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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C23C
管理番号 1322291
異議申立番号 異議2015-700338  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-22 
確定日 2016-10-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5741220号発明「ガスバリアフィルムの製造方法及び製造装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5741220号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕,〔4-6〕について訂正することを認める。 特許第5741220号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5741220号の請求項1-6に係る特許についての出願は、平成23年 5月30日に特許出願され、平成27年 5月15日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人 小柳 恵子 により特許異議の申立てがなされ、平成28年 3月31日付けで取消理由が通知され、同年 6月 6日に訂正請求がされると共に意見書が提出され、同年 7月15日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)-(4)のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「該装置内の成膜圧力を0.05Pa以上0.12Pa以下とし」と記載されているのを、「該装置内に酸素を含んだガスを流して酸化珪素を成膜するときの圧力を0.05Pa以上0.12Pa以下とし」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記デュアルターゲットには、交流波形又はパルス波形の電圧を印加する、」と記載されているのを、「前記デュアルターゲットには、交流波形又はパルス波形の電圧を印加し、前記デュアルターゲットは、前記成膜ドラムの幅よりも100mm以上大きい、」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「前記基材フィルム上に酸化珪素膜を成膜するときの圧力を0.05Pa以上0.12Pa以下とする圧力制御装置」と記載されているのを、「酸素を含んだガスを流して前記基材フィルム上に酸化珪素膜を成膜するときの圧力を0.05Pa以上0.12Pa以下とする圧力制御装置」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「前記スパッタリング電源は、前記デュアルターゲットに交流波形又はパルス波形の電圧を印加する、」と記載されているのを、「前記スパッタリング電源は、前記デュアルターゲットに交流波形又はパルス波形の電圧を印加し、前記デュアルターゲットは、前記成膜ドラムの幅よりも100mm以上大きい、」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の「装置内の成膜圧力」を、「装置内に酸素を含んだガスを流して酸化珪素を成膜するときの圧力」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許明細書の【0043】,【0081】,【0084】,【0087】などの記載に照らせば、上記訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前に特定されていなかったデュアルターゲットの大きさについて、「デュアルターゲットは、前記成膜ドラムの幅よりも100mm以上大きい」と直列的に付加して特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、特許明細書の【0073】などの記載に照らせば、上記訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。さらに、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、 訂正前の「前記基材フィルム上に酸化珪素膜を成膜するときの圧力」を、「酸素を含んだガスを流して酸化珪素膜を成膜するときの圧力」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1と同様の理由により、上記訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。さらに、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4
訂正事項4は、訂正事項2と同様に、「デュアルターゲットは、前記成膜ドラムの幅よりも100mm以上大きい」と直列的に付加して特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2と同様な理由により、上記訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。さらに、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)一群の請求項について
訂正事項1,2は、一群の請求項1-3,及び訂正事項3,4は、一群の請求項4-6に対して請求されたものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-3〕,〔4-6〕について訂正を認める。


第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求による訂正後の請求項1-6に係る発明(以下、項番に従って「本件発明1」-「本件発明6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1-6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
長尺の基材フィルムに対向配置させた1組又は2組以上のデュアルターゲットを備えた反応性マグネトロンスパッタリング装置を用い、該装置内に酸素を含んだガスを流して酸化珪素を成膜するときの圧力を0.05Pa以上0.12Pa以下とし、前記デュアルターゲットを構成する各ターゲットの法線方向の磁束密度を前記基材フィルムの幅方向(TD方向)で250G以上として、前記基材フィルムを移動させながら該基材フィルム上に酸化珪素膜を成膜することを特徴とするガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記デュアルターゲットには、交流波形又はパルス波形の電圧を印加し、
前記デュアルターゲットは、前記成膜ドラムの幅よりも100mm以上大きい、請求項1に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記デュアルターゲットが2組以上配置されている、請求項1又は2に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項4】
デュアルターゲット方式の反応性マグネトロンスパッタリング装置を用い、
前記装置が、
長尺の基材フィルムを送ると共に該基材フィルム上に酸化珪素膜を成膜するための成膜ドラムと、
前記成膜ドラムに対向配置させた1組又は2組以上のデュアルターゲット、該デュアルターゲットの法線方向の磁束密度を前記成膜ドラムの幅方向(TD方向)で250G以上とするマグネトロン磁石、及び該デュアルターゲットに接続されて該デュアルターゲットからスパッタ原子を放出させるためのスパッタリング電源を備えた反応性マグネトロンスパッタリング装置と、
酸素を含んだガスを流して前記基材フィルム上に酸化珪素膜を成膜するときの圧力を0.05Pa以上0.12Pa以下とする圧力制御装置と、を備えたことを特徴とするガスバリアフィルムの製造装置。
【請求項5】
前記スパッタリング電源は、前記デュアルターゲットに交流波形又はパルス波形の電圧を印加し、
前記デュアルターゲットは、前記成膜ドラムの幅よりも100mm以上大きい、請求項4に記載のガスバリアフィルムの製造装置。
【請求項6】
前記反応性マグネトロンスパッタリング装置は、前記デュアルターゲットを2組以上備える、請求項4又は5に記載のガスバリアフィルムの製造装置。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1-6に係る特許に対して、平成28年 3月31日付けで特許権者に通知した取消理由は、要旨次のとおりである。

