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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01G 審判 全部申し立て 2項進歩性 C01G 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C01G |
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管理番号 | 1322254 |
異議申立番号 | 異議2016-700112 |
総通号数 | 205 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-01-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-02-12 |
確定日 | 2016-09-08 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5760599号発明「磁性酸化鉄粒子粉末」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5760599号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。 特許第5760599号の請求項3に係る特許を維持する。 特許第5760599号の請求項1、2に係る特許についての申立てを却下する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第5760599号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成23年3月31日の出願であって、登録後の経緯は以下のとおりである。 平成27年 6月19日 :特許権の設定登録 平成28年 2月12日 :特許異議申立人 山林 己美子による特許異議の申立て 同年 3月29日付け:取消理由の通知 同年 5月31日 :訂正の請求、意見書の提出 同年 7月13日 :特許異議申立人による意見書の提出 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 平成28年5月31日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による、一群の請求項1?3に係る訂正の内容は以下のア?カのとおりである。 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 ウ 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「磁性酸化鉄粒子粉末の展色L*値が60以上である請求項1又は2記載の磁性酸化鉄粒子粉末。」と記載されているのを、請求項1、2を引用するものについて、独立形式に改め、「複数の粒状体が結着した平均粒子径が0.5?30μmの磁性酸化鉄粒子粉末であって、該磁性酸化鉄粒子粉末の比表面積Sv(m^(2)/g)がSv≧2/X [X(μm);平均粒子径]を満足し、磁性酸化鉄粒子粉末の展色L*値が60以上であることを特徴とする磁性酸化鉄粒子粉末。」に訂正する。 エ 訂正事項4 明細書の段落【0015】を削除する。 オ 訂正事項5 明細書の段落【0016】を削除する。 カ 訂正事項6 明細書の段落【0017】に、「また、本発明は、磁性酸化鉄粒子粉末の展色L*値が60以上である本発明1又は2記載の磁性酸化鉄粒子粉末である(本発明3)。」と記載されているのを、明細書の段落【0015】及び【0016】の内容を引用するものについて、独立形式に改め、「即ち、本発明は、複数の粒状体が結着した平均粒子径が0.5?30μmの磁性酸化鉄粒子粉末であって、該磁性酸化鉄粒子粉末の比表面積Sv(m^(2)/g)がSv≧2/X [X(μm);平均粒子径]を満足し、磁性酸化鉄粒子粉末の展色L*値が60以上である磁性酸化鉄粒子粉末である。」に訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び一群の請求項 ア 訂正事項1、2について 訂正事項1、2は、それぞれ訂正前の請求項1、2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項、第6項に適合するものである。 