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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E03C
管理番号 1322295
異議申立番号 異議2016-700727  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-10 
確定日 2016-11-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第5859042号発明「排水配管継手」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5859042号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5859042号の請求項1に係る特許についての出願は、特願2011-11001号(原出願日:平成17年8月24日)の一部を平成26年2月25日に新たな特許出願としたものであって、平成27年12月25日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人一條淳(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明
特許第5859042号の請求項1に係る特許は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、下記のとおりのものである(以下「本件発明」という。分説は申立人の主張に基づく。)。

「A 建築物に施工された際に、床スラブの貫通孔に配される管本体、
B 前記床スラブの上方に突出し上階からの排水を流入させる排水立管を接続する上立管接続部、
C 前記床スラブの下方に突出し下階に排水を流下させる排水立管に接続する下立管接続部、および
D 前記床スラブの上方で排水横枝管と接続される横枝管接続部を備え、
E 前記横枝管接続部と前記下立管接続部との間であって、建築物に施工された際に前記床スラブより下方位置となる前記管本体の内面には旋回羽根が形成され、
F 建築物に施工された際に前記管本体における前記床スラブの貫通孔内に位置することになる部分であってかつ前記横枝管接続部と前記旋回羽根との間に熱膨張性耐火材が埋設され、
G 前記熱膨張性耐火材を除く部分が非耐火性材料で形成され、
H 前記熱膨張性耐火材が、建築物に施工された際に前記管本体における前記床スラブの貫通孔内に位置する上下幅にわたって埋設され、
I 前記熱膨張性耐火材が前記管本体の全周にわたって埋設され、
J 前記管本体における前記旋回羽根のある範囲には、前記熱膨張性耐火材が埋設されていない
K ことを特徴とする排水配管継手。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人は、以下の取消理由を主張している。

(1)取消理由1(進歩性欠如)
請求項1に係る発明は、当業者が甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された周知技術に基いて容易に発明をすることができたものである。
よって、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、該特許は取り消されるべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2001-26955号公報(「刊行物1」という。以下同様。)
甲第2号証:意匠登録第1179218号公報(「刊行物2」)
甲第3号証:特開2003-222271号公報(「刊行物3」)
甲第4号証:特開2005-83483号公報(「刊行物4」)
甲第5号証:特開2002-323177号公報(「刊行物5」)

4 刊行物に記載された事項
(1)刊行物1には、以下の記載がある(下線を付加した。以下同様。)。

ア 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、多階層建造物内に配設された単管式排水通気システムにおける、立管に横枝管を接合するための排水管継手に関する。」

イ 「【0003】【発明が解決しようとする課題】しかしながら上記従来の排水管継手では、立管を流下する排水と横枝管から流入する排水との直接衝突を避けるために、横枝管との接合部に仕切板による変流減速室を設けているので、その部分の排水管継手の管外径は立管の外径より大きく膨出する。多階層建造物において横枝管を床上配管する場合、排水管継手が床を貫通する位置に配設されるため、排水管継手の管外径が大きくなると、床にそれ以上の径の貫通孔を穿設する必要があり好ましくない。
【0004】本発明は、横枝管との接合部における排水管継手の管外径の膨出を極力抑えるとともに、立管内空気圧力の変動が小さく、かつ横枝管への逆流を阻止することができる排水管継手を提供することを目的とする。
【0005】【課題を解決するための手段】上述の目的を達成するため、本発明は、上方の立管との接合部を備えた継手上部管と、横枝管との接合部を備えた継手中部管と、下方の立管との接合部を備えるとともに、その下すぼみテーパ管部分の内周面に左下がり傾斜の弓状形の羽根板を突出させた継手下部管とが、一体に連結されている排水管継手において、継手上部管内部の接合部に設けられ、上方の立管の端面をパッキンを介して支持する管の中心軸に向けて突出する環状の中間棚と、中間棚の端縁から、継手中部管の横枝管との接合部の管内側に形成された開口の前方位置まで垂れ下がる、立管の内径とほぼ同内径で、かつ下端部付近から下端に向けて内径が連続的に拡大する誘導管と、誘導管の内周面に設けられた管の中心軸に向けて突出する突起とを備えた。」