請求項1-6に係る発明は、下記の甲第1-7号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は取り消すべきものである。(以下、「取消理由」という)。


・甲第1号証:特開2006-249473号公報
・甲第2号証:特開平6-192819号公報
・甲第3号証:特開2007-308728号公報
・甲第4号証:特開2000-280395号公報
・甲第5号証:特開2007-168145号公報
・甲第6号証:特開2002-293971号公報
・甲第7号証:特開2006-289627号公報

3 各甲号証の記載事項
(1)甲第1号証
甲第1号証には、【0001】,【0008】-【0012】,【0016】,【0031】,【0032】,【0038】,【0045】,【0064】,【0084】,【0085】,及び図面などの記載からみて、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「長尺の高分子フィルム基板に対向するように配置された一対のターゲットを複数組合せて備えた反応性ガスを導入するマグネトロンスパッタリング装置を用い、該装置内にArガスと酸素を導入するときの成膜圧力を制御し、前記一対のターゲット表面の磁場強度を調整して、前記高分子フィルム基板を搬送させながら該高分子フィルム基板上に酸化硅素(SiO_(2))膜を成膜する、ガスバリアフィルムの製造方法。」

そして、甲第1号証には、成膜圧力及び磁場強度に関して、次の事項が記載されている。

1a「【0045】
さらに、各ターゲットの近傍に真空計を配置して、より好適な成膜圧力の制御を可能にしている。・・・」

1b「【0064】
・・・
カソード42はマグネトロンスパッタリングを行うカソードであり、磁石を内蔵している。また、カソード42は、この磁石をターゲットに対して接離する移動手段を有しており、この磁石の移動により、ターゲット表面の磁場強度を調整することができる。これにより、局所的なエロージョンの進行を抑え、エロージョンの進行に起因する膜厚や膜質のムラ、ターゲット寿命の低減、ターゲット利用効率の低下等を防ぐことができる。
・・・ 」

1c「【0084】
[実施例2]
ターゲットとして金属硅素を用いて、成膜条件を下記とした以外は、前記実施例1と全く同様にして、酸化硅素(SiO_(2))膜を成膜した。・・・ ・・・
成膜圧力; 0.1Pa(100%Arガス導入)
・・・
酸素導入量調整; 放電電圧が、常に500Vとなるように、第1カソード42aおよび第2カソード42bの酸素導入量を制御した
【0085】
得られた酸化硅素膜について
・・・
さらに、モコン法によって、40℃、90%Rhでの水蒸気透過度を測定したところ、0.1g/m^(2)・dayと、良好なガスバリア性が確認された。」

(2)甲第2号証
甲第2号証には、次の事項が記載されている。

2a「【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は・・・その目的とするところは、透明高分子フィルム基板とその上に形成された酸化珪素薄膜を有するガスバリアー性高分子フィルムであって、ガスバリアー性に優れ、かつ該基板と該薄膜との付着力が良好なガスバリアー性高分子フィルム、およびその製造方法を提供することにある。」