イ 訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項1又は2を引用する記載であったところ、請求項1を引用する請求項2を引用するものについて請求項間の引用関係を解消し、その内容を変更することなく独立形式の請求項へと書き替えるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び同4号に規定する請求項間の引用関係の解消を目的とするものである。 また、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮、及び請求項間の引用関係の解消を目的とするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項、第6項に適合するものである。 ウ 訂正事項4、5について 訂正事項4、5は、訂正事項1、2に係る訂正前の請求項1、2の削除に伴い、対応する明細書の記載を同様に削除しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項、第6項に適合するものである。 エ 訂正事項6について 訂正事項6は、訂正事項3に係る請求項3の訂正に伴い、対応する明細書の記載を同様に訂正しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項、第6項に適合するものである。 オ 一群の請求項について 訂正事項1?6に係る訂正前の請求項1?3について、請求項2、3は直接又は間接的に請求項1を引用していたから、訂正前の請求項1?3に対応する訂正後の請求項1?3は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 (3)訂正の適否についてのむすび 以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き各号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正を認める。 3.特許異議の申立てについて (1)本件特許発明 上記のとおり訂正が認められるので、本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?3に係る発明(以下「本件特許発明1?3」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。 【請求項1】 (削除) 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 複数の粒状体が結着した平均粒子径が0.5?30μmの磁性酸化鉄粒子粉末であって、該磁性酸化鉄粒子粉末の比表面積Sv(m^(2)/g)がSv≧2/X [X(μm);平均粒子径]を満足し、磁性酸化鉄粒子粉末の展色L*値が60以上であることを特徴とする磁性酸化鉄粒子粉末。 (2)取消理由の概要 請求項1?3に係る特許に対して平成28年3月29日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 理由1.本件特許発明1は、甲1号証又は甲3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。 理由2.本件特許発明1は、甲1号証及び甲3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。 理由3.本件特許発明1?3は、「複数の粒状体が結着した」ものであることを特定事項とするが、該「結着」なる用語の意味が当業者に不明確であり、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。 甲1号証:特開2006-337828号公報 甲3号証:特開2007-101731号公報 (3)当審の判断 ア 取消理由に対する当審の判断 (ア)理由1、2について a 甲1号証には、「マグネタイト粒子を造粒し、焼成して得た、平均粒径が20μmであるキャリア芯材粒子」の発明が記載されている(【0107】、【0130】)。 しかしながら、甲1号証には、該キャリア芯材粒子の比表面積Svや、展色L*値について記載も示唆もない。 b 甲3号証には、「マグネタイト粒子粉末と硬化したフェノール樹脂からなる、平均粒子径26μm、BET比表面積0.07m^(2)/gの複合体粒子」の発明が記載されている(【0096】、【0102】)。 