ウ 「【0009】上記の各発明において、連結された継手上部管、継手中部管及び継手下部管の外周面が不燃材料で被覆されていることが好ましい。さらに、不燃材料が繊維入りモルタルであるときは特に好ましい。
【0010】上記の各発明において、継手上部管、継手中部管及び継手下部管が、合成樹脂材料から射出成形により成形されたものであることが好ましい。さらに、合成樹脂材料が硬質塩化ビニル樹脂を主材料とすることが特に好ましい。」

エ 「【0012】排水管継手1は、硬質塩化ビニル樹脂を主材料とし、射出成形で成形された継手上部管2、継手中部管3及び継手下部管4が、それらの接合部に設けられた図示しない突起と溝とにより、互いに所定の位置に配設され一体に連結されている。
【0013】継手上部管2の内部には、上方の立管11との接合部21を備え、その接合部21には、管の中心軸に向けて突出する環状の中間棚23が設けられている。中間棚23上及び接合部21内面に沿ってパッキン22が装着され、立管11の端面を支持するとともに、立管11の側面を挟持する。このパッキン22はリング24により継手上部管2の開口部に固定されているので、立管11の熱による長さ方向の伸縮や、立管11の外径に多少の変動があっても接合部21での漏水が確実に防止される。中間棚23の端縁には、立管11の内径とほぼ同内径で、かつ下端部付近から下端に向けて内径が連続的に拡大する誘導テーパ29が形成された誘導管25が垂れ下がっている。
【0014】継手中部管3には図示しない横枝管との接合部31が3カ所に設けられ、継手中部管3の管壁にそれぞれ開口32が形成されている。継手中部管3の管部の外径は立管11の外径の1.3倍程度である。
【0015】継手下部管4は、下方の立管11との接合部41を備えるとともに、その下すぼみテーパ管部分42の内周面に、図1(a)のA-A線矢視断面の図2で示すように、2枚の弓状形の羽根板43,43が左下がりの傾斜で管軸に対称に突出している。なお、羽根板は大型のものを1枚突設してもよく、或いは小型のものを3枚以上設けてもよい。」

オ 「【0025】さらに、排水管継手の外周面を繊維入りモルタルで被覆すると、硬質塩化ビニル樹脂を主材料とした排水管継手であっても耐火性が向上するほか、排水の落下や、流入衝突により発生する騒音レベルを低減や防露施工が不要となる。」

カ 図1として、





以上を総合すると、刊行物1には下記の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

「立管に横枝管を接合するための排水管継手1であって、
硬質塩化ビニル樹脂を主材料とし、射出成形で成形された継手上部管2、継手中部管3及び継手下部管4が一体に連結され、
前記継手上部管2は、上方の立管11との接合部21を備え、
前記継手中部管3は、横枝管との接合部31を備え、
前記継手下部管4は、下方の立管11との接合部41を備えるとともに、
その下すぼみテーパ管部分42の内周面に、羽根板43,43を備えた、排水管継手1」

(2)刊行物2ないし5に記載された事項

ア 刊行物2に記載された事項
「【正面図】


「【平面図】



「【B-B線断面図】


「【使用状態を示す参考図】



申立人が主張する記載事項は、概ね以下のとおりである。

「排水管継手の横枝管は床上に配管され、それにより下方で、内面に旋回羽根の無い継手昼間部が床スラブの貫通孔内に位置することが記載されている(下記【B-B線断面図】及び【使用状態を示す参考図】参照)。
さらに、内面に羽根が形成されたテーパ管部分が、床スラブの下方に突出し、下階に排水を流下させる縦管と接続されていることが記載されていることから、このテーパ管部分の内面に形成されている羽根も床スラブの下方位置にあることになると解される。」