2b「【0009】本発明のガスバリアー性高分子フィルムの製造方法は、高分子フィルム基板上に、高周波マグネトロンスパッタリング法によってSiOx(1.3≦x≦1.8)でなる酸化珪素薄膜を形成する工程を包含するガスバリアー性高分子フィルムの製造方法であって、該高周波マグネトロンスパッタリング法におけるアルゴンガス圧が0.5?5mTorr、カソード磁束密度が200?400ガウス・・・の条件で行い、そのことにより上記目的が達成される。」

2c「【0017】カソード磁束密度、すなわちターゲット表面における磁束密度は200?400ガウスとする。上記磁束密度が200ガウス未満であると安定したマグネトロン放電を行うことができず、そのため酸化珪素が高分子フィルム基板上に堆積する速度が遅くなる。上記磁束密度が400ガウスを越えると得られる酸化珪素薄膜の高分子フィルム基板に対する十分な付着力が得られない。
【0018】放電ガスとしては、アルゴンガスが使用され、アルゴンガス圧は0.5?5mTorrとする。アルゴンガス圧が0.5mTorr未満であると放電が安定せず、5mTorrを越えると得られるガスバリアー性高分子フィルムのガスバリアー性が劣る。」

2d「【0027】(実施例1)高周波マグネトロンスパッタリング法を用い、以下のようにして高分子フィルムを作製した。・・・高分子フィルム基板として厚さ75μmのポリアリレート透明フィルム(以下、ポリアリレート基板という)を用い、ターゲットとしてSiO_(1.5)からなる直径6インチの焼結ターゲットを用いた。カソード磁石としてフェライト磁石を用い、ターゲット表面におけるカソード磁束密度を250ガウスとした。
【0028】まず、上記基板ホルダー上に上記ポリアリレート基板を固定し、スパッタリング室の圧力が2×10^(-6)Torrとなるまで排気し、その後放電ガスとしてアルゴンを導入して1mTorrとした。・・・1分間スパッタリングを行って、ポリアリレート基板上に厚さ300オングストロームの酸化珪素薄膜を形成し、ガスバリアー性高分子フィルムを得た。・・・」

(3)甲第3号証
甲第3号証には、次の事項が記載されている。

3a「【0018】
上記本発明の薄膜層22は、シングルカソードマグネトロンパルススパッタリング法、又はデュアルカソードマグネトロンパルススパッタリング法を用いてターゲットをスパッタリングすることにより形成される。
これらのスパッタリング法は、不活性ガスの存在下で行うか、又は不活性ガス及び酸素ガス等の反応性ガスの存在下で行うことができる。
・・・ 」

3b「【0025】
更にまた、デュアルカソードマグネトロンパルススパッタリング法は、特に酸素ガス等を併用する反応性スパッタリングで金属酸化物薄膜を形成する際に有用である。・・・
【0026】
上記スパッタリングを行う際、成膜圧力は0.1?5Pa、特に0.2?3Paが好ましく、不活性ガスに加えて所望により酸素ガスや窒素ガス等の反応性ガスを導入することが好ましい。・・・」

3c「【0028】
ここで、本発明は、シングルカソードマグネトロンパルススパッタリング法又はデュアルカソードマグネトロンパルススパッタリング法による薄膜の成膜方法において、基板に対向するターゲット直上の水平方向磁場を30mT以上(300ガウス以上)とするものである。
・・・
【0032】
これらのことは、ターゲットに印加するパルス電力と共に、基板に対向するターゲット直上(つまりスパッタリング面)の磁場強度がある閾値を超えないと、高密度プラズマの発生、ひいては結晶性薄膜の成膜が起こりにくいことを示唆するものであり、同時に、成膜の進行に伴いターゲットの状態(特に厚み)が経時的に変動するため、これを見込んだ磁場強度を補正するシステムが必要であることを示唆するものである。」

3d「【0033】
かかる点から、本発明では、結晶性の高い薄膜を安定的に得ることを目的とし、シングルカソードマグネトロンパルススパッタリング法においてはターゲットに印加する印加電力のデューティ比を60%以下とし、1パルスに対応するピーク電流が、同一印加電力密度におけるデューティ比80%の場合のピーク電流値の1.5倍以上のピーク電流値を得ること、またデュアルカソードマグネトロンパルススパッタリング法においては同様にターゲットに印加する印加電力のデューティ比を40%以下とし、1パルスに対応するピーク電流が、同一印加電力密度におけるデューティ比45%の場合のピーク電流値の1.3倍以上のピーク電流値を得ることを基準とし、これらの状態を安定的に作り出すため、ターゲット直上の水平方向磁場強度を30mT(300ガウス)以上・・・に設定する。ターゲット直上の水平方向磁場強度が30mTに満たない場合は、十分にプラズマ密度を高め、プラズマ中の活性な粒子密度を上げることができないため、結晶性の高い薄膜を常に安定に得ることができない。・・・」

