学系を用いる点について
引用発明と引用文献2記載の技術的事項は,車輌用の表示装置という点で共通した技術分野に属するものであって,引用発明で用いている,多重露光によって製作されたホログラム3(以下,多重層ホログラムとの混乱を避けるために,引用発明の多重露光によって製作されたホログラム3を「2回露光ホログラム3」という。)と,引用文献2記載の技術的事項における,それぞれ異なる方向に回折するように入射角度を変えて予め露光されたホログラム(以下,混乱を避けるために,積層された各ホログラムをそれぞれ「ホログラム層」という。)を複数枚積層した反射型の多重層ホログラムとは,これに入射した光を複数の方向に回折・反射するという同一の作用・機能を有する部材である。
しかも,引用文献2の明細書2ページ16ないし18行に記載されているように,引用文献2記載の技術的事項においては,1枚のホログラムに多重露光する方法で作成したホログラムでは,露光回数に反比例して,情報量の輝度が低減することから,反射型の多重層ホログラムを採用しているのであるから,引用発明において,1枚のホログラムに多重露光する方法で作成したホログラムである2回露光ホログラム3に代えて,入射した表示光を運転者の方向へ回折するホログラム層と助手席の乗員の方向へ回折するホログラム層とが積層された反射型の多重層ホログラムを採用することは,引用文献2の記載に接した当業者が容易に想到し得たことである。
しかるに,当該構成の変更を行った引用発明においては,反射型の多重層ホログラムは,自動車のフロントガラス5の内側に取着されることとなり,表示器2と運転者及び助手席の乗員とは,前記反射型の多重層ホログラムの車内側の面に対向して位置することとなるのであるから,当該反射型の多重層ホログラムには,「運転者」及び「助手席の乗員」の両者に対して近くに位置するホログラム層(以下,便宜上,「手前側ホログラム層」という。相違点1に係る本件特許発明1の「第1のホログラフィック光学素子」に相当する。)と,遠くに位置するホログラム層(以下,便宜上,「奥側ホログラム層」という。相違点1に係る本件特許発明1の「第2のホログラフィック光学素子」に相当する。)とが存在することになる。

(イ)手前側ホログラム層の回折方向について
a 引用発明において前記(ア)で述べた構成の変更を行う際に,手前側ホログラム層による回折方向が運転席であるような反射型の多重層ホログラムを用いるのか,当該回折方向が助手席側であるような反射型の多重層ホログラムを用いるのかは,二択の問題であって,そのどちらか一方を選択せざるを得ない事項であるのだから,どちらの多重層ホログラムを選択するのかは当業者にとって単なる設計事項というべきである。
したがって,前記(ア)で述べた構成の変更を行った引用発明において,手前側ホログラム層による回折方向が運転席であるような反射型の多重層ホログラムを用いること,すなわち,引用発明において,相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項のうち,第1のホログラフィック光学素子が,プロジェクタ部が投影する映像を,乗り物の操縦者である第1の観察者の第1の観察位置の方向に回折させる角度選択性を有する点(以下,「相違点1のうち回折方向に係る点」という。)に相当する構成を採用することは,前記(ア)で述べた構成の変更に際して行う設計事項にすぎない。

b また,相違点1のうち回折方向に係る点については,次の理由で,本件特許発明1と前記(ア)で述べた構成の変更を行った引用発明との間の実質的な相違点ではないともいえる。
すなわち,そもそも,本件特許発明1は「ヘッドアップディスプレイ装置」という物の発明であるところ,当該「ヘッドアップディスプレイ装置」は乗り物や乗り物の操縦者をその構成要素として含んでいる物ではなく,操縦者が座る運転席を備えた乗り物に設置される物である。
したがって,「ヘッドアップディスプレイ装置」という物の構成(構造,特性等)という観点でみると,各ホログラフィック光学素子の回折方向は,各ホログラフィック光学素子からの回折光の出射角等として定まるものであって,回折方向と「運転者の観察位置」の位置関係が,「ヘッドアップディスプレイ装置」という物単独の構成によって定まることはない。
要するに,回折方向と運転者の観察位置が一致するのか否かは,「ヘッドアップディスプレイ装置」を乗り物(自動車)に設置したときに,当該乗り物における「ヘッドアップディスプレイ装置」の設置位置(例えば,車幅方向における運転席と助手席の中央位置に設置するのか,運転席または助手席側に偏った位置に設置するのか等)や,乗り物における運転席の位置(例えば,右ハンドル車なのか左ハンドル車なのか等)等に応じて定まるものである。
例えば,本件明細書の【0030】ないし【0035】に記載され,図6ないし図8に示された形態のヘッドアップディスプレイ装置を例にすると,当該ヘッドアップディスプレイ装置は車幅方向における運転席と助手席の略中央位置に設置されており,第1のホログラフィック光学素子がプロジェクタ部が投影する映像を略右方向に回折し,第2のホログラフィック光学素子がプロジェクタ部が投影する映像を略左方向に回折している。当該ヘッドアップディスプレイ装置が,図7に示されたような右ハンドル車に設置されれば,手前側に位置する第1のホログラフィック光学素子は,映像を運転者の方向に回折・反射することになるものの,同じ構成のヘッドアップディスプレイ装置を左ハンドル車の同様な位置に設置すると,手前側に位置する第1のホログラフィック光学素子は,映像を助手席の方向に回折することになるのであって,運転者の方向に回折するのは,奥側に位置する第2のホログラフィック光学素子である。