イ 刊行物3に記載された事項
「【0008】好適には、前記加熱膨張性シートの軸心方向の少なくとも一方の端部は、前記防火区画の対応する外面より前記貫通孔内部側で終端している。また、前記配管手段は、合成樹脂からなる単層構造であると好適である。さらに、前記貫通孔を画定する前記防火区画の内面と前記加熱膨張性シートの外面との間には、該貫通孔を埋めるように耐火材が充填されていると好適である。」
「【0010】上層及び下層を仕切るコンクリートスラブ21には、継手や配管などからなる配管手段が貫通するための貫通孔23が設けられている。本実施の形態では、この貫通孔23には、上階の継手25からの排水を下階へ流すための継手接続部分27が配設されている。この継手接続部分27は、コンクリートスラブ21の下層において延長する管部分29と一体的に形成されており、すなわち、継手接続部分27及び管部分29が、受け口を持つ一体型配管26を構成している。これら継手25、継手接続部分27及び管部分29はいずれも、塩化ビニルなどの合成樹脂からなる。継手25の上部は、二股に分かれた管接続部31を有し、この管接続部31には、コンクリートスラブ21の上層において延長する配管33、35が接続されている。これら配管33,35もまた、継手25や一体型配管26と同様に、塩化ビニルなどの合成樹脂からなる。」
「【0011】さらに、配管手段における貫通孔23内に位置している部分、すなわち本実施の形態では一体型配管26の貫通孔23内に位置している部分の外周には、加熱膨張性シート37が環状に被覆されている。本実施の形態では、加熱膨張性シート37として、積水化学工業社製の「セキスイS耐火シート」が使用されている。加熱膨張性シート37の上端37aは、コンクリートスラブ21の上面とほぼ面一になっており、加熱膨張性シート37の下端37bは、コンクリートスラブ21の下面よりも下方に突出しており、火災時にいち早くシートが膨張できるようになっている。」
「【図1】



ウ 刊行物4に記載された事項
「【0019】図5に示すこの発明の他の一実施例である防火区画貫通継手10は図1に示す防火区画貫通継手10とほぼ同じであるが、継手本体12に熱膨張材リング20を1個埋め込んでいる。この防火区画貫通継手10を防火区画床34の貫通孔22に嵌め込み、その両端部の受口18へ管16をそれぞれ挿入し接着することにより、管路30を形成する。これ以外の部分に関しては図1実施例の示す防火区画貫通継手10と同様であるため、説明は省略する。」
「【0020】この防火区画貫通継手10を防火区画床34内に設けて、たとえば、図5の床34の下側で火災が発生した場合、その熱により防火区画貫通継手10の熱膨張材リング20が膨張して管路30を塞いで、炎や煙などが管路30内を通り床34の上側へ上ってくることを防止する。」
「【図5】



エ 刊行物5に記載された事項
「【0033】排水管12は塩化ビニル管であり、このため、排水管12は非耐火性排水管となっている。また、耐火性熱膨張材13は、耐火性を有するとともに、火災発生等で周囲の環境温度が高温になると体積膨張するものである。この耐火性熱膨張材13は、例えば、熱膨張性基材と弾性化素材とを含んでなるものであり、熱膨張基材は、例えば、膨張黒鉛、バーミキュライト(蛭石)などの異方性膨張基材、又はアルカリ金属ケイ酸塩(米国3M社製、商品名:エクスパントロール)などの等方性膨張基材であり、弾性化素材は、例えば、セラミックファイバー等の繊維、ゴム弾性を有する有機バインダーである。また、耐火性熱膨張材13は、耐火性熱発泡材でもよく、例えば、株式会社常盤電機製のGRANDEX FJ515(商品名)でもよい。」
「【0037】図2は、施工現場での施工後の状態を示している。上階S1と下階S2とを防火区画として仕切る防火躯体となっている床スラブ1には鉛直に貫通孔2が形成されている。下階S2には接続排水管3が立ち上げ配管されており、貫通孔2にユニット20を挿入するとともに、このユニット20の排水管12の下端部12Bに継手4を介して接続排水管3を接続する。また、排水管12の上端部12Aに継手5を介して上階S1の接続排水管6を接続するとともに、ユニット20のケース11と床スラブ1の貫通孔2との間に、モルタル又はロックウール又はガラスウール等による耐火性充填材7を充填する。」
「【0038】これにより、下階S2の接続排水管3と、上階S1の接続排水管6は、防火躯体貫通用排水管ユニット20と継手4,5を介して連通接続される。」
「【0039】下階S2において、火災発生等によって環境温度が上昇すると、図3に示すとおり、熱によって塩化ビニル製の排水管12が溶解するとともに、耐火性熱膨張材13が膨張する。これにより、排水管12及び貫通孔2は体積膨張した耐火性熱膨張材13で塞がれることになり、煙等が上階S1に達するのを防止できる。」
「【0052】図7で示す第5実施形態に係る防火躯体貫通用排水管ユニット60は、図4のユニット30や図5のユニット40等における継手5の代わりに、主管と枝管の2本の接続排水管を接続できるY字継手55を排水管52の上端部52Aに工場で取り付けたものである。」
「【図7】