3e「【0043】
[実施例1]
デュアルカソードマグネトロンパルススパッタリング装置の2つのカソードにそれぞれTiターゲット・・・を設置し、基板として石英ガラスをセットした。ターゲット背面の磁石位置を調整することにより、ターゲット上の水平方向磁場を40mT(400ガウス)とした。・・・真空引きした後に、装置内にArガスを導入して、0.5Paとし、電力3kW、デューティ比30%のパルス電力を50kHzの周波数でそれぞれ交互に各ターゲット電極に印加し、反応性ガスとして酸素ガスを用いて反応性マグネトロンパルススパッタリングを行った。・・・500nmの発光強度がArのみでスパッタした場合の約20%の強度となるようにフィードバック制御して酸素を導入し、二酸化チタン薄膜を無加熱の基板上に300nmになるまで成膜させた。・・・」

(4)甲第4号証
甲第4号証には、次の事項が記載されている。

4a「【0007】本発明は・・・ガスバリアフイルムの酸素、および水蒸気のガスバリア性に対する格段の向上を目的とし、透明性を有するガスバリアフィルム・・・を提供せんとするものである.」

4b「【0044】(実施例1)基材フィルムとしては50μmの厚さのPETフィルム・・・を用いた。バリア層として、DCマグネトロンスパッタリング法により、以下の条件でSiO_(X)膜を作製した。
ターゲット材料(スパッタ原料) Si
添加ガス O_(2 )
成膜庄カ 0.02Pa
酸素分圧 0.011Pa
・・・
上記の条件中の成膜圧力とは、実際にバリア膜を成膜しているときのチャンバー内の圧力である。
・・・
【0045】(実施例2)成膜圧力を0.05Pa、投入電力200Wとした他は、実施例1と同様の条件で、ガスバリアフィルムを作成した。
・・・
【0046】(実施例3)成膜圧力を0.1Pa、投入電力200Wとした他は、実施例1と同様の条件で、ガスバリアフィルムを作成した。
・・・
【0047】(実施例4)成膜圧力を0.2Pa、投入電力200Wとした他は、実施例1と同様の条件で、ガスバリアフィルムを作成した。・・・」

(5)甲第5号証
甲第5号証には、次の事項が記載されている。

5a「【0018】
・・・本発明は、基板フィルムの上にガスバリア層を有するガスバリア性フィルムを製造するに際し、0.01Pa?0.13Paの成膜圧力で、インピーダンス制御による反応性スパッタリングによって、前記ガスバリア層を形成することを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法を提供するものである。」

5b「【0034】
周知のように、インピーダンス制御とは、反応性スパッタリングにおいて、カソードに印可する電圧を一定にして、酸素ガス等の反応ガスの流量を調整することにより放電電圧を一定に保ちつつ、スパッタリングを行うものである。
・・・
本発明者は、ガスバリア性に優れたガスバリア層について検討を重ねた結果、成膜圧力を0.2Pa以下とすることにより、緻密でガスバリア性の高いガスバリア層を形成することができることを見出した。ところが、成膜圧力を0.2Pa以下とすると放電が安定せずに、成膜状態が不安定になってしまう。これに対し、本発明者は、インピーダンス制御を用いる反応性スパッタリングであれば、成膜圧力を低くしても安定な放電を得ることができ、さらに、成膜圧力を0.01Pa?0.13Paとした、インピーダンス制御による反応性スパッタリングを行うことにより、前記条件を満たす緻密な無機化合物層を、高い成膜レートで安定して作成できることを見いだした。特に、ターゲットとして硅素を用い、反応ガスとして酸素ガスを用いて、上記成膜圧力でインピーダンス制御による反応性スパッタリングを行って、SiO_(2)層を形成することにより、上記条件を満たす、極めてガスバリア性に優れたガスバリア層を形成することができる。」