以上によれば,相違点1のうち回折方向に係る点は,「ヘッドアップディスプレイ装置」という物自体の構造,特性等の構成を実質的に限定するものではないというべきである。
そうすると,相違点1のうち回折方向に係る点は,本件特許発明1と前記(ア)で述べた構成の変更を行った引用発明との間の実質的な相違点とはいえない。

(ウ)回折率について
a 引用文献1には,2回露光ホログラム3を製造する際の各露光における条件について,凹面鏡14の位置以外の変更(例えば,光源から発するレーザ光の強度を変更する等)については記載されていないから,引用発明の2回露光ホログラム3は,運転者と助手席の乗員とに対して同程度の光量の表示光を回折・反射し,同程度の輝度の速度画像やウオーニング画像等を視認させているものと解される。
また,引用発明(自動車用のヘッドアップディスプレイ装置)において,運転者と助手席の乗員とで,視認させる速度画像やウオーニング画像等の輝度を大きく異ならせなければならないような事情は見当たらない。
そうすると,引用発明に対して,2回露光ホログラム3に代えて反射型の多重層ホログラムを採用するという前記(ア)で述べた構成の変更を行うに際して,反射型の多重層ホログラムの各ホログラム層の回折効率を,運転者と助手席の乗員とに対して同程度の輝度の速度画像やウオーニング画像等を視認させることができるような値に設定することは,当業者にとって最も自然な設計というべきである。
しかるに,反射型の多重層ホログラムによって,運転者と助手席の乗員とに対して同程度の輝度の速度画像やウオーニング画像等を視認させるためには,手前側ホログラム層の回折効率よりも奥側ホログラム層の回折効率を大きくしなければならないことが,当業者に自明である。(例えば,各ホログラム層による吸収・損失を無視できる場合,手前側ホログラム層の回折効率を50%に,奥側ホログラム層を100%に設定すれば,手前側ホログラム層で,入射光のうち50%が回折して残り50%が透過することとなり,奥側ホログラム層では手前側ホログラム層を透過してきた50%の光量の透過光が全て回折されることになるから,運転者の方向と助手席の乗員の方向に同じ光量で回折させることができる。)
したがって,引用発明において,前記(ア)で述べた構成の変更を行うに際して,手前側ホログラム層の回折効率よりも,奥側ホログラム層の回折効率を大きく設定することは,当業者が適宜なし得た設計上の事項にすぎない。

b また,そもそも,前記(ア)で述べた構成の変更を行った引用発明において,奥側ホログラム層の回折効率が100%でない場合,入射光のうちの一部が,多重層ホログラムを透過してフロントガラス外に出射してしまい,運転者にも助手席の乗員にも視認されることのない無駄な光となってしまうのだから,当業者であれば,そのような無駄な光を生じさせないために,奥側ホログラム層の回折効率を,実現可能な最大値(可能ならば100%)に設定するはずである。
一方,手前側ホログラム層の回折効率については,当該手前側ホログラム層の回折方向にどの程度の割合の光を回折させたいのか(事実上,残余の光の略全てが,奥側ホログラム層によって奥側ホログラム層の回折方向に回折することとなる。)に応じて設定されるべきものであって,仮に,当該回折効率を奥側ホログラム層と同様の実現可能な最大値に設定したのでは,手前側ホログラム層を透過する光がほぼゼロとなり,奥側ホログラム層による回折光が事実上存在しなくなってしまうことが,当業者に明らかである。(例えば,各ホログラム層による吸収・損失を無視できる場合,手前側ホログラム層による回折光の光量を奥側ホログラム層による回折光の光量の2倍にするときには,手前側ホログラム層の回折効率を67%に,奥側ホログラム層を100%に設定することとなるし,手前側ホログラム層による回折光の光量を奥側ホログラム層による回折光の光量の1/2にするときには,手前側ホログラム層の回折効率を33%に,奥側ホログラム層を100%に設定することとなる。)
そうすると,そもそも,引用発明において前記(ア)で述べた構成の変更を行う際には,運転者と助手席の乗員とに対してそれぞれどの程度の輝度の画像を視認させたいのかにかかわらず,奥側ホログラム層の回折効率を実現可能な最大値に設定し,手前側ホログラム層の回折効率は奥側ホログラム層の回折効率より小さい値に設定するのが必然ともいうべき設計なのであって,当業者が,手前側ホログラム層の回折効率の値を奥側ホログラム層の回折効率の値以上に設定するような設計を行うことはないというべきである。
したがって,当該点からも,引用発明において,前記(ア)で述べた構成の変更を行うに際して,手前側ホログラム層の回折効率よりも,奥側ホログラム層の回折効率を大きく設定することは,当業者にとって単なる設計事項であるといえる。

c 特許権者は,平成28年2月18日に提出した意見書において,速度画像やウオーニング画像を必要な情報として視認するのは主に運転者であり,助手席の乗員は運転者ほど速度画像やウオーニング画像を必要としないから,運転者と助手席の乗員とで視認させる画像の輝度を同じにしなくてもよく,各ホログラム層の回折効率を,運転者と助手席の乗員とに対して同程度の輝度の速度画像やウオーニング画像等を視認させることができるような値に設定することが,自然な設計とはいえないこと,したがって,手前側ホログラム層の回折効率よりも奥側ホログラム層の回折効率を大きく設定することが設計事項とはいえないこと等を主張する。