しかしながら、甲3号証には、該複合体粒子の比表面積Sv(m^(2)/g)がSv≧2/X [X(μm);平均粒子径]を満足することや、該複合体粒子の展色L*値について記載も示唆もない。 (イ)理由3について 「複数の粒状体が結着した」ものであることについて、本件特許明細書【0022】には、「本発明に係る磁性酸化鉄粒子粉末の粒子形状は、粒状体が結着(結合)した形状である」と記載され、同【0024】には、「本発明に係る磁性酸化鉄粒子粉末は、複数の粒状体が結着したものであり、粒状体が容易には分離できないものである」と記載されている。 そしてその一方、本件特許明細書において、樹脂と磁性酸化鉄粒子との結合を意味する場合には、いずれの場合も「樹脂との結着性」と記載されている。 したがって、「複数の粒状体が『結着』した」状態と、「樹脂と磁性酸化鉄粒子との『結着』」とは、本件特許明細書において明確に区別されているということができ、当業者は、本件特許発明における「複数の粒状体が結着した・・・磁性酸化鉄粒子粉末」に、磁性酸化鉄粒子粉末を構成する複数の粒状体が樹脂により「結着」されたものが含まれないことを明確に理解できる。 また、そのように理解して、本件特許明細書等に矛盾するところはない。 したがって、「複数の粒状体が結着した」ものであることを特定事項とする本件特許発明は明確である。 イ その他の特許異議申立人の意見について 特許異議申立人は、甲2号証について、「比較例1」には、粒子相互間で架橋現象を起こして結合したマグネタイト粒子粉末(「結合粒子」)が記載され、甲2号証の図5から、該「結合粒子」の平均粒子径は1?2μmと推定されると主張している。 甲2号証:特公昭59-46890号公報 しかしながら、「粒子が一個一個バラバラで、粒子間の架橋現象がない」図4と、「粒子相互間で架橋現象を生起した結合粒子が混在していた」図5とを対比したとき、電子顕微鏡写真から、どの粒子相互間に架橋現象が起こり、「結合粒子」となっているかを把握できるものとはいえず、「結合粒子」を含むマグネタイト粒子の平均粒子径は不明であるというほかないから、甲2号証に記載の発明は本件特許発明と同一ではない。 また、甲2号証に記載の発明において、「結合粒子」の生起は好ましいものではなく、その粒子径についての記載もないから、該「結合粒子」を含むマグネタイト粒子粉末の平均粒子径を本件特許発明の範囲とすることが、当業者に容易に想到し得たことであるともいえない。 更に、甲2号証には、該「結合粒子」を含むマグネタイト粒子粉末の比表面積Svについて記載も示唆もなく、また、甲2号証に記載の発明は、分散性を高め、L値を低くすることを目的とするものであるから、展色L*値を60以上とすることは、甲2号証に記載の発明の目的に反することである。 ウ むすび 以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件請求項3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、請求項1、2に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項1、2に対して、特許異議申立人 山林 己美子がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 磁性酸化鉄粒子粉末 【技術分野】 【0001】 本発明は、ブレーキ用摩擦材、電子写真キャリア用磁性体等として用いることができ、また、黒色であることから、塗料用、樹脂用、化粧品用、印刷インキ等の黒色着色顔料として用いることができる磁性酸化鉄粒子粉末を提供する。 【背景技術】 【0002】 磁性酸化鉄粒子粉末の1つであるマグネタイト粒子粉末は、代表的な黒色顔料であり、塗料用、印刷インク用、化粧品用、ゴム・樹脂組成物等の着色剤として古くから汎用されている。また、摩擦材として自動車、鉄道車両、各種産業機械等の制動に用いられるディスクブレーキパッド、ブレーキライニング等に用いられたり、高い磁化値を有することから電子写真現像剤の樹脂キャリアの磁性酸化鉄粒子粉末として用いられている。 【0003】 特に、電子写真現像剤の樹脂キャリアの磁性酸化鉄粒子粉末として用いる場合には、現像時にキャリア表面から脱落した磁性酸化鉄粒子粉末が飛散し、現像性を低下させるなどの問題が生じており、磁性酸化鉄粒子粉末が脱落しないことが要求されている。 【0004】 従って、前記樹脂キャリアに対する要求を満足させるために、磁性酸化鉄粒子粉末の樹脂との結着性を向上させることが強く要求されている。 