5c「【0065】
[実施例]
図2に示される成膜装置20を用いて、成膜を行った。
【0066】
基板フィルム12として、厚さ57μmのPETフィルムを用いて、図2に示すように、送り出しロール26からガイドロール28aおよび28b、ドラム24、ガイドロール28cおよび28dを順に介して、巻き取りロール36まで、基板フィルム12を掛け渡した。
また、ターゲット材38として、カソード40上にシリコンを取り付けた。
【0067】
・・・基板フィルム12を0.2m/minの速度で長手方向に搬送し、放電ガスであるアルゴンガスを真空槽22内に導入した。このとき、放電ガスフローコントローラ54で、アルゴンガスの流量を調整し、放電ガス配管52から放電ガスを導入した。
放電ガス導入後、真空槽22内の圧力を0.27Paとし、放電電源42から7kWの成膜パワー供給してプレスパッタを実施した。
【0068】
プレスパッタ開始から10分経過した時点で、反応ガスとして酸素ガスを導入した。・・・ 酸素ガス導入後、放電電圧を610Vに保つように制御した後、アルゴンガスおよび酸素ガスの供給量を低減して、最終的な成膜圧力を0.03Paまで下げ、PETフィルム上にSiO_(2)層を100nm成膜した。
なお、成膜中は、測定手段66によって放電電圧を測定し、その結果に応じて(フィードバックして)、反応ガス流量調整ユニット48によって酸素ガスの流量を調整することにより、放電電圧を610Vに保った(インピーダンス制御)。」

(6)甲第6号証
甲第6号証には、次の事項が記載されている。

6a「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、従来よりも高透明でかつ高い水蒸気バリア性能を持つフィルムおよびその作成方法を提供することにある。」

6b「【0008】本発明の製造方法は真空槽内に放電ガスと反応ガスとを導入して放電を行い、基板上に無機層を形成する反応性スパッタリング装置において、放電ガスと反応ガスの導入量をあわせて0.03?0.1Paにすることを特徴とする反応性スパッタリングである。放電電力の供給方式にはRF、AC、DC式などを用いることができる。早い成膜速度を望むのであれば異常放電を抑制する機能があり、電力の印加をパルス状に印加、もしくは交流成分を重畳できるようなDC方式を選択するのが好ましい。」

6c「【0014】
・・・
(実施例1)フィルムとしてポリエーテルサルホンに易接着性の有機層をコートしたものを用意した。このフィルムの有機コート面に成膜を行うように図1のスパッタリング装置のホルダー(11)にセットし、ターゲット(6)として純Siをセットした。真空ポンプ(4)を起動し、真空槽(1)内を10-4Pa台まで真空引きし、放電ガスとしてアルゴンを分圧で0.04Pa導入、反応ガスとして酸素を分圧で0.04Pa導入した。雰囲気圧力が安定したところで放電電源(2)をONし、放電電力を一定にコントロールしてSiターゲット(6)上にプラズマを発生させ、スパッタリングプロセスを開始した。プロセスが安定したところでシャッター(12)を開きフィルムへの着膜を開始した。50nmの膜が堆積したところでシャッターを閉じて成膜を終了した。・・・」

(7)甲第7号証
甲第7号証には、次の事項が記載されている。

7a「【0066】
ターゲットAとしてSi、ターゲットBとしてAlをセットし、放電電源としてパルス印加方式のDC電源を用意した。真空ポンプを起動し、真空槽内を10^(-4)Pa台まで真空引きし、放電ガスとしてアルゴンを、反応ガスとして酸素を導入した。・・・各ターゲット上にプラズマを発生させ、成膜圧力を0.03Paまで下げてからスパッタリングプロセスを開始した。ターゲットAとターゲットBのパルス電圧とガスフローを調節することで、SiOx/AlOxの比率が50/50、厚み50nmの混合無機バリア層をプラスチックフィルム基材上に形成させた。・・・」

4 検討
(1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、次の点でのみ相違し、その余の点で一致する。