しかしながら,仮に,特許権者が主張するように,運転者と助手席の乗員とで視認させる画像の輝度を同じにしなくてもよいのだとしても,前記bで述べたように,運転者と助手席の乗員とに対してそれぞれどの程度の輝度の画像を視認させたいのかにかかわらず,奥側ホログラム層の回折効率を実現可能な最大値に設定し,手前側ホログラム層の回折効率は奥側ホログラム層の回折効率より小さい値に設定するのが必然ともいうべき設計であるから,手前側ホログラム層の回折効率よりも奥側ホログラム層の回折効率を大きく設定することが設計事項とはいえないとの特許権者の主張は採用できない。

(エ)相違点1の容易想到性のまとめ
前記(ア)ないし(ウ)のとおりであって,引用発明において,2回露光ホログラム3に代えて,反射型の多重層ホログラムを採用することは,引用文献2記載の技術的事項に基づいて当業者が容易になし得たことであり,当該反射型多重層ホログラムとして,入射した表示光を運転者の方向へ回折するのが手前側ホログラム層で,入射した表示光を助手席の乗員の方向へ回折するのが手前側ホログラム層よりも回折効率の大きな奥側ホログラム層であるようなものを用いることは,反射型の多重層ホログラムの採用に際して行う設計事項にすぎない。
したがって,引用発明を,相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,引用文献2記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。

イ 効果について
(ア) 本件特許発明1が有する効果は,引用文献1及び引用文献2の記載に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。

(イ) なお,特許権者は,平成28年2月18日に提出した意見書において,相違点1のうち回折方向に係る点(前記(イ)a及びbを参照。)に関連して,第2のホログラフィック光学素子により回折され,第2の観察者により視認される像が,第1のホログラフィック素子を2度透過した像であることから,第1のホログラフィック光学素子により回折された像を乗り物の操縦者に視認させるように設定した本件特許発明1は,像の視認の必要性の高い操縦者がより高精細な画像を観察することが可能になるという格別顕著な効果を有している旨主張するが,当該主張に係る効果は,本件明細書に記載されたものでないから,本件特許発明1の進歩性の有無の判断を左右するほどの格別顕著な効果としては考慮しない。

ウ 小括
以上のとおりであるから,本件特許発明1は,引用発明及び引用文献2記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 本件特許発明2について
(1)対比
本件特許発明2と引用発明とを対比すると,両者は,前記1(1)カで認定した相違点1(ただし,本件特許発明1を本件特許発明2と読み替える。)に加えて,次の点で相違し,その余の点で一致する。

相違点2:
本件特許発明2の「ホログラフィック光学系」が,体積型のホログラフィック光学素子であるのに対して,
引用発明の「ホログラム3」は,体積型のホログラフィック光学素子であるのか,それとも平面型のホログラフィック光学素子であるのかは,特定されていない点。

(2)判断
ア 相違点1の容易想到性
前記1(2)アで述べたのと同様の理由で(ただし,本件特許発明1を本件特許発明2と読み替える。),引用発明を,相違点1に係る本件特許発明2の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,引用文献2記載の技術的事項に基づいて当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2の容易想到性
前記第4 4(2)で認定したように,引用文献3の記載から,引用文献3記載の技術的事項を把握することができるところ,引用発明の「自動車用のヘッドアップディスプレイ装置」は,引用文献3記載の技術的事項における前提事項である「情報投射手段から投射された光学的情報を,自動車の風防ガラス等に組み込まれたコンバイナに映し,運転者が運転状態からほとんど視点を動かすことなく情報を読み取れるようにした車両用ヘッドアップデイスプレイ」に該当し,かつ,引用発明においても,引用文献3記載の技術的事項における体積型ホログラム使用の理由である「波長選択性が優れていることにより色収差を低減して表示像のボケを押さえる」ことが可能であったほうが望ましいことは明らかであるから,引用発明において,表示器2から放射される表示光を回折・反射するコンバイナであるホログラム3を体積型ホログラムにすることは,引用文献3の記載に接した当業者が容易になし得たことである。
したがって,引用発明を,相違点2に係る本件特許発明2の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,引用文献3記載の技術的事項に基づいて当業者が容易になし得たことである。

ウ 効果について
本件特許発明2が有する効果は,引用文献1ないし引用文献3の記載に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。

(3) 小括
以上のとおりであるから,本件特許発明2は,引用発明,引用文献2記載の技術的事項及び引用文献3記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 本件特許発明3について
引用発明では,ホログラム3によって,ホログラム3の裏側に虚像Bを生じさせることで,運転者,及び助手席の乗員に,表示器2に表示された速度画像やウオーニング画像等を,フロントガラス5の前方に投影された拡大像として視認させているところ,当該「ホログラム3」の「拡大像として視認させる機能」が,本件特許発明3の「ホログラフィック光学系」が有する「光学拡大機能」に相当するから,本件特許発明3と引用発明とを対比すると,両者は,前記1(1)カで認定した相違点1(ただし,本件特許発明1を本件特許発明3と読み替える。)で相違し,その余の点で一致する。