【0005】 磁性酸化鉄粒子と樹脂との結着性を向上させるために、突起物を有する磁性酸化鉄粒子を用いたり、親油化処理した磁性酸化鉄粒子を用いる試みがなされている。 【0006】 例えば、特許文献1(特開2009-167032号公報)には、粒子形状が球状を基本として粒子表面に角張った突起を有する磁性酸化鉄粒子が開示されている。 また、特許文献2(特開2009-230090号公報)には、表面を親油化処理した磁性金属化合物粒子が開示されている。 また、特許文献3(特開平8-259238号公報)及び特許文献4(特開2003-192351号公報)には、凝集粒子径を制御した磁性酸化鉄粒子が開示されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0007】 【特許文献1】 特開2009-167032号公報 【特許文献2】 特開2009-230090号公報 【特許文献3】 特開平8-259238号公報 【特許文献4】 特開2003-192351号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 樹脂との結着性の高い磁性酸化鉄粒子粉末は現在最も要求されているところであるが、未だ得られていない。 【0009】 即ち、前出特許文献1記載の従来技術は、粉体の形状に着目した技術である。しかしながら、後述する比較例3に示すように、樹脂との結着性が未だ十分とは言い難いものである。 【0010】 前出特許文献2記載の従来技術は、粉体の親油化処理をすることで樹脂との密着性を高める技術である。しかしながら、親油化処理のみでは、樹脂との結着性が不十分である。 【0011】 前出特許文献3及至4記載の従来技術は、粉体の凝集状態に着目した技術であり、本発明とは異なるものである。後述する比較例4,5に示すように樹脂との結着性は不十分である。 【0012】 そこで、本発明は、樹脂との結着性の高い磁性酸化鉄粒子粉末を提供することを技術的課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0013】 本発明者らは、前記技術的課題を鑑み検討を行った結果、樹脂との結着性の高い磁性酸化鉄粒子粉末を得ることができ、本発明に至った。 【0014】 前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。 【0015】 (削除) 【0016】 (削除) 【0017】 即ち、本発明は、複数の粒状体が結着した平均粒子径が0.5?30μmの磁性酸化鉄粒子粉末であって、該磁性酸化鉄粒子粉末の比表面積Sv(m^(2)/g)がSv≧2/X [X(μm);平均粒子径]を満足し、磁性酸化鉄粒子粉末の展色L*値が60以上である磁性酸化鉄粒子粉末である。 【発明の効果】 【0018】 本発明の磁性酸化鉄粒子粉末は、殊に、樹脂キャリア用に用いた場合、樹脂との結着性が高いため、磁性酸化鉄粒子の樹脂から脱落を抑制できるため好適である。 【図面の簡単な説明】 【0019】 【図1】実施例1で得られた磁性酸化鉄粒子粉末の電子顕微鏡写真(×10000)である。 【発明を実施するための形態】 【0020】 本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。 【0021】 本発明に係る磁性酸化鉄粒子の組成的にはマグネタイト粒子((FeO)_(x)・Fe_(2)O_(3)、0<x≦1)からなり、鉄以外の金属元素で、Mn、Zn、Ni、Cu、Ti、Si、Al、Mg、Caから選ばれる一種又は二種以上の金属元素を総量として磁性酸化鉄粒子に対して0?20重量%含んでいても良い。 【0022】 本発明に係る磁性酸化鉄粒子粉末の粒子形状は、粒状体が結着(結合)した形状である。粒状体とは、八面体、六面体、多面体、球状などである。 【0023】 本発明に係る磁性酸化鉄粒子粉末の平均粒子径(一次粒子径)は0.5?30μmである。平均粒子径が0.5μmより小さい粒子である場合には、樹脂との結着性が弱く好ましくない。平均粒子径が30μmより大きい粒子の場合、樹脂キャリア用の磁性酸化鉄粒子粉末として使用が困難である。好ましい平均粒子径は1.0?20μmである。 【0024】 本発明に係る磁性酸化鉄粒子粉末は、複数の粒状体が結着したものであり、粒状体が容易には分離できないものである。本発明では、粒状体は分離できないので粒状体の大きさを測定することは難しいが0.02?2.0μmであることが好ましく、より好ましくは0.05?1.5μmである。 