[相違点]
本件発明1が、「酸素を含んだガスを流して酸化珪素を成膜するときの圧力を0.05Pa以上0.12Pa以下とし、デュアルターゲットを構成する各ターゲットの法線方向の磁束密度を基材フィルムの幅方向(TD方向)で250G以上」とするのに対し、甲1発明は、当該圧力及び磁束密度について、具体的な値は明らかでない点。

上記相違点について検討する。

甲第1号証は、成膜圧力を制御すること(摘示1a)、及び100%Arガス導入の時の成膜圧力を0.1Paとすることの記載(摘示1c)はあるが、酸素を含んだガスを流した時の成膜圧力は明らかでない。また、磁場強度は調整することができることが記載されているのみである(摘示1b)。
そうすると、甲第1号証には、上記相違点に係る成膜圧力、及び磁束密度について何ら記載も示唆するものでない。

甲第2号証には、高周波マグネトロンスパッタリングにおいて、カソード磁束密度は200?400ガウスとすること(摘示2a,2b)、及びアルゴンガス圧として、0.5?5mTorr、すなわち、0.067?0.67Paとすることが記載されている。しかし、具体的には、カソード磁束密度を250ガウスとするが、SiO_(1.5)をターゲットとし、アルゴンガスのみを用いて1mTorr(0.13Pa)の圧力で酸化珪素薄膜を形成することが記載されているのみである(摘示2d)。
また、甲第3号証には、デュアルカソードマグネトロンスパッタリングにおいて、不活性ガス及び酸素ガス等の反応性ガスの存在下で行うこと(摘示3a)、成膜圧力を0.1?5Paとすること(摘示3b)、及びターゲット直上の水平方向磁場を30mT以上(300ガウス以上)とすること(摘示3c,3d)は記載されているが、具体的には、Tiターゲットを設置し、ターゲットの水平方向磁場を400ガウスとし、Arガスを導入して0.5Paとした後、酸素ガスを流して二酸化チタン薄膜を成膜することが記載されているのみである(摘示3e)。
そうすると、甲第2,3号証には、マグネトロンスパッタリングにおいて、ターゲットの磁束密度を、本件発明1で特定する磁束密度を含む高磁場に設定することが記載され、本件発明1を含む範囲の成膜圧力を設定してもよいことは記載されているが、具体的な成膜圧力は、甲第2号証は、アルゴンガス圧が0.13Pa、甲第3号証は、二酸化チタン薄膜を成膜するときの圧力が0.5Paであるから、本件発明1の「酸素を含んだガスを流して酸化珪素を成膜するときの圧力を0.05Pa以上0.12Pa以下」とすることを示唆するものではない。

甲第4号証には、DCマグネトロンスパッタリング法において、酸素を含むガスを用い成膜圧力を0.02?0.2PaとしてSiOx膜を成膜することが(摘示4a,4b)、甲第5号証には、反応性スパッタリングにおいて、成膜圧力を0.01Pa?0.13Paの成膜圧力とすること(摘示5a,5b)、具体的には、アルゴンガス及び酸素ガスを供給して最終的な成膜圧力を0.03PaとしてSiO_(2)層を成膜することが(摘示5c)、甲第6号証には、反応性スパッタリングにおいて、放電ガスと反応ガスの導入量をあわせて0.03?0.1Paとすること(摘示6b)、具体的には、ターゲットとして純Siを用い、放電ガスとしてアルゴンを分圧で0.04Pa,反応ガスとして酸素を分圧で0.04Pa導入して成膜することが(摘示6c)、及び甲第7号証には、反応性スパッタリングにおいて、ターゲットとしてSiとAlを用いて、アルゴンと酸素を導入し、成膜圧力を0.03Paとして、SiOx/AlOxからなる混合無機バリア層を成膜することが(摘示7a)、それぞれ記載されている。
そうすると、甲第4号証には、マグネトロンスパッタリングにおいて、甲第5-7号証には、反応性スパッタリングにおいて、それぞれ本件発明1と重複する範囲の成膜圧力とすることは具体的に記載されてはいるが、ターゲットの磁束密度について何ら記載も示唆もするものではない。