そして,前記1(2)アで述べたのと同様の理由で(ただし,本件特許発明1を本件特許発明3と読み替える。),引用発明を,相違点1に係る本件特許発明3の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,引用文献2記載の技術的事項に基づいて当業者が容易になし得たことである。
また,本件特許発明3が有する効果は,引用文献1及び引用文献2の記載に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。
したがって,本件特許発明3は,引用発明及び引用文献2記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第6 まとめ
以上のとおり,本件特許発明1及び3は引用発明及び引用文献2記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件特許発明2は引用発明,引用文献2記載の技術的事項及び引用文献3記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項1ないし3に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法113条2号に該当する。
したがって,請求項1ないし3に係る発明の特許は取り消されるべきものである。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ヘッドアップディスプレイ装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロジェクタ装置による投影像を利用し、自動車などの操縦者に対して計器情報などの各種情報を視覚的に提供するヘッドアップディスプレイ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの移動体において、液晶ディスプレイなどにより形成された計器情報、ナビゲーション装置における地図情報などの各種情報映像を、フロントウィンドウに投影し、操縦者に情報を伝達するヘッドアップディスプレイ装置が知られている。特許文献1から特許文献3には、車両にこのようなヘッドアップディスプレイ装置を用いることについての開示がみられる。
【0003】
特許文献1には、グラフィック表示可能な透過型ドットマトリックス液晶表示パネルの背後に配置される調光用スクリーンと、該調光用スクリーンの背後に配置されたバックライト光源とを備え、フロントガラス又はフロントガラス手前に設けた透光性反射板に情報表示を反射させる表示器を備えたヘッドアップディスプレー装置が開示されている。このヘッドアップディスプレー装置によれば、表示器の表示像を運転席の前方視野内に配設された透光性反射板(コンバイナ)に投影表示する車両用ヘッドアップ装置における表示器のウォッシュアウト現象を防ぐとともに、その表示器を透過照明するのに用いられるバックライトの耐久性の向上を図ることができる。
【0004】
また、特許文献2には、運転席上方に位置するルーフパネルの車室内側に、各種走行データ等の表示像を放射する放射機構を含んだ発光表示源を配し、インストルメントパネルの所定部位に、発光表示源から放射される表示像を運転席前方のフロントウインドパネルに投影するミラーを配設した車両用ヘッドアップディスプレイが開示されている。この車両用ヘッドアップディスプレイによれば、車両のインストルメントパネル内方に大きな設置スペースを必要とせずレイアウトが容易となる。
【0005】
さらに、特許文献3には、ヘッドアップディスプレイ装置におけるコンバイナとして、反射回折により拡散光を再生する透明なホログラムを用いることが開示されている。このようなホログラムを用いたコンバイナを用いることで、非常に高い平面性が要求されることなく、ボケが少なく、しかも明るい再生像を観察できるコンバイナ、そして、ヘッドアップディプレイ装置を提供することが可能となる。
【0006】
ここで、図12、図13を用いて、ヘッドアップディスプレイ装置の一実施形態を簡単に紹介する。図12はヘッドアップディスプレイ装置の各種構成をインストルメントパネル内に組み込んだ場合の実施形態である。液晶表示パネル上には、車両の計器情報や、ナビゲーション装置からの地図情報などの映像情報が出力表示される。液晶表示パネル背面には光源としてのバックライトが設置され、液晶表示パネルを背面から照射することで、光学系拡大素子としての凹面ミラーに液晶表示パネルに形成される映像を照射する。凹面ミラーで反射、拡大された映像はフロントウィンドウ又はフロントウィンドウ上に設けた透過性反射板の内側に投影される。
【0007】
操縦者は、フロントウィンドウ前方に位置する表示像(虚像)を車外の景色と同時に視認することができる。また、表示像までの距離(距離L)をできるだけ遠方にすることで、操縦者は少ない焦点位置の移動量で計器情報や地図情報などの映像情報を確認することができる。
【0008】
図13は、車両運転席背後からの様子を示した図であり、フロントウィンドウの破線で囲んだ表示範囲内に各種の映像情報が映し出され、運転者はインストルメントパネル内に配置されている各種計器類などに視線を落とさなくても、車両の運転に注意を払いながら映像による各種情報を取得することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000-131642号公報
【特許文献2】実公平6-29095号公報