5 判断
(1)取消理由1について
ア 対比
本件発明と刊行物1発明とを対比する。
(ア)刊行物1発明の「排水管継手1」は本件発明の「排水配管継手」に相当し、以下同様に、
「継手上部管2」が備える「上方の立管11との接合部21」は「上立管接続部」に、「継手中部管3」が備える「横枝管との接合部31」は「横枝管接続部」に、「継手下部管4」が備える「下方の立管11との接合部41」は「下立管接続部」に、「羽根板43,43」は「旋回羽根」に相当する。

(イ)刊行物1発明において、「床スラブ」に係る特定はないものの、刊行物2の記載事項を参酌すれば、「継手中部管3」の下部と「継手下部管4」の上部が床スラブの貫通孔内に位置すると考えるのが妥当である。
そうすると、刊行物1発明は、「建築物に施工された際に、床スラブの貫通孔に配される管本体」を備えるとともに、
「前記床スラブの上方に突出し上階からの排水を流入させる排水立管を接続する上立管接続部、前記床スラブの下方に突出し下階に排水を流下させる排水立管に接続する下立管接続部、および前記床スラブの上方で排水横枝管と接続される横枝管接続部を備え、前記横枝管接続部と前記下立管接続部との間であって、建築物に施工された際に前記床スラブより下方位置となる前記管本体の内面には旋回羽根が形成され」た構成を備えるといえる。

(ウ)上記(ア)(イ)を踏まえると、両者は、
「建築物に施工された際に、床スラブの貫通孔に配される管本体、前記床スラブの上方に突出し上階からの排水を流入させる排水立管を接続する上立管接続部、前記床スラブの下方に突出し下階に排水を流下させる排水立管に接続する下立管接続部、および前記床スラブの上方で排水横枝管と接続される横枝管接続部を備えた、排水配管継手」で一致し、下記の2点で相違する。

相違点1:
本件発明は、「建築物に施工された際に前記管本体における前記床スラブの貫通孔内に位置することになる部分であってかつ前記横枝管接続部と前記旋回羽根との間に熱膨張性耐火材が埋設され」るとともに、「前記管本体における前記旋回羽根のある範囲には、前記熱膨張性耐火材が埋設されていない」のに対して、
刊行物1発明は、「熱膨張性耐火材」に関する特定がない点。

相違点2:
本件発明は、「前記熱膨張性耐火材を除く部分が非耐火性材料で形成され」「前記熱膨張性耐火材が、建築物に施工された際に前記管本体における前記床スラブの貫通孔内に位置する上下幅にわたって埋設され」「前記熱膨張性耐火材が前記管本体の全周にわたって埋設され」るのに対して、
刊行物1発明は、その特定がない点。

イ 相違点に関する申立人の主張
相違点1に関して、申立人は以下のとおり主張する。
「熱膨張性耐火材を備えることで、火災時にその管路を閉塞し、火炎、煙等の流通を遮断できるようにすることは、甲第3?5号証を示して例示したように、周知の事項である。そして、そのために、甲第3?5号証には、熱膨張性耐火材を床スラブの貫通孔内に位置することになる部分に設けることが記載されている。
しかも、甲1発明においては、多階層構造物に施工された際には、横枝管との接合部(31)と羽根板(43)が設けられている継手下部管(4)との間の継手中部管(3)が、排水管継手(1)における床(床スラブ)の貫通孔内に位置することになるから、甲1発明に甲第3?5号証にも記載されている従来周知の事項を適用して、熱膨張性耐火材を床スラブの貫通孔内に位置する部分に埋設すれば、熱膨張性耐火材は、横枝管接続部と羽根板との間に位置する部分に埋設することになる。また、甲1発明においても、排水管継手(1)における羽根板(43)のある範囲には、熱膨張性耐火材が埋設していないのであるから、熱膨張性耐火材を床スラブの貫通孔内に位置する部分のみに埋設し、羽根板(43)のある範囲には埋設しないようにすることに格別の困難性を見いだすことはできない。
さらに、甲第3号証には、・・・「【0008】・・・また、前記配管手段は、合成樹脂からなる単層構造であると好適である。」「【0011】さらに、配管手段における貫通孔23内に位置している部分、すなわち本実施の形態では一体型配管26の貫通孔23内に位置している部分の外周には、加熱膨張性シート37が環状に被覆されている。」とあるように、床スラブの貫通孔内に位置する配管手段を単層構造とし、単層構造の配管の周囲に加熱膨張性シート(37)が埋設されており、甲第3号証には床スラブの貫通孔内に位置する部分の継手本体は羽根等の部材を設けることなく熱膨張耐性火材が埋設することが示唆されているから、甲第1号証において、羽根板を有さず、床スラブの貫通孔内に位置し、合成樹脂材料からなる単層構造である継手中部管(3)の周囲に熱膨張性耐火材を埋設することは当業者が容易に想到することができた事項である。」