以上のことからすると、甲第1-7号証は、水蒸気バリア性に優れるガスバリアフィルムを得るために、本件発明1の、酸素を含んだガスを流して酸化珪素を成膜するときの圧力を「0.05Pa以上0.12Pa以下」とし、デュアルターゲットを構成する各ターゲットの法線方向の磁束密度を基材フィルムの幅方向(TD方向)で「250G以上」として酸化珪素膜を成膜するという、上記相違点に係る磁束密度と成膜圧力との関連性について何ら示唆するものではない。

そして、本件発明1は、上記相違点に係る発明特定事項により、スパッタ原子が高い運動エネルギーにより基材フィルムに到達し、酸化珪素膜が均一に成膜されるという優れた作用効果を奏するものであり(本件明細書【0023】)、実施例では、上記相違点に係る圧力及び磁束密度に設定することで、特に水蒸気バリア性に優れたガスバリアフィルムを得ているものである。

したがって、各甲号証の記載を検討しても、上記相違点に係る本件発明1の特定事項を導き出すことができないから、本件発明1は、甲1発明及び各甲号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2,3について
本件発明1が、甲1発明及び各甲号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1を特定するための事項をすべて含む本件発明2,3についても、その余の事項を検討するまでもなく,同様に,甲1発明及び各甲号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明4-6について
本件発明4-6は、それぞれ本件発明1-3の「ガスバリアフィルムの製造方法」に対応する「ガスバリアフィルムの製造装置」であって、本件発明1と共通する「酸素を含んだガスを流して酸化珪素を成膜するときの圧力を0.05Pa以上0.12Pa以下とする」点、及び「デュアルターゲットを構成する各ターゲットの法線方向の磁束密度を成膜ドラムの幅方向(TD方向)で250G以上と」する点についての具体的手段を特定しているものである。
そうすると、本件発明4-6も、上記(1),(2)で検討した本件発明1-3と同様に、甲1発明及び各甲号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由によっては、請求項1-6に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に請求項1-6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の基材フィルムに対向配置させた1組又は2組以上のデュアルターゲットを備えた反応性マグネトロンスパッタリング装置を用い、該装置内に酸素を含んだガスを流して酸化珪素を成膜するときの圧力を0.05Pa以上0.12Pa以下とし、前記デュアルターゲットを構成する各ターゲットの法線方向の磁束密度を前記基材フィルムの幅方向(TD方向)で250G以上として、前記基材フィルムを移動させながら該基材フィルム上に酸化珪素膜を成膜することを特徴とするガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記デュアルターゲットには、交流波形又はパルス波形の電圧を印加し、
前記デュアルターゲットは、前記成膜ドラムの幅よりも100mm以上大きい、請求項1に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記デュアルターゲットが2組以上配置されている、請求項1又は2に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項4】
デュアルターゲット方式の反応性マグネトロンスパッタリング装置を用い、
前記装置が、
長尺の基材フィルムを送ると共に該基材フィルム上に酸化珪素膜を成膜するための成膜ドラムと、
前記成膜ドラムに対向配置させた1組又は2組以上のデュアルターゲット、該デュアルターゲットの法線方向の磁束密度を前記成膜ドラムの幅方向(TD方向)で250G以上とするマグネトロン磁石、及び該デュアルターゲットに接続されて該デュアルターゲットからスパッタ原子を放出させるためのスパッタリング電源を備えた反応性マグネトロンスパッタリング装置と、
酸素を含んだガスを流して前記基材フィルム上に酸化珪素膜を成膜するときの圧力を0.05Pa以上0.12Pa以下とする圧力制御装置と、を備えたことを特徴とするガスバリアフィルムの製造装置。
【請求項5】
前記スパッタリング電源は、前記デュアルターゲットに交流波形又はパルス波形の電圧を印加し、
前記デュアルターゲットは、前記成膜ドラムの幅よりも100mm以上大きい、請求項4に記載のガスバリアフィルムの製造装置。
【請求項6】
前記反応性マグネトロンスパッタリング装置は、前記デュアルターゲットを2組以上備える、請求項4又は5に記載のガスバリアフィルムの製造装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-10-04 
出願番号 特願2011-120661(P2011-120661)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C23C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 安齋 美佐子  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 萩原 周治
後藤 政博
登録日 2015-05-15 
登録番号 特許第5741220号(P5741220)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 ガスバリアフィルムの製造方法及び製造装置  
代理人 吉村 俊一  
代理人 吉村 俊一  

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