【特許文献3】特開平9-179058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、車室内にはカーナビゲーション装置が設置され、運転手に対し目的地までのルート情報の提供を行っている。通常、カーナビゲーション装置の表示装置としては、薄型の液晶モニタがコンソールパネルの中間位置に嵌め込まれ、運転席、助手席の両方から表示される情報、もしくは、DVDなどの映像を視認可能とされている。このように、車両における情報表示機器としてのカーナビゲーション装置は、運転手のみならず、助手席に乗車する同乗者に対しても情報を提供することが可能となっている。特に、カーナビゲーション装置にて現在位置、目的位置などを表示する地図情報は、同乗者も乗車の際、取得したい情報の1つである。
【0011】
このように、液晶モニタを用いた情報表示機器では、その視野角の大きさから運転手と、助手席の同乗者が同じ情報を共有することは容易であった。前述のヘッドアップディスプレイ装置においても、映像を投影するプロジェクタ装置の高解像度化により、地図情報など解像度の高い情報を表示することが可能となりつつある。しかしながら、図12を用いて説明したような従来のヘッドアップディスプレイ装置では、視野角はかなり限定されたものであって、運転席に座る運転手と助手席に座る同乗者の両方に対して、情報や映像を視認させることはできなかった。
【0012】
図1は、従来のヘッドアップディスプレイ装置による映像を複数の観察者に対して視認させることを試みた例である。2人の観察者1、観察者2は、フロントウィンドウ21に対向して位置している。2人の観察者に対して映像を視認させるため、プロジェクタ装置10は、観察者1と観察者2の間に配置している。プロジェクタ装置10から照射された入射光は、凹面鏡15にて反射、拡大され、フロントウィンドウ21の内側で表面反射する。表面反射は、入射角と反射角が等しくなるため、図に示すように運転席側の観察者1に合わせると、観察者2側ではプロジェクタ装置10による像を確認できなくなる問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明のヘッドアップディスプレイ装置は、乗り物の操縦者である第1の観察者の第1の観察位置、第2の観察者の第2の観察位置に対向して配設されるホログラフィック光学系と、前記ホログラフィック光学系に映像を投影するプロジェクタ部と、を備え、前記ホログラフィック光学系は、第1のホログラフィック光学素子と、第1の観察者及び第2の観察者の両者に対して、前記第1のホログラフィック光学素子より遠い側に積層され、前記第1のホログラフィック光学素子より回折率が高い第2のホログラフィック光学素子と、を有し、前記プロジェクタ部が投影する映像を、前記第1のホログラフィック光学素子が、前記第1の観察位置の方向に回折させる角度選択性を有するとともに、前記第2のホログラフィック光学素子が、前記第2の観察位置の方向に回折させる角度選択性を有し、前記第1の観察位置と前記第2の観察位置のそれぞれにて遠方に結像する虚像を形成することを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明のヘッドアップディスプレイ装置において、前記ホログラフィック光学系は、前記プロジェクタ部が投影する映像を、前記第1の観察位置と前記第2の観察位置の方向に回折させる体積型のホログラフィック光学素子であることを特徴としている。
【0017】
さらに、本発明のヘッドアップディスプレイ装置において、前記ホログラフィック光学系は、光学拡大機能を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、第1の観察者が位置する第1の観察位置の方向と、第2の観察者が位置する第2の観察位置の方向に、プロジェクタ部が投影する映像を回折するホログラフィック光学系を用いたことで、第1の観察者、第2の観察者の両方に対して、観察像を提供することが可能となる。
【0019】
また、第1プロジェクタ部が投影する映像を、第1の観察位置の方向に回折させるとともに、第2プロジェクタ部が投影する映像を、第2の観察位置の方向に回折させるホログラフィック光学系を採用したことで、複数の観察者に対して異なるソースの映像を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来の形式を採用した場合における問題を説明するための図。
【図2】本発明の実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置を示す図。
【図3】本発明の実施形態に係るプロジェクタ装置を示す図。
【図4】本発明の実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置を示す図。
【図5】ホログラフィック光学素子によるレンズ機能を説明するための図。
【図6】ヘッドアップディスプレイ装置の実装の様子を示す図。
【図7】本発明の実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置の光路を示す図。
【図8】本発明の実施形態に係るホログラフィック光学系での光路を示す図。
【図9】他の実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置の実装の様子を示す図。
【図10】他の実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置の光路を示す図。
【図11】他の実施形態に係るホログラフィック光学系での光路を示す図。
【図12】従来のヘッドアップディスプレイ装置を示す図。