【0025】 本発明に係る磁性酸化鉄粒子粉末のBET比表面積Svは、Sv≧2/X [X(μm);平均粒子径]であることが好ましい。Sv<2/Xの場合には、樹脂との結着性が弱く好ましくない。また、BET比表面積は0.1m^(2)/g以上であることが好ましい。0.1m^(2)/gより小さい場合には、樹脂との結着性が弱く好ましくない。上限は、生産性を考慮すると100m^(2)/g程度である。 【0026】 本発明に係る磁性酸化鉄粒子粉末の展色L*値は60以上であることが好ましい。60より小さい場合には、樹脂との結着性が弱く好ましくない。上限は特に制限されるものではないが、生産効率等の理由から80程度である。 【0027】 本発明に係る磁性酸化鉄粒子粉末は、飽和磁化値が60?92Am^(2)/kg(60?92emu/g)が好ましく、より好ましくは65?91Am^(2)/kg(65?91emu/g)である。92Am^(2)/kgの値はマグネタイトの理論値であり、これを越える場合はない。60Am^(2)/kg未満の場合には、粒子中のFe^(2+)量が減少するため赤色味を帯びてくるので黒色顔料粉末として好ましくない。 【0028】 次に、本発明に係る磁性酸化鉄粒子粉末の製造法について述べる。 【0029】 本発明に係る磁性酸化鉄粒子粉末は、Fe^(2+)水溶液とアルカリ水溶液とを反応器に加え、所定の温度を維持し、反応溶液に機械的に撹拌を行うとともに、酸化反応を行い、反応終了後、濾過、水洗、乾燥、粉砕を行って得ることができる。 【0030】 本発明の反応に用いるFe^(2+)水溶液としては、例えば、硫酸第一鉄や塩化第一鉄などの一般的な鉄化合物を用いることができる。またアルカリ溶液には、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ水溶液を用いることができる。各々の原料は、経済性や反応効率などを考慮して選択すればよい。 【0031】 本発明の反応において、反応鉄濃度は1.2?2.0mol/lである。1.2mol/l未満の場合には、目的の形状と粒子径のものを作製できない。2.0mol/lより大きい場合には高粘性となり工業的に製造が困難になる。 【0032】 アルカリ水溶液の使用量は、第一鉄塩水溶液中のFe^(2+)に対して1.0?3.0当量が好ましく、より好ましくは1.0?2.5当量の範囲である。1.0当量未満の場合には、未反応の第一鉄塩が存在し、目的のマグネタイト粒子を単一相として得ることができない。3.0当量を越える場合には、反応溶液が高粘性となり工業的に製造が困難になる。 【0033】 本発明の反応において、反応温度は85?100℃である。85℃未満である場合には、ゲータイト粒子が多く混入する。100℃を超える場合も目的の磁性酸化鉄粒子を得ることができるが、オートクレーブ等の装置を必要とするため工業的ではない。 【0034】 本発明において、反応溶液の攪拌は機械的に行うことが好ましい。攪拌速度は、7rpm以下が好ましい。7rpmを超える場合には、目的の形状の粒子を得ることが出来ない。下限は特にないが、反応溶液を混合することが出来ればよく1rpm程度である。 【0035】 本発明において、酸化手段は酸素が好ましい。酸素を用いることで、少ない通気量で酸化を行うことができ、反応溶液の過剰な攪拌を抑制することが出来る。酸素は、反応溶液の半分以上の高さの位置に通気することが好ましい。半分未満の高さでは、反応溶液が必要以上に攪拌され目的の粒子を得ることが出来ない。 【0036】 反応時に一般に知られているようにMn、Zn、Ni、Cu、Ti、Si、Al、Mg、Caから選ばれる1種又は2種以上の元素の塩を添加してもよい。添加量としては磁性酸化鉄粒子粉末に対して0?20.0重量%が好ましい。 【0037】 磁性酸化鉄粒子にMn、Zn、Ni、Cu、Ti、Si、Al、Mg、Caから選ばれる1種又は2種以上の元素を含む化合物で表面処理してもよい。添加量としては磁性酸化鉄粒子粉末に対して0?20.0重量%が好ましい。 【0038】 反応後は、常法に従って、水洗、乾燥、粉砕を行えばよい。 【0039】 <作用> 本発明に係る磁性酸化鉄粒子粉末は、複数の粒状体が結着した形状及び適度な粒子径を持つため、樹脂との結着性に優れていると推測している。 【0040】 本発明では、従来は一次粒子とされる粒状体を複数個結着させた状態とすることによって、後述する実施例・比較例に示すとおり、樹脂との結着性に優れることが明らかとなった。 【実施例】 【0041】 本発明の代表的な実施例は次の通りである。 