ウ 当審の判断
まず、相違点1に係る想到容易性について検討する。

(ア)刊行物1発明には、「熱膨張性耐火材」に関する特定がないから、「建築物に施工された際に前記管本体における前記床スラブの貫通孔内に位置することになる部分であってかつ前記横枝管接続部と前記旋回羽根との間に熱膨張性耐火材が埋設され」るとともに、「前記管本体における前記旋回羽根のある範囲には、前記熱膨張性耐火材が埋設されていない」構成に至る、動機付けは存在しないというべきである。
申立人が主張するとおり、刊行物3ないし5に示されるように「熱膨張性耐火材を備えることで、火災時にその管路を閉塞し、火炎、煙等の流通を遮断できるようにする」との技術事項が周知であるとしても、刊行物1発明に、「熱膨張性耐火材」を付加するだけであって、「前記管本体における前記旋回羽根のある範囲には、前記熱膨張性耐火材が埋設されていない」構成を採用することには至らない。

(イ)申立人は、「甲1発明においては、多階層構造物に施工された際には、横枝管との接合部(31)と羽根板(43)が設けられている継手下部管(4)との間の継手中部管(3)が、排水管継手(1)における床(床スラブ)の貫通孔内に位置することになるから、・・・熱膨張性耐火材を床スラブの貫通孔内に位置する部分に埋設すれば、熱膨張性耐火材は、横枝管接続部と羽根板との間に位置する部分に埋設することになる。」などと主張する。
しかし、刊行物1発明に関して、多階層構造物に施工された際の、床(床スラブ)の貫通孔と、羽根板43との位置関係は不明であるから、「熱膨張性耐火材は、横枝管接続部と羽根板との間に位置する部分に埋設することになる」とはいえない。
また、刊行物2に記載の【B-B線断面図】及び【使用状態を示す参考図】を参照しても、継手中部管及び継手下部管がスラブの貫通孔内に位置し、継手下部管に設けられた羽根板とスラブの位置関係は不明であって、「テーパ管部分の内面に形成されている羽根も床スラブの下方位置にある」とは看取できないから、「熱膨張性耐火材を床スラブの貫通孔内に位置する部分に埋設すれば、熱膨張性耐火材は、横枝管接続部と羽根板との間に位置する部分に埋設することになる」とはいえない。
したがって、「テーパ管部分の内面に形成されている羽根も床スラブの下方位置にあることになると解される」との、刊行物2に関する申立人の認定は採用できない。

(ウ)本件発明は、上記相違点1に係る構成を有することによって、「火災時にこの熱膨張性耐火材9が膨張して管路を閉塞する場合に、この中間部分(横枝管接続部13と旋回羽根14の間の中間部分)を容易に押しつぶすことができ、横枝管接続部13や旋回羽根14が邪魔になることがなく、排水管路を確実かつ迅速に閉塞できる」(本願特許明細書、段落【0019】)との効果を奏するものであって、このような効果は、刊行物1ないし5には記載も示唆もない。

(エ)以上のとおり、相違点1に係る構成の変更は、当業者が刊行物1ないし5に記載された事項に基づいて容易になし得たことではない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明(請求項1に係る発明)は、当業者が容易になし得たものとはいえない。

6 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-11-16 
出願番号 特願2014-34274(P2014-34274)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (E03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 湊 和也  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 住田 秀弘
赤木 啓二
登録日 2015-12-25 
登録番号 特許第5859042号(P5859042)
権利者 株式会社クボタケミックス
発明の名称 排水配管継手  
代理人 安田 敏雄  
代理人 安田 幹雄  

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