【図13】ヘッドアップディスプレイ装置による車室内での画像表示の様子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図2は、本発明の実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置の一部を示す図であって、自動車に採用された場合が示されている。なお、本発明のヘッドアップディスプレイ装置は、自動車に限らず、各種乗り物の操縦者に対する表示装置、あるいは、ゲーム機、シミュレーション装置に採用することが可能である。
【0022】
観察者の観察方向には、自動車のフロントウィンドウ21が配置されており、内側にはホログラフィック光学系20が貼付されている。ホログラフィック光学系20は、外界光を損なわないシースルー(透明)性を有するとともに、波長選択性と角度選択性を備えた光学部材であって、物体光と参照光の干渉パターンを記録することで作成される。本実施形態では、観察位置において、車室外の景色とプロジェクタ装置10の映像情報を重畳して提供するコバイナとして機能する。
【0023】
プロジェクタ装置10(本発明でいう「プロジェクタ部」)は、入力される各種映像情報に基づいて映像を投影する装置であって、液晶プロジェクタ、DLPプロジェクタ、LCOSプロジェクタなど各種の方式を用いることが可能である。プロジェクタ装置10から投影された映像は、ホログラフィック光学系20で回折し、観察者の観察位置にて遠方に結像する虚像として観察される。観察者、すなわち、操縦者は視線を変動することなく、車室外の景色とプロジェクタ装置10による映像情報を視認可能となる。また、本実施形態では、プロジェクタ装置10の焦点距離を可変することにより、結像距離を変化させることが可能となる。これにより、前方車両が近くにある場合などでは結像距離を短く、前方車両が無い、あるいは遠い場合は結像距離を長く伸ばすなど、状況により操縦者の焦点距離を大きく変動させずに映像情報を視認可能にさせる。
【0024】
図3は、本発明の実施形態に係るプロジェクタ装置を示す図である。本実施形態では、光源にレーザーを用いるとともに、画像を形成する画像形成部に液晶表示素子を用いた構成としている。レーザー光源11は、レーザー半導体112、発散光学系111などを含んで構成される光源装置であって、レーザー半導体112から放射された出力光を、発散光学系111にて所定の照射断面形状に揃えて外部に出力する。
【0025】
レーザー光源11から出力された出力光は、ビームエキスパンダ12にて、バックライトとして必要な面積に調整された後、画像形成部13の背後に照射される。本実施形態では、この画像形成部13として、液晶表示素子131を用いた液晶表示手段が採用されている。レーザー光源11の出力光は、拡散板132にて強度分布が均一となるように調整された後、液晶表示素子131に形成された画像を背後から照射して、プロジェクション光学系14を介して投影像を形成する。
【0026】
観察者は、この投影像をホログラフィック光学系20を介して観察することとなる。これは、ホログラフィック光学系20が有する偏光機能により可能となるものであるが、ホログラフィック光学系20にレンズ機能(光学拡大機能)を持たせることで、観察者に大きな映像を提供することができるとともに、プロジェクタ装置10内のプロジェクション光学系14の小型化を図り、プロジェクタ装置10自体の小型化を図ることも可能となる。
【0027】
図4は、本発明の実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置の光路図を示した図である。透明基材で構成されたフロントウィンドウ21の内面には、優れたホログラフィック光学系20が貼着されている。なお、フロントガラス21に対するホログラフィック光学系20の配設方法については、このように内面に貼着することの他、フロントウィンドウ21の外面に貼着したり、2枚の透明基材に挟むなど適宜方法が採用できる。また、ホログラフィック光学系20の配設対象についても、フロントウィンドウ21のみならず、フロントウィンドウ21とは別途設けられた透明基材とするものであってもよい。
【0028】
本実施形態では、図に示されるように、このホログラフィック光学系20が、観察者1の観察位置と、第2の観察者2に対して、プロジェクタ装置10が投影する映像を視認できるものとなっている。具体的には、プロジェクタ装置10からホログラフィック光学系20に入射する入射光が、観察者1に対する回折光1と、観察者2に対する回折光2のように回折することで実現されている。これは、ホログラフィック光学系の優れた角度選択性を利用したものである。
【0029】
図5は、ホログラフィック光学系を説明するための図である。ホログラフィック光学系20は、高いシースルー性を有しているため、外来光はほとんど損失のないままこのホログラフィック光学系20を透過する。一方、プロジェクタ装置10から発せられた入射光(再生光)は、ホログラフィック光学系20にて所定方向に回折する(角度選択性)。回折光が集光点に向けて回折するようホログラフィック光学系20を製作することでレンズ機能(光学拡大機能)を持たせることも可能となる。
【0030】
図6は、本発明の実施形態に係るヘッドアップディプレイ装置を車室内に実装した様子を示した図である。このように、フロントウィンドウ21に角度選択性に優れたホログラフィック光学系20を配設することで、運転席側の観察者1と助手席側の観察者2の両方に対して、プロジェクタ装置10による観察像を提供することが可能となる。また、ホログラフィック光学系20が、光学拡大機能を有する場合には、観察者に大きな映像を提供できるとともに、プロジェクタ装置内のプロジェクション光学系14の小型化を図り、プロジェクタ装置10自体の小型化を図ることも可能となる。