【0042】 <測定方法> 【0043】 磁性酸化鉄粒子の粒子形状は、「走査型電子顕微鏡S-4800」((株)日立ハイテクノロジーズ製)により観察した写真から判断した。粒状体の大きさは同様に測定した。結着した粒状体について、粒状体を構成する平面から、八面体、六面体、多面体又は球状などの形状を推定し、粒子径を測定した。 【0044】 磁性酸化鉄粒子の平均粒子径(一次粒子径)はレーザー回折式粒度分布計 LA500((株)堀場製作所製)により計測して個数基準による値で示した。 【0045】 磁性酸化鉄粒子のBET比表面積値は、「Mono Sorb MS-II」(湯浅アイオニックス株式会社製)を用いてBET法により求めた。 【0046】 磁性酸化鉄粒子粉末中に含まれる金属元素量は「蛍光X線分析装置RIX-2100」(理学電気工業株式会社製)にて測定し、磁性酸化鉄粒子粉末に対して元素換算で求めた値である。 【0047】 磁性酸化鉄粒子粉末の飽和磁化は、振動試料型磁力計VSM-3S-15(東英工業(株)製)を用いて外部磁場795.8kA/m(10kOe)のもとで測定した値で示した。 【0048】 磁性酸化鉄粒子粉末の展色L*値は、試料0.5g、ヒマシ油0.5ml及び二酸化チタン1.5gをフーバー式マーラーで練ってペースト状とし、このペーストにクリアラッカー4.5gを加え、混練、塗料化してキャストコート紙上に150μm(6mil)のアプリケーターを用いて塗布した塗布片(塗膜厚み:約30μm)を作製し、該塗布片について、分光色彩計カラーガイド(BYK-Gardner GmbH製)を用いて測色し、JIS Z 8929に定めるところに従って表色指数(L*値)で示した。 【0049】 磁性酸化鉄粒子粉末の樹脂キャリア表面からの脱落性についての評価は、以下の手法にて行った。即ち、磁性酸化鉄粒子粉末とスチレンアクリル樹脂とを混練して得られる樹脂混練物を粉砕して樹脂混練物粒子粉末を作製し、該樹脂混練物粒子粉末をペイントシェーカーで3時間振盪させて脱離した 磁性酸化鉄粒子粉末の量を電子顕微鏡により観察して、下記3段階で評価した。 ○:脱落した磁性酸化鉄粒子粉末が殆ど無い。 △:脱落した磁性酸化鉄粒子粉末がやや観察された。 ×:脱落した磁性酸化鉄粒子粉末が多数観察された。 【0050】 実施例1 <酸化鉄粒子の生成方法> Fe^(2+) 1.9mol/lを含む硫酸第一鉄水溶液を10lと12Nの水酸化ナトリウム水溶液4Lとを反応器に加え、95℃において攪拌機回転数5rpm、毎分1.5lの酸素を通気させ反応を行った。このとき、反応鉄濃度は1.36mol/lであった。反応終了後、濾過、水洗、乾燥、粉砕を行い磁性酸化鉄粒子粉末を得た。 【0051】 得られた前記磁性酸化鉄粒子は、図1から明らかなように複数の粒状体が結着した形状を有していた。また、平均粒子径3.1μm、BET比表面積は1.5m^(2)/g、展色L*値は72.1、飽和磁化値は89.1Am^(2)/kgであった。 【0052】 前記得られた磁性酸化鉄粒子粉末とスチレンアクリル樹脂とを混練して得られる樹脂混練物の粉砕物である樹脂混練物粒子粉末を作製し、磁性酸化鉄粒子粉末の脱落性について前記評価方法によって評価を行った結果、脱落した磁性酸化鉄粒子粉末が殆ど無く十分な脱落防止効果を有するものであった。 【0053】 実施例2?6、比較例1?2 磁性酸化鉄粒子粉末の製造条件を種々変化させた以外は、前記実施例1と同様にして磁性酸化鉄粒子粉末を得た。 【0054】 比較例3 Fe^(2+) 1.6mol/lを含む硫酸第一鉄水溶液25.0lを、あらかじめ反応器中に準備された3.1Nの水酸化ナトリウム水溶液24.5lに加え(Fe^(2+)に対し0.95当量に該当する。)、pH6.7、温度90℃において水酸化第一鉄塩コロイドを含む第一鉄塩懸濁液の生成を行った後、毎分80lの空気を通気して第一段反応を開始し、同時にケイ素成分として3号水ガラス(SiO_(2) 28.8wt%)123.4g(Feに対しSi換算で1.7原子%に該当する。)を水で希釈して0.3lとしたものを添加した。上記水ガラス溶液の添加後、攪拌しながら酸化反応を続け、第一段反応を終了させマグネタイト核晶粒子を含む第一鉄懸濁液を得た。このとき、酸化反応開始後、Fe^(2+)の酸化度が10%を越えて以降のpHは7.0?8.5の範囲内であった。 【0055】 第一段反応終了後の上記マグネタイト核晶粒子を含む第一鉄塩懸濁液に9Nの水酸化ナトリウム水溶液1.6l、Fe^(2+) 1.6mol/lを含む硫酸第一鉄水溶液3.4lを添加して懸濁液のpHを9.5に調整した後、温度90℃において毎分100lの空気を30分間通気して第二段反応を行ってマグネタイト粒子を生成させた。