【0031】
では、図7、図8を用いて、本発明の実施形態に係るホログラフィック光学系20について説明を行う。図7は、本発明の実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置を上面からみた光路図である。
【0032】
本発明の実施形態に係るホログラフィック光学系は、2枚のホログラフィック光学素子20R、20Lが積層されて形成されている。積層方法は、予め出来上がった2枚のホログラフィック光学素子20R、20Lを貼り合わせて形成してもよいし、どちらか1枚のホログラフィック光学素子上に、材料を塗布して他方のホログラフィック光学素子を形成することとしてもよい。また、複数方向の回折方向を記録した1枚のホログラフィック光学系でもよい。
【0033】
図7の光路図に示されるように、プロジェクタ装置10から照射された入射光は、第1のホログラフィック光学素子20Rで回折光1として回折し、第1の観察者にて視認可能な像を形成する。一方、第2のホログラフィック光学素子20Lにて回折した回折光2は、第2観察者にて視認可能な像を形成する。このように、観察者1の方向に回折させる第1のホログラフィック光学素子20Rと、観察者2の方向に回折させる第2のホログラフィック光学素子20Lを配設したことで、プロジェクタ装置10からの映像を観察者1、観察者2の両者に対して提供することが可能となる。
【0034】
図8は、図7の光路図においてホログラフィック光学系20を拡大した模式図となっている。図中、プロジェクタ装置10から発せられた入射光は、第1のホログラフィック光学素子20Rで観察者1の方向に回折する回折光1を生じる。一方、第1のホログラフィック光学素子20Rを透過した透過光1は、第2のホログラフィック光学素子20Lにて観察者2の方向に回折する回折光2と透過光2に分離される。
【0035】
2つのホログラフィック光学素子20R、20Lが積層された本実施形態においては、両者の回折率、すなわち、入射した光の強度に対する回折した光の強度を考慮することで、観察者1、観察者2に対して同程度の輝度を有する映像を提供することが可能となる。具体的には、観察者に近い側に位置するホログラフィック光学素子(この場合、第1のホログラフィック光学素子20R)の回折率(この場合、入射光に対する回折光1のパワー比)を、観察者に遠い側に位置するホログラフィック光学素子(この場合、第2のホログラフィック光学素子20L)の回折率(この場合、透過光1に対する回折光2のパワー比)よりも低く設定しておくことで実現可能となる。
【0036】
以上、本実施形態では、第1の観察者が位置する第1の観察位置の方向と、第2の観察者が位置する第2の観察位置の方向に、プロジェクタ装置が投影する映像を回折するホログラフィック光学系を用いたことで、第1の観察者、第2の観察者の両方に対して、観察像を提供することが可能となる。
【0037】
本実施形態では、ホログラフィック光学系に、積層された第1のホログラフィック光学素子と第2のホログラフィック光学素子を用いることとしたが、このような形態では、両者の回折率の関係に配慮することで、両観察者に対して、同程度の輝度の映像を提供することが可能となる。
【0038】
なお、ホログラフィック光学系には、本実施形態のように第1、第2のホログラフィック光学素子を積層することに限らず、プロジェクタ装置が投影する映像を、第1の観察位置と第2の観察位置の方向に回折させる体積型のホログラフィック光学素子を用いることとしてもよい。
【0039】
また、本実施形態では、車両におけるヘッドアップディスプレイ装置を想定して、第1、第2の観察位置に限定して説明したが、ホログラフィック光学系の回折方向を増やすことで、複数(3以上)の位置で観察可能としてもよい。
【0040】
このように、本発明はホログラフィック光学素子の角度選択性を利用し、複数の方向に回折するホログラフィック光学系を用いたヘッドアップディスプレイ装置を提供することとしているが、このようなホログラフィック光学系を用いることで、優れた効果を有する他のヘッドアップディスプレイ装置も可能となる。
【0041】
車両では、運転者がナビゲーション装置による誘導情報を、また、同乗者がDVDなどによる映像情報を見たい、すなわち、運転者と同乗者が異なるソースの映像を見たい場合がある。本発明の実施形態に係るホログラフィック光学系を用いることで、このような状況に対応することも可能となる。
【0042】
図9は、本発明の実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置の実装の様子を示した図である。本実施形態では、2つのプロジェクタ装置10R、10Lを使用することで、観察者1、観察者2のそれぞれに対し、各プロジェクタ装置10R、10Lが投影する映像を提供することが可能となる。
【0043】
図10は、この実施形態におけるヘッドアップディスプレイ装置の光路を示した図である。図に示されるように、右側(運転席側)用プロジェクタ装置10R、左側(助手席側)用プロジェクタ装置が設けられている。ホログラフィック光学系20は、図7、図8で説明したものと同様であって、第1のホログラフィック光学素子10Rと第2のホログラフィック光学素子10Lが積層されて形成されている。
【0044】
右側用プロジェクタ装置10Rにて照射された入射光1は、第1のホログラフィック光学素子20Rにて回折し、観察者1の観察位置に観察像を形成する。一方、左側用プロジェクタ装置10Lにて照射された入射光2は、第2のホログラフィック光学素子20Lにて回折し、観察者2の観察位置に観察像を形成する。このように、複数の映像ソースをホログラフィック光学系20に投影するとともに、ホログラフィック光学系20の各回折方向を設定しておくことで、観察者1、観察者2に対して異なる映像ソースを提供できるヘッドアップディスプレイ装置を実現できる。
【0045】
また、ホログラフィック光学系20上で、両プロジェクタ装置10R、10Lの投射面を重複(共用)させることができるので、両プロジェクタ装置10R、10Lによる映像の拡大を図ることも可能となる。
【0046】
図11は、図10の光路図においてホログラフィック光学系20を拡大した模式図となっている。図中、右側用プロジェクタ装置10Rから発せられた入射光1は、第1のホログラフィック光学素子20Rで観察者1の方向に回折する回折光1を生じる。一方、左側用プロジェクタ装置10Lから発せられた入射光2は、第2のホログラフィック光学素子20Lで観察者2の方向に回折する回折光2を生じる。
【0047】
図中では略式図の為、両プロジェクタ装置10R、10Lの光軸が並行になるかのように配置されているが、実装に際してはホログラフィック光学系20に対し、異なる角度で光軸が入射するように配置する。これは第1のホログラフィック光学系20Rの入射角に右側用プロジェクタ装置10Rのみが、第2のホログラフィック光学系20Lの入射角に左側用プロジェクタ装置10Lのみが入射するよう設置する必要がある為である。
【0048】
以上、本実施形態は、ホログラフィック光学素子の角度選択性を利用し、複数の方向に回折するホログラフィック光学系をヘッドアップディスプレイ装置に採用することで、複数の観察者が異なるソースの映像を見たい場合に対応することが可能となっている。
【0049】
なお、本実施形態では、車両におけるヘッドアップディスプレイ装置を想定して、第1、第2の観察位置に限定して説明したが、プロジェクタ装置の数を増やすとともに、その数に応じたホログラフィック光学系の回折方向を設定することで、複数(3以上)の観察位置で異なる映像を観察することも可能となる。
【0050】
なお、本発明はこれらの実施形態のみに限られるものではなく、それぞれの実施形態の構成を適宜組み合わせて構成した実施形態も本発明の範疇となるものである。
【符号の説明】
【0051】
10…プロジェクタ装置、10R…右側(運転席側)用プロジェクタ装置、10L…左側(助手席側)用プロジェクタ装置、11…レーザー光源、111…発散光学系、112…レーザー半導体、12…ビームエキスパンダ、13…画像形成部、131…LCD、132…拡散板、14…プロジェクション光学系、15…凹面鏡、20…ホログラフィック光学系、20R…第1のホログラフィック光学素子、20L…第2のホログラフィック光学素子、21…フロントウィンドウ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗り物の操縦者である第1の観察者の第1の観察位置、第2の観察者の第2の観察位置に対向して配設されるホログラフィック光学系と、
前記ホログラフィック光学系に映像を投影するプロジェクタ部と、
を備え、
前記ホログラフィック光学系は、
第1のホログラフィック光学素子と、
第1の観察者及び第2の観察者の両者に対して、前記第1のホログラフィック光学素子より遠い側に積層され、前記第1のホログラフィック光学素子より回折率が高い第2のホログラフィック光学素子と、
を有し、
前記プロジェクタ部が投影する映像を、前記第1のホログラフィック光学素子が、前記第1の観察位置の方向に回折させる角度選択性を有するとともに、前記第2のホログラフィック光学素子が、前記第2の観察位置の方向に回折させる角度選択性を有し、
前記第1の観察位置と前記第2の観察位置のそれぞれにて遠方に結像する虚像を形成する
ことを特徴とする
ヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記ホログラフィック光学系は、体積型のホログラフィック光学素子である
ことを特徴とする
請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
前記ホログラフィック光学系は、光学拡大機能を有する
ことを特徴とする
請求項1または請求項2に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-07-13 
出願番号 特願2013-160105(P2013-160105)
審決分類 P 1 651・ 841- ZAA (G02B)
P 1 651・ 851- ZAA (G02B)
P 1 651・ 121- ZAA (G02B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 林 祥恵  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 清水 康司
道祖土 新吾
登録日 2015-03-13 
登録番号 特許第5708951号(P5708951)
権利者 株式会社エクォス・リサーチ
発明の名称 ヘッドアップディスプレイ装置  
代理人 阿部 龍吉  
代理人 小山 卓志  
代理人 韮澤 弘  
代理人 米澤 明  
代理人 青木 健二  
代理人 阿部 龍吉  
代理人 青木 健二  
代理人 田中 貞嗣  
代理人 小山 卓志  
代理人 蛭川 昌信  
代理人 蛭川 昌信  
代理人 米澤 明  
代理人 韮澤 弘  
代理人 田中 貞嗣  

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