生成粒子は、常法により、水洗、濾別、乾燥、粉砕した。第二段反応において、硫酸第一鉄水溶液の添加量は第一段反応で添加した第一鉄塩水溶液に対して13.8原子%であり、水酸化ナトリウム水溶液の添加量は反応溶液中に存在するFe^(2+)に対して1.1当量比であった。 【0056】 得られたマグネタイト粒子の粒子形状は、球状を基本とし角張った突起を有していた。また、平均粒子径が0.20μm、BET比表面積の値が9.2m^(2)/gであった。 【0057】 前記得られたマグネタイト粒子粉末とスチレンアクリル樹脂とを混練して得られる樹脂混練物の粉砕物である樹脂混練物粒子粉末を作成し、磁性酸化鉄粒子粉末の脱落性について前記評価方法によって評価を行った結果、脱落した磁性酸化鉄粒子粉末が多数観察され脱落防止効果は十分でなかった。 【0058】 比較例4 平均粒子径が0.23μmの球状マグネタイト粒子を含む乾燥成形物を(株)日本製鋼所製の二軸混練機(型名:TEX-54KC)でL/D(二軸混練機のシリンダーの長さLとシリンダー径Dとの比)が10.7、ESP(粉末1kg当りの電力量)が0.21kWh/kgで処理した。 【0059】 前記得られたマグネタイト粒子粉末の凝集粒子径は、JIS-K-5101の顔料分散試験法に準じて測定して求めた。グラインドメーター上で同じ粒径の粒が3つあるところを試料の凝集粒子径として測定した。測定を行ったところ、凝集粒子径は7.6μmであった。 【0060】 比較例5 Fe^(2+) 1.7mol/lを含む硫酸第一鉄水溶液を21.2lと18.5Nの水酸化ナトリウム水溶液4.7l及び水19lとを反応させて水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩反応水溶液を得た。次いで、90℃に維持して毎分100Lの空気を吹き込んで酸化反応を行った。酸化反応終了後、ろ過、水洗し、ボールミルで湿式粉砕を行い、スプレードライヤを用いて流動層乾燥を行い、八面体の磁性酸化鉄粒子粉末を得た。 【0061】 磁性酸化鉄粒子の製造条件を表1に、磁性酸化鉄粒子の諸特性を表2に示す。 【0062】 【表1】 【0063】 【表2】 【0064】 比較例1?5の磁性酸化鉄粒子は、複数の粒状体が結着した形状ではなく、比表面積Svが2/Xより小さく、展色L*値が60未満のため、樹脂からの脱落防止効果は十分でなかった。 【産業上の利用可能性】 【0065】 本発明に係る磁性酸化鉄粒子粉末は、粒子形状が複数の粒状体が結着した形状であり、適度な粒子径のため樹脂キャリアからの脱落がない。そのため、脱落した磁性酸化鉄粒子による現像性の低下が生じないことから、樹脂キャリア用磁性酸化鉄粒子粉末として最適である。また、ブレーキ摩擦材用として用いた場合に摩擦係数が十分で安定し、ブレーキ鳴きを低減することができ好適である。また、化粧品用として用いた場合は、塗布性、保持性、洗浄性に優れた化粧品を作製でき好適である。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (削除) 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 複数の粒状体が結着した平均粒子径が0.5?30μmの磁性酸化鉄粒子粉末であって、該磁性酸化鉄粒子粉末の比表面積Sv(m^(2)/g)がSv≧2/X [X(μm);平均粒子径]を満足し、磁性酸化鉄粒子粉末の展色L*値が60以上であることを特徴とする磁性酸化鉄粒子粉末。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2016-08-31 |
出願番号 | 特願2011-78185(P2011-78185) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(C01G)
P 1 651・ 121- YAA (C01G) P 1 651・ 537- YAA (C01G) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 田澤 俊樹 |
特許庁審判長 |
新居田 知生 |
特許庁審判官 |
中澤 登 永田 史泰 |
登録日 | 2015-06-19 |
登録番号 | 特許第5760599号(P5760599) |
権利者 | 戸田工業株式会社 |
発明の名称 | 磁性酸化鉄粒子粉末 |